新機動武闘伝 GガンダムSEED Destiny   作:カンナム

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 みなさん!

 ついにミーアとラクスは再会を果たしました。

 しかし、サラという女性は己の命を捨ててまでデュランダルの理想を叶えんと立ちはだかるのです。

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディイイイイイ、ゴォオオオオオ!!


第84話 計られた再会 魔王D死す

 

 ラクス・クラインの動向を確認したサラは静かにほくそ笑んだ。

 

 

 

「本当に来るなんて。流石は慈悲深いラクス・クライン。私どものラクス様の為にわざわざ死んでくれるのかしら」

 

 

 

 半壊したコンサート会場。

 

 そのステージ上では、ミーアが壊れた人形のような表情で座っている。

 

 

 

 目は虚ろで、何も映しはしない。

 

 

 

「私はラクス。私はラクス。私はラクス。私はーー」

 

 

 

 何度も何度も同じ言葉を繰り返す様は、廃人のようだ。

 

 

 

 妨害は一切しない。

 

 

 

 襲撃は彼女に釣られてラクスが上がった時だ。

 

 

 

 静かに、サラは配置に付いて虎視眈々とその時を待っていた。

 

 

 

「ミーア!!」

 

 

 

 その時、ラクスを先頭に6人の人間が姿を見せた。

 

 

 

「…あっさりと見つかったな?」

 

 

 

「だけど、ヤバそうな予感がするぜ」

 

 

 

「そりゃ、罠だもん」

 

 

 

 イザークとディアッカ、ミリアリアの身も蓋もない言葉を横に置いて、ラクスがミーアに駆け寄る。

 

 

 

「ラクス様、いかん!!」

 

 

 

 イザークの声が響く中、ステージ上にラクスが立った瞬間、四方向から機関銃の弾丸が彼女を襲った。

 

 

 

 蜂の巣になれとでも言わんばかりの銃弾の雨嵐。

 

 

 

 たっぷり1分程、その斉射は行われていた。

 

 

 

「打ち方、止め」

 

 

 

 サラが無線で合図を飛ばすと、ピタリと銃弾の雨嵐が止む。

 

 

 

 ミーアの目の前でそれだけの弾丸が叩きこまれた。

 

 

 

 だというのに、彼女はまるで見向きもせずに鼻歌を歌っている。

 

 

 

「…ミケロ、流石だな」

 

 

 

 そんな空気の中、レイの静かな声が届く。

 

 

 

「ーーっ!?」

 

 

 

 サラたちが目を見張ったその時、立ち上る煙の向こうに見えたのは両手の指で全ての弾丸を挟み止めているファイターの姿だった。

 

 

 

「何の冗談だ? この俺様が、ドモン・カッシュのモノマネなんてよ!」

 

 

 

 心底不快気に吐き捨てながらも、挟みとめた弾を払い落とす。

 

 

 

 その後ろには、ラクスが無傷の状態で立っていた。

 

 

 

「奴もガンダムファイターか!」

 

 

 

 工作員の誰かがそんな声を上げる。

 

 

 

 それを聞き留め、ミケロは静かにその男をねめつけた。

 

 

 

「笑わせんなよ? 俺様をそこいらのカスファイターと一緒にするんじゃねえええええっ!!」

 

 

 

 右足を膝を曲げて上げ、回転しながら一閃する。

 

 

 

「いくぜぇっ、銀色のぉおお脚ぃいいいいっ!!」

 

 

 

 放たれた衝撃波は数人を巻き込み、後方へ弾き飛ばす。

 

 

 

「ラクス・クラインを殺せ!」

 

 

 

 サラからの指示に従い、忠実にラクスを狙おうとするも、ミケロの圧倒的な身体能力の前に文字通り蹴散らされる。

 

 

 

「おいおいおいおい! 俺様を相手にしておいてよそ見なんぞできると思ってんのか? ああ!?」

 

 

 

