新機動武闘伝 GガンダムSEED Destiny 作:カンナム
前回のお話でラクスはレイとミケロに同行することになりました。
そんな彼女にコペルニクスで強引にも付いてくると言い出したのは、エターナルの搭乗員となっていたメイリン・ホークです。
彼女との邂逅、そして誘いにレイは心を激しく揺り動かされます。
それでは、ガンダムファイト!!
レディイイイイ、ゴオオオオオオオ!!
第82話
地球ーーオーブ本国にて
ミネルバ隊のタリア・グラディス艦長。
アーサー・トライン副長。
シン・アスカにルナマリア・ホークが席に臨んでいた。
オーブ側は国家元首であるカガリ・ユラ・アスハ。
キラ・ヤマト准将。
アスラン・ザラ少佐。
スティング・オークレーにアウル・ニーダ、ステラ・ルーシェの三名。
そしてアークエンジェルクルーから艦長のマリュー・ラミアス。
ネオ・ロアノーク大尉とアンドリュー・バルトフェルドやトダカ一佐にアマギも居た。
「君はーーシン君か」
「! トダカさん!」
最後に彼が見たシンは、無残な家族を前に泣き叫ぶ姿だった。
その時に比べて、今のシンは明らかに健康そうな顔をしている。
「驚いたよ、よくここまで持ち直した!」
「あ、いや。周りが俺を助けてくれたんです。トダカさんにも!」
「……シン君」
「ありがとうございました、本当に!! 貴方が居なかったら、俺はあのまま死んでたかもしれませんから」
そんな二人の会話を興味深そうにルナマリアとステラが聞き耳を立てている。
彼女らの襟首をつかんで止めたのはスティングとアウルだった。
「ちょ、スティング!」
「お願いアウル、ちょっとだけ!!」
二人の少女の抗議を無視してスティングとアウルはそれぞれ少女の襟首をつかんだまま話し合いを行っている席に着く。
「ルナマリア、良い女は盗み聞きはしないもんだ」
「ステラも大人しくしなよ」
そこで彼らは、ガンダムファイター達の活躍によってウルベ達が乗っていたシャトルが破壊されたことを告げられた。
「それで、今後についての話し合いをしたいんだ。グラディス艦長、我々は貴女を全面的にサポートする用意がある。勿論、水面下での話だが」
カガリからの言葉にタリアは大きく目を見開いた。
「それはつまり、プラントに気取られることなく補給を受けられる、と?」
「ああ。勿論、ミネルバ隊の中には議長に心酔している者もいるだろうから、表向きには堂々とはできない。極秘裏にはなるが、現状でオーブができるサポートは全てさせてもらう」
「……有難い話ですが、私たちには返せるものがありません。シュバルツ・ブルーダー殿を派遣して戴いただけでも私たちは本当に助かりましたから。アークエンジェルにはベルリン基地での借りもある。なのに、私たちはーー」
苦悶の表情になるタリアにカガリが静かに首を横に振った。
「これからの話をしよう、艦長。私たちも今のままではダメだから」
「グラディス艦長。差し出がましいですが、私たちからもお願いします。どうか、この世界を護るために手を貸してください」
マリューからの真摯な言葉にタリアは根負けしたように苦笑して言った。
「議長の監視の下、どれだけのことができるか分からないけれど。精一杯、あなた方と力を合わせたいわ」
その言葉にミネルバクルーとアークエンジェルクルー。
そしてオーブ軍人達から拍手が起こった。
「おっと、そうだった! 坊主共、ガンダムファイター達が会議が纏まったらガンダム持って訓練場に来いってよ!」
ネオの言葉にシンとキラが首を傾げながら見ると、彼は不敵な笑みを浮かべて言った。
「ドモン・カッシュがお前らと組み手をしたがってるぜ!」
その言葉に、少年たちの闘志に火が付いた。
「よしーー! デスティニーガンダムを格納庫から取ってきます!」
「インパルスで出撃よ!!」
「スティング! アウル!!」
