新機動武闘伝 GガンダムSEED Destiny 作:カンナム
漆黒の宇宙の片隅で、男は月に腰掛け、長い脚を組んでいた。
頭上からスポットライトが細く降り注いでいる。過酷な無重力空間はその働きを忘れたように、男を静かに佇ませていた。
年齢不詳の男だ。黒く刈り込んだ丸い頭、丁寧に蓄えた口髭、くるりとした碧眼に愛敬があるが、右目は眼帯で覆われている。体格の良さから、派手な赤いスーツでも不思議とこの男によく似合っていた。
彼は物憂げに目を伏せながら、低く、よく通る声で語った。
「前回のお話でキラ・ヤマトとアスラン・ザラの二人が、圧倒的な力を誇るDG細胞の塊のMS二機に追い詰められ、それをシン・アスカが救い出すことに成功しました。
しかし、戦いはまだ終わったわけではありません。
シンのデスティニーガンダムを狙って二機のMS。デスクイーンとキングJr.が襲い掛かってくるのです。
はたして、少年たちはデスティニープランを打ち破り、希望の未来を掴み取ることができるのでしょうか!?」
突如、男が立ち上がった。赤いジャケットを脱ぎ捨て、右手にはどこからともなくマイクが、左手には右目を覆っていた眼帯が握りしめられ、その両腕が広げかかげられる。
男は満面の笑みで『あなた』に言った。
「それでは! ガンダムファイト! レディィイイッ……ゴー!」
黄金の気を纏い、大剣を正眼に構えるデスティニーガンダム。
これを悠然とデスクイーンとキングJr.が見つめる。
「…シン、気をつけろ! 早めにケリをつけないと、奴らは際限無く強くなる!!」
「つっても、んな簡単にケリがつけられるような相手じゃないでしょ。とりあえず、アスランは話してる暇があるなら気を回復させてくださいよ!」
「…お前な」
せっかくの助言を聞き流すなよ、と言いたいアスランだが、隣からキラに制される。
「…アスラン。今はシンの言う通り、気を回復させるのが先決だ」
「分かってる。シン、頼んだぞ!」
瞑想と呼吸を始め、気を回復させるキラとアスラン。
これを見てファムは呆れた表情になる。
「本気なの? 戦いの最中に回復だなんて。私達も甘く見られたものね」
言うと気を爆発させて加速、一気にキラ達に向かって距離を潰し、拳を振りかぶって襲いかかる。
だが、キラ達の前に金色の気を纏ったガンダムが立ちふさがった。
闇に金色の光が衝撃の輪となり、波紋のように響くと同時にデスクイーンの右拳は黄金の気を纏った左手に掴み止められた。
「甘く見てるのは、お前だろ」
真紅の瞳にSEEDを発動させて、シンはファム・ファタールを睨みつける。
「…ふうん? キラ・ヤマトやアスラン・ザラ以外はゴミだと思っていたけど。そうじゃないって訳だ」
言うと紫の光を纏い、デスクイーンが左の拳を繰り出す。デスティニーはこれを右手で弾き、カウンターの右拳を放つ。
咄嗟に左に見切り、避けるデスクイーンの脇にデスティニーの膝蹴りが迫る。
凄まじい衝撃と共に、肘打ちで膝蹴りを受けられ、シンは舌打ちしながら高速移動する。
コレにファムもデスクイーンを光の翼を広げ、機体を加速させる。
「ーーヴォワチュールルミエール。理論を理解してるようには見えないのに、よく使いこなせるわね」
「こんな程度の能力。人機一体となった俺とデスティニーなら造作もないね!」
互いに高速移動しながら、螺旋を描いて打撃の応酬を繰り広げる。
