約2年ぶりの投稿。
大変お待たせしてしまい申し訳ありません。次話も可能な限り早く書き上げますので、気長にお待ちください。
大蟻塚の荒地に来てからかなり時間が経ったと思う。
古代樹の森や陸珊瑚の台地に比べても、中々大変ではあるが楽しくはある。
私達がここの調査を進めている間、調査団の他の面々は瘴気の谷の調査を本格的に始めたらしく一度、オリヴィアが訪ねてきた際に色々と話が聞けた。
あそこは鼻が凄く利く俺とディアにとってはかなり厳しい環境だから、一度足を運んで以降行っていない。
新大陸に於いて重要な場所であるのは間違いないのだが、如何せん鼻が利く俺とディアからするとガスマスクとかでもない限りは厳しいのだ。
「今日も暑いな」
「あぁ」
オアシスから水を汲んで帰る道すがら、少し休憩をして暑さに息を吐きながら果実水を飲む。
果実水は果物の果汁を絞ったもので種類としては葡萄、林檎、柑橘系の果物が主になる。
果実水と言えども砂漠では貴重なもので、中々飲めるものではない。
新大陸では果物の栽培などはやっていないから、一番近いモガ村からの交易か、旧大陸からの補給頼りだ。
俺達は食べられる美味しい果物を自然から頂いているので問題にはならない。
更につい最近、アステラと俺達を繋ぐ定期便が開通したのだ。
導虫という特殊な虫に俺達の匂いを覚えさせ、それを追う様に調教したメルノスが少ないとは言え荷物を運んできてくれるようになったのだ。
その定期便でつい先日アステラから新鮮な果物が2kgほど届いたので、氷結晶の冷蔵庫に保存してあったものを有り難く使ったのである。
残りの果物は氷結晶を用いた冷蔵庫にしまってあるので早々に駄目になることはないだろう。
メルノス定期便で運ばれるのは基本的にはあまり重量が嵩張らないものに限られる。
人をぶら下げて飛ぶことも余裕でできるが、物資を運ぶとなると積載量、積載面積という問題がある。基本的に物資を運搬する場合メルノスは精々30kgがいいところなのだ。
米袋1つと野菜類をぶら下げればもうそれで30kgになってしまう。
運ばれてくるのは砂漠では手に入らない米やパン、野菜、調味料、果物と言った食料品と紙や鉛筆を始めとした日用品が主になる。肉は現地調達が可能だから運ばれてこない。
このメルノス定期便は週に一度、来ることになっている。
ここでの日々は誰からも邪魔をされず干渉も無く、俺とディアの二人っきりだからなのか大蟻塚の荒地に来てからというもの、ディアの性格が幾分穏やかで開放的になったような気がする。纏う雰囲気や、表情がかなり柔らかくなった。
今までは目元も口元もキリッとしていたが、こっちに来てから、何というか、角が取れたと言うべきか、そんな感じがする。
「ふぅ」
大きな樽を2人で四つ担いで家に戻ると止まり木にメルノスが止まっている。特に荷物を抱えている訳ではなさそうだが、どうしたのだろう。
「定期便は来週の筈だが……」
「何かあったかな」
水樽を置いてからメルノスの元へ。
「クルルッ」
「ご苦労さん。さて……」
額を撫でて干し肉を一つやる。あぐあぐ、と美味しそうに咀嚼していくのを見て笑みを浮かべる。
この干し肉はメルノス用に塩抜きしてあるやつだ。
メルノスは野生で生きているが、それを人馴れさせて飼うことが出来る。
飼育下に入ったメルノスは個体差にもよるがこうして接することも出来るわけだ。
アステラからわざわざ来てくれたご褒美である。
手紙入れに封筒が入っている。
多分、何か緊急の用件が書いてあるのかもしれない。
中には3枚ほどの手紙が同封されていた。
「……ディア、家を畳んでアステラに戻ろう」
「分かった」
これから騒がしくなるやもしれないな。
組み立て式の家を畳んで中の物も含めて全部を一つに纏める。
『行くか』
「あぁ、頼む」
龍の姿のディアに荷物一式を括り付けて、俺は背中の首の付け根あたりに跨る。
ふさふさの毛が生えていて、人の姿の時の髪の毛などとはまた違った触り心地で心地良い。
一瞬、ふわっとした浮遊感が全身を覆う。
砂を巻き上げて、視界が明るい砂の色に覆われたがすぐに十数mの高さの景色になる。
すぐに高度が上がり、地が遠く、空が近く感じられるようになる。
この景色が俺は大好きで仕方がないのだ。
『落ちぬようにしっかりと、しっかりと!掴まっておくように。次落ちたら二度と背に乗せて飛ばぬからな』
「分かった」
以前に落ちたことをまだ根に持っているらしい。
確かにあれは俺が悪かったから言われても仕方がない。だが空を飛んでたら下を覗きたくなるのは俺だけではない筈だ。なんにせよ、大人しく遠くの景色を見ているぐらいにしておいた方が良いだろう。
「風が心地良いなぁ……」
『フェイは飛べんからな。言えば何時でも乗せて飛んでやるぞ』
「そうだな。ありがとう」
首元を撫でると嬉しそうに少し首を捩る。
龍の姿でもディアは美しい。
飛んでいる高度は、どれぐらいだろうか?
