7人目のスタンド使い魔 ~キャラバンAct2!~   作:ローレンシウ

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第二十四話 既習と奇襲

 

「……うぐ……」

 

 勝利を確信して嘲り笑う神官を前に、リリーは顔をしかめた。

 悔しさや怒りといったような感情からではなく、このあたりに漂っている強い臭気のためだ。

 そこらに散乱しているコボルドの血や肉片や臓物のそれもあろうが、神官のほうからも獣臭に腐った血の匂いが入り混じったような、ひどい悪臭がする。

 エジプトツアーの最中に出会った、屍生人になってからある程度日が経っているらしい個体の中には、体から腐り水のような吐き気を催す臭いがする者もいたが……。

 

(屍生人になったばかりなんだから、まだ体の腐敗は進んでないでしょうに……)

 

 とすると、これは神官が身に着けている獣由来の装身具から発せられている臭いだろうか。

 あのどす黒いローブは、あるいは獣の血とかで染められているのかもしれない。

 こっちの体や服にまで嫌な臭いが染み付きそうだ。

 

(やれやれだわ)

 

 こんな場所でなければわざわざ近付くまでもなく遠間からミサイルとかを一発ぶっ放して終わりにできたのだろうが、ルイズにも言ったとおり、ここでそんなことをすれば洞窟が崩れてこっちまでお陀仏の可能性がある。

 ジョセフ・ジョースターあたりなら、もっとスマートなやり方を思いついたのかもしれないが……。

 

「くくく。では、そろそろ撃ち殺してやるとしようかなァ?」

 

 リリーが顔を歪めたのを恐怖のあらわれと捉えた神官は、ハフハフと嘲るような呼気を漏らしながら、嬲るようにゆっくりと手を持ち上げる。

 

「なにか、言い残すことでもあるかァ?」

「毎度アリ。でもそれは、こっちのセリフなのよね」

 

 リリーは、足を捕らえられて一見、絶体絶命の窮地にもかかわらず、腕組みをしながら肩を竦めた。

 

「なにィ?」

「なにか言い残したいことがあるのなら、今のうちに言っときなさいってことよ」

 

 そう言いながら、なんとか抵抗しようとデルフリンガーを構えるどころか、それを足元に転がしてしまう。

 

「お、おい、相棒?」

「あー。悪いけど、ちょっと待っててね」

 

 デルフリンガーが抗議か困惑かで声を上げるが、リリーは素っ気なくそう答えた。

 

「……負け惜しみかァ? 精霊の力を知らぬ愚か者がァ……。ここは、我が『契約』した場所だ。この場所で、この状況で、貴様に勝ち目などあると思っておるのかァ?」

 

 人間の使う系統魔法は詠唱が長く、強力な効果の呪文であればあるほど、発動するまでが遅くなる。

 対して精霊魔法、人間の言うところの先住魔法は、術者が精霊との契約を事前に結んだ場所であれば、口語による短い指示だけで速やかに強力な効果を発揮する。

 ゆえに、この廃坑内であれば、正面きっての戦いで負けることなどない。

 

「あんたはその契約だかをした場所で、吸血鬼に負けたんじゃないの? そうして屍生人になってるんだから」

「痴れ者がァ……。我が主ならばいざ知らず、毛無しザルごときに遅れを取ることなどないわ。ましてや貴様はメイジとやらですらない、ただの杖無しではないか!」

「あの御者だってメイジじゃないでしょうに。それに、私たちは毛無しザルであいつは違うって、あいつはそんなに毛深いやつだったかしらね?」

 

 とぼけた事を言うリリーに、神官は目を剥いて激昂した。

 

「……ぬうぅウゥ! 愚弄するかァァーーッ!!」

 

 怒りに任せて杖を振り上げ、口を開いて喚くように精霊への攻撃指示を出そうとする。

 が、それよりも早く、リリーの手が閃いた。

 

 ガガガガガガッ!

