7人目のスタンド使い魔 ~キャラバンAct2!~   作:ローレンシウ

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第二十八話 ダンス・トゥナイト2

「……ふう」

 

 今夜の舞踏会の主役の一人であるルイズは、ホールの片隅でゆるゆると食事などつまみながら、小さく溜息を吐いていた。

 彼女は長い桃色がかった髪をバレッタでまとめ、高貴な印象を与える白いパーティドレスに身を包んでいる。

 その姿と美貌に驚いた男子生徒たちが群がり、今までゼロのルイズと呼んでからかっていた彼女に次々とダンスを申し込んだが、仮にも大貴族ヴァリエール家の令嬢である彼女にはそんな軽薄な誘いに嬉々として応じる気などない。

 すべて断り、一人静かに任務を果たした余韻に浸って時を過ごそうとした……の、だが。

 大手柄にも関わらず、どうもさほど浮かれた気分にはなれなかった。

 この手のパーティではいつも他の人々から離れ、端の方で自分の場所にいて時間を過ごすことに慣れているはずなのに。

 

 うまくやれたのは自分だけではなく仲間たちの、特にリリーの指示やサポートのおかげだという認識はある。

 だが、その点に関して特に後ろめたさがあるというわけではない。

 働きの大小はともかくとしても、自分は少なくとも間違いなく体を張って頑張ったのだ。

 何もしていない他の生徒や教師たちに対しては堂々と手柄を主張する権利があるし、決して今日の働きを誇りに思っていないなどというわけでもない。

 ならなぜなのかと言われれば自分でもよくわからないのだが、なんとなく一人でこうしていても物足りないような感じがした。

 

(ミズルは楽しんでるのかしら……)

 

 ルイズはアルコールに弱い。

 たっぷりの果汁で割ったごく弱い酒をちびちびと飲んでいるうちにすぐに酔いが回って顔が赤くなり、ぼうっとした頭でそう考えた。

 

 リリーが報酬の要求をした時などには苦言を呈したこともあったが、この度の彼女の働きは格別だったと思う。

 指示や機転は的確だったし、多少の怪我や髪を切られることなど気にしない勇気と覚悟もある。

 主人として、また貴族としては容易に認めるわけにはいかないが、尊敬の念さえ抱いた。

 貴族とは魔法を使える者のことではなく、敵に後ろを見せない者のことだと、両親から教わっている。

 その観点からいえば、彼女は間違いなく貴族の精神を持っていると思う。

 波紋とやらによるものかもしれないが、巨大ゴーレムや屍生馬、吸血鬼などに進んで立ち向かうその姿は黄金色に輝いているように見えた。

 

(……話したいな。少しくらい、褒めてあげて。それに、助けてもらったお礼も言わなきゃ……)

 

 自然とその場を離れて、リリーの姿を探す。

 

「……?」

 

 きょろきょろと周囲の様子を伺うルイズは、会場の一角に、ちょっとした人だかりができているのに気が付いた。

 いつもなら自分自身が中心になってたくさんの男子生徒に取り巻かれているキュルケがその集団に加わって、何やら楽しそうに輪の中の様子を見つめていることにも。

 

「キュルケ。どうかしたの?」

「あら、ルイズじゃない」

 

 話しかけると、キュルケがにやっとした顔で振り向いた。

 

「遅かったわねえ。お目当てがミズルなら、もう取られちゃったわよ。あたしも先を越されたって感じだけどね」

「……はぁ?」

 

 怪訝そうに中を覗き込むと、そこで着飾ったリリーがタバサと踊っていたので、目を丸くする。

 女性にしても小柄なタバサとそこそこの身長があるリリーの組み合わせは思いの外映えるので、物珍しさも手伝って結構な注目を集めているようだ。

 もちろん、男役は背の高いリリーの側である。

 飲み込みの早い彼女は食事をつまみながら他のカップルを見ているうちに踊り方を覚えており、後は実践しているうちに慣れて、それなりに見られるダンスができるようになっていた。

 とはいえ、タバサの方が彼女よりも明らかに優雅な動きではあったが。

 学院で時々催されるこの手のパーティではいつも飲み食いしているだけなのに、妙に踊り慣れている様子だ。

 キュルケは目を細めて微笑みながら、そんな親友の姿を見つめていた。

 

(どこで身に着けたのかしらねえ)

 

