7人目のスタンド使い魔 ~キャラバンAct2!~ 作:ローレンシウ
(へえ、これが本物のカジノかあ……)
地下カジノの様子をざっと見渡しながら、リリーは内心、かなりわくわくしていた。
様々な賭け事が行われており、貴族か豪商か、いかにも金持ちそうな連中がそこら中で悲喜劇を繰り広げている。
大いに稼いだようで女たちを周りに侍らせて高そうな酒を飲みながら豪快に笑う者もいれば、大金をすったらしく頭を抱えて台に突っ伏す者もいる、という具合だ。
見たところ、サイコロだの、カードだの、ルーレットだのと、地球のカジノとあまり変わりはなさそうである。
メイジに魔法でイカサマをされたり大負けで自棄になって暴れられたりしてはかなわないからかタバサらの杖を入り口で預かっていたし、そうなると魔法の世界だとはいえ、賭け事にまで魔法を使うわけではないということなのだろう。
その点は少々残念だったが、とはいえ日本にはカジノはないし、エジプトツアーの最中にも入ったことはなかった(そんな余裕はなかったし)ので、ごく普通のカジノでもリリーにとっては十分に新鮮で物珍しい。
「面白そうね」
そんな彼女をよそに、ギルモアと名乗ったカジノの支配人はタバサらに愛想よく話しかけている。
「なぜこんな地下にカジノを作ったのか、といったお顔ですな。いやなに、こんな商売をしておりますと、顔色でお客様の考えておられることがわかるようになりまして」
でっぷりと太っているが、年のころはおそらく四十代ほどだろうか。
顔は笑っているが、目が笑っていない。
マントもつけていないし、物腰などからいっても商人風で、貴族や貴族崩れのメイジではなさそうだった。
「カジノは合法なのですが、賭け金に上限が定められております。しかし、何十万、何百万エキューという資産をお持ちのお客様方にとっては、たかだか数エキューや数十エキューの賭けでは博打だなどとは申せますまい。財産をお持ちの方ほど楽しめないというのでは、いかにも不公平でありましょう?」
聞かれてもいないのにまあべらべらとよく喋ることで、そういうあたりも商人っぽいというべきか。
もっとも、タバサらは彼が熱心に説明しているようなことを知りたいとは思っていないので、眼力のほどは大したことはなさそうだが。
話を適当に聞き流しながらカジノの様子をざっと確認している彼女らに対して、ギルモアはなおも話し続ける。
「当カジノは裕福な商家の旦那様方や、名のある貴族の方々にもご満足いただけるような賭け金を設定いたしておるのです。その結果、やむを得ずこんな地下で細々と営業させていただいている次第で。ですから、お嬢さま方のような貴族のお客様は大歓迎と申すもので……」
むしろリリーのほうが興味を示して、横から彼の話に耳を傾けていた。
(なるほどねえ。暇とお金を持て余した金持ちの需要を嗅ぎつけて、おいしい商機を見つけたってわけね。リスクも高そうだけど)
実際、お上から睨まれて、取り潰しのためにタバサが派遣されてきているわけだし。
『いやー。地下カジノのカモフラージュのための偽装店舗にしては、作りも商品も、結構しっかりしとりましたなー』
そこへ、ようやく上階の方から、キャラバンがてくてくと降りてきた。
彼は地上にある宝石店の方にまず興味を示し、そこに残っていろいろと眺めていたのだ。
美しい宝石に見られる異世界のカット技法や、店内の照明や飾りつけ、魔法で加工されたと思しき一体型のガラスケースなどを検分し終えて、また新たな知識を蓄えて『商品』のレパートリーを増やしたことに満足しながら、まだ何か面白いものがないかと周囲に目を配りつつ、ゆっくりとやってくる。
その時、話し続けていたギルモアがふと何かに気付いたように彼の方を見ると、ぎょっと目を見開いた。
「……うぉっ!? なな、なんだ、この亜人めは!」
それを聞いて、リリーははっとしたような顔になる。
幸い、彼は彼女の方には注目していなかったので、その表情を見られることはなかった。
(亜人? 亜人って、まさか)
ギルモアは、明らかにキャラバンの方をはっきりと凝視しながらうろたえている。
幼児ほどの大きさしかない上にデブインコめいた外見のスタンドなのもあって、さほど怯えたりはしてはいないようだが。
ハルケギニアはファンタジーやメルヘンな世界だとはいえ、一般人にもスタンドが見えるなどということはないし、メイジにも見えていないことは確認済み。
ということは、つまり……。
「み、店番は何をしとる! なんで亜人なぞを通したのだ! ええい……!」
『はい? あんた、わしが見え……』
「あ、ああ! すみません!」
リリーは、今にも大声を上げて他の店員を呼び寄せそうなギルモアと、きょとんとして彼を見上げるキャラバンとの間にあわてて割って入った。
「この子はキャラバンといって、マルグリットお嬢様の使い魔でして。事前にお伝えをしなかったせいで驚かせてしまったようで、すみませんでした」
そう言って、深々と頭を下げる。
「ね。そうですよね?」
少し冷や汗をかきながら営業スマイルを浮かべて、背後のキャラバンと、突然騒ぎ出したギルモアらの方を何事かと見ていたタバサとにそう話を振った。
キュルケとルイズも、きょとんとした様子で彼女らの方を見ている。
『……あー、せやで。わしは、マルゲリータ? お嬢様の、使い魔っちゅーもんや。よろしゅうなー』
タバサは少し目を瞬かせていたが、とにかく話を合わせてほしいのだと察して、こくんと頷く。
「そう。使い魔」
「む、……そうでしたか」
ギルモアは今にも引き抜こうかとしていた火打石式の小型拳銃をポケットに収め直して、肩を竦めた。
そして、タバサに向き直ってお辞儀をする。
「それは申し訳ありません、早とちりをいたしまして。ですが、当カジノでは公正を期すために、また他のお客様方に気を使わずくつろいでいただくためにも、使い魔の方の連れ込みは禁止させていただいております。どうかご理解をいただいて、外で待たせておかれるようお願いいたします」
いやあお恥ずかしい、というようににこやかな笑みを浮かべてそう言いながらも、内心では。
(店番はなんで通したのだ、見逃したのか、職務怠慢だぞ。こいつらもこいつらだ、そんな事くらいは言われなくてもわかりそうなものだろうに、非常識な貴族の小娘どもが!)