 ミケロの身体能力に注意を払わざるを得ない工作兵達。

 

 

 

 だが、彼一人に注目していてこの場を乗り切れるほど、イザークやディアッカ、レイは甘くはなかった。

 

 

 

「隙だらけだぞ!」

 

 

 

「悪ぃが、もらうぜ!」

 

 

 

「ラクス・クラインをやれると思うな!」

 

 

 

 手に持った銃で次々と工作兵が撃たれていく。

 

 

 

 彼らの射撃能力は、正確無比だ。

 

 

 

 倒れ伏していく兵士達を舌打ちをしながら見据えるサラは、自分の拳銃をラクスに据える。

 

 

 

 一方のラクスは、これほどの騒ぎになっているのに未だ動こうともしないミーアを見て必死の形相で叫ぶ。

 

 

 

「ミーア! しっかりしてください!! ミーア!! わたくしが、分かりませんか!?」

 

 

 

 距離にして僅か5メートルだと言うのに、彼女に近づこうにも兵士達の数と鉛弾がそれをさせてくれない。

 

 

 

「ラクス様、無茶しないでください! レイ達がこの場をしのいでからーー!」

 

 

 

「いえ、それでは遅いのです!」

 

 

 

「え?」

 

 

 

 ミケロのおかげでレイやイザーク達の仕事がスムーズに進んでいる。

 

 

 

 このままいけば、そう遠くない内に全滅できると思っていたメイリンと違い、ラクスの焦り方は異常だった。

 

 

 

「戦闘力が問題ではないのです!!」

 

 

 

「え?」

 

 

 

 ラクスの言葉に応えるように、倒れ伏した兵士たちがゆっくりと起き上がった。

 

 

 

 銃弾をまともに受けたはずなのに、彼らは平然としている。

 

 

 

 それは人間ではありえないーー。

 

 

 

「な、何なのーー! どうして!?」

 

 

 

 メイリンが混乱するのも無理はない。

 

 

 

 拳銃の弾を急所に浴びて何事もなく動ける存在など、誰の目から見ても異常なのだから。

 

 

 

 瞬く間に人の形をした何かは人を外れた何かに変わっていく。

 

 

 

 髑髏の顔をした生きてはいない存在に。

 

 

 

 それは神が定めた摂理に逆らう歪な存在。

 

 

 

 命無くして動き出す屍ーー。

 

 

 

 DG細胞によるゾンビ兵達だった。

 

 

 

「これってーー! ロゴスのメンバーが使ってた!!」

 

 

 

 メイリンの記憶にも新しいもの。

 

 

 

 それはヘブンズベース基地で連合やザフト軍の人間を取り込んだウォンやウルベの悪魔の力。

 

 

 

 人を異形へと変える忌むべき力だ。

 

 

 

「どうして、プラントの人間がこの力を!?」

 

 

 

 思わず叫ぶメイリンにイザークが叫ぶ。

 

 

 

「メイリン・ホーク! 君はラクス様と一緒に安全圏まで下がってくれ!! こいつらは俺達で抑える!! おい、レイ・ザ・バレル!」

 

 

 

「何か?」

 

 

 

「二人の護衛は頼んだぞ! 殿は俺たちが引き受ける!!」

 

 

 

「…ですが、ミーア・キャンベルを救出できなければ。ここまで来た意味がありません」

 

 

 

「今は無理だ! それくらい、貴様ならば分かるだろ!?」

 

 

 

 渋い顔でミーアを見ながら言うレイをイザークがいさめる。

 

 

 

「だが、このまま議長に利用され続けるようでは!!」

 

 

 

「分かっている!! しかし、守る者を守り切れなければ、救うこともできん!!」

 

 

 

 レイはその言葉に目を見開いたあと、コクリと力強く頷き返した。

 

 

 

「メイリン、ラクス・クライン。一緒に来てくれ!」

 

 

 

