新機動武闘伝 GガンダムSEED Destiny   作:カンナム

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 みなさん、エンジェルダウン作戦を無事に終えたシン達とシュバルツ。

 一方で、プラントにいるドモン達の状況も一気に急変してしまうのです。

 はたして、物語はどのように進むのか?

 それでは!

 ガンダムファイト!!

 レディイイイイッ!! ゴォオオオオオオッ!!




第59話 人から生まれた悪魔

 ミネルバ艦内にて

 

 

 

 シン・アスカとアスラン・ザラは驚愕の表情で口を大きく開けたまま、ブリッジのモニターに流されるビデオレターを見ていた。

 

 

 

 そこに映し出されていたのは、先のインパルスとストライクの激戦で空中に爆散したモビルスーツのパイロット、キラ・ヤマトだった。

 

 

 

 彼は雪原を背にしてこちらに話しかけている。

 

 

 

「シン。君のおかげで無事に僕たちは逃げることができた、ありがとう。アスランもミネルバのみなさんも気を付けて。

 

 それとシン、今回は僕の負けだけど次は必ず僕が勝つ。だからもう一度、勝負しよう」

 

 

 

 こう語り終えると、カメラから少し視線を外してキラは手前の人物に言った。

 

 

 

「ありがとうございます、シュバルツさん。これくらいで」

 

 

 

「ーーむ? もうよいのか?」

 

 

 

 モニターには映らないが別の男性の声が聞こえる。

 

 

 

「はい。僕もアークエンジェルに急がないと。じゃあね。シン、アスラン! またね!」

 

 

 

 笑顔で彼ーーキラ・ヤマトはビデオを切った。

 

 

 

「――とまあ、こういうレターをお前たち宛に預かったのだが」

 

 

 

 覆面の下でしたり顔をしながら説明するシュバルツを置いて、モニターに向かってシンが叫んだ。

 

 

 

「返せよぉおおお! 俺の涙ああああ!」

 

 

 

「キィイイイラアアアアアアア!」

 

 

 

 これに横から続くのはアスランだった。

 

 

 

 キラ・ヤマトからのビデオレターは、二人の少年の心をずたずたに引き裂いたのだった。

 

 これは、余談である。

 

 

 

「インチキだ! あんなのどうやって逃げられるんですか!? どうやったんですか、シュバルツさん!!」

 

 

 

「ゲルマン忍法の真髄だ」

 

 

 

 必死に抗議するシンに腕を組んで、シュバルツはそう答えた。

 

 

 

「ああ、忍法かぁー。もう忍法だったらなんでもありなのかー……」

 

 

 

「納得するの早いわよ、シン!

 

 でも、アークエンジェルのほうも無事に脱出できたんですよね」

 

 

 

 あっさりと心をへし折られたシンにツッコミを入れた後、ルナマリアはシュバルツへと問いかける。

 

 これに応えたのは彼女の妹のメイリンだった。

 

 

 

「うん。ラミアス艦長からお礼の電文を頂いているよ」

 

 

 

 その横からシュバルツに声をかけるのはレイだった。

 

 

 

「ですが、今回のような手段。次からは使えないのでは?」

 

 

 

「だからこそ、この空いた時間でやらねばならないことが山ほどある」

 

 

 

 シュバルツの答えにアスランがハッとした。

 

 

 

「シュバルツ! 俺にできることがあればなんでも言ってくれ!」

 

 

 

「それなのだがアスラン、きみはプラント本国にどれだけの伝手を持っている?」

 

 

 

 シュバルツからの問いかけにアスランが、うつむき答えづらそうに押し黙った。

 

 

 

「……すまない……。俺は父と違って、政治に関してはまったく」

 

 

 

「そうか。君の父上は生前、どのような政策を取っていたんだ?」

 

 

 

 申し訳なさそうなアスランの物言いに頷くと気にした風もなく、シュバルツは問いを続ける。これにアスランも一つ頷くと答えた。

 

 

 

「強硬派だ。ナチュラルとコーディネーターは相いれない存在だと。立場はブルーコスモスと違えど、やっていることは何も変わらなかった。もっとも、それは戦争に参加した当時の俺も同じだったがーー」

 

 

 

 奪われた母の命への報復。

 