「おお!!」
「やってやろうじゃん!!」
「アスラン、僕も行くけど君はどうするの?」
「行くに決まってるだろ? 俺たちはまだまだ強くならなければならないからな!!」
少年たちの勇気と熱さをまき散らす笑顔に、大人たちは眩しそうに目を細めるのだった。
月面都市コペルニクス。
ナチュラルやコーディネーター、その一切に関係なく中立を貫く施設。
その街中に一台の車を用意させて、レイは助手席に乗り込んだ。
運転席に優先して飛び込んだのはパンクルックの赤髪のファイター、ミケロだ。
彼らは、一隻の民間シャトルの前に車を走らせて止めた。
そこから一人の少女が出てくる。
桃色の髪をした歌姫ーーラクス・クラインであった。
「お待たせしました」
いつもの桃色のワンピースではなく、赤色のジャケットに白色のシャツ。黒色の長パンツをはいている。
「ラクス・クライン? その恰好は?」
「ミーアが選んでくれたんです! 似合いますか?」
「……ミケロ、俺たちは議長の罠をくぐっていくんだよな?」
満面の笑みで変装する気すらない彼女に思わずレイが問いかけると、ミケロは笑って言った。
「良いじゃねえか! 乳臭いガキかと思ったが、意外にイカしてるぜ!!」
上機嫌だった。
「ありがとうございます、ミケロさん」
にこやかに返すラクスに思わず頭を抱えるレイ。
頭痛に苛まれている彼は、第三者から声がかかるとは思わなかった。
「レイ! やっぱり、レイじゃない!!」
その声に思わず顔を向けると赤い髪をツインテールにした少女がそこに居た。
「な!? メイリン!?」
目を大きく見開くレイにメイリンが屈託のない笑顔で接する。
「よかった、レイ! 無事だったんだね!! 大丈夫? 何か変な事されてない!?」
「い、いや。待てメイリン。何故お前がここに?」
両腕をしっかりと掴まえて聞いてくるメイリンの迫力に押され気味のレイ。
それを見ながら、ミケロがニヤリと厭らしい笑みを浮かべた。
「ああん? なんだぁ、レイ? 普段はスカしてやがんのに随分とうろたえてんじゃねえか? アレか? オメエの女(コレ)か?」
右手の小指を上げて問いかけてくるミケロに思わずレイは眦を釣り上げて返した。
「ちがう!! 彼女は俺の仲間だ!!」
「ほう~? アレか? 片想いってやつか!」
更に告げてくるミケロにいよいよレイの目が冷たくなる。
「ミケロ。お前、分かっていてやってないか?」
「さあな? 何のことだぁ?」
とぼけるミケロを忌々し気に見る。
「レイ! 誤魔化さないでよ!!」
「……近い。顔が近いぞ、メイリン! 年頃の女がそんな真似をするな!」
「レイ、元気そうなのは嬉しいけど。どうしてなの? どうして「人類の敵」なんて自分たちで言う人たちと一緒に行動してるの?」
正面にはメイリンの真剣な顔があった。
「……それは、俺の望みだからだ」
「お姉ちゃんやシンと戦うことが? それとも人間を滅ぼしたいの?」
「……違う」
「そうだよね、違うよね? だってレイは前と変わったもの。温かくなったもの。なのに、どうしてなの!? 今だってーー!!」
「メイリン、俺はーー」
「ね、帰ろう? ラクス様と一緒にミーアって人を迎えたら私たちと一緒に行こう?」
必死になって告げてくるメイリンにレイは落ち着いた表情になると、震えながら自分の両腕を掴む彼女の手を優しく取る。
「ーーレイ」
「すまない、メイリン」
彼女の目を見て、レイは告げた。
それにメイリンは目を見開いたまま愕然とする。
するとレイはまるで逃げるように彼女から目を背けた。
「ーーよお? お嬢ちゃんも乗るのかい?」
そこでミケロが空気を壊すかのように問うてきた。
その言葉にレイが表情を険しくする。
「メイリンを巻き込むのは許さない!!」
ミケロが呆れたような表情を一瞬した後、ラクスとメイリンを見据える。
どうするよ、コレ?
