7人目のスタンド使い魔 ~キャラバンAct2!~   作:ローレンシウ

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第二十七話 ダンス・トゥナイト

 トリステイン魔法学院春の定例行事、『フリッグの舞踏会』は、アルヴィーズの食堂の上の方にある二階ホールで行われていた。

 女神の名を冠するこの舞踏会は、ウルの月の第一ユルの曜日に開かれることになっている。

 新年度を迎え、さらなる親睦を深めることを目的とした舞踏会ということで、教師も生徒も参加する。

 まあ、内容はよくある貴族同士の立食パーティ兼ダンスパーティといったところだが、まだそういった華やかな場に不慣れで初々しく夢見がちな学生たちにとっては心躍るイベントなのは間違いない。

 そのためか、このパーティで踊ったカップルは将来結ばれるなどというロマンチックな伝説も、まことしやかに語られていたりするらしい。

 

「さすがに貴族様のパーティっていうだけあって、華やかねえ」

 

 リリーはそうひとりごちる。

 オスマンに勧められたこともあって、また、せっかくのパーティなのに参加しないのはもったいないという思いもあって、彼女も会場へ足を運んでいた。

 風変わりな装いをしてきたためか、なかなかの注目を集めている。

 まあ、世間に名の知れた凶賊を捕えたという噂は既に広がっており、そのために特別に招かれたゲストだから、というのもあるだろうが。

 

 その服装に関してだが、言うまでもなくリリーは、こんな舞踏会向けの衣装など持っていない。

 持ってるのはキャラバンの異次元で気分転換するときに持ち出す用の、エジプトツアーのときに手に入れたあれやこれやの品物と旅行用具、多少の日用品や着替えなどが詰め込まれた荷物袋。

 ある意味パーティ会場向けと言えなくもないが、まさかエジプトツアーの最中になんの因果でか手に入れたバニースーツなどを着てくるというわけにもいくまい。

 まあ、学院から借りれなくもないかもしれないが、まだ腕も治りきってないのにコルセットで締め付けた着心地の悪いドレスなぞは勘弁である。

 ではいつも通りのセーラー服なのかというと、そういうわけでもない。

 せっかくのパーティなのに普段着のままというのもそれはそれでつまらない、目立つのが嫌いというわけでもないし、どうせ遊ぶなら多少は派手に、という気持ちもあった。

 というわけで、今の彼女の装いはというと、オフショルダートップスとジャンパースカートを組み合わせて大人の女性っぽくしたコーデの上から「ミンクのコート」を羽織り、唇に「ピンクダークルージュ」を塗って、「金のバレッタ」や「真珠の首飾り」、「プラチナの指輪」に「パンジャ」などの装身具を身につけた姿である。

 あまりダンス向きの服装でもないだろうが、特に誰かと踊ろうというわけでもないし、自分的にはこれは任務成功の打ち上げパーティだと思っているので別に問題ない。

 平民に自分から申し込んだりしては品位が落ちるという考えからか、あるいはカップルがどうのという件の伝説を気にしているためか、今のところ彼女をダンスに誘う男子もいなかった。

 

 ダンスパーティで踊らずに何をしているのかといえば、もちろん会場には酒やご馳走もふんだんにあるので、それをつまみながら他の客を眺めたり、音楽に耳を傾けたりと、パーティの雰囲気を楽しんでいるのだ。

 異世界でなくても、こんな舞踏会なぞに来る機会はそうそうない。

 楽師たちによる生演奏の小さく流れるような音楽、それに乗って優雅に舞い踊る(というにはややぎこちないステップの者が多いようだが、まあ年若くて不慣れな学生がメインとなれば当然か)着飾った男女たち。

 男子生徒たちは夢中になって目当ての女子生徒にダンスを申し込み、女子生徒たちは意中の男子生徒をちらちらと盗み見る。

 にぎやかな喧騒に、食べ物や香水のいい香り。

 なんとも煌びやかで華やかだった。

 この手のパーティが特に好きというわけでもないが、来たら来たでそれなりに楽しめるものだ。

 

「似合う」

 

 開場のあちこちで繰り広げられている男女の駆け引きなどどこ吹く風で、黒いパーティドレスを着てテーブルの料理をハイペースで平らげていたタバサが、近くに来たリリーにそう言った。

