新機動武闘伝 GガンダムSEED Destiny   作:カンナム

67 / 103
 皆さん、前回のお話でアスランは辛くもデュランダル議長から逃れることに成功しました。

 ですが、その作戦を知らされていないレイは、シンとの間にわだかまりを感じるのです。

 そんな中、この場にいるはずのない人物がレイの前に姿を現したではありませんか!?

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディィィィッ、ゴォォォオオオッ!!

第67話




第67話 レイ・ザ・バレルと二人の男

 ミネルバの雰囲気は重苦しいものになっていた。

 

 

 

 理由はアスランにスパイ容疑がかけられ、シンによって落とされたからだ。

 

 

 

 タリアやアーサーは真相を知っているが、知らされていないクルー達は混乱を極めていた。

 

 

 

 腫れ物を扱うようにシンとレイを見る。

 

 

 

 あれから、2人は会話らしい会話を一切しなくなった。

 

 

 

 レイが一方的にシンを避けるのだ。

 

 

 

 取り付く島もないとは、この事かとシンは苦笑しながら、服を着替えようとして手を止めた。

 

 

 

「ーーシン」

 

 

 

 もう1人の赤服、ルナマリア・ホークがシンの側に寄り添うように来たからだ。

 

 

 

「! ルナーー」

 

 

 

 ルナマリアは、そっとシンの横に来ると積極的に彼の腕に両腕を絡めた。

 

 

 

「お、おい!?」

 

 

 

「ーー早く見せなさいよ。ビデオレター、預かってんでしょ?」

 

 

 

 頰を赤く染めるシンに特に意識した様子もなくルナマリアは言ってきた。

 

 

 

「やっぱり気付くよな?」

 

 

 

 思わず言ってしまうシンにルナマリアが、絡めた腕を解くとため息を吐きながら言った。

 

 

 

「キラ准将の前例があるからね」

 

 

 

「ーーだよな」

 

 

 

 やはり、俺が貧乏くじ引いただけな気がする、そうシンは嘆いていた。

 

 

 

「レイの奴があそこまで取り乱すってことは、そんだけ逃げる暇がないってことでしょ?」

 

 

 

「ああ。あのレイでもそう思うんだぜ? ゲルマン忍法って、なぁ?」

 

 

 

「…考えたら負けな気がするわ」

 

 

 

 二人はそう言い合いながら深いため息を吐く。

 

 

 

 そして。

 

 

 

「……一緒に見ましょ? 私の部屋で」

 

 

 

「へ?」

 

 

 

「さ、行くわよ!」

 

 

 

「え、ちょ。ちょっと…!!」

 

 

 

 腕を掴まれてそのまま部屋に連行されるシン。

 

 

 

 さすがにマズイと言おうとしたのだが、彼女の手が震えていることに気付いた。

 

 

 

(ルナ、強がってるけど。やっぱりメイリンのこと心配なんだな)

 

 

 

 彼女の心中を察すると、シンは何も言わずにルナマリアに付いていった。

 

 

 

「ねえ、シン。どうしてレイには話したげないの? ビデオレターのこと」

 

 

 

 これにシンは表情を鋭いものにすると言った。

 

 

 

「シュバルツさんに口止めされてる。理由は聞いてないけど、俺にも何となく分かる」

 

 

 

 それにルナマリアがため息を吐きながら言った。

 

 

 

「…ちょっとカッコ良過ぎない? 最近のアンタ(ボソッ)」

 

 

 

「? なんか言ったか?」

 

 

 

「べ~つに」

 

 

 

 ルナマリアの部屋に入りながら、二人はそんな話をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ミネルバのブリッジでは不機嫌を絵に描いたような顔をしたタリアが目の前のモニターを見据えている。

 

 

 

「すまないね、タリア。手違いで君からの連絡を見れていなかった」

 

 

 

「…お気になさらず、議長。それでアークエンジェルの件は説明していただけるのですか?」

 

 

 

 タリアの冷たい瞳にさらされながらも、デュランダルは微笑みを辞めない。

 

 

 

