7人目のスタンド使い魔 ~キャラバンAct2!~   作:ローレンシウ

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7人目のスタンド使い作中では同じ人物が一戦目と二戦目以降で違う種類の人魂スタンドを使っていることがありましたが、今作では人によって何が出るかは決まっている(精神面の変化などによって変わることはありうる)ということで。
たとえばルイズが『虚無』でなくなった場合には、『ボムズ』から『スパーク』になるかと思います。



第三十七話 トリステイン魔法学院・水流リリー店

 

「……うーん」

 

 リリーはタバサからの『導きの光輪』を売ってほしいという要望に、眉根を寄せて考え込んだものの。

 結局、いくつかの条件を付けたうえで承諾することにした。

 

「まず、スタンド使いへの対策にこのディスクが必要なのはわかったわ。でも、そもそもスタンド使いが絡んでいるとわかった時には、極力一人での対応を避けて私を呼んでほしいの」

「迷惑になる」

「友達への手助けを迷惑だとは思わないわ。それに、いろいろと情報も集めたいし。何かの商機になるかもしれないわけだしね」

 

 リリーがそう言うと、キュルケとルイズも口を挟んだ。

 

「もちろん、その時はあたしも置いていくってことはないわよね?」

「止めたりはしないけど、わたしに無断で連れて行ったりはしないでよね。ミズルはわたしのパートナーなんだから」

「……ありがとう」

 

 タバサは少し逡巡した後に、そう言ってぺこりと頭を下げる。

 

「それから。私をどうしても同行させられない時でも、スタンドに関する情報が何か入った場合には、後で必ず教えてほしいの」

「わかった。その時はわたしも、あなたの意見を聞く必要があると思う」

「最後に。くれぐれも、どうしても必要なとき以外には、このディスクのスタンド能力は使わないで。いい?」

 

 先ほども説明したとおり、あの人魂型スタンドは元々、使うことで寿命を縮める能力だ。

 もっとも、人魂の形で外に出た命の炎を回収するアリシアがおそらくいないであろうこの世界では使っても問題ないという可能性もあろうが、運命エネルギー云々については自分もよくわかっていない部分が多い。

 予想としては、人魂型スタンドを出してもそのまま戻せばほとんど影響がないかもしれないが、破壊されてエネルギーが霧散した場合にはやはり寿命が縮むのではないかという気がする。

 なんにしても、あくまでも根拠のない推測に過ぎないし、危険はできる限り避けたほうがよいだろう。

 それに、このディスクの自体の性質もよくわかっていない。

 もしかしたらこれも、使うことで寿命が縮むとか、何かそういう類のものかもしれないのだ。

 

「約束する。わたしも、早死にしたいとは思わない」

 

 少なくとも、目的を果たすまでは。

 

「いいでしょう。じゃあ、これはあなたのものよ。毎度アリ」

 

 リリーはひとつ溜息を吐くと、『導きの光輪』をタバサに手渡した。

 タバサは礼を言ってそれを受け取ると、引き換えに自分の手持ちの全額が入った財布を渡した。

 

「足りなければ、言って。あとで支払う」

「んー……」

 

 リリーは財布の中身をあらためると、ちょっと首を傾げる。

 

「お代は、あの支配人から買い取るのに使った金額分プラス手数料ってことで、このくらいでいいわよ。いろいろと条件も付けさせてもらったしね」

 

 そう言っていくらかの金を抜き取ると、半分以上そのまま残っている財布をタバサに返す。

 

「……これには、もっと価値があるはず」

「仕入れ値を考えたら、こんなものよ。それに、お金がすっからかんじゃ、困ることも多いだろうし。そのせいであなたが任務の最中に身動きが取れなくなって失敗したとか、命を落としたとかいうことになっても寝覚めが悪いしね」

「でも」

「どうしても気になるのなら、貸しってことにしといて」

 

 あんな円盤一枚よりも、タバサとの縁の方がずっと価値があるだろう。

 エジプトツアーの時にも強く感じたことだが、家族愛とか友情とかいったものはプライスレスだ。

 商売の上ではビタ一文損したくはないが、こういう時に金金ばかり言っているとかえって金銭では計れない損失を招くことになる、とリリーは思っている。

 

「……わかった。一個借り」

 

 そう言いながらリリーの方を見つめるタバサの目には、何かいつもの無感動さとは違う、熱い感情が籠っているようだった。

 

「毎度アリー」

 