 銃を敵に構えながら言うレイにメイリンが頷くも、ラクスはミーアを見据えたままだ。

 

 

 

「……ラクス・クライン?」

 

 

 

「レイさん。一瞬でいいのです、敵の注意をわたくしから離せませんか?」

 

 

 

「……危険です」

 

 

 

「分かっています。ですが、ここでわたくしが命をかけなければ彼女を救うことはできない。違いますか?」

 

 

 

 頑固な態度のラクスに思わず渋い顔をするレイ。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

「貴様が命をかけたところで、ミーアを救えるとは限らんぞ?」

 

 

 

「! Dさん!!」

 

 

 

 その声は唐突に会場に響き渡り、青い光が会場を覆う。

 

 

 

 ラクスの傍らには、いつの間に居たのか180を越える長身の赤髪の男が立っている。

 

 

 

 先の男ーーDが放った光。

 

 

 

 状況の変化は顕著だ。

 

 

 

 骨と化した死人の兵士達が、次々と崩れ落ちていく。

 

 

 

「…現れたか、デビルガンダム…っ! 会場を取り囲んだゾンビ兵をすべて出せ!!」

 

 

 

 サラがその光景に舌打ちしながらも指示をする。

 

 

 

 同時にそれまで呆然としていたミーアの瞳に光が戻った。

 

 

 

「…! 私?」

 

 

 

「ミーア!!」

 

 

 

「? ラクス、さま? D?」

 

 

 

 呆然と自分の目の前にいるラクスやDを見るミーア。

 

 

 

 彼女の表情が正気に戻ったことを悟り、喜ぶラクス。

 

 

 

「……小娘が」

 

 

 

 少し前までどおりの無感情なDの呼び方に思わずミーアの眦が吊り上がる。

 

 

 

 涙が溢れる。

 

 

 

「何よ、いきなり!!」

 

 

 

 近づけたはずの距離が無かったことになったような。

 

 

 

 理不尽な怒りと切なさで。

 

 

 

「……フン、無事のようだな。ミーア」

 

 

 

 だがすぐに続いた彼の声と表情は、ミーアが聞いたことがないほどに温かった。

 

 

 

 その心地良さに思わず頬を染め、胸が高鳴る。

 

 

 

「え? D?」

 

 

 

 戸惑うミーアを置いてDは前に出る。

 

 

 

「ラクス、ミーアを頼む」

 

 

 

 Dの言葉に彼女を抱きしめているラクスがコクリと頷いた。

 

 

 

 そんな少女たちの再会を割り込むような男達の叫びが聞こえる。

 

 

 

「この、身の程知らずがぁあああああ!!」

 

 

 

「ふんーー。実力差も分からん屑が!!」

 

 

 

「邪魔なんだよぉ、雑魚共がぁああっ!!」

 

 

 

 いつのまにか周囲を取り囲んだ無数のゾンビ兵達をデビルガンダム四天王の三人が生身で蹴散らしていく。

 

 

 

 ゾンビ兵と化した人々は、老若男女変わらず同じ姿へと進化し、次々と会場に押し入ってくる。

 

 

 

「一般人まで巻き込んだのか!?」

 

 

 

「何が…、何がナチュラルとの共存だ!? ギルバート・デュランダルめ!!!」

 

 

 

 ディアッカが状況を正しく認識し、イザークが怒りの咆哮を上げる。

 

 

 

 彼らにも信じたい気持ちがあったのだ。

 

 

 

 デュランダルに命を救われたのは、事実なのだから。

 

 

 

 だからこそ、ギルバート・デュランダルを信じたい気持ちがイザークにもあった。

 

 

 

 それが、完膚なきまでに否定された瞬間だ。

 

 

 

「ギルーー! 貴方は、自分の夢の為にここまでするのか」

 

 

 

 呆然とレイはゾンビ兵達を見据える。

 

 

 

 そして、それを率いる女性を。

 

 

 

「残念です、レイ・ザ・バレル殿。まさか、貴方まで議長を裏切るとは」

 

