7人目のスタンド使い魔 ~キャラバンAct2!~ 作:ローレンシウ
(こ、こうして間近で見ると、とんでもなくでかいわね……)
突如姿を現した巨大なゴーレムを見上げて、リリーは軽く息を呑んだ。
外見はあのフレウとかいう、エジプトツアーの最中に出会ったチンピラの使っていた岩人形のスタンド『ライノセラス』に少し似ているが、それよりも遥かに大きい。
あれはせいぜい身の丈五、六メートルといったところだったが、こちらは二十、いや、三十メートルほどもある。
高さだけなら、十階建てのマンションにも引けを取らないだろう。
わかっていたこととはいえ、突然の派手な出現も相まって、さすがに少しばかり度肝を抜かれた感があった。
一方で、こちらの世界の魔法に馴染んでいるキュルケやタバサは、遅滞なく行動に移る。
「ふん。いないのかと思ったら、おいでなすったわね」
キュルケは不敵に微笑むと胸に挿した杖を引き抜き、タバサは自分の身長よりも長い杖を掲げて、各々呪文の詠唱に入った。
最初から杖を手にしていた分だけ早く、タバサの呪文が完成した。
たちまち、高さだけならゴーレムの身の丈にも引けを取らないほどの竜巻が発生して、巨大な土塊を暴風で打ち崩し吹き散らさんとぶつかっていく。
だが、敵があまりにも大きすぎたようだ。
ある程度は表面が削れて土砂が風に舞い散ったものの、ゴーレムはほとんどびくともしていない。
続いてキュルケの呪文が完成すると、杖の先から放射された大量の火炎がゴーレムの体を包み込んで、激しく燃え盛る。
しかし、ゴーレムの体全体を焼き尽くし溶かし尽くすには、到底火力が足りないようだ。
敵は体表を焼かれても、まるで意に介した様子はない。
「こいつを倒すのは無理そうね……」
「退却」
キュルケはやや悔しげに、タバサは淡々とそう言うと、ひとまず退くことに決めて半壊した小屋から飛び出した。
そのままゴーレムからの距離を離して、敵の出方を窺うつもりだ。
リリーも、紫外線照射装置だけを回収すると、その後に続こうとした……が。
「! ルイズッ!?」
なんと、彼女は離脱しようとする皆とは逆にゴーレムに接近し、背後から攻撃をかけようとしているではないか。
ルイズがなにがしかのルーンを唱えて杖を振りかざすと、敵の体表、背中のあたりで爆発が起こる。
しかし、やはり相手が大きすぎて、ほんのわずかに土がこぼれただけだ。
ゴーレムはその攻撃でルイズの存在に気が付いたのか、ゆっくりと振り向いた。
「ルイズ、そいつはあなたの魔法じゃ倒せないわ。ひとまず退却するわよ!」
リリーはそう呼びかけたが、ルイズは唇を噛み締めると首を横に振った。
「いやよ! フーケを捕まえれば、誰ももう、わたしを『ゼロ』のルイズだなんて呼ばないでしょう!」
「そんなの、関係ないわよ。いいから、さっさと下がりなさい」
あくまでもその場にとどまって攻撃を続けようとするルイズの元に、仕方ないといったふうに肩をすくめながら、リリーが駆けつける。
「『ゼロ』って、魔法が使えないからそう呼ばれてるんでしょう? それが変わらない限り、呼び名だって変わりゃしないわ」
「あ、あんた、この……」
ルイズの顔がさっと紅潮し、目が吊り上がる。
リリーは構わず、話を続けた。
「仮に平民の私がフーケを捕まえて、学院の誰より働いたとしても、貴族だかになれるわけじゃないでしょ? それと同じことよ」
「……っ!」
ルイズはぐっと言葉に詰まった様子だったが、しかし、それでも逃げようとはしない。
