7人目のスタンド使い魔 ~キャラバンAct2!~   作:ローレンシウ

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第五十四話 Libiamo ne' lieti calici

 

 キャラバンAct2の異次元から帰還したルイズら一行は、砂埃の汚れを落とし、身なりを整えて、まずは普通にパーティに参加することにした。

 王党派の最後の生き残りたちが、今宵を最後の夜と思い定めて催す祝宴だ。

 城のホールにはまるで園遊会のように着飾った貴族たちが集まり、テーブルにはこの日のために取っておかれたり、シャルト船長に特別に発注したりした、さまざまな食材で作られたご馳走が並んでいる。

 アルビオン王ジェームズ一世は高齢のため、会場に置かれた簡易な玉座に腰かけたままで、宴の様子を目を細めて見守っており、彼に代わって息子のウェールズが参加者たちと歓談していた。

 若く凛々しい王子は軍人の間だけでなく、貴婦人たちの間でも大人気のようだ。

 

 ルイズらも、こんなときにやってきてくれたトリステインからの大使ということで、大いに人気だった。

 人々は代わる代わる彼女らの元へやってきては料理を勧め、酒を勧め、冗談を言ってくる。

 

「大使殿、このワインをお試しあれ! サウスゴータ地方の名水で育まれる空葡萄を用いた、十五年ものですぞ! かの地も戦火の影響を受け、再び口にできる日はいつになるかしれませぬ。この空の国を訪れられた記念に、ぜひともご賞味を!」

「なに! いかん! そのようなものをお出ししたのでは、アルビオンの恥と申すもの。それよりもこのハチミツが塗られた鳥料理を食してごらんなさい。うまくて頬の肉が落ちますぞ!」

 

 明日には死のうかというのに誰も悲嘆に暮れた様子などなく、それがためにルイズはかえって耐え難い悲愴の念を覚えた。

 この会場を飛び出したいような気分だったが、事前にリリーらと話し合った計画のことを思い出し、無理にぎこちない笑みを浮かべて彼らに応じながら、会場の隅の方に留まる。

 

「ありがとう。それじゃ、ご一緒にいただきましょうか」

 

 キュルケは表向きはいつもと変わりなく、笑顔で客たちと話をしたり、酌などをしてやったりしていた。

 とはいえ、さすがに今夜は、普段の調子でいい男を物色して口説こうなどとはしていない。

 彼女の感覚では、明日死ぬことを受け入れてしまっている者たちの中にはいい男などいないということなのかもしれないが。

 タバサはいつものように黙々と食事をし、たまに他の参加者が何かを勧めにくれば、頷いて受け取るという具合だった。

 ワルドは落ち着いた様子で、訪れる者たちにあたりさわりのない応対をし、食事や酒をほどほどに楽しんでいるようだ。

 

 そしてリリーはというと、内心でどう感じているにせよ、いつものように如才のない営業スマイルを浮かべて、人々に応対している。

 彼女は、ちゃんとパーティ会場向きの格好に着替えていた。

 もちろんキャラバンの能力で用意したものである。

 

「ワインは大好きなので、楽しみです。でも、今夜はやることもあるので、すぐには飲めなくて。よければお土産に、そのボトルをいただいていってもいいですか?」

 

 そう言いながら、自分に差し出された白ワインのボトルを受け取って、荷物の中にしまい込む。

 内心では、もう二度と手に入らないかもしれない貴重なワインの年代ものってことはさぞ高く売れるんでしょうね、などと考えながら。

 料理の方はありがたく頂戴して、代わりにキャラバンに作らせた別の料理を勧め返す。

 

「ありがとう、おいしいです。よかったら、お返しにこちらをいかがですか。『ハマム・マッハシ』です。お腹に米が詰めてある鳩のグリルで、香辛料がよく利いていますよ」

「なんと! こんな料理まで用意してきてくださったのか?」

「いや、実にありがたい! この期に及んで、他国の方々からこのような心配りを受けられようとは、光栄の至りですな!」

 

