新機動武闘伝 GガンダムSEED Destiny   作:カンナム

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 皆さん、ロゴスへの総攻撃を開始する前にアスランの身に危機が迫ります。

 シュバルツ・ブルーダーと新たなガンダムを得たシンは、どのようにしてアスランを救うのか!?

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディィィィッ、ゴォォォオオオッ!!


第66話 アスランの離脱 レイの苦悩

 

 デュランダルからの衝撃の告白に、アスランとシンは呆然と彼の後ろに佇む二機のガンダムを見上げた。

 

 

 

「デスティニーは、シン君の戦闘データを基に作られている。君の最近の戦闘は凄まじいの一言だ。あのキラ・ヤマトにも真っ向から打ち勝った! 君なら、このデスティニーを完全に使いこなすことができるはずだ」

 

 

 

「ーー俺の、機体」

 

 

 

 言いながら、シンは何処かインパルスに似たデスティニーと言うガンダムを見上げる。

 

 

 

 何となくだが、この機体は自分が乗るのを望んでいるように感じた。

 

 

 

「ーー何だ? この感じは、インパルス?」

 

 

 

「流石だね、見ただけで分かるのか?」

 

 

 

 デュランダルは、関心したような声をあげてシンを見る。

 

 

 

「これが明鏡止水とやらの力か? 素晴らしいね。シン君、君の言うとおり、デスティニーはインパルスの全フォームデータを基に作られている。いわばインパルスの分身と言えるだろう」

 

 

 

「インパルスの、分身」

 

 

 

 言われながら、シンは今一度デスティニーガンダムの顔を見る。

 

 

 

 今までの戦闘でインパルス以上の機体がこの先必要になるのは、間違いない。

 

 

 

 だが、この機体は信用ならないデュランダル議長からの贈り物だ。

 

 

 

 正直、不快だった。

 

 

 

 これに乗れば、自分は議長の思惑通りに動かなければならなくなるのではないか? シンはそんな葛藤に一瞬さいなまれた。

 

 

 

 聞こえてきたのは、シンが最も信頼する男の声だ。

 

 

 

ーー「おそらくデュランダル議長が私の考えている通りの人間ならば、レイとアスランの話で分かったことがある。彼は理想を胸に抱いている。その理想と言う目的のために、他人を利用する非情さや狡猾さも兼ね備えていると考えるべきだろう。

 

 ならば今、アークエンジェルを撃たせた、ということはこれから彼が動くという意思表示ではないだろうか?

 

 その行動を見てからでも、遅くはあるまい。

 

 ミネルバにはプラントに家族がいる人間が多くいる。表立ってザフトに反逆するわけにはいかん。反逆するのであれば、デュランダル議長が逆賊であるような状況を作り出さなければならん。

 

 現状、それは不可能だ」ーー

 

 

 

 現状、ギルバート・デュランダルには逆らえない。

 

 

 

 ならば、どうすればいいのか。

 

 

 

ーー「今できることはどのような情勢になれど対応できる柔軟性と、心づもりをしておくことだ」--

 

 

 

 そのために今、自分がしなければいけないことは、ここでMSを受け取らずに議長に猜疑心を植え付けることか?

 

 

 

 それとも、MSを受け取って戦力を上げると同時に、デュランダルの信用を受け取ることか?

 

 

 

「使ってもらえるね、シン君」

 

 

 

「…はい」

 

 

 

 シンは強い瞳でデュランダルを見返しながら頷いた。

 

 

 

 対して隣のアスランはデュランダルに言う。

 

 

 

「議長、申し訳ありませんが。この機体は俺には向いていないと思います」

 

 

 

「? 気に入らないかね? ザフトの最新技術を使って作り上げたのだが」

 

 

 

「いや、機体のポテンシャルは最高だと思いますが。単純に俺の戦い方には向いていないんです」

 

 

 

「というと?」

 

 

 

 デュランダルは興味深げにアスランに問いかける。

 

 

 

 彼は一つ頷くと言った。

 

