7人目のスタンド使い魔 ~キャラバンAct2!~   作:ローレンシウ

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第四十二話 女子会+α

 

「高そうな宿ね……」

 

 ラ・ロシェールで一番上等だという『女神の杵』亭なる宿に泊まることになったリリーは、その豪奢な作りを見て宿泊費は一体いくらなんだろうと考えた。

 少々痛い出費になりそうだ。

 まあ、今は大事な任務の最中なのだし、費用をケチって馬小屋とかに泊まるよりは、多少高くてもしっかり休める高級な宿の方がいいだろうが。

 

「一階の酒場で寛ぐ前に、やることだけは済ませておきましょうか」

 

 ルイズとワルドは桟橋へ乗船の交渉に行ったので、リリー、キュルケ、タバサはその間に部屋を取っておくことにした。

 とりあえず、四人泊まれるくらいのサイズのある部屋を一つと、相部屋サイズの部屋を一つ。

 先ほどの襲撃のことを考えるとワルドを一人だけで泊まらせるのは心配だが、さすがに男女の部屋は分けたいし、幸い彼には乗騎のグリフォンもいるので、襲撃者への警戒役はそちらが務めてくれるだろう。

 

「いい部屋が空いててよかったわ」

 

 後は、二人が戻ってきたときのために食事の注文をしておいてから、適当に雑談などしつつ酒場で待っていると、ほどなくしてワルドとルイズが帰ってくる。

 彼らは席につくと、困ったように言った。

 

「残念だが、アルビオンに渡る船は明後日にならないと出ないそうだ」

「急ぎの任務なのに……」

 

 ルイズは顔をしかめている。

 キュルケが首を傾げた。

 

「あたしはアルビオンに行ったことがないからわかんないんだけど、どうして明日は船が出ないのかしら?」

「明日は月が重なる『スヴェル』の夜だろう。その翌日の朝にアルビオンが最もラ・ロシェールに近づくので、航行に使う風石を節約するためだそうだ」

「ふうん。一日待てばもっと安くいけるんだから、ってことね」

 

 横で聞いていたリリーは、そういえば出発前にルイズと見ていた旅行ガイド付きの地図帳にはそんなようなことも書いてあったかもしれないと思い出した。

 あの時はラ・ロシェールまでの道筋や途中の駅の配置の方を気にしていたので、そういった情報はあまりしっかりとは確認していなかったが。

 いずれにせよ、事前に知っていたところでどうしようもなかっただろうし、船が出ないからといって学院で一日、指をくわえて待ってるわけにもいかなかっただろうし。

 まあ、仕方がないだろう。

 

「あ、部屋は取っておきましたから。相部屋一つと、四人部屋一つで」

 

 リリーがそう言って鍵束を机の上に置くと、ワルドが頷いた。

 

「では、相部屋の方には僕とルイズが泊まろう。君たちは、もう一つの部屋に」

 

 しかし、その提案には女性陣全員が反対した。

 

「だ、だめよ! まだ結婚してるわけでもない男の人と、同室に泊まるだなんて!」

「ええと、男女別のつもりだったんですけど……」

「あたしは別に、結婚前だからとかは関係ないとは思うけど、女の子の側が合意してないっていうんじゃあねえ」

「小説では、戦地へ行く前にそういうことをするのは死亡フラグ」

 

 ダメ出しをされまくったワルドが、困ったようにルイズを見つめる。

 

「大事な話があるんだ。二人きりで話したいんだが……」

「じゃあ、お話だけそちらの部屋で聞いて、泊まるのは私たちと同じ部屋で、っていうことにしたら?」

 

 リリーのその提案に、ルイズがそうすると言って頷いたので、ワルドも仕方なく受け入れる。

 大方、男一人対女四人では、男の側の意見が通るはずもないのだ。

 

 

「ルイズに、あんな婚約者がいたなんてね」

 

 夕食の後でルイズはワルドの部屋に行き、キュルケは自分たちの借りた部屋のベッドに寝っ転がって退屈そうに爪をいじりながら、リリーやタバサに話しかけていた。

 

