新機動武闘伝 GガンダムSEED Destiny   作:カンナム

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 さて、皆さん。

 ミネルバに突きつけられた理不尽な命令。

 それは我が身を顧みずに助けに来てくれたアークエンジェルの打倒でした。

 この理不尽な命令に対し、シュバルツは2つの部隊に策を提案するのです。

 しかし、それを快く思えぬ者もーー。

 はたして、物語はどのような展開を迎えるのでしょうか。

 それでは!!

 ガンダムファイト!!

 レディィィィッ!! ゴォォォオオオッ!!



第56話 レイの苦悩 シュバルツの愛

ーーミネルバ艦長室前通路にて

 

 

 

 シュバルツの言葉にこの場にいる全ての人間の時が止まった。

 

 

 

「アークエンジェルを…」

 

「落とすーー?」

 

「って、そんなことしたらーー!」

 

 

 

 タリア、マリュー、アーサーが声を上げるもシュバルツは淡々とした表情で答える。

 

 

 

「落とすと言っても、本当に落とすのではない。この場はタリア艦長の提案を受け入れ、アークエンジェルを逃がす。だがこの部隊は、いずれアークエンジェルを追い詰める状態になるだろう。それだけ私はシン達を鍛えた」

 

 

 

「……本当に落とすのではない、とは演技をしろということですか? でも、生半可なことじゃデュランダル議長はーー」

 

 

 

 アーサーの言葉どおりだ。

 

 

 

 中途半端なことをすれば、それこそミネルバクルーすべてが危機にさらされる。

 

 

 

「案は二つある。一つは、確実にアークエンジェルを逃がすことができるが、これは内通者がいない場合だ」

 

 

 

「どのような案なの?」

 

 

 

 タリアに一つ頷くとシュバルツは言った。

 

 

 

「この場にいるあなた方には、全てを話しておこう。作戦内容は、こうだ」

 

 

 

 内通者の有無に応じた腹案二つをシュバルツが語り終えたころ、タリアは表情を曇らせた。

 

 

 

「内通者がいた場合、アークエンジェルの方は危険極まりないわね」

 

 

 

「だけど、シュバルツさんの能力ならできる、ということでいいのよね?」

 

 

 

 二人の艦長からの言葉に力強くシュバルツは頷いた。

 

 

 

「うむ、私にしかできないと言っても過言ではない。ゲルマン忍法の真髄をお見せしよう!!」

 

 

 

「ーーフフッ、久しぶりに聞いたわね。その忍法の名前」

 

 

 

 こんな時だと言うのに笑顔が出た。

 

 

 

 タリアはそのことに驚く半面、どこか安心した自分がいることに気付きシュバルツに無言で感謝した。

 

 

 

「でも、上手く行くんでしょうか?」

 

 

 

「行くんじゃないわ。行かせるのよ」

 

 

 

 アーサーの気弱な発言にタリアが強気な目をして言った。

 

 

 

 その言葉にマリューも頷く。

 

 

 

「お互い、撃沈されるわけにはいきません」

 

 

 

「そうね。だからこそ、本気で行かせてもらうわ。アークエンジェルのみなさん」

 

 

 

「ーー覚悟して受けます。ミネルバのみなさん」

 

 

 

 お互いにそう言いながら、話を続ける。

 

 

 

 作戦は、MSのパイロットと艦主砲を担当する砲撃主たちに徹底することを前提に進められた。

 

 

 

 シン達にも当然、この説明が行われる。

 

 

 

 しかし、シュバルツの指示でアークエンジェル隊にはこの作戦を予め説明していたが、ミネルバ隊にはアークエンジェルがベルリン基地を発進するまで極秘とされた。

 

 

 

 アスランには話しておくべきかともシュバルツは考えたが、作戦を確実に遂行するためにも嘘の得意ではないアスランには伝えない方針で話が進んだのだ。

 

 

 

 もっとも、キラも嘘が得意というわけではないが。

 

 

 

 アークエンジェル隊が出発する時間になった。

 

 

 

「なんだよ、もっとゆっくりしていってくれても良かったのにーー!」

 

 

 

 シンが唇を尖らせながら言うと、キラがニコリと笑って返した。

 