 

 

「……応えてくれ。民間人を犠牲にしてまで、ラクス・クラインを殺さなければならないのか?」

 

 

 

 サラの言葉にレイは静かに問いを重ねる。

 

 

 

 その後ろにいるかつての自分の全てだった男に向けて。

 

 

 

「何の罪もない人々を作り変えて、その先に平等の未来があるのか!?」

 

 

 

「あなたは、何を見てきたのですか? 世界は私たちを傷つけるだけ。だからこそ、議長の理想は何を犠牲にしても叶えなければならないのです」

 

 

 

「ふざけるな!! 命は道具じゃない!! 代わりなんかないんだぞ!!!」

 

 

 

 感情を思い切り出して怒るレイ。

 

 

 

 それを見たメイリンは驚いた後、静かに微笑んだ。

 

 

 

(レイ、やっぱりシュバルツさんや皆のこと)

 

 

 

 レイの頭の中には声が反芻されていた。

 

 

 

 かつて自分が目指した自分の半身とも言うべき男の言葉が。

 

 

 

ーー 人は自分の見てきたものしか知らない。それは仕方のないことだ。君の知るギルが全てではなかった、それだけのことだよ --

 

 

 

「こんなやり方で、戦争を終わらせようと言うのか!? 終わると思うのか!!?」

 

 

 

ーー 作られた者の為に平和な世界を作る。その為に『私』を生み出す。それがギルと言う人間だ --

 

 

 

「こんなことを繰り返したところで、俺や貴女のように不幸な人間が増えるだけだとは思わないのか!?」

 

 

 

 レイの言葉にサラは心から軽蔑したような表情になる。

 

 

 

「何を言ってるのですか? 私たちは理想の世界の為に闘うだけです。議長の為に。それこそが幸福な人生ではないですか」

 

 

 

ーー 君に忠告をしておこう。ギルを信じるのは、君にとって破滅しかもたらさない、とね --

 

 

 

 冷淡なサラの言葉に重なるように彼の言葉が聞こえてくる。

 

 

 

ーー 君は、私やギルとは『違う』。ギルは君を「ラウ・ル・クルーゼ」としか見ていない。だから、気付かないだろうが。あいにくと私にはわかってしまう。君は『ラウ・ル・クルーゼ』には成りえない、とね --

 

 

 

 その声を唐突に理解する。

 

 

 

 このサラという女性は正に、ギルと『同じ』なのだ。

 

 

 

 疑わず、信じる。

 

 

 

 ギルのすべてを。

 

 

 

 それを否定する『今の自分』は違うのだろう。

 

 

 

 この感じる怒りも悲しみも、かつての『自分』は感じなかった。

 

 

 

 いや、感じても感じていないふりをしていた。

 

 

 

 それを変えたのはーー。  

 

 

 

ーー お前は私の掛け替えの無い弟子なんだ。 自分の命を軽くしないでくれ。頼む --

 

 

 

 温かい声が今も胸の中に響く。

 

 

 

 二人の声が。

 

 

 

ーー 人はね、レイ。自分以外の何ものにもなれはしないんだよ。『私』はそれを理解した。そして絶望した。だが、君は違う。君の答えは『私』と同じではないはずだ --

 

 

 

 目を見開き、静かにレイはラウ・ル・クルーゼの言葉を思い返した。

 

 

 

(ラウ、貴方はだから俺を『希望』だとーー!)

 

 

 

 その時だ。

 

 

 

 最後のゾンビ兵がマスターアジアの手によって叩き伏せられた。

 

 

 

「地獄の亡者にしては温い相手よ!!」

 

 

 

 いつの間にか、サラ以外の全ての者が地面に倒れ伏している。

 

 

 

 マスターアジア、チャップマン、ミケロはゆっくりと会場に上がって来た。

 

 

 

 その間に抱き寄せたミーアの手をとり、イザーク達の側へと引き寄せるラクス。

 

 

 

「もう大丈夫です、ミーア」

 

 

 

「ラクス様、私?」

 

 

 

「貴女が無事でよかった……!」

 

 

 

 涙ながらに自分を抱きしめて来るラクスにミーアは戸惑うしかない。

 

 

 

 記憶が曖昧で、Dが目の前にいることもぼんやりとしか認識できていないのだ。

 

 

 

(私、どうしてここにいるの? どうなったの?)

