7人目のスタンド使い魔 ~キャラバンAct2!~   作:ローレンシウ

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第六話 トラブル発生!

 

「まあ、こんなもんかしらね……」

 

 リリーは荷物の中から『FFポカリ』を取り出すと、その微生物入りの飲料水で水分と消費したSPとを補給しながら、一息入れる。

 どうにか、片が付いたようだ。

 

 

 

 あの後、駆けつけたリリーの傷薬や気付け薬(いずれもキャラバンの作り出したものだが、周囲の人間はそれに気付かず荷物の中から取り出したと考えたようで、特に不思議がったりはしなかった)、それに我に返って治療を手伝ってくれた幾人かのメイジたちのおかげで、ミセス・シュヴルーズはほどなくして意識を取り戻した。

 彼女は約束通り、ルイズの失敗を咎めたりはしなかった(というより、そもそも咎める気力も残っておらず、そのまま医務室に搬送された)のだが。

 騒ぎを聞きつけて駆けつけた別の教師は事の顛末を聞くと、午前中の授業すべての中止と、めちゃくちゃになった教室の後片付けはルイズがするということを取り決めたのである。

 

 ちなみにルイズ自身はというと、服が傷んで煤塗れになってはいたものの、ごく軽傷ですぐに意識を取り戻し、大事はなかった。

 完全に予想外な事態に不意打ちをくらった者と、自分の魔法が爆発することを知っていて、あらかじめ覚悟して身構えていた者との違いであろう。

 

 どこの世界でも生徒というのは勉強嫌いが多いようで、午前中の授業が中止になったことを喜んでいたようだったが、使い魔として片付けを手伝わされたリリーは、いい貧乏くじであった。

 その上結果的には、手伝いどころかほとんど自分が働く破目になったのである。

 ルイズもしぶしぶながら、机を拭いたりはしたのだが……。

 貴族だけあってそんな作業にはまったく不慣れであるらしく、手つきは危なっかしいしもたもたしていて、ぜんぜん効率が上がらないのだ。

 こんな調子では壊れた机だの窓ガラスだのの片付けを手伝わせても役に立たないどころか怪我でもされるのがオチだと思い、拭き掃除が終わったあたりで、残りは自分がすると申し出た。

 

 明らかに嫌々働いていたルイズにも、原因は自分だという自覚くらいはあったのか、あるいは教師に見咎められることを恐れてなのか、まだ片付いていない現場を離れて自分だけ先に休むということには難色を示した。

 だが、授業中におしゃべりをしていて見咎められた責任は自分にもあろうし、こんなことになるならもっと強く止めておけばよかったという負い目もある。

 それに正直なところ、彼女がいないほうがリリーとしてはありがたかった。

 

「いちおう怪我人でしょう、体を壊されても困るし。着替えをして、外の空気でも吸って休んでなさいよ。もしも先生に咎められたら、私の方からそう言ったって話せばいいわ」

「……そう?」

 

 ルイズは結局、納得しきれていない様子ながらも頷いて、部屋を出て行った。

 

(よしよし)

 

 そこからは、今のところあまりあからさまに周囲にバラす気のないスタンド能力なども解禁した、効率的な片付けが始まった。

 

 まず、壊れた机だの割れたガラスだのといったがらくたの類は、ゴミ置き場へ運び出すまでもない。

 スタンド『キャラバン』の能力は、「袋に入れた物質の原子配列を変えて、別の物質に組み替える」というものである。

 よってそれらは、すべてスタンドのもつ袋の中に放り込んで分解してやった。

 

 そうして大きながらくたの処分が済むと、今度は荷物の中から、常備している分厚い機械構造学のマニュアル本を取り出した。

 作りたいものの構造は既に頭に入っているつもりだが、確認のためである。

 

「キャラバン。いま投げ込んだがらくたを使って、電池式の清掃用具を作ってちょうだい。あと、洗剤と重曹もね」

『あいよ、まかしときー』

 

 本体である自分が成分や構造を把握してさえいれば、キャラバンは概ねどんな薬品でも機械類でも作り出せる。

 そのために、常日頃からさまざまな本を取り揃えて読み込んだり、機会をとらえては実物を観察したり弄くったりして、製造可能な物品のリストを増やしているのだ。

 

 それらを使って煤塗れの教室を一通りきれいにした後で、最後に壊れてしまった物品の代わりを搬入する作業に取り掛かった。

 

