7人目のスタンド使い魔 ~キャラバンAct2!~   作:ローレンシウ

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本話には、7人目のスタンド使い本編サクセッションエンドにつながる話がちょっぴり含まれています。
クリアしてなくてネタバレが嫌な方は読まない方がいいかもです。



第三十五話 ガリアン・ザ・ギャンブラー6

 

「ええい、なぜエコーどもが突然あんなことに……。カードに化けている最中は、多少折り曲げられようとも平然としておるはずの連中なのに……」

 

 エコーは素の状態でも猫のように柔軟な体を持っているためか、変身後の物体などを少しくらい変形させられても堪えないのだ。

 そうはいっても波紋を流されて身体機能を一時的に狂わされたのでは変身を維持できようはずもないが、もちろんギルモアにはそんな事情はわからない。

 

「詮索するのは後にしましょう。今はまず逃げて姿を隠し、再起を図るのです。ギルモアさま、こちらへ」

 

 トーマスはギルモアを先導し、裏通りに通じる抜け道から外に出た。

 しかし、仕込み壁を通った先にある路地裏から外に出ようとしたところで、彼らの目の前に人影が立ちはだかる。

 

「……お嬢さま」

 

 それはタバサ、ルイズ、キュルケ、そしてリリーだった。

 地下から地上に続く抜け道があれば必然的に風の流れがそちらへ向かうため、タバサのように鋭敏な感覚をもった優秀な風メイジならば、その方向から出口を読んで先回りすることができるのだ。

 少女たちの手には既に、カジノを出る際に取り戻した杖が握られていた。

 

「捕縛することは命じられていない。逃げるのは構わない」

 

 タバサはそう前置きをすると、何かを要求するように、すっと手を突き出す。

 

「その前に、シレ銀行の鍵を」

 

 任務の内容によると、先刻のイカサマによって、あるいは単に運の問題で巻き上げられた金をカジノ名義の貸金庫から回収し、客たちに分配して返すよう手配しなくてはならない。

 そうしなければ恥をかいてしまう貴族が何人もいるから、ということだった。

 

「あ、あなたさま方は、政府のお役人で? そうならば、どうかお見逃しを! 我らは義賊でございます。富める方々から少しばかりの金をいただき、それを貧しい人々に渡すために……」

 

 相手方の素性を察して土下座しながらそう訴えるギルモアだったが、ルイズはきっぱりと切り捨てた。

 

「施しは自分の財布でするものでしょ。イカサマ賭博なんかで他人に強要しておいて、なにが義賊よ。あんたは、貧乏人なら不正に巻き上げたお金で買ったパンでもありがたがるだろうって見下しているんじゃないの。わたしだったらどんなにひもじくても、そんなものは受け取らないわ。侮辱以外の何物でもない」

「そもそも、本当に施しなんてしてるならの話だけどね」

 

 キュルケはそう言って鼻を鳴らす。

 こういう慈善を掲げて不正行為を正当化する輩なんてのは、大方自分はただの悪党とは違うのだという虚栄心と自己満足のために形ばかりの喜捨をして、儲けの大半を懐におさめていると相場が決まっている、と彼女は考えていた。

 

「金庫の鍵さえ渡せば放免するって言ってるでしょ。要するに、お金が惜しいだけなんじゃないの?」

 

 気持ちはわかるけど、と言って、リリーは肩をすくめる。

 一方、トーマスはタバサと対峙していた。

 

「お嬢さまは本当に、今の王政府に仕えているというのですか? なにゆえ、お父上を殺めた者どもに協力するようなことを」

「…………」

 

 タバサはほんの少し顔をしかめたが、何も言わなかった。

 

「なぜ? 貴族ならぬわたくしにはわかりかねます。シャルロットお嬢さま、どうして……」

「わたしはもう、シャルロットじゃない」

 

 そう言って、首を横に振る。

 

「鍵を渡して」

 