 ユニウスセブンの憎しみは、ナチュラルを滅ぼすまで決して癒えることはないと。

 

 討てば癒されると。

 

 

 

 思考に沈みそうだったアスランを引き戻したのは、シュバルツの言葉だった。

 

 

 

「なるほど。ならばどのみちザラ派の政治家たちをまとめたところで『ナチュラル憎し、ナチュラルを排除せよ』の集団が集まってしまう可能性が高いか」

 

 

 

 シュバルツの物言いに無言だがアスランは同意の頷きを返してきた。

 

 これにシュバルツは腕を組んで顎に手をやり考える。

 

 

 

「そういえば、君をオーブに亡命させてくれたアイリーン・カナーバ前評議会議長はどんな人なんだ?」

 

 

 

「彼女は穏健派と呼ばれている。けれど、いまのギルバート・デュランダル議長は彼女の推薦があって当選したようなものなんだ。それに俺は恥ずかしながら、オーブに亡命してからカナーバ前議長とは連絡を取っていない」

 

 

 

 アスランの答えにシンが思わず抗議の声を上げた。

 

 

 

「なんで連絡を取ったりしないんですか!? こんな事態になったら誰よりも頼りになるじゃないですか!!」

 

 

 

「まさかこんなことになるとは思ってもみなかったんだ。それに、カナーバ前議長は戦争の引き金となったパトリック・ザラの息子である俺を厄介払いしたかったみたいだからな」

 

 

 

「だからって! こういう状況も考えときましょうよ!」

 

 

 

 アスランを詰るシンの横から半目でルナマリアが制してきた。

 

 

 

「シーンー? あーんたもシュバルツさんに会うまでは、政治的な見方なんてできたことないでしょー?」

 

 

 

「うっ! それは……」

 

 

 

 言葉を詰まらせるシンにルナマリアが詰め寄る。

 

 

 

 それをそのままに、シュバルツはレイに話しかける。

 

 

 

「レイ。お前はデュランダル議長をどんな人間だと思う?」

 

 

 

 シュバルツの問いに、全員の視線がレイに集まった。

 

 レイの目は険しいものになり、ジッとシュバルツの目を見返しながら言った。

 

 

 

「言っておきますが、俺はギルを裏切るつもりはありません」

 

 

 

「それは分かっている。ただ、お前にとってどんな人間なのかを聞きたい。私はデュランダル議長と会ったことはあるが、お前の目から見たデュランダル議長を知りたいのだ」

 

 

 

 シュバルツの他意のない言葉に一つ息を吐くとレイは答えた。

 

 

 

「誠実な方です。気高い理想を持ち、平和な世界のために自身をなによりも傷つけている。だから俺は――彼と共に歩く!!」

 

 

 

「分かった。--アスラン。きみの意見は?」

 

 

 

 それ以上、語る様子の無いレイに一つ頷いた後アスランに話かける。

 

 

 

「これは受け売りなんですが、デュランダル議長の言葉は一見、正しいように聞こえる。だが、まったくの善意からの言葉ではない、というのです」

 

 

 

「というと?」

 

 

 

 シンが興味をひかれたように聞く。シンに横目で頷いた後、アスランはシュバルツを見る。

 

 

 

「俺の同僚なんですが、彼に簡単に『善と悪に割り切り過ぎるな』と注意されてデュランダル議長と会ったのです。その時、彼の隣には……」

 

 

 

「なるほど。『彼女』か」

 

 

 

 言葉を途中で切ったアスランにシュバルツの覆面の目が細まる。

 

 

 

「ええ。あれをまったくの善意だとは俺にはどうしても思えない」

 

 

 

「当然だろう。そのための『彼女』だ」

 

 

 

 シュバルツの言葉に、思わずアスランは問いかけた。

 

 

 

「シュバルツ! 俺達にできることはないのか! このまま手をこまねいていることしか、俺達にはできないんですか!!」

 

 

 

「今は、な」

 

 

 

 アスランの言葉に、にべもなくシュバルツは返す。

 

 

 

「ーーっ!」

 

 

 

 その言葉にアスランだけではない。ブリッジにいる全ての人間が動きを止める。それを見ながらシュバルツは皆の顔を見回していく。

 

 

 

「だが、おそらくデュランダル議長が私の考えている通りの人間ならば、レイとアスランの話で分かったことがある。彼は理想を胸に抱いている。その理想と言う目的のために、他人を利用する非情さや狡猾さも兼ね備えていると考えるべきだろう。

 

 ならば今、アークエンジェルを撃たせた、ということはこれから彼が動くという意思表示ではないだろうか?

