目の前の男の事が、吸血鬼にはわからなかった。
「貴様、なぜ生きて……」
一片の欠片も残さず焼き尽くした……そのはずだった。
ゆらりと幽鬼のように白墨が振り向く。その体に傷らしい傷はなく、灰色の髪から覗く瞳が吸血鬼達を値踏みする様に冷たく光る。
「――問題ない。」
まるで相手にならないと言い放つように目を細める。
それが開戦の合図となった。
――舐めやがって。
湧き上がる激情を炎に変えて槍を生み出す。一瞬で周囲は眩しく照らされ、空気は焦げる様に熱されていく。この大戦の中で、もう何度も振るってきたその槍を、一切の手加減なく投げ飛ばす。
「――ッ!!」
避けられるはずはなく、避ける素振りすらも見せず、白墨の右頭部に突き刺さる。突き刺さってなお止まらず、身体は引っ張られるように後方へと倒れていき――そして
仰け反り、そのまま倒れ行くだろうと思われた白墨の身体が、非生物的な動きと共に、酷く緩慢な動作で持ち上げられる。
「……っ!!」
ぐるりと向き直った頭部には、飛び散る脳髄はおろか突き刺さった槍もなく、血の一滴も流していない。
幻覚か、それともただの見間違いか。いや、あの槍は当たっていた。確かにその瞬間を瞳に捕らえた。
それがなぜ。
「再生した……?いや、ありえん。こんな瞬きする間に完治するなどっ……!?」
ゆらゆらと緩慢とした動きから一変、力強い蹴りと共に地面を抉り、低姿勢を維持したロケットスタート。
理解も納得も済まぬうちに、ただ愚直に白墨が向かってくる。
遅れて反応したもう一人の弾幕を
「貴様……っ!」
つい数時間前に相対した時とは比べ物にならないほどの脚力で大地を蹴り上げ直進する。
全力をもってすれば、まだ吸血鬼達の方がいくらか速い。だが、咄嗟の反応であることが、吸血鬼達の速度を凌駕する。
――速い!
眼前まで迫る白墨を前に、思わず受けの体勢へと身構える。それは傲慢たる吸血鬼にとって屈辱の選択。
直前の思考、弱者たる白墨を相手に防御の構えを取らされたのは、決して白墨を脅威に思ったからではない。それまでの不気味な気迫と、処理しきれぬ情報を飲み込むための時間稼ぎだった。
つまりは不意を突かれたが故の咄嗟の行動。いくら先ほどと比べて足が速くなったとしても、本来、白墨には吸血鬼に致命打を与えるだけの身体能力はない。ゆえに吸血鬼が取るべき行動は、過剰な防御ではなく、不意の接近を引き剥がすための抵抗だった。
しかし、その理性のもと行われた判断を覆すだけの不気味さが、気迫が――今の白墨にはあった。
咄嗟に防御するため構えた腕を、白墨は流れる様に片手で掴む、その動きに迷いはない。
「場所を移すぞ。」
「……ッ!?」
ミシミシと掴まれた腕から異音が漏れ、やがて吸血鬼の身体が持ち上がる、
身に余る怪力で吸血鬼を掴んだ白墨は、そのまま腰を捻ってゆっくりと回転をかけ……そして
「ぐッ……!」
視界が回る。先ほど半獣の女にしたように、今度は自分の視界の景色が伸びていく。投げ飛ばされる直前、掴まれた腕とは反対の手で咄嗟に白墨の腕を斬り落としたものの、一歩遅かった。
「クソッ……!あの男……!