 トーマスは悲しげな表情を浮かべた後、問いかけるようにギルモアの方を見た。

 

「ギルモアさま。相手は、メイジ三名を含む四人です。ここは指示に従い、後日、再起の機会を伺っては」

 

 ギルモアは顔を紅潮させ、歪めると、弾かれたように立ち上がった。

 その震える手には、ポケットから取り出した火打石式の小型拳銃を握っている。

 

「ふざけるな! あれだけの金を諦められるものか。そもそも渡したところで、こいつらが本当に見逃す保証がどこにある! こうなった以上、ここでこいつらをやってしまうまでだ!」

「……そうおっしゃるのなら」

 

 トーマスは内心無謀だと思いながらも、恩人である彼の意向には逆らえず、タバサに向けて飛び掛かろうとするように体を低く沈ませ、右手を左の袖口に添えた。

 

「イル・フラ――」

 

 タバサは杖を構え、呪文の詠唱に入る。

 すかさず、トーマスの袖口から投げナイフが飛んできた。

 唱えた『エア・ハンマー』の呪文を、やむなくその迎撃に用いる。

 彼はその隙に、先ほどカジノで用いた煙幕弾を取り出し、噛み切って姿を隠そうとしたが。

 

「ウル・カーノ!」

「がふっ!?」

 

 横合いからルイズの唱えた短い詠唱によって足元で爆発が起き、トーマスはひとたまりもなくふっ飛ばされて昏倒する。

 タバサの家が没落して住むところを失ってからギルモアに拾われるまでの間、ゴロツキのような生活をしていて荒事に慣れているトーマスは、この距離ならメイジが相手でも引けを取らない。

 だが、一対一ならともかく、二人以上を同時に相手にしては、到底太刀打ちできるものではなかった。

 

「ええい、死ね!」

 

 ギルモアの方は、半ば自棄になって先ほどのスタンド能力、『スピリッツ』を発動させ、同時に拳銃を発砲しようとした。

 リリーはあわてず騒がず、彼の頭上のあたりにスタンド像が出現したのを確認すると、そちらに自分の携帯するスタンド袋を向け、大きく口を拡げる。

 

「行け、『キャラバン』ッ!」

『うぉぉおっ!?』

 

 袋内部に生成されたバネ仕掛けと自身の跳躍力を合わせてロケットのように加速したキャラバンが飛び出し、スピリッツめがけて突っ込んでいく。

 強烈なぶちかましを食らって、実体の希薄な幽体状スタンドは瞬く間に霧消した。

 

「なっ……」

 

 いきなり飛び出してきた亜人と、見えず触れられないはずの自身のスタンドが狙い撃たれて破壊されたこととに、ギルモアが唖然とする。

 そこへ、キュルケの杖から鞭状の炎が飛んだ。

 スタンドが出現したままだったならそれを盾にできたかもしれないが、生身の平民に防ぐ手立てはない。

 炎の鞭は発砲される直前の銃を彼の腕ごと絡め取り、引火した火薬が炸裂する。

 

「うぎゃぁああぁ!?」

 

 ギルモアは、手酷い火傷を負った右腕を抱えてのたうち回った。

 キュルケはそんな彼に、冷ややかな笑みを向ける。

 

「さっきはこのあたしを、とんだ目にあわせてくれたわね。それはツケの支払い分よ。領収書でも書きましょうか?」

 

 リリーはそんな彼のもとにつかつかと歩み寄ると、体をぐっと押さえ込む。

 

「さあ、あの給仕も倒されたみたいだし、もう勝ち目はないわ。大人しく鍵を渡すことね。持ってるんでしょ?」

『せやで。無駄な抵抗は、労力の無駄遣いっちゅーもんや』

「……ぐ、ぐうぅぅう……」

 