 

 その行動を見てからでも、遅くはあるまい。

 

 ミネルバにはプラントに家族がいる人間が多くいる。表立ってザフトに反逆するわけにはいかん。反逆するのであれば、デュランダル議長が逆賊であるような状況を作り出さなければならん。

 

 現状、それは不可能だ」

 

 

 

 はっきりと言い切るシュバルツに皆が目を落とす。

 

 

 

「今できることはどのような情勢になれど対応できる柔軟性と、心づもりをしておくことだ。備えあれば、憂いなし。つねに政治経済欄には目を通しておくことだ。これもまた修行なり」

 

 

 

「「「はい!」」」

 

 

 

 皆が一斉に答えた後、ルナマリアがシュバルツに話しかける。

 

 

 

「それはそうとシュバルツさん。修行の方もちゃんとしてくれるんですよね? シンに水を開けられたまんまっていうのは、正直気分悪いですから」

 

 

 

「フッ、わかっている。だがしばらくはシン一人を相手に、お前たち二人で戦うようにするがいい。シンの動きから学ぶこともあるだろう」

 

 

 

 これにシンが腕まくりをしながら言った。

 

 

 

「いっちょ揉んでやるぜ! ルナ!」

 

 

 

「ちょっと強くなったからって、いい気になっちゃって……! こんのぉ~~!」

 

 

 

 シンの態度にルナマリアが眦を吊り上げる。その隣で、シュバルツはアスランと話をしていた。

 

 

 

「ではアスラン、きみは私から明鏡止水を学ぶといい」

 

 

 

「わかった。よろしくお願いします」

 

 

 

 それを見ているレイにシンが声をかける。 

 

 

 

「なにやってんだよ、レイ! 行くぜ!」

 

 

 

「ああ……。わかった」

 

 

 

 レイはシンに応えると、チラリとシュバルツを一瞥してから去っていく。

 

 

 

(--レイよ。お前の選ぶ答え、今はそれでよい。だが、答えは変わるものだ。それを忘れるな)

 

 

 

 シュバルツの声が、レイの胸に響いていた。

 

 

 

ーーーープラントにて

 

 

 

 ラクスの言葉に連れられ、ミーア達は買い物に出かけていた。

 

 

 

 とある洋服屋の一幕

 

 

 

「ミーアはパンツも着こなすのですね。スタイルが良くて羨ましいですわ」

 

 

 

「そんな! ラクスーー姉様の手足もスラリと長くて、素敵です!! こっちの赤いジャケットなんかも似合うんじゃないかな!?」

 

 

 

 お互いの服を選び合い、ちょっとしたファッションショーのような感じで目立つ二人。

 

 

 

 それをウンザリした表情で見るのは、ドモンとダコスタであった。

 

 

 

「女ってのはどうして買い物に時間をかけたがるんだ?」

 

 

 

「……本当ですよねぇ?」

 

 

 

 そんな会話をすると、同じく荷物持ちをしているDに視線をやる。

 

 

 

「そういえばD、お前も服を買ったらどうだ? さすがにこんな時にまで軍服はないだろ」

 

 

 

「どうでもいいだろ? 服なんぞ。貴様だってパーティー会場でそのマントの格好ではないか」

 

 

 

「俺のは、自分なりに厳選した服装なんでな」

 

 

 

 得意げなドモンの言葉にダコスタも頷く。

 

 

 

「そうですね。ドモンさんが言えるかはともかく、デパートという場所に軍服は似合ってませんね。ドモンさんは同じ服を何着も持ってるみたいですけど」

 

 

 

「お気に入りなんでな。このジャケットは丈夫で伸びる生地だ。ジーンズは動きやすいし、丈夫な上にどこでも手に入るからつい贔屓にしてしまう」

 

 

 

 言いながら店の中にある黒いジーンズを手に取り、生地の厚めや伸びを確認している。

 

 

 

