7人目のスタンド使い魔 ~キャラバンAct2!~   作:ローレンシウ

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第五十話 閑話休題

 

 ルイズらはまだ残っているはずのフーケや、先ほどの『偏在』の本体であるメイジの襲撃を警戒していていたが、船に乗るところまでは概ね問題なく事が進んだ。

 建物の間を抜けた先にある長い階段を上りきって丘の上に行き、そこにある見上げるような大樹の中の空洞に設けられた階段を更に上がる。

 一本の枝の先に停泊していた、あらかじめ『女神の杵』亭の店主に教えてもらっていた小型の快速船に乗り込むと、甲板で寝ていた若い船員が目を醒まして、一行を胡散臭げに見つめた。

 

「なにかご用ですか。翌朝の分の積み荷でしたら、すべて乗せたはずなんですが」

「船長を呼んでもらいたい」

「もう寝てるよ。アルビオンへ行きたいのなら、これは客船じゃない。それに、この港の船はどれも、明日の朝までは出港しないんだ」

 

 ワルドは杖を抜いてみせる。

 

「貴族に二度も同じことを言わせる気か? 僕は、船長を呼べと言ったんだ」

 

 その若者は緊張したような様子を見せながらも、首を横に振った。

 

「要件も明らかにしない相手を、取り次ぐわけにはいかないな」

 

 寝起きに突然の面倒事に巻き込まれた不運を嘆くでもなく、すぐに動けるよう身構えながら、手を腰の警笛に伸ばしている。

 さっきの傭兵たちよりも、よほど『覚悟』が決まっているようだ。

 そこに、ルイズが割って入った。

 

「なにも、余計な面倒を起こすことはないでしょう」

 

 そう言って、船員に向き直る。

 

「詳しい要件は言えないけど、わたしたちはすぐにアルビオンへ行かなくてはいけないのよ」

「戦時には、そういう人は大勢いますよ。お力になれればとは思いますが、先ほども言ったようにこの船は客船じゃないし、とても危険なところへ向かうんです。お乗せするわけにはいきません」

 

 船員は少し態度をあらためながらも、やはり首を横に振る。

 

「『女神の杵』亭の店主には、この船の船長を頼るようにと言われたのだけど」

「ああ、あの人ですか。……それなら、少々お待ちを」

 

 若者は頷くと、一礼して船内に走っていった。

 ややあって、いかにも船長らしい装いをした中年の男があらわれる。

 眼光鋭くいかつい容貌で、まるで映画とかで見た海賊船の船長のようだと、リリーは思った。

 

「船長のシャルトです。ブルーガーからの紹介だそうですが」

 

 一行をさっと眺め渡して軽く会釈をした船長に、ルイズは手紙を差し出した。

 彼はそれにしっかりと目を通すと、頷いて懐にしまい込む。

 

「なるほど、あなたがたをすぐにアルビオンまで送っていってやってほしい、リリーシャロンの名にかけて頼んだと書いてあるね」

 

 それから、困ったように頭をかいた。

 

「さあて。昔馴染みから、よく憧れを語り合ったあの女空賊の名にかけてとまで言われたのでは、引き受けんわけにもいかないが……」

「なにか、問題があるのかしら?」

 

 キュルケに言われて、船長は頷いた。

 

「いくつかね。まず、私らには先約がありまして。そちらも、負けず劣らず大事な用事です」

「我々の要件は、女王陛下からの勅命だぞ」

「こっちも王族からの頼みでして。それも、今回の約束を反故にされたらもう取り返しがつかないかもしれんという方々からなのでね」

 

 少女らは顔を見合わせた。

 ワルドは、興味深そうにしている。

 

「では、アルビオンの王族に?」

「そうです。現在の戦況から考えて、もう秘密にしておく必要もないでしょうから言いますが、軍需物資の運搬ですな」

「王党派は劣勢で、制空権も奪われた状態だと聞いているが……」

「ですから、積載量が少ないのを承知の上で、空の包囲をくぐり抜け追跡を振り切れる、このような小型の快速船で運ぶしかないってわけです」

「そんな危険なお仕事を、よく引き受けたわね。劣勢の王族側じゃ、お金だって大して払えないんじゃないの?」

「縁あって、ウェールズ皇太子どのとはお近づきになる機会があったものでね」

 