デスティニーはファムと右の拳をぶつけ合い、続けさまに来る左の拳を紙一重で掻い潜ると、左の拳を顎にむかって放つ。
首を左にひねって避けられ、一瞬両者が至近距離で睨み合う。
そのまま、互いに更に打撃を繰り出し合い、拳を蹴りを互いにぶつけ合って相殺、すれ違う。
「ーーここだ! 食らえ!!」
振り返りさま、デスティニーの右手が青白く光る。
「そう言えば、私の機体ーーデスクイーンの原型だったわね? 運命のガンダムさん?」
余裕の笑みを浮かべてデスティニーガンダムに語るファム。
彼女のデスクイーンの右手も光り始める。
中央で組みあい、共に一撃を放つ。
「ーーパルマフィオキーナ? そんな兵装くらい私にもあるわよ。こんなのが貴方の切り札?」
嘲笑い挑発するファムに対し、デスティニーガンダムが瞳を輝かせる。
「そういう台詞はな、勝負で勝ってから言えよ! 俺のこの手が光って唸る! お前を倒せと輝き叫ぶ!!!」
「ーーなに? 出力が?」
掌から放たれるビーム兵装のはずが、青白く輝くのは右手の全てーー指先から手の甲に至るまで輝いている。
「必ぃっ殺!! シャァアイニングゥ! フィンガァアアアッ!!!」
「ーーな!?」
シンの裂帛の気合いの後、青白く輝く手はファムのデスクイーンの右腕を一方的に蹂躙した。
咄嗟に組まれた右腕を捨て、後方に逃げたデスクイーンに向かって青白く光る掌は突き出された。
そのたま、全てを飲み込む光線を放つ。
「ーー調子に乗って!」
左手に光を纏わせ、背部の赤い羽根からドラグーンを分離させてファムも放つ。
「ファム。手を貸そう」
更にデュランダルのキングJr.もファムのデスクイーンの右側に立ち、右の掌から光線を放つ。
二対一の光線の撃ち合い。
「ーーそんな、もんでぇええっ!!」
デスティニーガンダムの目が更に輝き、シンの気合いが爆発した。
一際、強烈な光線を放って一気にキングとクイーンを飲み込み爆発したのだ。
それを険しい表情で見据えるキラとアスラン。
「ーーシン、流石だ。だけど」
「ああ、普通なら終わってるんだ。普通ならーー!」
彼らの言葉通り、爆発の中心から紫の光を放って二機の異形が姿を表す。
デスティニーのシャイニングフィンガーのエネルギーを吸収し、無傷で現れた。
「ーーフフ。ホントに強いじゃない? シン・アスカ」
「これほどの力とは。凄まじいものだな、シン君」
エネルギーを吸収し、圧倒的な力を纏うファムとデュランダル。
「ーー強い上に不死身。かつ、こっちの技を吸収するなんてよ。どうすりゃいいんだ。実際」
思わずボヤくシンにファムが笑いかける。
「素直に弱音を吐くなんて、可愛いじゃない?」
「ーー弱音じゃねえよ。愚痴だ」
「意地っ張りは嫌いじゃないわよ? 情けなく命乞いするのを見たくなるから」
「冗談だろ? お前らなんかに、負けてたまるかよ!!」
ファムの挑発に乗るようにシンは、デスティニーガンダムを突っ込ませる。
これに議長とファムが同時に動いた。
ぶつかり合う三機。シンの右拳をデュランダルが右掌でつかみ取る。
黄金の闘気をまとうデスティニーガンダム。
宵闇の闘気をまとうキングJr.
同時に左の拳を出し合い、蹴りの応酬に切り替わる。秒間数十発の打撃が交換される。
次の瞬間、両者の左フックが互いの顎を捉え、両者のけぞる。
のけぞったデスティニーガンダムに対し、ファムのドラグーンが狙い撃つ。
(やべえ!)