 

 

「ごめんね? 僕たちもベルリン基地の一件のことを早くオーブに帰って伝えたいんだ」

 

 

 

「だからって、別にマスターアジアが出発した日にあわさなくてもーー!」

 

 

 

 不満げなシンにキラはにこやかに微笑む。

 

 

 

 すると、キラの脇を通り過ぎてシンの首っ玉に抱き着く少女がいた。

 

 

 

「ーーステラ!?」

 

 

 

「シン、シンもステラ達と一緒に行く? そうすればキラとも別れなくていいよ!」

 

 

 

 名案だとばかりに笑いながら告げるステラにシンが戸惑っていると、ステラの首根っこを掴んでルナマリアが引きはがした。

 

 

 

「はいはい、もういいから。体ばっかり無駄に成長してる小学生はさっさと保護者のところに帰んなさい。シンはミネルバのパイロットなんだから、オーブなんかには行かないの!」

 

 

 

「む~っ! どうして? シン、オーブの出身なのに!!」

 

 

 

「アンタ、ステラにそんなことまで話したの!?」

 

 

 

 ルナマリアの怒りの声にシンがタジタジになりながらも、返す。

 

 

 

「え? 話の流れでそうなっただけだけどーー。なんで怒ってるんだ?」

 

 

 

「余計なことをベラベラと話すんじゃないわよ、このバカ!」

 

 

 

「な、なんだと~!?」

 

 

 

 ルナマリアの言葉にシンも怒りのボルテージを上げるも、ステラが二人の間に割って入る。そしてルナマリアの方を見て言った。

 

 

 

「シンは、バカじゃないよ」

 

 

 

「ーーっ! 何よ……!!」

 

 

 

「ステラを助けようとしてくれた。だからシンは、バカじゃないよ。ルナも知ってるでしょ? シンは優しいよ」

 

 

 

「……そんなこと、分かってるわよ」

 

 

 

 ステラの真っ直ぐな瞳に、思わずルナマリアも勢いを削がれてしまった。

 

 

 

 ルナマリアの素直な言葉にステラもニコリと笑う。

 

 

 

 スティングとアウルがその光景にやれやれ、とため息を吐く中でネオが憮然とした表情になっている。

 

 

 

「おい、ネオ? どうした?」

 

 

 

「ぶっさいくな顔だぞ!」

 

 

 

 これに二人が問いかけると、ネオが二人を真剣な表情で見ながら言った。

 

 

 

「お父さん、まだ娘を嫁にやる気はないんだ」

 

 

 

「…洒落になんねぇぞ、ネオ」

 

 

 

 ネオの言葉にスティングがやや後ろに引き気味に言った。そんな彼らに近づいてきたのは、金色の髪の優男。

 

 

 

 レイ・ザ・バレルだった。

 

 

 

「スティング、アウル。もう出立するらしいな」

 

 

 

 これに二人の少年も笑顔を向ける。

 

 

 

「レイ! 見送りに来てくれたのか!」

 

 

 

「わざわざ、わりぃな!」

 

 

 

 レイは二人に頷くと告げた。

 

 

 

「オーブに帰ったら、艦は降りろ。いつまでも戦争にかかわるな」

 

 

 

「--そうだな、ありがとよ」

 

 

 

「約束しろ。お前たちは、生き残って平和な世界を生き抜くと」

 

 

 

「レイーー?」

 

 

 

 キョトンとするアウルとスティングにかまわず、レイは力強い瞳で言った。

 

 

 

「たとえ何があろうと生き残れ。お前たちは、その権利がある。平和な世界は必ず、俺がーーギルバート・デュランダル議長が作り上げる。だから、それまで必ず生き残れ」

 

 

 

 レイの言葉に茶化せない何かを感じたアウルとスティングは、静かに頷いた後に彼に言った。

 

 

 

「……レイ、その言い方だとお前には権利がないみたいじゃねえか? お前も生き残れよ」

 

 

 

「僕たちも必ず生き残る、だからお前もシンもルナも! みんな死ぬんじゃねーぞ」

 

 

 

 二人からの言葉に、レイは目を大きく見開いてーー

 

 

 

