7人目のスタンド使い魔 ~キャラバンAct2!~   作:ローレンシウ

36 / 61
第三十六話 導きの光輪

 

 トーマスとギルモアとを木賃宿に預けて彼らと別れた後で、タバサらは休む間もなく残りの後片付けに取り掛かった。

 

 まず、たっぷりと食べ歩きをしてご機嫌なシルフィードと合流して、彼女と共にカジノの地下にもう一度戻ると、閉じ込められていたエコーの子供を解放してやる。

 隠し場所は既にギルモアから聞き出してあったので、特に迷うこともなかった。

 タバサの読み通り、同じ変身の精霊魔法を使える幻獣であるシルフィードはエコーと会話できたので、まだ波紋のショックで気絶したままだった彼らを介抱して事の次第をかいつまんで伝えてもらったうえで子供を返してやると、エコーたちは礼を言って去っていった。

 それから王宮へ出頭して任務の完了を報告し、苦々しげな顔をしたイザベラに銀行の鍵を渡して事後処理を委ねると共に預かった軍資金を返却すると、それでようやくやるべきことがすべて完了する。

 

「まったく、あんなかわいいエコーの子供を人質にするなんてひどい連中なのね。シルフィも一緒に行って、懲らしめてやればよかった!」

 

 一行は、そう言って憤慨しているシルフィードの背に乗る。

 のんびりと観光でもしていきたいのは山々だったが、なにぶん学院を休んでここに来ているので、あまりサボって長居もできない。

 

「まあでも、任務終了をお祝いして、どこかで打ち上げくらいはしていきましょうよ」

「わたしが奢る」

「いいの?」

「お礼」

 

 キュルケの提案にタバサも賛同し、他のメンバーにも異論はない。

 一行は帰る前に、適当な店で打ち上げを兼ねて食事をとっていくことにした。

 

 儲けはそれなりにある。

 最初に軍資金として渡された金は返還したものの、金にうるさく抜け目のないリリーはイカサマ騒ぎで混乱しているカジノに戻った際に、持ち場を離れず事態を収拾しようと頑張っていた職務熱心な店員をつかまえて手続きをとらせていた。

 収拾がつかなくなってそれどころじゃなくなったり、手入れが入って取り潰しになったりする前に、自分たちの稼いだチップを換金させたのだ。

 そういう店員が残っていなかった場合でも、キャラバンにカジノ内の現金保管場所から自分と仲間たちの稼いだ金額分はきっちりと回収してもらい、チップと受け取りを置いてもらっていくつもりだったが。

 

「ありがとう。あなたも、今のうちに今日までの分のお給料と退職金をキープして、早めにここを離れた方がいいと思うわよ」

 

 最後にそんなアドバイスをしてやりつつ、カジノを後にした。

 タバサの受けた任務によると、銀行に預けてある金は客に返せと言われているが、カジノ内に備蓄してある金については何も言われてないので、そこから自分たちの儲けた分だけいただくのは問題ないはずである。

 自分に正当な権利がある取り分については、可能な限り回収しなくては。

 

「『引き受けた仕事はやり遂げる』『自分と友達の稼ぎも守る』……。『両方』やらなくっちゃあならないのが、商売人の辛いところね」

 

 とかなんとか、嘯いていたとかいなかったとか。

 

 懐は温かいので、タバサはガリアでもなかなかに高級な部類の、個室でゆっくりと食事を堪能できるタイプの店に仲間たちを案内した。

 ちなみにシルフィードは、今回の任務にはほとんど参加していないのと、人間の町の料理は心行くまで堪能したばかりでいささか食傷気味だったのと、ドレスコードとかがある堅苦しい店で個室に閉じこもって窮屈な服を着続けるのは嫌だということとで、他の四人を店に送り届けた後はそのへんで適当に魚でも獲って食べるとかしながら待つことになっている。

 

「それじゃ、かんぱーい!」

 

 少女らは祝杯を掲げ、料理に舌鼓を打ちながら歓談を始めた。

 

「あのトーマスっていう給仕は、これからも支配人に尽くす気なのかしらね。タバサの旧知なんでしょ?」

「……彼が選んだ道」

 

 ちょっとしんみりした感じになりかけたので、リリーが話題を変える。

 

「みんなは、カジノでの儲けは?」

 