 短くまとめた青い髪と透き通るような碧眼、整った顔立ちで文句なしに美少女と言って差し支えないタバサだが、リリーとはまた違う理由から、彼女にダンスの誘いをかける男子はいない。

 身長百四十二サント、十五歳にしても稚い子供のような肢体はダンスや恋のパートナーとしては面白みに欠けるし、それよりなにより、あまりにも非社交的に過ぎるその性格が問題なのだ。

 普段から話しかけても無反応、ダンスの申し込みを断られるどころか無視されるであろうことが目に見えているというのでは、プライドの高い貴族子息ならずともあえて誘ってみようなどという男がそうそういようはずもあるまい。

 まあ、本人の側もそれで不満もなさそうに食事に専念しているのだから、別に問題はないが。

 

「ありがとう。あなたのドレスも素敵ね」

「母様のお下がり」

 

 そう答えたときのタバサの表情がほんの少し曇ったようだったとまでは、まだ彼女との付き合いも短いリリーには気付く由もないことだった。

 

「そうなんだ。実は私の格好も、お下がりってわけじゃないけど、お母さんのファッションを参考にしてるのよね」

 

 リリーがいま身に着けているコートやルージュ、装身具の多くはエジプトツアーの最中に手に入れたもので、それ以外はキャラバンの能力で一時的に作らせたものだが、ベースになる服装のコーデはリリーの母親がよく着ているものを参考にしている。

 ついでに「サングラス」なぞをかけているのも、母親がよくそうしているからである。

 母親は結構いい年の女性なのだが、波紋の恩恵なのか非常に若々しくて、普段からファッションにも気を配っているのだ。

 

「そう」

 

 タバサはそう呟くと、それで話は終わりだというように、再び料理の皿に向かい合った。

 肉料理を細い体に似合わぬ早さでもぐもぐと平らげていく彼女の姿を見て、リリーの脳裏にふと知り合いの顔が思い浮かぶ。

 

『やっぱりお肉ですわね!(もぐもぐもぐもぐ)』

 

 彼女が思い出しているのは、エジプトツアーの最中に知り合った、最初は刺客として襲ってきたものの返り討ちにしたら帰りの旅費をよこせと騒ぐので途中まで一緒に旅をしたレインボウという名の女性のことだった。

 彼女がここにいたら、嬉々として片っ端から料理を貪りまくるに違いない。

 同行中もジョセフにたかって、あちこちで現地の美味しい料理を食べ歩きしていたようだし。

 とはいえ、実際に食べている様子を見ていると、同じ大食いでも地の品や育ちの良さが出ている知的なタバサといわゆるアホの子な(実年齢はリリーよりも何歳か上らしいが)レインボウとではだいぶ雰囲気が違う。

 そういえば、彼女の中身とは不釣り合いなあの表向き妙に品の良さげな喋り方や外見は、元々はこういう上流階級のパーティに憧れてそこに入り込んでご馳走をいただくために覚えたのだとか、なにかの折に本人が得意げに話していたような覚えがある。

 幼少期から日常的にそんなパーティあらしやカツアゲを繰り返して生活していながらこれまでに一度も捕まっていないのは、その野生児的な格闘センスとずば抜けた身体能力もさることながら、おそらくは周囲の人間の判断力を鈍らせて催眠のような効果をもたらすスタンド能力による部分が大きいのだろう。

 本人にはスタンド使いの自覚がなく、自分は凄腕の催眠術師だと思いこんでいたようだが。

 

「あなたたち、踊らないの?」

 

 そこへ、人ごみの中から現れたキュルケが声をかけた。

 彼女はそのボリュームたっぷりの肢体を強調するようなドレスに身を包み、その魅力に釣り合う数の男子生徒に取り巻かれている。

 

「今日の主役は、フーケを捕まえたあたしたちなのよ。楽しまないでどうするの。せっかく、そうして素敵な格好をしてるのに」

「んー。そうは言っても、平民と結ばれたい貴族様なんて、いないでしょうしね?」

 

 リリーは件の伝説を引き合いに出して、肩をすくめて笑った。

 

「まあ、私なりに楽しんでいるつもりだから」

「同じく」

 

 そう言って食事をつまむ二人に、キュルケは呆れたように腕組みをして鼻を鳴らす。

 

