7人目のスタンド使い魔 ~キャラバンAct2!~   作:ローレンシウ

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第十五話 責任の所在

 

 リリーはそれから少しの間、オスマンと共にシュトロハイムとの思い出話などに花を咲かせていたが。

 紅茶も底になり、もうすっかり遅くなっているということもあって、その日はお開きになった。

 

「それでは、私はこれで失礼します」

「うむ。私もこれを宝物庫に戻したら、そろそろ休むことにしよう。おやすみ」

 

 土産の茶菓子などをもらって学院長室を辞し、ルイズの部屋に向かう。

 

「……あら?」

 

 そうして、二つの月が照らす中庭に差し掛かったところで。

 リリーはそこに、いくつかの人影を見つけた。

 

「わたしは昔から、あんたのそういうところが気に入らないのよ」

「あら、奇遇ね。あたしもあなたのそういうところは」

「…………」

 

 ルイズとキュルケ。

 それに、少し離れたところにタバサがいる。

 

「二人とも、こんなところで何してるの?」

 

 ちょっと声をかけてみたものの、にらみ合って何やらぎゃあぎゃあと言い合っている真っ最中のルイズとキュルケは気付いた様子もない。

 まあ、元より衝突しがちな二人であるし、大方些細なことが原因でケンカ中なのであろう。

 

「……あなたは?」

 

 我関せずと本を広げながらも、もっと静かなところへ移動しようとはせずに月明かりで読書に耽っているタバサにも尋ねてみた。

 

 リリーは数日ほど前から、彼女とはちょっとした知り合いになっている。

 無類の読書好きであるこの少女は図書館の常連であり、ここ最近暇を見つけてはそこで調べ物をしていたリリーは、自然と彼女の姿を見かける機会が多くなったのだ。

 とはいえ、タバサは極端に無口で不愛想な性質でもあるので、それだけでは知己になれることはなかっただろう。

 たまたま館内の休憩スペースで鬼頭園のお茶を飲みながら『たべっこドーナツ』をつまんでいたところ、彼女がじーっと見つめているのに気が付いたので、食べるかと勧めて。

 交換条件として、こんな本を探しているのだがお勧めはないかとか、メイジでない自分には高いところの本を取るのが大変なので手伝ってくれないかとかもちかけたことで、多少の関わりができたのである。

 ちなみにその時のお菓子は、ほぼ一箱全部、彼女に食い尽くされてしまった。

 ルイズにもまして細くて小柄な体格のわりに、結構な食い意地である。

 まあ、義理堅い性格なのか、こちらの頼みにもしっかりと応じてくれたので、別に文句もないが。

 

 それに食欲だけでもなく知的好奇心も旺盛なようで、菓子箱の印刷や内側の包みの素材、空き缶などにも大いに興味を示していろいろと質問してきた。

 幸い自分もキャラバンの関係で各種の素材やそのつくりなどに関してはそれなりに詳しいので、出来る限り答えるようにした。

 

「付き合い」

 

 タバサはちらりとキュルケに視線を向けながら短くそう答えると、またすぐに本に視線を戻した。

 

「ふうん?」

 

 あまり詳しくは知らないが、図書館の外で彼女の姿を見かける時には、確かにキュルケと一緒にいることが多い気がする。

 というか、他の誰かといるところは見た覚えがない。

 してみると、彼女とキュルケとは親しい友人だということか。

 性格的にはまるで接点がないように思えるが、リリーはさして意外だとは思わなかった。

 自分にだって、いつも無口で不愛想で、往々にして必要最低限のことしか言わなかったりする、とっつきにくいが義理堅くて頼りになる親友(承太郎)がいるわけだから。

 

 さて、ルイズがここにいるということは、彼女の部屋はいま無人なわけだが……。

 合鍵はもらってあるから、入るのに支障はない。

 

(先に帰ってたほうがいいか)

 

 自分もここで彼女らに付き合うという選択もないではないが、それで何かの役に立つわけでもなし。

 ケンカはよせ、腹が減るぞ……などと言ってみたところで、収まるとも思えない。

 それどころか下手をすると、巻き込まれてとばっちりを受けかねない。

 