 

 

「ミネルバの優秀な整備士の一人に言われたんですが、俺の戦い方は近接戦闘に特化しているそうなんです。フレームや関節部に相当な負担をかけてしまう。この機体はドラグーンシステムを積んでいる言わば射撃主体の機体です。俺の要求する戦い方に合うかどうかーー。この機体に合うパイロットなら、俺よりもレイの方が適任だと思います」

 

 

 

「そこまで感じて取るのかーー! 驚異的な能力だな、明鏡止水」

 

 

 

 大きく目を見開いて驚くデュランダルにアスランは頭をかきながら言った。

 

 

 

「すみません。せっかく用意していただいたのに」

 

 

 

「構わないよ。君に合った機体か。なるほど」

 

 

 

 アスランの言葉に考え込むデュランダル。

 

 

 

「やはり、現場の声を聴かなければ分からないな。色々助かったよ、アスラン」

 

 

 

「いえ」

 

 

 

「さあ、今日はもう疲れただろう? 二人とも今日はゆっくりと休んで行ってくれ。ミネルバには明日帰るように伝えてある」

 

 

 

 デュランダルの言葉に二人の顔が上がる。

 

 

 

「特にシン君は、今すぐにでもデスティニーガンダムを調整したいようだからね」

 

 

 

 言い当てられ、シンは頬を赤く染めながらもアスランを見る。

 

 

 

 アスランは苦笑気味にシンに頷いた。

 

 

 

「すいません、隊長」

 

 

 

「構わない、ただし調整は完璧に仕上げておけ。自分の命を預ける機体になるんだからな」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

 シンは一人、アスランと別れると整備兵と共にデスティニーのコクピットに向かっていった。

 

 

 

「ではアスラン。せっかくだから、ラクスと久しぶりに食事でもどうかな? ホテルの部屋は空いている」

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 戸惑うアスランにラクスがにこやかに言った。

 

 

 

「楽しそうですわ、よろしくお願いしますわね。アスラン」

 

 

 

「え…、あ。分かりました」

 

 

 

 腕を組まれ、最初は戸惑うアスランであったが、ミーアの表情を見て決心を固めた。

 

 

 

(二人きりになれば、ミーアの様子がおかしいのも分かるか?)

 

 

 

 アスランとミーアは、まるで恋人同士のように腕を組みながらデュランダルの下を去っていった。

 

 

 

 

 

 ホテルに着いた二人は、フロントでカギをもらい、部屋に入る。

 

 

 

 扉を閉めたところで、ミーアが調子外れな笑い声を上げた。

 

 

 

「ー-ふ、フフフフ!」

 

 

 

「え!?」

 

 

 

 右腕をつかまれ、強い力で引っ張られる。

 

 

 

 彼女が向かう先はベッドルームだ。

 

 

 

「み、ミーア!? どうしたんだ!!?」

 

 

 

「何が? あたし達、恋人同士じゃない。アスラン」

 

 

 

 ベッドの上にアスランはつまづきながら倒れこむ。

 

 

 

 それを横目にミーアが自分の服を脱ぎ始めた。

 

 

 

「よせ、ミーア!!」

 

 

 

「どうして、アスラン?」

 

 

 

 襟元にかかっていたミーアの腕を抑え、辞めさせる。

 

 

 

 そのとき、彼女とはじめて目が合った。生気のない、昏い瞳。

 

 

 

 行動にまるで躊躇がないいまの彼女は、まるでロボットが人間を真似てプログラム通りに動かしているような不気味さがある。

 

 

 

 アスランの背筋に寒気が走った。 

 

 

 

「どうしても何も、俺と君はそんな関係じゃないだろ? 俺にはカガリがいる。それに君にだってーー!」

 

 

 

 言おうとするアスランを虚ろな笑顔が迎える。

 

 

 

「私たちは婚約者ですわ、アスラン」

 

 

 

「ミーア!!」

 

 

 

 瞬間だった。

 

 

 

