7人目のスタンド使い魔 ~キャラバンAct2!~ 作:ローレンシウ
華やかだった舞踏会もようやくお開きとなって、主役の四人は他の参加者たちと別れ、互いに肩を貸し合うようにしながら部屋に戻ろうとしていた。
「あーもう。いい気分ねー」
「あんたの息を嗅いだだけで、酔って気持ち悪くなりそうだわ……」
「…………」
キュルケはワインを何杯もあけてすっかり出来上がっているし、アルコールに弱いルイズも顔が赤らんでいる。
タバサも親友らに勧められてか場の空気にあてられて手を出したのか、珍しく結構飲んだようで足取りがふらふらしている。
「みんな、大丈夫? 後でゲロとか吐かないでよね」
リリーもそこそこ飲んだが、彼女は波紋の呼吸のおかげなのか単に体質の問題なのか、微酔い加減ではあるが割としっかりしていた。
「大丈夫よー。もし万が一吐いたって、あなたのあの服を汚す心配はないでしょ。ああ、きれいだったのにもう脱いじゃって。もったいないわー」
リリーは舞踏会が終わるや早着替えをして、さっさと普段のセーラー服姿に戻っていた。
確かにキュルケも言うとおり、せっかくの華やかな衣装だしなかなか気に入ったのでもうちょっと着ておきたい気もするが、なにせキャラバンの作ったものなので維持し続けるほどにスタンドパワーを消費するのだ。
その分、脱ぐときは単に能力を解除して分解すればいいので始末に面倒がなくて早くて楽だが。
と、そこへ。
「きゅい〜」
タバサの使い魔であるシルフィードが、何やら恨めしげな鳴き声を上げながら、空から降りてきた。
周囲を見回して他に人がいないことを確認すると、あまり声が大きくならないように注意しながらも、不平不満をまくしたて始める。
「ずるい! みんなで楽しそうにきゃいきゃいはしゃいで、おいしいものたくさん食べちゃって! シルフィだってがんばったのね! ごちそう食べたい!」
「あ、そうだったわ。あなたに渡すものが」
リリーはふと思い出したように荷物袋をごそごそとあさって、金貨の入った小袋を取り出すと、シルフィードに差し出した。
「はい。これで、美味しいものでもなんでも買ったらいいわ」
「きゅい、お金? シルフィにくれるのね?」
なんで、とつぶらな瞳でリリーを見つめる。
「あなたも一緒に仕事をした仲間なんだし、屍生馬から怪我をさせられたりして頑張ったんだから。当然、報酬をもらう権利はあるでしょ? 同じ使い魔の立場なのに、私だけ報酬をもらってあなたはノーギャラってのは筋が通らないわ」
リリーは商売人気質で金銭に関してはがめついが、自分で不公正・不公平だと思うような儲け方はしない。
時には多少の損失を被っても人に親切にする場合もあるし、特に仲間は大事にする。
基本的に他人に対してはまず疑ってかかり油断しないが、心から信頼し気を許せる友人はいる、と言えるタイプなのだ。
「あなたの分の報酬の約束は取り付けてなかったから、私の取り分から少し回すわ。それで大丈夫?」
なお、差し出した小袋に入っている金貨の量は三百枚くらいである。
自分から提案して分けはするものの、折半というには少なめな額をまず提示するあたりに、彼女の抜け目のなさとがめつさが出ている。
事前に学院長と交渉して約束を取り付けたりとかしたのはこっちの方なんだから、当然分けはするけど分け前は7:3とか8:2くらいでもいいわよね、という感じだ。
まあ苦情が出れば割合は見直してもいいのだが、たぶん彼女は苦情を言ってこないだろうからという計算もあった。
「きゅい! ミズルさんはおやさしいのね。ケチなお姉さまとは違うのねー」
案の定、シルフィードはタバサに杖で叩かれたりしながらも無邪気に嬉しそうにはしゃいでいたが。
でも、と言って腕を広げる。
「それはそれとして、シルフィはいま何か食べたいのね! こんな時間じゃ、お金で買おうにも人間の町のお店はやってないのね!」
「それだったら、会場に用意されてた料理の残りがまだだいぶあるでしょ。ちょっと顔出して食べさせてってジェスチャーすれば、使用人がくれると思うわよ。片付けの手間も省けるしー」
キュルケがそう言うと、シルフィードはなくならないうちにと、あわてて会場の方へ飛んでいった。
「ありがとう。でも、あまり甘やかさないで」