「……あ……?」

 

 

 

 唇を震わせ、その美しい瞳から涙をあふれさせた。

 

 

 

「! おい、レイ? どうしたよ!?」

 

 

 

「僕達、なんかマズイこと言ったのか!?」

 

 

 

 戸惑い、オロオロする二人を手で制しレイは言った。

 

 

 

「い、いやーー! 自分でも、分からないんだ…! だが不愉快な感じじゃない。何だこれは?」

 

 

 

「いや…『何だ』とか、俺に言われてもよ」

 

 

 

 涙を流したまま、小首をかしげるレイにスティングも困ったような表情になる。

 

 

 

「僕は分かるぜ! レイ、お前今うれしいんじゃないか? 嬉しくても涙って出るんだぜ? 僕も最近知ったんだけどさ」

 

 

 

 アウルは脳裏に浮かんだガーティールーの面々を思い笑った。

 

 

 

「……そうか。そうかもしれん。ありがとう、スティングにアウル」

 

 

 

 感謝の気持ちを告げるレイにスティングとアウルも微笑みを返した。

 

 

 

「それじゃ、僕たちはいくよ。シン、ルナマリアさん。君たちも気を付けて」

 

 

 

 キラがそう言って別れるように彼らに背を向ける。

 

 通路にはアスランが待っていた。

 

 

 

「アスラン、君も気を付けてね」

 

 

 

「ああ。分かってる、ミネルバを必ず守るさ」

 

 

 

 すれ違いざまにそう言いあい、キラは微笑みを浮かべるとアークエンジェルに乗り込んでいった。

 

 

 

 それから僅かな時を経て、アークエンジェルはベルリン基地を出発した。

 

 

 

 これを敬礼で送りながら、ザフトの面々は笑顔を浮かべていたーー。

 

 

 

 ベルリンの人々もまた、晴れやかな笑顔でアークエンジェルを送り出した。

 

 

 

 大天使を打倒する作戦が、水面下で進められていることに気付かずに。

 

 

 

ーーミネルバ格納庫にて

 

 

 

 シン達はアークエンジェルが去った後しばらくしてから、タリア艦長の号令で格納庫へ召集された。

 

 

 

「みんなに聞いて欲しいことがあります! 私たちは先ほど、アークエンジェルを打ち倒すように本国から指令を受けました!!」

 

 

 

 この言葉にどよめきとざわめきが起こる。

 

 

 

「なんでーー? アークエンジェルは、俺たちを!!」

 

 

 

 真っ先に叫んだのは、この中でも真っ直ぐな少年ーーシンだった。

 

 

 

「私も納得できません! 本国は何と言って来てるんですか?」

 

 

 

 隣のルナマリアもシンに続いた。他の者も皆、一様に同じだ。違うのは、一人の少年だけ。

 

 

 

「納得できなくても良い。だが、本国からの命令は絶対のはずだ。シン、ルナマリア。お前達も軍人ならば覚悟を決めろ」

 

 

 

 レイの様子を伺ってから、タリアは皆を見据えて言った。

 

 

 

「…先にルナマリアの質問に答えます。本国は、アークエンジェルをロゴスの手先だと判断しているわ」

 

 

 

「理由は、何故ですか?」

 

 

 

 問うたのは、アスラン・ザラだった。タリアは意味ありげにアスランを見据え、こくりと一つ頷いた。

 

 

 

「カオスガンダムの件よ、本国はあの戦いを撮影していたのよ」

 

 

 

「! アレだけの犠牲者が出た戦いを援軍も送らずに撮影だけしていた!?」

 

 

 

 アスランだけではない。この場にいた皆の怒りのゲージが上がる。

 

 やはり一人を除いて、だが。

 

 

 

「当然でしょう、あれほどの犠牲者が出た戦いは記録しておかなければ、またいつ連合が同じような真似をするか分かりません。本国は正しい」

 

 

 

「レイ! お前、本気で言ってんのかよ!?」

 

 

 

 淡々と告げる同僚にシンの表情が強張る。

 

 

 

 対してレイは冷静だった。

 

 

 

「ロゴスの卑劣な手段を民衆に分からせる一番、効率の良いやり方だ」

 