 アスランを突き飛ばし、ミーアが笑いながら言う。

 

 

 

「私は、ラクス。ラクスが、いいーー!」

 

 

 

「! ミーア。いったい、何があったんだ!?」

 

 

 

 今のミーアは明らかにおかしい、この状態の彼女をそのままにはしておけないとアスランは感じた。

 

 

 

「ミーア、一緒に来るんだ! ミネルバで診てもらおう!!」

 

 

 

「どうして? 私は、ラクスよ? アスラン」

 

 

 

 首を傾げる彼女の肩を抱き、アスランは意識不明の人間に呼びかけるように声を張る。

 

 

 

「違う、君はミーアだ!! ミーア・キャンベルだ!! 俺に教えてくれたじゃないか!!? ラクスが現れるまで必死でラクスを演じているって!!」

 

 

 

 笑顔をうかべたまま反応がないミーアにアスランは深刻に顔を歪めて言った。

 

 

 

「この間、シュバルツと一緒にコーヒーを飲んだ時に色々、話してくれたじゃないか! 議長に認められても、ラクスのファンにはなかなか認められないって! Dのこととかも話してくれたじゃないか!!」

 

 

 

 アスランの言葉に、ミーアの眉がピクリと動いた。

 

 

 

 かまわず、アスランは続ける。

 

 

 

「Dは、ラクスとして認められるようになった自分をいつまでも小娘扱いするって!!」

 

 

 

 瞬間だった。

 

 

 

「…う、うぁあああああ」

 

 

 

 ミーアの笑顔がひび割れ、自分の頭を両手で抑えながら苦しみ始めたのだ。

 

 

 

「ミーア!!」

 

 

 

 その時、鍵がかかっているはずのホテルのドアが開かれた。

 

 

 

「ーー失礼します。ラクス様、如何されましたか?」

 

 

 

 現れたのは、金色の髪にサングラスをかけた美女。

 

 

 

「誰だ!?」

 

 

 

 いきなりの第三者の訪問にアスランが詰問する。

 

 

 

 これに美女ーーサラは丁寧な礼をして答えた。

 

 

 

「ーー私の名は、サラ。ラクス様の付き人をさせていただいております。この度は、お二人の恋人同士の営みを邪魔して申し訳ございません」

 

 

 

 慇懃無礼な態度を取るサラにアスランの目が鋭くなる。

 

 

 

「監視でもしているのか!?」

 

 

 

「ーーまさか」

 

 

 

 そう言いながら、サラはポケットからコンパクトを取り出し、アスランに鏡を向けてきた。

 

 

 

「ーー!?」

 

 

 

「アスラン・ザラ。貴方は、本当にオーブを離れ我々に付くのですか?」

 

 

 

 光が、アスランの思考を奪っていく。

 

 

 

 正直に答えなければならない。

 

 

 

 そんな気にさせられた。

 

 

 

「ーー俺はオーブを、カガリを守る為にザフトに来た。離れたりはしない」

 

 

 

「ではアスラン様、貴方とシュバルツ・ブルーダーはどうしてアークエンジェルと貴方の親友キラ・ヤマトを堕としたミネルバにいるのですか?」

 

 

 

「アークエンジェルやキラは、堕ちていない。あれは、演技だ」

 

 

 

「…ほう。やはり、そうですか」

 

 

 

 サラがアスランの言葉に冷たい光を瞳に宿して先を促す。

 

 

 

「ミネルバに俺がいる理由はシュバルツと共に、ミネルバのみんなを守る為だ。俺にとって、彼らも守りたい仲間だから」

 

 

 

 答えながら、アスランの顔から表情が消えていく。

 

 

 

 感情が抜け落ちて、思考が奪われて行く。

 

 

 

「なるほど。やはり貴方はオーブを捨てられないのね。本当なら、射殺するのだけど。議長は貴方に期待している。殺さずに洗脳して、DG細胞に感染させましょう。寛大な議長のお心に感謝なさい、アスラン」

 

 

 