 運搬は、キャラバンに台車などを作らせたりはしたものの、概ね自分自身が行った。

 スタンドはごく非力だが、本体は波紋使いということもあってか、こう見えてなかなかの怪力なのである。

 気絶した花京院(身長178cm、体重65kg)を軽々と抱き上げて運んだこともあるくらいだ。

 

 

 

 そんなこんなで、清掃と教室復帰の作業は、昼前までにはすっかり完了した。

 

「掃除、終わったわよー」

 

 部屋に戻って報告すると、ルイズは素っ気ない態度で頷く。

 

「そう、ごくろうさま。顔と手を洗ってきなさい。それが済んだら、食堂に行くわよ。もうお昼だから」

 

 そうして食堂に向かい、朝と同じようにルイズの椅子を引いた後で、自分用の食事はどこにあるのかと見回していたところで……。

 つややかな黒髪をしたメイドの少女が、自分に一人用の簡素な机と椅子とを運んできてくれた。

 

「あの、失礼します。床では食べにくいでしょう、こちらにお座りください。すぐに昼食をお持ちしますわ」

「あ、どうもご親切に」

 

 リリーは、朝と比べてずいぶんとよい扱いに内心首を傾げたものの、とりあえず礼を言っておいた。

 

「いいえ……」

 

 そのメイドはお辞儀をして、なにやら意味ありげにちらっとルイズの方を見て微笑んでから去って行った。

 

 リリーがつられてルイズの方に視線を向けると、彼女はぷいと顔を逸らす。

 その頬が、ほんの少し赤くなっていた。

 

(……あら?)

 

 そんな彼女の態度を見て、リリーは察した。

 朝食の時に自分が床で食べるのは嫌だと言ったからか、それとも先ほどの作業に対する負い目かお礼のつもりなのかは知らないが、要するにこれはあの子の指図なのだ、と。

 

(どうやら、根はいい子みたいね……素直じゃあないけど)

 

 時は九十年代の前半、『ツンデレ』などという言葉は未だ世の中に広まっていない。

 

 

 

「お待たせしました」

 

 ややあって、先ほどと同じ黒髪のメイド(後で分かったことだが、シエスタという名前だった)が食事の載ったトレイを持って戻ってきた。

 

「おおー」

 

 軽く感嘆の声が漏れた。

 

 見れば、朝食よりも格段においしそうな品揃えで、ボリュームもなかなかある。

 朝食と昼食の違いということもあろうが、おそらくこれもルイズが気遣ってくれた結果なのだろう。

 料理の中には、貴族生徒たちの食卓に並んでいるのと同じものさえあるようだったから。

 

 リリーが素直に顔を綻ばせてありがとうとお礼を言うと、シエスタもにこにこと屈託のない笑みを浮かべる。

 

「それでは、失礼します。ゆっくり味わって食べてくださいね」

 

 そうして、明るい気持ちで立ち去ろうとした彼女はしかし、一人の男子生徒に呼び止められた。

 

「おい、そこのメイド!」

「え? ……は、はい! 何かご用でしょうか、貴族様」

「何かご用でしょうか、じゃない。あれはなんだ? どうしてこの『アルヴィーズの食堂』に、下賤な水兵なんかの席が用意されているんだ?」

 

 リリーの方を指差しながら、そう詰問する。

 

 シエスタはさっと顔を青ざめさせて、怯えた様子だったが。

 しかし、ルイズからあらかじめ『自分が頼んで用意させたことは黙っているように』と口止めされていたので、彼女に頼まれたのだとは説明できなかった。

 

「も、申し訳ございません! ですが、それは……、その……」

「理由なんてどうでもいい。とにかく、あいつの臭いが食事に移って食えたもんじゃないぜ。さっさと追い出せよ!」

 

「待ちなさい、ロレーヌ」

 

 そこで、ルイズが声を上げて席を立った。

 

「そいつはわたしの使い魔よ。そのあつかいに、よそから口をはさまれるいわれはないわ」

 

 この学院における使い魔の食事は、主人が用意するのでも、自給自足させるのでも、各メイジの判断に任されることになっている。

 また、主人が提供する場合には、常識の範囲内でなら学院の調理場へ注文してもいいことになっている。

 食べさせる場所にしても、基本的には自由だ。

 巨体だったり衛生的な問題などで、食堂へ連れ込んでは迷惑になるような使い魔ならともかく、人間であるのだし。

 

 なによりも、メイジにとって使い魔とは大切なパートナーであり、そのあつかいに対して他人がみだりに口を差し挟むことは、大変に非礼な振る舞いであるとされている。

 