 

 

「ーーふざけんな!! アレだけの犠牲者が出たんだ!! ゲームやってんじゃないんだぞ!!!」

 

 

 

 胸ぐらを掴み、吠えつけるシン。

 

 レイもその腕を掴んで叫び返した。

 

 

 

「だからだ!! だからこそ、争いを止めさせる為に必要な犠牲だったんだ!!」

 

 

 

 ルナマリアが二人の間に割って入る。彼女は静かな表情でレイを見た。

 

 

 

「ーーレイ。死んでいった人の遺族の前でアンタは言うつもりなの? 効率が良い、て」 

 

 

 

「議長が判断されたことだ! 議長は正しい!!」

 

 

 

 シンが怒りのままに「ーーお前!」と殴りかかろうとするのをルナマリアが手で制し、逆の手でレイの胸ぐらを掴み上げた。

 

 

 

「ーー正しい? 見殺しにしたことが、正しいっての? それとも、何処の誰かも分からない人間が何人死のうと関係ないわけ?」

 

 

 

「議長の望む世界こそ、未来こそ! 人々が目指すべきものなんだ! その為にも、不要な物は排除しなければならない!!」

 

 

 

「ーーふーん。そうなんだ? じゃあさ、アンタ。スティング達に生き残れ、って言ってたけど。あいつらの事も必要な犠牲だから見殺しにしろ、って議長に言われたらやるわけ?」

 

 

 

「ーー議長は、そんなことは言わない!!」

 

 

 

「言ってんじゃない。今回のカオスガンダムの件やアークエンジェルの件を。夢見てんじゃないわよ」

 

 

 

 冷たく蔑むようなルナマリアの目に射抜かれながらも、苦悶の表情になりながらも、レイは告げる。

 

 

 

「ーーギルは言ってた。作られた命でも平等な世界を作り上げると。優しい世界を作るんだと。だからーー!!」

 

 

 

「だから、今を生きてる優しい人に死ね、ってわけ?」

 

 

 

 淡々と鋭利なナイフのような言葉をルナマリアは紡ぐ。

 

 

 

「ーーなんでだよ、レイ!? なんで分かんねーんだよ!? 家族を奪われたら、悲しいに決まってるだろ!?」

 

 

 

 シンの瞳からは涙が溢れていた。

 

 

 

 彼の中にあるのは、深い悲しみだ。

 

 

 

 家族が亡くなったのは誰のせいでもない、強いて言えば戦争のせいだった。

 

 

 

「ーーそれを起こすのが人間だ!! だから、人間はもう変わらなきゃいけないんだ!! 変わらなきゃ、人はもうーー!!」

 

 

 

 瞬間だった。

 

 

 

 レイが突然その場に崩れ落ち、胸をかきみしりながら、苦しみ始めたのだ。

 

 

 

「ーー! レイ!?」

 

 

 

「ちょっと、どうしたのよ!?」

 

 

 

 シンとルナマリアが思わず彼に駆け寄る。レイは握力すら無くしてしまっているようで、必死に上着のポケットから何かを出そうとするも、上手くいかないようだった。

 

 

 

「おい、レイ!! しっかりしろよ!!」

 

 

 

「誰か、担架を!! 早くして!!」

 

 

 

 シンとルナマリアが叫ぶ中、アスランが担架を担いでくる中で、一人の覆面をした男がレイの前に現れた。

 

 

 

「ーーどうした、レイ? 何をしたい?」

 

 

 

「あ、ああああっ!!」

 

 

 

 シュバルツだった。彼はレイの正面に座るとレイの上着から錠剤の入った容器を取り出した。

 

 

 

「ーーん、コレか」

 

 

 

 皆が騒ぐ中、シュバルツは淡々と懐から小さな水筒を取り出し、コップに水を注ぐとカプセルを差し出した。

 

 

 

「一つで良いのだな?」

 

 

 

 シュバルツはレイの目を見ながら話しかけ、まるで意思疎通ができるようにスムーズにレイに薬を飲ませた。

 

 

 

 しばらくして、レイの呼吸は治まった。

 

 

 

「ーー大丈夫なのかよ、レイ?」

 

 

 