 言いながら、サラはコンパクトの鏡の部分を触る。すると、粘土細工のように鏡がサラの指先に付着した。

 

 

 

 泥のように変化する指先に付着したゲルは、鉛色の金属に変化する。

 

 

 

 その指でサラは無防備なアスランに近付いていく。

 

 

 

 指先がアスランの頬に触れる寸前、彼のポケットから電子音が鳴り響く。

 

 

 

「ーー何、電話?」

 

 

 

 サラがそちらに気を取られた矢先、アスランが正気に戻った。

 

 

 

 サラが反応するより早く、アスランがサラの腕を取り捻り上げて地面に制圧した。

 

 

 

「ぐっーー」

 

 

 

「ーー! お前が、ミーアをこんな風にしたのか!?」

 

 

 

 たった今、自分の記憶が曖昧にさせられたのもあり、アスランはサラがミーアを洗脳した張本人だと確信した。

 

 

 

「ミーアを元に戻せ!!」

 

 

 

「……やれ!」

 

 

 

 サラはアスランに応えずに、冷たく誰かに指示した。

 

 

 

 瞬間、アスランはこの部屋に殺到する気配に気づき、咄嗟にホテルの窓枠を蹴破って外の非常階段に出る。

 

 

 

「ーー逃すな、捉えろ!!」

 

 

 

 サラの命令がホテル内から響くと同時に大量の兵士がアスランを追いかけてきた。

 

 

 

 皆、人形のように虚ろな表情だった。

 

 

 

「ーー集団催眠!? バカな!!」

 

 

 

 驚愕の表情になりながらも、アスランはホテルの階段を飛び降りていく。

 

 

 

 それをバルコニーから見下ろしながら、サラは言った。

 

 

 

「ミネルバに帰すな。抵抗するならば、射殺して感染させろ。--行け」

 

 

 

 サラの指示に兵士たちはコクリと頷くと、そのまま銃を構えたまま走っていく。

 

 

 

「…ミネルバ隊にタリア・グラディス。議長の寵愛を授かりながら、議長を裏切るなんて…!!」

 

 

 

 そのまま、ベッドの上で座り込み頭を抱える少女に向かう。

 

 

 

「ラクス様、大丈夫ですか? 今、お薬を」

 

 

 

 優しい笑みと共に。

 

 

 

 水と錠剤を渡す。

 

 

 

 それを飲ませてから、サラは電話を掛けた。

 

 

 

「……私です。お休みのところ、申し訳ありません。やはり、アスランとミネルバは議長を裏切っておりました。おそらく、レイ・ザ・バレル殿の報告通りです。キラ・ヤマトとアークエンジェルも撃墜されておりません」

 

 

 

ーー そうか、残念だ。アスランは? --

 

 

 

「感染させた兵士達に追わせています。捉え次第細胞を移植し、ミネルバ隊に帰還させ、全員を感染させます」

 

 

 

ーー 待て。ミネルバにはシュバルツ・ブルーダーがいる。彼も「あの男」と同じだ、迂闊な真似はこちらの計画そのものを破綻させかねない ーー

 

 

 

「……では?」

 

 

 

 しばらくの間をおいて、通信先からの声が返ってきた。

 

 

 

ーー いずれ、ミネルバ隊にも感染してもらうが。今は、ヘブンズベースを攻略することが先決だ。その後でなら、いくらでもタイミングはあるだろう。シュバルツもいつまでもミネルバに残ってはいられないだろうからね --

 

 

 

 デュランダルの含みのある言い方に、サラは美しく微笑むと、続けた。

 

 

 

「ミーアの事情を知るアスラン・ザラはどうしますか?」

 

 

 

 冷たい煌きを瞳に宿して問いかけるサラに、通信相手は言った。

 

 

 

ーー 今は世界が一つになろうとしている時だ。障害となるならば、排除するしかあるまい。丁度、こちらにシン君とレイも来ている。彼らに伝えておくよ、スパイが現れた。排除するように、と --

 

 