「あたしは見たことなかったけど、これまでにもたまに逢引したりしてたのかしら?」

「いえ、私も会ったのは昨日が初めてよ。ルイズの話では、十年くらい前まではよく一緒にいたけど、それから後はほとんど顔を合わせることもなかったとか」

「なにそれ。それじゃ大方、両親が勝手に決めただけとかでしょ」

 

 キュルケは、ふんと鼻を鳴らした。

 他言はしていないものの、彼女自身、元は故郷ゲルマニアのヴィンドボナ魔法学校に通っていたのだが、そこでトラブルを起こして中退した折に実家からある老公爵と政略結婚をさせられそうになったのを嫌い、トリステイン魔法学院に留学してきたという経緯のある身。

 親の決めた婚約者というものに、いい感情をもっているはずもないのだ。

 

「やめといたほうがいいわよ、あんな男。他のことはどうだか知らないけど、少なくとも女に対しては情熱のかけらもなさそうじゃないの」

「そうかしら? 私には、ルイズに熱心にアピールしたがってるように見えたけど……」

「ルイズはあれでも、トリステインでは有数の大貴族家の娘だもの。そりゃあ結婚したがる男も多いでしょうけど、そこに恋とか愛とかがあるかは別問題だわ」

 

 キュルケの物言いに、リリーは首を傾げる。

 

「ずいぶん冷めた見方だけど、キュルケもあの人にアプローチしに来たんじゃなかったの?」

「ここへ来る前は恋の炎が燃え上がったと思ってたけど、勘違いだったみたいね。遠目にはわからなかったけど、あの目がだめ」

「目?」

「わからないのかしら、ミズル。あいつはまるで養豚場の豚でも見るみたいな冷ややかな目をして、こっちを見てるじゃないの。婚約者がいるんだか知らないけど、女をあんな目で見るような不躾な男なんてろくなもんじゃないわよ」

「うーん……そう?」

「あなたはなかなか目端が利くけど、男のことにはまだ疎いみたいね?」

 

 にやっと笑ってそう言うと、あなたはどう思うかしらと、タバサに話を振る。

 タバサは本から顔を上げもせずに、一言だけ答えた。

 

「ノーコメント」

 

 そんなふうに話していたところに、ルイズが帰ってきた。

 なにやら困ったような、考え込んでいるような顔でベッドに腰掛けると、ちょっと俯きがちにしている。

 

「おかえりなさい。どんな話だったのか、聞いてもいい?」

 

 リリーがお茶と茶菓子を差し出しながら尋ねると、ルイズは少しためらったものの、ぽつぽつと話し始めた。

 

「……ワルドにプロポーズされたのよ。この任務が終わったら、結婚しようって」

 

 キュルケとタバサがいるのにはっきり任務だと言ってしまっているが、まあ彼女らは既に概ね気が付いているようなものだし、今更であろう。

 リリーは目を瞬かせて、首を傾げた。

 

「それはまた……ずいぶんと急な話ね」

「ワルドはね、わたしが歴史に名を残すような偉大なメイジになるだなんて、夢みたいなことを言うのよ。それで、わたしが必要なんだって……」

 

 そこで、キュルケが鼻を鳴らして、横合いから口を挟む。

 

「あからさまにおためごかしじゃないの。大方、必要なのはあんたじゃなくて、ヴァリエール家の後ろ盾とかなんでしょ?」

 

 ルイズがむっとしたような顔になった。

 仮にもワルドは幼い頃からの憧れの人であり、婚約者なのだ。

 そんな物言いは見過ごせない。

 

「口を慎みなさい、ツェルプストー。ワルドはそんな人じゃないわ!」

「だって、一体あなたのどこを見たら、偉大なメイジになりそうだなんて思うの? 魔法の成功さえおぼつかないのに。そんなの、本心から言ってるとは思えないでしょうが」

 

 ルイズはちょっと顔を赤くして頬を膨らませたが、自分が『ゼロ』なのは事実なので、反論はしなかった。

 代わりに、リリーの方にちらりと目をやる。

 

「ワルドは、ミズルの左手のルーンが、『ガンダールヴ』のものなんだって言ってた」

「はあ?」

「……始祖の使い魔」

 