 

 

 

 記憶が混乱しているミーアを置いて、Dは静かにサラを見下ろす。

 

 

 

 サラもまたステージに立っていた。

 

 

 

 その表情は追い詰められた者の顔ではない。

 

 

 

 余裕を感じられる。 

 

 

 

「まだ何かありそうだな?」

 

 

 

「マジかよ」

 

 

 

 辟易しているイザークとディアッカの会話を尻目にミリアリアが周囲を見る。

 

 

 

「周囲に反応はないけど。DG細胞ってとことんまで常識通じないみたいだから安心できないわね」

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 目の前の美女が高笑いを始めたのだ。

 

 

 

 一目で狂っているのが分かる笑い方だった。

 

 

 

「ええ、そのとおりよ。よく見ておきなさい、これが議長に捧げた私の命の証ーー!」

 

 

 

 言うとサラは注射器を懐から取り出し、自分の首に打ち込んだのだ。

 

 

 

 思わずイザークが訝し気になる。

 

 

 

「何!?」

 

 

 

 美しい外見は紫色の肌に変化し、鋭い牙と血走った眼は異形そのものだ。

 

 

 

 その様にガンダムファイター以外の皆が、あのラクスでさえも表情を歪める。 

 

 

 

 その女にレイが思わず叫んだ。

 

 

 

「貴女は人であることを自分から捨てようと言うのか!?」

 

 

 

 その時、一人の漢がレイの隣に立った。

 

 

 

「レイよ、もう何も言うな」

 

 

 

「! マスターアジア!」

 

 

 

「悲しいが、言葉が通じぬ相手もおる。力でしか、拳でしか止められらぬ者もな」 

 

 

 

 戸惑うレイの隣に一人の紳士が立つ。

 

 

 

「止めたい奴がいるのだろう? ならば貴様の覚悟を示せ。俺達と共に来ると言ったのは口先だけの覚悟ではあるまい?」 

 

 

 

 目を見開くレイの正面にトサカ頭にした赤い髪の男が立つ。

 

 

 

「一々、誰かに諭されなきゃ戦えねえのか!? そんな程度の覚悟なのか!? ああ、レイ!?」

 

 

 

 炎が宿る。

 

 

 

 その瞳に。

 

 

 

 その胸の奥に。

 

 

 

「分かった。目の前の敵をーー倒す!!」

 

 

 

「ケッ、トロトロしてんじゃねぇぜ!!」

 

 

 

 少年の決意の言葉に四天王の三人が凶悪に笑い、彼らを代表するようにミケロが言った。

 

 

 

 彼ら四人の隣へと静かに力強い足取りで歩み、赤い髪の男が立つ。

 

 

 

「貴様ら、我を置いて盛り上がるな」

 

 

 

 彼もまた邪悪に笑う。

 

 

 

 視線を敵に向けたまま、ミーアを連れたラクス達を手で下がらせるD。

 

 

 

 これを受け、イザークとディアッカが、ミリアリア含むラクス達4人の少女を連れ、会場から出ようと下がる。

 

 

 

 サラであった者は今、鋭い爪と牙を持って笑っていた。

 

 

 

「お前たちをこの場で皆殺しにすれば、私の命など最早要らない。理性も知性もーー! 食い殺してやるぞ!!」

 

 

 

 人としての最後の言葉だった。

 

 

 

 同時にサラの立っている地面がせり上がり、漆黒と紅のMS--ブレイズ・ザク・ウォリアーが現れた。

 