恨みを零し、吸血鬼は空へと消える。
その行方には目もくれず、白墨は残った吸血鬼へと向き直る。
切断された白墨の腕は地面に落ちるより先に、風吹く灰に包まれて元通り。
一連の動作を見ていた吸血鬼達が瞬間的な超速再生に息を飲む。
先程とはまるで別人。ただ這いずる様に逃げ回るだけだった男に起こった異常な変化。
その変化は、衰弱していた肉体を、元の状態へと戻すだけでは留まらない。
――肌を突き刺す真冬の冷気。
白墨の背後、その背中に付けられた季節の扉。
それは隠岐奈が白墨を呼び戻すために寄越した破格の援護。
死に向けられる感情、もしくはそれそのものを糧とする白墨にとって、生命の終わり――死を意味する冬の扉は過剰な動力源として、これ以上ないシナジーをもたらしていた。
その力は消えかかっていた白墨を呼び戻すだけでは飽き足らず、溢れんばかりの妖力をもって機能する。
たとえ一度は殺した相手といえど、吸血鬼達の目にも警戒の色が浮かんだ。
脅威としての、初めて白墨に向けられる本当の敵意。
その威圧をぬるりと受け流し、白墨は今しがた投げ飛ばした吸血鬼の方へと目をやった。
「
白墨はそれだけ言い残し、投げ飛ばした吸血鬼の方角へと一目散に走り出す。
既に仲間は三人消され、まとめ役の吸血鬼は投げ飛ばされ、指揮系統は失った。任務は当初の予定を大きく外れている。
だが、それでも示し合わせたかのように吸血鬼達は翼を広げる。言葉は交わさず、標的を目指してトップスピードで空を駆ける。
明らかな挑発、明らかな罠。
しかし、吸血鬼達の心を縛る感情はただ一つ。
(((
さっきと比べて何倍もすばしっこくなったがそれでも身体能力で言えば吸血鬼には及ばない。
だがそれでも油断がならないのは、初めに白墨と対峙した時に理解している。逃げると決めた白墨はその速度以上に捕まえづらい。加えて、自らの
そう、逃げるという分野において、白墨はその身体能力以上の結果を生み出す。
視界を切って尻尾を巻く。相手を騙すような走り方は初めから上手かった。
錯覚を利用するような走り方は見事の一言。逃げることを前提としたあの動きは、弱者のらしさが滲んだ滑稽な努力の産物。
だが、
(馬鹿が、目で追わずとも
土砂に紛れ、爆発を利用して白墨は逃げてきた。しかし、いつだって吸血鬼達はそんな白墨の逃げ道を先回りする様に現れる。それを可能としているのが男の持つ特異な瞳。
白墨を見失っても近くにさえいれば、その気配を読むようにして居場所を特定する。
いくら視線を誘導して、視界を切る様に逃げたところで、男の”眼”に映る気配は消せない。
ゆえに見失う事はなく、あとは時間さえかければ速度で勝る吸血鬼が……
(……!?)
「おいっ!どうした!なぜ立ち止まる!?」
額に汗をにじませ、唖然と男は立ち尽くす。
その異常さに、追従していた二人の吸血鬼の足も止められる。
「き、消えた……」
信じられないと、声を震わす男に、苛立つようにもう一人が詰め寄る。
「なら、またその”眼”で見ればいいだろ!」
「馬鹿言え……!”眼”は既に開いてるッ!消えたのだ、文字通り!視線の切れた一瞬で……気配事綺麗さっぱり消えてなくなった!少なくとも、私の眼が届く範囲に白墨はもういない……!」
「ふざけたことを……!さっきまで背中は見えていた!それが消えた……?俺らの視線が切れたこの一瞬でか!?」
「そう言っている!」
焦燥に飲まれた二人を、一歩後ろから見ていた吸血鬼が低く制した。
「言い争うのはやめろ。こいつの眼でいないというならそういうことだ。眼の届かない範囲というならば、奴は既に森に入ったやもしれん。五秒で方針を決める。卿と合流するか、
一拍、わずかな静寂が訪れ、すぐに一人が結論を出す。
「……卿だ」
「……手段はどうあれ、奴は既に仲間を三人殺している。これ以上の戦力分散は各個撃破の危険がある。今は何より合流を優先するべきだ。異論はないはずだ」
もはや相手は見下すのみの雑魚ではなく、脅威としてみなすべき存在。