 キュルケは怪訝そうな顔をし、タバサは読んでいた本から顔を上げた。

 少女らの視線が、リリーの左手に集まる。

 

「えーと……これ?」

 

 リリーはちょっと目を瞬かせると、左手を差し出した。

 学院長には無暗に他言するなと言われているが、既に話を聞いてしまった以上は彼女らに対して黙っておく意味もないだろう。

 

「確かに、フーケを捕まえた後にコルベール先生から、調べてみたらそうだったっていう話を聞いたけど」

「……なんで教えてくれなかったのよ?」

 

 彼女自身が既に知っていたと聞いて、ルイズは不機嫌そうな顔になる。

 

「ごめんなさいね。学院長に『伝説だのなんだのってことが広まるとろくでもない連中が寄ってくるから、他言はしないように』って口止めされてたから」

 

 リリーはそう言って肩をすくめた。

 

「私の体感だと、機能としては武器を持つとルーンが光って、身体能力が向上して強くなるみたいね」

「『ガンダールヴ』はあらゆる武器を使いこなして、千の敵からも主である始祖ブリミルを守り抜いたと伝えられている」

 

 タバサがリリーのベッドに近付いてルーンを指でなぞり、興味深そうに観察しながらそう解説する。

 

「そうね。『スタンド』でいろいろな武器を作れるミズルにはぴったりのルーンだし、言い伝えとも合うわね」

 

 キュルケが頷いた。

 リリーはなにせ『波紋使い』にして『スタンド使い』なのだから類稀な存在だということに異論はないし、伝説だと言われればさもありなんとも思える。

 

「だとしても、すごいのはミズルで、わたしってわけじゃないもの」

 

 ルイズはふてくされたようにそう言った。

 彼女が伝説の使い魔だというのが事実だったとしても、それが落ちこぼれの自分の元に来たのはなにかの間違いに決まっている。

 たまたまくじびきに当たったようなもので、それ以上の何かではない。

 自分は『ゼロ』のルイズだ、ワルドが言うような力が自分にあるはずがないではないか。

 

「『ガンダールヴ』は始祖ブリミルの使い魔。原則として召喚される使い魔は、メイジの属性に応じたものであるはず」

 

 タバサはそんな彼女の方に目を向けて、そう指摘した。

 たとえば火属性のメイジは、どんなに優秀であろうとも、また本人が望もうとも、風竜を召喚することはない。

 風竜を召喚できるのは、風属性のメイジだけだ。

 

「あ、そうか。その理屈でいうと、ルイズは始祖と同じ、『虚無』のメイジってことになるわね」

 

 ルイズははっとした顔になった。

 が、すぐにむくれたようにキュルケを睨む。

 

「なによ、『虚無』だなんて。いつも『ゼロ』だって言って笑ってるくせに」

「『ゼロ』だってのは、今のところ事実だからそう言ってるってだけじゃないの。それとこれとは別の話でしょ」

「そう考えると、つじつまの合う点が多い」

 

 タバサはそう言って、自分の推測を述べていく。

 

「第一に、使い魔のルーンが始祖のそれと同じであるという点。第二に、メイジなら誰でも、最初に使えるようになるのは、まず自系統の魔法と決まっている」

 

 メイジが自分の系統の魔法を唱えると、体の中に何かが生まれて循環するリズムとなっていくような感覚がし、それが最高潮に達したときに呪文は完成する。

 誰もがそうして初めて成功させた呪文によって自分の系統を知り、駆け出しのドット・メイジとなってメイジとしてのキャリアをスタートさせるのだ。

 その時点でコモン・ルーンも使えるようになり、そのメイジの腕前や適性にもよるが、他系統の魔法も順次唱えられるようになっていく。

 

「わたしの目から見て、あなたの呪文の詠唱や集中力は完璧で、何も問題がない。なのに魔法が成功しないのは、まだ自系統の呪文を唱えたことがないからだと考えれば納得できる」

「なるほど。爆発が起きるっていうことは、逆に言えばそれを起こせるだけの魔力はあるってことだろうし。私はメイジじゃないから何とも言えないけど、魔力が足りないわけでも詠唱の仕方が悪いわけでもないっていうなら、もしかしたらそういうことなのかもしれないわね」