「命令書どおりだよ。ロゴスと繋がっているアークエンジェルとオーブには、これ以上好き勝手にしてもらうわけにはいかない」

 

 

 

「彼らは、ベルリンの街で我々を助けてくれました。絶望的な状況に陥っていたあの街を地球軍から守れたのは、間違いなく彼らの協力あってこそです」

 

 

 

「では聞くが、タリア。カオスガンダムの件とロゴスとの癒着の件はどう説明するのかね? 何より、彼らに後ろめたさがないのであれば、我々に投降してくれてもよかった。違うかな?」

 

 

 

 眦が吊り上がった。

 

 

 

「アラスカでの件では、アークエンジェルに一方的にウィラード隊から奇襲を仕掛けていましたね。それで投降しろですって? 応じると? 本気で言っているのですか、議長?」 

 

 

 

 更に続ける。

 

 

 

「オーブのセイラン家が問題のある政治家と言うのは知っています。カガリ代表の目を盗んで我々を連合に売りつけようしたくらいですからね。ですが、それはオーブ全体の意思ではないはずです。

 

 現にカガリ代表は私たちに協力者としてシュバルツ・ブルーダー殿とアスラン・ザラ少佐を派遣してくれました。彼らの協力なくして、今のミネルバはありません。それをーー!!」

 

 

 

 睨みつけながらタリアのボルテージが上がっている。

 

 

 

 後ろに控えるアーサーは若干引き気味に彼女を見ていた。

 

 

 

「アスラン・ザラ、か。彼こそがロゴスのスパイだったのだよ」

 

 

 

「……何ですって?」

 

 

 

 こめかみに筋が入る。

 

 

 

 アーサーが必死にタリアの肩を後ろから叩いて抑える。

 

 

 

 ここで爆発したら、シンがアスランを落とした意味がなくなってしまうからだ。

 

 

 

 少なくとも、ミネルバ隊に残っている人間はザフトに従順であると示さなければ、議長に疑われてしまう。

 

 

 

 そうなれば、本国を切り離せないミネルバ隊のクルー達は板挟みになってしまう。

 

 

 

 下手をすれば空中分解ものだ。

 

 

 

「ーー艦長」

 

 

 

「分かってるわ、ありがとうアーサー」

 

 

 

 息を吐き、心を落ち着かせるタリアにデュランダルが目を細めながら言う。

 

 

 

「アスランは、アークエンジェルを落としたのではない。我々の目を誤魔化すために自ら砲撃手を買って出てアークエンジェルを逃がした。そうだね、タリア?」

 

 

 

「ーーっ!!!?」

 

 

 

 知られているはずがなかった。

 

 

 

 確かにアークエンジェルの撃破確認はされていない。

 

 

 

 だが、あの状況では逃がしたと断定できる証拠もない。

 

 

 

「キラ・ヤマトもどうやったかは知らないが、生きているそうだ。アスランが教えてくれたよ」

 

 

 

 やはりシンの報告通りだ。

 

 

 

 アスランは何故か、機密情報を漏らしてしまったと言っていた。

 

 

 

「……ギルバート。貴方、アスランに何をーー!?」

 

 

 

 タリアの反応にデュランダルは微笑みを浮かべると言った。

 

 

 

「タリア、その様子だと君は知っていたようだね? 何故、私に話してくれなかったのかな? 報告義務があることは分かっているのだろう?」

 

 

 

 穏やかなほほ笑みでありながら、冷たいものを顔に浮かべてデュランダルは言う。

 

 

 

「君のしたことはフェイスとは言え、本国への重大な裏切りだ」

 

 

 

「……本国は、アークエンジェルを捕捉できたのですか? 確かに残骸が出てこない為に撃沈していない『疑い』はありました。ですが、確信のない情報を議長に報告するわけにはいかないのも事実です。常識的に考えて、アークエンジェルやキラ・ヤマトが、生還できるとは私には思えませんでした」

 

 

 

「シュバルツ・ブルーダーの力を借りてもかね?」

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

 タリアが歯を食いしばりながら、デュランダルを睨み据える。

 

 

 

 即座にアーサーが割り込んだ。

 

 

 