 ここは三人に付き合うよりもむしろ、部屋で紅茶でも入れといてやって、帰ってきたルイズに差し出せば、気が利いてるということになるだろう。

 そう結論して、リリーはタバサにだけおやすみの挨拶をすると、さっさと引き上げることにした。

 

 

「……ずいぶん長引いてるみたいね?」

『そやな。こじれて、決闘ごっこでもはじめたんとちゃうか?』

「うーん、そうかも……」

 

 まあ、ルイズとキュルケとは仲が悪いと言っても、明らかにケンカ友だちという感じで、本気で痛めつけ合うなんてことはありそうもないので、別に心配はいらないだろうが。

 一応は使い魔の身分なのだから、主人が戻ってこないうちに自分だけ寝ているというわけにもいくまい。

 取り立てて職業意識とか義務感とかがあるわけではないが、つまらないことで彼女の機嫌を損ねるのは得策ではない。

 

 仕方ないので、この時間を有効利用しようとリリーは考える。

 

 手持ちの本を読み込んでおくか、それとも、気晴らしにゲームボーイでもやるか。

 いや、重要そうな情報が入ったことだし、ここは記憶が新たなうちに情報を整理しておくべきだろうか。

 リリーはそう結論すると、濃いめの紅茶を一杯淹れてから、メモ帳とペンを取り出した。

 

 ちなみにこれは普通のメモ帳であって、手フェチの爆破魔の名前を書いたら本人が飛び出してきて襲われるなどといったことはない。

 

「シュトロハイムが、何十年か前に地球からこっちに来てて、戻ることもできた……と」

 

 書きながら、思案を巡らせる。

 彼を召喚したメイジがいたというような話は出てこなかった。

 

「……もしかして、召喚のゲートっていうのは自然に開くこともあるとか?」

 

 話によるとゾンビや、もしかしたら吸血鬼までが、シュトロハイムとほぼ同時にごく近い場所で、同じようにこちらの世界にやってきていたらしいし。

 たとえば特定の場所とか、時間帯とかの条件によって、開きやすくなることがあるのかもしれない。

 もしそうだとすれば、そのような場所や時間をなんとかして特定できれば、自分も地球へ帰れるというわけだ。

 

 語り伝えられている伝承とか、古い文献とかをあたってみれば、何か手掛かりが得られるかもしれないし。

 機会を見て、調べておく価値はあるだろう。

 

「にしても、よりにもよってゾンビだなんてねえ……」

『物騒な連中が出てきたもんですなー』

 

 幸いにもシュトロハイムがその場に居合わせたという偶然(あるいは必然だったのか?)によって、また、日光の差す時間帯だったこともあって、それらは全滅させられたようだが。

 一歩間違えば、この世界に大惨事が起こっていたかもしれないのだ。

 

「そのおかげで、あの紫外線照射装置がお宝扱いになったみたいだけどね!」

 

 確かに、エジプトツアーにおける自分たちにとってはお宝と呼ぶにふさわしい、極めて有益な代物だったが。

 まさか異世界の宝物庫に保管されることになろうとは、なんとも奇妙な運命を辿ったものだ。

 

『しっかし、あのオスマンとかいうじいさんもテキトーな御仁やなー。シュトロハイムはんからもらったもんを、大事にとっとくのは当然としても。価値もよーわからんのに、職場のお宝なんぞにしてええんかね?』

「まあ、そうだろうけど。人間、年を取ると大らかになるんでしょ?」

 

 リリーは苦笑した。

 

 紫外線照射装置については強力な武器だということは確かで、使い方もわかっているのだからまだいいとしても、本当に価値があるのかどうかもわからない怪物の遺品までしまい込んだらしいし。

 先ほどの話から判断すれば、おそらく十中八九ただのガラクタだろう。

 たまたまゾンビだか吸血鬼だかになった人間が身につけていたというだけの、地球ではありふれた品ばかりの可能性が高い。

 

 鎧とか剣とか言っていたから骨董価値くらいはあるかもしれないが、とはいえそういったものは、この世界では逆に珍しくもなさそうな感じだし。

 シュトロハイムと同時代から来たはずの者がなんでまたそんな代物を身につけていたのかは知らないが、本人の趣味か、あるいは古代の遺跡から復活させられたゾンビだったとかだろうか。

 

(ええと、確か悪鬼の鎧に、剣に。あと、服と、お金と、仮面――)

 

 そこまで考えたリリーは、突然あることに思い当たって、はっとなった。

 

 かめん?