 そう言って愉快そうに笑うと、ひとしきり食べたり歓談したりした後、別の知り合いと話すために去っていく。

 リリーはそんな彼らをにこやかに見送りながら、目の端では会場の間取りなどを確認して、この後の『演出』についての思案を巡らせていた。

 

(……よし)

 

 そうこうしているうちに、どうにか段取りがまとまる。

 後は、吉と出るか凶と出るか、とにかく実行に移して幸運を祈るのみ。

 人事を尽くして天命を待つ。

 リリーは、ウェールズが話している相手が少し途切れた頃合いを見計らって、彼に接近した。

 

「すみません、殿下」

「おや、女空賊殿か。楽しんでくれているかな?」

「ええ。それで、きっともう少ししたら、国王陛下からのご挨拶があるのだと思うのですけれど……」

 

 その後に件の『リリーシャロンからの贈り物』をご披露したいので少し時間を割いて紹介してほしいと頼み込むと、彼は快く承諾してくれた。

 

「ありがとうございます。では、私は準備をしてきますので」

 

 そう言って丁重に一礼すると、その場を辞する。

 去り際にルイズ、キュルケ、タバサにも目配せをして、準備にかかろうと合図した。

 内心、死を目前に明るく華やかな、それゆえに悲しい宴を楽しむ人々の輪から逃げ出したいと思っていたルイズは、そそくさと会場を出る。

 キュルケとタバサも、リリーに頷きを返すと、後に続いた。

 

(やれやれ。負け犬どもの空元気に、耐えきれなくなったか)

 

 ルイズが早足に去っていくのを横目に見てワルドはそう考え、なんとも軟弱なことだと、内心で冷笑する。

 彼の目には、ルイズは魔法ができないことを叱られて耐え切れずに両親の前から逃げ出し、小舟に隠れて泣いていた幼い頃の少女と、何も変わっていないように見えていた。

 その頃と同じように探しに行って慰めの声を掛けてやれば、長い間離れていたせいか結婚は当面見合わせたいと言って渋っていた彼女も、すぐに昔の気持ちに戻って自分になびくことだろうなどと考えもする。

 ウェールズには先の会談の折に自分と彼女が婚約者であることを伝え、勇敢なる彼にぜひ媒酌をと頼んで、そのようなめでたい行為に最後に携われるのは自分にとっても嬉しいことだと快諾を得た。

 記念に残る印象的な演出、舞台の用意は既に整えてある。

 あとは心の弱った彼女を口説くだけ、赤子の手をひねるようにたやすい作業だ。

 少なくとも、彼の中ではそうだった。

 

(では、そろそろ慰めに行ってやるとするか)

 

 しばらく経ってから、ワルドはそう考えてグラスを置くと、自分も場を辞する。

 こんな負け犬どもの宴になど、これ以上見るべきものもない。

 ルイズがどこへ行ったかはわからないが、まあゆるゆると探すとしよう。

 あてがわれた部屋か、幼いの頃のように城の中庭か、とにかくどこか一人になれるような場所に違いあるまい。

 

 彼女のことしか眼中にないワルドは、リリーや他の同行者たちも同じように姿を消したことには気が付いていなかった。

 そのために人気のない場所をしばらく無為に探し回る羽目になり、その間に会場で起こっていた重要なイベントを見逃したのだった。

 

 

「……なあ、殿下。俺たちの船に来ないかい?」

 

 パーティに参加していたシャルト船長らの一行は、そう言って自分たちのところへ来たウェールズを口説いた。

 彼らとてルイズらと同様、王子やその臣下たちに死んでほしくはないのだ。

 勝ち目のない戦で逃げる道はあるのに死ぬまで戦うなどということは、平民である彼らの感覚としては受け入れ難いものがある。

 

「あんたらが今日まで十分勇敢に戦ってきたことは、俺たちが知ってるよ。知りもせん輩どもにどう言われようと構わんだろうが」

 

 ウェールズは気を悪くした様子もなく、笑って彼の肩を抱いた。

 一国の皇太子とは思えぬような気安さだった。

 

「ありがとう。最後まで私たちのために共に戦い、今もこうして案じてくれる君たちには本当に感謝しているよ」

 