 

 そして声の主は更に続ける。

 

 

 

ーー デスティニーとレジェンドの試運転を兼ねて、シン君にも出撃してもらわなければ、な --

 

 

 

「分かりました。では、アスラン・ザラがモビルスーツを手に入れられるよう、裏切者のミネルバ隊の誰かにサポートさせる状況を作ります」

 

 

 

ーー 頼むよ --

 

 

 

「すべては、議長の思いのままに」

 

 

 

 丁寧な礼と共に、サラは通信を切った

 

 

 

 

 

 一方で、シンは携帯電話を耳に当て、傍らでレイがレジェンドの調整をするさまを見上げていた。

 

 

 

 デスティニーの調整にシンがあたっているころに、急遽招集されてきたレイの作業も、あと少しで完了する。

 

 

 

 ちょうど夕食にさしかかる時間帯だった。アスランとミーアを連れて食事に誘うなら、早めに段取りをつけておきたい。

 

 

 

 規則的な着信音が耳に触れるなか、予想外の人物がMS格納庫に現れた。

 

 

 

「ーー調整はどうかな、レイ?」

 

 

 

 肩を跳ね上げ、慌てて電話を切ろうとするシンを、デュランダルは手で制したあと、レイに話しかけた。

 

 

 

「問題ありません、ギル。しかし、私にレジェンドを下さるのですか? アスランを予定していたのでは?」

 

 

 

 レイの問いかけに、デュランダルの口元に苦笑気味が浮かぶ。

 

 

 

「アスランに断られてしまってね。自分のスタイルと機体のコンセプトが違う。レイの方が向いているからと」

 

 

 

「なるほど、確かにアスランは射撃主体のセイバーでも無茶な格闘を仕掛けていましたね」

 

 

 

「やはり、現場の意見を聞かないといけないね。何事も」

 

 

 

 穏やかな笑みにレイは頬を赤くして俯く。

 

 

 

( あいつ、あんな顔もするんだな )

 

 

 

 普段の冷静で大人びているレイとは違う。

 

 

 

 シンがそんなことを考えていると、電話口にアスランが出た。会話中のレイと議長の邪魔にならぬよう、背を向ける。

 

 

 

「あ、隊長? こっち一区切りついたんで、ご飯でもどうですか? ラクスさんも一緒に」

 

 

 

ーー それどころじゃない!!! ーー

 

 

 

「ーーへ?」

 

 

 

 電話越しに伝わってくる切迫した空気感。

 

 アスランは息も絶え絶えで、声量こそ抑えているものの声に差し迫った色がにじんでいる。

 

 

 

 予想外過ぎる反応にシンがポカンと首を傾げる。

 

 

 

 電話口のアスランが矢継ぎ早に告げてきた。

 

 

 

ーー すまない、シン! 議長の秘書にアークエンジェルやキラのことを話してしまった!! ーー

 

 

 

「ーーはあ!? 何やってんすか、アスラン!?」

 

 

 

 思わず階級を付けるのを忘れて、呼び捨てにしてしまう。返ってきたのは、曖昧な答えだった。

 

 

 

ーー 自分でもわからない。正直に話さなければならない気になったんだ、としか答えられない ーー

 

 

 

「あんた、何言ってんだ!? つーか、自分の言ってること分かってます!? 何だって、そんなーー!?」

 

 

 

ーー すまない、シン。それで今、兵士達に追われて身を隠している所なんだ ーー

 

 

 

「マジかよ!!?」

 

 

 

 絶叫したあと、ハッと我に返って振り返る。レイと議長が、こちらを見ている。

 

 

 

「ーー議長の前だぞ、シン」

 

 

 

「構わないよ、レイ。シン君、楽しそうだね」

 

 

 

 普通に注意してくるレイと含みのある笑顔で話しかけてくるデュランダル。

 

 

 

「ーーす、すみません。議長、レイもーー」

 

 

 

 シンが頭を下げながら、電話口のアスランにも状況を伝わるよう謝罪すると、向こうが息を呑むのがわかった。

 