 留学してくる前に実家で仕込まれたのかもしれないが、彼女もタバサの氏素性などについて詮索したことはない。

 貴族の名とも思えないようなあからさまな偽名を使っていることから見ても、きっと色々と事情はあるのだろうが、別に彼女が何者だろうと親友であることに違いはないので、根掘り葉掘り聞き出そうとする必要も感じないのである。

 

 ちなみにキュルケは当初リリーとタバサにあてがうつもりで十人ばかりの男子生徒に声をかけて連れてきたものの、戻ってみれば彼女らが自分たち同士で踊っていた。

 最初はやや面食らったものの、なかなか楽しそうだし見栄えもしている。

 

(よく考えたら、どうでもいい男相手よりも見目麗しい女同士主役同士で踊って注目を浴びるってのも、今回の場合は割とアリよね)

 

 と思い直したキュルケによって、彼らはあっさりとお役御免になったのだった。

 

「……むー」

 

 気を取り直したルイズは、今度はリリーがタバサの手を取ったり寄り添ったりしながら楽しげに踊っているのを見て、不服そうに顔をしかめる。

 いや別に今夜はパーティだし、リリーは主役の一人だし、誰と踊ろうが自由なのだが。

 仮にもパートナーの自分を差し置いてという若干理不尽な思いがむらむらと沸き起こって、胸を満たしていた。

 そんなルイズを見て、キュルケはくすくすと笑いながら手を広げる。

 

「まったく。不満なんだったら、自分も踊ればいいじゃないの」

「見ればわかるでしょ、相手がいないのよ」

「さっきは結構誘われてたじゃないの。あんたって、理想が高くて行き遅れるタイプみたいね?」

 

 ヴァリエールの典型よと心のなかで続けたキュルケに、ルイズはふんと鼻を鳴らして、胸をそらした。

 

「余計なお世話よ」

 

 キュルケはやれやれだわ、と肩をすくめると、ルイズの前に回って、すっと手を差し伸べた。

 

「何よ?」

「それなら、あたくしに一曲お付き合いいただけませんかしら、レディー?」

 

 そう言って、丁寧に会釈をする。

 男性が女性をダンスに誘うときの作法であった。

 

「……はぁ? 何の冗談よ。このわたしが、ツェルプストーのあんたとダンスだなんて……」

「あら。長年の宿敵であるヴァリエール家のご令嬢にこうして膝を折って申し入れていますのに。そんな対応をするのが、お国の作法なのかしら?」

 

 そう言って、にやっと笑ってみせる。

 

「今夜の主役同士がお互いをパートナーに踊るだなんて、最高の見せ場よ。それをあの子たちだけにさせといて、あたしたちは見てるだけなんてもったいないじゃないの」

「別に、そんなこと……」

「あんたの使い魔にはあたしもだいぶ助けられたし、怪我も直してもらったし。あんただって自分なりにがんばってたじゃない。せっかく、そのことに『敬意』を示してあげようとしてるのに」

 

 キュルケはさっとルイズの手を取ると、それ以上有無を言わせずに輪の中に引っ張り出した。

 

「わ、わっ!?」

「あなたにはどうせ男役なんてできないでしょうから、あたしがやってあげるわ。いつも見てるばっかりだけど、ダンスくらいは実家の方で覚えてきたんでしょうね?」

 

 お手並みを拝見、というように不敵な笑みを浮かべて、キュルケはステップを踏む。

 彼女にしても男役などの経験があるとも思えないが、技術がどうのというより女性らしい肢体と堂々として情熱的な踊り方を武器にして魅せている。

 最初はやむなく踊りだしたルイズも彼女に対抗するように優雅なステップを踏み、互いに相手をリードしようとするような激しいダンスを繰り広げてみせた。

 

「あれ、二人も一緒に踊ってるの?」

 

 タバサの手を取って踊りながら近くに寄ってきたリリーが、彼女らに気付いて声をかける。

 

「ええ。男連中の相手も飽きてきたし、主役同士で踊るなんていいアイディアじゃない。こっちも採用させてもらおうかなってね」

「わたしは、勝手に引っ張り出されただけよ……」

 

 ルイズはほのかに赤い顔をぷいと逸らして、そう言った。

 それから、思いきったように口を開く。

 

「……その、今日はありがとう、ミズル。それに、タバサと、キュルケも」

 