もう一人を失う危険を犯すくらいならば、確実にここで殺す。
白墨が卿を追っているならば、俺らが白墨を追いかければ卿との合流、そして白墨の挟み撃ちができる。これは白墨にとっても相当なリスク……!賭けに出た行動だ。
多少の任務の遅れはこの際無視する。
互いに目を合わせ、再び森への進行を開始する。
殺したはずの白墨の復活、異常な再生力、突然の分断。
脅威はある。だが、
肉体的なパワーも、それを扱う技術も、能力的な優位はずっと吸血鬼の側にある……本来なら複数人で対処するほどの障害ですらない。だが、白墨はその不利の上で仲間を三人殺害し、卿との分断も行った。
吸血鬼達にとっても実践の経験は少なくない。”状況”という不確定なものが数値的なパワーや技術を覆す場面などいくらでも見てきた。
それは、油断や慢心、不意打ちにトラップ……覆される”状況”なんていくらでも考えられる。ゆえに数で補い、全力で白墨を叩き潰す。
……だが、吸血鬼達は気付いていなかった。
初めに白墨が卿へと疾走したのは、卿と吸血鬼達の分断が目的だったからではない。むしろ
”分断”は本来の目的を達成する過程で起こった副産物。
わざわざリスクを背負ったあの急接近の目的は、ただ、”近付くこと”。
白墨は既に投げ飛ばした卿を含める、
それは
視界を遮る木々をなぎ倒し、吸血鬼達が入って来る。三人の吸血鬼が。
ここは背の高い木に囲まれた森の中、人里からは十分に離れ、
小さく息を整えた
◆
灰逃げによって、森の中に潜めた灰の山から白墨が目を覚ます。
一足先に森へと到着した白墨が行ったのは、卿への攻撃ではなく、周囲の地形と敵と自分の位置関係の把握。
『
こう言ったものの、実際にその気はない。付いてきてくれたらいいと思い、適当に言っただけだ。
これで追いかけてくるほどの、仲間内での結束があるかもわからないので、本当に言ってみただけである。
これで人里から引き剝がせなければ他の方法を考えるところだったが、存外上手くいった。
得られた条件はこれ以上ないほど良好。自らの戦いやすいフィールドで、攻撃による被害を考慮する必要はない。
これでようやく
体調の回復も、身体能力の向上も、吸血鬼相手では大したアドバンテージにはならない。結局どこまでお膳立てされようとも、白墨は強者になれない。
身体能力が上がったところで技術がない、経験がない――才能が、ない。
――そう、本来白墨には戦闘において特別秀でた才能はない。
戦闘を避けるための逃走術に長けることさえあれど、戦闘面で相手を圧倒するような天賦の才能と呼べるものは一切なかった。
それは戦いの才を持つ者たちにとって、最も重要な
だが、それでも白墨は生きてきた。危険を避けてきたからではない。
それは白墨の再生能力が理由ではない。白墨の有する異常な再生能力が始めて露呈したのは、地上で博麗の巫女と対面した時。
つまり白墨は、地底に落とされる前――人妖入り混じる信仰の輝く時代において、
白墨がこれまで数多の戦いを生きてこれた理由はただ一つ、決断までの異様に早い切り替えと割り切り、その実行への躊躇いのなさだった。
たとえその判断が最善でなかったとしても、誤ったものであったとしても、一度決めたなら迷わない。
白墨は賢者にはなれない、強者にはなれない……優れた判断も、場をひっくり返すような奇策も持ちえない――ただ、誰よりも素早く決断できる。そして、その決断の成否を問わずにラグなく行動へと移せる。ただそれだけだ。
練りに練った妙策よりも、今すぐ実行できる凡策を。
悪く言えば、その場限りの浅知恵だ。だが、その浅知恵を迷いなく実行できるものは多くない。浅知恵だって勢いに任せて実行すれば、案外意表を付ける……例えば、力も技術も格上の
場は整った……吸血鬼達が合流する。
開戦の合図を告げる様に、白墨からその一発が放たれた。
◆
『固まるな!一網打尽だぞ!』
『狙いを分散させるッ!散開しろ!』
――どうして、どうしてこうなった?