「議長! アークエンジェルを脱出させたのは私の考えです!! タリア艦長ではありません!! 私の独断です!!」

 

 

 

「アーサー」

 

 

 

 アーサーが前に出るのをタリアが手で押さえる。

 

 

 

「…君に裏切られたのは、これで二回目だな」

 

 

 

 寂しげな笑みでデュランダルはそれだけを言った。

 

 

 

 そして続ける。

 

 

 

「だが、それもロゴスを討つと言う目的の前には些末なものだ。今、君たちに抜けられてはヘブンズベースを攻略するなど不可能だからね」

 

 

 

「……それまでは見逃してもらえる、と?」

 

 

 

「そこから先は君次第だよ、タリア」

 

 

 

 微笑みを浮かべて言うデュランダルにタリアは睨みつけながら、言った。

 

 

 

「分かりました。この作戦が終了すれば私は艦を降り、本国に出頭します」 

 

 

 

「艦長!!」

 

 

 

 止めようとするアーサーを目で制する。

 

 

 

 これにデュランダルは微笑むと告げる。

 

 

 

「タリア、そう気張らないでくれ。私は責めるつもりはない。話を聞きたいだけなんだ。だから、全てがひと段落着いたら、上がって来たまえ」

 

 

 

「…………はい」

 

 

 

 デュランダルは通信を切る。

 

 

 

 それを確認してから、ブリッジの砲撃手が声を上げた。

 

 

 

「なんで誤魔化さずに白状したんですか、副長!!」

 

 

 

「ーーえ?」

 

 

 

 アーサーがキョトンとした表情で見返すと、彼は言った。

 

 

 

「いくらアスラン少佐が自白していても、それを証明する手段がありますか? あの場面でシュバルツ殿が何かした、なんて証拠見つかるわけないじゃないですか! 我々でもわからないのにっ! シラを切りとおせば良かったんですよ!!」

 

 

 

 その言葉に、アーサーは目を大きく見開いて自分の失態に気付いた。

 

 

 

「申し訳ありません、艦長!!」

 

 

 

「構わないわ。どのみち、アークエンジェルが現れれば、アスランの自白は決定的な証拠になる。それにーー」

 

 

 

 目を伏せながらタリアはアーサーを横目見て優しくほほ笑んだ。

 

 

 

「ありがとう、アーサー。嬉しかったわ」

 

 

 

「ーーえ? い、いえ!」

 

 

 

 普段は厳しい艦長の優しい微笑みに、初心な副長は頬を真っ赤に染めた。

 

 

 

 

 

 ミネルバのMS格納庫でレイは一人、レジェンドの調整を行っていた。

 

 

 

 頭をよぎるのは、アスランの乗ったグフを落としたシンのデスティニーの光景だ。

 

 

 

 基地に戻った彼らを待っていたギルの第一声は「よくやってくれた」だった。

 

 

 

「ギルは、最初からシンがアスランを落とすことを望んでいた。……何故だ、何故アスランが俺達を裏切る? ロゴスと通じる? そんなわけ、あるはずがないのにーー!!」

 

 

 

 レジェンドを正面に見ながら、システムの調整を片手間にコンソールパネルで打ち込む。

 

 

 

 そんな彼に、語り掛ける声があった。

 

 

 

「あるはずがない、か。だが、それが真実である可能性も考慮すべきだと私なら思うのだがね、レイ」

 

 

 

「ーーっ!!?」

 

 

 

 聞くはずのない声だった。

 

 

 

 自分よりも低い、けれど似た声ーー。

 

 

 

 だが、彼はーー。

 

 

 

「人は自分の見てきたものしか知らない。それは仕方のないことだ。君の知るギルが全てではなかった、それだけのことだよ」 

 

 

 

 振り返れば、自分の記憶と寸分たがわない仮面を着けた男が立っていた。

 

 

 

 記憶と違うのは、彼の制服が黒になっていることだろう。

 

 

 

「ら、ラウ……?」

 

 

 

 この時のレイは、生き別れた親を見つけた幼子のようであった。

 

 

 

 普段の泰然とした瞳を大きく見開き、無防備な姿をさらしている。

 

