新機動武闘伝 GガンダムSEED Destiny   作:カンナム

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 ミネルバとアークエンジェルの作戦は、いよいよ決行ポイントに辿り着きました。

 しかし、2人のガンダムパイロットーーいや、ガンダムファイターの対決は、ここからが本番だったのです。

 はたして、極寒のユーラシア大陸を燃え上がらせ、勝利の栄冠を掴むのは、シンか! それとも、キラか!!

 それでは、ガンダムファイトォ!!

 レディィィィッ! ゴォォォオオオッ!!





第58話 魂の目覚め インパルス対ストライク

 一方、シンとキラは互いの機体を交差させ合いながら斬り合う。

 

 

 

「作戦ポイントに着いた!」

 

 

 

 シンが赤マークされたポイントに着いたことに思わずため息を一つ吐いた。

 

 

 

 そして向かいのキラに声をかける。

 

 

 

「問題はここからどうするか、だよな。 キラさん! なにかいい案、ありますっ?!」

 

 

 

 これに対しキラはーー

 

 

 

「ーーフッ」

 

 

 

 シンの言葉に一つ穏やかに笑った。

 

 

 

「キラさん?」

 

 

 

「シン、僕のわがままに付き合ってくれないかな?」

 

 

 

「わがままって?」

 

 

 

「僕と、勝負してくれないか?」

 

 

 

「しょ、勝負?」

 

 

 

「ああ。本気で」

 

 

 

 そう言いながら、キラは静かにエールストライクガンダムが右手に持っていたビームライフルを投げ捨てた。続いて、左手に持つ盾も投げ捨ててしまう。

 

 

 

 そして彼は左の肩口からビームサーベルを抜いた。

 

 

 

 二刀流ーー左右の手に桃色のビームを固定化した剣が握られている。

 

 

 

 同時に、キラの中でSEEDが発動する。

 

 

 

 バーニアが一気に吹き上がり、ストライクガンダムを真っ白な光が覆う。

 

 

 

「……キラさん!」

 

 

 

「僕は強くならなきゃいけない。二度とオーブを侵略させないために。そしてフリーダムに誓ったんだ!

 

 たとえ世界に脅威と取られようとも、力を示す!

 

 受けてくれるか、シン!!」

 

 

 

 これにシンは、胸を震わせていた。

 

 

 

 一人の男の意地をキラ・ヤマトは見せている。それにこたえなければーー

 

 

 

(応えなけりゃ、男じゃない!!)

 

 

 

「わかりました、キラさん!!」

 

 

 

 一つ覚悟を決め、シンは頷いた。これにキラは笑顔で頷くと、まなじりを吊り上げる。

 

 

 

「ありがとう、シン。なら行こうか。僕たちが守りたいものを、守るためにぃいいいい!」

 

 

 

 キラの咆哮と共に、ストライクガンダムが目の前から姿を消した。

 

 

 

「――左っ!?」

 

 

 

 咄嗟にシンが左手にサーベルをかかげたとき、火花が飛び散り

 

 

 

「くうっ!?」

 

 

 

 斬撃の衝撃でインパルスが弾き飛ばされた。

 

 

 

「ぐあああ!」

 

 

 

 衝撃のなか、シンが向けた視線の先には超スピードで迫りくるストライクガンダムがあった。

 

 

 

「シン!」

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

 咄嗟に振り下ろされる斬撃を脇に避ける。

 

 

 

「そっちがその気なら、こっちも遠慮しませんよぉ! うおおああああああ!」

 

 

 

 シンも自身のSEEDを解放する。

 

 

 

 同時に左手に持っていたシールドを投げ捨てた。イーゲルシュテルンを放つシン。

 

 

 

 インパルスはそのまま、後方にダッシュ。距離を開けようとするが、ストライクガンダムは首を左右に倒すだけで全弾を見切ってかわしている。

 

 一気に懐に飛び込んでくる。

 

 

 