 船長は肩をすくめてそう答えた。

 

「そういうわけですから、この船は王党派と貴族派の交戦まっただ中のニューカッスル城へ向かうことになります。どこへ行かれるのかは知らないが、どうにか時間と燃料をやりくりして事前にあなた方の行きたい場所へ立ち寄るにしても、あまり遠くにまでは行けんので」

「なおさら好都合だわ。一緒にニューカッスル城まで連れて行って、そこに下ろしてちょうだい」

「なんと?」

 

 ルイズの言葉に、船長は目を丸くする。

 

「いやいや! あそこが今、どんな状況かを知らんのですか。死にに行くようなものです!」

「詳しい内容は言えないのだけど。トリステインからの使者として、皇太子殿下にお会いしなくてはならないのよ」

 

 船長は難しい顔をしてしばし考え込んだが、ややあって頷いた。

 

「……いいでしょう、ブルーガーの紹介では断れませんな。あなた方が曲者ということもありますまい。王党派は既に明日をも知れん状況で、密偵にせよ暗殺者にせよ、今さら送る必要などないでしょうから」

 

 それを聞いて、リリーは眉をひそめた。

 

「戦況は、そこまで悪いんですか?」

「はっきり言ってしまえば、既に望みはないですな。王党派はもはや勝つことではなく、いかに散るかということを考えておるようです」

「そんなに……」

 

 ルイズも顔を曇らせる。

 

「もう一つの問題は、積載量です。先ほども言ったとおり、このちっぽけな船に詰める量は限られている。明日にも最後の時を迎えようかという王党派の連中のためにも、できる限りの物資を届けてやりたいんだが……」

 

 予定外の人員を乗せれば当然ながら重量が増して、積める量が減る。

 そのうえに予定の時刻よりも早く発つとなれば、アルビオンまでの距離が遠くなるために『風石』……船を宙に浮かべるための風の魔法力を蓄えた石……も余計に必要で、それが調達できなければ代わりに重量を減らすしかなくなり、ますます積荷が圧迫されることになる。

 

「僕は風のスクウェアだ。その分くらいは補えるさ」

 

 ワルドがそう申し出たので、船長は頷いた。

 

「ならば結構です。王党派の連中も、少しでも早く物資が届いたほうがありがたいでしょう。助かりますよ」

 

 そう言って、船員の方を向く。

 

「よし、直ちに出港だ。他の連中を起こしてきてくれ」

「はいっ!」

 

 船長の指示を受けて、船員が走っていった。

 予定が急に変わったというのに不満そうな様子もなく、むしろ出港が早くなったことを喜んで、活き活きとしているように見える。

 

「感謝するわ。運賃はおいくら?」

 

 ルイズの言葉に、船長は首を横に振った。

 

「結構です。ブルーガーの手紙には、『その方々の運賃は、後で自分に請求しろ』と書いてありましたので」

 

 

「いやー、いかにもファンタジーやメルヘンな世界の乗り物って感じね」

『なんとゆーか、「最後の幻想」っちゅー感じですな』

 

 リリーは甲板で夜風に髪をなびかせながら、遠ざかっていくラ・ロシェールの街の灯りを眺めていた。

 これから戦場へ向かうのだと思えば緊張もするが、元の世界では創作の中にしかないような乗り物にわくわくする気持ちも確かにある。

 そうしているうちに、出航作業が一段落した船員たちがマストから降りてきたので、リリーは彼らに尋ねてみた。

 

「ごめんなさい。ニューカッスル城ってとこには、いつ頃着くのかしら?」

「そうだな。必要に応じて迂回路を取ったりするから、確かなことは言えないんだが。明日の昼頃までには、まず間違いなく着くさ」

 

 そう答えた後で、彼らはリリーの姿をじろじろと眺めた。

 

「? ええと、何か?」

「あ、いや、失礼。ただ、女性が水兵服とは珍しいなと」

「水兵服に、風になびく金髪かあ……」

「あんたの姿はまるで、あの女空賊、リリーシャロンのようだね」

 

 そう言われて、リリーは首を傾げた。

 

「さっき、船長さんの口からも、その名前を聞いたけど。有名な人なのかしら?」

「おいおい、リリーシャロンの名前を聞いたことがないだって?」

「まさか。有名も有名さ。子供でも知ってるよ!」

 