レイにはそんな問いかけに聞こえた。
何故か無性に腹が立つ。
するとラクスが静かに頷いた。
「レイさん。わたくしと席を代わりなさい」
凛とした気配を纏った反論を許さない一言にレイが思わずラクスを振り返る。
「え? いや、ラクス・クライン? 何を言ってるんだ、貴女は?」
「お黙りなさい。貴方に反論の余地はありません」
「ーーえ?」
そう告げた後、ラクスはメイリンに目を向けた。
メイリンは彼女と眼を合わせるとまるで図ったように同時に頷いた。
即座に席を立ち、助手席に乗り込むラクス。
レイを助手席から引きずり出し、後部席に移動させ自分もその横にちゃっかりと座るメイリン。
謎の連携だが、完璧だった。
その様子を後ろでオーブ軍が用意した追跡用の車に乗り込みながら、ディアッカが呆れた顔をする。
「あいつら、何をしてんだよ。一体」
「あら、いいじゃない? ガンダムファイターは強いんだってさっきの戦いで証明されたんだし。あのミケロって人もそんなに悪い人には見えないしね」
「……どうだかな?」
ミリアリアの言葉にイザークが渋い顔をしながらため息を吐く。
どうやら護衛兼追跡対象が増えたらしい。
いきなりエターナルの通信席から出ていったから何事かとブリッジのダコスタから連絡があったが、こういうことだったのだ。
メイリン・ホーク。
彼女はレイ・ザ・バレルと同じミネルバ隊の一員だった。
おそらく、それが関係しているのだろう。
「エルスマン君、ラクス様達はどうだい?」
「ああ。大丈夫みたいだぜ? つーか意気投合してるな」
「……さすがはラクス様」
ダコスタからの通信に目の前で繰り広げられている映像を送りつけながら、ディアッカは呆れた表情になってハンドルを握る。
「追跡に手を割けなくて申し訳ない」
「いや。大勢で追尾するには問題がある。ここは俺たちに任せてくれ」
謝罪してくるダコスタにイザークが静かに返す。
その横でディアッカがミリアリアに車を降りるように言っていた。
「ほら、危ないから! お前は降りろって!!」
「いやよ! あんたは、いっつもそうやってあたしのやることを否定するんだから!」
「俺はお前を心配してーー!」
「ああ、うるさいわね!! 行くわよ、ディアッカ!! 女の子のお尻を追いかけるのは得意でしょ!!」
「俺はお前以外の女の尻に興味はない!!!」
痴話げんかとしか言いようのないやり取りにイザークが微笑み、モニターの向こうでダコスタが苦笑いをする。
そんな彼らの空気を引き締めるように、ミケロが告げた。
「おい! 出発するぞ、ガキども!!」
その言葉にハンドルを握るディアッカの目も鋭くなり、頷いた。
「……なんかよ、イザーク」
「? なんだ?」
「俺たちの周りには気の強い女しかいないのか?」
その言葉にイザークがニッと不敵に笑って言う。
「結構なことだ! 頼もしいではないか!」
「さすが、イザーク! 分かってる!!」
後部席からミリアリアがはしゃぐ声を上げる。
ディアッカはいよいよ、味方はいないのかとため息を吐くと。
モニター越しにダコスタが。
前の車からレイが後ろを振り返って。
ディアッカに頷いてきた。
「……何だろう? 俺、急に胸が……引き裂かれそうに……!!」
彼ら三人の目頭が熱くなってきたのは余談である。
レイの立てた作戦と言ってよいかは分からないが、案は一つあった。
Dと合流するよりも実はラクスと共に行動した方がミーアと接触しやすいというのである。
その理由は一つ。
ミーア・キャンベルをラクス・クラインに仕立て上げる最も効率の良い手段が暗殺だからだ。
レイはデュランダルとのやり取りを思い出しながら、現在ミーアの側近兼監視役に相応しい人間を何人か頭の中で考慮していた。
そして、ジブラルタル基地でアスランがラクスを襲い軍を裏切ったと議長に発言した女性。
ミネルバ隊の問いかけにもデュランダルが応える前に彼女が全てシャットアウトしてしまっていた。
金色の髪の妙齢の女性。
サラという人物であった。
(…彼女もミーアと同じ。孤児院から議長に拾われた境遇の女性だったはず)
レイが静かに考えを巡らせながらも、寂しげな顔になる。
「…つまり、普通に買い物をしてたら向こうから手を出してくるってわけか?」
「ああ。ラクス・クラインがコペルニクスに居ると言う情報は既に流してある。後は餌に向こうが近寄ってくればいい。D様を陽動に使うことになるが、仕方ないだろう」
「その辺は大丈夫だろ? あの三人は俺様から見ても別格だからな。殺しても死なねえよ。……殺せる奴もいねえだろうがな」
まるで枯れた老人のような表情に一瞬ミケロはなるが、すぐに気を取り直していってきた。
「だったら、このままデパートかい?」