 最後に支配人のイカサマでだいぶ取り戻されたものの、それでもタバサが一番稼いだのは間違いなく、彼が反則負けになった時点でまだ千エキュー分以上はチップが残っていた。

 彼女自身はその後逃走した彼らを追うためにチップなど放置して場を離れたのだが、リリーが抜け目なくキャラバンに回収させていて、換金後に(多少の手数料をいただいた上で)『正当な取り分』としてタバサに返したのである。

 キュルケは得意なカードゲームで多少勝って、最終的に二、三十エキュー程度の浮き。

 リリーはキュルケよりも浮いていたが、ゲーム後に『導きの光輪』の代金として支配人にいくらか渡してやったので、その分を考えるとまあトントンといったところか。

 ちなみにルイズの最終的な収支は、マイナス百エキュー前後だった。

 

 話題はそれから、リリー以外が初めて知ることになったスタンド能力の方に向かった。

 

「さっきは秘密だって言ってたけど、タバサの任務は終わったんだからもういいでしょ。あんたの『スタンド』ってやつに何ができるのか、そろそろ教えなさいよ」

 

 ルイズにそうせっつかれ、タバサとキュルケも好奇心に満ちた視線を向けた。

 リリーはちょっと肩をすくめたが、まあ彼女らになら、別に教えても構わないとは思っている。

 

「ええと、そうね。説明が難しいんだけど……。簡単に言えば、『あるものから別のものを作り出す能力』かしらね?」

「ものを、作り出す?」

「そう。メイジの魔法には、『錬金』っていうのがあるでしょ。まあ、あれみたいなものね」

 

 リリーはそう言うと、実際に見てもらう方が早いとルイズらの前でキャラバンのスタンド袋にそのへんの食事の残骸(骨や皮、ヘタや種といった食べない部分)を適当に放り込んで原子配列を変え、別の物を作り出した。

 少女たちにはスタンドの袋それ自体は見えないが、そこに放り込まれたものが分解され組み替えられ、別のものになって取り出されるのは見える。

 

「はい、こんな感じよ」

 

 リリーは生成された数枚のカードを拡げて見せた。

 それは先ほどのカジノで使っていたような『サンク用のゲームカード』で、ただ描かれた人物の絵柄が自分たち四人のものになっている、一目でオリジナルカードとわかるようなデザインのものだった。

 ルイズらはまじまじとそれを見つめる。

 

「まるで手品みたいだけど、そうじゃないわね。あたしたちの絵柄のカードなんてあるはずもないし」

「ええと、つまり……。『錬金』を杖や詠唱なしでできる能力、ってこと?」

「並の使い手の『錬金』よりは、ずっと精度が高い」

 

 その場のアドリブでこんな細かい、しかもそれぞれ別のデザインを施した数種類のカードを同時に作り出すなどということは、かなり熟達した土メイジにも困難であるはずだ。

 

「どうしても向こうのイカサマが見抜けないようなら、最悪こっちもこのスタンド能力を使ったイカサマで対抗することも考えてはいたんだけど。まあ、見抜かれる危険も高いでしょうし、やらなくてすんでよかったわ」

「なるほど。それもあって、任務が終わるまでは秘密にしておいたってわけね」

 

 キュルケが納得したように頷いた。

 事前にそういう手口があるのだと知っていると、どうしても周囲にいるこっちの視線とか反応に不自然さが出てイカサマがバレる可能性が高くなるだろう。

 ルイズなんかはおそらく、ポーカーフェイスが苦手だろうし。

 

「カード以外だと、どんなものを作れるの?」

「んー。まあ、キャラバンの袋から取り出せるサイズで、私が組成とか構造を知ってるものだったら、大体は」

 

 リリーはそう言うと、カードを袋に戻してもう一度別の物に作り替える。

 今度はハルケギニアにはないようなものにしようと、『ガスライター』と『線香花火』を作った。

 

「……? なによ、それ」

「私の故郷で売られてる道具よ。こうやって使うの」

 

 そう言ってリリーがライターの火を点けてやると、少女らは目を瞬かせて、その小さな火を見つめる。

 

「マジックアイテムも作れるの?」

「魔法の道具じゃないわ。この部分が火打石になってて、中に気化しやすくて燃えやすい液体が入ってるのよ。で、こっちの細いのは和紙っていう紙で、中に黒色火薬……硫黄と木炭と硝石を混ぜたものが入っていて……」

