7人目のスタンド使い魔 ~キャラバンAct2!~   作:ローレンシウ

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第二十二話 マインスイーパー(鉱山掃除人)

 

「ウヘ、ウヘヘヘ……」

 

 廃坑の奥で、地面に耳をあてている男……ルイズらを裏切って石仮面を持ち逃げしたあの御者が、にんまりといやらしい笑みを浮かべていた。

 外見は若返って二十代の青年のようになっていたが、あちこちが痛んで血に塗れた衣服と、どこか野性味を帯びた風貌、そして何よりもむき出しになった牙が、その非人間的な本性を露わにしている。

 

 吸血鬼の鋭い聴覚は、先ほど入り口付近であった騒動の物音をしっかりと捉えていた。

 その上で、地面に耳を当ててより詳細に音を聞き取り、もはや屍生馬たちには動く様子がなく、数人の女のものらしき足音がこの廃坑に踏み入ってくるということを確認すれば、状況は容易に推測できるというもの。

 

「きやがった。きやがったぜぇぇ、あの女どもがよぉぉ!」

 

 つい先ほどは、発見されぬよう自分の痕跡をくらまそうなどと考えていたが。

 今となってはむしろ、上等な獲物が飛び込んできてくれたことがありがたいと感じられるくらいだった。

 一体どうやったのかは知らないが、よくぞここを見つけてくれたものだと感謝したくなる。

 

(こんなすげぇ力を手に入れたからには! もうメイジなんざ屁でもねえやッ!!)

 

 今の自分は、あのエルザなんかとは違う。

 若いころの自分が出会い、その力に憧れ渇望していた吸血鬼などよりも、もっと遥かにとてつもない存在になったのだ。

 御者は自分が何者になったのかを正確には理解していなかったが、その能力については既にかなりの部分までを経験と本能的な感覚によって把握していた。

 奴隷は一人と言わず何人でも何十人でも、いや何百人でも、望むままに作り放題だし、メイジであれドラゴンであれ、エルフであれ、もはや恐れるべきものなど何もありはしない。

 

(あいつらの血もいただいて、俺の下僕にしてやるぜぇ。その次は魔法学院の連中……、それからエルザをだ!)

 

 今どこにいるのかは知らないが、あいつを見つけ出して、足元に這いつくばらせてやる。

 そのエルザが、奇しくも先ほどまで同行していた一行の中の一人(タバサ)によってつい先日討たれたことなど知る由もなく、彼はうきうきと皮算用を立てていた。

 思わず奇声を上げたくなるような、ひとつ鼻歌でも歌い出したくなるような、すさまじくハイな気分である。

 

(それに、マギーもだーッ! この力なら、もしかすりゃああいつだって墓穴から掘り出して、また蘇らせられるかもしれねーぜ!!)

 

 実際、かつて異世界において石仮面の吸血鬼となったディオという男は、数百年前に死んだ騎士たちを墓穴から蘇らせたのだから、それも決して叶わぬ妄想とは言えないだろう。

 欲望に塗れた夢は、どこまでも果てしなく、ドス黒い染みのように広がってゆく……。

 

 

「物陰からいきなり何か飛び出してこないか、気を付けてね」

 

 リリーは同行者たちにそう注意を促しながら、自ら先頭に立って、注意深く廃坑の奥へ進んでいく。

 

 廃坑は今のところ一本道だが、あちらこちらに敵が潜めそうな暗がりがたくさんあった。

 もちろん、破壊される恐れのない魔法の明かりを複数用意して十分に広範囲を照らした上でキャラバンに先行確認してもらっているし、それでもどうしても死角になる場所にはキュルケに照明弾を飛ばしてもらうなどして万全の備えをしながら進んでいるつもりだが、見落としがないとは言い切れない。

 

 もちろん、残る敵はあの御者一人かもしれないが、先ほどの屍生馬のように、他にもゾンビを作っていないとは限らない。

 こんな所には他に人間はいないだろうが、この廃鉱山や森に元々棲んでいた野生の獣、例えばネズミだの蝙蝠だのをゾンビに変えてしまっているかもしれないのだ。

 吸血鬼になった直後はひどく血に飢えるものらしいというような話をエジプトツアーの最中にジョセフから聞いた覚えがあるから、あの御者が見境なしに手あたり次第食い散らかして『食べカス』をそこら中に放っていたとしてもおかしくはない。

 どんな予想外の屍生獣が、暗がりからいきなり飛び出してこないとも限らなかった。

 

『……コォォォォォ……』

 

 リリーは首に巻いたマフラーの端をそっと握り締め、深くゆっくりとした呼吸で波紋を練りながら、奥へと進んでいく。

 

(大丈夫、大丈夫よ。いつ、どんな想像もできないような能力で襲ってくるかわからないスタンド使いに比べたら、吸血鬼や屍生人の奇襲なんて、せいぜい『お化け屋敷』か『びっくり箱』くらいなもんじゃあないのッ!)