 

 立て続けに銃声が響く。

 リリーが腕組みをするふりをして死角に隠した右手で素早くキャラバンの袋から取り出したマシンピストルの連続射撃が、神官の喉に風穴を穿っていく。

 予想外の攻撃に、その屍生人はろくに反応もできなかった。

 

「つ、ビュッ!??」

 

 つぶてよ、という精霊への指示の最初の一言を発声する前に、喉笛を蜂の巣のようにされてしまう。

 

「だから、言い残したいことは今のうちにって言ったでしょ」

 

 そう言いながら、撃ち終えたマシンピストルを放り捨てる。

 先ほど神官が精霊とやらに別の指示を出そうとしたためなのか、あるいは術者が大きなダメージを負ったせいなのか、足のロックは外れていた。

 後で波紋を練って岩を砕くとかしようと思っていたのだが、手間が省けた。

 

 神官は、今度は怒りからではなく、別の意味で目を剥く羽目になった。

 

(な……何だァァ、この攻撃はァァァ!?)

 

 隠し持ったナイフか何かの飛び道具を使ってくるかもしれないというくらいのことは、神官も想定はしていた。

 契約した場所で戦う限りはのろまな人間の魔法など敵ではないが、投擲武器のような飛び道具の類は一応警戒しておかなくてはならない。

 だがそれも、この距離で真正面からなら、しかも今の自分の身体能力であれば、まずかわせぬということはあるまい。

 おまけに今の自分にとっては、少々の刃物なぞが刺さった程度では問題にもならないのだから、恐れるべき何事があろうか。

 そう、高を括っていたのだ。

 

 いきなり喉笛めがけてナイフよりも遥かに高速なマシンピストルによるフルオート射撃が飛んでくるなどと、想像できようはずもなかった。

 

 屍生人にとっては喉笛を撃ち抜かれても致命傷にはならないが、彼らには吸血鬼のような再生能力はない。

 穴だらけの喉ではまともな発声はできず、したがって精霊魔法はもはや使えないのだ。

 そうなってしまっては神官も、ただのコボルドにしか過ぎない。

 

「こっちが知らないって決めつけてたようだけど、事前に予習くらいしてくるわよ。既習事項じゃなきゃ、テストで正答が出せるわけないでしょ?」

「……ゥ、ぉゥゥッ……!」

 

 神官は穴だらけの喉を押さえながらヒューヒューという音の混じった唸りを上げ、狂ったように腕を振り回す。

 それを受けて、そこらに散乱していたバラバラ死体のようなコボルド・ゾンビどもが爪だの牙だの、血管針だの、牙の生えた臓器だの変形した肋骨だのを武器として、四方からリリーに飛び掛かろうとした。

 だが、先ほどのような不意打ちでもない限り、エジプトツアーで数多の屍生人どもの群れの中を突破してきた彼女に通用するはずがない。

 

『……コォォォ……』

 

 既にリリーは、呼吸を整え終わっていた。

 まずは、真っ先に飛びかかってきた一匹の鼻面へ拳とともに波紋を叩き込み。

 

「ボナボナボナボナボナボナボナボナッ!」

 

 それを皮切りに、順次飛びかかってくる屍生人の方へ体の向きを変えていきながら、片っ端から手刀やら拳骨やら蹴りやらのラッシュをブチ込んでいく。

 波紋攻撃術の基本にして奥義とも言える技、『山吹色の波紋疾走(サンライトイエロー・オーバードライブ)』だ。

 

「GURUUUUUUUッ!?」

「ギャィン!」

「ブゲチァアァァッ!」

 

 滅多打ちにされて吹き飛んだゾンビ・コボルドどもが煙を上げて溶け崩れ、今度こそ本物の屍になる。

 屍生馬を蹴散らした地裂波紋振動で神官ごとまとめて吹っ飛ばしたほうが話が早いのだろうが、地面を裂く振動を伝えるこの技で万が一にも洞窟が崩れてきたりしてはたまらない。

 よって、まず滅多なことはないとは思うが、ルイズの爆発やミサイルなどの高威力な火器と同様に、念のため使用を見合わせていた。

 

「ピ、ギィぃィ……ッ!!」

 