「クソッ!狙いは私かッ!?」
大樹を抉り、風圧で地はめくり上がる。異音を放ち、音速にも昇る破壊の白槍が眼前に迫りくる。
地を蹴り横へと逸れることで、なんとか被害を最小限に抑える。それでも避けきれなかった左肩は赤黒く抉れ、勢いを殺せなかった分、ねじれる様に腕がひしゃげて折れる。
「……ッ!!ぐ、ぅう!これで、じゅ、十二発!」
十二発。この法外な速度の槍が飛ばされた数。
卿と合流した矢先に放たれた不可避の一撃。まず初撃で一人目の頭が吹き飛び、続く二発目、三発目でもう一人の腹と自分の脚が貫かれた。幸い、月の魔力を介すれば頭の一つや二つ潰されてもすぐ再生できるのが吸血鬼の強みだが、こう何度も撃たれてはたまらない。
加えて相手は私の持つ”眼”の範囲より外から撃ってきており、位置の特定は難しいときた。出鱈目な速度と貫通力……卿自らの散開の命と共にそれぞれバラけ、狙われていない者が白墨を叩く。
白墨の現在位置の特定なら”眼”を持つ私が適材だが……
「……じゅう、三発目!」
(四人いて、
肩の傷を治し、すぐさま飛来する白槍を慌てて回避する。
初めは互いの位置が分かる様にと組んでいた陣形も、長引くにつれて完全に崩れ去り、もはや誰がどこに居るかはわからない。
だが、こちらへ絶えず攻撃が飛んでくるのを見るに、狙われていない者が白墨を叩く、という作戦はあまり上手くいっていないらしい。
大方理由も想像付く。恐らく相当遠くからの攻撃であることと――
「ぐ、うぅうッ!!」
――複数方向からの射撃が原因ッ……!!
背後からの一撃に、翼を巻き込みモツが零れ落ちる。
これがこの攻撃の最も厄介な所、多方向からなる攪乱掃射。
回避も防御も困難なうえ、発射元の特定ができない。
キィイイィイィン……
「クソッ!もう次が来る……!」
空間を裂くような不快な音、そして衝撃。
……まずい、このままじゃあジリ貧だ、いずれ再生が間に合わなくなる。冗談じゃない。……もはや味方からの援護は期待できない。やはり”眼”を持つ私が白墨を殺すッ!
「低コスト高威力、高精度ッ……!厄介な攻撃だが、お前程度の格の妖怪が扱うにしてはリスクが少なすぎる……!身に余る力には必ず”隙”が存在する!」
例えばそれは発射上限で合ったり、射程距離、何か特殊な条件があると考えるのが妥当。
銃器なら弾切れとリロードだが、荒く何発も撃ってくるのを見るに、弾切れは期待できない。
痰に絡んだ血を吐き捨て、思考を加速させる。
相手の攻撃は常に二方向から。前方から来たのち、後方、左右とランダムに二発目が飛んでくる。上からの攻撃、三方向からの攻撃はない。
これだけの攻撃をこうも自由に撃てるとは考えづらい、放たれる二発の内、一発を白墨本人が撃っているとしてもう一つは設置型の砲台と仮定する。実際の仮設砲台のように弾さえあれば誰でも扱えるものなのか、魔法的な力なのかはこの際どうでもいい!とりあえず白墨以外から放たれているであろう攻撃を砲台と仮称する。
恐らく設置型の砲台と、本人自らの攻撃が交互に飛んできている。森へ誘ったのはあらゆる方角に設置した砲台を活用するため……既にここはヤツのテリトリー、準備万端で誘い込んだのだろう。
しかし、複数方向からの同時攻撃はないことから、本人と砲台の同時発射は恐らく不可!
設置型の砲台は多方向からの攻撃を可能にするのと同時に、白墨本人の発射位置を特定されないようにするためのカモフラージュの役割を担っている……!設置型の砲台か白墨の一撃かを見極めれば、白墨の位置が割れる!
しかしどうする?全く同じ方角からの攻撃は今のところない。
いや、違う……そうか!
だったら話は早い!さっきからバカスカと適当に打ち込んでくる砲撃ともう一つ、
遠距離からの攻撃は撃つ瞬間が最も無防備。
白墨の攻撃の瞬間、そこを狙うッ!貫通力と速度では相手に劣るが、破壊力ならばこちらが上!
傷の再生を適当に済ませ、最高濃度の魔力を込めて炎の槍を生み出す。
既に槍は構えたッ!白墨の発射と共に放つ!姿は見えなくてもいい!射線上のすべてを焼き尽くしてあいつを殺す!