 

 簡単に構造を解説してから、食事を食べ終えて空いた金属製の皿の上で、線香花火に着火した。

 少女らは、その小さくも美しい閃光を上げる火の玉に見入る。

 

「硫黄といったら、火の秘薬じゃないの。魔法がかかってないにしても、そんなものまで作れるなんて大したものだわ」

「そうね。油ならともかく、硫黄やそれを元にした火薬を『錬金』するなんてことは、まずできないはずよ」

 

 火の秘薬である硫黄は、火薬などの材料にもなるために相応の高値で取引されており、戦時においては特にその需要と価値が高まる。

 油ならドットレベルの土メイジでも比較的容易に錬金できるが、火薬はそうはいかない。

 そこらのメイジが簡単に錬金で作れるものなら、高い金を払って買い込んでは遠方から戦場へ運ぶ必要などないというものだ。

 

「すごいじゃないの。売ったら大儲けできるわよー」

「『錬金』として見れば、スクウェアクラスのメイジ以上」

 

 そういう少女たちに、リリーは肩をすくめた。

 

「残念だけど、そうはいかないのよ。『錬金』で作ったものと違って、キャラバンが作ったものはスタンドの能力射程外まで離れたり、私が能力を解除したりすれば、塵になってなくなっちゃうから。売り物にはできないわね」

「え、そうなの?」

「そうよ。それに、袋の口から取り出せないような大きさのものは作れないし」

 

 ちなみに、その袋の直径はおおよそ一メイルくらいなのだと、リリーは説明した。

 あまりネタばらしをしたくない気持ちもないではないが、スタンド能力について知られた以上はちゃんと説明をしておかないと、調子に乗ったルイズやキュルケあたりにできもしないものを作ってくれとか要求されても困る。

 

「それに、ゴーレムを作るだとか、そういうこともちょっと無理だからね?」

「そうか。そう考えると案外、できることの幅が狭いみたい」

「そりゃあ、あなたたちメイジに比べればね」

 

 スタンドは一人一能力なんだからと言って、リリーは肩をすくめた。

 

「でもね。能力ってのは結局のところ、ここの使い方ひとつなのよ」

 

 自分の頭をとんとんと指で示しながら、にやっと笑って。

 それから、注文したはいいものの、どうもいまいちな味でみんなろくに手をつけていなかった料理の皿を取り上げると、その中身をキャラバンの袋に流し込む。

 そいつを袋の中で別の料理に再構築して、再び皿に戻してテーブルの上へ置いた。

 

「はい。これがキャラバン式の、水流リリー『特製料理』よ。異国のメニューだけど美味しいと思うわ。よかったらどう?」

 

 ちゃんと食べられる料理が元素材なので、能力解除して腹の中で元の物質の塵に戻っても害はないし、栄養にもなるというわけだ。

 ちなみにエジプトツアーの最中に香港で食べ歩きした鶏蛋仔(ガイダンジャイ)や格仔餅(ガッジャイベン)、焼味(シウメイ)などの盛り合わせである。

 

 ジョセフがポルナレフのリクエストに間違って注文したティエンチー(蛙の丸焼き)とかを出してやろうかとも思ったが、さすがに引かれそうなのでやめておいた。

 そういえば、「人がフカヒレとかを食わせろっつってんのに、勝手に注文をゲテモノ料理に変えられた」だの、「金持ちのくせに便器からブタが顔出すよーなところを利用する」だのということで、ポルナレフはあのツアーの最後までジョセフのことを「しみったれたじいさん」呼ばわりしていたものである。

 自分はよく食事を奢ってもらってたっぷりと食べ歩きしたので、ジョセフがしみったれてるなどとは思わないのだが、まあ相手が男か女の子かで対応に違いもあるのだろう。

 

「ほへー……」

 

 他の少女たちは、あっという間に料理が別の料理に作り替わったことと、その見慣れないメニューとに目を丸くしていたが。

 やがて、誰からともなくそろそろと口に運び始める。

 

「あら、おいしい。皮がパリパリしてて、中はジューシーなお肉なのね(もぐもぐ)」

「見た目はワッフルみたいな感じだけど……、甘さと塩気がちょうどいい塩梅だわ(はぐはぐ)」

「……外はサクサク、中はもちもち……(むぐむぐ)」

 