ぎりぎりと歯を噛み締めて、言葉を絞り出した。
「……だとしても! いまここで逃げたら、『ゼロ』のルイズだから逃げたんだって言われるわ! ますます笑いものにされることになるのよ!」
そう叫んで、なおも杖を振り上げる。
無論、特撮番組の悪役でもあるまいし、そんなやりとりをしている間はゴーレムが待っていてくれるというわけではなかった。
離脱したキュルケらを追うよりも、まずは手近の敵を仕留めようと決めたらしく、いつの間にか足を振り上げて、煩わしい攻撃を仕掛けてくるルイズを踏み潰そうとしている。
その胸のあたりで新たな爆発が炸裂するものの、現実は非常であり、まるきりダメージを与えた様子はない。
リリーは、半ばあきれたような、半ば冷ややかな目で、ルイズをにらんだ。
『関係ない、行け』
とでも言ってやろうかとも思ったものの、そんなことをしてみたところで聞きゃあしないだろうし。
これ以上、押し問答をしている余裕もなかった。
「……ああ、もう。『キャラバン』ッ!」
やむなく、強制的に避難させることにする。
『やれやれやなー』
指示を受けたキャラバンは面倒くさそうに彼女を抱え上げると、とてとてとその場から離脱し始めた。
突然、目に見えない『なにか』に抱えられたような感覚とともに宙に浮き、勝手に移動させられ始めたルイズは、当然ながら驚いて手足をばたつかせたが。
キャラバンはしっかりと彼女を抱えたままで、軽々と運んでいく。
「わっ!? ……なな、なによ、なにごと!? 誰か、わたしに『念力』をかけてるの!?」
『嬢ちゃん、そう暴れなさんなや。ここはひとまず、退避するんやで?』
身の丈は小柄なタバサよりもなお小さいくらいで幼児サイズなのだが、これでそこそこのパワーはあるスタンドなのだ。
反動のデカい銃火器などを打つときには、必要に応じて支えるなどの補助をしてくれるし。
命令されて嫌々攻撃したときには、普通の人間くらいなら簡単にノックアウトしてみせたりもする。
戦いたくないもんだから、自分の破壊力はEだなどと言い張っているが。
「よっ……、と!」
一方、その場に残ったリリーは、ルイズに代わってゴーレムと一時対峙することになった。
最初は見上げるような大きさに圧倒されたが、よくよく考えてみれば、自分はこれ以上に大きな敵と対峙した経験もある。
南中国海で出会った貨物船のスタンド『力(ストレングス)』とか、インド行きの列車に偽装して襲ってきたスタンド『凶悪連結器(サタニック・カプラー)』とか。
落ち着いてみれば、バカでかい分だけ動きは鈍重で小回りも利かないようだし、こちらはルーンの効果で通常以上に身体能力が上がっているのだから、攻撃をかわすだけなら大して苦労することもなさそうだった。
リリーは落ち着いて振り下ろされた足を避けると、適当に攻撃をかいくぐって、自分もルイズのいるあたりまで下がる。
「無茶なことは止めなさいな。欲ボケで命を捨てたりしたら、それこそいい笑いものにされるだけよ?」
地面に降ろされて茫然とへたり込んでいるルイズのそばにかがみこむと、たしなめるようにそう言ってやった。
「だ、誰が欲ボケよ! それはあんたでしょうが! わたしは別に、お金なんて欲しくないわ!」
「そりゃあルイズはいいとこの生まれで、生活にも困ってないんでしょうからね。でも、名誉は欲しいんでしょ?」
肩をすくめながら、ルイズの額をつつく。
「さっき自分で言ってたじゃないの、もうこれ以上『ゼロ』って呼ばれたくないからフーケを捕まえるんだって。それじゃあ目がくらんでるのがお金か名誉かの違いだけで、見返り目当てなのは変わらないんじゃないの?」