 

 

ーー 議長とレイがいる中でかけて来たのか、シン! ーー

 

 

 

「しょうがないでしょ! そんな切迫した状況だなんて誰が思うんですか!? おまけにわざわざ言わなくていいこと全部バラしといて!! ミネルバの皆もヤバイんですよ!? どうせ、偽物のラクスの色仕掛けにやられたんでしょ!」

 

 

 

ーー 俺がそんな軽い男なわけあるか! 俺はカガリ一筋だ!! ーー

 

 

 

「どうでもいいすよ、そんな惚気!!!」

 

 

 

ーー 惚気とはなんだ!? だいたい、俺だってカガリに関しては、色んな悩みを抱えてるんだぞ! イザークもお前も俺をいったい何だと思ってるんだ!? ーー

 

 

 

「逆ギレかよ!? それがフェイスのやることかぁあああっ!!?」

 

 

 

 議長達に背を向け、あくまで平静を装いながら電話越しにケンカするシンの姿は、中々に器用なものだ。

 

 

 

 さりげなくデュランダル達から離れてコソコソと格納庫を出て行こうとしてーー。

 

 

 

「ーーなに!? スパイが現れた!?」

 

 

 

 まるでタイミングを見計らったかのような議長の言葉にシンが直立する。

 

 

 

「やべえ! ばれた!!」

 

 

 

 通話中のまま、後ろを振り返る。

 

 

 

 すると、思い切りシンを真正面に見ながら、兵士と話す議長と目が合った。

 

 

 

「ーーああ、分かった。レイ、シン君も。すまないが、スパイがモビルスーツ格納庫に逃げ込んだみたいだ。急ぎデスティニーとレジェンドに乗り、向かってくれ。スパイがモビルスーツを奪取した場合は撃墜してほしい」

 

 

 

「ーー分かりました、ギル。シン、行くぞ」

 

 

 

 即座に答え、レジェンドに乗り込むレイを見て、シンも通話中の携帯をポケットに素早くしまい、デュランダルに敬礼しながら、言った。

 

 

 

「必ず、撃墜してみせます!!」

 

 

 

「ああ、頼んだよ。シン・アスカくん」

 

 

 

 含みのある笑みだと感じながらも、シンはデスティニーのコクピットに乗り込む。

 

 

 

 コンソールパネルの横に携帯電話を差し込み、外部との通信を遮断しながら、シンは言った。

 

 

 

「……つー訳です! 何とかして逃げてください!」

 

 

 

ーー お前、無茶だぞ! それ!! ーー

 

 

 

「泣き言は聞きませんよ、アスランがベラベラ話すから悪いんですからね!!」

 

 

 

 そんな2人の会話に突如、声が割り込んで聞こえてきた。

 

 

 

『修行が足らんぞ、2人とも』

 

 

 

「「シュバルツさん!!」」

 

 

 

 物理法則を無視した声に、シンが思わず声をあげる。

 

 

 

「シュバルツさん、どうやって俺たちに話しかけてるんです?」

 

 

 

ーー 俺にも聞こえるんだが。やけにはっきりと ーー

 

 

 

 電話越しにアスランも困惑した声である。

 

 

 

『ゲルマン忍法ならば、このくらいは容易い』

 

 

 

「ーーまた、忍法か。理屈とか考えたらダメなんだろうな」

 

 

 

 やや疲れ気味の声をあげるシンにアスランが電話越しに言う。

 

 

 

ーー 俺もツッコんだら、ダメなんだろうな ーー

 

 

 

 その声にシンも力強く頷く。

 

 

 

『そんなことは、どうでもいい! シン、アスラン。キョウジからのデータには目を通したな?』

 

 

 

 シュバルツからの言葉に、2人は頭を切り替える。

 

 

 

「ーー作戦決行ポイントは、頭に入ってます」

 

 

 

ーー こちらもだ、シュバルツ ーー

 

 

 