などと毒づいていた。
「私が外まで送って、待たせておきます。いいですよね、お嬢様?」
リリーも営業スマイルを続けつつ、内心ではあれこれと考えながら、タバサにそう確認をとる。
タバサはそんな二人を交互に見ながら、少し首を傾げた後に、その首を軽く横に振った。
「わたしも一緒に行く。主人として」
「あ。じゃあ、あたしたちも付き合うわ。友人として。先に遊んでるっていうのも、気が引けるしね?」
キュルケもルイズの手を引っ張りながら、そう申し出た。
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「……どういうこと?」
一旦外に出て人気のないあたりへ行ってから、タバサがリリーにそう尋ねる。
「そうよ、説明しなさい。あの支配人もあんたも、一体何の話をしてたの。キャラバンって何よ、それをタバサの使い魔だとかなんとか言って」
「誰もいないのに亜人がどうとかこうとか、わけがわからなかったわね。あの男だけなら賭け事のやり過ぎで頭がおかしくなったのかと思うところだけど、あなたには何のことだかわかってるみたいだったし?」
少女らに口々に問われて、リリーは肩をすくめた。
波紋の話をした以上、こちらもいずれは話すことになるだろうとは思っていたが、こんな予想外のアクシデントで公開させられようとは。
「そうね。そのうち説明はするつもりだったんだけど。見えもしないものを信じてもらえるかが心配だったから、まずは波紋の話だけしてそっちの話はまたいずれと思っていたのよ」
とりあえず、最初にそう前置きしておく。
理由を伝えておかないと、なんで隠していたのかとルイズが腹を立てそうな気がしたからだ。
「回りくどいわね。見えないものって何なのよ?」
リリーは少し苛立った様子のルイズに答える代わりに、傍らにいるキャラバンにちらりと視線を送る。
『あいよ』
本体の意思を汲み取った彼は、とことこと動いて、ルイズ、キュルケ、タバサの手を順々に軽く握っていった。
「ひゃっ!? な、なに?」
「い、いま、なにか、あたしの手に?」
「……!」
三人とも困惑してあたりをきょろきょろしたり、手を動かして周囲をさぐったりするが、無論何も見えないし、手に触れることもない。
「どう、感じたでしょう? みんなの手を掴んだ『もの』を。それが『キャラバン』、私のスタンドの名前よ」
「すた……んど?」
「スタンド。そう呼ばれているわ。傍に立つ者、という意味ね」
リリーはそれから、キャラバンのいるあたりを指さして、自分のスタンドは今ここにいる、とみんなに教えてやった。
少女たちはそのあたりをじろじろと見つめるが、やはり何も見えない。
タバサは外に出る際に一旦返却してもらった長い杖でそのあたりを探ってみたが、何も杖には触れないし、魔力の脈動も空気の流れの変化も感じ取ることはできなかった。
「本当に、そこにいるの?」
「いるわ。でも、スタンドの能力をもつ者……『スタンド使い』以外には見ることはできないし、同じスタンドでなければ触れることもできない。さっきみたいにスタンドの方から触れようと思えば別だけどね」
リリーはそれから、みんなにも存在がはっきりわかるようにと、キャラバンにあえて地面に『干渉』し、足跡を残しながら歩くようにさせた。
彼女が指さしたあたりの土に大きな鳥の足跡のようなものがぺたぺたと浮き上がり、その足跡だけが歩き回るのを見て、少女らは神妙に頷く。
「確かに……そこに『スタンド』とかいうものがいるのはわかったわ」
「なんだか幽霊みたいで、ちょっと気味が悪いわね……。それって、あなたの使い魔みたいなものなのかしら?」
「ある意味ではそうかもね。使い魔というよりも、自分の分身に近いようなものだけどね」
幽霊というキュルケの言葉を聞いて、タバサは少しだけ青い顔になる。
彼女は幼い頃に幽霊を大変怖がっていた経験があり、今では平気になったがそれはそんなものはこの世にないと思っていたからで、それっぽいものが実在しているとわかってその頃の恐怖を思い出したのだ。
だが、すぐに気を取り直すと、リリーの話した内容にそれよりももっと大事なことがあったのに気が付いて、はっとしたような顔になった。
「……つまり、あの支配人は『スタンド使い』?」
「そういうことでしょうね」
スタンド使いはスタンド使いと引かれ合うというが、この世界にもいたのか。
無論、支配人がスタンド使いだからと言ってカジノの儲けるカラクリとスタンドに関係があるとは限らないが、ただの偶然である可能性よりは関係がある可能性の方が高いと見るべきだ。
だが、キャラバンを亜人と勘違いし、スタンドである可能性を考慮しなかったということは、あのギルモアとかいう支配人は自分以外のスタンド使いに会った経験はほとんど、あるいはまったくないのだろう。
ならばどのように対処するべきか、リリーは既に、頭の中であれこれと策を巡らせていた――。