 ギルモアはしかし、苦痛と恐怖に脂汗を流しながらも、まだ諦めていなかった。

 自分の『スピリッツ』は、ごく近い距離にいる者なら何人にもまとめて影響を及ぼし、精神や視覚に変調を生じさせることができる。

 こいつら全員をそれに捉えることができれば、あるいは。

 

「わ、わかった、大人しくする……。た、たしか金庫の鍵は……この辺に……」

 

 そう言って懐を探るふりをしつつ、スピリッツを密かに出現させて能力を使わせようとする、が。

 

「ふんっ!」

 

 すかさずリリーが見咎め、キャラバンのスタンド袋を巻き付けた腕による波紋パンチを叩き込むことで、それを吹き飛ばした。

 

「ひっ!?」

「警告するけど、もうそいつは使わないことね。見ての通り無意味だし、寿命が縮むだけよ?」

 

 もしかしたらさっきのは何かの間違いではと期待したが、やっぱりこいつらには『見えている』のか。

 しかし、一体なぜだ。

 触ることもできないはずの無敵の『スピリッツ』を、殴って掻き消すだなんて。

 

『ほれ。さっさと、鍵っちゅーのを出さんかい。あんた、自分が今のでご主人に殴られたら、どうなると思うんや?』

 

 キャラバンにそう諭されたギルモアは、青ざめてがたがたと震えた。

 

「わ……わかった! も、もう金は諦める! 命ばかりは!」

 

 リリーは彼が必死に訴えながら服の裏地にある隠しポケットから取り出した鍵を奪い、タバサに投げ渡した。

 しかし、すぐには解放しようとはせず、話を続ける。

 

「約束だから逃がしてはあげるけど、その前にちょっと聞きたいことがあるのよ。教えてくれたら、多少のお礼はする用意があるわ」

 

 そう言って、彼の火傷した腕の少し上のあたりを掴み、軽く波紋を流す。

 

「お……ぉお……?」

 

 ひどい苦痛が和らぎ、快い感覚がする。

 ギルモアは、困惑したように視線を泳がせた。

 

「どう? 話してくれたら、もう少し治療してあげるけど」

「……な、何を教えろというんだ?」

 

 打ち合わせになかったリリーの行動にキュルケらは戸惑って顔を見合わせたが、ひとまず口出しをせずに彼女のすることを見守ることにした。

 スタンドが見えない自分たちにはわからないこともあるだろうから。

 

「私は、あんたのその『スタンド能力』を知っている」

「すた……んど? な、なんだ、それは?」

「あんたが出してた、あの光るドクロみたいなやつのことよ。近くにいる人の精神や視覚に、一時的な異常を生じさせる能力。力はあまりないけど、やられても本体のあんたにダメージはなくて、何度でも出し直せる」

「な。なぜ、そんなことまで……」

 

 目を見開いてそう言いかけたギルモアは、はっとしたような顔になった。

 

「そ、そうか。お前、……い、いや、あなたも、あの『導きの光輪』を手に入れられた方なのですな?」

 

 リリーは一瞬、きょとんとしたような顔になりかけた。

 何のことやらさっぱりわからない。

 が、ここで何も知らないような様子を見せたのでは情報を引き出すのに差し障るとみて、すぐにいかめしい顔を取り繕う。

 

「そうかもね。でも、質問をするのは私の方よ。質問を質問で返さないでくれるかしら?」

 

 そう言ってギルモアの額をちょっと脅すように小突くと、彼はすぐに縮こまってこくこくと頷いた。

 

「もも、もちろんですとも。なんでもお答えします」

「あんたがその能力を手に入れた、日時とか場所とか状況とかを教えなさい。できるだけ詳しく」

 

 そう問いながら、リリーは、これは思ったよりも情報が、それも予想外の情報が得られるかもしれないと考えていた。

 実を言えば、ついさっきまでは大した話が聞けるとは期待していなかったのだが。

 