 能力による生成で即席に作ったとは思えないような美味に、三人は舌鼓を打った。

 メイジの腕にもよるが、『錬金』で食べ物を作ろうとすれば大なり小なり不純物が混じるために、どこか違和感のある不味い代物になるのが普通だ。

 たとえば、大豆を元にして作った代用肉というものが市場で売られているが、安いだけの肉もどきといった感じの味で、金のない平民はともかく貴族が口にするような食べ物ではない。

 リリーの言うとおり、どちらが上というようなものではないのかもしれないが、こんな美味な料理を一瞬のうちに作るあたり、少なくとも系統魔法の常識では考えられないような能力であることは間違いない。

 

 エンターテイナー気質のリリーは、彼女らを驚かせたり楽しませたりできていることに満足しながら、その様子を見守っていた。

 

「……ま、こんな感じよ。他に、何かあるかしら」

 

 ジンジャーエールをすすりながらそう尋ねるリリーに、タバサは少し考えてから質問した。

 

「『スタンド能力』は、どうやったら身につけられる?」

 

 彼女は波紋の時にも同じようなことを尋ねたが、今回はさらに熱心そうな気配である。

 スタンドというものが魔法の常識では考えられないほどに『なんでもあり』の能力なのであれば、自分の目的を果たすのに大いに役立ってくれるかもしれない、という考えもあるし。

 そうでなくても、スタンドがスタンド使い以外には見えないという点だけでも、可能ならば可及的速やかに習得しておきたい理由として十分だ。

 もしもまた今回のようにまたスタンド使いの敵に出会ったとして、そいつの能力を見ることもできないというのでは、控えめに言っても圧倒的に不利になる。

 

 ルイズとキュルケも、切実な事情がある彼女ほどではないにもせよ、大いに関心がある様子だった。

 リリーは、困ったような顔になる。

 

「そうね……。スタンド能力は本人の生まれつきとか、血縁の誰かが発現してそれが引き金で目覚めたとか、大体はそんな感じみたい。残念だけど、スタンド能力が誰にどうして発現するのかってことは、私も全然知らないわ。たぶん誰も、はっきりとは知らないと思う」

「……そう」

「でも、あなたはあの支配人からなにか、きれいな輪っかみたいなやつを買ってたじゃないの。ええと、『導きの光輪』だったかしら?」

 

 比較的近くでリリーとギルモアのやり取りの一部始終を見聞きしていたキュルケが、そう指摘した。

 

「あいつの話からすると、あれでスタンド能力っていうのを身につけられるんじゃないの? よくは見えなかったけど、なんか頭から出てきてるみたいだったし。どう考えても普通のものじゃないわ」

「そうよ。あれは何?」

 

 問われたリリーは、肩をすくめた。

 

「それなんだけどね。あの時は足元を見られないように、知ったかぶりで話を合わせて買い取ったけど。実は私もこれがなんなのか、さっぱりなのよ」

 

 そう言いながら、しまっておいた『導きの光輪』を取り出してみた。

 やはり、外見は黄金色をしたCDのようにしか見えない。

 ルイズらは身を乗り出して、その不思議な輝きに見入っていた。

 

「すごくきれいね。金属みたいだけど、こんなにきらきらと光るものなんて見たことがないわ。マジックアイテムかしら?」

「いえ、魔力は感じないわね」

「触った感じからすると、金属じゃない」

 

 タバサが手に取って少し力を入れてみると、若干たわんだ。

 かなり弾力があるようだ。

 ルイズやキュルケも、代わる代わる弄ってみる。

 

「見た目は、CD……コンパクトディスクっていう、私の故郷にあるものに似てるんだけどね。でも、普通のCDはその辺の店で売ってる市販品で、スタンド能力を与える力なんてありゃしないわ」

 

 リリーは少女らの手から『導きの光輪』をそっと取り戻すと、代わりにキャラバンに作らせた普通のCDを机においた。

 基本的な素材や構造は以前に勉強したので把握している。

 

「ほら、こういうのよ」

 

 ルイズらはそれも触ってみて、外見はよく似ているものの触感がさっきの『導きの光輪』とは違っていることを確かめた。

 

「これも、手触りが銀とかの金属とは違う感じね。このCDっていうのは、何でできてるのかしら?」

「主にポリカーボネートとアルミニウム」

「? なによ、それは」

「たぶん、ハルケギニアでは使われてないものだと思うわ。別に魔法のかかった材料とかじゃあないから、あまり気にしないで。単にこのあたりにはない素材を使ってるっていうだけよ」