 シュバルツの腕の中にいるレイにシンが話しかける。

 

 

 

「ーーああ。大丈夫だ」

 

 

 

 青ざめた表情ながらも、レイはシンに応えた。

 

 

 

「申し訳ありませんでした、シュバルツ殿」

 

 

 

「いや。それよりも今の発作はなんだ? 癲癇とも症状が違うようだが」

 

 

 

 レイはスクリと立ち上がる。

 

 

 

「薬を常備しているということは、何度も繰り返し今のような発作が?」

 

 

 

「ーー申し訳ありません。癲癇のようなものです。少し、興奮し過ぎたようで」

 

 

 

「ーーそうか。分かった」

 

 

 

 シュバルツはレイの言葉に静かに頷いた。

 

 

 

「それよりも、アークエンジェルをどうやって撃つおつもりですか、艦長?」

 

 

 

 レイは額に脂汗をかきながらもタリアに問いかけた。

 

 

 

「ーーアークエンジェルのクルー達と協力して、船を落としたように見せる作戦を考えました」

 

 

 

「それは、しかし! アークエンジェルを見逃せても、今後に関わるのでは!?」

 

 

 

 タリアの言葉にアスランが異を唱える。

 

 

 

「現状、プラント本国はアークエンジェルをロゴスの手先だと判断している。オーブの政治家とブルーコスモスの癒着に関しても証拠があるみたい」

 

 

 

「イザークの言っていた、癒着問題がこんなタイミングでーー!」

 

 

 

 アスランが思わず吐き捨てるとシンが横で歯ぎしりをしている。

 

 

 

「また、政治かよ!! どいつも、こいつも!! アスハはまだ手打ちにしてないのか!!」

 

 

 

「ーーシン、それ無理だから」

 

 

 

 ルナマリアの冷めたツッコミが決まった。

 

 

 

「オーブの信頼回復は、私たちの範疇ではないわ。けれどシュバルツ殿やアスラン少佐には共に戦ってもらっている。何より、アークエンジェルに危機を救われたのは事実。よって本艦は、アークエンジェルを全力で見逃す作戦を決行する!!」

 

 

 

「ーーですが、いくら見逃すと言っても。アレだけ大きな

 

ものをどうやってーー!」

 

 

 

 ルナマリアの言葉にタリアが頷いて答えた。

 

 

 

「説明するわ。まず、アークエンジェルには潜水機能があります。ミネルバや他のザフト艦には備わってない能力。コレが作戦の要の一つ」

 

 

 

 タリアの言葉に、ルナマリアがハッとする。

 

 

 

「ーーつまり、海水に追い込むようにすれば逃げれるんですね!」

 

 

 

「そう。次に、撃破確認だけれど。コレにはアスラン少佐の助力が必要なの」

 

 

 

 アスランは、自分に話が来たことに驚きつつも、心当たりを述べる。

 

 

 

「確か、アークエンジェルには各部にエンジンがありましたね? いざとなれば、それを分離できるーー!」

 

 

 

「これには、船の構造と正確な射撃能力が問われるわ。やれる、アスラン?」

 

 

 

 タリアの問いにアスランは静かに瞳を閉じた後、強い口調で答えた。

 

 

 

「やれます。いや、やらなければならない…!」

 

 

 

 アスランの答えに頷いた後、タリアはシンに顔を向けた。

 

 

 

「アークエンジェルは、オーブが正面切ってザフトと戦うつもりはないことを証明するために、キラ准将一人で出るそうよ」

 

 

 

「んな、むちゃくちゃな!!」

 

 

 

「こちらも丁度、先のベルリンの戦いで出せるMSは一機だけ。換装ができるインパルスガンダムのみ」

 

 

 

「…俺の行動にキラさん達をうまく逃がせられるか、かかってるってことか」

 

 

 

 このタリアの発言にレイが瞳を鋭くした。

 

 

 

「ザクはまだ戦えます」

 

 

 

「そう? シン一人ならキラ准将だけだけれど。ザクが介入するなら、向こうもとんでもないMSを三機出してくるかもしれないわね? マスターアジアからもらった。アレはオーブとは関係ないわよ?」

 

 

 