 だが、それでも逃げることはできないと、きっぱりと答える。

 その理由について問われると、彼は先にリリーの問いかけに答えた時と同じ返答を返した。

 

「トリステインには亡命できない、最後まで戦うってんなら、いっそ本当の空賊になって、貴族派の輸送船を襲い続けるのはどうかね?」

「ああ、それだって立派な戦いじゃないか。なあ?」

 

 他の船員たちがそう言うと、ウェールズは苦笑する。

 

「そうだな。正直言って、空賊としての生活は、皇太子としての日常よりもずっと楽しかったさ。それでも、私は王族だ。その責務を投げ出して、空賊になるわけにはいかないよ」

 

 彼が誰に何を言われようと決心を翻す気がないのを見て取り、船員たちはしかめ面で黙り込んだ。

 

「あらためて、今日までありがとう。これは最後の支払いだ、受け取ってくれ」

 

 ウェールズはそう言うと、懐から宝石がちりばめられた小箱を取り出し、船長に手渡した。

 アンリエッタの手紙が収められていたものだ。

 

「宝箱だが、すっかり空っぽになったよ。だが、箱自体にも、それなりの金銭的な価値はあるだろう」

「……正規の代金は既にいただいてる。こいつはもらいすぎだよ」

「これまでの厚意に対する私からの気持ちと思って、納めてほしい。どのみち私自身にとっては、もうただの空箱なんだ」

 

 そう言って、遠くを見るような目をする。

 

「それでも気が済まないのなら、そうだな。アルビオンを望む丘に墓標を立ててほしい。箱はその代金ということにしよう。『気高き船長、シャルトからの薫陶を受けし者。空賊ウェールズ、ここに眠る』そうエピタフを刻んでおいてくれ」

 

 シャルトと船員たちは顔を見合わせ、苦笑した。

 

「まったく。とんだロマンチストだな」

「貴族だ王族だってやつらは、いちいち芝居がかってるよ」

「ああ。あんたと部下の空賊全員の墓を建てても、十分にお釣りがくる。そのこっ恥ずかしいエピタフ以外なら、引き受けてやらんでもないがね」

 

 ウェールズは彼らの反応に、はにかんだ。

 

「そうか。なら、任せたよ」

 

 そう言って微笑むと、踵を返して父王の元へ向かう。

 

「陛下。そろそろ、お言葉をいただかねばならぬ時間かと」

 

 ジェームズ一世は頷いて、重々しい態度で立ち上がろうとした。

 だが、年齢と心労のためにすっかり体が弱っており、よろけて倒れそうになる。

 それを見た臣下たちが、悪意のない笑い声をあげた。

 

「陛下、お倒れになるのはまだ早いのではありませんかな?」

「さよう、明日まではもっていただかねば、我々が困るというもので」

 

 ジェームズ一世はそんな軽口に気分を害した風もなく、人懐こい笑みを浮かべる。

 

「いやいや。座っていてちと、足が痺れただけじゃ」

 

 ウェールズが父王に寄り添うようにして立ち、その体を支えた。

 彼が軽く咳払いをすると、ホールの貴族、貴婦人たちが真顔になって、一斉に直立する。

 

「諸君、忠勇なる諸君。明日はついにこのニューカッスルの城に、我ら王軍に、反乱軍どもの総攻撃が行われる。この無能な王に諸君らは今日までよく従い、よく戦ってくれたが、明日の戦いはもはや戦いと呼べるものではない一方的な虐殺となろう」

 

 年老いた王は、時々咳き込みながらも、言葉を続けた。

 

「朕は、忠勇な諸君らが傷つき、斃れるのを見るに忍びない。よって、長年の忠義に厚く礼を述べると共に、諸君らに暇を与える。明日の朝、巡洋艦『イーグル』号に乗り、女子供らと共にこの忌まわしき大陸を離れるがよい」

 

 王の言葉が終わると、しばし沈黙が続いた。

 やがて、一人の貴族が声を上げる。

 

「諸君、聞いたか。陛下は我々に暇を与えてくださるそうだ。これからは何をしようと自由だ。では、何をする?」

 

 他の者たちが、それに応じて次々と声を上げる。

 

