不思議な飲み物にドキドキするハートフルコメディ
とある日
いつものように日課である一日一爆裂を済ませた帰りのことだった
背中に感じる小さな重みに少し心配しながらも道で立ち止まっては位置を直すという名目で何度もその体をわざと揺らしていたのだが、突如後ろのロリっ…めぐみんがこんなことを言い出した
「そうだカズマカズマ、ギルドにいきましょう!」
「どうした突然、今日は何のクエストも受けていないだろ」
「いえ違いますよ、クエストではなく酒場ですよ。私一押しオススメの飲み物を発見したんです!」
めぐみん…いつの間に酒の沼にハマるとは、一体どこで教育を間違えてしまったのだろうか
「何を勘違いしているのか知りませんが酒ではありませんよ。それに既にダクネスに二人で食べてくると伝えています。アクアは最近何やら家を留守にしていますがダクネスに任せておけば大丈夫でしょう」
いつのまにか予定が決まっていた
もしこの誘いがアクアだったならば、酒を含めた飲み物類を片っ端から浄化してしまうという前科を持っているので断っていたかもしれない
だが久しぶりに二人で…めぐみんと何かを食べるのも良いだろう
昔話に花を咲かせながらジャイアントトードのから揚げを食べる。それは転移してきたばかりのことを思い出して面白そうだ。……いや、最近食べられ(捕食)たのは気のせいかもしれない
「そうだな、アクアたちが混ざりに突撃してくる前に久しぶりに二人で食べるのもいいかもな。それにオススメの飲み物ってのも気になるし」
「『いいかも』じゃありません、二人で食べるんです! 飲み物についてはこの私が保証するので安心してくれて構いませんよ、私の故郷の味を体験できますからね!」
…なんだか全然安心できなくなって「さあ‼ 売り切れる前に早くいきますよ!」
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「いま流行りの最新ドリンク?」
ギルドの前に酒場の看板が珍しく張り出されている
なにやら少し濁った透明な液体の絵が描かれているがこれは一体何なのだろうか?
ソーダだろうか、それともサイダーだろうか、いや、ラムネかもしれない
「もう看板がでていたとは…! 私たちものんびりとはしていられません、早く中に入りましょう‼」
「おー今日はやけに人が多いな」
「おっ、カズマじゃねえか! なんだ何してるんだ? 今日はお二人さんでデートか?」
「ち、ちげぇよ! 今日はめぐみんにオススメの飲みものがあるって聞いたからついでで付き合ってるんだよ! って、ダストの方こそ何してるんだよ!」
「ついでとはなんですか!」
「なんだそういうことか。俺は見ての通り酒を飲んでるだけだぜ! まっイチャイチャするなら他所でやってくれや、お熱いのは家でってな」
「ほらダスト、みんなに迷惑かけてないで席に早く戻るよ! カズマもダストのバカが迷惑かけてごめんねっ。ほら、看板にあったやつ飲んでたらこんなになっちゃって」
「おう、そうだカズマ! お前も早く買うなら行ってこいよ! でないとアレは俺が全部飲んじまうからな。ガハハッ!」
今日は冒険者たちがいつも以上に酒場で仲間たちと元気に騒ぎ交わし合っている
ギルドに入るとクエストを終えたのかパーティーメンバーそっちのけで一人酔っ払い立ち歩いていたダストが声をかけてきた。が、無事リーンに回収されていった
「ところでめぐみん、ダストが凄い酔ってたが…やっぱり酒なのか? 成長に効くからほどほどにしておいた方がいいぞ。てかお前ロリ…子供なんだからやめとけよな」
「おうおう誰がロリで子供なのか言って貰おうじゃありませんか!」
「やめろ腕の肉がチギレルウ!!! ……でも結局は酒じゃないのか?」
「もちろん酒などではありませんよ、そこは私も不安ですからわきまえておりますもの。 それに、彼が酔っていた原因は恐らくあれですよ」
めぐみんの指した方向を見ると、そこには一人ぼっちでご飯を食べている紅魔の娘がいた。どうしてか机の上には大量の酒瓶が乗っている。……あっ、リーンから抜け出した様子のダストがその女の子へ絡みに向かっていった
「そういうことか」
「そういうことです」