 

 細かく説明するのは面倒くさいので、リリーはそれだけ伝えた。

 タバサはCDをひっくり返して、表も裏もじっくりと眺めてから質問する。

 

「普通のCDは、何に使う?」

「えーとね。……まあ、カラスよけとかコースターとか?」

 

 説明するのが難しそうだし、CDのないこの世界では真面目に詳しく話してもあまり意味がないと思ったので、いい加減な回答をしてみた。

 が、少女らはかなり懐疑的な様子だ。

 

「こんなきれいなのをわざわざ作って、ただのカラスよけやコースターにするの? 本当に?」

「他にも何か、用途があるんじゃないかしら?」

 

 ルイズやキュルケにそう言われ、タバサにもじーっと見られたので、リリーは肩をすくめ、しぶしぶ話した。

 

「……まあ、他にも使い道はあるわ。CDプレーヤーっていう箱に入れると、音楽を鳴らしてくれるのよ。入れたCDによって、それぞれ違う音楽が鳴るの」

 

 そうすると当然、やってみせてくれという希望が出るが、リリーは無理だと断る。

 

「私はCDプレーヤーを持ってきてないし。キャラバンが作ったこのCDも形だけで、ちゃんとした音楽は鳴らないのよ。構造が複雑すぎて、作るのが難しいの」

 

 以前にキャラバンの能力でCDやCDプレーヤーを作れたら便利だなと思って、組成や構造を調べてみたことはあるのだが。

 CDは内部の構造が非常に細かく、それをデジタルで読み取るCDプレーヤーも含め、外見的な再現はともかくちゃんとした音楽が鳴るようなものを作り出すのは難しそうだった。

 使う機会も大してあるとは思えないし、無理に実現しなくてもいいかと思って、それ以上は取り組んでいない。

 

「『錬金』でもできないような複雑なものを作れる、あんたの『スタンド能力』でも無理だって。そんなものを、一体どうやって作ってるのよ」

「あなたの故郷には、そういうものを作れる高度な魔法があるのかしら?」

「魔法じゃないわ。工場で作ってるのよ。手作業……ってわけでもないけど。まあ、私の故郷ではメイジがいないから、代わりにいろいろと技術を発展させてきたのね」

「ふうん……」

 

 別に、歌を奏でるような箱というのは、彼女らにとってもさして驚くほどのことではない。

 マジックアイテムでそういったものを作ることはできるだろうし、様々な歌を注文に応じて歌い分けてくれるガーゴイルなり魔法人形なりを作ることだって可能だろう。

 ただ、魔法なしでそういった品を作れる技術があるというのはすごいことだ。

 東方のロバ・アル・カリイエではエルフとの争いが絶えず、彼らに対抗するために技術を発展させていると聞くが、もしやリリーはそのあたりから来たのだろうかとキュルケは思った。

 

「まあ、そのCDだかについてはとりあえずわかったわ。それで、『導きの光輪』についてなんだけど」

 

 とりあえず試してみてはどうかと、キュルケが提案する。

 

「あの支配人のやってたのを見た限りだと、頭に挿し込めばいいんでしょ? ちょっと気持ち悪いけど、スタンド能力っていうのがそれで身につくのなら、試してみたいわね」

「……私としては、あまりお勧めはできないけど」

 

 リリーはそう言うと、自分はあのスタンドを以前に見たことがあるという話、それは別のスタンドの効果で発現させられたもので、使うほど寿命が縮むのだという話を、要点だけをざっとかいつまんで聞かせた。

 

「だから、使わない方がいいわ」

 

 それを聞いて、少女らが顔を見合わせる。

 

「……そのスタンド能力が『導きの光輪』になってここにある理由に、心当たりは?」

 

 タバサがそう尋ねた。

 リリーはさっき、これがなんなのかさっぱりわからないと言っていたが、何か推測くらいはあるのではないかと思ったのだ。

 

「うーん……。あくまでも推測なんだけど……」

 

 リリーは、おそらく『他人のスタンド能力のコピーをCDの形にして作り出す能力』とか『他人のスタンド能力をCDの形にして取り出す能力』とかをもったスタンド使いがいるのではないかと考えている、と言った。

 