ヴォワチュールルミエールを使い、光の翼をひろげて残像を残す。ビーム砲が獲物を追う蛇のごとく空間を網の目に割いていく。
避け切った先に、拳を振りかぶっているデュランダルが待っていた。
「しまっ――!」
強烈な右ストレートに、後方に弾き飛ばされるデスティニー。
宙で態勢を整えようとした時、クイーンが回り込んできている。顎を蹴り上げられる。
上空に飛ばされたデスティニーの先で、デュランダルが両手を前方に突き出したまま待ち構えている。
シンが振り返ったとき、宵闇の光が、突き出された両手から発射される。
「くうっ!」
避けられないと悟ったシンは、黄金の闘気をまとったまま両手でその光を受ける。
「くああっ!」
押し合う両者。
「素晴らしい反応速度だ、シン君。SEED、明鏡止水、そして人機一体の境地。すべてが素晴らしい練度で仕上がっている。
遺伝子で確認したが君の両親は普通のコーディネーターだったというのに、戦闘コーディネーターとして創られたパトリック・ザラの子や、スーパーコーディネイターのキラ・ヤマトにも匹敵している。これが人の可能性というものかな?」
淡々と告げてくるデュランダルにシンの眦が吊り上がる。
手元に迫る冷たくて暗い気を両手で押し返す。
「ふざけるな! そんな能力だけで、人間の価値は決まりやしない!」
「フッ、では何で決めるのかね?」
問いかけるデュランダルの目を真っ直ぐに見つめ、シンは言う。
「そもそも。人間の価値を決めつけようってこと自体が間違いなんだよ! 人間はな! 他人がその価値を決めようってこと自体が傲慢なんだ! それを分かれよ!!」
「フッ……ハッハッハッ! 純粋だね、シン君。だが、ひとは価値をつけたがるものだよ。そうやってひとは誰かを見下し、なにかを求め、争い、滅ぼしあう。度し難き愚か者だ」
「あんたもその愚か者ってことか!」
「私は一般的なことを言っているに過ぎない」
「違う! それはあんたの価値観だ! 俺もキラさんも、アスランも! 誰一人、ひとを自分の価値観で決めつけたりなんかしない!」
「そういう理想論が人を滅ぼすのだ!」
「目を閉じてるやつが偉そうにぃいいい! ガンダァアアアアアムッ!!」
気合とともにシンのデスティニーが黄金の気を纏い、押し返す両手から青白い光が放たれた。
デュランダルが放った闇の光線を一気に押し返す。
中央まで押し返され、押し合いになる闇の気と運命の光。
そのシンの右側面に距離を置いてファム・ファタールが現れた。
「一騎打ちなら、良い勝負になってたわよ? シン・アスカ」
デスクイーンが右手を前方にかざし開いた掌が青白く輝き、シンの右わき腹に向かって放たれる。
「ーーち!!」
見えてはいるが、両手をふさがれて動きを止められているシンは歯を食いしばるしかない。
左に弾き飛ばされるシン。
デュランダルのキングJr.が超スピードで移動し、ファムのデスクイーンの隣に並び立つ。
同時にデスティニーにかざされる二人の手。
「賢さかしい子どもの理論など、この圧倒的力のまえには無意味! さらばだ、シン君!」
「わたくしたちの理想の糧となりなさい」
シンがバーニアを吹かしてガンダムを宙で止める。
そう。
動きが一瞬止まる。
そこに同時に放たれる青白い光と宵闇の気が、デスティニーを襲う。
(受けきれないっ!?)
目を見開くシン。
このタイミングに気を回復させていたキラとアスランも思わず叫ぶ。
「シン!」
「まずいぞキラ!」
その時だった。
力強い二人の声が宙域に響いた。
「しゃぁああああく熱!! サァアアアンシャイィン! フィンガァアアアアアア!!」
「シンをやらせるかよ! クーロン、フィンガァアアアアアア!!」
灼熱の熱線と、真紅の光線が光と闇をそれぞれ打ち砕く。
デスティニーの前に、ヤマトガンダムとクーロンガンダムが黄金の気を纏ってそれぞれの気の色を放つ右手を前方に突き出しながら並び立っている。
それを呆然と見据えると、シンは思わず名を呼んだ。
「アウル……スティング……お前ら!」
クーロンガンダムが後ろを振り返り、モニターのスティングがシンに笑いかけた。