 部下どもをあっけなく蹴散らされ、最後に残った神官が半ば自棄を起こしたように呻きながら飛び込んできた。

 その目が血走っているのは怒りからか、それとも恐怖からか。

 

「潔し……というよりは、苦しまぎれの攻撃と見たわね」

 

 リリーは慌てず騒がず、地面に転がしたままのデルフリンガーを神官に向かって蹴り上げた。

 

「金属を伝わる波紋、『銀色の波紋疾走(メタルシルバー・オーバードライブ)』ッ!」

「うぉぉおおっ!?」

 

 蹴られた勢いで回転するデルフリンガーの刀身が、飛び込んできた神官を両断した。

 既に喉をやられている屍生人は最後の一吠えも許されずに絶命し、真っ二つになった屍がしゅうしゅうと溶け崩れていく。

 

「ボナ・ノッテ、キャニィ(おやすみなさい、ワンちゃんたち)。……人間のエゴのせいで気の毒だけど、安らかに眠ってね」

 

 そんな決め台詞を言ったところで、蹴られたデルフリンガーがぼやいた。

 

「相棒よぉ……ちょっと、俺っちの扱いが悪いんじゃねぇのか?」

「ごめんなさいね。作戦上のことで、悪気はないのよ」

『せやで。ご主人が後でわしから買ったとっときの磨き布できれいに拭いたるから、許したってやー』

 

 そんなやり取りをしながらもデルフリンガーを回収すると、リリーはルイズらの方を確認する。

 すると、ちょうど向こうも彼女らの方を襲ったゾンビ・コボルドどもを片付け終えて、こちらへやってこようとしているところだった。

 

「ミズル、大丈夫!?」

 

 向こうから不安そうに駆け寄ってくるルイズに、ミズルは安心させるように軽く笑いながら、さっき屍生人に噛まれた方の腕を振って見せてやった。

 この程度はキャラバンが作れる医薬品で軽く治る程度の浅手でしかないし、波紋の呼吸をしていれば痛みもほとんど感じない。

 

「毎度アリ。ええ、特に問題は……」

 

 ミズルはそこで、首に巻いたマフラーの脈動に気付き、はっとした。

 

「ルイズ、危ない!!」

「え?」

「左上っ!」

 

 叫びながら、ナイフを取り出して投擲する。

 狙いは、ルイズの左上方にある大きな鍾乳石の、その陰からちょうど今、ほんのわずかに顔をのぞかせたばかりの男。

 

 だが、リリーの放ったナイフが届くよりも早く、その男、吸血鬼となったあの御者は、ルイズに向けて機構弓の矢を放っていた。

 

 

「……!!」

 

 ルイズの少し後ろの方からやってきていたタバサは驚愕した。

 彼女は周囲の空気の流れには常に注意を払い、残敵の気配がないか警戒しながら行動していたのだ。

 優秀な風メイジである彼女は、不意打ちに対処できないほど近くにいる敵の存在を見落とすことなどないと自信をもっていた。

 実際、これまでに襲ってきたゾンビ・コボルドどもの位置はすべて前もって把握しており、それゆえに焦ることなく適切な対処を行えたのだ。

 なのに、その位置にいる敵の存在には、今の今までまったく気付いていなかった。

 

 しかし、それも無理はないこと。

 

 タバサは優秀なメイジだが、風のメイジは空気の流れの変化によって周囲にいる敵の、正確に言えば動いたり呼吸したりしているものの存在を読み取る。

 しかるに、かのDIOが海の底で百年間も生き延びてきたことからも明らかにわかるように、吸血鬼はその気になれば呼吸しなくても生存し続けることができるのだ。

 したがって、吸血鬼が完全に呼吸を止め、まったく身動きしないようにしていれば、風のメイジにはその存在を感知する術がない。

 

 波紋マフラーによる生命探知は有効だが、それも相手が息をひそめてただじっと動かずにいるだけの状態では、かなり近づかない限り感知することは困難だろう。

 油断していたとはいえ、目の前でバラバラ死体のふりをしていたゾンビ・コボルドにも不意を打たれてしまったわけだし。

 そのために、かなり高い位置にあった鍾乳石の陰でじっと機会をうかがっていた御者の存在には、彼がいよいよ好機と見て動き出すまでは気付くことができなかったのだ。

 無論、それはリリーの未熟さゆえでもあり、たとえばあのリサリサなら、また話は違ったかもしれないが。

 

 いずれにせよ、タバサにはそのような事情は分からない。

 

(そんなはずは……!)