 

 

 頭ではわかっている、ここに死人がいるはずがない。

 

 

 

 だが、彼の『感覚』が理解する。

 

 

 

 目の前の男が『誰』なのかを。

 

 

 

「ラウ、なの……? どう、して……?」

 

 

 

 呆然とそれだけしか、口にできないレイに男ーークルーゼは苦笑する。

 

 

 

「やれやれ。死人であるはずの人間が現れたのだよ? 真っ先に警戒するべきだと言うのに、相変わらず君は心を許した者に弱いな」

 

 

 

 その笑みもしぐさも、自分の記憶の中の者と寸分たがわない。

 

 

 

 彼は、世界に絶望して。

 

 

 

 世界を憎み抜いて。

 

 

 

 人の夢と言われた少年に倒された。

 

 

 

「君も知っているだろうが、私は死んだ。今の私はラウ・ル・クルーゼの全人格と記憶をコピーされたクローンに過ぎない」

 

 

 

「……カーボンヒューマン? でも」

 

 

 

 レイは知っている。

 

 

 

 クローンのほかにカーボンヒューマンと呼ばれる複製を作ることができることも。

 

 

 

 だが違う。

 

 

 

 コピーした写真が徐々に粗くなるように、本来カーボンヒューマンもオリジナルと人格に差異が生じるはずだ。

 

 

 

 だというのに、目の前の男からは何の違和感もない。

 

 

 

 ラウ・ル・クルーゼそのものだった。

 

 

 

「私は作り出されたのだ。議長ーーつまり、ギルバート・デュランダルによってね」

 

 

 

「! 嘘だ、ギルがそんなことをする訳がない!!」

 

 

 

 思わず否定していた。

 

 

 

 レイの頭にも考えは浮かんでいる。

 

 

 

 ここまで完璧に再現できるということは、ラウ・ル・クルーゼを知らなければできないことを。

 

 

 

「ラウ、どうして!? ラウは遺伝子を残さなかったはずだ!! ギルがいくらラウを知っていても、記憶だけでラウを復活させることなんか、できるわけーー!!」

 

 

 

 混乱していた。

 

 

 

 動揺していた。

 

 

 

 するなと言うのが無理なほどに。

 

 

 

「……DG細胞という、とんでもないテクノロジーがあってね。記憶とプロヴィデンスの残骸から『私』を作り上げてくれた」

 

 

 

「……そんな。ギルは、ギルは作られた命の為に、平和な世界をーー!」

 

 

 

 衝撃を受けていた。

 

 

 

 ギルバート・デュランダルは、優しかった。

 

 

 

 自分に優しくしてくれた、ラウ・ル・クルーゼ以外の唯一の人間だった。

 

 

 

 ラウの死を共に悼んでくれたと言うのに。

 

 

 

「作られた者の為に平和な世界を作る。その為に『私』を生み出す。それがギルと言う人間だ」

 

 

 

「……ラウ」

 

 

 

 クルーゼは言いながら、仮面を外した。

 

 

 

 そこには、テロメアが短くて苦しんでいたのが嘘のように整った若い顔の男がいる。

 

 

 

 仮面を着ける前のラウそのものの顔だった。

 

 

 

「レイ、君に忠告をしておこう。ギルを信じるのは、君にとって破滅しかもたらさない、とね」

 

 

 

「どうして、どうしてそんなことを言うの? ギルとラウはーー」

 

 

 

「ああ。友人だとも。お互いに気心の知れた友人だからこそ、私には彼の思考がある程度分かる。彼は私の同類なんだよ、レイ」

 

 

 

 クルーゼの語る意味が分からず、レイは目を見開いて叫ぶ。

 

 

 

「俺とラウも同じだ!!」

 

 

 

「違う」

 

 

 

 はっきりとクルーゼはそれを否定した。

 

 

 

「君は、私やギルとは『違う』。もっとも、ギル自身も気付いていないようだがな」

 

 

 

 苦笑を浮かべるクルーゼに、レイは親に拒絶されたようなショックを受けていた。

 

 

 

 だが、クルーゼは優しく温かに笑う。

 