「独りで無茶すんじゃねえよ! 俺たちは仲間なんだからよ!」
「お前一人じゃ話にならないだろ! シン! 僕たちも手を貸すぜ!」
隣のヤマトガンダムのアウルからも不敵な笑みと共に通信が来た。
「俺たちだけじゃねえけどな」
肩をすくめるスティングが見据える先には、青白いバーニアの火を吹かして二振りの大剣、エクスカリバーを軽々と扱うインパルス。右手から桃色の光を放つシャッフルハートがいた。
それぞれ左右から、先ほどスティングとアウルに気を押し返されたキングとクイーンに襲い掛かっている。
「ハァートフル、フィンガアアアッ!!」
「こんのぉおおお!!」
紙一重でシャッフルハートの桃色に輝く右手と二振りの対艦刀から逃れるクイーンとキング。
距離を置いてこちらに構える二機を見て、二機のガンダムのパイロット。
ルナマリアとステラが叫んだ。
「今よ、ミネルバ!!」
「艦長たち! お願い!!」
その言葉と同時に、アークエンジェルとミネルバの主砲が二機のモビルスーツを襲った。
「ローエングリン、照準ーーッ!」
「タンホイザー、起動ーーッ!」
主砲がそれぞれ、砲身に陽電子を溜めていく。
「撃てェーー!」
「薙ぎ払え!」
美しい二人の女性艦長の声が響き、放たれる二本の極太の赤と青の色が混じったビーム砲。
二機のMS--キングとクイーンは避ける間もなく、まともに喰らう。
これにルナマリアとステラが思わずガッツポーズを取りながら様子を窺っている。
「直撃!!」
「やったの!?」
爆発する光の中。
強烈な力の渦から、二機のモビルスーツがゆっくりと姿を現す。
核エネルギー、陽電子砲クラスのエネルギーをまともに喰らった。
だがーーそれすらも吸収してしまう異次元の存在が二機。
「マジかよっ、出力が数倍に上がってやがる……!」
「な、なんなんだよ! この化け物は!!」
感じられるエネルギーと機体データに驚愕するスティングとアウルに対して、シンが肩で息をしながら告げる。
「そういや説明すんの忘れてたけどさ。そいつら、生半可な攻撃を吸収するんだ。おまけにDG細胞の自己進化で無限にパワーが上がるって寸法だ……!」
シンの言葉に少年少女たちの目がこれ以上ないほど見開かれる。
「はあ!?」
「なんだそりゃ!?」
アウルとスティングがシンを振り返りながら叫ぶと。
ルナマリアとステラも丁度シンやキラ達のいる位置に来る。
「どぉーーすんのよシン! そんな化け物!」
「このままじゃ……勝てないよ」
合流した四人の少年たちとキラやアスランを見渡してシンは告げる。
「良い質問だな、みんな。俺も教えてほしいくらいだぜ。――どうすりゃいいんだ、こんな化け物!」
苦虫を噛んだような表情になるシン。
これを遠目に見ながら、余裕の笑みでファム・ファタールは告げる。
「諦めたの? 自分たちの置かれている状況をようやく理解し始めたってことかしら?」
「楽になりたまえ。君たちはよく戦ったよ。我々の支配を受けるならば、ともに人類の未来を切り開こうではないか。少年たちよ」
銀色の肌と長髪。
銅像のような顏と姿を持った紅く輝く瞳。
これをモニターで確認したマリューが思わず口を手で塞ぎながら、タリアを振り返る。
「グラディス艦長! 彼は――!」
「なんて姿なの!? ギルバート……!」
タリアも思わず目を見開いていた。
彼女を振り返りながら、デュランダルは悠然と告げる。
「やあ、タリア。よく来てくれたね。これから新たな人類の歴史が始まるのだ」
「そんな姿になってまで! どうしてっ……どうしてなのギルバート!」
言葉にならない。
悔しさと寂しさ、やるせなさがタリアの心を苛んでいた。
対峙するデュランダルは淡々と悟ったように告げる。
「それを君が問うのかい? タリア。私はね。君のおかげで世界の真理を見られた。どれほど恋い焦がれていても、どれほど互いに愛していても。神は決して全ての人に平等ではないのだとね。
ならば私は平等の世界を与えよう。すべての人間が争いをやめ、他者を羨むことなく。互いを尊重し合える存在となるために!