「いついかなる時にでも、動きが制限される服はだめだからな」

 

 

 

「武道家って大変ですね、ほんとに」

 

 

 

 ダコスタは関心半分、呆れ半分で言った。それにニッと一つ笑うと、ドモンは声を上げた。

 

 

 

「ラクス、ミーア! お前たちの服選び、ついでにDのも選んでやってくれないか?」

 

 

 

 着替えブースの一角を占領している二人に言うと、二人とも顔を見合わせた後ににこやかに言った。

 

 

 

「分かりました。そういうことならば是非!」

 

 

 

「ラクス姉様、お互いに服を一通り選んでDに着てもらいませんか?」

 

 

 

「コーディネートですわね、やりましょう!」

 

 

 

 二人とも楽しそうに言いながら、勝手にルールを決めていく。

 

 

 

 曰くデパート内にあるメンズの服屋を何件か周り、何分後かにこの広間へ戻るというものだった。

 

 

 

 Dはその場で荷物の番をさせ、ドモンはミーアに。ダコスタはラクスについていく。

 

 

 

「ドモンさんに着てもらったらイメージも湧きやすいけど、それはフェアじゃないしーー!」

 

 

 

「そこまで真剣になるものか?」

 

 

 

「一応、私もモデルなんで。こういうのは本気の方が楽しいんですよ!」

 

 

 

「やれやれ、とんだ一日になりそうだ」

 

 

 

 苦笑いしながら、ミーアに言うドモン。

 

 

 

「ダコスタさん、これも持ってくれますか?」

 

 

 

「はいはい、分かりましたよ」

 

 

 

「色ならば、先の方が良いかしら? でもDさんは赤い髪ですし色もそれに合わせるべき?」

 

 

 

「女性は服選びにほんとに時間をかけるよなぁ」

 

 

 

 ジャケットとパンツの色を組み合わせながら、ラクスはダコスタに荷物をもってもらう。

 

 

 

 結局、Dの服はラクスの選んだものとミーアの選んだものを両方買うのだった。

 

 

 

「まあ! お似合いですわ、Dさん!! さすが、ミーアが選んだだけのことありますわ」

 

 

 

「……そうか」

 

 

 

 胸元をはだけた白い長袖のワイシャツに黒のノースリーブの革ベスト、紅いジーンズパンツと革靴を着た自身を見下ろしてDは言った。

 

 

 

「どこのモデルさんですかって感じですね」

 

 

 

「せっかくだから、髪もセットしてもらいますか。Dさん?」

 

 

 

 ダコスタが素直に感想を言い、ラクスが美容院を指差して言う。

 

 

 

 これにミーアも楽しそうに提案する。

 

 

 

「それなら、姉様! 小物にネックレスとかも良いかも! Dは髪と眼が赤いからーーこれなんか!!」

 

 

 

「まぁ、それでしたらーー!」

 

 

 

 まだまだ終わりそうにない二人の少女による悪魔のコーディネートであった。

 

 

 

 

 

 とあるレストランにて。

 

 

 

 大量の紙袋を持ったドモンとD、ダコスタはテーブルの下にそれらを置いて一時の休息とばかりに食事を口にしていた。

 

 

 

「つ、疲れた。まだ回るつもりなのか。あの二人はーー!」

 

 

 

「いや、お2人ともパワフルですよね」

 

 

 

 そろそろ愚痴り出したドモンとダコスタだが、Dの方は淡々と出された食事を口にしていく。

 

 

 

 デパート内の地図を広げて、テナント案内を楽しそうに見る二人に更にげんなりするダコスタだった。

 

 

 

 と、その時Dは何を思ったか、ふと食事の手を止めると席を立った。

 

 

 

「? どうした、D?」

 

 

 

「すぐに戻る。野暮用だ」

 

 

 

「そうか」

 

 

 

 そう言うとDは席を離れていった。

 

 

 

「D? どうしたの?」

 

 

 

 ミーアが立ち去ろうとするDに声をかけると、Dはミーアを振り返って言った。

 

 

 

「気にするな、すぐに終わる。それよりもミーアにラクス」

 

 

 

 言いながら、Dは自分の懐に手をやると銀細工でできたイルカのペンダントを二つ出してきた。

 

 

 

 それを二人にそれぞれ手渡す。

 