 

 

「ギルは君を「ラウ・ル・クルーゼ」としか見ていない。だから、気付かないだろうが。あいにくと私にはわかってしまう。君は『ラウ・ル・クルーゼ』には成りえない、とね」  

 

 

 

 その笑顔は、きっと自分にしか向けられたことのない笑顔だった。

 

 

 

 だから、問いかける。

 

 

 

「どうして? どうして、そんなに嬉しそうに言うの? 俺は、ラウになりたいのに!!」

 

 

 

 分かってほしかった。

 

 

 

 自分の気持ちを理解してほしかった。

 

 

 

 なのに、クルーゼは言う。

 

 

 

「人はね、レイ。自分以外の何ものにもなれはしないんだよ。『私』はそれを理解した。そして絶望した。だが、君は違う。君の答えは『私』と同じではないはずだ」

 

 

 

 クルーゼの言葉にレイは首を横に振りながら、涙を流す。

 

 

 

 拒絶された。

 

 

 

 この世界で唯一の自分と同じ存在に、拒絶された。

 

 

 

「やはり私は口下手だな。絶望を口にすることはいくらでもできるが、希望となると口にする単語が思い浮かばない。だが私が今感じている感情は間違いなく『希望』だろう」

 

 

 

 クルーゼは苦笑しながら続ける。

 

 

 

「死んでから『希望』を感じるとは、因果なものだ。私も彼女も」

 

 

 

 言いながら、クルーゼは懐から拳銃を取り出した。

 

 

 

「!? ラウ!?」

 

 

 

 レイにかまわず、クルーゼは自分の背後に向かって銃を構える。

 

 

 

 そこには通路があるだけで誰もいない。

 

 

 

 だが、クルーゼは構えを解かずに言った。

 

 

 

「弾を無駄にしたくない。出てきてくれないかね? こんなものが通じないことは理解している」

 

 

 

 その言葉に、クルーゼの立っている影が横に伸びる。

 

 

 

 それが一人の人影へと変化するのをクルーゼは悠然と見ていた。

 

 

 

「はじめまして、シュバルツ・ブルーダー。私は『ラウ・ル・クルーゼ』を演じるもの。名を『フィルム・ノワール』。見知りおきいただけると幸いだ」

 

 

 

 現れた灰色のコートに覆面を付けた長身の青年を見て、クルーゼことフィルム・ノワールは一礼する。

 

 

 

「……貴様は私と同じ、DG細胞のコピー体か」

 

 

 

 シュバルツは、静かに自分の前に立つ金色の髪の男に問いかける。

 

 

 

 金色の闇を思わせる男ーーフィルム・ノワールはレイに向けていた笑みとは全く違う昏く口元を歪ませる。

 

 

 

「そのとおりだ。ただし、私の場合はオリジナルのラウ・ル・クルーゼが母体だがね」

 

 

 

「……ギルバート・デュランダルは、死人を復活させてまで何をしようというのだ?」

 

 

 

 レイから聞いていた「誰もが平等に暮らせる世界」。

 

 

 

 それを作るために、何をしようとしているのか。

 

 

 

 シュバルツは問いかけた。

 

 

 

「私が話すのは簡単だが、それでは意味がないだろう。真実は君自身の手でつかみ取るものではないかな?」

 

 

 

「……いいだろう。どうせ聞いてもまともには答えてくれまい」

 

 

 

 ノワールの言葉にシュバルツも取り合わずに視線を外す。

 

 

 

 するとフィルム・ノワールは用が済んだとばかりに仮面を着けると、その場を後にしようと元来た通路を歩いていく。

 

 

 

 そうしてシュバルツの隣に来たとき、彼は言った。

 

 

 

「シュバルツ・ブルーダー」

 

 

 

「……なんだ?」

 

 

 

「レイを頼む」

 

 

 

 その口調に先ほどまでの嘲笑したような感じはない。

 

 

 

 ただ、ただ、真剣な低い声音だった。

 

 

 

 シュバルツが横目で彼の顔を盗み見ると、その時にはノワールはいつもどおり本心の分からない笑顔を浮かべて

 