 ルイズが礼など言ったので、キュルケは少し目を丸くした。

 

「いえいえ。お互い様でしょ?」

 

 リリーが微笑んでそう答え、タバサも軽く頷いた。

 

「お互いに迷惑をかけたり支えたりするのが当然の仲間同士で、あらたまって礼を言い合うほどのことでもないわよ。それより、踊って親睦を深めましょう?」

 

 キュルケが楽しげに笑って、より一層ダンスの動きを激しく、熱くさせていく。

 汗が明かりを反射して、まるで宝石飾りのように輝いていた。

 

「終わったら、パートナーを変えてみましょうか。次は、キュルケと私、ルイズとタバサで……」

「あ、あんたはわたしのパートナーなんだから、先にこっちと踊りなさいよ!」

「そうねえ。タバサ、今度は私が踊ったげるわ」

「……そうする」

 

 そんな風に、わいわいと盛り上がる。

 タバサはいつも通り静かで無表情だが、それでも心なしか楽しそうには見えた。

 

「ほー。なんとも華やかでいい雰囲気じゃねえか。これで相棒が男だったら、ハーレムって感じなとこだろうなー」

『そうですなあ、デルフはん。ところであのご主人の衣装は、わしが作ったんやで?』

「馬子にも衣装ってか。いや、相棒は元々てーしたもんだけどよ」

 

 バルコニーに置かれたデルフリンガーと、その傍で彼の相手をしているキャラバンが、彼女らを眺めながらそんな雑談をしている。

 そんな彼らの評などつゆ知らず、タバサと一曲踊り終えたリリーは次にルイズと踊りながら、ちょっと考え込んでいた。

 

(んーっ……)

 

 このままルイズと踊り終えたら次はキュルケと踊る番だろうが、それが終わっても舞踏会の終了時間までは、まだかなりあるはずだ。

 周囲の観客たちの様子を見た感じでは、主役同士が踊っている間は無粋な横入りなどはしてくるまいが、それが終われば男子生徒たちが我先にと申し込んできそうな雰囲気である。

 自分としては「踊った相手と結ばれる」などという曰くのある舞踏会で、男子生徒の相手なぞをして後々変に執着されたりだとか、逆に断って面子を潰されたと恨まれたりだとか、そういう面倒に巻き込まれるのはご免なのだ。

 だから、最初からダンスには不参加を決め込んでいたのだが、一旦こうして踊り出してしまった以上、舞踏会の残りの時間をどうやり過ごしたものかを考えなくてはなるまい。

 まあ、主役の一人とはいえ所詮は平民で水兵で使い魔などという珍妙な女だから誰も申し込んでこないかもしれないが、ルイズらが踊る中で自分だけ壁の花というのも、それはそれで空しい。

 このまま最後まで、代わりばんこにルイズらと踊り続けるというのもひとつの手だろうが、それでは周りが飽きて退屈しそうで、せっかくのパーティなのに「面白くない」し……。

 

(……あ、そうだ)

 

 場の雰囲気とアルコールに酔ったリリーの頭に、あまり無難で賢明だとは言えなさそうなアイディアがひらめく。

 彼女は慎重だが楽天家で、二面性の強いエンターテイナー気質なのだった。

 

「キュルケ、少し待ってて。私はちょっとお色直しをしてくるから、後で踊りましょう」

「え?」

 

 リリーはルイズと踊り終えると、次の曲が始まる前にさっと踊りの輪を抜けてバルコニーからぴょんと外に飛び出していった。

 キュルケなら、しばらく放っておかれても退屈したりはしないだろう。

 休憩して食事するなり、他の誰かと踊っているなり、自分で好きなようにするはずだ。

 

「おい、相棒?」

『ありゃ』

「またねー」

 

 バルコニーを越える際に、すれ違いざまにキャラバンをひっつかんで連れて行く。

 観客もルイズらも、きょとんとしてリリーの後姿を見送った。

 

「……お色直しって……。結婚式でもないでしょうにたかが学園の舞踏会で、凝ってるわねえ」

「あいつ、舞踏会用の服なんて、そんなにたくさん持ってるのかしら?」

 

 持ってるにしても一体どこに、と怪訝そうにするルイズに、キュルケは首を傾げた。

 

「あら、あなたが買ってあげたんじゃないの?」

「まさか。前に王都へ買い物に行ったけど、用意したのは普段着るものくらいよ。舞踏会用の服なんて買わないわよ」

 