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立ち話もほどほどにと俺たちは料理を頼むために席へ着いた。すると、どうやらタイミングが良かったのか直ぐに注文の番は回ってきた
「はーい、ご注文はいかがしますーか?」
「では“例のアレ”とジャイアントトードのから揚げ定食をそれぞれ二人分お願いします」
「了解しましーた。では少々お待ちくださいーね」
ふと我に返る。あれ、俺の注文は? 自然な流れだったので気付けなかった
既に店員は厨房の奥へと消えてしまっている
「おい待て俺の注文は」
「今頼んだじゃないですか、看板のアレとジャイアントトードのから揚げ定食ですよ。私が二人分頼んでおきましたよ。あっ、もしかして他の定食が良かったですか?」
「あっ、そ、そうか、いや大丈夫だ。あ、ありがとうございます?」
「いえ、私たちだけなのですからそんなに畏まらなくても大丈夫ですよ」
「お、おう」
周囲の冒険者たちから好奇の目を向けられる。少し恥ずかしい
だがこれが信頼なのだろう。佐藤カズマは何だかんだこの世界に来れて良かったなと感じた
ジャイアントトードに食べられた思い出
冬将軍に首を綺麗に飛ばされアクアに蘇生してもらった思い出
紅魔の里で魔王軍幹部もろとも倒されアクアに蘇生してもらった思い出
そして、爆裂魔法で自分もろとも敵を吹き飛ばしてエリス様に蘇生してもらった思い出
なんだかんだ、自分は皆の世話になって大きなことを成し遂げてきたのだ
「なあめぐみん、何だかんだありが『よっしゃああああああ‼ お前ももっと飲むぞ!』『は、はい!』…。」
「…? どうしたのですかカズマ」
渋い顔とは今おそらく自分がしている顔のことを指すのだろう
佐藤カズマは次にダストと会ったら下剤入りシュワシュワを奢ることを決めた
「あ、あぁ。いつ注文届くんだろうなって」
「本当はそれ以外のことを言おうとしてたんじゃないですか?」
めぐみんはニヤニヤとしている
頬が灼ける感覚がする。何だかこれ以上言うのは小恥ずかしくなってしまった
「な、本当だから! 俺、超お腹空いてるから! あーあ、早く食べたいなああああ!!!」
「私もですよカズマ。ありがとう」
「ふ、ふん! そんなこといっても何のことだか分からないんだからね!」
あぁ、こんな時間が永遠に続けばいいのに
なぜあんなことになってしまったのか
ああ…
あああ…
ああああああ…
ああああああああああ!!!!!
「これただの放置した水じゃねえかあああああああ!?」
佐藤カズマは信頼を少し過信しすぎてしまったようだ
~~~
遡ること5分前
冒険の思い出を肴に食べていたジャイアントトードのから揚げがお皿から消失した頃、いまだ例のアレとやらが届かないのを疑問に思ったカズマはふとめぐみんに話題を振った
「あのめぐみんさん、いつまで経ってもその肝心のアレとやらが出てこないのですが」
「あぁ、そういえばカズマは知りませんでしたね。話に夢中ですっかり忘れていました」
「めぐみんが夢中だったのはジャイアントトードだったけどね」
「ま、まあそれはそうとして。先ほどから言っていた“アレ”とはデザートとして飲むものなんです! 繊細な味ですので私は口を壊さないように今日はシュワシュワを飲んでいません!」
「お、お~~。それは期待できそうだな…ってジャイアントトードの濃い味で壊れちゃってる気がするけど」
「ま、まぁそれだけ美味しいものだと期待してください!」
「ほほ~う、この味に厳しいカズマさんの舌に合うものかテイスティングして差し上げようじゃあーないか。ところでそのアレとやらの名前をそもそも知らないのですがそれは」
「ふっふっふっ、仕方ないですねー。ここまで引き伸ばしましたがそろそろ、この“漆黒の隻眼”めぐみんさんが教えちゃおうかな~?」
「キャーカッコイイ! オシエテオシエテ!」
「ふっふーん、どうしようかな~?」
何だか周りからの視線が痛いものになった気がする
漆黒の隻眼ってなんだ、それはただの飾りだろう
「キャーハヤクオシエテー」
「いいでしょういいでしょう、教えて差し上げます‼ その飲み物の名前とはッ!