 ギルモアが使ったあの人魂型のスタンド『スピリッツ』と、リリーは数年前のエジプトツアーの途上で何度も戦った経験がある。

 エジプトツアーの終わり間際になってからはじめて知ったことだったが、あれはアリシアという少女のスタンド『エレメント・オブ・フリーダム』によって人工的に発現させられた能力の一種なのだ。

 だが、エレメント・オブ・フリーダムの使い手は既に存在しないはずであり、それがもしこの世界にいるのならどんな事情でそうなったのか、どうしても調べねばならない。

 なにも知らずただ人工的にスタンド能力を発現させられただけなのであろうギルモアから得られる手掛かりなどろくにないとは思ったが、アリシアによるとエレメント・オブ・フリーダムは人にスタンド能力を付与すると同時に、それを使いたい欲望を掻き立てるらしい。

 となれば、彼は能力を与えられてからほどなくそのことに気付いたはずで、日時や場所くらいならある程度絞り込めるかもしれないと考えたのである。

 もしもアリシアがこの世界にいるのなら、おおよその場所の推測がつけば、そのあたりへ出向いてみて。

 それでアリシアが自分がいることに気付いてくれれば、彼女が現在置かれている状況にもよるだろうが、接触をとってくれる可能性は高いだろう。

 

「は、はいぃっ!」

 

 ギルモアは、もはや包み隠す余裕もなく、べらべらとしゃべり始めた。

 彼がこの能力を得たのは、いかがわしい品々を売買して暮らしていた一年ばかり前の頃に、知り合いの商人からだということだった。

 

「そいつが、『すごい掘り出し物を手に入れた。こいつを使えば大した事ができるが、俺は危ない橋は渡りたくない。買う気があるのなら、値段の折り合いさえつけば、野心家のお前に売ってやってもいい』と言うので、行ってみたのです。なんでも、メイジにも負けないような奇跡の力を手に入れられる逸品だということで……」

 

 それがあまりに高値なので、最初は冗談じゃない、大方商売が行き詰まっていてまとまった金がほしいから適当なことを言ってガラクタを売りつけようというのだろうと思った。

 だが、そいつが目の前で『実演』してくれたのを見るとすぐに考えを変え、手持ちの金のほとんどをはたいて購入することにし、取り出されたそれを譲り受けた。

 その『スタンド能力』を使った不正行為も交えて順調に稼いでいたある日、森で偶然あの幻獣『エコー』の子供を拾って、それが枯れ葉に化けたのを見て変身能力をもっていることに気が付くと、相次ぐ幸運にすっかり運が向いてきたと有頂天になった。

 

「なるほど。それで稼いだお金を元手にカジノを初めて、子供を人質にするなりスタンド能力で脅すなりして、そのエコーだかいう幻獣の群れにイカサマの片棒を担がせていたと……」

 

 リリーはそう言いながら、眉根を寄せて考え込む。

 

(……その商人は、スタンド能力を実演した。つまり、その時点では自分のものだった能力を他人に譲った? その、『導きの光輪』とかいうものを売り渡すことで?)

 

 ギルモアが嘘をついているとも思えないが、一体どうしたらそんな事ができるというのだろうか。

 アリシアはエレメント・オブ・フリーダムによって目覚めたスタンド能力を他人に譲渡できるなどという話はしていなかったし、彼女のスタンドの性質や目的からいってもそんなことができるようにする必然性や必要性があるとは思えないが……。

 

「……あんたが『導きの光輪』を買った商人はどこからそれを手に入れたのかとか、今どこにいるのかとかは?」

「わ、わかりません。……い、いえ、本当です! あいつは、商売が行き詰まっていたようで。察するに、あちこちから限界まで借りたり秘蔵していた品を売り捌いたりして現金を掻き集め、新しい土地へ逃げてやり直す算段だったのではないかと……」

「そう……」

 

 リリーはこれ以上有益な情報は聞き出せそうにないと判断し、ギルモアの手にもう少し波紋を流し込んで治療してやりながら考えをまとめ、タバサの方を振り向いた。

 