 

 自分にそう言い聞かせ、次の瞬間にもどこかから奇襲攻撃が来るのではないかと緊張しながらも、呼吸は乱さない。

 もちろん、吸血鬼や屍生人の脅威を軽んじようというわけではないが、鏡の中から襲ってくるやら水筒の中から襲ってくるやら、正直警戒のしようもないスタンド攻撃に比べればまだマシというものだ。

 

「……何を採掘してたのかしらね」

 

 後続するキュルケは、そこらに転がった朽ちかけの荷車からこぼれた鉱石のズリにちらりと目をやって、ふと呟いた。

 

「銀じゃないの?」

 

 ルイズは、鉱石の一部が明かりを反射して部分的にそれっぽい色に光っているのを見ながらそう言って、小さく首を傾げる。

 もっとも彼女には、それがはたして銀なのか、錫なのか、あるいはそれ以外の何かなのか、正確なところはまるでわからなかったが。

 

「何にしても、廃坑になったのはずいぶん昔のことみたいだけど……」

「誰かが最近になって、ここを使った跡がある」

 

 タバサは壁際の方に棄てられた骨や、肉かなにかの干乾びた食べカスといった生活の痕跡を目ざとく見つけて、そう指摘した。

 見た感じ、洞窟に入り込んだ野生の獣が食い散らかしたものではなさそうだ。

 そういえば先ほどの屍生馬だかが食んでいた死骸も、野生動物のそれにしてはどうも不自然だった。

 こういつ廃棄された坑道などに、よく住み着くものというと……。

 

「たぶん、コボルド」

 

 鉱石が尽きてきたなどの理由で廃坑になった後にコボルドが住み着いたのか、そもそもコボルドがやってきたために廃坑になったのかまではわからないが。

 

「コボルドねえ。まあ、大した相手じゃないわね」

「でも、ゾンビとかいうやつになってるかもしれないんでしょ?」

 

 後続する少女らのそんな会話を聞いて、リリーが一旦足を止めた。

 

「……なんか、ファンタジーやメルヘンなゲームとかで聞いた覚えがある名前だけど。そのコボルドって、どんなやつなの?」

「亜人の一種よ。わたしもまだ、実際に見たことはないけど」

 

 ルイズらによれば、コボルドとは犬のような頭を持った亜人の一種らしい。

 犬並みの鋭い嗅覚をもち夜目が利き、群れを成す性質があって、人間を喰らったり、自分たちの信奉する神への生贄に捧げたりする野蛮な種族。

 体格は平均的な人間よりもやや劣るくらいであり、知能の方も同様。

 それなりの力強さはあるものの、一対一ならそこらの平民の戦士でもなんとかなるくらいの、比較的脅威度の低い相手だということだった。

 

「大きな群れには、たまに知能が高くて先住魔法を使うコボルド・シャーマン……神官がいたりすることもあるらしいけど」

「なるほどねえ」

 

 リリーは口に手を当てて、少し考え込んだ。

 

 そのコボルドとやらが普通の人間と大差ない程度の強さなのであれば、おそらく今頃は既に、吸血鬼に皆殺しにされていることだろう。

 シャーマンとやらについてはいたかどうかはわからないが、もしいたとしても、よほどの強さでない限り前知識もなしで吸血鬼に勝てるとは思えない。

 ゾンビ化されていたとしても、あまり特殊な能力をもたない亜人だということであれば、人間の屍生人を相手にするのと同じような感覚でいけばいいだろうが。

 問題は、仮にシャーマンがいたとして、ゾンビ化してもその先住魔法とやらを使えるか否か……。

 

 そんな風にルイズらと話し合っていたところで、リリーは掴んだマフラーから、微かに波紋の脈動を感じ取った。

 

「っ……」

 

 はっとして、洞窟の奥の方を向く。

 

 エジプト・ツアーへの旅立ちの日に母から譲り受けたこのマフラーは、東南アジアに生息するサティポロジア・ビートルという虫の腸の筋を、何万匹分も集めて編んだものだという。

 波紋伝導率が極めて高く、事実上まったく減衰なく波紋を伝えることができ、それを利用して敵に波紋を伝えるための武器、敵の波紋を散らして身を守るための防具、そして、近付いてくる敵の生命の波紋を探知するレーダーとしても機能する。