『はーい、“常温水カルキ抜き二つ“お持ちしましーた』……です!!!」
~~~
自分から宣言をすることに失敗しためぐみんを今は慰めている
かわいそうに、焦らさないで早く言えばよかったものを…
「まぁまぁ、次があるって」
「そ、そうなのでしょうか…いえ、そう信じましょう。それよりコレです、『常温水カルキ抜き』です! 巷では『常カラ』と呼ばれています!」
常温水カルキ抜きとは一体何のことだろうか
カルキ抜きの意味は思い出せないが常温水の意味は知っている
冷たくもなく温かくもない生ぬるい水のことだろ……うと言い切れないのがこの世界だ
なぜならこの世界、サンマは畑から採れるし、キャベツは空を飛んでいるからだ
もしかしたら物凄く絶妙に美味しい温度の水のことなのかもしれない。きっとそうに違いない。でないとあんなに美味しそうにコレを飲んでいる冒険者たちの味覚に説明がつかない
カルキ抜きとやらできっと水の味を更に高めて美味しくしているのだろう
デザートだから甘いのかな? なんてことを佐藤カズマは考えた
「では私はもう我慢できないのでお先に飲ませてもらいますよカズマ!」
「おう、毒が入ってたら危ないからまずは任せるわ」
本当に美味しそうに飲んでいる
喉が揺れ動くたびに頬をゆるりと弛緩させ、それに合わせて幸せそうな顔を溢れさせている
何だ、ただの杞憂だったじゃないか。こんな幸せそうな人が噓をつくわけがない
一気に飲み干し、満足そうな笑みを浮かべた優しい顔のめぐみんがこちらを眺めている
次は自分が飲む番だということを伝えているのだろう。信頼から相手の言いたいことを理解した佐藤カズマはこれから来るであろう幸せに期待を膨らませながらグラスを手に取り口につけた
「……ンッ」
一口、その一口で佐藤カズマは理解してしまった
「ウン…」
そういえばめぐみんは何と言っていただろうか
確か、『私の故郷の味を体験できる』だっただろうか
「ソウカ…」
そうか…そうか…
アクアがこれほど恋しいと思ったことはない。今ならエリス様以上に信仰できるだろう
「めぐみん……」
「はい、カズマ」
「これ、常温水カルキ抜き…『常カラ』とか言ったね…」
「はい、常温水カルキ抜き、略して常カラです」
「ンッそうか……常温水…つまり水だね」
「はい、水です」
口に広がったのは懐かしい味だった
それは、そう。週明けの夏の学校に放置してしまった水筒の中の水を飲んだ時だった
『あれ、何か味変じゃね? 水に味ついてる! これすげえ、みんなに教えてあげよ!』
フラッシュバックした記憶
「ソウカ…懐かしいもんな」
懐かしい風味
それはいつだったろうか。小学校の生物委員会、魚たちには直接水道を入れてはいけない。だからバケツに水を汲んで日光に当ててあげるのだと
あぁ懐かしい、水に溶けた毒を抜くのだと教えられたのだった
そう、確かあれは…
最近もどこかで嗅いだことのある匂いだと思った
確かあれはアクアを檻に閉じ込めて湖の浄化をしたときだったか…
「思い…出した!」
「…カズマ?」
そうそれはカルキ抜き、そしてその水は常温
……つまり
「これただ放置した水じゃねえかあああああ!?」
「そうだよ何か変だと思ったんだよどこかで聞いたことある気がしてたんだよおおおおお!!!」
「カズマ⁉ カズマしっかりしてください!」
「そうですそうじゃんそうじゃないかあああ! 常温水カルキ抜きって放置した水じゃないかよおおおおおおおお」
「カズマ、一体どうしたのですか! そんなに美味しすぎたのですか!?」
「違があああう断じて違あああああう! むしろそれの逆だあああ! これはデザートでもなければ飲み物でもありません!!!」
水槽の水、それの重症版。脳裏に浮かんだのはそんな言葉だった
「アクアアアアア、助けてくれアクアアアアアアア!」
一刻も早く身体を浄化して貰わなければ……病気になっちゃう!