 

 タバサやリリーにまでそう言われて、ルイズは困惑したように視線を泳がせた。

 

「わたしが、始祖の系統? 本当に?」

「状況証拠から見て、そうである可能性が十分にあるということ。確証はない」

「そうね。けど、あんたの力がどうのとかいう話がおためごかしじゃないとしたら、あの子爵様とやらもそう判断してるってことじゃない?」

 

 ルイズはそんな彼女らの方を見たが、何と言っていいのかわからずに眉根を寄せて俯き、考え込んだ。

 

「……もし、そうだとしたら。わたしはいったい、どうすればいいのよ」

 

 仮にタバサの推測通りだとしたら、自分は『虚無』のドット・スペルにあたるものを唱えるまでは、絶対に魔法は成功しないということではないか。

 別に伝説になりたいなどとは思っていない、とにかく魔法を成功させて優秀な姉たちほどではなくてもごく普通のメイジになりたいと思っていたルイズにとっては、それはまったくありがたくない話だった。

 

「始祖の系統は、遠い昔に失われたものだわ。それじゃあ、わたしは一生魔法が使えるようにはならないってことじゃないの」

「『虚無』の系統が遺失したって話は聞いてるけど、呪文書とかもぜんぜん残っていないのかしら?」

 

 リリーが少女らにそう尋ねる。

 

「これまでに読んだどの魔法書にも書いてなかったし、先生たちもみんなそう言ってたわ」

「あたしも、使い手にせよ呪文書にせよ、見たことはないわね」

「可能性があるとすれば、古い時代の書物。『ガンダールヴ』にしても今の時代の本には伝説はともかく、ルーンの形状まではまず載っていない。学院側はおそらく、普段は書庫の奥にしまわれているような古書を調べたはず。そこには、『虚無』について書かれたものもあるかもしれない」

 

 この中ではもっとも博学なタバサが自分のベッドに座り直しながら、そう考えを述べた。

 

「あるいはトリステインやアルビオン、ガリアのような古い時代から続く王家は、『虚無』に関する書物や秘宝を所有しているかもしれない。そうでなくても、とても古い時代の遺跡の奥には、そういった品物がまだ眠っているかもしれない」

「つまり、希望はあるってことね」

 

 リリーは頷いて、ルイズの方を見た。

 

「とりあえず機会を見て、そのあたりから調べてみましょう。でも、もしどうしても見つからないようなら、その時は自分で『虚無』とやらの呪文を作ればいいのよ」

 

 そう言われて、ルイズははっとしたような顔になって、リリーの方を見た。

 タバサとキュルケも、ちょっと意表を突かれたような顔をして、彼女に目をやる。

 

「呪文を……作る?」

「そうよ。私は魔法については素人だけど、まさかこの世界の呪文はぜんぶカミサマか誰かが作ったもので最初からあるんだ、っていうわけじゃあないんでしょう?」

「系統魔法のおおよその体系は、始祖の時代に作られたものだとされる。でも、中には後世になってから編み出された呪文や、その応用法もある」

 

 タバサの説明を聞いて、リリーは微笑んだ。

 

「なら、始祖だろうと他の誰かだろうと、とにかく最初に呪文を作った人はいるわけよね。他の誰かにできることなら、ルイズにできない道理はないはずだわ」

 

 ルイズは、なにをとんでもないことを、というような顔になった。

 自分で呪文を開発できるのは、それこそ歴史とまでは言わないまでも、書物に名を残せるような優秀なメイジに限られる。

 ましてや、どんなものかさえもろくにわかっていない、始祖の用いた伝説の系統の呪文だなんて。

 しかし、キュルケはふっと笑いながら頷いた。

 

「そうね。ヴァリエールの娘なら当然、そのくらいのことはできるんでしょうね。そのほうが、あたしも張り合いがあるけど」

 

 彼女は自分に自信があるので、相手が伝説だろうがなんだろうが、その程度のことで自分が遅れを取るなどとは思っていないのだ。

 相手がただの『ゼロ』よりは、『虚無』の方が面白いではないか。

 