 シンとアスランの答えにシュバルツの声は頷くと言う。

 

 

 

『ならば、アスランにはまずモビルスーツを手に入れて貰わねばならんな。できるか?』

 

 

 

ーー 丁度、信じられないことに格納庫の目と鼻の先にいます。プロテクターされてないMSなら、手に入れられそうです ーー

 

 

 

『頼むぞ、アスラン。海上にさえ出れば、こちらのものだ。後はシンと私に任せろ』

 

 

 

ーー 撃破作戦か。了解! シン、頼むぞ!! ーー

 

 

 

 2人のやり取りを聞きながら、シンは悪態を吐く。

 

 

 

「後味の悪さは、この際我慢しますよ!! アスラン、後10分くらいしか延ばせない! 頼みますよ!!」

 

 

 

 シンの言葉にアスランは「了解」とだけ、言い残して通話を切った。

 

 

 

 シンはデスティニーを稼働させる。

 

 

 

「シン・アスカ! デスティニーガンダム!!」

 

 

 

 通信を復活させ、機体のバーニアを徐々にふかしていく。

 

 

 

「ーー出撃します!!」

 

 

 

「待て、シン! こちらもまだ、調整が完璧じゃない。一緒に発進するべきだ!!」

 

 

 

 レイからの通信にシンは、思わずモニターから見えないところで右手を小さく握ってガッツポーズを取ると、言った。

 

 

 

「馬鹿野郎! 逃したら元も子もないだろ!! スパイは俺が確実に仕留めてやるさ!!」

 

 

 

「待て、シン!!」

 

 

 

 レイの制止を振り切り、シンのデスティニーが作戦予定ポイントに向かって飛び立つ。

 

 

 

 流石と言うべきだろうか。

 

 

 

 アスランは既に青いMS、グフ・イグナイテッドに乗って海上に飛んでいた。

 

 

 

「よし、見つけたぞ! 裏切者め!!」

 

 

 

 シンは言いながら、通信をオンにした状態で敢えて口に出した。

 

 

 

「ーーやめろ、シン!! 俺だ!!」

 

 

 

 通信から予想通りの人物から返答がある。

 

 

 

「アスラン隊長、なんでスパイなんか!?」

 

 

 

「話を聞け、シン!! 議長のやり方は間違ってる!!」

 

 

 

「だからってスパイ行為していい理由には、なりませんよ!!」

 

 

 

 デスティニーのバーニアをふかし、大剣アロンダイトを振りかぶって切りつける。

 

 

 

 アスランのグフ・イグナイテッドも右手に剣を持って応戦してきた。

 

 

 

 鍔迫り合いをする。

 

 

 

「ーーシン、悪いがメイリンを巻き込んだ」

 

 

 

「ーーはあ!? アスラン、あんた何処まで!?」

 

 

 

「たまたま、通りがかったメイリンが、俺の格好を見るや助けてくれて。あれよあれよと言う間に」

 

 

 

 アスランの言葉に、シンは静かに通話を直接会話に切り替えて行う。

 

 明鏡止水の感覚の共有でシンは、デスティニーには通信を傍受される危険はあるが、直接会話を録音する機能はないようだと気付いた。

 

 

 

「メイリン。なんだって、こんな無茶を」

 

 

 

「だって、アスランさん。あのままだと殺されちゃいそうだったんだよ、シン」

 

 

 

 シンが問いかけるとメイリンは、恐怖に引きつりながらもいつも通りのやや困ったような声音で返してきた。

 

 

 

「ーーったく。メイリンも一緒なら無茶できないな。さっさと落とす!!」

 

 

 

「よし、来い!! メイリンは体を張って俺が守る。後はお前とシュバルツに任せるぞ!!」

 

 

 

「他力本願過ぎですよ、アスラン。まあ、外しはしませんけどね!!」

 

 

 

 シンの中でSEEDの種が弾ける。同時に明鏡止水の一瞬を思い返し、解放する。

 

 

 

「はぁああああっ!!」

 

 

 