 そうして取引が成立すると、ディスクのスタンド能力を使わないのはいいとして、とりあえず頭に入れるだけはここでみんなで試してみようということになった。

 もしかしたらメイジには使えなかったりするかもしれないし、少女らには当然、『キャラバン』を見ておきたいという気持ちもある。

 あの支配人を見る限りでは大丈夫だとは思うが、頭に入れるだけでも何か害がある可能性もないではないので、万が一様子がおかしければ即頭を叩いて取り出してもらえるよう、他の仲間がいるところで試した方が安心ということもあるし。

 

「もし使えないようだったら、返品でかまわないからね」

 

 タバサはリリーにそう言われながら、自分の頭にそうっとディスクを挿入してみる。

 頭の中に奇妙な光る円盤がずぶりと沈み込んでいく感触は、なんとも表現のしがたいものだったが。

 

「っ!」

 

 少し挿し入れた途端に、自分の中に新たな能力が生じたのを感じた。

 理屈ではなく、感覚としてわかるのだ。

 それがどんな能力で、どのようにして使えばいいのかということも、頭の中に浮かんでくる。

 

「フリ、……」

 

 思わず口を開いてそのスタンドの名を呼び、能力を発動させそうになったが、すぐに約束の件を思い出して開きかけた口を閉じた。

 とりあえず、ディスクをぜんぶ挿し込むと抜くときに頭を叩いて取り出さないといけなくなるらしいので、その状態で留める。

 

「どうなのかしら、タバサ?」

「あ、頭がそんなことになってて、大丈夫なの?」

「なにか感じる?」

 

 口々に尋ねてくる仲間たちに、タバサは頷きを返した。

 

「問題ない。『スタンド能力』は確かに身についた。感覚でわかる」

「じゃあ、私のスタンドを紹介するわね。『キャラバン』ー」

 

 リリーが名前を呼ぶと、スタンド袋(彼女の脇にそれがあることに、タバサは初めて気が付いた。さっきまでは見えなかったのだ)がもぞもぞと動き、ふくらみ、その中から『キャラバン』が姿を現した。

 

『あいよ。呼んだかー?』

 

 見た目は、小柄なタバサよりもなお小さい、幼児サイズの亜人……鳥人と言ったところか。

 鳥の種類としては、デブインコかオウムのように見える。

 ターバンや上着などの着衣を身に着け、自分が這い出してきたばかりの袋をよいしょっと背に担いだその姿は、異国の商人かなにかのようだ。

 

「これが、あなたのスタンド……?」

『これとはなんや、これとは。失礼な嬢ちゃんやな。人を物みたいに言うなや』

 

 キャラバンは若干ぷんすかしたような調子でそう言うと、胸を反らせるようにしてタバサの顔を見上げた。

 

『まあええわ。そやで、わしはご主人のスタンドで、キャラバンっちゅうもんや。よろしゅうなー』

 

 そう言ってタバサの手を握ると、軽く振って握手をする。

 

「ねえ、タバサ。あなたには、ミズルの『スタンド』ってやつが見えてるのよね?」

「そう。いま、握手をしている」

「やっぱり。あたしにも見させてちょうだいな」

「わ、わたしが先でしょ!」

 

 少女らは代わる代わるディスクを頭に挿し込んでは、スタンド能力に目覚めた感覚に興奮したり、キャラバンの姿をみてわいわいとはしゃいだり。

 

「なるほど、あの支配人が亜人と間違えたのも無理はないわ」

「それにしても、ちっちゃくてかわいいわねー」

『ちっちゃいとか言うなや。あと、わしのほうから触るのはともかく、人間がスタンドを撫でるのは無理やで?』

 

 キャラバンは彼女らに挨拶をして一通り応対したものの、延々とはしゃがれることに、じきにうんざりしてきたようだ。

 

『……あー。商いにもならん挨拶は、もう勘弁したってや。そいじゃ、またなー』

 

 そう言うと、また袋の中に潜り込んで、姿を消してしまった。

 もうちょっと話をしていたかった少女らはリリーにまた出してくれと頼んだが、彼女は苦笑して肩をすくめる。

 

「向こうが拒否してることは無理よ。大体のスタンドはメイジのゴーレムみたいなもんで本体の思い通りに動くんだけどね。キャラバンは私とは別個の意思を持ってるタイプで、使い魔に近いような感じかな?」

 

 彼女はそれから、スタンドには他に遠隔自動操縦タイプとか、物質同化型のタイプとか、色々あって……というように、ある程度の基本的な事項の説明をした。

 もしも彼女らがスタンド使いと戦うことになった場合に備えてだ。

 特にタバサが強い興味を示して熱心に質問してきたので、リリーは可能な限り答えてやった。

 