それが私のデスティニープランだ!!」
力強く言い切るデュランダル。
絶句するタリアの乗るミネルバを庇う様に、一機の円盤を背負った灰色のガンダムがキングの前に現れた。
レジェンドガンダムーーそのコクピットから、金髪の少年ーーレイ・ザ・バレルがデュランダルに語り掛ける。
「ギル。そのプランで、いったいどれだけの人間が、罪のない人が、犠牲になったと思ってるの」
その問いかけに、完全に彼の心が自分から離れたことを悟ったデュランダルは熱のない微笑みを金属の肌の上に浮かべる。
「レイ……残念だよ。君ならば私を、理解してくれていると思ったんだがね」
寂しそうな声にレイも思わず悲し気になりながら、それでも目を逸らさずに告げる。
「信じたかった……。でも、俺はもう逃げるのはやめた。ラウが、俺のために道を開いてくれたから!」
その言葉にこれまで泰然として揺るぎなかったデュランダルの表情が変わる。
「ラウ? ……まさか! 死んだのか!? 何故!?」
「俺に未来を託してくれた」
レイの目が力強く輝く。
その目にデュランダルはラウ・ル・クルーゼの幻を見た。
「何故だ! ラウ!? 何故私と共に来てくれないっ!?」
取り乱して問いかけるデュランダルに静かに隣に居るファムが声をかける。
「簡単なことよ、デュランダル」
「ファム……」
縋るようなデュランダルの表情にファムは妖艶な笑みを浮かべている。
「あれはフィルム・ノワールではなく、ラウ・ル・クルーゼだった。あなたがそれを望んだのでしょう? 人は自分を裏切るのだって、とっくの昔に分かってたじゃない」
淡々と笑みを浮かべて告げるファムにレイが割り込んだ。
「違う! ラウは、ラウはギルを裏切ったんじゃない! ギル! ラウは気付いたんだ! この世界の希望に!」
このレイの魂の叫びにアスランが目を見開いた。
「クルーゼ隊長……! あなたは!!」
「ラウ・ル・クルーゼ、今の貴方になら……会いたかった」
独りごとのように呟くキラをアスランが見据える。
「キラ……」
これらの少年たちの言葉にファム・ファタールが哄笑を始める。
「滑稽だわ、滑稽すぎる! これが最期の自我を持つ人のドラマなの?
裏切っただの、裏切られただの、希望だとか、絶望だとか。
どうだっていいじゃない。あなたたちは管理される未来を授かるのか、嫌だから死ぬのか。そういう選択の話でしょ。
そうよね? デュランダル」
ゆっくりと彼女はデュランダルを振り返る。
期待通りに彼の表情は死んでいた。
「……ああ。そうだな。終わらせよう。これ以上、悲しい未来はいらない。この寂しさは、この切なさは。必要ないものだ。これからの世界には」
その言葉にキラとアスランが叫ぶ。
「デュランダル議長! あなたというひとは!」
「何故だ!? 何故わからない!? クルーゼ隊長が、何故レイに命を譲ったのか、本当にわからないのか!?」
二人の言葉にも何の表情を動かすことなく、デュランダルは告げた。
「無駄話は終わりだよ、諸君。ファム」
「ええ。最大最強の一撃で終わらせてあげるわ」
そういうと二人は互いに右手を相手に差し出す。
二機の間に強烈な青白い光と宵闇の気が生じ、一つになって凄まじい力を発する球へと変化した。
問答無用で触れたものを消し飛ばす、エネルギーの塊だ。
「どぉーするの、シン!?」
ルナマリアからの声にシンがデスティニーガンダムを構えさせながら返す。
「どうするったって! やるしかないだろう!」
シンの返答にステラ、アウル、スティングが待ったをかける。
「でも! 半端な攻撃は、吸収されちゃうよ!」
「下手な攻撃が相手を強くさせるだけなら、いつまでやっても勝てねえぜ!?」
「俺たちは……ここまでなのかよ!」
スティングの無念そうな声を聴き、シンが藁にも縋るような顔でキラとアスランを見据える。
「キラさん……、アスラン」
その表情と声にキラが思わず歯を食いしばり、アスランが心の中でごちる。
(くっ、このままじゃ! 打つ手がないのか!? 俺たちには、もう!?)