「……っ! そ、そんなこと……!」
ルイズは顔を真っ赤にして反論しようとしたものの、途中で口ごもり、ぐっと唇を噛んで俯いてしまった。
リリーは、そんなルイズの体をひょいと抱え上げる。
「とにかく、これ以上どーのこーの言ってる時間はないわ。もうちょっと安全な距離まで下がるわよ!」
そう言って、移動を開始した。
そんなリリーに対して、ルイズは押し黙っていたが。
ややあってぽつりと、呟くように尋ねた。
「……フーケにとられた宝物は、見つかったの?」
「ええ、しが……いえ、『太陽の燭台』は回収できたわ。でも、『悪鬼の仮面』が見つからなくて。たぶん、フーケが持ってると思うんだけど……」
それを聞いた途端、ルイズはきっとまなじりを吊り上げると、激しく暴れてリリーの腕の中から抜け出した。
「ちょ、ルイズッ!?」
「だったら! 逃げ出すわけにはいかないでしょうがッ!」
杖を引き抜きながら、きっとリリーの顔をにらみつける。
「あんた、言ったじゃない! あの仮面を放っておいたら、どんな災いを招くかしれない、どうしても壊さなきゃならないって!」
それに対してリリーがなにか答えるよりも早く、ルイズは言葉を続けた。
「ええ、そうね。あんたの言うとおり、わたしだって見返りは欲しいし、命も惜しい。だけど、それだけじゃあないわ。わたしには、貴族としての『誇り』と『義務』があるのよッ!」
そう叫んで、また杖を振り上げる。
今度は迫ってくるゴーレムの腰のあたりで、爆発が起こった。
「わたしは『ゼロ』のままでいい、いつか魔法が使えるようになるまでは。それでも、フーケはここで捕まえてみせるッ!」
リリーは、そんなルイズの姿をしばらく見つめていたが。
ややあって、ふうっと溜息を吐いた。
「なにかカン違いしてるみたいね、ルイズ。私は戦略上、一時的に逃げ……いえ、下がるように言っただけよ。戦いそのものを放棄して、逃げ出せって言ってるんじゃあないわ」
「……え?」
気炎を揚げていたルイズは、急にそんなことを言われてきょとんとする。
リリーはひとまず、そんな彼女をお姫様抱っこで抱え上げると、襲ってくるゴーレムの拳を避けて、また距離を取り直すために駆け出した。
「いい、ルイズ。よく聞いて」
「な、なによ?」
抱きかかえられた上に間近で顔をじっと見つめられたことで、ルイズは頬を染めて、軽く視線を逸らした。
同性異性を問わず友達といえるような相手が学院内にいないルイズは、こういった距離の近い気安い触れ合いには不慣れなのだ。
リリーはそんなことには構わず、さらにルイズの耳元に口を近づけて、そっと囁くようにして話を続けた。
「あのゴーレムを、仮にあなたの魔法で倒せたとしても。それだけでフーケを捕まえられるわけじゃあないのよ?」
先日のロレーヌとかいうアホも、レベルこそ大きく違えど同じようなゴーレムを使っていたが、それを破壊しても本人はまったくダメージを受けた様子はなかった。
つまり、スタンド使い風に表現するならメイジのゴーレムというやつには本体へのダメージフィードバックはないということであり、倒してもフーケ自身は無傷のはずである。
「むしろ、あんなバカでかいのをぶっ壊せるようなのが相手だとなったら、ヤバいと思ってさっさと姿を隠したまま逃げ出すかもしれないわ。どうしても捕まえなきゃいけないのに、それじゃ困るでしょう」
「う……。そ、そういわれると、まあ……」