 

 

「MSか、面白れぇ! 発つぞ、ネロスガンダムッ!!」

 

 

 

 ミケロが真っ先に反応し、懐から銅色の球を取り出して輝かせた。

 

 

 

 同時に現れるのは、古代ローマ闘士の姿を模したガンダム。

 

 

 

「テメエ一機で俺様を相手にできると思ってんのかよ、ああ!?」

 

 

 

 マスターアジアがネロスガンダムの様子を伺いながら、Dに向かって言った。

 

 

 

「Dとレイ、貴様らは娘たちと共にゆけ。ここはワシらが居れば充分だ」

 

 

 

 これにDが頷く

 

 

 

「だろうな。では頼むぞ」

 

 

 

「うむ」

 

 

 

 Dの言葉にチャップマンが頷いた。

 

 

 

 こうしてDとレイはイザーク達と行動を共にして会場を後にする。

 

 

 

 彼らが通路の先へと消えた時、静かに異形と化したサラが笑った。

 

 

 

ーー オロカナ。私ノ狙イガ、らくす・くらいんダケダト思ッタノカ? --

 

 

 

「まだ話ができるだけの理性があったのか? ま、時間の問題だろうがな」

 

 

 

 嘲笑するミケロに対し、サラは言う。

 

 

 

ーー オ前タチハ知ラナイノネ。ナラバ、教エテ上ゲルワ、議長ハDG細胞ノ三大理論ノ中デモ最モ力ヲ注イダモノガアルノ。 ソレハネ、自己再生ヨ。変ワルコトナク、滅ビルコトナイ自己再生ノ姿コソ、ですてぃにーぷらんニ最モ必要トサレルモノダッタ。研究ノ副産物トシテ自己再生ヲ破壊スルういるすヲ手二入レタ --

 

 

 

「だから何だって? 俺様達にそんなものが効くと思うのかよ?」

 

 

 

 嘲笑うミケロにサラは口の端を耳元まで裂いて笑い返す。

 

 

 

ーー 戦闘もーどニナッテイルふぁいたーニ効クトハ思ッテイナイワ。ダケドでびるがんだむハドウカシラ? --

 

 

 

「ほう? あの悪魔を殺せるってのか?」

 

 

 

ーー 愛シタ女ノ手デ死ネルノダカラ、奴モ幸セヨネ --

 

 

 

 それだけを告げると、サラのザクの立つ足場から緑色の触手が生えだす。

 

 

 

 それらは一気にミケロのネロスガンダムを取り囲んだ。

 

 

 

 またその周囲の地面から無数のザク・ウォリアーが触手に編まれて生み出されていく。

 

 

 

「……コロニーからエネルギーを食ってやがるのか」

 

 

 

「ミケロよ。雑兵をいくら叩いたところで意味はない。将を討てぃ!!」

 

 

 

「分かってらぁ!!」

 

 

 

 ネロスガンダムの足先に気を纏わせて、ミケロが叫んだ。

 

 

 

「銀色のぉ、脚ぃいいいいっ!!」

 

 

 

 強大な爆発が起こり、戦闘が開始される。

 

 

 

 

 

 一方、イザーク達と行動を共にするDとレイも通路に現れた無数のゾンビ兵を相手にしていた。

 

 

 

 基本的にはDがゾンビ兵の扱う銃の弾丸を全て掌で受け止め、殴り倒していく。

 

 

 

 取りこぼしをレイ、イザーク、ディアッカの三人による銃撃によって葬る。

 

 

 

「さすがにあの化け物共の親玉だけあって圧倒的だな」

 

 

 

「ホント、敵に回したくねえな」

 

 

 

 いつもどおりの軽口をたたくイザークとディアッカ。

 

 

 

 打ち合わせをしたわけでもないのに素晴らしいコンビネーションで彼らは会場の外に出ようとしていた。

 

 

 