「そういえば。同じディスクなのに、みんな使えるようになった『スタンド』が違うみたいね?」

「あの支配人のものとも違った」

「以前に私が出会った人魂スタンドの使い手たちも、使える人魂の種類が人によって違ってるみたいだったから。たぶん、その人の素質とかによって、どんな能力に目覚めるのかが変わって来るんでしょうね」

 

 ちなみにタバサが使えるのは『フリーズ』、ルイズが『ボムズ』、キュルケが『バーンズ』。

 そしてリリーは『オーバードライブ』のようだ。

 実際に使ってみることはしなかったが、感覚でわかった。

 いずれも、エジプトツアーの最中にリリーが遭遇したことのあるスタンドだ。

 

 そんなこんなで話し込んで、ようやく一区切りついたかなという頃に、店員がやって来た。

 

「失礼いたします、お客さま。ラストオーダーのお時間となりますが……」

「ん。もうそんな時間だったのね」

「楽しかったわ。そろそろお開きにしましょうか」

 

 そうして長かった任務も打ち上げも終わり、彼女らはまた、トリステインの魔法学院へ戻っていったのだった。

 

 

 

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 それから一週間かそこらほどは、平和な日常が続いた。

 

 ルイズ、キュルケ、タバサはフーケ捕縛の功績で一目置かれながらも、学生として普通に生活している。

 リリーはというと。

 

「甘ぁ~くておいしいスイーツの『鶏蛋仔(ガイダンジャイ)』に、『メハラビア』はいかがー? 今ならひとつ、たったの2スゥですよー。少しお高いですが、より高級品質の商品もありまーす!」

 

 先日の打ち上げで披露した特製料理が好評だったことから、使い魔としての仕事の合間に材料を仕入れては調理し、学院の敷地内で商売をしていた。

 間違いなくその場で食べるお客にはキャラバンの能力で作ったのを売ってもいいが、持ち帰り用に自分で普通に調理したものも用意してある。

 料理そのものをキャラバンの能力で作ると解除したときに駄目になってしまうが、調理用の器具はキャラバンに作らせてもいいので、現代地球の便利な調理用具も使えるのだ。

 マルトーやシエスタと親しくしていることからその筋から材料が調達できそうだと考えたのだが、案の定彼には「貴族の使い魔で生活は安泰なのに料理や商売もするとは」とますます気に入られ、厨房の余った材料など回してもらえることになった。

 そのお礼も兼ねて、平民向けにはシンプルな作りだがちゃんとした味のものをなるべく安価で販売。

 貴族向けには、「貴族用高級スイーツ」とか謳って、ちょっとだけデコレーションやなにかに凝っている原価はほとんど同じものを数倍からそれ以上の値で販売している。

 別に貴族には求められても平民向けを売らないというわけではないが、そもそも一般的な貴族は概して平民向けの安価な菓子などは気取って買おうとしてくれないので、同じような味でも値段を高くして高級感を出した物の方がかえって売れるのだ。

 九十年代前半の日本からやってきたリリーとしては、高級ブランド品を好んだバブル時代の消費者のような貴族たちのニーズに合わせた商品、バブルがはじけた後の消費者のような平民たちが求める安くてそれなりに質もいいお買い得な商品、その両方を用意するのはごく当然の発想といえよう。

 もちろん貴族だ平民だといっても人によりけりで、タバサなどは平然と安い平民向けを大量に買い込んでぱくついていた。

 激甘ミルクプリンのメハラビアをよくもあんなにたくさん一度に食べられるものだと、リリーは舌を巻いた。

 

「はい、毎度アリ。これはほんの気持ちです。よろしければぜひー」

 

 たくさん買ってくれたお客さんには、小さなチョコとか飴とかのおまけもつける。

 ジャパニーズおもてなし精神で満足度を高め、リピーターを増やす。

 商売は目の前の利益だけでなく、長い目で見ることが大事だ。

 ちなみにルイズには、売れ残りのスイーツを持ち帰ったり、売り上げの一割ほどの額を「使い魔として、主人のために稼いできたもの」という名目で差し出したりするようにしている。

 

 

 そんなこんなで楽しく順調にやっていた、ある日の朝のこと。

 リリーはルイズのお供として午前の授業に出ていた。

 

