7人目のスタンド使い魔 ~キャラバンAct2!~   作:ローレンシウ

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第六十話 開戦

 

「うぅ……」

 

 雲海にまぎれるシルフィードの上で、ルイズはぶるりと身を震わせた。

 

「あったかくしておいたほうがいいわよ」

 

 リリーはそう言って、彼女に毛皮のコートなぞを取り出して着せてやったり、『キャラバン』に使い捨てカイロを作らせて渡してやったりする。

 とはいえ、彼女の体が震えている理由はなにも、高空で寒いからということだけではあるまい。

 決戦の時がもう、間近に迫ってきているのだ。

 

「あ、ありがとう……」

「もし緊張してるんだったら、落ち着くまでAct2で休憩する?」

 

 そう聞かれたルイズは、不機嫌そうに首を横に振った。

 

「いらないわよ。この期に及んで、そんな往生際の悪いことはしたくないわ」

「そう……」

 

 リリーはちょっと固い笑顔で頷いた。

 実は彼女自身も、かなり緊張しているのである。

 そりゃあ、これから戦場に出ていこうというんだから当然だ。

 

(……ま、そりゃそうよね)

 

 その気になればいつでも何度でも安全な異世界のキャラバンへ逃げ込めると思えば勇気も萎えて、ずるずると『その時』を先延ばしにしてしまいたくもなる。

 だが、戻ってくればこちらでは時間が経っていないのだから、結局、決戦を避けることはできない。

 いくら『幻想』の世界に逃げても、最終的には『現実』からは逃げられないのだ。

 いい加減なところで、覚悟を決めるしかない。

 

 見れば、タバサはいつものように黙々と本を読んでいるし、キュルケはのんびりと爪を磨いたり化粧を整えたりしている。

 内心では彼女らも緊張しているのかもしれないが、それにしても大したもんだわと、リリーは溜息を吐いた。

 

(承太郎といい勝負かも)

 

 そんなふうに考えながら、自分もちょっとはリラックスしなくてはと携帯ゲーム機を取り出して、電源を入れてみる。

 しかし、バックライトのないゲームボーイは、日中の屋外では画面が見にくくて仕方がない。

 結局、ピコーンという電子音とタイトル画面の音楽をちょっと楽しんだだけで元通りにしまい直して、コーヒーガムを噛むことにした。

 イギーは今ごろ元気にしてるかな、などと考えながら。

 

「……それは?」

「ガムっていうものよ。飲み込まないで口の中で嚙むの。緊張してるときに下手に飲食してお腹を下したりしても困るから」

 

 タバサが本から顔を上げて興味を示したので、リリーはそう説明して彼女に一枚渡してやり。

 同じように目を向けてきたキュルケとルイズにも、同様に進呈した。

 

「味がなくなったら、口から出してこの包み紙にくるんで。後は適当に捨てればいいわ」

 

 日本じゃあどこにでも捨てるってのはご法度だろうが、ここはハルケギニアだからそんなもんでいいだろう。

 エジプトの砂漠でも、噛んだ後のガムはその辺にポイ捨てしていた。

 風洗式トイレを使ってるよーなところで、廃棄後のガムの行方なんか過度に気にしても仕方があるまい。

 

「ふうん……?」

 

 三人は不思議そうにしげしげとガムを眺めてから、口に入れてみる。

 

「ん……甘い……?」

「あら、変わってるけど、悪くない感じね」

「(もぎゅもぎゅ)」

 

 どうやら、概ね気に入ってもらえたようだ。

 

「お気に召して何よりだわ。あ、二枚目からは、一枚につき一スゥだから」

「相変わらずね……」

 

 ルイズはじとっとした目でリリーを見る。

 

「これから命がけで戦おうかっていうのに、こんなときにまでお金を稼ぐの?」

「こんなときだからこそよ」

 

 リリーは平然と頷いた。

 

「せっかく稼いだお金を使うためにも、死ぬわけにはいかないって気持ちになれるでしょ?」

 

 

 そのまま待機を続けて、また少し経った。

 

「……そういえば、あの子爵どのは結局、どうしたのかしらね?」

 

 キュルケが退屈そうに髪をいじくりながら、どうでもよさげにそんな話を振る。

 彼女なりにルイズの緊張をまぎらわせてやろうとでもいうのか。

 

「知らないわよ。船の方にいるんでしょ」

 

 ルイズがぶすっとして答える。

 婚約については考え直したい意向をあらかじめ伝えていたのに、そういうこちらの気持ちを無視して知らないうちに一方的に結婚式を始められそうになっていたことで、彼にはもう愛想が尽きたらしい。

 幼い頃にはあこがれていた相手なだけに、なおさら幻滅していて、あまり考えたくもないようだ。

 

「姿は見なかった」

「ええと……。もしかしたら、予定と違うってんであたふたしてるうちに、乗り損ねたとかは……?」

 