アルコールで頬を赤らめながらもいつもながらの無表情でその姿を見送ったタバサがリリーの方を見て、ぽつりとそうお礼と、苦言めいたことを言う。
「いえ、別にお礼を言われるようなことじゃないし。彼女をあなたの使い魔として甘やかそうっていうわけじゃないわ。一緒にがんばった仲間として、ごく正当な取り分を渡しただけよ?」
シルフィードがいてくれなければ石仮面を持ち去った御者に追いつき発見することはほぼ不可能だっただろうし、戦って負傷を負ってもいる。
メイジの使い魔的には普通にやって当たり前の仕事をしてるだけということになるのかもしれないが、リリーの視点から見れば、自分ももらっている以上は彼女も報酬を得るのが当然というものだ。
「そう」
内心でどう考えているのかさっぱりわからないぼんやりしたような無表情のまま、タバサが頷く。
その時、闇夜の中から一羽の伝書フクロウが舞い降りて、彼女の肩にとまった。
実をいえば彼は、先ほどのパーティの最中にすでに到着していたのだが、珍しく大勢に取り巻かれて人の輪の中で踊っていた彼女に近付くことは憚られて、今の今まで待機していたのだ。
伝書フクロウはただの動物ではなく、遠方まで手紙を運び確実に宛先の人物に受け渡すため、人語を解し人と意思疎通を図れるくらいの高い知性を有している。
絶対に渡すところを見られてはいけないと言われているわけでもないのだが、一応は秘密の内容に分類される手紙なので、あまり大勢の注目の中で渡すのは望ましくないと自分で判断したのだ。
欲を言えばタバサ一人しかいないときに渡したいところだったが、もういい加減夜も遅くなりタバサも少なからず酩酊した様子で、この分では部屋に戻るや倒れて爆睡などということにもなりかねないと考えたフクロウは、数人の友人程度の前で渡す分には別に問題もあるまいと妥協して、こうして姿を現したという次第である。
「……!」
それまでは酒精に赤らんでぼうっとしていたタバサの表情が、わずかながら、はっきりと硬いものになる。
タバサはフクロウの脚から書簡を取り上げて短くさっと目を通すと、するりと友人たちの腕から逃れ……ようと、したのだが。
「なになにー?」
後ろからキュルケに抱きすくめられて捕まってしまった。
普段ならするりとかわせるはずなのだが、やはり酔ったせいで反応速度や足元が多少怪しくなっているのだろう。
「こんな夜更けにいったいなによ、無粋な手紙ねー」
酩酊したキュルケは、好奇心の赴くままに、ひょいと手紙を覗き込む。
まあ、彼女なら酔っていなくても、手紙を覗くくらいは割と無遠慮に悪気なくやりそうではあるが。
タバサは咄嗟に手紙を閉じようとするが、何分短い文面ゆえ、一瞬で読まれてしまった。
「……んーっ?」
キュルケが目をしばたたかせる。
その手紙にはただ一文だけ、短くこう記されていたのだ。
『出頭せよ』
リリーとルイズも、つられて手紙を見た。
「出頭? 出頭って、どこにかしら?」
「勲章の申請をしたって言ってたけど、その関係ってことはないわよね。それなら、もうちょっと詳しいことを書きそうなもんだし」
こんな短い文面で正確な意図が伝わるのは身内くらいのものだろうが、身内にしては出頭せよなどという言い方は変だし。
「ガリアからの呼び出し」
タバサはわずかに逡巡したが、こうなってしまっては無視したり誤魔化そうとしたりしたところでなおさら詮索されるだけだろうから、この際事実を話すことにした。
もっとも、詳しい背後の事情までは伝える気はなかったが。
「ガリア? いったいまた、なんの用事かしら。出頭しろとしか書かないだなんて」
「いつものこと。わたしはガリアのシュヴァリエ。だから、たまに本国から仕事の要請がくる」
「……ふーん?」
キュルケは怪訝そうに眉をひそめた。
したたかに酔ってはいるが、まだそれなりに頭は回る。
(そういえばこの子ってよくどこかへいなくなっちゃうけど、そういうわけだったのね。でも……)
確かにタバサは腕利きには違いないが、今現在留学生として他国にいる少女を、普通に考えてわざわざ呼び出すはずがない。
魔法先進国と目されているガリアはキュルケの母国であるゲルマニアにも劣らないほどの国土面積をもつ、ハルケギニアでも有数の大国なのだ。