「でしょ? だから今やるべきことは、無理してあれを壊すことじゃあなくて、どこかにいるはずのフーケを探し出すことよ」
こういった、直接倒すにはあまりにも巨大すぎる敵や、スタンドからのダメージフィードバックがない敵と戦う際の常套手段は、なんといっても本体を直接叩くことだ。
パワーの大きなスタンドであれば、本体も近くにいなくてはならない。
メイジの呪文も似たようなものなのだとすれば、これほど巨大なゴーレムを操っている敵メイジは、必ずやどこか近くに潜んでいるはずなのだ。
動きからしても、自動操縦ではなく、こちらの動向を見ながら対応しているような様子が感じられるし。
「ほら、あの二人がしてるみたいに」
そう言ってリリーが顎をしゃくって示したほうに、ルイズも目をやると。
そのあたりで、キュルケとタバサがゴーレムから適度に距離をとってその動向に注意しながら木々の間や植え込みに身を隠しつつ、周囲の様子を窺っている姿がちらりと見えた。
「あ……」
二人がただ単に尻尾を巻いて逃げ出したわけではなかったと知って、ルイズは顔を赤くする。
リリーはゴーレムから十分距離をとったと判断するとそんなルイズを下ろして、頭をぽんと叩いてやった。
「だから、あなたもフーケを探してちょうだい。その間、あのでかいのの注意は私がひきつけとくから」
「……で、でも!」
使い魔だけにそんな危険なことをさせていいものかとルイズが抗議しようとしたのを、リリーが遮る。
「二人いても、かえって身動きが取りにくくなるだけだし。大きい分だけ動きは鈍いみたいだから、私一人ならどうってことないわ。心配してくれるなら、少しでも早くフーケを見つけて。……あ、それから」
リリーはふと思いついたように、キャラバンの袋の中から奇妙な形をした道具と、折りたたんだメモ用紙とを作り出して、ルイズに手渡した。
「これを使えば探しやすいかもしれないわ。使い方は、その紙に書いてあるから。……さあ、もう行って!」
ルイズはそれでもまだ後ろ髪を引かれた様子だったが、迫りくるゴーレムの姿と、それを相手にナイフ一本だけを手にして恐れた様子もなく向き合う使い魔の姿を見て、思い切ったように駆け出した。
リリーはそんな彼女の後ろ姿を見送ってほっと溜息を吐くと、小さく首を傾げる。
「さて、どうしたものかしら?」
でかいとはいえ所詮は土くれ、破壊するだけなら、使用する武器次第ではたぶん可能だろうが。
先ほどルイズにも言ったとおり、不用意にそんなことをすればかえってフーケを警戒させ、状況を悪化させるだけになりかねない。
かといって、ただ何も考えずに避け続けるだけでこちらからはろくに攻撃しない、というのも問題がある気がする。
それではまったく脅威にならず、無視しても構わない相手だと判断されてしまい、フーケの注意を引き付けておくという役目が果たせなくなるのではないか。
(となると、どう戦ったら……)
もっとも実際のところは、そんな気遣いは無用であったのだが。
フーケにはリリーを狙うある『動機』があり、ルイズを狙ったのも彼女を排除するためというよりは、そうすれば使い魔であるリリーはそれを庇うために、もてるすべての手段を使って戦うに違いないと踏んだからである。
よって、他のメイジがどうしても先に排除せねばならないと思えるような障害にでもならない限り、フーケにはターゲットを変更するつもりはなかった。
とはいえ、いうまでもなくリリーの側には、そんなことがわかるはずもない。
(……ええい、ままよッ!)