運の良いことにも我らのパーティメンバーには水を司る専門がいるじゃないか
佐藤カズマはすぐにでも自分を浄化して貰おうと席から立ち上がった
その時、
「あっ、丁度いいところにカズマ! そこの女を止めて頂戴!」
丁度良いタイミングに救いの女神が現れた! 藁にも縋る思いでアクアを見るとなぜかいつもとは違う見たこともない格好をしている
どうやら厨房から出てきたようだ。そしてその視線の先には…
「その女よ! その女が最近話題になっている飲み物を出してるやつよ!」
どうやらアイツがこの液体を提供している犯人のようだ
何てものを出してくれたんだ!
佐藤カズマは溜まった鬱憤を晴らすかのように勢いよく魔法を放った
「よっしゃ任せろ!! 『スティイイイイルッ!!!』」
アクアから逃げていた女がギルドを出る直前にふと立ち止まる
そして視線がこちら…の右手に握られた灰色の布地に向けられる
勝ったな。佐藤カズマは勝利を確信した
「あわっ…わわっ、か、返してええええええ!!!」
「へっ、だれが返すかよ! これが欲しけりゃ取りにくるんだな、今の俺は…強いぞ‼」
「ひっ、ライトニングセイ『ナイスよカズマさん!セイクリッドターンアンデッド!!!』ヒィィイイイッ‼」
見る見る女の身体が薄くなっていき…そして終いには消滅した
〜〜〜
「お、おいアクア。今のやつは一体誰…だったんだ?」
犯人の足止めを成功させたと思った次の瞬間にはアクアが魔法を放ち消滅させてしまった
「聞いて驚きなさい! アイツは元魔王軍幹部見習いよ! 何やら『常温水カルキ抜き』とかいう飲み物を出されたってめぐみんから聞いたからね、怪しいったらありゃしないからこのアクア様が直々に潜入捜査を行っていたのよ! そしたらついに正体を現したってわけね! 汚い水を皆に飲ませるなんて水の女神であるこの私が許さないんだから!」
これを提供していたのは元魔王軍の関係者だったようだ
どうやらアクアが浄化してくれていたお陰で大事には至らなかったようだが……それではどうして皆があんなにもこの水を美味しそうに飲んでいたのに理由がつかない
「ま、魔王軍だったのか⁉ でも何でこんなことを…って何で皆は美味しそうに飲んでたんだ?」
もしかするとアクアの浄化した水が偶然不味かっただけなのだろうか?
「よく聞いてくれたわねカズマ、それはね…この私が運ばれる前に浄化したからよ! 水の女神である私が直々に浄化した水は聖水、エリクサーって呼ばれるほどのものなんだから不味いわけないのよ!」
でも待って欲しい、確かに俺が飲んだ水は不味かったはずなのだが
…ああなぜだろう、俺の隣に立っているめぐみんが顔を横に向け目を逸らしているではないか
「めぐみんもグッジョブだわ! 私が言わなくとも来てくれるんだなんて…お陰で隙を作ることができたわね! カズマさんは命の危険があると来てくれないからデートで油断させてくれたんでしょう? 元魔王軍なんだからカズマさんを狙うのは自明の理よね!」
……
「おい、めぐみん」
「は、はい何でしょうかカズマ」
「今アクアが命の危険があるとか言ったがつまりあの水は危険だったってことになるよな」
「そ、そういうことになるのでしょう?」
「おいめぐみん、知っていたのか?」
目が泳いでいる。おい、視線を逸らすな
「も、もちろんですとも!」
「でもお前あの水、飲んでたよね」
「な、なんのことでしょうか?」
「俺、一口飲んじゃったんだけど」
佐藤カズマはめぐみんを問い詰める
しかし、めぐみんは開き直ったのかむしろこんなことを言い出した
「紅魔の里名物、我が家ぐじゅぐじゅの池水は4杯までいけましたから…」
紅魔の里名物(めぐみん談)ぐじゅぐじゅの池水
興味を持ってしまったダクネスが一杯飲んだだけでノックアウトしたという伝説の池だ
つまり
「比べるものがおかしいいいいいいいいい!!!」
今日はアクアに浄化された水でも飲みたい不思議な気分だ…
END
牛乳水(水:牛乳=3:7)も飲んでみると面白いですよ!
水を飲んでる感覚なのに確かに牛乳を飲んでいるという意味不明な液体なのです
ちなみにダストも常カラを飲まされていますが強靭なボディとアルコールで無効化しました
めぐみんは……そうか
この後、カズマはお礼のお酒を渡してアクアの聖水を飲ませて貰いましたとさ