「ああ。無防備なところを襲撃してくるか。それともおびき出してくるか、だ」
「……随分と短絡的なんだな、そのサラってのは」
車を走らせながら言うミケロにレイも頷く。
「だからこそ、ドモン・カッシュやD様のいる前でミーアを攫ったんだろう。大量のゾンビ兵を作り出してまでな」
ミケロからミーアが攫われたときの経緯を聞いて、レイは悲し気な表情になる。
DG細胞。
ミケロやD、マスターアジアやチャップマン。
そして自分の師であるシュバルツ。
彼らのような信念のある細胞の保持者もいれば、ウルベやウォンのように他者を食い散らかす悪食もいる。
死者を己の欲の為に冒涜するものも。
「もうこんなことは、止めなければならない。ギルを説得してでもーー!」
改めてレイはそう呟いた。
そんな彼を静かにメイリンが見つめている。
一方で大気圏外に来たファム・ファタールの軍はそこに浮かんでいたオーブシャトルの残骸を見つめて首を傾げている。
残骸は比較的新しいが、仮にジブリール達が乗っていたシャトルだったとして誰が落としたのかという疑問があるのだ。
「どう見るかね、ファム」
静かに問いかけてくるフィルム・ノワールにファムは静かに残骸を見据えると言った。
「おそらく、死んではいませんわね」
「何故、そう思うんです? 言っては何ですが、この状況で生き残れる奴なんて皆無ですよ」
間髪入れずハイネ・ヴェステンフルフが問いかけてくる。
これにファムは苦笑を浮かべて言った。
「そうですわね。普通ではないから、でしょうか」
「……確かに」
ハイネも闘って分かったが、今度の敵はナチュラルだのコーディネーターだのという概念に縛られていたら絶対に勝てない。
常識がまるで通じない相手だった。
この機体もそうだが、無限に行動できるMS。
圧倒的な火力と持久力。
再生力に数。
すべてが異次元のレベルだ。
仮にシャトルを落とされていたのだとしても、それで倒せる相手かと問われたら自分にもこたえられない。
「……それでファム? 君の持つ能力ーーSEEDで感知したのかね?」
「ええ。わたくしのSEEDを使って周囲の気配を感じました。ですが死の気配はなく、一瞬ですがゴッドガンダムやシャイニングガンダムによく似た力ーー。ガンダムファイターのハイパーモードの力を感じました」
「……なるほど。DG細胞の気配は?」
「大気圏外に出てから、消えていますね。気配を完全に消している」
二人にしか分からない暗号のようなものかと話を聞きながら思うハイネ。
彼を尻目にファムは静かに月を見据えた。
「ねえ、フィルム。月には何があるのかしらね?」
その口調はラクス・クラインのものではない。
これに苦笑しながらフィルムは言った。
「さあね。ジブリールが逃げ込んだという証拠がなければ攻め込むのは困難だ」
「……連合とザフトが同盟を結んでいるのに?」
「連合の主流がどちらかということになる。月面のダイダロスとアルザッヘルが怪しいが、どちらもブルーコスモス派が主流だからね。力づくで行くのはせめて証拠があれば、だ」
どこか拗ねたような表情になりながら、ファムはラクスの顔で問いかけた。
「……では追撃はここまでなの?」
「焦ることはない。取り敢えず我々は、月面のエンデュミオン基地に行こうじゃないか。連合と同盟を結んでいる我々の艦隊は迎え入れざるを得ないだろうからね」
「そうーー。それにしても、面白いわね」
「? 何がかね?」
静かに妖艶な笑みを浮かべるとファムはひじ掛けに頬杖を突いて言った。
「彼女がいるわーー。ミーアを救うために。あの悪魔もいるみたいだけど、別行動みたいね」
「……なるほど。だからファムとしての君が強く出ているのか」
「コペルニクスーー。ミーアを利用して悪魔を殺すなら、ここしかないんじゃないかしら?」
その言葉に静かにクルーゼは笑った。
「話を聞こうーー。だが君が動くわけにはいかない、分かるね?」
「…ええ。サラを利用するわ。どうせ使い捨ての命だもの、ミーアと同じくね」
「……」
静かに一礼するフィルムにファムは妖艶にして嗜虐的な笑みを浮かべていた。
その瞳は灰色に変わっているーー。
一方、コペルニクスのイタリアンレストランで。
テーブルに着いていたDは、静かに口元を拭きながら食事を終えていた。
向かいではチャップマンとマスターも食事を終えたところだった。
「勘定を頼みたい」
Dはそう言って席を立ち、会計を済ませる。
その直後に彼は唐突にこう言った。
「運命という遺伝子を信じるがゆえに、私は神をも欺こう」
その言葉に釣りを手渡していた店主の表情が固いものになる。
「……あなたは?」
「ザフトの者だ。デュランダル派に会いたい」
その言葉に店主は静かに笑顔を向けると店の奥のドアを開けた。