またしても振り下ろされたゴーレムの足を飛び退いて避けると、リリーはキャラバンから預かったスタンド袋の中からまずは『手榴弾』を取り出して、敵の腰のあたりに向かって思い切り投げつけてみた。
派手な炸裂音が響き、半径数メートルのほどの範囲に爆風と破片が飛び散る。
しかし、やはり対人用の破片手榴弾程度では、巨大ゴーレムに対して有効打は与え得ないようだった。
見たところ多少の土が零れた程度で、ルイズの爆発と大差ない。
「それじゃあ、これはどうッ!?」
反撃として振り回されたゴーレムの拳をかいくぐると、リリーは今度は『ダイナマイト』を取り出して、その腕めがけて投げつけてやることにした。
土木工事にも使われる、岩盤などをぶっ飛ばすためのこの爆薬なら、まったく効かないということはあるまい。
とにかく、同行者たちの誰かがターゲットを発見してくれるまでは、こいつの攻撃とフーケの注意とを引き付けておかなくては……。
「な。なんだい、あれは……?」
樹上に姿を隠しながらゴーレムを操っていたフーケが、呆気にとられた様子でそう呟いた。
あの奇妙な平民の女水兵、自分の主人である少女を逃がして一人だけでこちらの巨大ゴーレムと対峙しようとしたから、いよいよ『太陽の燭台』を使ってくれるのかと思えば。
どこからともなく爆発する妙な手投げ武器を取り出して戦い始め、しかもそれがゴーレムに対して有効打を与えているではないか。
最初の爆発こそ大したことはなかったが、次の爆発は付け根の部分を破壊して、左腕を落とさせた。
その気になれば周囲の土を取り込んで体を再形成することもできるから致命傷にはならないが、まさかあんなに破壊力のある武器を持ち歩いていたとは。
火の秘薬である硫黄から作られる火薬を詰めた炸裂弾でも、これほどの威力を出すためには相当の量を用意せねばならないはずなのに、あの爆発物は一体何を使って作られているというのだろうか。
フーケはそこまで考えて、にんまりと舌なめずりをした。
(遠い異国から来たらしいとか聞いたけど……。さっきの水といい、ずいぶんと貴重なものを持っているみたいだねえ?)
当初立てていた予定は、今のところ少々狂っているようだと言わざるを得ないが。
しかし、あの平民の使い魔を仕留めて所持品を漁れば、予想外の嬉しいおまけがたくさんついてきそうではないか。
そんな皮算用をしていた、ところに。
(……んっ?)
ふと何かが聞こえたような気がして、下の方に目をやったフーケは、ぎょっとして目を見開いた。
いつの間にかヴァリエール家の娘がそこに立っていて、こちらの方をにらみながら杖を突きつけ、呪文を唱えているではないか!
「ま、まさか? どうやってここが……」
この場所は、下の方から見ても周囲の枝や葉が邪魔で、ほとんど見えやしないはずだ。
自分は目立たない、周囲に溶け込むような色合いのローブで全身を覆っているのだから、なおさらである。
大体、そこらの岩陰や茂みなど、樹上以外のどこかに隠れている可能性だってあるというのに。
こんな短時間でピンポイントに自分の姿を見つけられるとは、こいつはよほどに運が良かったのか、それともカンが良かったのだろうか?
安全だと過信しての気の緩みと、その反動からくる混乱のために、反応が遅れた。
「……ぎゃあぁっっ!?」
杖を向けて迎撃するか、それとも枝から飛び降りて逃げるかを決める暇さえなく、フーケは間近で突然起きた爆風に吹っ飛ばされて、木の幹に叩きつけられた。
そのまま意識を失って、地面に転落する。
「やったわ!」
会心の叫びをあげて駆け寄るルイズの手には、先ほどリリーが手渡した『サーモグラフィー』が握られていた。
目立たない色合いの服を着ようが、木々の間に隠れていようが、体熱までは隠蔽できない。
温度差によって物体を色分けして表示するこの装置を用いて調べれば、不自然に大きな熱源が樹上に隠れていることは一目瞭然であった。
・
・
・
「まさか、学院長の秘書であるあなたがフーケだったなんてねえ。でも、そういえば雇われたのは確か、つい最近でいらしたわね?」
「なんのつもりで、こんなことを」