どんな要件だか知らないが、遠方から年端も行かない少女をたびたび呼び戻さねばならないほどに人手が足りないわけがあるまい。
(そのへんに、なにやら込み入った事情がありそうねえ)
とはいえ、彼女の側から話してくれない限り、強いて問いただそうという気はない。
キュルケとタバサとでは性格も年齢もかなり大きく違うが、彼女らが友人になれたのは一年の頃にちょっとしたきっかけがあったのと、あとは聞かれたくないことを、お互い無理に聞こうとしないからというのもある。
タバサは元よりだんまりだが、キュルケは彼女なりに年長としての気配りからそうしているのだ。
お互い、ゲルマニアとガリアという大国の出でありながらトリステインなどという小国にわざわざ留学した身、それなりに事情というものがあろうから。
「わかったら、放して」
腕の中で、タバサがもぞもぞする。
「まさか今から、シルフィードに乗って出かけようっていうのかしら。もう真夜中よ? お酒も飲んでるし。明日の朝になってから出発すればいいじゃないの」
「呼び出しがあったら、すぐに行かないといけない。急ぎ」
キュルケはちょっと目を細めると、タバサをしっかり捕まえたまま、にやっと笑った。
「じゃ、あたしも連れて行ってちょうだいな。お手伝いするわよ」
「だめ。危ない」
「危ないなら、なおのこと行かなきゃでしょ?」
そう言って、同意を求めるように、ルイズとリリーの方を見る。
詮索はしないが、本当に危険な目に遭うかもしれない友人を手伝うのは、それとはまた話が別だ。
リリーは特に悩むでもなく、頷きを返した。
「まあ、ついさっき生死を共にした仲間なんだから黙ってバイバイってわけにもいかないわね。それに、身の危険があるようなお仕事なんだったら、なにかお金になるようなことがあるかもしれないでしょ?」
ルイズは少し顔をしかめたものの、やはり首を縦に振る。
「授業をサボるのはよくないけど……。そう言われると、放ってはおけないわ」
「大丈夫よ。さっきパーティがお開きになったばっかりなんだから、責任者のオールド・オスマンはまだ起きてるでしょ。休暇願を申請していけばいいわ。フーケを捕まえた記念にみんなでガリア旅行に行きたいって言えば文句なんか出ないわよ」
「そうね。タバサも、そのくらいの時間は待ってもらってもいいでしょう? みんなドレスのままだから着替えもしないといけないわけだし、私が学院長を探してお願いしてくるわ」
あっという間に全員ついてくる流れで話がまとまっていくことに、タバサは顔をしかめた。
自分の事情にこの友人たちを巻き込んで危険な目に遭わせるのは本意ではないし詳しい境遇などについて知られたいとも思わない。
いっそのこと、シルフィードを呼び寄せて飛び乗ることで彼女らを強引に振り切ろうか、という考えが頭をかすめるが。
「シルフィードだって、さっき食事に行ったばかりなのに急に呼び戻されたらまた怒るわよ。着替えとか欠席連絡とかしてる間、食べさせておいてあげればいいでしょ。よその国まで飛んでもらうんだったら、腹ごしらえくらいはさせてあげなきゃ」
リリーからそう言われて、その案を断念する。
確かに今シルフィードを呼び戻しても、ぷんぷんと怒って言うとおりに動いてくれないかもしれないし。
事情を伝えれば、「せっかく手伝うって言ってくれてるんだから、お姉さまも一人で危ないことしないでお言葉に甘えたらいいのね!」とか言い出すに決まっている。
変に口を滑らされるよりは……。
「……わかった。ありがとう」
タバサは小さく溜息を吐いて、こくりと頷く。
「でも、仕事の内容については話せない。国家機密。手伝ってもらえるようなことがあるかも、わからない」
「もちろんそれでいいわよ。もし何もなかったら、のんびりとガリア観光でもさせてもらうから」
キュルケがにっこりと笑ってそう言って、それで話はまとまった。
少女らは一旦解散して身支度などを整えた後、中庭に再集合してシルフィードの背に乗る。
「きゅいいい、竜使いがあらいのね。もっとゆっくり食べたかったのに!」
「まあまあ。私がまた後で、何かご馳走してあげるから」
ぶうぶうと不平不満を口にするシルフィードをなだめ、一行は夜闇の中を一路、ガリアへ向けて出立した。