「ここでは何ですから、どうぞこちらへ」
三人はいかにもと言った店主の対応にため息を一つ吐くと、薄暗い廊下を降りていった。
そこは地下にある開けた一室だった。
目つきの鋭い人間たちがこちらを見てくる。
Dは静かにそれらを見返しながら、店主に顔を向けた。
「それで? 話は誰から聞けるのだ?」
するとそれまで微笑みを浮かべていた店主の男が冷たい能面のような顔になり、低い声で言ってきた。
「お前たちこそ何者だ? 本国からはお前のような人間が来るとは聞いていないぞ」
言うと右手を上げる。
鉄パイプを持った無数の男たちがゆっくりとこちらを取り囲むようにやってきた。
「Dよ。どうやらここも外れのようだ」
「……そのようだな」
マスターの言葉に落ち着き払ってDが応える。
チャップマンが静かに懐から葉巻を取り出すとそれに火をつけた。
「一度だけ忠告してやる。命が惜しければ去れ」
静かに低い声でチャップマンが告げると、男たちは馬鹿にしたように笑った。
「……群れれば強くなったと勘違いする質の連中か」
チャップマンは醜悪なものを見たような顔になり、嫌悪感を剥き出して告げた。
その隣にマスターが立ち、静かに告げる。
「古今東西。兵法とは戦場において己の命を守るものなり。相手を知り、己を知らば百戦危うからず。己の常識に頼り、相手を知ることを怠ればどうなるか、貴様らは身をもって知るべきだな」
獰猛な笑みを浮かべて静かに腰の布を外す。
二人の男の間にいた紅い髪の青年ーーDは静かに拳を握りしめて言った。
「身の程を知れ、阿呆ども!!」
瞬間、手短に居た男がDによって天井まで殴り飛ばされていた。
それが開戦の合図だった。
鉄パイプで武装した集団は18人程度。
中には拳銃を忍ばせている者もいた。
いつものように哀れな獲物を捕らえて尋問し、気が済むまで殴って殺してしまう予定だった。
だが、瞬く間に次々と吹き飛ばされていく。
紙のように。
鉄パイプがあっさりと拳で、蹴りでへし折られる。
挙句は布で切断された。
銃弾を焦って撃っても、首をひねって躱される。
布で弾かれる。
掌でつかみ取られる。
それを認識して目を疑い、硬直したその時には目の前に拳が迫っている。
結論から言おう。
彼らは己の常識をこの時、初めて疑ったのだ。
数に勝るものはない
武器を持てば勝てる。
そんな常識は、次元の違う者たちの前にあっさりと叩きおられていた。
「……工作兵にしても練度が低い。チンピラか?」
「金で雇われた情報屋と言ったところであろう。何、焦ることはない。こやつらの伝手を探って虱潰しに探っていけば、いずれは目的の娘にもあたるであろうよ」
チャップマンが足元に転がる男たちを尻目にほとんど減っていない葉巻をゆっくりと吸う。
彼にとっては、朝食のパンにチップスを乗せるよりも容易いことだった。
「……おい」
「ひ、ひぃ! い、命だけはお助けを!!!」
店主は先ほどまでの余裕は何処へ行ったのか、必死に命乞いを始めていた。
Dは静かに店主の胸倉をつかみあげると顔を前に向かせて、写真を見せた。
ミーア・キャンベルのライブ写真だった。
「この女が何処にいるか、知っているか?」
「ラクス・クラインーー? 噂程度でしかありませんが、心労で倒れてコペルニクスにて療養中だとかーー!」
「何処にいるんだ?」
必死に店主は考える。
正直に知らないと言えば、ここで殺される可能性が高い。
しかし、嘘を吐いたところで見抜かれたらおしまいだ。
何としても生き延びたい。
そう考えた店主は、こう告げた。
「そ、それならば仲間内に調べさせましょう。もしかしたら、情報が手に入るかもしれませんから」
「そうか。では、しばらく此処で待たせてもらおう」
「ーーえ?」
目を丸くして問い返す店主にDは邪悪な笑みを浮かべて言った。
「貴様らの命、この我が預かった。意味は分かるな?」
「ひ、ひぃいいいいいいい!!!」
この日、店主はこれらの言葉を学んだ。
君子、危うきに近寄らず。
愚行、後悔先に立たず。
命の危機に晒され、且つただ飯までたかられながら、店主とその部下達は馬車馬の如く働き始めたと言う。
みなさん お待ちかね!!
ラクス達のコペルニクスでの行動に感づいたサラは、ミーアのハロを利用して彼女たちにメッセージを送り付けます。
一方、そんなラクスの情報を掴んだデュランダル派の末端兵士くずれ達。
ミーアの指定した場所にラクス達が到着したことを確認してDに告げるのです。
はたして、Dはミーアとラクスの邂逅に間に合うのか?
次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第83話に!
レディー、ゴー!!