誰もが絶望に浸りそうになる時、金色の髪を持つ少年が告げた。
「打つ手はあります!」
「レイ!」
力強い言葉に皆が彼を見据える。
「俺たちの技を極限まで高めて、一つにすればーー!」
「けどよ! それで倒せなかったら、僕たちは!」
レイの提案にアウルが不安を口にしたその時ーー。
「馬鹿者がぁああ!」
強烈な声が耳朶を打った。
同時に皆が振り返ると白い馬を模したモビルホースに跨るマスターガンダムが。
ステラ達が今、一番会いたかった師の機体がそこにあった。
「闘う前から! そのような弱気を吐いてどうするぅぅっ!」
「「「師匠!!!」」」
そのマスターガンダムから少し離れたところには、レイとレセップス級に乗ってここまでやって来た相棒古代ローマの闘士のような姿をした赤銅色の鬣を持つネロスガンダムがいる。
パンクルックの彼は派手な赤い髪にトサカを立てて、唇を吊り上げてた。
「いいこと言うようになったじゃねえか、レイ。ぁあ!? メイリンの嬢ちゃん、今のコイツの姿を見てどうよ! 惚れ直したか!?」
その言葉に彼のガンダムの後ろに浮かぶレセップス級の戦艦から通信が入る。
「最初から惚れてますからーー」
「言うねぇ!!」
嬉しそうに笑い合う二人にレイが叫ぶ。
「ミケロ! メイリン!!」
キラとアスランが気配を感じ、二人して自分たちの背後を見ると其処にはイギリス紳士の姿を模したであろうハットとコートを着たようなガンダム。
ジョンブルガンダムがロングライフルをステッキのように持って立っている。
「お前たちの戦いは見事だった。だが、どうせなら勝ってみろ。強き魂を持つ、本物の戦士たちよ」
静かにそれでいて燃えるような言葉にキラが力をもらったように彼の名を呼ぶ。
「ジェントル・チャップマン……!」
そして、シンが満面の笑みで正面に立つ忍者の姿を模したガンダムを見据えた。
「シンよ! お前たちは、お前たちの未来は、ここからだ! その魂を、限界まで燃やせ!」
「シュバルツさん!!」
その隣にはトリコロールのゴッドガンダムによく似た機体ーー光を司るガンダムが立っている。
「なんとかギリギリ間に合ったみたいだな……。ったく! キラ! アスラン! 後ろからしゃしゃり出てきといてなんだけど、思いっきりぶちかましてこい! 後のことは任せろ!」
シュバルツと同じ顔、声をした青年キョウジ・カッシュからの激励。
「キョウジさん!」
「キョウジ!」
キラとアスランが立ち上がりながら告げる。
これが最後の戦いだと改めて思い知る。
同時に尽きたはずの気が、力が己の底から湧き上がってくるようだった。
「さあどうした!? お前たちの魂の炎、極限まで高めて見せろ!」
そしてキョウジの隣で覆面を取り外した男。
シュバルツ・ブルーダーの叫びが響く。
「「「「いよぉおおおおおおおおっっっし!! やってやらぁあああああ!!」」」」
これに少年たちが答える。
「あたし達の魂の炎!」
ルナマリアがインパルスガンダムの右手を前に突き出し、黄金の気を纏う。
「極限まで高めりゃあ!!」
スティングがクーロンガンダムの右手を前方に突き出し、黄金の気を纏う。
「倒せねえものなんかぁあ!」
アウルがヤマトガンダムの右手を前方に突き出し、黄金の気を纏う。
「なにもないよ!」
ステラがシャッフルハートの右手を前に突き出し、黄金の気を纏う。
「議長! よく見ろ!!」
アスランがジャスティスガンダムの右手を突き出し、黄金の気を纏う。
「これが僕たちの――」
キラがフリーダムガンダムの右手を前方に突き出し、黄金の気を纏う。
「俺たちの最後の一撃だ!!」
シンがデスティニーガンダムの右手を前方に突き出し、黄金の気を纏った。
全員そろって目を見開き、少年・少女たちが祝詞を上げる。
「俺達のこの手が!」
「真っ赤に燃えるぅうう!!」
スティングが、アウルが。
「勝利をーー!未来を掴めと轟き叫ぶ!!」
「いくぞおお!」
ルナマリアが、ステラが。
「俺たちの自由と!」
「僕たちの運命と!」
「俺たちの正義を貫くために!」
アスランが、キラが、シンが同時に叫ぶ。