 そのとき、インパルスガンダムは左手の腰のビームサーベルを握りしめた。ビーム刃を前方に発生させる。

 

 

 

 踏み込んで来たストライクガンダムの顔面にビームが突き刺さった。だが、それは残像。

 

 

 

 シンは咄嗟に背後に握りこんだ右のサーベルを振り下ろす。火花が散った。

 

 

 

 左手のビームサーベルを頭上にかかげるストライクガンダムによって、シンのサーベルは止められている。

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 

 キラの巻き技にサーベルを巻き上げられそうになるシンは、何とかその場で堪えようと踏ん張る。

 

 そのとき、ストライクガンダムの右のビームサーベルが袈裟懸けに放たれた。

 

 

 

「やべえ!」

 

 

 

 背部のバーニアを一気に吹かし、紙一重で斬撃を避ける。

 

 

 

 すると腹部に強烈な衝撃が走った。

 

 

 

 見ればストライクガンダムの右足が腹部に入っていたのだ。

 

 

 

「!? がぁああああっ!?」

 

 

 

 弾き飛ばされるインパルスガンダム。

 

 

 

 その後ろに高速で回り込むストライクガンダム。

 

 

 

「ーーなめんなぁああああああっ!!!」

 

 

 

 シンの中で何かがはじける。

 

 

 

 一気に動きを速め、光となって空を駆けるインパルスガンダム。

 

 

 

 これにストライクも追いつく。

 

 

 

 二筋の光が、宙を駆け、螺旋を描き、衝撃波をまき散らす。

 

 

 

「ちょっと、2人とも! 作戦はどうなったのよ!?」

 

 

 

「何をやってるんだ、キラ! シンも!!」

 

 

 

 突如、激戦を繰り広げ始めたキラとシンに両艦のブリッジが驚愕の反応をしていた。

 

 

 

「ーーキラ君、何故!?」

 

 

 

「どういうつもりなんだよ、坊主ども!?」

 

 

 

 マリュー達の通信にキラが答えた。

 

 

 

「アークエンジェルはそのまま、作戦を敢行してください!!」

 

 

 

『キラ君、何を言ってーー!?』

 

 

 

「キョウジさんの見立てなら、ギルバート・デュランダル議長の狙いは、アークエンジェルとキラ・ヤマトーー。つまり、僕だ!! 僕が、此処で分かりやすく倒されなければ、議長の監視の目は外れない!!」

 

 

 

『でも、キラ君ーー!!』

 

 

 

「それに、シンとは本気で戦ってみたかった」

 

 

 

 彼は、本当にあのキラ・ヤマトなのだろうか?

 

 

 

 マリューやバルドフェルドの目が大きく見開かれる。

 

 

 

「シン、君はーー。君からは感じるんだ、強い意志を。負けられないって意志を。願いを!! だから、僕に見せてくれ!! あの墓碑の前で君が得た答えを! シュバルツさんから得た答えを!!」

 

 

 

 キラの思いは咆哮となりてシンに放たれる。

 

 これにシンも熱き思いを胸に答えた。

 

 

 

「ああ! 今、アンタに見せてやるさ!! シュバルツさんとの修行と教えから得た、俺とインパルスの力を!!」

 

 

 

 レイは、この2人にその魂の熱さに、大きく目を見開いて呟いた。

 

 

 

「ーー何故、だ? 何故、貴方はそんなにも、強く眩しくあれる? キラ・ヤマトーー!」

 

 

 

 レイの独白にアスランも微かに眉根を寄せ、彼を見る。

 

 

 

 両者の激戦は、雪山を震わせ、雪原を巻き上げ、吹雪を切り裂く。

 

 

 

 互いのビームサーベルが、ストライクの左腕を切り裂き、インパルスの足を薙ぐ。

 

 

 

「ーーぐっ!?」

 

 

 

「クッーー!! メイリン、レッグフライヤー!!」

 

 

 