「あんたねえ。他人事だと思って……」

「これまでに誰も『虚無』の系統の呪文を再現も開発もできなかったのは、『虚無』の属性のメイジがいなかったから」

 

 今度は、タバサが論理的な面からそう指摘する。

 新しい呪文の開発はほとんどの場合、その呪文と同じ属性のメイジが行う。

 どんなに優秀なメイジであっても、自分の体で正しい魔法の流れ、リズムを体感として掴める自系統以外の呪文を新たに編み出すことは、極めて難しいのだ。

 

「あなたが『虚無』だとすれば、自分の体で正しいリズムを体感できるから、方向性は掴みやすいはず。どれだけ時間をかけてもよくて、ドット・スペルのひとつだけでも開発もしくは再発見できればそれでいいというのなら、可能性は十分にあると思う」

「タバサまで、そんな……」

 

 そう言われても、ルイズには自分にそんなことができるとは思えなかった。

 ずっと『ゼロ』と言われ続けて、表面的には負けん気の強い態度で毅然と応じてはきたけれど。

 実際のところ、内心では自分でも魔法に関しては落ちこぼれだ、出来損ないだと信じていて、自信などない。

 リリーは、そんな彼女の近くに寄って、その顔を覗き込んだ。

 

「ルイズ。私は、『運命』ってのは自分で作るものだと思ってるわ。私のキャラバンは『望んだ物を作り出すスタンド』。だけど、望んだ運命を作り出せるのは、スタンド能力じゃあない。もちろん、『虚無』だとか『ガンダールヴ』だとか、そんなことでもね」

 

 優しく力強く微笑んで、そう言って聞かせる。

 

「……ミズル……」

「この水流リリーさんがついてるんだから、しっかりしなさい。私はいずれ故郷には帰るつもりでいるけど、乗りかかった船だもの。あなたが立派なメイジになるまでは付き合うわ」

 

 にっこりと笑って、ルイズをそっと抱き寄せると、ぽんぽんと背中を撫でた。

 

「慰め代はサービスでただにしといてあげるから。あんまり待たせないでね?」

「な、なにが慰め代よ。誰が、慰めてもらう必要なんかあるもんですか!」

 

 ルイズはかあっと顔を赤くしたが、抵抗はせず、されるままになっている。

 

「見てなさいよ。『虚無』だろうがそうでなかろうが、すぐに立派なメイジになってみせるんだから!」

「うんうん、その意気よ」

 

 そんな二人の姿を、キュルケがほうっと感心したような溜息を吐きながら眺めていた。

 タバサも、相変わらず感情の掴みにくい目で、じーっとそちらを見ている。

 

「男のことには疎いみたいだけど、女の扱いはあの子爵殿よりよっぽどうまいわね。タバサもそう思うでしょ?」

「ノーコメント」

「ねえねえ、ミズル。今度はあたしのことも口説いてみてくださらない?」

「……わたしが先」

 

 そんなふうに姦しく盛り上がる女性陣を、部屋の端の方からキャラバンとデルフリンガーという男(?)連中が見物していた。

 こちらはこちらで、彼女らの邪魔にならないように小声でいろいろと話し合っている。

 

『確かに。ご主人の方が、あのワルドとかいう御仁よりは、まだ女を口説くのが上手そうやね』

「あー。娘っ子の話だと確か、『君はいつか偉大なメイジになる、だから僕には君が必要だ、結婚してくれ』とか言ったんだよな?」

『そんなん、女が将来でっかい遺産を相続しそうだから結婚したいとかぬかす男と変わりませんやん。誰がそんなヒモ男になる気満々みたいな不良在庫を引き取りたがるっちゅーんや。「たとえ君が魔法を使えないままでも僕が支えるよ。愛しているんだ、結婚してくれ」とかやろ、普通は?』