 もっとも、リリーの未熟な波紋ではまだ完全に使いこなすことはできず、エジプト・ツアーの時点では対波紋用の防具としての機能以外はほとんど利用することができなかったのだが。

 あれから経験を積み、使い魔のルーンによる強化も得た今では、きちんとレーダーとしての役割も果たしてくれているようだ。

 

 風のメイジとして鋭い感覚を持ち、注意力に優れたタバサも、ほぼ同時に気が付いていた。

 

「奥の方から、何か近付いてくる」

 

 それを聞いて、ルイズやキュルケらも緊張した面持ちになり、襲撃に備えて態勢を整える。

 

 もっとも、仮にリリーやタバサが気付いていなかったとしても、不意を打たれることはなかっただろう。

 警告を発したほんの数秒後には、獣じみた唸り声が洞窟の奥の方から近付いてくるのが、誰の耳にも聞き取れるようになったから。

 

『ご、ご主人。ゾンビどもがこっちへくるでー!』

「もうちょっと落ち着きなさいよ。あんたはスタンドなんだから、連中に殺されることなんかないでしょうが」

 

 あいかわらず小心な自分のスタンドに、小声でそう突っ込みつつ。

 

 現在いる場所は十分周囲が開けており、襲撃されたときに特段不利になりそうな要素は見当たらなかったので、一行はその場所で迎撃態勢をとることにした。

 リリーが前衛、ルイズがそのやや後ろで、タバサとキュルケがそれよりももう少し下がった位置に少し散開して陣取る。

 

「あっちの方は、隠れて不意打ちとかって気はなかったみたいね」

「わかりやすくていい」

 

 上等じゃないの、と不敵に微笑んで、キュルケが杖を手に詠唱を始める。

 強力な系統魔法は詠唱に時間がかかるが、事前に準備の時間がありどの呪文を使うのかを決めていれば、あらかじめ唱えて待機させておくこともできるのだ。

 タバサの方は洞窟に入る前からもう既に、杖の先に三発の氷の矢をまとわりつかせ、いつでも放てるように備えてあった。

 

「ルイズ、紫外線照射装置の使い方は大丈夫ね?」

「だ、大丈夫よ。ちゃんと覚えてるわ!」

「オーケー。じゃ、出てきたら私が最初に一発かましてやるから、みんなはフォローをよろしく」

 

 そんな打ち合わせをしていると、ほどなくしてゾンビの一隊が、洞窟の奥の方から姿をあらわした。

 予想通り、コボルドの成れの果てである。

 その数は四体。

 いずれも身長はタバサよりわずかに高い程度しかなく、肌には生気や血の気が感じられないが、それにもかかわらず筋肉の盛り上がった腕や足は恐ろしい力強さを感じさせた。

 犬のような顔の中で、ひどく血走った目が狂気じみてぎらぎらと赤く輝いている。

 

「ぐるる……」

「キャン、キャンキャンギャン!!」

「ウグルルルル!」

「GURUUUUU!!」

 

 お互いに何やら言い合うように唸りながら、こちらに突っ込んできた。

 

「何て言ってるのかしらね……」

 

 まあ、大して興味もないが。

 翻訳してみたところで、どうせ「こいつらの肉を喰うのは俺だぜーッ!」「ウヒヒ、人間の女のあったけー血がすいてーぜ!」「内臓がうめーんだよ内臓が!」「ミンチにしてドッグフードにしてやるうゥあぁァ!」とか、なんかそんなようなことを言ってるだけなのだろうし。

 あるいは、あの御者に生かして連れてこいとか命令されているかもしれないが、いずれにせよわかったところであまり意味はあるまい。

 

『……フゥゥ……』

 

 リリーは波紋の呼吸を整えながら、いきなり手品か何かのように、両手にたくさんのナイフを取り出してみせた。

 もちろん、キャラバンに作らせたものだ。

 

「登場早々で悪いけど……チェックメイトよッ!」

 

 突っ込んでくるコボルドどもに向かって、それらを一度に数本ずつ、矢継ぎ早に放っていく。

 ナイフを作るところまでがスタンドによる能力で、それを乱れ投げして的確に複数の標的を捉えるのは、本体であるリリーの訓練の成果だ。

 それに加えて今はルーンの効果もあるので、狙いの精度は格段に上がっている。

 

「GURURURURUUUU--!!」

「ギャギャギャギャ!」

 

 ゾンビ化して身体能力の増した連中のうち二体は、自分に向かってきたナイフを、身体構造の限界を無視したような急カーブの跳躍でかわしてみせた。

 無理な動きによる過負荷で脚の筋を違えたり骨にひびが入ったりしたとしても、屍生人はもはやその程度の傷を気にも留めないのだ。

 

