7人目のスタンド使い魔 ~キャラバンAct2!~ 作:ローレンシウ
「スタンドに関する調査はとりあえず私に任せておいて、みんなは他のことを調べて。スタンド使いがいるからって、それが儲けるカラクリと関係あるとは限らないわけだし」
「……わかった」
リリーのその提案に、タバサは少しだけ考えてから同意した。
自分で調べようにも、いま聞いたばかりでまだよく知らないうえに、見えもせず感じられもしないものなど、まともに対処のしようがないし。
ただでさえ面倒な任務がさらに面倒になったわけだが、自分としては当初の予定通りにいくしかあるまい。
こうなると、今回の任務にリリーが、皆が来てくれて本当によかったと思う。
もしいつものように自分だけだったなら、スタンドとかいう未知の能力によってなすすべもなく失敗することになっていた可能性は高い。
なんという偶然だろうか。
それともこれが、運命というものなのだろうか。
「…………」
初めての任務でキメラドラゴンの討伐を命じられた時、そのままいけば何もできずに死ぬしかなかった自分の前にジルという女性があらわれて、戦うことを教えてくれたのを思い出す。
彼女のおかげで今の自分、『雪風』のタバサがあるのだ。
あるいは、自分にはそういう奇妙で奇跡的な巡り合わせの運があるのかもしれないと、タバサは思った。
「もちろんそれでいいけど、その前にもうちょっと詳しい話を聞いておきたいわね。そのスタンドってやつには、目に見えなくて一方的に相手に触ったりできるっていう以外にも、なにかできることはあるのかしら?」
キュルケがそう尋ねた。
もちろん、仮に他に何もできることがなくても、それだけで十分すぎるほどに恐ろしい能力だということは理解している。
カジノでは気付かれることなく相手の手の内を覗き放題だし、人の手を握る程度の接触が可能なのならこっそりとポケットの中身をすり取ったり、他人のグラスの中に毒を入れたりもできるだろう。
気付かれることなく相手に近付けるのなら、単に口を塞いだり杖を掴んだりするだけで、魔法の詠唱だって簡単に封じられるはずだ。
そんな能力があると知らず何も対処をしていない状態で対峙したなら、何をされたのかもわからないうちに一方的にやられかねない。
だからこそ、他にも何かないか、しっかりと確認しておかなくては。
しかし、尋ねられたリリーの方は困ったような顔になる。
「ある。……と、思うわ。でも、あの支配人のスタンドに何ができるかはわからない。逆に、スタンド使い以外でも見えるスタンドの可能性だってあるし、相手に触ったりはできないタイプってことも、十分に考えられるわね」
「なによ、それ? さっぱりわからないじゃないの。どういうことよ?」
ルイズが眉をひそめてそう文句を言ったが、リリーは肩をすくめるしかなかった。
「別に、ふざけてるわけでも適当言ってるわけでもないわ。スタンドって、そういうものだから」
リリーはそれから、スタンドは一人一体であり、ドットやスクウェアといったランクの違いや属性の違いくらいで概ねできることが同じなメイジとは違い、個々人の精神の反映ゆえに個性の差が非常に大きいのだと説明した。
「大体のスタンドは、何かひとつ、そのスタンドだけの独特な能力を持っているわ」
たとえば、炎とか氷とかの飛び道具を撃つものや、幻覚を見せたりするもの。
本体からほんの1~2メートル程度までしか離れられない代わりにものすごいスピードやパワーをもつもの、逆にパワーは弱いが非常に遠くまでいけるもの。
形も人型だったり虫みたいだったり、銃だったり、いろいろだ。
中には船なり人形なりと合体していて、普通の人間の目にも見えるようなスタンドもある。
「だから、どんな能力をもってるのかは、ただ『スタンド使いだ』ってだけじゃあぜんぜん予想もつかないのよ。実際に見て推測するしかないわね」
それを聞いて、キュルケ、タバサ、ルイズは顔を見合わせた。
聞けば聞くほどとらえどころのない、なんとも厄介な能力のようだ。
「……あなたのスタンドには、何ができる?」
タバサがそう尋ねると、全員の注目がリリーに集まる。
しかし、彼女は素っ気なく首を横に振った。
「秘密よ。今は」
「なんでよ!?」
仮にもパートナーなのにと、ルイズが食ってかかる。
予想通りの反応ではあるが、それでも教えられないことというものはあるのだ。
「スタンドにはそれぞれ、他の誰とも違う能力があるわ。逆に言えば、その能力だけしかない。メイジみたいに空も飛べれば炎や氷も撃てる、ゴーレムも作れる、なんていうわけにはいかないのよ」
「だから何よ?」