「もう少しですわね。ミーア、大丈夫ですか?」

 

 

 

「え、はい。ラクス様、Dも無事だったんですね。ドモンさんは?」

 

 

 

 どうやらデパートでの記憶を取り戻して来たミーアにラクスが頷く。

 

 

 

「大丈夫です。ドモンさんは故あって地球に行っています。ミーア、貴女が無事でよかった」 

 

 

 

「ラクス様。私、何かあったのですか?」

 

 

 

「詳しい話はわたくしの船に戻ってからで。まずはこの状況を打破しないとなりません」

 

 

 

 デパートでの記憶を取り戻したのはいいが、自分が何故こんなところにいるのかを理解できない。

 

 

 

 おまけにD以外に見知らぬ人がいっぱいいる。

 

 

 

 彼らも自分たちを助けに来てくれたのだろうか?

 

 

 

 そもそも、あの化け物になった女性は確か、Dを追いかけて出会った人のはずでは?

 

 

 

 確か、議長のーー。

 

 

 

 ミーアがそこまで思考をたどっていると、通路の先に明かりが見えてきた。 

 

 

 

 ようやく外だ。

 

 

 

 ゲートをくぐり、会場の外に出て皆が一息を吐いた。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 急激にミーアは自分の意識が遠ざかるのを感じる。

 

 

 

「あ、あれ?」

 

 

 

「! どうしました、ミーア?」

 

 

 

 自分が手を引く女性の足元がふらついている。

 

 

 

 ラクスは嫌な予感と共にミーアを抱き寄せる。

 

 

 

「ラクス様、私ーー! 何か、変なんです」

 

 

 

「えーー?」

 

 

 

 ミーアは全身に力が入らないようだった。

 

 

 

 なのに、右腕が勝手に持ち上がっている。

 

 

 

「これはーー?」

 

 

 

 ミーアの右腕は懐から小型の銃を取り出して、自分のこめかみに向かって銃口を押し当てた。

 

 

 

「ミーア!!」

 

 

 

 ラクスが必死にその腕を抑えようとするが、万力のようにまったく動かない。

 

 

 

 後催眠暗示。

 

 

 

 ラクスの頭の中にそのような言葉がちらついた。

 

 

 

 会場を出ると同時に催眠術が作用するようになっていたのだろう。

 

 

 

 様子がおかしいことに気付いた周りの人間が見たときには、ミーアはラクスの腕の中で自分のこめかみに銃を押し付けているところだった。 

 

 

 

「ラクス様、彼女は!?」

 

 

 

「力を貸してください、みなさん!! 腕を抑えて!!」

 

 

 

 イザークの言葉に絶叫で返すラクス。

 

 

 

「あーーラクス様、私ーー!」

 

 

 

 間に合わず引き金が引かれようとした時だった。

 

 

 

「くだらん真似を!」

 

 

 

 一瞬で目の前に現れた赤い髪の青年が万力のようなミーアの腕を掴み、力づくでこめかみから離したのだ。

 

 

 

 瞬間、腕は青年ーーDの胸元に銃口を定める。

 

 

 

「Dさん!!」

 

 

 

「だめ、D!!」

 

 

 

 二人の少女の声が響く中、銃声が轟く。

 

 

 

 銃弾は見事にDの掌の中で回転しながら止まっていた。

 

 

 

「……心配するだけ損だな、あの男に関しては」

 

 

 

「ま、まあ。あいつのおかげで助かったんだしよ」

 

 

 

 イザークとディアッカの言葉にミリアリアが理不尽なものを見たと表情を歪める。

 

 

 

 一方で、メイリンはシュバルツの理不尽さを知っているからか余り驚いていないようだった。

 

 

 

「……なるほどな。これが狙いだったか」

 

 

 

 その言葉に不穏なものを感じて、レイは思わず彼を見た。

 

 

 

「D様?」

 

 

 

 見ればDの胸元ーー心臓に値する位置から血が出ている。

 