 叫びながら、切り裂かれた両足の連結を外し、パーツを捨てると上半身だけで片手になったストライクを狙う。

 

 

 

「舐めるなぁあっ!!」

 

 

 

 ストライクは、左足を前に突き出して鋭い蹴りを放ち、インパルスを後方へ再び吹き飛ばす。

 

 

 

「ーークッソォ、何でこんなーー! 何度も同じ攻撃にぃぃいい!!」

 

 

 

 叫びながら、シンは後方から来たレッグフライヤーを見事、空中で連結させてみせる。

 

 

 

 これで五体満足なインパルスと、片腕の無いストライクの差は明白だ。

 

 

 

「どうします? 今の貴方の状態じゃ、俺には勝てませんよ」

 

 

 

「ーーそうかな? 僕はそうは思わない」

 

 

 

「!!」

 

 

 

 キラは優しげな双眸を鋭くし、不敵な笑みを浮かべると右手に持っていたビームサーベルをも放り捨てた。

 

 

 

「どういう、つもりだ?」

 

 

 

「ーーそう。ここからだよ、シン。勝負はまだ、ここからじゃないかぁあああ!!」

 

 

 

 炎が爆ぜる。気が爆発し、ストライクの背中に背負ったエールストライクアタッカーが、外れて爆発した。

 

 

 

「これは、デスルークとか言うデカブツを倒したーー!!」

 

 

 

「そうだ! 僕のストライクガンダム、ハイパーモードだぁあああっ!!」

 

 

 

 強烈な黄金の気が、ストライクを包み込むとその背中のバーニアが青白い炎の翼に変わる。

 

 

 

「ーーストライクガンダム、エネルギーの放出量が測定不能です!!」

 

 

 

 メイリンの言葉どおり、キラのガンダムは、薄暗がりの景色を黄金の光で照らし上げる。

 

 

 

「キラーー、お前。本気でシンを倒すつもりなのか!?」

 

 

 

 アスランの呆然とした言葉に応えるように、シンが動いた。

 

 

 

「ーーキラさん、覚悟!!」

 

 

 

 白い気を上げて、インパルスがビームサーベルを振り上げる。

 

 

 

 瞬間だった。

 

 

 

ーーーー撃、撃、撃、撃、撃!!

 

 

 

 刹那の拍子でストライクの右拳が、インパルスのボディをとらえた。

 

 

 

「ーーぐあーー!?」

 

 

 

 後方に吹き飛ばされるインパルスは、その一撃一撃にフェイズシフトを上回る力があるとモニターに表示される。

 

 

 

「ーークッソォ!!」

 

 

 

 歯を食いしばり、自分の上に跳躍してこちらを見下ろすストライクを睨みつける。

 

 

 

「ーーなめんなよ!!」

 

 

 

 左のビームサーベルを振りかぶり、投げる。

 

 

 

 だが、空中でストライクガンダムはバーニアを細かく吹いて、姿勢を僅かに変えるとサーベルをかいくぐり、そのまま一気にこちらへ飛び横蹴りを放ってきた。

 

 

 

 慣性の法則を無視した宙で一旦静止してからの急下降ーー姿勢制御ーー加速ーーそして、繰り出される蹴り。

 

 

 

 完璧なまでのタイミングで放たれた蹴りは、インパルスのボディを容赦なくえぐる。

 

 

 

「ぐぁあああっ!?」

 

 

 

 吹き飛ばされる、意識も。

 

 

 

「ーーシン!!」

 

 

 

 自分の名前を呼ぶのは、アスランか? メイリンか、ルナマリアか、レイか? それともスティング達か?