「陛下の指揮の下で、反乱軍どもと戦う!」

「いやいや、陛下も相当酔われたとみえる。『全軍前へ!』素面ならば、それ以外の命令などあるはずがない!」

「暇を与えるのは、無作法な反乱軍の連中に対してだけで十分というもの!」

 

 ジェームズ一世は目頭を拭い、なにやら呟くと、杖を掲げた。

 

「よかろう、ならばこの王に続くがよい! 今宵はよき夜、重なりし月は始祖からの祝福の調べである! みな、心行くまで楽しみ、明日の戦に備えようではないか!」

 

 わっという歓声が上がり、あたりが喧騒に包まれる。

 

「おのおの方。その前に少し、お時間をいただきたい」

 

 そこで、ウェールズがそう言って手を挙げた。

 あたりが静かになる。

 

「陛下のお言葉どおり、重なりし月は始祖よりの祝福に違いない。そして今宵は、他にも我らに贈り物をしてくれようという客人がこの城を訪れているので、ご紹介させていただこう」

 

 一同は、ざわめきながら顔を見合わせた。

 

「殿下。それは、トリステインからの大使の方々のことですかな?」

「その大使の方々と共に、我らに援助を続けてくれたシャルト船長の輸送船に乗ってやってきた空賊。おそらくは諸君らも知っているだろう、彼女の名を」

 

 ウェールズのその声と同時に、会場にどこからともなく、声が鳴り響く。

 

「これはこれは。誉なる皇太子殿下よりのご紹介、光栄の至りだ」

 

 明らかに女性の声だが不自然に大きく、不思議な響き。

 さらに、会場中ににわかにキラキラと美しい、小さな光が乱舞し始めた。

 会場の者たちは戸惑って、周囲を見回す。

 その時、会場に続く扉のひとつが開け放たれ、いつものセーラー服に着替え直したリリーが姿をあらわした。

 手には、先に作った空賊の衣装一式を持っている。

 

「自分から名乗らねば、無作法というものか」

 

 そう言いながら、空賊船長の帽子を被る。

 明らかに役作りを意識した、いつもより不敵そうな雰囲気、男っぽい凛々しげな口調。

 しかし、会場の人々はその姿もさることながら、彼女の不思議な声の響きや、今も続く光の乱舞に対しても困惑していた。

 この女性はメイジには見えないし、杖を持っている様子もない。

 リリーはそんな彼らをにやっと笑って見渡すと、自己紹介を始めた。

 

「まず、私は見てのとおり、以前はこんな水兵服を身にまとって、日々を送る身分だった」

 

 高校生時代にはそうだったという意味で、嘘は言ってない。

 

「その後は、このような服に身を包んだこともあった」

 

 そう言いながら手に持った外套を羽織り、いかにも空賊船長という感じの姿になる。

 さっき船の上でこの服着てたから、嘘は言ってない。

 

「そして今は、商人の端くれだ。おそらく皇太子殿下は、私のことをこう紹介されるおつもりだったのではないかな――」

 

 そう言いながら、帽子を取って、周囲にお辞儀をする。

 

「――空賊リリーシャロン、と」

 

 それを聞いて、一同はおお、とざわめいた。

 

「そう、確かに、私はリリーだ。もっとも、今はミズル・リリーと名乗っているが」

 

 嘘は言ってない。

 

「さて。皆様の中には、あるいはこう思われた向きもあるかもしれない。『リリーシャロンは王権に反抗した空賊ではないのか。我々に何の用だ』とね」

 

 そう言いながら、机の上にあったまだ未開栓のワインの瓶を手に取ると、波紋を流した。

 ポンと音を立ててコルク栓が吹っ飛ぶ。

 また、周囲の人々がざわめいた。

 

「そうではない。私はいつでも自分の心の赴くままにやってきた、ただそれだけだ。誰であれ、気に入らない者のためには動かないし、気に入った者に対しては親切にもするさ」

 

 リリーはそう言いながら、ウェールズのグラスにワインを注いだ。

 波紋の影響か、ワインは少し泡立っている。

 

「先ほどから見ている限りでは、ここにおられるのは誉ある、気のいい方々ばかりのようだ。私からの心ばかりの贈り物を、受け取っていただけますかな?」

 