「つまり、スタンド使いにとって自分の能力を知られることは、弱点を知られることと同じだということよ。何ができるかわかれば、対策も立てられるわ」
それゆえ、スタンド使いは自分の能力についてみだりに他人に教えたりしないのだ、とリリーは説明した。
「別に、あなたたちを信頼しないとか、そういうことじゃあないのよ。たとえば、あの支配人の能力が人の記憶を読んだりするようなものでないとも限らないでしょう?」
「記憶を読む? いくら能力が千差万別だっていっても、そんなことまでできるのかしら?」
「私は、人の心を読むスタンドとか、魂を奪うスタンドとかに会ったことがあるわ。記憶を読むスタンドだって、いないとは限らない」
そう言うと、キュルケらはまた顔を見合わせて深刻そうな表情になった。
リリーはぱんぱんと手を叩いて、話を打ち切る。
「まあ、この件が片付いたら、私の能力とかも含めてもう少し説明させてもらうつもりだから。今はまず、お仕事に戻りましょう?」
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そんなこんなでカジノに戻った一行は、手分けして指示された任務に取り掛かることにした。
タバサは当初の予定通り、まずは軍資金として与えられた百エキューほどの金貨をチップに変えて仲間たちと分けると、自分が得手にしているサイコロゲームの卓について賭博をやり始める。
三つのサイコロを振り、その目を当てるというごく単純なゲームで、目の大小に張ったり、一点賭けで出目の数に張ったりできるというものだ。
彼女はこのゲームに慣れているらしく、事前に自信があると言っていた通り、順調に勝ちを重ねていった。
サイコロの出目は理論上は運次第だが実際にはシューターの癖などによる偏りがあり、それを見つけて勝てると踏んだ勝負の時に大きく張ることでチップを増やしているのだ。
キュルケは別の卓でカードゲームに興じ、こちらも多少は稼いでいるようだったが。
彼女はゲームそのものよりも、合間に周囲の客や店員と雑談をしたり、時には色気を振り撒いたりすることで、さり気なく情報収集に努めていた。
さて、ルイズはというと。
彼女はルーレットゲームの卓での情報収集を担当する手はずで、実際そちらの方で勝負をしているのだが……。
「み、み、見てなさいよ。次は絶対に勝つんだから!」
当初は博打なんてと眉をひそめていたものの、しぶしぶ初めてみて。
ちょっと負けが続いたらたちまち熱くなってのめり込み、どんどんとチップをすっていった。
腕は言うまでもなくど素人だし、おまけに勘や運まで悪いらしく、二択の赤黒で張っているのに十回以上も連続で負ける始末。
自分の分の軍資金を使い果たしてもなお引き下がろうとせず、かといって勝っているタバサやキュルケにチップをたかるなどということができる性格でもないので、今は自身の財布の金を使って賭けを続けている。
そのうちに、負けを一気に取り戻そうとして数字への一点賭けを始めた。
この分ではタバサが任務を終えるまでには無一文になっていそうだ。
典型的な、博打で身を滅ぼすタイプの人間である。
まあ、ルイズの性格からいってまったく予想できなかったことでもなく、したがって当初の予定では、リリーが彼女の補佐につくはずだったのだが。
ここにスタンド使いがいるとわかった以上、リリーには別の仕事がある。
「失礼します。マルグリットお嬢様がスパークリング・ワインとチーズをご所望なので、いただけませんか?」
「かしこまりました、席にお届けします。どちらで?」
「いえ、私がもっていきます。お屋敷では、いつもそうしているものですから」
リリーは使用人らしい笑顔を浮かべて店員にそう言うと、注文した品物を受け取るために右手を差し出す。
店員は頷いて、彼女のその手に飲食物の乗ったお盆を渡した。
(この人も、シロ……と)
お盆を受け取ったリリーは、心の中でそうチェックを入れた。
彼女が今やっているのは、店内に支配人以外にもスタンド使いがいないかどうかの確認である。
差し出した右手には、キャラバンの『スタンド袋』がぐるぐると巻き付けてあったのだ。
スタンドが見える者なら、何やら袋でぐるぐる巻きにされた手を差し出されたら、その手に物を渡していいのかと躊躇したり困惑してじろじろ見たり、とにかく何か反応があるはずである。
ちなみにスタンドは干渉しようとしない限り物質を透過するので、スタンド袋を巻き付けていようが物を受け取るのに特に支障はない。
キャラバン自身は店内をうろついていては支配人に見咎められるので、袋だけを本体に渡し、自身は袋の中からつながっている異次元空間に退避している。