しばらくの後、しっかりと捕縛した怪盗土くれのフーケこと、学院長秘書ミス・ロングビルが目を覚ますと、一行はさっそく彼女を取り巻いて尋問を開始する。
「ちっ。ドジ踏んじまったよ」
観念したフーケは、大人しくそれに答えていった。
遠い異国の地から来たという使い魔のリリーが、強力な武器だと伝えられる『太陽の燭台』の使い方を知っているらしいということは、昨夜彼女に呼び出しをかけたオスマンの話からわかっていた。
だから、うまく話をもっていってこの奪還作戦に来させ、巨大ゴーレムをけしかけて使わせてみれば、自分にも扱い方がわかるだろうと踏んでいた、と。
「じゃあ、ミズルは『太陽の燭台』の使い方を知っているの?」
「ヘンな形だし、あたしもどうやって使うのかなって気になってたのよ。教えてくれない?」
「興味ある」
同行者らにそう請われたリリーは、まあそのくらいは構うまいと思って、実演してみせてやったが。
彼女らは、確かにその名にふさわしい眩い光を放つ道具ではあるものの、さして強力な破壊力があるわけでもないらしいということに、いささか拍子抜けした様子だった。
「そもそもこれは、吸血鬼と戦うための武器だからね。太陽の光と同じように、連中の体を焼くことができるの。ワイバーンとかいうのと戦ったときには、目くらましに使っただけらしいわ」
「なあんだ」
「ちぇっ。こんな目に遭ったにしちゃあ、割が合わなかったかね」
「でも、貴重で役に立つ武器よ?」
リリーはそう言うと、こほんと咳払いをして、フーケと向き合った。
「それよりも、『悪鬼の仮面』を返してくれないかしら。持ってはいないみたいだったけど、どこに隠したの。まさか、もう売り払ったとかいうんじゃないでしょうね?」
「……なんだって?」
フーケは、怪訝そうな顔つきになった。
「あの仮面なら、他のものと一緒に箱に入れて、小屋に置いといたよ。無くなってたっていうのかい?」
その答えを聞いて、全員がはっとして顔を見合わせた。
まさか……。
「嘘をついてるとも思えないけど、どういうことかしら?」
「ち、ちょっと待って。まさかとは思うけど。あたしたちの前に、最初に小屋に入ったのは、確か……」
「あの御者」
「急いで戻りましょう!」
四人は捕縛したフーケを抱えると、急いで来た道を戻ったが、悪い予感は当たっていた。
その時には御者は既に、乗ってきた馬車ごと姿をくらましていたのである。
それを確認すると、タバサはすぐに口笛を吹いた。
ややあって、上空から彼女の使い魔であるシルフィード、風竜(ウィンドドラゴン)の幼生が舞い降りてきた。
全員が、急いでその背に乗り込む。
「馬車、馬が二頭。襲って食べてでも構わない、見つけ次第止めて」
タバサがそう指示を与えると、シルフィードは短く鳴いて了解の意を伝え、青い鱗をきらめかせながら空に飛び立っていった――。
ライノセラス:
ゲーム「7人目のスタンド使い」オリジナルのスタンド。
自然岩にパワーを投影してゴーレム像を作り出し、それをコアとなるスタンド本体が着るようにして操る能力で、外皮であるゴーレムが破壊されても憑代となった岩が砕けるだけで本体はダメージを受けないが、内部にある貧弱なコアにまで被害が及んだ場合は別である。
本体はフレウ・マクシマスという名の香港の浮浪者で、矢によって身につけたスタンド能力を利用して主人公からカツアゲをしようとするが、返り討ちにあって逆にカツアゲし返されたりする小物。
スタンドのグラフィックはツクール2000RTPのゴーレムそのままで、本体の歩行グラフィックもよそからの使い回しという哀れな男である。
凶悪連結器(サタニック・カプラー):
小説版「ジョジョの奇妙な冒険第3部 スターダストクルセイダース "砂漠発地獄行"」に登場した、進化する列車型のスタンド。
原典ではンドゥール戦後にヌビア砂漠で出現したが、「7人目のスタンド使い」ではカオスモード限定で、選択肢次第でインドに行く途上で遭遇し戦闘となる。
ちなみに、マンモーニのペッシもたまたまプロシュート兄貴と一緒に同じ列車に乗っており、ゲスト参戦する。