 そんな話をしていたところに、タバサとキュルケがやってきた。

 

「リリーシャロンは、かつては軍属の水兵だった女性。腐敗した当時の王権に仕えるのを嫌って空賊となり、義賊として名を馳せたと伝えられている」

「特に平民の間では、彼女の物語は人気が高いみたいね。王権に逆らったとされているから、貴族の間ではそれほどでもないけど」

「イーヴァルディと同じように、勇者と呼ばれたり、英雄視されたりすることもある人物」

 

 彼女らの説明に、船員たちが大きく頷く。

 

「そうとも。『大空を駆ける自由の翼』、空賊リリーシャロン! 俺たちの憧れだね」

「特に、シャルト船長はずいぶん入れ込んでてよー」

「ブルーガーさんもな」

 

 彼らの話によると、シャルトとブルーガーは昔、その女空賊に憧れて、自分たちも空賊になろうと語り合っていたらしい。

 しかし現実は非常である。

 義のある空賊の時代などは、たとえそんなものが本当にあったのだとしても、とうの昔に過ぎ去っていた。

 ただの残虐非道な空賊などにはなりたくもない。

 それでも飛行船に関わる仕事に就きたくて、シャルトは少々危険な仕事も引き受ける快速船の船長に、ブルーガーは飛行船の発着するラ・ロシェールの宿の経営者になった。

 

「でも、リリーシャロンは王権を嫌った空賊でしょう。なのに船長は、王党派のために働くの?」

 

 キュルケはそう、疑問を口にする。

 

「王権がどうとかいう問題じゃないよ。リリーシャロンはいつでも自分の心の赴くままにやった人だ。富める悪党からはぶん取り、貧しくて善良な人々には施した。気に入らないやつのためには動かず、気に入ったやつのために危険を冒した」

「いま、貴族派に武器弾薬を運んでる連中は、ただ強い側について儲けようってだけじゃないか。信念もへったくれもないんだ」

「船長はそれが気に入らないんだよ。むしろ、皇太子どののほうが気に入ったらしい」

「もちろん、俺たちもそうだけどな」

「俺らもリリーシャロンに倣って、本当にやりたい仕事をするってだけのことよ。夢も理想もなしで、こんな商売が続けられるかってんだ」

「ふうん。なるほどねえ」

 

 リリーは頷いて、ちょっと考え込んだ。

 

「……私はシャロンとかじゃなくて、ただのリリーだし。相方の翼も、飛べないやつなんだけど……」

『なんじゃい。飛べない鳥で悪かったのー』

「そういうことなら、せっかくだから空賊気分になってみようかな?」

 

 そう言ってキャラバンの袋から取り出した海賊船長の帽子っぽいのを被って、眼帯(細かい穴が空いてるので前が見える)を左目につけた。

 スタンドパワーの無駄遣いと言えば無駄遣いだが、ジュース一本で余裕で賄える程度の消費だし、ちょっとしたお遊びは皆の気持ちをリラックスさせることにもつながる。

 任務中に無暗に決闘を吹っ掛けて体力や精神力を費やすとかよりは有意義だと思う、たぶん。

 

 それを見た船員たちから、おー、と声が上がった。

 

「こりゃあいいや。ますますリリーシャロンだね!」

「あんた、彼女のことを知らないだなんて言っときながら、ずいぶんと準備がいいんじゃあないか?」

「準備がいいんじゃなくて、ノリとサービスがいいのよ。私、商売人だから」

 

 そんな風に笑い合っているところへ、ルイズがやってきた。

 リリーを見て、怪訝そうにする。

 

「? なによ、その格好は」

「リリーシャロンって人の、コスプレ……かな」

「こすぷれ?」

 

 簡単に経緯の説明を受けたルイズは、呆れたような顔になった。

 

「呑気ね……これから戦場へ行こうかってのに」

「だからこそ、今のうちに楽しんでるんじゃあないの。シリアスになれば生き残れる確率が上がる、ってものでもないでしょ?」

 

 あのエジプトツアーも過酷な旅だったが、それでもみんな結構楽しんだりもしていたものだ。

 