 気合いが高まり、デスティニーの両翼から赤紫の光の翼が生まれた。

 

 

 

 シンは更に心を研ぎ澄ます。

 

 

 

「ーーコクピットは、あそこか。グフ・イグナイテッドの動力炉はそこで、アロンダイトを突き刺す安全圏はーー。この一点!!」

 

 

 

 グフ・イグナイテッドが左手からヒートロッドを放ってくる。

 

 

 

 不規則な動きで絡みつくかのような鞭に、シンは左掌に設置されたビーム兵器『パルマフィオキーナ』を放つ。

 

 

 

 鞭は完全に消し飛び、シンはその威力と使い勝手の良さに勘付いた。

 

 

 

「ーーこれって、シュバルツさんやマスターアジアの使ってた技に似てるぞ。そうか、このガンダムは。フィンガーを使えるんだな!!」

 

 

 

「なるほど。シュバルツの弟子であるシンが、その兵装を使えない道理はないな」

 

 

 

「そんじゃ、行きますよ! アスラン!!」

 

 

 

 光の翼がデスティニーの最大稼働範囲を一気に広げ、残像を残しながらアスランに接近する。

 

 

 

「ーー待て、シン!! そのスパイはアスランだ!!!」

 

 

 

 第三者の声。

 

 

 

 いきなりのレイからの必死の通信。

 

 

 

 すっかり彼の事を忘れていたシンとアスランは間抜けな声を上げながら、接近する。

 

 

 

「え?」

 

 

 

「あ?」

 

 

 

 アロンダイトがグフ・イグナイテッドの胴体を貫いた。

 

 

 

「ーーアスラン!!」

 

 

 

 レイの悲痛な叫びに、シンは脂汗を流している。

 

 

 

「ーーシン。後は頼む」

 

 

 

「あんた、最初から最後までそれっきゃ言えないのか?」

 

 

 

 シンの毒を聞いてモニターのアスランは笑みを返すと、メイリンを庇った。

 

 

 

 同時にグフが空中で爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 レイは、その光景に言葉もなかった。

 

 

 

 しばらく呆然と、アスランが乗っていたグフの残骸を見据え、ゆっくりとシンに向き直る。

 

 

 

「レジェンドを発進させる直前にギルから聞いた。アスランが、スパイだと」

 

 

 

 冷静な言葉はそこまでだった。

 

 

 

「そんな訳があるか!! それなら、とっくにアスランはミネルバやザフトを離反している! 何故だ、シン!? 何故、撃った!!? アスランは仲間のはずだろう!?」

 

 

 

 シンを責めたところで何も変わらない。

 

 

 

 頭では分かっていたが、感情で納得できなかった。

 

 

 

「仕方なかったんだ。ああしなきゃ、アスランはーー」

 

 

 

 それだけを言うシンにレイは詰め寄った。

 

 

 

「アスランが裏切るつもりがあったなら、シュバルツ殿が動いただろう!? 何故、殺した!?」

 

 

 

「なら、他に方法があるのかよ!? 議長はスパイを撃墜しろって言ったんだぞ? アスランがどういうつもりか知らないが、アークエンジェルやキラさんのことを喋っちまった。逆らえば、俺だけじゃない。ミネルバのみんなもヤバイんだよ!!」

 

 

 

「ーーっ!? だがギルは」

 

 

 

「だがもクソも、あるかよ!! こんなやり方で、本当に世界が平和になるって思うのか、レイ!!!」

 

 

 

 シンの苦悩に満ちた言葉にレイは何も言えなかった。

 

 

 

 レイは息苦しさに空を見上げると、鉛色の空は何処までも続いていた。

 

 

 

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかねー!

 アスランを眼の前で落としたシンにレイは、どう接すればよいのか分からず、避けるようになります。

 そんな中、ロゴスへの攻撃を開始せんと準備が整えられていくミネルバの格納庫で、レイは思いもよらなかった相手に再会するのです。

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第67話に!

 レディー、ゴー!!
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