 

 

 

 半ば飛んだ意識の中、シンは思う。

 

 

 

 フェイズシフト等、何の意味もない。

 

 機体の性能差など、何の意味もない。

 

 これは、気迫の問題だ。

 

 

 

 やれる、自分はできる。そうやってー。

 

 

 

 一点の曇りなく、己の可能性に全てを信じ、受け入れることができたものに許される力だ。

 

 

 

 シンは理解した。

 

 

 

 ああ、この人は本当にリミットを越えたんだ、と。

 

 

 

 敵わないな、コレは、と。

 

 

 

 それは当然の反応だろう。

 

 

 

 だがーー、彼の目はまだ曇っていなかった。

 

 

 

 足掻いていた。

 

 

 

 明らかに動く時間が違う、明らかに住む場所が違う。

 

 

 

 明らかに自分より上にいる、明鏡止水の「境地」に。

 

 

 

「ーー悔しくないか、インパルス? 情けなくないか?」

 

 

 

 シンはポツリと夢か、現かも分からない世界でつぶやいていた。

 

 

 

「情けなくて、弱音を吐く自分をぶん殴りたくならないか? やると決めたことができない、自分を!!」

 

 

 

 徐々にインパルスの目に光が灯り出す。

 

 

 

「ーーあの時みたいに、あのウォンみたいな奴に馬鹿にされて。キラさんに頼んのかよ? それで自分を許せるのかよ!? 負けたくないって思わないのか、シン!!」

 

 

 

 独白は強く強くなり、シンの言葉に反応するようにインパルスは、瞳の光を増していく。

 

 

 

「やれよ! 立てよ!! 目の前で泣いてる子を守るんだろ!? 寝てる場合じゃないだろ!!」

 

 

 

 思い出すのは、走馬灯のように駆ける風景。

 

 

 

 慰霊碑での出会い、ローエングリンゲートの連合士官、アスランの言葉と、そしてーー。

 

 

 

「シュバルツさん! 貴方は俺に言ってくれた!! 答えを見つけろ、って!! だから、その答えを出すまで俺は、俺はーー!!」

 

 

 

 インパルスが「黄金の光に包まれていた」。

 

 

 

「俺は、負けない!!」

 

 

 

 

 

 この光景を見ていたザフト、オーブの者達は、時が止まったかのように呆然としていた。

 

 

 

 黄金のストライクが止めに放った青白い光を纏った右の正拳を、同じく黄金のインパルスが右手で掴んで止めたのだ。

 

 

 

「ーーやっぱり、君は凄いや。シン!!」

 

 

 

 キラの心からの称賛にシンは、静かな表情を浮かべた。

 

 

 

「ーーこれが、明鏡止水の「境地」か。思ってたのと違うな。凄く落ち着いた気分だ。なのに、指先にまで力が漲るような感覚がある」

 

 

 

 言いながら、フォースシルエットをシンは外した。

 

 

 

 宙から落ちるフォースシルエットは、雪原にクレーターを作る。

 

 

 

 インパルスとストライク。

 

 

 

 本来ならば飛行することができないはずの二機は黄金の気を纏いながら、にらみ合う。

 

 

 

 シンが静かにインパルスに自分の左腕を掴ませ、胸に抱くようにすると、そのまま膝で蹴りおった。

 

 

 

 ダラリと下に伸びる左腕は関節部から火花を散らし、全く動く気配はない。

 

 

 

「ーーシン」

 

 

 

「舐めた真似は、此処までにして下さいよ。俺を目覚めさせるのに、こんな真似したんでしょ?」

 

 

 

 睨みつけるかのように言うシンに、キラは落ち着いた瞳で見つめ返す。

 

 

 

 

 

「舐めてなんかいないよ。君とやりあうなら、全力の君とやりたかった。ウォンとの戦いで、君は自分の限界を簡単に越えてくる人だってわかっていたからね」

 

 

 

「ーーそう言うのが、余裕ぶってるとか。舐めてるって言うんですよ。この状況でね」

 

 

 

 淡々と静かに告げるシンに、キラが頭を掻きながら苦笑する。そしてーー、シンを見据えた。

 

 

 

「そうかもね。良くそれで、友達からも怒られたよ。それでシン、君は舐められたと思ってるんだよね? なら、そのままで、良いのかい?」

 

 

 

 このやりとりに、アスランが目を丸くした。

 

 あのキラが、他人に挑発するなんて、とーー。

 

 

 

「良いわけないだろぉおおおっ!!」

 

 

 

 その闘志は衰えず、むしろ燃え盛る。

 

 

 

 まるで太陽が二つ現れたかのような、強烈な輝きを放つ黄金の機体、二つ!!