 

 

「D!? なんで!?」

 

 

 

 思わずミーアが目を見開いた。

 

 

 

 Dは右手でミーアの腕を掴み、左手で銃弾を止めていた。

 

 

 

 つまり両手が完全に塞がった状態だったのだ。

 

 

 

 斜め横からの弾丸が彼の胸板を撃ち抜いていた。

 

 

 

「きさま!!」

 

 

 

 レイ、イザーク、ディアッカが狙撃してきた位置を正確に把握し、ゾンビ兵から奪い取った手持ちの機関銃で鉛玉を撃ち込んだ。

 

 

 

 うめき声を上げて一人の兵士がそこへ倒れ伏す。

 

 

 

 それを確認するとDが膝を付いた。

 

 

 

「D! しっかりしてよ!!」

 

 

 

 血が止まらない。

 

 

 

 ミーアは必死にハンカチで出血する胸元を抑えるがまったく止まる気配がない。

 

 

 

「無駄だ。我を構築する細胞を破壊する弾かーー。サトー達を殺した」

 

 

 

「D!! いやよ、こんなの!!」

 

 

 

 だがDは笑うのみだ。

 

 

 

「このデビルガンダムが、無様なーー! この程度のことで倒されようとはなーー!」

 

 

 

「Dさん!」

 

 

 

 死が近い、と言うのにDは笑っている。

 

 

 

 無様だと。

 

 

 

 そう言いながらも、どこか満足気に。

 

 

 

「ミーア」

 

 

 

「……何?」

 

 

 

「名を捨てるな」

 

 

 

 その言葉に、ミーアは目を見開く。

 

 

 

「我がーー貴様を必要としたことを、忘れるな」

 

 

 

「D--!」

 

 

 

「ミーア・キャンベルは不要な者ではない。我にとってかけがえない存在だった。命をかけるに値する程にはな」

 

 

 

「やめてよ、D。いつもみたいに、憎まれ口叩いてよ!!」

 

 

 

「貴様は言ったな? ラクスとして認められたいと。ミーアは誰にも必要とされないと。だが貴様はラクスに認められているではないか。必要とされているではないか」

 

 

 

 ミーアの制止の声も今のDには届いていないようだった。

 

 

 

「D、私が言ったこと。覚えてーー!」

 

 

 

 その事実にミーアは大粒の涙を流す。

 

 

 

 Dの目が光を失っている。

 

 

 

「D様!! こんな、こんな馬鹿な!!」

 

 

 

 レイが思わず叫ぶ。

 

 

 

 この男ならば、デュランダルを止められる。

 

 

 

 だからこそ、行動を共にしていたのに。

 

 

 

「Dさん、貴方はそれほどまでにミーアをーー!」

 

 

 

 ラクスの言葉にDは笑う。

 

 

 

 口の端を歪める。

 

 

 

「ラクスよ。ドモンにすまないと言っておいてくれ」

 

 

 

「Dさん!!!」

 

 

 

 その言葉を最後に赤い髪の青年は瞳を閉じた。

 

 

 

 同時に彼の血があふれ出る心臓から血のように赤い光が溢れ出しーー彼を構築する体は全て消えた。

 

 

 

「ーーD?」

 

 

 

 まるで夢のように、Dという青年はその肉体を完全に消滅させた。

 

 

 

 ミーアの足元には深紅の球が一つ転がっている。

 

 

 

「いやーー! こんなの、いやぁああああああああああああああああっ!!!!」

 

 

 

 戦いが繰り広げられるコンサート会場の外で、彼女の慟哭が木霊した。

 

 

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね~!

 細胞破壊ウイルスにて構成された弾丸。

 これにより命を落としたD。

 しかし、ミーアとラクスを狙う追撃のては未だに留まるところを知りません。

 彼女たちのピンチにミーアが拾った深紅の球が輝きだしたではありませんか?

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第85話に!

 レディー、ゴー!!

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