 

 予想外の事態に、ほんの一瞬、頭の中が空白になる。

 すぐに立ち直ってルイズへの攻撃を防ぐための呪文を唱えにかかったが、今から唱えたところで、既に放たれた矢を防ぐのには間に合うはずもない。

 

 タバサはチェスの対戦のように、瞬時に先を読んでそれに応じた作戦を立てて戦うのが得意だが、途中で予想外の事態が起こると判断を誤りやすい傾向がある。

 己の実力に自信を抱いているからこその弱点だと言えよう。

 

「あんなところに!?」

 

 キュルケは、なおさら間に合っていなかった。

 

 しかし、彼女は今さら自分がルイズを守るためにできることはない(彼女の炎弾は、既に放たれた矢弾を後発で遠距離から焼き落せるほど速くない)と悟ると、即座に詠唱する呪文を防御から攻撃に切り替えた。

 狙いは、鍾乳石の陰にいる敵だ。

 自分の『フレイム・ボール』なら、敵の位置さえわかっていれば遮蔽物があってもホーミングして迂回し、攻撃を加えることができる。

 

(あの御者ね! あいつ、ルイズに万が一のことでもあったら、生まれてきたことを後悔させてやるわッ!)

 

 

(だめ、間に合わないッ!)

 

 リリーは、自分の投げたナイフが敵の攻撃を妨害するのに間に合わなかったのを知った。

 だが、ルイズへの警告だけは、間一髪で間に合っている。

 

「ひッ!?」

 

 言われるままに左上の方を見たルイズは、恐ろしい速さで風を切って飛んでくる矢に目を見開いた。

 そのままでいれば、脳天を撃ち抜かれて即死だっただろう。

 慌てて、地面に身を投げ出すようにして横に飛んだが、肩口のあたりを矢が掠めた。

 そこまでの深手ではないが、肉がわずかに抉られ、血が噴き出す。

 

「い、痛ッ……!」

 

 苦痛に顔をしかめながらも必死に身を捩って吸血鬼の方に向き直り、紫外線照射装置のスイッチを押す。

 しかし、光は放たれなかった。

 吸血鬼の放った矢が機械のどこかに当たって破損したせいか、あるいは横へ飛んで倒れたときに岩肌に打ち付けた、その衝撃のためか。

 それとも肩の傷口から噴き出した血が、焦点レンズや機械に飛び散って付着したのが原因か。

 いずれにせよ、再使用するためには入念なチェックと修理が必要になるだろう。

 もっとも放たれていたとしても、間一髪で岩陰に身を戻してリリーのナイフを避けていた吸血鬼には、光が届くことはなかっただろうが。

 

「いひヒヒヒ。殺り損ねたけど、まあいいぜぇ。これで、その秘宝とやらは使えなくなったからなぁ~」

 

 たかが小娘のメイジどもなど最早楽勝だという自信はあったものの、この御者、ドノヴァンは、これまでの人生の経験からくる慎重さも持ち合わせていた。

 そのため、最初は手駒のゾンビ・コボルドどもに任せて様子を見ていたのだが、彼女らの戦いぶりを見て、それは正解だったと感じていた。

 最初から戦いに加わっていたら、あの妙な光を出すマジックアイテムらしき武器で痛い目に遭わされていたかもしれない。

 

(学院の秘宝とか言ってたなぁ。吸血鬼を作る仮面と、そいつに対抗するための武器ってわけかい)

 

 だが、それももう心配はない。

 隙を見て奇襲をかけ、殺し損ねはしたものの、秘宝とやらは使えないようにさせられた。

 あの武器を抜きにしてもなかなか手強い連中のようだが、手の内は既に見せてもらったし、対処のしようはあるだろう。

 