 

 

 

 グラスゴーも、ウィラードも誰も今こそ攻めろとは言えない。

 

 

 

「ーー艦長、我々は夢を見ているのでしょうか?」

 

 

 

「悪夢だーー。こんな、馬鹿なーー!」

 

 

 

 誰もが、動けなかった。

 

 余りの力と力のぶつかり合いに、軍人とは言えただの人間たる自分達に何ができるのだ?

 

 

 

 そんな考えが、彼らに自分達の立場を忘れさせていた。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 アークエンジェルは、海水に着水を始めていた。

 

 

 

「ーーキラ、アークエンジェルは着水を始めたよ! キラ!?」

 

 

 

 ステラの通信にキラは応えない。これにステラが、アウルが、スティングが目を見開いた。

 

 

 

「ーーキラ、もしかして!」

 

 

 

「マジかよ、シン。キラにそこまでやらせんのか!」

 

 

 

「ーーちくしょう。シンは僕が倒してやるんだぞ、キラ!」

 

 

 

 彼らの言葉に、ネオの顔が引きつる。

 

 

 

「ーーいや、東方先生とかガンダムファイターみたいじゃねえか? あの坊主ども」

 

 

 

「他に何に見える?」

 

 

 

「…なあ、明鏡止水って。ステラ達も金ピカになるのか?」

 

 

 

「…………」

 

 

 

「マジかよーー!」

 

 

 

 何も言わないバルドフェルドにネオが戦慄の表情になる。

 

 

 

 そう言えば、あの超人から宝石みたいな球をもらって喜んでたな〜、とか遠い目をしながらネオは思った。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 一方、ミネルバにいるルナマリアとレイにも、キラの気迫が伝わっていた。

 

 

 

「ーーキラは、シンを認めてる。だから、こんな真似を」

 

 

 

「…何故だ。何故、あんなキラ・ヤマトに立ち向えるんだ? シン、お前は何故?」

 

 

 

 レイにはキラが、眩しかった。

 

 

 

 あまりにも眩しくて、とても勝てる気がしない程に。

 

 

 

 それなのに、同僚は全く退かない。

 

 

 

 文字どおり、一歩も退かない。

 

 

 

 真正面から、真ん前から、シンは挑んでいる。

 

 

 

「ーー本当にあれは、キラなのか?」

 

 

 

 アスランにしても、キラの戦い方がおかしいのが、わかった。

 

 

 

 ガードをしないのだ。

 

 

 

 避けることもしない。

 

 

 

 真正面からぶつかり合い、気と気を、拳と拳をぶつけ合っている。

 

 

 

「ーーこんなキラを、俺は知らないーー!」

 

 

 

 モニター越しでも伝わってくるようだ、キラの魂の熱さが。

 

 

 

「………タイミングを見計らって、アークエンジェルを狙いなさい。この勝負に水を差す権利は、誰にもないわ」

 

 

 

「ーー艦長、よろしいのですか?」

 

 

 

「アーサー、貴方はどう思うの?」

 

 

 

 静かにタリアは自分の副長に問いかけると、彼も頷いた。

 

 

 

「ーー我々は、大分毒されてしまいましたね」

 

 

 

「そうね。でも、貴方は大分男らしくなったわよ」

 

 

 

「それが本当なら、嬉しいですね」

 

 

 

 アーサーは少し前までの彼には見られなかった力強い笑みを浮かべて言った。

 

 

 

「我々は、本当に強い人と共にいる。それがどれだけ、幸福なことなのかを、あの人から教わりました」

 