全てのガンダムは一つになったように両手を右腰においてたわめ、そのまま突き出した。
「石破! 究極ぅう! 天驚拳ぇえええええええん!!」
全ての光が、力が一つになり。
七色を放つ白金色の光の球となって放たれる。
「「「「「いぃいいいけぇえええええええええ!!!!!!」」」」」
ぶつかり合う極限の力と力。
しかし、拮抗は一瞬だった。
シン達の放った光がデュランダルとファムが放った力の塊を一方的に打ち砕き、迫る。
一気に光に飲み込まれていくデュランダルたち。
「これは、この温かな光は……。そうか。これがひとの未来か……。間違っていたのは――」
光の中に消えて行くデュランダルは穏やかな表情で己の滅びを悟り、そして笑った。
「っフフ! ハハ! ハハハハハッ! すごいじゃない? ……そう。ファム・ファタールで斃たおせないのね。でも、あなたたちの未来は、すでに決まっているのよ。私を消せば――」
光の中に消えて行くファム・ファタールは楽し気に愉快気に嗤いながら消えて行く。
圧倒的な白金色の光の球が恒星のように輝き、不吉な二つの機体を完膚なきまでに消し去っていった。
この光景を満足気に両腕を組んで馬上のマスターは頷く。
「フン、あやつら。やりおったわ!」
「ああ。大した少年たちだ」
チャップマンが穏やかな笑みを浮かべて相槌を打った。
「ケッ、たりめえじゃねえか! あいつらはガキでもガンダムファイターなんだからよ」
ミケロが自分のことのように嬉し気に笑いながら告げる。
シュバルツもまた満足そうに誇りに思うかのように温かな笑みを浮かべている。
「うむ、よく戦った! みんな!!」
「俺たちなんにもやってねえけどな……」
呆れたような表情で告げるキョウジにシュバルツは温かな笑みを彼らに向けたまま、告げる。
「最初に決めたとおりだ、キョウジ。この世界の事は」
「この世界の人間が解決する、か。まあ、その話は追々やるとして。この戦争にピリオドを打った、あいつらの回収と行こうか」
半身の言葉を聞いて頷きながら、キョウジはマリュー達に搬送の準備をするよう通信を入れた。
強烈な光を放った少年たちは、糸の切れた人形のように宇宙空間を漂うガンダムと同じく指一本まともに動かせる状態ではなかった。
「はあっ……はあっ……! やったのか……?」
シートの背もたれに体を預けながら言うシン。
隣ではレジェンドガンダムのコクピット内でシンと同じように背もたれに力尽きたレイ。
モビルトレースシステムのコクピット内で大の字になっているスティング、アウルがいる。
「だめだぁっ! 俺、もう動けねえ……!」
「あぁ~~! ホントに、もうホントに無理だぁ…」
「ああ、まともに動ける気がしない……」
そんなスティングとアウル、レイの三人をキラが微笑ましげに見て言う。
「スティングたちだけじゃないよ……。ぼくも、無理だ……」
「せっかく回復したのに、全部使い果たしてしまったな……!」
アスランも彼の隣で頷く。
「ステラ……。大丈夫……?」
「うん……。ルナも……?」
ステラの隣に来たルナ達も互いに微笑みながら、無事を確認し合う。
勝利した。
際どいが、全てが終わった。
それをシンは目を開け、デスティニーガンダムのモニターから確認して、叫んだ。
「まあ、……とりあえず! 俺たちの勝ちだぁああああああ!」
ーー おおおおおおおおおおおっ!!!!! ーー
シンの言葉に、全員が己のガンダムの右拳を天に向かって突き上げた。
みなさん、お待ちかね~!
ついにデスティニープランを打ち砕いたシン達。
しかし、ファムの末期のセリフ通りDG細胞が再び一つのガンダムを作り出したのです!
その名は、ガンダムゴッドマスター!!
神の左手と悪魔の右手を持つ究極の存在に挑むのは、我らがシュバルツ・ブルーダー率いるガンダムファイター達!!
はたして勝利の女神が微笑むのは、DG細胞か? それとも人類か!?
次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny第98話に!
レディー、ゴー!!