 あんな馬鹿野郎のことなんぞ知らん、一方的に結婚を宣言するような男には一方的に断ればそれで充分だろうということで、リリーとしてもメッセージひとつ書いたきりで、ろくにアフターケアもしなかったが。

 そのせいで彼が城に取り残されて、敵の大群に襲われでもしたら……と思うと、さすがに心配になった。

 

 しかし、リリー以外の少女たちは、ほとんど気にしていないようだ。

 

「他の人がみんな船に乗って出ていくんだから、自分ももう行かなきゃいけない時間だってくらいのことはわかるでしょ。ウェールズ殿下と同じ船に乗ってないとしても、避難船に乗ってるわよ」

「ルイズを探し回ってて出遅れるとかはあるかもね。ま、あんなでも魔法衛士隊の隊長らしいし、仮に船には乗り遅れたとしても、突っ込んできた敵の先鋒を切り抜けて自力で脱出するくらいのことはできるんじゃない?」

「グリフォンなら滑空して地上に戻るくらいのことはできるから、船に乗り遅れても港から逃げられる。最悪自由落下とフライの組み合わせでもなんとかなる。よほどのことがない限り、問題はないはず」

 

「そうなんだ。なら、大丈夫みたいね」

 

 彼女らがそう言うので、リリーも安心して気持ちを切り替える。

 ちょうどそのあたりで、敵側に動きがあった。

 

「! おいでなすったわよ!」

 

 

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 ついに侵攻を始めた反乱軍『レコン・キスタ』の軍勢は、ニューカッスル城の城門に向けて殺到してきた。

 我こそは一番槍だ、手柄首を取るのだと意気込み殺気だった兵士たちが押し寄せるが、城は静まり返っていて、反撃らしい反撃もない。

 

「王党派どもは、突入する我が軍に対して砲撃を加えてくると思ったがな」

「連中には火薬も弾ももはやないのだろう。哀れなことだ」

 

 後方の士官たちが前線の様子を眺めながら、そう言って笑い合う。

 しかし、軍を率いる将官は訝しんだ。

 

(だとしても、魔法の斉射による迎撃くらいはあってもよさそうなものだが……)

 

 なるほど王党派は、もはや兵の数も残り数百程度と予想され、矢弾も尽き果てているのかもしれない。

 それでもなお国王に従う忠誠厚き貴族たちが、最後の生き残りだろう。

 つまり、メイジはそれなりの数がいるはずなのだ。

 

(奴らは城門の防衛戦を捨てて、城内での決戦に戦力を集中させようというつもりなのか?)

 

 だとすれば、勝負所を誤っているとしか思えない。

 彼らにとって最後の砦となる堅固な城門、城壁が破られれば、その時点で実質的に勝負はついたといえる。

 城内に兵たちが突入すれば乱戦となり、メイジばかりでろくに護衛の兵も持たぬであろう王党派は、数の暴力によってすぐに圧し潰されてしまうはずだ。

 

(……まあ。いずれにせよ、最終的な敗北はどうあがいても避けられんのだからな……)

 

 最後の時を迎えるにあたってどんな戦い方を選ぼうとするのか、それはその立場に身を置いた者にしかわからないことなのかもしれない。

 将官はそう結論して、城門に注意を戻した。

 

「……それにしても、思ったより持ち堪えるものだな」

 

 破城槌や巨人族の傭兵、巨大ゴーレムなどが扉を打ち破ろうとしているが、一向にうまくいかないようだ。

 それは当然のこと。

 王党派は門を挟んでの攻防など考えていないし、そもそももうこの城を使う予定もない。

 そのため、昨夜のうちに王党派の土メイジたちが城門その他の地上から敵軍が侵入してこれそうな場所をすべて完全に閉ざして溶接し、背後の空間も可能な限り埋めて、がっちりと固めてしまったのだ。

 見た目は門のように見えるが、実際には分厚い岩盤か地層を打ち抜こうとしているようなものである。

 

 とはいえもちろん、ただ固く守ったというだけのことで、所詮は時間の問題でしかない。

 

(今さら露の間の命を惜しんで城に閉じこもっていたところで、それがなんになるというのだ?)

 

 訝る将官をよそに、上空では反乱軍の船たちも動き出していた。

 城門に殺到する兵士たちがまるで攻撃を受けていない様子から、敵にはろくに反撃する力もないらしいと判断し、自分たちも城攻めに参加して戦功をあげようとしているのだ。

 上空から砲撃を加えて城壁を崩そうと、大砲が十分な威力を発揮できる距離にまで船を近付けていく。

 

 そこで、初めて城側からの動きがあった。

 

「……おおっ!?」

 

 城のあちこちから一斉に砲撃音が上がり、反撃はないと油断して接近してきた船に集中砲火が浴びせられる。

 不用意に近づいた何隻かの船が焼夷用の高熱弾を受け、船体が破損、引火した。

 