「ご冗談を。テロリストとして我々とアーモリーワンで交戦したではないですか。奴らがあの機体を使うのであれば癒着問題も確実と言える」

 

 

 

 冷たい瞳をきらりと光らせるレイに横からルナマリアが言った。

 

 

 

「なら出る? アンタが生きろと言ったスティングたちをアンタ自身の手で倒す?」

 

 

 

「それは…!!」 

 

 

 

「これは、そういうことなのよ」

 

 

 

 タリアは静かにルナマリアと話し黙り込んだレイを見つめる。

 

 

 

 ルナマリアはそのまま、タリアに向き直ると言った。

 

 

 

「ザクのフレームもギリギリです。次の戦闘には間に合いません」

 

 

 

「…ありがとう、ルナマリア。エンジェルダウン作戦はこれより、西ユーラシアに移動して行われる。アークエンジェルがベルリンからオーブに向かうにはその航路が最も早いと判断したためよ」

 

 

 

 タリアは説明を続けていく。

 

 

 

「当然、友軍の援護もある。西ユーラシアでウィラード隊が勧告無しで攻撃する予定よ。それに便乗して私たちも作戦に参加する。幸いなのは、主導権が私たちに委ねられていることよ。本作戦にはアークエンジェルを友軍からは撃破したように見せて無事にオーブへたどり着かせることにあります。中途半端なことでは味方の目は欺けません。やるからには全力でいきます。いいわね?」

 

 

 

「「「「はい!!」」」」

 

 

 

 こうしてミネルバは西ユーラシアへと向かった。

 

 

 

ーーミネルバの仮眠室にて

 

 

 

 シン・アスカとレイ・ザ・バレル用に宛がわれた部屋で、作戦行動前だと言うのにレイは眠っていなかった。

 

 

 

 極限まで照明が絞られた部屋のなか、レイの私用パソコンを叩く音だけが規則的に響いている。

 

 

 

「ーーはい。現状、ミネルバはアークエンジェルと結託しています。私から何を言おうとも行動に変化はありません」

 

 

 

 打ち込みながら、彼は何かをつぶやいていた。

 

 

 

 それをベッドに横たわる赤い瞳がジッと見ていることに気付かずにーー。

 

 

 

「分かりました。ギルも気を付けてください。こちらは大丈夫です。それではーー」

 

 

 

 レイは静かにパソコンを閉じた。

 

 

 

 それを確認するとシンはゆっくりと起き上がりながら、あくびをする。

 

 

 

「ーー!! シン?」 

 

 

 

「まだ寝ないのか、レイ?」

 

 

 

「ああ。お前こそ早く寝ろ。作戦に参加するのはお前だ。俺は少し風に当たる」

 

 

 

 そう言いながら、レイは外に出て行った。

 

 

 

「ーーレイ。お前も平和な世界を望んでるんじゃないのかよ? なんでだよ」

 

 

 

 シンの呟きが暗がりの部屋にこだました。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 ミネルバの桟橋に出ると、薄く張った雲のなかから星々が弱い光を放ちながらレイを見下ろしてきた。

 

 

 

 人影一つ見当たらない夜更けの海上は、先の激戦など忘れたかのようにさざ波の音だけがおだやかに語りかけてくる。

 

 

 

「ーー眠れないのか?」

 

 

 

「ーー!? シュバルツ殿!」

 

 

 

 闇の中から静寂をそのままに、覆面を付けたコートの男が腕を組んで現れた。

 

 

 

 咄嗟にレイの背筋が震えた。桟橋の手すりから身を離し、ばね仕掛けのごとくふり返ったレイを、彼は静かに真っ直ぐ見つめている。

 

 

 

「ーー何か、私にご用でしょうか?」

 

 

 

 おだやかな沈黙に耐えかねて、挑むようにシュバルツを睨みつけた。

 

 

 

 レイの小さな心臓は脈打っている。

 

 

 

「ん? 私は夜風に当たっていただけだが?」

 

 

 

「ーーならば、単刀直入にお聞きします。何故、未だにミネルバにいるのですか? 我々は敵になるはずだ。オーブとロゴスの癒着、アークエンジェルの件。アスランと貴方がミネルバにいる意味はない!」