 屍生人どもともっとうまく連携してやれればなおよかったのだろうが、残念ながら人間の言葉が通じるコボルドは神官しかいなかった。

 屍生人どもは主である吸血鬼には忠実だが、互いの言葉がわからないのでは大まかな意思の疎通くらいはできても、詳細な作戦の打ち合わせなどはできない。

 もちろん神官を介して命令を伝えることはできるが、手間がかかるし確実性に欠ける。

 普通のコボルドでは『女どもを殺さず捕まえて連れてこい』という程度の単純な命令ならともかく、複雑な状況で機転を利かせてうまくやってくれるかには不安があった。

 そのため、バラバラ死体のふりをさせて不意を打たせるとか、岩陰に潜ませておくといった、比較的単純な作戦を指示するにとどめたのだ。

 この女どもさえ手に入ればそっちの方が様々な意味でずっと有用に決まっているのだから、コボルドの手駒なぞ別にここで全滅してもいい、この洞窟限りの捨て駒扱いで構わないと割り切っていた。

 

「こいつ、焼き尽くしてやるわッ!」

 

 キュルケの『フレイム・ボール』が飛んだ。

 見えないが、鍾乳石を迂回し、その陰にいた吸血鬼に命中したようだった。

 

「あちィ! ……ウヘへヘ。でも、大したことはねェぜぇぇ~」

 

 吸血鬼は嘲りながら、隣にある別の鍾乳石の陰に、そしてまた次にと、素早く移動していく。

 盾に使ったのか左腕が黒焦げになっていたが、見る見るうちに再生していった。

 

「……な、何なのよあいつ……。あたしの炎を喰らって……」

「ルイズ、大丈夫!?」

 

 リリーはすごい速さでルイズの元に駆け付けると、ルイズの傷を確かめた。

 その左手で、ルーンが光を放っている。

 

「だ、大丈夫よ。わたしのことより、あいつに気を付けて!」

 

 少し遅れて、キュルケとタバサも駆けつけてきた。

 しかし、その時には吸血鬼は、いくつもの鍾乳石の間で素早く移動を繰り返し、皆の視界から姿を消していた。

 

「あ、あいつ……どこ? 今は、どの岩の陰にいるの?」

「……見失ったわね」

「タバサ、あなたなら……」

 

 キュルケに声をかけられたタバサは、どこか悔しげな様子で小さく首を横に振った。

 

「動いていない。息を殺している」

 

 少女たちは息を飲み、四人で円を組むようにして、周囲を警戒する。

 

(……う、ぅう……)

 

 傷ついた肩口のあたりを押さえるルイズの手が震えている。

 普段は誇り高く勇敢な彼女だが、先ほどの生々しい恐怖と苦痛の記憶が、彼女の脳裏にこびりついていた。

 次の瞬間にも、どこかの物陰からまた矢や刃物が……、もしかしたら、あの吸血鬼になった御者自身が飛び出してきて、今度はかわす間もなく命を奪われてしまうかもしれない。

 そして、これまで屍生人どもを蹴散らしてくれたあの秘宝にも、もう頼れない。

 

 その時、隣にいるリリーがルイズの震える手に、そっと自分の手を重ねた。

 

「……あ」

 

 不思議と、温かい何かが流れ込んでくるような感覚がして、傷の痛みが薄れ、消えていく。

 体の震えが止まり、胸に勇気が生まれた。

 もちろん、それは波紋の呼吸によるものだったが、ルイズはそれ以上の何かを与えられたように感じていた。

 

(そうよ。さっきもミズルが助けてくれた。そして今だって、わたしの隣にいてくれるじゃないの)

 

 それに、キュルケも、タバサもいる。

 この頼もしい仲間たちがいれば、あんな御者の何が恐ろしいものか。

 

 さあ、いよいよ大詰めだ。

 はたしてあの御者は、あの狡猾な吸血鬼は、どう出てくるのか……。

 

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