 今回の授業を担当するのは、ギトーという名の『風』系統の教師である。

 フーケ騒動の時にやたらとキレたり、当直を放り出して寝ていたシュヴルーズを責めたりして、学院長から名前をギアッチョだとか間違えられたり、「君は怒りっぽくていかんよ」と言われたりしていた男だ。

 まだ若い教師なのだが、その長い黒髪に漆黒のマントをまとった不気味な姿と陰気な雰囲気、そしてなによりも唐突におかしなテンションになったりキレたりすることから生徒には人気がなく、彼の授業はいつもしーんとしている。

 

「諸君、『風』は全てをなぎ払うッ! 『火』も『土』も『水』も、『風』の前では立つことすらできないッ! おそらくは、『虚無』でさえも吹き飛ばすだろうッ! それが『風』だッ!」

 

 授業中にキュルケを挑発して自分に向けて火球を撃たせ、それを杖の一振りで彼女ごと吹っ飛ばしたギトーは、例によっておかしな目つきとテンションになり始めた。

 またかと思った何人かの生徒らが、こっそりと耳を抑える。

 

「つまり……、『風』が最強だアァァーーッ! はらしてやるッッ!!」

 

 なんか精神が不安定な人みたいね、とかリリーが思っていると。

 教室の戸が突然ガラッと開いて、珍妙な格好をしたコルベールが姿をあらわした。

 頭にはロールした金髪のカツラをのせ、レースの飾りやら刺繍やらが施されたローブを着込んでいる。

 

(音楽室に飾られてる人?)

 

 リリーはそんな感想を抱いた。

 でなければ、ルイ14世とか16世とかか。

 

「授業中に失礼を、ミスタ・ギトー。急な話なのですが、本日の授業はすべて中止となりました」

 

 きょとんとして顔を見合わせていた生徒たちから、わっと歓声が上がる。

 概ね勉強嫌いなのはどの世界の学生も変わらないものらしい。

 しかし、その後のコルベールの言葉を聞いて、彼らのざわめきはさらに大きくなった。

 

「先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花たるアンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りにこの魔法学院に行幸なされる運びとなりました。教職員一同は全力を挙げて歓迎式典の準備を行いますので、生徒諸君は正装し、御覚えがよろしくなるようにしっかりと杖を磨いて門に整列するように。解散!」

 

 生徒たちが勇んで我先に教室から出ていく。

 ルイズも、こうしてはいられないとリリーを引っ張って部屋に戻った。

 引っ張られながら、リリーは考える。

 

(王女さまかあ……)

 

 ということは、トリスタニアに行ったときに見た、あのお城に住んでいる人なのだろう。

 杖などを磨いたくらいで覚えがよくなるものなのかどうかは知らないが、商売人としてはこの機会になにかしら商品などを売り付けて顔や名前を憶えてもらえれば、できることならお得意様になってもらえればとは思う。

 とはいえ、平民の身で出しゃばって普段売り歩いてる菓子などを差し出したりすれば、かえって不敬罪で捕まりかねないだろうし。

 そもそもお出迎え役も貴族である学生や教職員のみだろう、自分などがお近づきになることが許されるとは思えない。

 ここは大人しく、遠目に姫殿下とやらを拝見するだけに留めるのが順当か。

 

(……でも。せっかくの商機を、逃したくはないのよねえ……)

 

 

 魔法学院の正門を通って王女の一行が現れると同時に、整列した生徒たちが一斉に杖を掲げた。

 しゃん、と小気味よく、杖の音が重なる。

 

(急な訪問で予行もしてないでしょうに、よくタイミングが合うわね)

 

 王女さまとやらを一目見てみたい野次馬根性と、考えてきた商売のタイミングを逃したくない商魂とで生徒らの列よりも後ろの方から見物しているリリーは、心の中でそう感心した。

 たぶん、日本の学生の『起立、気を付け、礼』なんかと同じようなもので、普段から練習をしてあるのだろう。

 貴族の基本教養というやつか。

 正門をくぐった先にある本塔の玄関に学院長のオスマンが立ち、一行を出迎える用意をしている。

 馬車が止まると召使たちが駆け寄り、扉まできれいな緋色の絨毯を敷いた。

 まるで映画か演劇の中の世界のようだ。

 

 がちゃりと馬車の扉が開いて最初に現れたのは、ごく地味な丸い帽子を被って灰色のローブに身を包んだ、見たところ初老くらいの年齢の男だった。

 彼を見て、生徒たちが一斉に鼻を鳴らす。

 その反応からするとどうも人気のない人物らしいが、それにしても王女と同じ馬車に乗っているあたりからしてこの国の重臣であろうに、えらく不敬な態度である。

 