 撃ったのは昨夜のうちに土メイジたちが作成し、ニューカッスル城内の各所に配備したガーゴイル(知能をもち自立行動できるゴーレムの一種)だ。

 彼らは船や竜騎兵などといった飛行する敵が接近してきたら、それを狙うように指示を受けている。

 土メイジは高空での船の防衛というような任務ではほとんど力を発揮できないので、前夜のうちに城の壁を固めたりガーゴイルを配置したりといったような作業に、精神力と残る土石の在庫を注ぎ込んだのである。

 城内にはもう兵士は残っていないが、玉砕するつもりでかき集めた武器弾薬や残る砲門、船から取り外した大砲をあちこちに配備して、ガーゴイルらに操作させている。

 敵側の航空戦力に少しでも打撃を与えることと、まだ城内にも敵が残っていると認識させることで、船を追う側と城攻めを続ける側とで敵側の戦力を分散させることとが狙いだ。

 

「なんと……、船を狙うために、接近を待っていたというのか?」

 

 王党派からの意外な反撃に、将官は軽く目を見開いた。

 士官たちは困惑して、顔を見合わせる。

 

「……馬鹿な。城攻めを受けているときに、船などを狙って何になるというのだ?」

「さよう。船からの砲撃など、所詮は援護射撃にすぎん。主力となる我ら地上軍を退けぬ限りは、突破されるのは時間の問題だろうに」

 

 将官も、そのとおりだと思ったが。

 

(……考えられるとしたら、自分たちのためではなく、この先につなげるための攻撃、ということか)

 

 自分たちの敗北がどうあがいても避けられないとなった今、王党派にできることはなにか。

 普通に考えれば、少しでも多くの敵を討ち取り、最後の名誉を示して華々しく散るというところだろうが。

 少し考え方を変えれば、もう一つできることがある。

 

「……ここで少しばかりの兵を討ち取ってみたところで、地上の諸国家への侵攻を妨げることはできまい。だが、船団に損害を与えれば、いくらかでもそれを遅らせられる可能性はある」

「! では、王党派の残党どもは自分たちがここで死に花を咲かせることよりも、今後の戦いで他国が有利になることを狙ったと?」

「わからんよ。今のところ、それ以外の理由は思いつかんが」

 

 だとすれば見上げた心意気ではないかと、将官はひとりごちた。

 その考えは、これがこの場で玉砕するためのものではなく先につなげるための攻撃だという意味では、まんざら間違ってもいない。

 

 ガーゴイルらはさらに、城門を攻撃する部隊にも多少の攻撃を加えていく。

 これまでは船を引き付けるために息をひそめていたが、ある程度は地上軍も牽制することでより敵の戦力を城に向けさせるとともに、戦いを長引かせる狙いだ。

 犠牲者をなるべく出したくないというリリーの意向を汲みつつ、城門への被害を抑えるため、直接砲撃するのは打撃力の大きい巨大ゴーレム。

 破城槌を構える兵士や巨人傭兵、後方でゴーレムを操作したり指揮を出したりしている前線指揮官のメイジらに対しては、水メイジとリリーが昨夜のうちに用意したトウガラシスプレーのような効果の催涙ガス弾をぶっ放す。

 城門に殺到していた兵士たちが立ち込めるガス煙のもたらす苦痛にのたうち、後続もたじろいで、一時的に後退した。

 

 もちろん、敵の数そのものは減らない以上、所詮は時間稼ぎに過ぎない。

 しかし、それこそが彼らの狙いなのだ。

 

 

「……! あれかっ!?」

 

 遠くから聞こえてくる開戦の音に焦りながらも、努めて神経を研ぎ澄ませながら風の流れを探っていたワルドは、ついに雲のベールの向こうに霞む船影を見つけた。

 

(落ち着け、友軍の船かもしれん……)

 

 ワルドは逸る気持ちを抑えて、船の姿を見極める。

 

(……いや、違う!)

 

 あのシルエット。

 あれは確かに、昨日ウェールズらが拿捕してきたという商船、『マリー・ガラント』号に間違いない。

 使い魔のドラゴンとやらは船にいるのか、それとも近くのどこぞに潜んでいるのか知らぬが、乗員を問い詰めて聞き出せばいい。

 

(とうとう見つけたぞッ! 憎っくき『ガンダールヴ』! ウェールズ! そしてルイズに、どうでもいい小娘共ッ!)

 

 彼は心の中で快哉を叫びながら、乗騎のグリフォンを滑空させると、音もなく船の甲板に降り立った……。

 





コーヒーガム:
 7人目のスタンド使い作中に登場するアイテム。
戦闘中も使用可能で、HP・SPを3ずつと、睡眠の状態異常を回復する。
イギーの大好物で、彼との友好度が高くない場合、仲間に加えて連れ歩くにはこれをあげないといけない。
回復効果は雀の涙なので、基本的にイギーに渡す用のアイテム。
ちなみにイギーの装備品でもある(睡眠を20%防止する効果)。
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