「まったく。そんな言い伝えはただの耽美趣味よ。踊っただけで結婚するだとか、バカバカしいったらありゃしないわ」

 

 確かに、踊っただけで将来結婚することになるのなら、キュルケなんか今夜一晩だけで二十人は夫が増えそうな勢いであるが。

 キュルケは目を細めると、二人の肩に腕を回した。

 

「自分なりに楽しむっていうけどね、舞踏会っていうのは踊るものよ。そうでなきゃ満喫したとは言えないわ。いま、あなたたちのパートナーを見つけてきてあげるから、ちょっと待ってなさい」

 

 そう言ってタバサの頬にキスをすると、キュルケは取り巻きを引き連れて、また人ごみの中へ消えていった。

 

「んー……」

 

 リリーはそんな彼女の後姿を見送りつつ、困ったように少しだけ眉根を寄せた。

 確かに彼女の言うとおり、踊っただけで将来結ばれるなんてのは夢見がちな少年少女の幻想以外の何物でもないのだろうが、問題はそれを信じている生徒が少なからずいるということだ。

 踊るのは別に嫌でもないが、ちょっと踊ったくらいのことでろくに知りもしない男子に明日からベタベタされたり、あまつさえ彼氏面でもされたりするというのは遠慮したい。

 キュルケだったらそんな相手は軽く燃やして追っ払えばいいかもしれないが、何分こっちは平民で相手は貴族なのだ。

 身分差があるゆえにおそらくは向こうもそんなつもりはさらさらないだろうが、逆に言えばこっちは社会的に向こうよりも立場が弱いわけで、万が一変に気に入られでもして執着されたりすればそれだけ面倒なことになる。

 とはいえ、いささか押しつけがましくはあるものの、キュルケの側としては好意でやってくれていること。

 断固踊らないというのも、それはそれで彼女に申し訳ない気もするし……。

 

 そう考えたリリーは、黙々とサラダの皿をつつくのに戻ったタバサに目をとめた。

 

「……ねえ、タバサ」

 

 声をかけると、彼女は返事はしなかったが、なに、というようにリリーの方に視線を向けた。

 サラダをもぐもぐと咀嚼しながら。

 

「不躾なようだけど、あなたが踊らないのは、男子に興味がないから? それとも例の言い伝えだとかで、踊った後で彼氏面で付きまとわれたりしたら面倒だと思っているから?」

「両方」

 

 その返事を聞いたリリーは、我が意を得たりというように頷いて、彼女の方に手を差し出した。

 

「……何?」

「なら、私と踊りましょう。お互いに、面倒がなくていいでしょ?」




リリーの母親:
 リサリサ(エリザベス・ジョースター)にそっくり。
 設定によると彼女の母(リリーの祖母)はシーザー・A・ツェペリの生き別れになった妹であるらしい。
 エジプトツアーに旅立つ際、リリーは彼女から「波紋のマフラー」を譲り受けている。
 ちなみにリリーの父親はウィル・A・ツェペリ男爵に、兄はシーザー・A・ツェペリにそっくりである。

レインボウ:
 7人目のスタンド使いオリジナルのキャラクター。
 生まれつきの身体能力と野生児的なセンスに恵まれた女性(作者によると「ストZEROのダンくらいには強い」らしい)で、物心ついた頃から主にカツアゲで生活している。そんな生まれ育ちの割には一見妙に品がよさそうな外見や言葉遣いをしているが、これは上流階級のパーティに潜り込んでご馳走を食べたい一心で見様見真似で着飾ったり言葉遣いを真似たりして身につけたもの。
 一応はDIOの刺客の一人なのだが彼のことは何も知らず、エンヤ婆特製のスタンド使いにしか見えない求人ポスターを目にして、そこに書かれていた報酬1億ドルに釣られて日本へ来ただけである。自分がスタンド使いであるという自覚もスタンド能力に対する理解もなく、身体能力を頼みに主人公と戦ったが、あえなく敗れる。
 スタンド名は「ベント・アウト・オブ・シェイプ」で、広範囲にいる人々の脳に作用して判断力を狂わせる催眠能力をもっている。彼女は金を巻き上げる口実のひとつとして催眠術や占いを披露しており、自分でも才能があると思っているが、実際には無意識に使っているスタンド能力によるもの。
 カオスモードでは、選択次第では撃破後の彼女をエジプトツアーに同行させることができる。
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