”眼”の範囲を最大限まで拡張させ、僅かな妖力すら見落とさぬよう集中する。
「……ッッ!!」
来た!構えていた槍を投げ飛ばす。予想通りに、そこは十一時の方向。
炎の槍は一直線に攻撃の飛んできた方角を燃やして突き進み、入れ違うようにして飛来する白槍が脇腹を抉る。
「づっ……だが耐えた、削り合いならこちらに分がっ……」
笑みを見せた途端、唐突に訪れる”衝撃”。
痛みという信号が全身を揺らし、背骨がいともたやすく削り取られ、血液のポンプは破裂したように辺りを汚す。
「ごっ……!」
急激に迫る命が零れていく感覚、白く明滅する視界に真っ赤な血が映り込む。
どうして背後から……!?殺すには足らないまでも、即攻撃に移れるほど軽い一撃ではない……!
まさか設置型の砲台は自動発射?白墨の手を介さず、自動でこの精度なのか……?だが、そうだとしても種はもう割れている。すぐに体勢を立て直して再び……!
ィン……
「……ぁ?」
ィイィン……
キィイイィイィン……
聞こえる音は二つ。右と、遅れて左から。
「……なんでだ。白墨が居るのは、前方だろ……なんで、左右から音が来る」
キィイイィイィン……
「なん、で……」
◇
軽くなった身体。翼と致命的な傷だけ塞ぎ、滑空する。
もはや身体を十分に再生させるだけの魔力は残っていない。傷を広げ、血を流しながらも仲間を探す。僅かに残った魔力は眼に回し、少しでも索敵範囲を拡大する。
そもそも、他の三人は何をしている。どこにいる。
四人のうち誰かが狙われ、他の三人が白墨を仕留めに行く。そういう手筈だった。
だというのに、砲撃は止まず、攻撃は自分に集中したまま。
(白墨を仕留めるはおろか、攻撃の中断すら出来ていない。位置の特定でさえ難航していたのか、味方の無能さにはつくづく腹が立つ)
痛みと逆境の中、現実逃避をするかの如く、心の中で他の三人への苛立ちと侮蔑の言葉を連ねる。
けれどもどれだけ心の中で侮辱の限りを尽くそうとも、それを実際に表に出そうとはしない……愚痴の一つさえ口から零れることはない。
――或いは気付いていたからか、森の異様な静けさに。
男の”眼”が捉えるのは純粋な視覚情報ではなく魔力や霊力などの生物の気配、ただの肉塊は映らない。
「ぁ……」
一瞬、そのまま通り過ぎそうになって、思わず振り向く。
それはまるで、見せつける様に木に縫い付けられていた。心臓と頭は重点的に破壊され、手足は魚の開きのようにぱっくりと裂けている。
見るも無残なその肉塊を前に、自らの想定の甘さを知る。
(狙われていたのは俺ではなかった。……俺ではなかったから、”まだ”生きている)
唖然と気の抜けたように立ち尽くす。それは今までの必死な回避行動の否定であり、歩みを止めた代償が、ゆっくりと
「同時発射は出来ない……この予想だけは当たっていたか。だが、こうも連射されては、その弱点も、意味をなさない、な……」
項垂れる様に膝をつき、瞳に回していた魔力を止める。
そして、幾発もの結界の槍がその肉体を蹂躙し始める。
「ピッ……!ギァ……ァ」
初撃が貫通し、引きずられるように体はよろける。大地に沈むより先に、続けて七発の槍が突き刺さった。肉体が削れるたび、身体は跳ねる様に踊り、その面積を減らしていく。
もはやそれが生きていないことは明白だった。それでも念を入れるように破壊は続き、やがて一人の足音が終わりを告げる。
「……射手が一人の都合上、同時には無理だ。しかし何度も灰逃げを繰り返しての射撃は、流石に疲れる。」
肩の力を抜いて息を吐く。
森に散らばる死体が三つ、残す相手はあと一人。
灰くんにとって、背中の扉は外付けの大型充電器みたいな感じです。
電池替えた途端めっちゃ早くなったラジコンカーみたいにきびきび動く。