 残る二体は逆に、飛来するナイフを無視してそのまま突っ込んできた。

 これもまた、多少の傷など気にもしないがゆえの行動である。

 実際、ナイフが二、三本刺さった程度の傷などでは、今の彼らはストップしないだろう。

 

 それが普通のナイフならば、だが。

 

「……GYAUUUッ!?」

「クルャアァァーーッ!!」

 

 ナイフを無視して突っ込んできた二匹は、体のあちこちにその小さな刃が当たった途端に、命中した個所から肉が溶け始めた。

 今回は屍生人が相手ということで、あらかじめ油を入念に塗った状態で作らせてあったのだ。

 油は波紋をよく通すため、投げる前に波紋を込めておけば、吸血鬼や屍生人に対しても大きな効果を発揮する。 

 たまらず苦痛の悲鳴を上げて地面に倒れ込んだところへ、ルイズが発動させた紫外線照射装置の光が降り注ぎ、二体ともそのまま絶命した。

 

 ナイフをかわした二体に対しても、タバサとキュルケがすかさず追撃をかけていた。

 いかな身体能力があろうとも、回避のために無理な跳躍をすれば体勢は崩れ、着地するまでは軌道を変えられない。

 彼女らはそこを狙っていたのだ。

 

 一体に対して、正確に三本の氷の矢が放たれる。

 うち二本が胴と喉に突き立ち、跳躍中だったそいつを壁に縫い付けると、逃れようともがく間も与えずに最後の一本が脳天を撃ち抜いた。

 そのまま被弾箇所すべてを凍結破砕されて、さしもの屍生人も生命活動を停止する。

 

 残る一体には、一抱えほどもある炎の塊が向かっていった。

 そいつは空中で必死に身を捩ってなんとか避けようと試みたが、ホーミング性能を持つフレイム・ボールからは、その程度の動きでは逃れようもない。

 抗議するように大きく開いた口の中に炎塊が飛び込み、最後の一吠えも許されずに頭部を焼き尽くされて絶命する。

 

「やったわ!」

 

 キュルケが快哉の声を上げる。

 

「ひとまずね」

「でも、あの御者がまだ奥にいるはずよ」

「コボルドも残っているかも」

 

 少女らはひとまずの勝利を喜びつつも、小休止の後でまた気を引き締め直して奥に向かった。

 

 

「……なんだァ? あいつら、全員やられやがったのか?」

 

 地面に耳をつけて物音を聞いていた御者は、盛大に顔をしかめた。

 具体的に何があったかまではわからないものの、洞窟に侵入した女どもを捕えてくるように指示して送り出したゾンビ・コボルドどもが全滅したようだ。

 しかも、近付いてくる足音の数はひとつも減っていない。

 

「くそ、役に立たねえ連中だぜ!」

 

 御者は毒づいたものの、内心ではこれはあの女どもを侮っていたかと、少し警戒を強める。

 

「まァ、ガキだとはいえメイジだからな……」

 

 一人だけは平民の水兵だったが。

 しかし、どの道、こちらの勝ちは動かないだろう。

 男はまだまだ残っている手駒に目をやって、にんまりといやらしい笑みを浮かべた。

 

(なァに。たったの馬二匹と犬四匹がやられただけじゃねぇか。そのくらい、何でもねぇや)

 

 むしろ、少しは抵抗してくれた方が、あの女どもを這いつくばらせてやったときの楽しみも増すというものだ。

 

「さぁて……」

 

 それではどうやって、奴らを仕留めてやろうかと。

 男は頭の中で、悠然と算段を立て始めた……。

 





波紋マフラー:
 ゲーム2周目以降の「カオスモード」選択時、主人公が波紋使いの一家である場合に旅立ち前に母親からもらえる装備品。
身に着けると太陽属性のダメージを半減し、波紋の状態異常を100%防止する。
サティポロジア・ビートルの腸で作られたものであると解説欄に明記されており、原作でストレイツォやリサリサが持っていたものと同様の品だと思われる(波紋家族時の母親は外見もリサリサにそっくり)。

投げナイフ・乱れ投げナイフ:
 キャラバンがゲーム内の宿泊イベントで習得できる技で、敵に物理ダメージと出血多量の状態異常を与える。
油を塗った状態で生成して波紋を流すのは本作のオリジナルだが、本体が波紋使いなら原理的に十分可能なはずで特に難しくはないかと。
通常よりもSPの消費が若干増える程度でしょう。
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