 

 

 

 まくし立てる間も、シュバルツの視線は揺るがない。

 

 

 

 鼓動が、冷たくレイの耳に届いてくる。わずかな沈黙すらをもいまのレイには耐えられず、オートマチック拳銃を彼は衝動的にシュバルツの眉間に据えていた。

 

 

 

「ーーこれ以上、我々をーー俺を惑わさないでくれ!! 世界は変わらなければならないんだ!!」

 

 

 

 シュバルツは、ただレイの言葉を聞いている。

 

 

 

 それだけで、少年は銃口を一点に定めてられなかった。

 

 

 

「無理なんだ、今のままじゃ!! いくら平和に見えても何度も繰り返す!! だからーー!!」

 

 

 

「レイーー。それはお前の身体の事に関係しているのか?」

 

 

 

 淡々と普段どおりの男の声が、強張ったレイの神経をゆっくりとほぐしていく。

 

 

 

 頬が震える。じわり、じわりと胸を中心に広がっていく温かく不思議な感覚に、オートマチック拳銃を握る腕が自然と下りていった。

 

 

 

 レイは苦笑を漏らすと

 

 

 

「ーーいつから気付いていましたか?」

 

 

 

「確信が持てたのは、今日だよ。この薬を見て、悪いが調べさせてもらった」

 

 

 

「ーーっ」

 

 

 

 シュバルツは青く光る錠剤を一つ取り出し、レイに言った。

 

 

 

「レイ、お前の身体はーー」

 

 

 

「テロメアが短いんです。生まれつき」

 

 

 

 シュバルツの言葉を遮るようにレイは告げる。

 

 

 

 まっすぐな目と、視線を合わせられなかった。

 

 

 

「クローンなんです。俺は」

 

 

 

「ーーそうか」

 

 

 

「貴方は、本当に動じない方だ。何を言っても、やっても、貴方を驚かせられない」

 

 

 

 自嘲混じりにつぶやきながら、レイは静かに銃をおさめた。

 

 

 

「レイ。私もだ」

 

 

 

「ーーえ?」

 

 

 

「私もクローンだと言っている」

 

 

 

 シュバルツの言葉の意味を正しく理解できるのに、どれだけの時間がかかったのか。

 

 

 

 吸い寄せられるように、レイはシュバルツの全身をあらためて見た。

 

 

 

 まさに揺るがぬ大木。

 

 

 

 洗練された佇まいと相成って、そんな存在感に満ち溢れた男を、レイはこの男以外に知らない。

 

 

 

「ーー何を、言ってーー?」

 

 

 

「自分だけが特別だと思ったか?」

 

 

 

 シュバルツの言葉を理解した時、否定したい気持ちがレイにあった。

 

 

 

「レイ。自分だけが不幸などとは思うな。世界には、お前だけが独りでいるなどと決して思うな」

 

 

 

「ーーシュバルツ殿」

 

 

 

「この世に生きる全ての命は、皆必死なのだ。自堕落に生きているものもいよう。何故、こんな奴がと思う人間もいよう。だが、其奴らもまた、必死で生きる者の一人なのだ」

 

 

 

「ーーロゴスを含めて、ですか?」

 

 

 

「そうだーー」

 

 

 

 レイの目が鋭くなる。

 

 

 

「貴方は、クローンだと言った。ならば、貴方も俺と同じはずだ。貴方は生きたいとは思わないのか?」

 

 

 

「ーーレイ。お前は生きたいか?」

 

 

 

「生きられるなら、生きたい!!」

 

 

 

「何故だ?」

 

 

 

「皆が当たり前に生きている!! 何故、俺だけなんだ!? どうして俺を作った!? 当たり前に生きていける連中を見ながら、俺はいつ死ぬか分からない恐怖にずっと付きまとわれている!!」

 

 

 

 産まれた時に感じたのは絶望。

 

 

 

 自分と同じ存在だった彼は、世界を憎み滅ぼそうとして死んだ。

 

 

 

 あの時に感じたのは、寂しさと悲しみ。

 

 

 

 そして、憎しみだ。

 

 

 

 半身を失った慟哭は、傍にギルバートが居なければとても独りで堪えきれなかった。

 