「あれは誰なの?」

 

 リリーは、他国の王族に対して臣従の礼を取る気がないのか、あるいは単にあまり興味がないのかで列の後ろの方から一行を眺めていたキュルケにそっと尋ねてみた。

 ちなみにタバサも傍にいるが、彼女は見ることすらせずに座って本を開いている。

 

「たぶん、この国の枢機卿でしょ。マザリーニっていう男よ」

「枢機卿っていうと、身分の高い人なんでしょう?」

「そりゃあね。この国の先帝が亡くなった後で、外交や内政を一手に引き受けてる重鎮よ。気苦労のせいなのか、老けて見えるわね。まだ四十代だって聞いてるけど」

「その割には、なんだか人気がなさそうね」

 

 キュルケは皮肉っぽい笑みを浮かべながら、鼻を鳴らした。

 

「トリステインの貴族は、無駄に古臭い血筋だのにこだわるからね。だから落ち目なのよ」

 

 彼女によるとマザリーニは平民の血が混じっているとの噂のある人物で、そのせいで血統を重んじる多くの貴族には成り上がり者と見下されていて不人気であるらしい。

 平民は平民で、嫉妬からか彼の能力は認めながらも鳥の骨だのと陰口を叩く者が多く、やはり人気者ではないのだという。

 対照的にアンリエッタ王女はお飾りであることを一部で揶揄されてはいるものの、見てくれがいいからなのか、割とどちらからも人気はあるらしい。

 

「そうはいっても、大したことないわね。あたしの方が美人じゃない?」

 

 生徒からの非礼など意に介した様子もないマザリーニに手を取られ、馬車から降りてくるアンリエッタ王女の姿を見たキュルケが、ふっと笑って肩をすくめる。

 生徒らの歓声を受けて咲き誇る薔薇のような微笑みを浮かべながら優雅に手を振る姿は、さすが王女という感じではあるが。

 

「どっちがってこともないけど……。まあ、みんなとそんなに違うとも思えないわね」

 

 リリーはルイズ、キュルケ、タバサなどの姿を思い浮かべながら、聞き咎められないように小声でそう評した。

 列に並んでいるルイズの方を見ると、彼女は真面目な顔をして王女の方を見つめている。

 実際、清楚で美しいその横顔は、アンリエッタのそれと比べても遜色ない。

 ルイズは幼さが残る感じなので、好みにもよるだろうが。

 

(……んっ?)

 

 そのルイズの横顔が突然はっとしたような顔つきになり、次いで顔を赤らめるのを見て、リリーはどうしたのかと怪訝に思った。

 首を巡らせてルイズの視線の先を確かめると、そこには見事な羽帽子を被り、グリフォンと思しき幻獣に跨った凛々しい貴族の姿がある。

 

(ふーん……)

 

 ああいうのがルイズの好みなのか、とリリーは思った。

 確かに精悍な顔つきだが、長い口ひげがあって、彼女と比べるとかなり年が上のように思えるのだが。

 

(二十代後半? 三十歳前後くらいかな?)

 

 まあ、ジョセフ・ジョースターは六十代後半でも十分にいい男だったし、別に年上趣味だからどうということもないか。

 思春期の女学生の中には、若い男性教師とかを好きになる子もいるわけだし。

 そう思ってふと横を見ると、キュルケもぽーっと顔を赤らめて、その男の方を見ていた。

 

「…………」

 

 あれが、そんなにいい男だろうか。

 いやもちろん、中身まではわからないから何とも言えないが、それにしても見た目だけで彼女らのような美少女が揃って一目惚れするほどの男前とは思えないのだが。

 自分的には、「ハンサムだけど老け顔ね」くらいの感想しか出てこない。

 若くして王女に側仕えするくらいの身分になったせいで背伸びしてるのかもしれないが、ヒゲを剃った方が年齢相応の見た目になると思う、たぶん。

 

(この世界では、あんな感じの人が絶世の美形ってことなのかしら)

 

 そう思いながら目を落とすと、タバサは相変わらず、我関せずと座って本を広げている。

 

「ねえ、あなたはどう思う?」

 

 リリーがそう尋ねると、タバサは顔をあげた。

 彼女は黙ってキュルケとルイズを見て、次いで彼女らの視線の先にあるグリフォンに乗った羽根帽子の男の方を見て、それからリリーに視線を戻す。

 

「どう?」

 

 タバサは本に目を戻しながら呟いた。

 

「あなたの方が格好いいと思う」

 

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