言った。

 

 

 

「では、また会おう。レイ、シュバルツ」

 

 

 

 ロゴスとの開戦まで、後3時間を切っていた。

 

 

 

 シュバルツは静かにレイを見る。

 

 

 

 彼は正に混乱していた。

 

 

 

 無理もない、死んだはずのクルーゼが現れた。

 

 

 

 復活させたのは、作られた命を嘆いたギルバート・デュランダルだ。

 

 

 

 そして、クルーゼに自分は『クルーゼには成りえない』と否定された。

 

 

 

「……レイ」

 

 

 

「シュバルツさん、俺はーー! 俺は、何なんですか?」

 

 

 

 ポツリとつぶやいたレイの言葉にシュバルツは何も言わずに彼を見据える。

 

 

 

「俺は、ギルに「ラウ・ル・クルーゼ」だって言われたんです。だからそうなろうと、必死だった。なのにーー俺にはなれないってーー!!」

 

 

 

「………」

 

 

 

「ラウは俺にとって、理想でした。俺はラウとギルに育てられたんです。あの二人が俺にとっての世界で、全てでした」

 

 

 

 黙って聞いているシュバルツにレイは話を続けていく。

 

 

 

「だからラウが死んだときに自分もラウだと言われて、うれしかったんです。ギルに信頼されて、ギルに必要とされて、ギルと対等に話しができる。俺にとってラウは目標でした」 

 

 

 

 シュバルツは、そのレイの姿を穏やかな表情で聞いている。

 

 

 

「だから、俺もラウになれると思って必死で努力してきたんです。なのにーー」

 

 

 

 うつむくレイの胸の中は、悲しみとやるせなさでいっぱいだった。

 

 

 

「……レイよ、お前にとって目標とは何だ? 誰かに無理だと言われたら、それで諦めてしまうのか?」

 

 

 

「でも! 俺は……!!」

 

 

 

「レイ。私から見れば、お前はあの男に既に勝っている」

 

 

 

「えーー!?」

 

 

 

 シュバルツの言葉に、レイは思わず目を見開いた。

 

 

 

 シュバルツは腕を組みながら、去っていったフィルム・ノワールの方を見て言う。

 

 

 

「お前には、お前にしか持っていないものがある。それはあの男にとって、最も欲しかったものなのだろう」

 

 

 

「おっしゃってる意味が、よく分かりません」

 

 

 

 自分がラウに勝るものがある?

 

 

 

 そんな馬鹿な。

 

 

 

 そう思っていたレイに、シュバルツは続ける。

 

 

 

「その答えは、お前が自分で見つけるんだ。ただ、これだけは覚えておけ」

 

 

 

 シュバルツはレイに向き直るとその深い瞳でレイの目を見て言った。

 

 

 

「答えは、お前の中にある」

 

 

 

 シュバルツ・ブルーダー

 

 

 

 ラウとギルしかいなかった自分の世界を広げていった男。

 

 

 

 シン、ルナマリア、アスラン、ミネルバ隊。

 

 

 

 スティング。アウル。ステラ。

 

 

 

 彼の言葉に何故か次々と思い浮かぶ人々の顔。

 

 

 

 レイは訳が分からず涙を流した。

 

 

 

「…あ…? なんで?」

 

 

 

 その涙は、先ほどまで流れたものとは違う。

 

 

 

 胸が温かい何かに包まれて、いく。

 

 

 

 この男の腕の中で思い切り泣いた、あの時のように。

 

 

 

「その涙の意味を、いつか私に話してくれ。その時、お前は本当の自分の願いを知るはずだ」

 

 

 

 男の温かい声が、あの時のように胸に満ちていく。

 

 

 

 その温かさは、レイに無限の力を与えてくれるような気がした。

 

 

 

   

 

 

 

  

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね〜!

 ついに始まったロゴスへの総攻撃。

 ミネルバ隊も死力を尽くして戦いを挑みます。

 そんな中、ベルリンを絶望に染めた神の姿を模した魔神が、一つ目鬼のMSを大量に連れて現れたではありませんか!?

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第68話に!

 レディー、ゴー!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。