 

 

「ーーそう。その通りね。そして、シンやキラ准将もきっと、彼らの影響を受けてーー」

 

 

 

 タリアは思う。

 

 

 

 この超人達から教わるのは力だけではない。

 

 

 

 心の有り様もだ。

 

 

 

 あの時ーー、デュランダルとの別れを切り出した時。

 

 

 

 そして、少し前までの自分に無い物を、タリアは手に入れたと自覚していた。

 

 

 

 気がつけば、お互いに殴り合っていた。

 

 

 

 ガードも無い、フォームもない。

 

 

 

 フットワークさえも忘れて。

 

 

 

 ただ、ただ、殴り合っていた。

 

 

 

 まるで幼い子どものように、全力で殴り合っていた。

 

 

 

 互いのガンダムが、あちこちから火花を散らしても、構わずに殴り合っていた。

 

 

 

 2人の口元には笑みが刻まれ、2人の目には互いの顔しか映らない。

 

 

 

 右手だけ、右の拳だけでぶつかり合う。

 

 

 

 インパルスとストライク。

 

 

 

 シンとキラ。

 

 

 

「ーーキラが一方的に押してたように見えたけど。シン、凄い」

 

 

 

「当たり前よ。キラの強さがシンの負けん気根性に火を付けたのよ!」

 

 

 

 ステラがルナマリアが、シンの力に驚きながらも誉めたたえる。

 

 

 

「ーー悔しいが、認めるぜ。お前も俺より上だよ、シン」

 

 

 

「だけどさ、このままじゃ終われないだろ? 僕たちはさ」

 

 

 

 スティングがアウルが、2人の強さと熱さに震えていた。

 

 

 

「ーーキラ、シン。お前たち、もう限界じゃないのか?」

 

 

 

「ーーええ。既に機体は限界です。だからーー」

 

 

 

 アスランがレイが、正確に両者の状態を見抜く。

 

 

 

 そして、両者の対決を山頂より見下ろすガンダムシュピーゲルーーシュバルツ・ブルーダーが、声を張り上げた。

 

 

 

「ーーそうだ! 繰り出す拳に己の全神経を集中するのだ。 そして、魂の一撃を放ちあえ!! 今こそ、叫べ!

 

キラ・ヤマト! シン・アスカ!!」

 

 

 

 シュピーゲルは、高々に右手を大きく上げる。

 

 

 

「ーーガンダムファイトォォォオオオッ!!」

 

 

 

 声が聞こえたのか?

 

 

 

 キラは腰を落としながら、叫ぶ。

 

 

 

「レディィィィッ!!」

 

 

 

 シンが答えながら、駈け出す。

 

 

 

「ゴォォォオオオッ!!」

 

 

 

 互いに死力を尽くした最後の、最高の一撃。

 

 

 

 両者の気は極限まで高められ、右の拳に集中する。

 

 

 

 黄金の光が右拳に集約され、金色だった全身はトリコロールに戻る。

 

 

 

 しかし、黄金の拳は七色の光を放っていた。

 

 

 

「ーー動かない?」

 

 

 

 メイリンの言葉どおり、2人は拳を構えたまま、微動だにしない。

 

 

 

「やるな、二人とも。勝負は一瞬。それも一撃で決まる」

 

 

 

 スティングの言葉にミネルバ、アークエンジェルの双方が生唾を飲む。

 

 

 

 その時、バルドフェルドが笑い声を上げた。

 

 

 

 

 

「ラミアス艦長! 今が、最高のタイミングじゃないか?」

 

 

 

「ーーそうですね。ミネルバに繋いで!」

 

 

 

 マリューは、その時が来たとばかりにミネルバのタリアに秘密の回線で通信を繋いだ。

 

 彼女も心得ていたようだ。力強く頷きながら、返す。

 

 

 

「このタイミングでやるの?」

 

 

 