 

 

「貴方には分からないか?! 貴方は強いからな!! 与えられた運命さえも切り開ける力がある!! 俺には無い!! 与えられた運命を受け入れるしか、俺にはできない!!」

 

 

 

 シュバルツは静かにレイの言葉を聞いている。

 

 

 

 だれにも打ち明けたことのない本性こころ。

 

 

 

 深く根付いた重りを、怒りを、いま生まれて初めてレイは声に出して、叫んでいた。

 

 

 

「俺は、死ぬしかない! だからせめて、この世界に生きた証を残したかった。ロゴスを討てば、議長の望んだ世界になれば、俺のような存在は産まれなくなるんだ!!」

 

 

 

「ーーレイよ。敢えて言わせてくれ。ふざけるな、と」

 

 

 

「ーーっ!?」

 

 

 

 胸ぐらをいきなり掴まれ、目の前にシュバルツの顔があった。

 

 

 

「それではお前の幸せが、どこにもないではないか!! それが貴様の望みだと!? ふざけるな!!」

 

 

 

「そんなもの……! なら、どうしろと仰るのです!? 俺なんかが、何を望めると言うんですか!?」

 

 

 

「馬鹿者っ!! お前には共に歩んだ友の声が聞こえなかったのか!?」

 

 

 

 ハッとまたたいたレイの脳裏に、少年たちの面影が浮かび上がる。夕方のこと。ミネルバに一時的に集合したほかの艦の者たち。

 

 

 

「ーー友の声?」

 

 

 

「お前と共に数々の戦場を潜り抜けてきた友との絆をお前は否定するのか!? 共に生きたいのだろう!!」

 

 

 

 シュバルツの言葉にレイは目を見開く。

 

 

 

「レイ、自分の願いから目を反らすな。自分の本当の心を殺すな。仕方ないなどと諦めるな。自分の幸せは、自分にしか分からない。誰かの思惑に乗せられ、それを自分の望みにするな」

 

 

 

「ーー違う。俺は、俺はギルの望む世界をーー」

 

 

 

「違わない。ギルバート・デュランダルがお前にとって全てだと言うなら分かる。だが、お前の掌には、お前の心には。本当にギルバート・デュランダルしかいないか?」

 

 

 

 シュバルツの言葉に、レイの脳裏にはシンが、ルナマリアが、ミネルバの面々が。そして、スティング達が通り過ぎていく。

 

 

 

 ――自分でも、分からないんだ…! だが不愉快な感じじゃない。何だこれは?

 

 

 

 ――いや…『何だ』とか、俺に言われてもよ。

 

 

 

 ――僕は分かるぜ! レイ、お前今うれしいんじゃないか? 嬉しくても涙って出るんだぜ? 僕も最近知ったんだけどさ。

 

 

 

「生きたいことを隠すな。諦めるな。お前は若い。世界に絶望するにはまだ早過ぎる」

 

 

 

 大きな腕が、レイを抱きしめている。

 

 

 

 温かな感情がまたレイのうちに溢れてきて視界をにじませると、雫となって次々に頬を伝い落ちていく。

 

 

 

「ーー頼む。お前は、間違わないでくれ。私のように大事な者の手を汚させないでくれ。

 

 私のワガママだと言うのは、分かっている。だが、それでも。お前は私の掛け替えの無い弟子なんだ。自分の命を軽くしないでくれ」

 

 

 

「ーーーーーーーーシュバルツ、さん」

 

 

 

「ーー頼む」

 

 

 

 シュバルツの胸板に頬をあずけて、レイもまた灰色のコートの裾を力のかぎり握りしめた。押し殺した嗚咽を、感情を、この男はすべて温かく包んでくれる。そんな安心感があった。

 

 

 

 月明かりの下で、2人の作られし者は静かに寄り添いあっていた。

 

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね〜!

 西ユーラシアにて再び対峙するミネルバとアークエンジェル。

 はたして、ミネルバは無事に友軍の目を欺き、アークエンジェルを逃すことに成功するのか?

 また、キラからシンに驚くべき提案がなされるのです。

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第57話に!

 レディー、ゴー!!
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