「使い魔だと? 平民が?」

 

 ロレーヌと呼ばれたその男子生徒は、ルイズを軽蔑したような目で見た。

 

「この『アルヴィーズの食堂』も、最近は格が落ちたな。田舎者が多くなったし……」

 

 そう言いながら、他国からの留学生たちにちらちらと揶揄するような視線を向けていく。

 もっとも、彼女らの中でも最も目立っているキュルケと、こちらは目立たないがその親友であるタバサという少女には、決して目を向けようとはしなかった。

 学院に入学して間もない頃、二人に要らぬちょっかいを出して、手酷く痛めつけられた経験があるからだ。

 この男は、自分よりも劣る(と信じている)者たちに対してはとにかく高圧的で尊大な、侮蔑したような態度を取る輩なのである。

 

 最後に、リリーの前に置かれた肉(高級なガリア特産の金毛仔ブタの丸焼きから切り取られたもので、ルイズが特別に貴族用の肉を分けさせた)を見て、ふんと鼻を鳴らした。

 

「……その上、いつの間にやらブタがブタを食ってもいいような場所にまでなっていたとは! 『ゼロ』には魔法の腕前ばかりか、プライドや衛生観念さえないと見えるな。どうしてもその臭い使い魔と同じ場所で、平民と同じ目の高さで食事をしたいというなら、きみのほうが出て行ったらどうだ?」

 

 確かに、ルイズがリリーをここに入れたり、その席を用意させたりしたのは、彼女の独断には違いなかった。

 とはいっても、普通ならば別にそのくらいのことは、大した問題になるわけでもない。

 

『使い魔のこいつにここで食事を食べさせてやりたいんですが、構いませんね!』

 

 と、後でルイズから(あまり気難しくない適当な教員を選んで)伝えておけば、それで通るだろう。

 しかし、とはいえ確かにここは貴族用の食堂であるのだから、彼女が学院の規律を乱すような行為をしたのを咎めただけだと言い張れば、教師も強くは出られまい。

 そう考えているからこそ、ここまで侮辱的な態度を取っているのだ。

 

 ルイズの眦が、きっと吊り上がる。

 

 彼女の実家であるヴァリエール公爵家は、トリステインでも屈指の有力な家系である。

 それを敵に回すつもりなのか、とでも言えば、彼も引き下がったかもしれない。

 しかし、名誉ある自分の家系や優秀な身内のことを誇りに思いこそすれ、その威を借りて頼り切るような真似は、ルイズのプライドが許さなかった。

 同様に、ここまで言われて黙って引き下がることも、許せるものではない。

 

「あんた。ロレーヌ! そこまでいうのなら……!」

「まった」

 

 いきり立って杖に手を掛けようとしたルイズの肩を、いつの間にか近くまで来ていたリリーが押さえた。

 

「……! なによ!」

「どうした平民。出ていく気になったか?」

 

 リリーは、ふーと溜息を吐いて小さく首を横に振ると、ロレーヌの方に目をやった。

 

「別に私は、ここで食べられなくても、どこかよそでも一向に構わないし。あんたみたいなのに何言われても、特にどうとも思わないのよ? 考えは人それぞれだしね。でも……」

 

 ここを出て行くということは、せっかくこの場に席を用意してくれたルイズやシエスタに対する裏切りになる。

 ロレーヌに言わせたままで黙っておくことは、二人に対する侮辱を看過したことになる。

 

『個人の思想や主義は勝手! 許せないのは、私の友人たちを公然と侮辱したこと!』

 

 ――とでも、真の淑女って感じに毅然として言い放てれば、さぞや格好良いのだろうが。

 

 どう考えても、自分にはそんなセリフは似合わないだろうし。

 先ほど教室でルイズがなじられていたときには様子見をしていたわけで、どの口で言ってるんだって感じもするし。

 

「……まあ、つまり。いただいたお食事やなにかの、料金分の働きくらいはしなくっちゃあと思ってね」

「は? わけがわからん。お前は何を言っているんだ」

「あー。こういうところでは、手袋を使うのとかが作法なんだっけ?」

 

 異世界であるこっちでもそうなのか、なんてことは知らないが。

 

「まあ、つまり……こういうことよ!」

 

 リリーはポケットをまさぐって取り出した外出用の手袋を、目の前の男子生徒の顔面に思いっきり投げつけた!

 

「な、なにをする!?」

「私はあんたに、『決闘』を申し込むッ!!」

 

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