 

 吸血鬼の、仮面……と、いうと……。

 

「――まさか、『石仮面』ッ!?」

 

 紅茶のカップを持ったまま、思わず席から立ち上がる。

 

『ありゃ。そういえば、そんな話もありましたなー。あのヴィンズとかいう、おっかないべっぴんさんが持っとったやつか』

 

 ヴィンズの持っていた石仮面は、彼女を倒すと同時に砕いて処分したが。

 あれは元々『柱の男』と呼ばれる種族が作ったもので、彼女が持っていたものやディオを生み出したものの他にもいくつも存在したのだという話は、ジョセフからも聞いたことがある。

 

「……確認しないと……」

 

 リリーは腰を落とすと、紅茶を啜って気持ちを落ち着けた。

 

 古い友人の活躍と紫外線照射装置のことばかりに気を取られていて、話の中で軽く触れられただけのそれに今の今まで気が付かなかったのは、うかつだったというしかない。

 オスマンと話している間に思い至っていれば、すぐに宝物庫で確認させてもらえたものを。

 だがまあ、五十年近く宝物庫の中で無事に保管されてきたわけだし、極めて危険な物には違いないが、明日でも大した問題ではあるまい。

 確認して、間違いなくそうだとわかったら、その時はオスマンの許可を得て……。

 

 そうしてあれこれと考え込んでいた、その時。

 

 

 

 ドゴオォォ……ン

 

 

 

 どこか離れたところで起こったらしい爆音と、かすかな衝撃とが伝わってきて、リリーははっと我に返った。

 

「……え? いまのは、なに? 地震じゃないみたいだったけど……」

『なんか、窓の外から聞こえたで』

 

 リリーは窓に近寄って、外の様子を窺った。

 そして、ぎょっと目を見開く。

 

 先ほどまで自分がオスマンと話していた本塔のあたりに、おそろしく巨大な人影が立っていたのだ。

 大きさは、おそらく三十メートルほどもあろうか。

 人間にしては歪な体型をしていて、月明かりに照らされて見える限りでは、土かなにかでできているようだった。

 先ほどの爆音や衝撃は、どうやらそいつが搭の外壁に拳を叩きつけたことによって起きたらしい。

 右の拳が手首のあたりまで、搭の外壁にめり込んでいた。

 

「な、なに、あれ? えらくバカでかいけど、ゴーレムってやつよね……。この世界の土木工事、とか?」

『んなこと、わかりまへんがな。けど、人気のない休日に工事するにしても、こんな夜中じゃあ迷惑なんやないかね?』

 

 大体、ついさっきまで学院長のオスマンもあの塔にいたわけだし、今夜工事があるなんてことも言っていなかったのだから、状況的に見てもありそうにない。

 もっとも、この世界についてはまだまだ知らないことも多いから、こういったことはわざわざ断るまでもない当たり前のことなのだという可能性もないわけではないし、断定まではできないが。

 

 このまま窓から見物だけしていたいところだが、もしもこれが非常事態なのだとしたら、あのあたりにいたルイズらのことが心配だ。

 

「キャラバン、様子を見に行くわよ!」

『しゃーないなー』

 

 リリーは机の上から鍵をひっつかむと、部屋の外へ向かって駆け出した。

 

 

 

 そうして、急いで外へ飛び出して中庭へ向かおうとしていたリリーの元に、空から青い色をした竜が舞い下りてきた。

 タバサの使い魔である、風竜のシルフィードだ。

 

「ミズル!」

 

 その背には、ルイズ、キュルケ、タバサが乗っている。

 

「無事だったみたいね」

 

 リリーはほっと胸をなでおろすと、一体何があったのかと質問してみた。

 