「いつもかも深刻そうにしてても、神経が参ってしまうだけよ。景色とか雰囲気とか、旅先でのグルメとか出会いとか。楽しめるときには楽しまないとね」

「まったく、もう」

 

 ルイズは肩をすくめたが、それ以上は咎めずに話題を変えた。

 

「ところで、さっきの傷は大丈夫なの?」

「ああ、どうってことないわ。ルイズの方こそ、大丈夫だった?」

「大したことはないわ。ワルドが大げさに心配して水魔法の治癒をかけてくれたけど、正直精神力がもったいないと思ったくらいよ」

「そうよねえ。あのくらいは別に戦場でなくても、授業でも何度もあったことだものね?」

 

 横から軽口を挟んだキュルケを、じろっと睨む。

 

「なによ、爆発ばかりで悪かったわね」

 

 そこへワルドがやって来て、既に周囲の船員から聞いた情報を、あらためて教えてくれた。

 

「船長の話では、遅くとも明日の昼までにはニューカッスル城へ到着できるそうだ」

 

 彼はリリーの格好を見ると、薄い笑みを浮かべる。

 

「おや、楽しんでいるようだね。それは、緊張を紛らわせるためかな。それとも、腕の痛みのほうを?」

 

 ワルドとしては、リリーの腕の火傷はそれなりに重いものだろうと考えているらしい。

 いえ、大したことはという彼女に対して、彼は薄く笑った。

 

「頼もしいことだが、夜風は傷にしみるだろう。平民の君には、到着までやることもないのだし。気を紛らわせて痛みをごまかすよりも、早めに休んで少しでも回復させておいた方がいいのではないかな?」

「そうですね……」

 

 実際にはこんなもの、治療薬を少々投与するなり波紋の呼吸をするなりしていれば、すぐに完治する程度のものだが。

 エジプトツアーで『スパーク』から食らった大雷の方が、よっぽど痛かった。

 とはいえ、彼なりに心配してくれての提案なのだろうし、無下にするのもよろしくないだろう。

 

「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて、船内で休んでおきますね」

 

 ついでに、せっかくなのでもしあるようなら、休みながらそのリリーシャロンという人の本を読んでおきたいと、船員たちに聞いてみる。

 せっかくの勉強の機会を逃してはいけない。

 お客様にいいサービスを提供するためにも、なんでも情報を仕入れておかなくては。

 

「ああ。それなら船長室に、立派なコレクションがあるさ」

「あんたがその格好で行ってやれば、船長も喜ぶだろうと思うよ」

 

 リリーは礼を言って、皆におやすみの挨拶をすると、甲板から去って船内の方に向かった。

 ワルドはそれを横目で見送りながら、胸中で思案を巡らせる。

 その内心は、表情ほど穏やかではなかった。

 

(いまいましい。よくもまあ毎度毎度、小賢しい策で切り抜けてくれるものだな)

 

 使うのは所詮は平民の域を出ない奇抜な小道具や投擲武器や銃の類ばかりで、地力は取るに足りないはずだが、妙に食い下がる。

 まあ、小細工や隠し持った武器など、だいぶ手の内も見えてきたことだし、負傷もさせたことだし。

 もはや恐れるに足りない、とは思うが……。

 それでも、いなくなってくれた方が不確定要素が消えて、安心なことは間違いない。

 

(船内で油断して休んでいるところを刺し殺せば、それで済むだろうが……)

 

 とはいえ、この狭い船内で万が一やり損なって周囲に気付かれでもすれば、言い訳が効かなくなる。

 それに、彼女らは念のためにということで、船が離陸するや直ちに船内をくまなく見て回り、誰も潜んでいないことを確認していた。

 なのに犠牲者が出たとなれば、疑いの目がこっちに向くかもしれない。

 些細な問題の目を摘み取ろうとしてすべてを台無しにするかもしれない危険を冒すのは、賢明ではあるまい。

 

(この手で仕留めてやりたいのは山々だが……、運がよかったな、『ガンダールヴ』め)

 

 そう決断すると、今度はルイズの方を向いた。

 ならば今は、彼女の気持ちを掴むために、少しでもよい印象付けをしておこう。

 

「ルイズ、さっきの怪我は大丈夫かい。痛むようなら、もう少し治癒をかけようか」

「もう大丈夫よ、大げさね」

 