 顔を見合わせるキュルケとルイズをよそに、タバサはここぞとばかりにテーブルへ戻って、はしばみ草のサラダを補給しようとする。

 しかし、キュルケは目敏くそれを見咎め、彼女を捕まえた。

 

「ターバサー。あなたまで抜けちゃだめでしょ。主役としてミズルが戻るまで場をつながなきゃ、せっかくの熱気が冷めるわよ」

「…………」

 

 そう言って、諦めたように大人しくしている彼女を、輪の中に戻す。

 

「みんなで踊りましょうよ。音楽をくださる?」

 

 ルイズらは楽師たちがリクエストに応じて奏でた曲に合わせて、三人で踊った。

 その演奏が終わった頃に、見計らったようにリリーが戻ってくる。

 

「お待たせしました」

 

 その姿を見て、皆が呆気にとられた。

 彼女はそれまで着ていた大人の女性らしいデザインの服やアクセサリーがら一転して、白い軍服めいたデザインの煌びやかな礼服を着用し、バルコニーを颯爽と飛び越えて現れたのだ。

 頭には「シルクハット」を被り、なにやら雰囲気まできりっと引き締まった凛々しい感じのものになっている。

 リリーはそのままつかつかと踊りの輪の中に進み出ると、キュルケの前で手を差し出した。

 

「私と踊っていただけませんか、レディー?」

 

 リリーはキュルケよりほんのちょっと背が低いので、男役をするにあたってシルクハットで下駄を履いたのである。

 

「……ぷっ、あはっはっはは! さ、最高! あなた、最高よ」

 

 目を丸くしていたキュルケは、堪え切れないとばかりに吹き出した。

 それから、表情を澄ましたものに整え直すと、いつになく淑女らしくドレスの裾を持ち上げて、リリーの手を取った。

 

「喜んで、ジェントルマン」

 

 つまり、リリーは誰の目にも明らかな男装をして戻ってくることで、「今夜は自分は男役としてしか踊りません」と宣言したわけだ。

 これなら男子から申し込まれる心配はあるまいし、周りを退屈させることもあるまい。

 ちなみに服装のデザインは、彼女が前に読んだベル〇らのオス〇ルを参考にしたもの、というか彼女が作中の舞踏会のシーンで着てたのほぼそのまんまで、シルクハットはエジプトツアーの際に父親から譲り受けたものである。

 父親がなぜかよく着ている(仕事の都合らしいが、家でもそのままなあたり本人の趣味もあるのだろう)礼服にしようかとも思ったが、個人的にあれは蝶ネクタイがダサいなーと思っているのでやめておいた。

 

「おう、キャバ公。お疲れ」

『まったく、ご主人はいつもかも唐突に、気まぐれな注文を出してくれよるわー』

 

 えっちらおっちらとバルコニーをよじ登って戻ってきたキャラバンが、デルフリンガーを相手にぶつぶつとぼやいた。

 

 リリーはキュルケと踊った後、舞踏会の残りの間、他の女子生徒らの申し込みに応じ続けた。

 プライドの高い貴族の女子が自分から男子にダンスを申し込むことは稀だが、相手が同性ならば気兼ねすることもないのか、きゃあきゃあとはしゃいだり頬を染めたりしながら、次々にリリーの元へやってくる。

 ルイズも顔を赤くして、せっかくお色直ししたんだからもう一度自分と踊りなさいなどといってやってきた。

 リリーはそうした申し出にすべて応じ、ついでに仕事の手を止めて見入っていたシエスタとかの使用人の女性まで誘ってみたりした。

 もちろん、あくまでも面倒を避けたいのと場を盛り上げたいのとでそうしているだけであって、彼女の名前がリリーだからといって百合趣味だとかいうわけではない。

 たぶん。

 

「今宵、私は自分だけのロザリーを探すことにしよう」

 

 それにしてもこの使い魔、ノリノリである。

 そんなこんなで、舞踏会は例年にもまして大盛況となり、皆で楽しく華やかな夜を過ごしたのだった。




公式設定によると、スタンドがキャラバンな主人公の性格はエニアグラムのタイプで言えば7w6、「慎重な楽天家」「陽気な商売人」だそうです。
作者様によると、女装テキーラとかやってたあのジョセフ・ジョースターと同タイプと分析されております。
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