 

 

「? D?」

 

 

 

「ありがとうございます、Dさん」

 

 

 

 二人の少女にDはやはり表情を変えずに言った。

 

 

 

「服の礼だ。ではな」

 

 

 

 それだけを告げると彼はレストランから出ていった。

 

 

 

「よかったですわね、ミーアさん」

 

 

 

「……はい。ありがとうございます、ラクス様」

 

 

 

 微かに頬を染めるミーアをほほえましく見つめるラクス。

 

 

 

 一方、彼女たちと向かいの席で座っているドモンは去っていったDの背を鋭い瞳で見送っていた。

 

 

 

「ーーダコスタ」

 

 

 

「きなくさいですね」

 

 

 

「ああ。食事は取っておけよ、腹が減っては何もできん」

 

 

 

「ですね」 

 

 

 

 二人の表情は先に出ていったDと同じく戦士のそれに代わっていた。

 

 

 

(Dよ、お前の内にある想いに気付け。そうすれば、お前は誰にも負けない。そう、どんな奴にもな!!)

 

 

 

 

 

 食事を済ませ、レストランの出入口に出る一行。

 

 

 

「Dったら、どこに行ったのかしら。食事が終わっちゃたわ」

 

 

 

「……」

 

 

 

「? ラクス様?」

 

 

 

 見れば自分を除いた皆が険しい顔をしている。

 

 

 

 怪訝に思い、ラクス達が見ている方を見て違和感に気付いた。

 

 

 

 モール内にいた人々が自分たち以外誰もいないのだ。

 

 

 

「ダコスタ、二人を頼む」

 

 

 

 ドモンはそう言いながら、一歩前に出るとゆったりとした足取りで周りを見渡す。

 

 

 

カツンッカツンッカツンッ

 

 

 

 辺りに響き渡る靴音ーー。

 

 

 

 モールの広間--その一角のレストラン街の通路から大量の人影が現れる。

 

 

 

「う……うぅう…」

 

 

 

「あ……あぁあっ」

 

 

 

 そんなうめき声が人影から漏れてくる。

 

 

 

 ドモンの瞳が鋭くなった。

 

 

 

 人影の徐々にこちらに近づいてくる。

 

 

 

 左右に揺れながらーー。

 

 

 

 まるで操り人形のようにーー。

 

 

 

 不気味なうめき声を上げながら。

 

 

 

「……どこのどいつだ? こんなふざけた真似をしやがったのは」

 

 

 

 静かにつぶやくように発せられたドモンの声は、静かな怒気に満ち溢れていた。

 

 

 

「な、何なのよ……! いったい!!」

 

 

 

 ミーアが叫ぶと同時に、ようやく人影の群れはこちらに姿を見せた。

 

 

 

 灰色と土色の混じった首元と肩を覆う異形のパイロットスーツを着た薄い紫色の骸骨ーー。

 

 

 

 元は人間だった彼らは、すでに老若男女の内、どれだったかすら判別できない程体を作り変えられていた。

 

 

 

--生ける屍という名の化け物だった。

 

 

 

「ーーこれは、DG細胞の!?」

 

 

 

「なんなんだよ、人気のないショッピングモールにゾンビの群れなんて。このB級ホラーのような展開は!?」

 

 

 

 ラクスが叫ぶ横で、ダコスタが護身用の拳銃を懐から抜き、彼女とミーアを後ろにかばう。

 

 

 

 迫りくる大量の黒い影ーー。

 

 

 

 それに真っ向から立ち向かうのは、一人の赤いマントを羽織った青年。

 

 

 

 最強の武道家ーーキング・オブ・ハートの男だ。

 

 

 

「ドモンさん!」

 

 

 

 ラクスが彼の名を呼ぶと同時に、ドモンは迫りくる漆黒の影に向かってマントを翻しながら駆ける。

 

 

 

 強烈な炸裂音と共に、ゾンビの群れの一角が後方へ吹き飛ばされた。

 

 

 

 ドモンは右の拳を正拳突きにして放ち、一人のゾンビ兵をまともに貫く。

 

 

 

 当然、あまりの威力に後方へ弾き飛ばされるゾンビ兵は、群れの一角にぶち当たり、ボーリングのピンのように後方へと吹っ飛んでいった。

 