 彼女はそう言って苦笑する。

 

「あなたは、この船を飛ばすのにも協力しないといけないでしょう。こんなかすり傷を気にするよりも、精神力を温存しておいて」

 

 ワルドは、いかにも申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 

「すまない。君の使い魔にしんがりを任せきりにしたのは荷が重すぎたようだ。僕も護衛を手伝っていれば、こうして君にケガをさせることもなかっただろうに」

 

 それを聞いて、ルイズは片眉をぴくりと動かす。

 リリーは別に索敵専門とかじゃないのだから、伏兵に気付けなかった責任は全員にある。

 彼女は真っ先に自分のために動き、自らも傷付きながら助け出してくれたのだから、むしろ立派な働きではないか。

 

(ミズルが傷つきながら戦ってくれてるんだから、わたしだってケガのひとつも負うのは当然でしょ。荷が重すぎるって何よ。わたしが誰かに守ってもらうだけのお荷物で、それを前提に動くべきだとでも言いたいの?)

 

 ルイズはワルドの物言いに不快感を覚えたが、いつまでも子供扱いであるにもせよ、彼は彼なりに自分のことを心配してくれているのだろう。

 そう考えて内心の不満を呑み込むと、素っ気なく首を振って答えた。

 

「……別に、あなたのせいでも、ミズルのせいでもないわ。そんな言い方はしないで」

 

 キュルケはというと、心の中で、『何言ってんのこいつ』と呆れていた。

 

(あんたはタバサが気付いた傭兵にも気付かないわ、あの仮面の男も見落とすわでとんだ木偶の棒だったじゃないの。もう少し気を付けておけばってことは、さっきは先導役のくせに周りの様子にろくに気を配ってなかったってわけ?)

 

 子供の使いじゃあるまいし、先導役ってのはただ先頭に立って道案内をすればいいってものじゃないだろう。

 任務とかよりもルイズのことで頭がいっぱいなせいかと思えば、彼女がさらわれても助けに行くのも間に合わずミズルが行って戦って、ルイズがその隙に自力で逃げ出して、全部終わってからやっと駆けつける始末。

 本当に一体何をしにきたのかと言いたくもなる。

 

「自分を責める必要も、高望みする必要もない。自分にできることで、任務に貢献すればいい」

 

 タバサは本から顔をあげもせずに、淡々とした口調で言った。

 

「だから、あなたはこの船を飛ばす手伝いをすれば、それでいいと思う」

 

 訳:大人しく燃料役してろヌケサク。

 

 

「アルビオンが見えてきたぞー!」

「……ん」

 

 船員たちの声で、リリーは顔を上げた。

 気が付けば空も白み始めていたので、キャラバンの作った電気式ポータブルランプの明かりを消す。

 昨夜は船長が貸してくれたリリーシャロン・シリーズが思いの他面白くて、延々と読み耽ってしまったのだ。

 そのおかげで大体読み終えることはできたが、徹夜になったらしい。

 波紋の呼吸をしている身としては一徹くらいどうってことないといえばないのだが、任務中なので睡眠は十分にとって万全の状態にしておいた方がいいか。

 

「キャラバン、お願い」

『あいよ、Act2ね』

 

 リリーは彼の袋を通って異次元空間に移動すると、砂漠の隊商(キャラバン)の宿で一泊することにした。

 こちらでどれだけ過ごしても、元の世界では時間は経過していないのだ。

 積み荷だらけな小型船の粗末な船室よりは、いくらか寝心地もいいだろうし。

 

「お世話になった船のみんなに、こっちで料理とか作ってもっていってあげようかな。今後に備えて買い物もしておいて……。せっかく読んだんだから、このリリーシャロンのコスプレ衣装も、もっと完璧に……」

 

 これからいよいよ戦地へ飛び込もうかというのに、自分でも不思議なくらいに落ち着いていて、楽しむ余裕さえあった。

 

「……二度目だから、かな?」

 

 そう独り言ちながら考えをまとめ、準備を済ませ。

 少し高めの宿泊費を払って食事を食べると、寝床に潜り込んだ。

 戻ったら、いよいよ浮遊大陸とかいうラピュタ的なものが見られるのだ、などと考えながら……。

 

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