 そういってもう一度周囲に向けて会釈をすると、最初はぽつぽつと、やがて大きな拍手と歓声が沸き起こった。

 

(ここまでは、順調な感じかな)

 

 リリーは周囲の反応を確認して、内心でふうっと溜息を吐いた。

 

「まずは、そう。娯楽はどうかな。見たところ、ここには勇士は大勢おられるが、芸人はいないご様子……」

 

 そう言いながら、キャラバンの袋の中から『デジタルシンセサイザー』を取り出す。

 

「素人で恐縮だが、私が一曲ご披露しようじゃないか」

「おお、伝説の女空賊が歌を!?」

「リリーシャロンにそんな芸があるとは、それは知らなかった。初耳だ!」

 

 観客たちは笑って、盛り上がっている。

 さすがに、まさか彼女のことを本物のリリーシャロンだなどと思ったわけではあるまいが、そういう趣向なのだと捉えたのだろう。

 これならヘタクソな素人芸でも、みんな酔いが回った二次会のパーティ会場くらいには盛り上がるに違いない。

 

(それだけじゃあ、足りないんだけどね)

 

 キャラバンの作ったスピーカーだの、ピンマイクだの、ディスコボールだの、波紋法だのを使った先ほどからの演出は、別に単なる目立ちたがりでやってるわけじゃあない。

 観客を引き込みつつ、こちらが未知の『力』を持っていることをさりげなくアピールすることで、本命の要求が通りやすい場の雰囲気を作り出すためだ。

 

「では……」

 

 リリーはひとつ深呼吸をしてから、演奏と歌唱を始めた。

 曲はイタリアンオペラの名曲だ。

 パーティ会場にもぴったりだし、イタリア人クォーターのリリーはこの曲が得意である。

 

『さあ、酒を酌み交わそう。美が華を添える愉しい酒盃で。儚いこの時が、喜びに酔いしれるように。さあ、酒を酌み交わそう。恋が呼び起こす、この甘いときめきの中で――』

 

 もちろんハルケギニア人にイタリア語はわからないが、召喚の際に付与された翻訳魔法が意味を伝えてくれる。

 技量は所詮素人芸の域を出ないが、さまざまな部活動やクラブチームの助っ人として活動し、舞台上での演劇や歌唱の経験もあるリリーの堂々とした態度、波紋使いの驚異的な肺活量とそこからくる声量は、オペラをそれなりに聞きごたえのあるものにしていた。

 戦場で日々を過ごし、久しく娯楽を離れていた者にとってはなおさらのことだろう。

 おまけに、彼女には襟元に取り付けたピンマイク等、キャラバンの作ってくれる秘密道具があるのだ。

 

 最初は面白半分に聞いていた観客たちも、次第に歌に引き込まれ、黙って真剣に聞き入った。

 

 

 

「……む? 歌か……」

 

 ルイズの姿を求めて城内を探し歩くワルドも、その音を聞いていた。

 かなり大きな音だし、風メイジは耳がいいのだ。

 だが、彼はそれがリリーの声だとは気付かず、ただ王党派の宴で誰かが芸を披露でもしているだけだと考えた。

 

「せいぜい騒ぐがいいさ。この世との別れにな」

 

 皮肉っぽく唇を歪めてそう呟くと、捜索を再開する……。

 

 

『ああ、楽しもう! 盃と歌が夜と笑いを彩ってくれるこの楽園の中で、新しい日が我々を見出すように――!』

 

 リリーがついに歌い終わった時には、割れるような万雷の拍手が起こった。

 

「皆さん、ありがとう。アンコール? ああ、光栄だね――」

 

 わいわいと騒ぎ、酒や料理を勧めながらもう一曲とねだってくる観客たちを、リリーは笑顔で受け流した。

 

「……だが、夜も更けてきた。そろそろ、皆さまに、本命の贈り物の話をしようじゃあないか」

 

 あるいは、商談と言い換えてもいいかな。

 そう言って、リリーは内心の緊張を押し隠しつつ、不敵な笑みを浮かべた……。

 

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