「わからないわよ! 中庭にいたら、いきなり大きなゴーレムが出てきて……」

「あたしたちは踏み潰されそうになったから、タバサのドラゴンに乗せてもらって逃げてきたんだけど。本塔の壁を壊して、一体何のつもりかしらね」

「宝物庫」

 

 ゴーレムが穴を開けたあたりを大きな杖で指し示しながら、タバサがそう呟く。

 他の三人が、はっとしたような顔になった。

 

「そうだわ! 宝物庫はあのあたりじゃないの!」

「ってことは、盗賊ね。あれだけ大きなゴーレムとなると、少なくともトライアングルクラス以上だわ。そういえば、ゴーレムの肩に乗ってたメイジは、黒ずくめのローブを着込んで姿を隠してるみたいだったし」

「と、盗賊? 宝物庫に……?」

 

 リリーの顔が引きつる。

 

『このタイミング。なにやら、いやーな予感がするでえ?』

 

 しかし、犯人のゴーレムは既に学院の壁を越えて草原まで歩み去り、そこで崩れて命をもたぬただの土の山と化していた。

 その肩に乗っていたというメイジの姿も、どこにもない。

 

 夜闇にまぎれて姿をくらましてしまった相手を追おうにも、手掛かりはなかった。

 

 

 

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 宝物庫襲撃事件のあった、その翌日の朝。

 トリステイン魔法学院の宝物庫前には教職員らが集まり、大騒ぎをしていた。

 犯行の現場に居合わせた目撃者ということで、ルイズら四人も呼ばれて、脇のほうに控えている。

 

 宝物庫の壁には、昨夜ゴーレムに殴られてできた大穴が開いていた。

 

「SON OF A BITCH! どうなってやがるッ! どーやって五階の高さにある宝物庫のブ厚い外壁に穴を開けたんだッ! 巨人か! 盗賊はッ!!」

「いや、そうではないらしい……見ろッ!」

 

 一人の教師が、宝物庫内の壁を指差す。

 そこには、『太陽の燭台、および悪鬼の装具一式、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』と書かれている。

 

「ふ、フーケだとッ!? 聞いたことがあるぞ。貴族ばかりを狙い、巨大ゴーレムをはじめとするあらゆる手口でお宝を奪い去っていくという、悪名高き怪盗……。それが昨夜、学院に来ていた……」

「ドジこいたーーッ! 無難に定年まで勤め上げて功労章と年金をもらうつもりが、こいつはいかーん! 王室はお怒りになる! どうにかして汚名を返上するしかない! チクショー!!」

「賊が宝物庫のお宝を欲しがるのはわかる……計り知れない価値があるからな……。だが、メイジだらけのこの学院を堂々と襲うってのはどおゆうことだァァーーッ!? なめやがってクソッ! クソッ!!」

「ええい! 衛兵はいったい何をしていたッ!」

「衛兵などあてにならん! 所詮は平民ではないか、フーケを止める力はない! それよりも、当直の貴族は誰だったんだね!」

 

 教師らはひとしきり大騒ぎをした後、今度は責任の所在を追求し始めた。

 最終的に、本来ならば詰所に待機していなくてはならないはずの当直の職務をサボり、自室で熟睡していたシュヴルーズに矛先が向き、彼女は青ざめて震えあがった。

 

 しかし、そこへオスマンが口を挟む。

 

「落ち着きたまえ、ミスタ・ギアッチョ」

「私はギトーです!」

「そうじゃったか、すまんな。まあ、とにかく、きみは怒りっぽくていかんよ」

 

 そう言って、教師のほとんど誰も、常日頃から当直の仕事など真面目に務めていなかったことを指摘すると、みなばつが悪そうに俯いた。

 

「これが現実じゃ。『太陽の燭台』が盗まれた責任は、私も含めて、この場の教職員全員にある。誰も魔法学院の宝物庫に賊が入るなどと予想もせず、当直も真面目には勤めなんだ。その驕りと怠慢のゆえじゃ。生徒らに顔向けができんのう」

 

 オスマンは少し厳しい顔をして……それは、昨夜ここに戻したばかりの戦友との思い出の品が、その直後に盗まれてしまったということのためもあるのだろうが……そう言い放つ。