キャラバンは自分の意思をもつ遊離型に近いスタンドだとはいえ、別に暴走しているわけでもなく出したり消したりは本体の意思で自由に行えるので、入り口からの出入りを禁じられても特に支障はなかった。
リリーはひとまず使用人らしく受け取ったものをタバサのところに届けると、今度はキュルケの元に行って何か欲しいものがないか尋ね、別の使用人に対して同じことを繰り返す。
ルイズの元に注文を取りに行ったときには、大負けしてかなり熱くなっている様子だったので、営業スマイルを浮かべながら提案した。
「あの、ルイーザ様。そろそろ、ルーレットは切り上げて、別の博打にされてはいかがでしょうか?」
「いやよ。負けたまま引き下がったら、ラ・ヴァリエールの名が……むぐっ!?」
言いかけた彼女の口を抑える。
「ここでは偽名を使うことになってたでしょ? 家名を言ってどうするの」
小声でそう指摘して少し冷静にさせると、なだめるように言い聞かせた。
「ルーレットなんて、所詮は運だけの勝負ですもの。きっと、頭を使って考えることの得意なルイーザ様には合わないのですわ。別のゲームで勝負すれば勝てるでしょう。勝ったところでただ運がよかったことの証明にしかならないルーレットよりも、その方がルイーザ様の名誉にもなりますよ?」
「そ……そうかしら?」
うまいことルイズを言いくるめるとさっさと席を立たせ、別の、もう少し頭を使う要素があって、ワンゲームの長そうな博打の卓に座らせる。
ゲームを変えたところで彼女が勝てるかは怪しいが、少なくとも間を取って気持ちを切り替えることにはなり、うまくすれば風向きも変えられるかもしれないし。
最悪でも、ルーレットよりも一試合が長いゲームにすれば、損害を軽減することにはなるだろう。
「……ふーっ……」
自分もさっさと終えて、少しくらいはゲームをしたいものだと思いながら、調査を続行する。
飲食物の注文を受け付ける係ではない店員に対しては、何か他の適当な理由をつけて袋を巻いた腕を見せ、視線の動きとか反応とかでスタンドが見えているかいないかをチェックした。
そうやって店内にいるすべての店員をチェックし終えたが、支配人以外でスタンドが見えている様子の者はいなかった。
ひとまず、スタンド使いが他にはいなさそうだと分かって、ほっと一息つく。
それぞれの能力の相性にもよるが、異なる種類のスタンド使いが協力し合った場合、その脅威度は概して飛躍的に増大するのだ。
(あとは、あの支配人のスタンドがどんな能力なのか、ってことだけど……)
推測では、あくまでも推測でしかないが、おそらくはスタープラチナやマジシャンズレッドのような、高い直接戦闘能力をもつタイプのスタンドではない。
なぜなら、さきほどキャラバンを亜人と勘違いしたときに、彼はポケットから銃を取り出そうとしていた。
スタンドに物理攻撃は通用しないので、その点から見ても彼がキャラバンをスタンドだと認識できていなかったことは明らかだが、いずれにせよ彼のスタンドが戦闘力に優れたものであるのなら、拳銃などを抜くよりもそちらで攻撃しようとするはずだ。
そこから考えて、おそらくは直接戦闘能力がほとんどもしくはまったくないタイプのスタンドか、もしくは出会った当初のレインボウのように、そもそも自分がスタンド使いだと認識しておらず、意識して扱うことができないという可能性もある。
(なんにせよ、後はタバサの結果待ちね)
見たところ彼女はかなり勝っているようで、元々は数十エキュー分しかなかったチップが、もう既に千エキューは超えようかという量に膨れ上がっている。
年端も行かぬ少女の大勝に、興味を引かれたギャラリーも集まり始めているようだ。
タバサの立てた算段では、まず普通に勝負をして、カジノで大勝する。
このカジノに儲けるための何らかのカラクリ、不正行為があるのだとしても、普段から誰彼構わずに使っている可能性は低いし、ましてや一見の客相手にはまず仕掛けてくるまい。
しかし、その客が大勝をして、このままではカジノが大損害を被るという事態になれば、話は別だ。
おそらくはレートを上げるなどして、その上でスタンドによるものにせよ、それ以外の手段にせよ、不正行為を解禁して、取り返しにかかってくる。
そこからが、本当の勝負というわけだ。
なんらかのイカサマがあるのなら、それを客たちの前で暴けばカジノの評判は地に落ち、公然と取り潰すこともできるようになり、任務は達成したということになる。
それまでは、ゆっくりと英気を養おう。
「ふふっ。ええと、『ゴールドディガー』? 楽しそうね!」
リリーは一仕事終えてようやく念願のカジノのテーブルにつくと、勝負を楽しみ始めた……。