 

 

 かまわず迫りくるゾンビたちを紙のように畳んでいくドモン。

 

 

 

 そのあまりの強さと速さに、ミーアは目を丸くする。

 

 

 

 ドモンの強さを知るラクスやダコスタでさえ、一人の人間が起こす目の前の武闘に棒立ちしていた。

 

 

 

「ダコスタ! 周囲を囲まれては不利だ。気配はお前の後ろの方からはしない」

 

 

 

「わ、分かりました、ドモンさん!」

 

 

 

「気を付けろ、こいつらの湧き方には覚えがある。逃げ道を誘導されるなよ」

 

 

 

 言いながら、何十人めかのゾンビ兵を吹き飛ばすドモンにダコスタは呆れながら言った。

 

 

 

「正直、貴方の隣が一番危険だけど安全な気がするんですがーー」

 

 

 

「なら、俺に守られてるか?」

 

 

 

「……エターナルに急ぎます」

 

 

 

「それでこそ、男だ」

 

 

 

 不敵にして力強い笑みに励まされ、ダコスタは銃を構えてラクスの手を取った。

 

 

 

「行きましょう、ラクス様! ミーア様!!」

 

 

 

「はい、ドモンさん。お気をつけて」

 

 

 

 ラクスの言葉にドモンはニッとだけ笑うとミーアを見て言った。

 

 

 

「心配するな、ミーア。Dなら必ずお前たちを助けてくれる。あいつを信じろ」

 

 

 

「え? でも、Dが戻らないのはーー!」

 

 

 

「あいつの心配はするだけ無駄だ。強さは俺が保証する」

 

 

 

 これだけ強い男が、太鼓判を押す程のものだと。

 

 

 

 この時ミーアは初めてDという男の強さをボンヤリと実感したのだった。

 

 

 

「ドモンさん、気を付けてくださいね!」

 

 

 

「ああ、早くいけ!」

 

 

 

「ーーはい!」

 

 

 

 ミーアも力強く頷き、ダコスタとラクスに向き直る。

 

 

 

 三人は同時にショッピングモールの通路を出口へと駆けだしていった。

 

 

 

 それを見送ると、ドモンはゾンビ兵に向き直る。

 

 

 

 その眦は吊り上がり、その瞳は怒りに燃えていた。

 

 

 

「許さんぞーー。人の命を見境なく利用する外道めが、叩き潰してやる!!」

 

 

 

 ドモンの咆哮がモールに響き渡った。 

 

 

 

 

 

 駆ける。

 

 

 

 駆ける。

 

 

 

 ひたすらに、駆ける。

 

 

 

 通路のわき道から次々と現れるゾンビ兵。

 

 

 

 それらに目もくれず、ひたすらにダコスタは二人の少女を連れて携帯用地図で現在地を確認しながら、モール街の出口に走っていた。

 

 

 

 所々、身を隠せる場所で休憩を取りながら。

 

 

 

 自分だけであれば既にモール街を抜けて車へと乗りこめているだろうが、さすがにこれだけの距離を少女二人連れて走り切るのは無理がある。

 

 

 

「ラクス様、ミーア様。大丈夫ですか?」

 

 

 

 ダコスタの問いに、二人の少女は息も絶え絶えになりながら答えた。

 

 

 

「……何とか」

 

 

 

「…は、はい」

 

 

 

 二人の様子を見るに、やはり走り切るのは無理がある。

 

 

 

 幸い、ゾンビ兵は単純に前進しかしない。

 

 

 

 障害物を乗り越えるという頭がないようだ。

 

 

 

 何処からでも湧いて出てくるが歩くだけなので、その実逃げるのは容易である。

 

 

 

 問題は、無限とも言える数だろうが。

 

 

 

「あと少しで駐車位置です、急ぎましょう!」

 

 

 

「はい。ミーアさん、行けますか?」

 

 

 

 ラクスは気丈に答えながらミーアを見る。

 

 

 

 彼女も、必死の形相ながらもコクコクと頷いてきた。

 

 

 

「ーーよし、このまま」

 

 

 

 その時だった、巨大な爆発がショッピングモールを揺らす。

 

 

 

 爆発はドモンの残った方角だった。

 

 

 

「……ドモンさん!?」

 

 

 

「大丈夫です、ミーアさん。彼は、最強ですから」

 

 

 

(そうですわよね、ドモンさん?)