「タバサ。もう一度確認するけど、その鍵さえあれば、こっちの処遇は私の方で決めてもいいのよね?」

 

 彼女がこくりと頷いたのを確認して、ギルモアの方に向き直る。

 

「い、命ばかりは!」

 

 すくみ上がってがたがた震える彼に、リリーは苦笑した。

 

「心配しなくても約束は守るわ、ちゃんと放免する。それとは別のこととして、あんたに取引を提案したいだけよ」

「と、取引?」

「そう。私も商売人だから」

 

 リリーはギルモアの腕に少し治療薬を投入してやることにして、キャラバンに包帯や傷薬を作らせた。

 そうして治療を続けながら、提案する。

 

「あんたの『導きの光輪』を、こちらに渡してほしいのだけど。どう?」

 

 正直言ってそれがどんなものなのか、まるきり想像もつかないのだが。

 話の内容からすると、とにかく他人に譲れるものであることは間違いないようだし。

 そうであるなら当然回収しておくべきだろう。

 

「え。……い、いや。これは……」

 

 断れば機嫌を損ねるのではないかと怯えながらも、それでもギルモアは二つ返事で受け入れるなどというわけにはいかず、言い淀んだ。

 カジノが潰されたいま、もう一度再起するためにもスタンド能力は捨てたくないのは当然だろう。

 

「心配しなくても、あんたを逃がすことまではもう約束済みだから、断ってもそれでやっぱり捕まえるなんてことは言わない。でも、譲っておくほうが賢明だと思うわ」

 

 リリーはそう前置きをしてから、順に理を説いた。

 

「まず、あんたがその能力をもったままなら、この場は放免するけど危険な能力をもった人物ということで、能力の詳細とかを当局に報告することになるわ」

『当然やな。そうなったら、スタンドでのイカサマは当然、各方面に警戒されるやろうし。それで今度捕まったら、おたく、どうなると思うん?』

「そ、それは……」

「牢に閉じ込めて持ち物をとりあげても使える厄介な能力があるのよ。そんな人を捕まえておくには、周りの人間をおかしくさせて逃げ出すなんてことが絶対できないように頑丈で孤独な牢に閉じ込めるか、目隠しとかも含めて拘束を普通より厳重にするか。あるいは、そもそも面倒がないように後腐れなく……」

 

 リリーとキャラバンの指摘に、ギルモアは喉の奥でひっと呻いた。

 

「それにね。さっきも少し言ったけど。その能力、使うたびに寿命がどんどん縮んでいくのよ?」

「……な。なんだと? そんな話は……」

「まあ、売り手側も知らなかったんでしょうね。信じるかどうかはあんた次第だけど。でもね、よく考えてみなさい? ただの平民にメイジにも負けないような力を与えるのよ。本当に、何も代償がないと思う?」

「う……」

 

 ギルモアの顔が青くなる。

 

「あんたはこれまでにも、かなり使ってきたみたいよね。もう既に、だいぶ寿命が縮んでるかもしれないわ。能力をもっていれば、これからも使いたい衝動に駆られるだろうし……」

『そうそう。おっちゃん、いくら金や力があっても、死んでもうたらなんにもならんのやで?』

 

 キャラバンがそう諭し、リリーは駄目押しをするように、懐からいくらか金貨の入った小袋を取り出した。

 

「別に、脅し取ろうっていうんじゃないのよ。あんたの腕の治療は無償で完璧にしてあげるし、いくらで買ったのかは知らないけど、代金として少しはお金も出すわ。あの給仕が手伝ってくれるにしても、当面の生活費や再起のための元手が必要になるでしょ?」

「……。わ、わかった。譲ろう。持っていってくれ」

「商談成立ね」

 

 リリーはにっこりと笑った。

 

「じゃあ、渡してくれるかしら?」

「あ、ああ。すぐに取り出す」

 

 ギルモアはそう言うと、出し抜けに、火傷をしていない方の手で自分の頭をがつん、がつんと殴り始めた。

 なにが起こるのかと戸惑いながら見守るリリーらの前で、彼の頭からなにか金色をした円盤状のものの一部が飛び出してくる。

 彼はそれを手で掴んで引っ張り、完全に抜き取った。

 

(……し、CD?)