「あの色男は、あんな口上で女がホレるとでも思ったのかね。顔はいいけど、女を口説いた経験はろくにねえんだな」

『いやしかし、そういえばルイズはんは、プロポーズにどう返事をしたのか聞いとりませんでしたなー』

「そういや、そうだったな。まさか受けてねえだろうとは思うがね。……しかし、『虚無』とか『ガンダ―ルヴ』とか、なんか引っかかるんだよな……」

『そのへんのことは、わしにはわからんけれども。とりあえずプロポーズの件が気になるんで、聞いてみてもらえますか』

「ああ、そうだな。……おーい、娘っ子!」

 

 部屋の端の方でデルフリンガーがかちかちと鞘を鳴らして大きな声を出すと、少女らの注意がそちらに向く。

 

「な、なによ。急に」

 

 女性同士であれこれと内密な話をしている様子を、そういえばいるのを忘れていた男(?)に見られて、ルイズが少しばかり頬を赤らめる。

 

「盛り上がってるところ、申し訳ねえんだがね。俺っちもそっちの話がちょいと気になったもんで、質問したいんだが」

「なによ」

「結局、お前さんはその子爵だかのプロポーズに、どう返事をしたのかね?」

 

 そう言われるとそっちの話の続きを聞いていなかったと思い出した少女らも関心を示したので、ルイズは溜息を吐きながら話した。

 

「……まだ、あなたに釣り合うような立派なメイジじゃないから、もう少し待ってもらいたいって返事をしたわ。ワルドは急がないって言ってくれたけど、この旅が終わったら、君の気持は僕に傾くはずだって……」

「まあ、順当な答え方よね。再会したばかりで、すぐに返事なんてできるはずもないし」

 

 リリーはそう言って頷いた。

 というか、再会したばかりですぐに求婚して来るというのもどうなのかとは思うが。

 それを聞いたキュルケは、ちょっと顔をしかめる。

 

「だけど、あんたは今さっき、この旅の後もミズルと一緒に魔法を使えるようになるために頑張るって決めたじゃないの。それってつまり、旅が終わったらすぐに結婚する気なんて毛頭ないってことでしょ?」

「まあ……今のところは」

「あの子爵殿は、一体何歳なのかしら?」

「二十六よ、確か」

 

 それを聞いて、リリーは『やっぱり老け顔ね』と思ったが、キュルケは珍しく真面目な顔をして頷いた。

 

「あんたより十は上ね。結婚するのに遅すぎるってほどのことはないでしょうけど、もう早いともいえない年齢だわ」

「……何が言いたいのよ」

「あたしは、あの子爵殿のことは好きになれないけどね。ともかくも相手が真剣にあんたと結婚したいっていうんだったら、少なくとも当分は結婚する意志がないのにあんまり待ち惚けをさせるのはさすがに気の毒なんじゃないかってことよ」

 

 キュルケは遊びで大勢の男と付き合うし手酷い扱いもするが、相手がプロポーズをしてくるくらいに本当に真剣であるのなら、それ相応の応対はしなくてはならないとは思っている。

 その気がない男を、相手の側が本気だとわかっているのに何年もキープしといたりはしないつもりだ。

 そんなことをして、相手から心底憎悪されるようなことにはなりたくはない。

 まあ、ワルドについては真剣にルイズと結婚したがっているのではなくヴァリエールの後ろ盾なり『虚無』の力なりが目当てなんだったら別にいいかという気もするが、それはそれで別の種類の恨みを買いそうな気もするし。

 なんにせよ変な期待を持たせないように、その気がないなら早い段階でさっさと断ってしまったほうが後腐れがないというものだ。

 

「きっぱり振るか、待っててくれればいつかは結婚するかもと思うんだったら今の自分の考えを伝えてそれでもいいって言ってくれるかを確認するかしたほうが、親切なんじゃないかしら?」

 

 ルイズは俯いて考え込んだが、ややあって頷いた。

 

「……そうね。じゃあ、ちょっと戻って、ワルドに今のわたしの気持ちを伝えてくる」

 

 そう言って出て行ったルイズがややあって戻ってくると、少女らはまたしばらく話に花を咲かせたが。

 明日は休みとはいえ大事な任務の最中にあまり夜更かしをするのも良くないだろうし、ルイズには旅の疲れもあって、それからほどなくして明かりを消し、眠りにつくことになった。

 

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