 

 

 

 強い瞳で爆発の起こった通路を振り返りながら、ラクスは心の中で彼の身を案じる。

 

 

 

 爆発で貫通した壁の向こうからは、ただただゾンビ兵の群れがある。

 

 

 

「ーーえ?」

 

 

 

 その向こう側にミーアの知る赤い髪の青年が見えた。

 

 

 

 緑色のザフト軍の服を着た青年は、虚ろ気な表情でこちらを見た後、ゾンビ兵の群れの中を歩いていく。

 

 

 

「D!!」

 

 

 

 ミーアは考える前にゾンビ兵の群れに走り出していた。

 

 

 

「! ミーアさん!! いけない!!」

 

 

 

「ミーア様!!」

 

 

 

 反応に遅れた二人は、急いでミーアとゾンビ兵の群れに消えた赤い髪の青年を追おうとする。

 

 

 

 しかし、彼らの足元に機関銃の雨が降り注いだ。

 

 

 

 当然、立ち止まらざるを得ない。

 

 

 

「これはーー!」

 

 

 

「ミーア様が狙いなのか!?」

 

 

 

 明らかに今の爆発は仕組まれている。

 

 

 

 自分たちとミーアを切り離すためだけに起こされたものだ。

 

 

 

 ラクスとダコスタは気付いていた。

 

 

 

 先ほどゾンビ兵の群れにのまれた赤い髪の青年は、Dではない。

 

 

 

 Dと同じように作られてはいるが、中身は意志のない人形だ。

 

 

 

 それを利用してミーアを陽動した。

 

 

 

 後方から迫りくるゾンビ兵に歯ぎしりしたのち、自分たちの前に現れた一団に目をやる。

 

 

 

「ーーこんな手を使ってくるなんて!!」

 

 

 

 ラクスとダコスタの前に、ザフトの緑軍服を着た軍人達が整然と隊列を組んでいた。

 

 

 

 手には機関銃を、目元にはサングラスをしている。

 

 

 

 ダコスタが異変に気付いた。

 

 

 

「ゾンビ兵が迫ってこない?」

 

 

 

 そう、ザフト軍人が現れてからゾンビ兵は前進を止め、こちらから一定の距離を置いていた。

 

 

 

 まるでこちらを観察するようにだ。

 

 

 

「……お久しぶりですね、ラクス嬢」

 

 

 

 前方ーーザフトの軍人達の方から声がかかる。

 

 

 

 ラクスはその声に聞き覚えがあった。

 

 

 

「あなたはーーまさか!!」

 

 

 

 軍人達が隊列を左右に分かれ、その中央から黒服を着たザフト軍人が現れる。

 

 

 

 ウェーブのかかった金色の髪を肩まで伸ばし、仮面を着けた長身の男性が。

 

 

 

 驚愕するラクス。引きつるダコスタ。

 

 

 

 そんな彼女たちを置いて、男は笑った。

 

 

 

「どうされました? まるで亡霊にでも会ったような顔をして」

 

 

 

 不気味な笑みと共に、彼は言う。

 

 

 

 ラクスの記憶のままに。

 

 

 

「ラウ・ル・クルーゼ……!!」

 

 

 

「お久しぶりですね、ラクス・クライン嬢。そう、私ですよ」

 

 

 

 彼は両手を大きく広げて笑った。

 

 

 

「何とも! 何とも、愉快だ!! こんな舞台がまだ私の人生にあるとはな!!」

 

 

 

 そう言いながら、彼は後方を振り返る。

 

 

 

 そこには赤い髪を腰まで伸ばした白服のザフト軍の少女がいた。

 

 

 

「ーー君もそう思うだろ? ファム・ファタール」

 

 

 

「そうね。幼稚で悪趣味で、けれど愉快な催し物だわ。フィルム・ノワール」

 

 

 

 ファムと呼ばれた少女は、クルーゼの事をフィルムと呼んで芝居がかった言い回しをする。

 

 

 

 彼女の顔を見て、ラクスは理解した。

 

 

 

 これは、悪意以外の何ものでもない、と。

 

 

 