 

 そのようにしか見えなかった。

 ギルモアはそれを、リリーの前に差し出す。

 

「さ、さあ。持っていってくれ」

『おっちゃん、これであんたはスタンド使いやなくなったっちゅうんか? ん?』

 

 彼の目の前でキャラバンが手を振ってみたり、耳元ででかい声で鳴いてみたり、飛びかかる真似をしてみたりするが、彼はもう一切そちらに反応しなかった。

 見えていないふりをしているとは、とても思えない。

 

「……ありがとう」

 

 リリーは戸惑いながらもそれを受け取ると、代わりにいくらかの金貨が入った小袋と、念の為に医薬品が入った薬箱とを手渡す。

 それから、気絶したままのトーマスと彼とを、カジノで騙された裕福な客たちが押し寄せてこないであろう適当な木賃宿に預けて、仕事を終えたのだった。

 





波紋パンチ:
 7人目のスタンド使い作中では、波紋技でスタンド体にダメージを与えることができる。ハーミット・パープルが原作でもやっていたようにスタンドは波紋を伝達するため、自分のスタンドを介して敵のスタンドに伝達させているのではないかと思われる。
 キャラバンは自立思考型なので彼に波紋の仲介をさせるのはやや難しく(掴んで振り回すとか投げつけるとかでできないこともないだろうが)、本作のリリーは主として彼から借りたスタンド袋を巻き付けた自分の手で殴るという形で使っている。

エレメント・オブ・フリーダム:
 7人目のスタンド使いオリジナルのキャラクター「アリシア」のスタンド能力。他人にスタンドを取り憑かせ、その宿主に『自分の命(運命エネルギー)を削って人魂型のスタンドを作る能力』を与える。人魂型のスタンドは発生させた本体(宿主)の意思に従って動き、アリシアが制御することはできない。
 エレメント・オブ・フリーダム自体は箒状のスタンドであり、そのようにして発生させた人魂から魂(命の炎)を搔き集めて本体に与える。アリシアの体は本来なら既に死んでいる遺棄児のものだが、スタンドがそうして集めてくる運命エネルギーのおかげで存在し続けている。運命エネルギーが残っている限り、アリシアは致命傷を受けても自動的に回復する。本体の意思でも活動を止めさせることができないタイプの遠隔自動操縦型スタンドだが、本体が望めば特定の相手に意図してスタンド能力を与えることや、自発的に運命エネルギーを搔き集めること、集めた運命エネルギーを自分以外の誰か・何かに注ぐことも可能である。

スピリッツ:
 エレメント・オブ・フリーダムの能力によって発生する人魂型スタンド。人魂型スタンドには(おそらくは発生させる本体の特性や素質によって)いくつかの種類があり、本体の適正にもよるかもしれないが、同時に複数体を出現させることも可能なようだ。スピリッツは周囲にいる敵の精神を操作して暴走させたり、混乱させたり、眠らせたり、まぶしい光を放って目をくらませたりすることができる。物理的な攻撃も一応は可能だが、力はかなり弱い。倒されても本体へのダメージフィードバックはなく何度でも出現させられるが、上述したように使うたびに運命エネルギーを消費して寿命が縮み、やがては命の炎が尽きて死ぬことになる。
 人魂型スタンドはエジプトツアーの最中に立ち寄るあちこちの町であたりをうろうろしており、こちらを襲ってくることから察するにおそらくはDIOに与する刺客などが本体となったものかと思われる。早い話が、7人目のスタンド使いにおけるザコ敵の一種である。
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