「私は数年前、仲間たちと一緒にDIOっていうスタンド使いの吸血鬼と戦う旅に出たことがあったんだけどね。その吸血鬼の部下には相当な数のスタンド使いがいて、海の底から復活してまだいくらも経たないはずのそいつが一体どうやってそれだけのメンバーを集めたのか、いまだにわかっていないのよ」

 

 だが、DIOの配下にそういった能力をもつスタンド使いがいたのだとしたらどうだろう。

 その人物が世界各地にいるスタンド使いから能力を奪い取るか、あるいはコピーするかして、DIOの配下たちに配っていたとしたら。

 

 DIOが雇った刺客の中にも、人魂型のスタンド能力を使う者は大勢いた。

 人魂型スタンドを発生させていたスタンド『エレメント・オブ・フリーダム』の使い手であるアリシアは目的があって自分たちの動向を追っていたから、行く先々でそうした連中に会うのは必然だったわけだが。

 もしかしたらそれだけではなく、その『能力CDを作り出すスタンド使い』が、発生原因はわからないながらも各地に現れる大勢の人魂型スタンドの使い手から好都合だと能力を回収しては、DIOの配下に配っていたのかもしれない。

 エジプトツアーの最中にそんな能力を持つスタンド使いに出会うことはなかったが、まあ自分たちが戦った相手だけがDIOの配下のすべてでは当然ないだろうし。

 そのような貴重な能力を持つ部下がいたなら、本人を直接戦いの場には出さないようにしていたとしても、別に不思議はないだろう。

 

「そのスタンド使い自身が、私と同じようにこの世界に召喚されたか。あるいはそいつの作った『導きの光輪』が、あの『石仮面』と同じようにして、こっちの世界に召喚されたか……」

 

 おそらくはそんなところではないかと、リリーは自分の考えを締めくくった。

 

「はあ……なるほどねえ……」

 

 キュルケは感心したように頷く。

 

「あくまでも推測よ。確証はないし、たぶん確かめようもなさそうだけど」

「……話はわかった」

 

 タバサはそう言うと、リリーに向き直った。

 

 リリーの今言った推測が正しいとすれば、他にも『導きの光輪』がこちらの世界にあるかもしれないということになる。

 つまり、スタンド使いにいつどこで、任務の最中に出会うかもわからないということだ。

 その時にスタンドの姿が見えなければ、寿命が縮むもなにもない。

 その場で死ぬことになる可能性が高い。

 自分には目的があり、それを果たすまでは死ぬわけにはいかないので、なるべく寿命を縮めたくはないが、それでも必要になることはあるはずだ。

 

「だから、その『導きの光輪』を、わたしに売ってほしい」

 

 そう言って、タバサは頭を下げた。

 カジノで自分が稼いだお金はすべて渡すし、足りないようなら不足分も必ず払うから、と。

 

「でも……」

「どうしても必要に迫られない限り、『スタンド能力』は使わないようにする。相手のスタンドの姿が見えるようになるだけでも、お金に代えがたい価値があるはず」

 





特製料理:
 7人目のスタンド使い原作で「勝者の証」という貴重なアイテムを使うと主人公が新しいスタンド能力を習得することがあり、その能力のひとつ。
 主人公のスタンドの種類を問わず習得できることから見て本体が作っているのかとも思うが、「新たなスタンド能力」だと明言されているし、少なくともキャラバンの場合には能力から考えても袋から作った料理を取り出している方が自然な感じがするので、本作ではそのような扱いにした。まあ、キャラバンが作れるものは本体が詳しく把握しているものだけなので、時間と材料さえあれば自分で調理することもできるはずである。現地で食べ歩きをした料理のレシピを後で研究したのだろう。
 作った料理を食べる必要があるので戦闘中には使えないが、HPを480も回復する(料理でこれよりも大きくHPが回復するものは、作中ではかのトニオ・トラサルディー氏の料理のみ)。また、毒・腹痛の状態異常も解除する。

鶏蛋仔、格仔餅、焼味:
 すべて、7人目のスタンド使い作中で露店などで食べることができる料理。実在する。
 ジョセフ、ないしは7人目のスタンド使いオリジナルのキャラクターであるユタと同行しているときに買おうとすると、たまに奢ってくれたりする。

導きの光輪:
 もちろん、ホワイトスネイクのスタンドDISCです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。