 この状況は正に、神への冒涜だと。

 

 

 

「お久しぶり、というべきなのかしら? それともはじめまして? どちらでも良いのだけれど、ね」

 

 

 

 口元を冷酷に歪ませて彼女は笑う。

 

 

 

「何故? どうして、こんなことをーー!」

 

 

 

「さあ? 私もお笑いだわ。まさか、私を殺した男が私の部下になるなんて、ね」

 

 

 

 ファムの悪意ある笑みにラクスは凛とした気配のまま、問いかける。

 

 

 

「何故、貴女がこのようなことを!?」

 

 

 

「そうねーー。強いて言うなら、キラを苦しめるため、かしら?」

 

 

 

 「ファム・ファタール」--男性を狂わせる運命の女。

 

 

 

 そして、悪女。

 

 

 

「フレイ・アルスターなら、それを望むと思わない? コーディネーターのお姫様」

 

 

 

 彼女は、ラウ・ル・クルーゼに殺されたナチュラルの少女。

 

 

 

 キラが守りたくて、守れなかった少女。

 

 

 

 ブルーコスモスの派閥の血を引く少女。

 

 

 

 キラに憎しみを持ち、愛を持って接した少女。

 

 

 

「貴女なのですか? フレイ・アルスターさん」

 

 

 

 ラクスは鋭い瞳のまま、彼女に問いかける。

 

 

 

 これに彼女は、灰色の瞳を嗜虐的な色に染めて舌なめずりすると笑った。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 一方で、ゾンビ兵の群れの中に飛び込んでしまったミーアであったが、彼女に触れるゾンビ兵は一人とてなく。

 

 

 

 彼女は、一心不乱に赤い髪の青年の背中を追いかけていった。

 

 

 

 いつしか、彼女は大広間にたどり着く。

 

 

 

 そこには一人の金色の髪をしたスーツ姿にサングラスの美女が微笑みながら立っていた。

 

 

 

「貴女は、たしか議長のーー!」

 

 

 

「サラと言います。お迎えに上がりました、ラクス様」

 

 

 

 彼女は丁寧に一礼をすると、ミーアに安心させるように言った。

 

 

 

「お願い! ラクス様達を、みんなを助けるように議長に言って!!」

 

 

 

 ミーアはホッとすると同時にすぐ、はぐれたラクス達の事を思い出し、告げる。

 

 

 

「…何故ですか? ラクス様は貴女でしょう」

 

 

 

「ーーな!?」

 

 

 

 いきなりの物言いにミーアが思わず絶句する。

 

 

 

 それを優しく見据えながら、サラは冷気すら感じる言葉を紡いでいく。

 

 

 

「ラクス様という方は、常に正しく平和を愛し、けれども必要な時には、私たちを導いて共に戦場を駆けてもくださる。そんなお方です。

 

 だから、私たちもお慕いするのです。そうで無いラクス様なんて、それは嘘ですわ」

 

 

 

「嘘ーー?」

 

 

 

 ミーアは気付かなかった。

 

 

 

 いや、気付けなかった。

 

 

 

 サラはゆっくりと懐からコンパクトを取り出し、鏡をミーアに向けている。

 

 

 

 その鏡からは、人の心を惑わしコントロールする光が放たれていた。

 

 

 

 未来世紀のDG細胞が人間のような知能体を取り込むときに使用した催眠術である。 

 

 

 

「私は、開戦の折からずっと、議長のお側で頑張ってくださった方こそが、本当のラクス様だと思っております」

 

 

 

「あなた…?」

 

 

 

 呆然となるミーアにサラは優しく、あくまで優しく語り掛ける。

 

 

 

「サラとお呼びくださいな、ラクス様。お力になりますわ。今はそうでなくては、皆困るのですから…。

 

 そうでしょう? ラクス様」

 

 

 

 ミーアの意識はその言葉を最後に闇の中に沈んでいった。

 

 

 

 






 みなさん、お待ちかね!!

 ラクスの前に現れたのは、かつての大戦により命を落としたはずの男と少女。

 一方で、ドモンとDの前にもデュランダル議長の策略とは無関係に、自分の意思で動いている強力な二人組のファイターが現れたのです。

 次回! 機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第60話に!!

 レディー、ゴー!!

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