「ーーはい! あの二人の勝負にきっかけを!!」

 

 

 

「わかったわ。アスラン!!」

 

 

 

 タリアの檄にアスランも応えた。

 

 

 

「ーーラミアス艦長! 行きますよ!!」

 

 

 

「ええ。お願いね、アスラン君!」

 

 

 

「タンホイザー、発射ぁあああっ!!」

 

 

 

 ミネルバの前面が上にスライドしていき、中から巨大な砲塔が覗く。

 

 

 

 放たれたのは、強力無比な陽電子砲だった。

 

 

 

 赤いビームが青白いビームを纏って放たれる。

 

 

 

 地上で放てば相応の被害をもたらすであろう、一撃。

 

 

 

 それが海面に潜水を始めたアークエンジェルに見事に当たり、爆発した。

 

 

 

 瞬間だった。

 

 

 

 2人の目は同時に見開かれ、地面を思い切り踏み抜き、互いに駆け出す。

 

 

 

 その衝撃に氷が凍ってできていた大地は崩れ、海面が顔を見せる。

 

 

 

 まともにぶつかり合えば、双方ただでは済まない。

 

 

 

 そんな強烈な右正拳突きを、互いの中央でぶつけ合った。

 

 

 

 強烈な光と光、音、衝撃。

 

 

 

 そして、ひび割れる両者の機体。

 

 

 

「ーー互角、か」

 

 

 

 ルナマリアが思わず、口にする。

 

 

 

 力の衝撃に、互いの機体はあちこちで火花を散らし、顔や腹部が小破していく。

 

 

 

「ーーマズイぞ! このままじゃ、2人とも!!」

 

 

 

 互いのガンダムは、崩壊を始めている。

 

 

 

 それでも、2人は退かない。

 

 

 

「シィィイイイイインッ!!」

 

 

 

「キィラァァアアアアッ!!」

 

 

 

 強烈な力と力のぶつかり合い。

 

 

 

 先に互いの力に耐えられなくなり限界に至ったのはーー。

 

 

 

 ストライクだった。

 

 

 

「ーーッ! そうか。ゴメンね、ストライク」

 

 

 

 キラには、機体がきしむ音がストライクが自分に謝っているように聞こえたのだ。

 

 

 

 穏やかな表情で微笑むキラの前にモニターでシンが必死の形相で言ってくる。

 

 

 

「キラさん、脱出を! 早く!!」

 

 

 

 だから告げよう。

 

 

 

 オーブ海域でマスターガンダムから自分を救ってくれた「彼」への謝罪のためにも。

 

 

 

 もう一度立ち上がり、ここまでの「境地」に達することができた「分身」のためにも。

 

 

 

「ーーシン。今回は僕の負けだ。だけど、次はーー必ず!!」

 

 

 

 キラの言葉はそこで途切れ、空中でストライクは爆発した。

 

 

 

「ーー! キラさぁああああんっ!!」

 

 

 

 シンから見れば、いや誰が見てもストライクガンダムはキラが逃げる暇なく爆発した。

 

 

 

 シンは思わず、インパルスの手を海面に落下するストライクの残骸に伸ばしていた。

 

 

 

「あ、あ、キラァアアアッ!!」

 

 

 

 ミネルバのブリッジにも、アスランの叫びが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 かくしてエンジェルダウン作戦は成功した。

 

 

 

 この戦いでキラ・ヤマトを倒したシン・アスカはネビュラ勲章をデュランダルより直々に与えられることになるのだ。

 

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね〜!

 作戦を無事に終えたミネルバとアークエンジェル。

 ゲルマン忍法により爆破の瞬間に救出されたキラはシュバルツに別れを告げて、アークエンジェルに戻ります。

 一方、宇宙ではラクス暗殺の為にとんでもない事態が起こるのです!

 はたしてドモンとDは、ラクスとミーアを無事に守り抜けるのか?

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第59話に!

 レディー、ゴー!!
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