 ちなみに、ゴーレムが宝物庫の強固な外壁に簡単に穴を開けられたのは、一週間ばかり前にリリーが撃った対物ライフルの弾が宝物庫の外壁に食い込んで出来た傷跡をフーケが発見し、そこを殴ったせいだったが、リリー自身も含めてそのことは誰にも知るよしもないことだった。

 

「さて、その責任については後々必ず問うものとして。今はまず犯人を捕らえ、宝物を取り返さねばならん。手がかりはないのかね?」

「目撃者がおります」

 

 コルベールがさっと進み出てそう言うと、自分の背後に控えていたルイズ、キュルケ、タバサ、そしてルイズに付き添うという形で同席させてくれるよう願い出てついてきたリリーの四人を指し示した。

 

「ほう、きみたちか」

 

 オスマンは四人を順に見て頷くと、詳しい説明を求めた。

 

 ルイズらが、昨夜の出来事を思い出せる限り、ありのままに述べていく。

 とはいえ、犯人の姿をしっかりと見たわけでもなく、フーケを追えるような手掛かりは結局何も提供できなかった。

 

「うーむ。弱ったのう……」

 

 オスマンが眉間にしわを寄せ、ひげを撫でながら考え込む。

 

 そこへ、まるでアメリカン・コミックのヒーローのようなタイミングで、ジャジャーン! と秘書のロングビルが姿をあらわし、聞き込み調査によってフーケらしき人物の居場所を突き止めた旨を知らせてきた。

 ここから徒歩で半日、馬で四時間ほどの距離のところにある、森の中の廃屋だということだ。

 

「さすがじゃ、仕事が早いのう。私らも、少しは見習わねばなるまいて」

「すぐに王室へ報告を! 王室衛士隊に頼んで、兵の派遣を……」

 

 コルベールがそう提案しようとするのを遮ると、オスマンは目を剥いて怒鳴った。

 

「ばかもの! 王室なんぞに知らせて裁可を仰いで、それで実際に兵が派遣されてくるのはいつになると思うのじゃ。三日後か、それとも五日後か? その間に、フーケは手の届かんところまで逃げてしまうわ! なによりも、これは魔法学院の問題! 貴族としての矜持にかけて、当然我らの手で解決する!」

 

 ロングビルはそれを聞いて、我が意を得たりとばかりに微笑む。

 そんな彼女の様子などつゆ知らず、オスマンは厳かな態度で咳ばらいをすると、有志を募った。

 

「これより、捜索隊を編成する。我と思う者は、杖を掲げよ!」

 

 沈黙が続いた。

 

 先ほどまであれだけうるさかった教師たちだったが、いざとなると誰も手を上げない。

 互いに困った様子で顔を見合わせる者や、まるで授業中に指名されるのを嫌がる生徒のように、気まずそうに黙り込んだままで、じっと俯いている者。

 中にはパニクって血が出るほど自分の爪を噛む者や、落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせながらぶつぶつと素数を数え続ける者などもいるが、とにかく誰も役に立ちそうにはなかった。

 

「なんじゃ、おぬしら! フーケを捕まえて、名を上げようと思う貴族はおらんのか!」

 

 それまでじっと俯いていたルイズが、そこで覚悟を決めたようにきっと顔を上げて、杖を掲げようとした、ところで。

 

「すみません、杖を探すのに時間がかかったもので」

 

 ルイズの横に進み出たリリーが、どこからともなく取り出したカラフルな杖を、ひょいと掲げた。

 ちなみに、クリスマス飾り用のキャンディケインである。

 

「別に、貴族でなくても構いませんよね?」

「ミ、ミズル!?」

「ほう、きみが行ってくれるか……」

 

 その場にいる全員の注目が、彼女に集まった。

 

 無暗に出しゃばって彼らの面子を潰すようなことをしたいわけではないが、もしも悪鬼の仮面とやらが想像通りのものなら、この件はどうしても自分が行かねばならない。

 昨夜のうちに調べておかなかったことが悔やまれるが、今さらくよくよしても仕方がない。

 こうなった以上、責任をもって自分が何とかするのみだ。

 

 それに。

 

「問題を解決すれば、お礼金くらいは出るんでしょう?」

 


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