陸珊瑚の台地を囲む岸壁よりずっと高いから、数千mぐらいだろう。流石に1万mまでは行っていないだろうが、まぁそれでもかなり高いのは間違いない。こんな高さから落ちたとなれば心配するのも頷けるな。
途中、腹が減ったので地上に降りて適当なところで弁当を二人で食べて再び出発。
高い所を飛んでいるときにしか見られない景色を眺めながら揺られながら飛ぶこと数時間。
視界にアステラが見える。
記憶にあるアステラよりも、随分と発展し、大きくなっているようだ。
多分、俺達で見えているということはまだかなり距離があるのだろうが、ここまでくればあと数十分とか、一時間ぐらいだろう。
古代樹の森に降りるのも考えたが、面倒だからアステラにそのまま降りてしまおうとなった。
うん、アステラの皆が騒いでいるのが良く見える。
特にディアの龍になった時の姿を見たことが無い者ばかりだから、余計に騒ぎに拍車を掛けている。
武器を構えて迎え撃とうとしている者も多いが、総司令たちに慌てて止められている。
うんうん、騒がせて申し訳ない。
「ふぅ」
広めの場所に降り立つ。
ディアが人の姿になるとまた騒ぎになる。
「申し訳ない。一応、調査団に参加する面々にはお二方の事は事前に説明はしておったんですが……」
「仕方が無いだろう」
「武器を向けてしまったこともお詫び申し上げたい」
「いや、あれがハンターとして当然の反応と対応だ。むしろど真ん中に降りたこっちに非がある。すまなかった」
「そう言って頂けると有難いです」
「それで、ハロルドは?」
「新大陸の調査で各地を渡り歩いております。どこにいるのやら全く分かりませんが」
「一人でこの地をふらふら出来るのはアイツぐらいだろう。死んでいるわけでは無いのなら放っといて大丈夫じゃないか」
「そうですな」
ハロルドレベルの強さなら古龍相手とかでもない限りは問題は無い筈だ。
ゲームじゃラージャンのブレスを岩塊で受け止めていたしな。
「それで、私達を呼び出した理由は?かなり急ぎだったのではないか?」
「そうです。厄介と言うものでは無いのですが……」
「まぁいい。食事でもしながら話そうか」
「では私の奢り、と言う事で」
3人で歩く。
ハロルドのオトモだったベップが料理長として腕を振るっているらしく、そこで夕食を食べながら話すことになった。コムギは料理長をベップに譲って引退、今は現大陸の方で余生を送っているそうだ。
最後に会うことは叶わなかったが、現大陸に戻る前に最後に手紙を書いて寄越してきている。
丸テーブルに俺、ディア、そして途中で合流したオリヴィアとクォクの四人とキィイ、クシィ、メブアの七人が揃う。
「今回は急に呼び出してしまい、申し訳ない」
「気にしていないさ。それで、用件は?」
「ここ最近、5期団がアステラに到着しました」
「そうなのか」
時の流れが随分早いなぁ。
新大陸に来たのが五十年ぐらい前だったから、本当に一瞬の出来事だな。
新大陸に来て俺とディアがやっていた事は村に居た時と丸で変わっていないけれども。
「それで実は、本来五期団の出発時期はもう何年か後になる予定だったのですが……」
「早まった、と」
「はい。理由はここ最近、古龍を含めたモンスター達の動きが活発化し始めているからです」
「活発化?」
「はい。古龍の活発化、私達が古龍渡りと呼んでいる事象は周期的に起こるものですが、その周期がかなり早くなってきております。以前までは100~200年周期でしたが、それが50年に一度になり、10年に1度になり、そしてここ最近は2年から1年に一度にまでに頻繁に発生しています」
「2年に一度?」
「はい。それも古龍渡りを行うのは老齢な古龍でしたが、ここ最近の古龍渡りは本来『古龍渡りをしない筈の若い古龍までもが古龍渡りを行っている』のです」
「若い古龍までが、か」
「ここまで来ると、活発化なんてレベルの話ではありません。異常事態と言ってすら良い状況です」
それは確かにおかしい。
ディアの話によれば、古龍渡りを行うのは年齢を重ねて死期が近い龍が殆どだと言う。
若い古龍が渡りを行う理由は、正確には古龍渡りではなく興味本位で新大陸を見に行って帰って来る、という言わば『ちょっとした旅行』とか『ちょっとした観光』ぐらいの意味合いなのだという。
それがこうもなると、話が変わる。
いや、まぁまだ観光や旅行先に滞在する、とかの理由かもしれないが、これは排除していい。
何故なら長命な龍が、この短期間に揃いも揃って新大陸に旅行に来る意味がないからだ。
「それに、今までであれば若い古龍は奥方の仰っていた通り、少し新大陸に滞在したら旧大陸の方に帰っていましたが、その様子も全く見られません」
「帰る様子が無い、か……。他には?」
「今のところはこれぐらいです。調査は漸く人手が揃い始めたので、現在本格的な行動を漸く始めたところです。まだ詳細に関しては判明しておりません」
「なるほど」
「ですが、一点だけ」
「ほう?」
「奥方が仰られた、龍脈の流れをクォクが追ったところ、どうやらある一点に集中しているのではないか、という仮説が出てきました」
「一点に集中している?」
その言葉に反応したのはディアだった。
確か、ディアの話によれば龍脈はこの星の至る所全てに巡っており、それが一か所に集中するということは有り得ない、とのことだった。
「……龍脈が一点に集中しているというのは本来有り得ないことだ」
「はい」
「もしそれが事実であるのならば、自然にそうなったわけでは無かろう。何か、意図的なもので一点に集中して龍脈のエネルギーを集めている可能性がある」
「それは、だとしたら……」
「あぁ、こんな芸当が出来るのは我ら龍ぐらい。とは言え私達一族でも龍脈を自分の都合の良いように変えるのは出来ん。となればそれに特化した龍が存在するということになる」
「心当たりは御座いますか?」
「いや、少なくとも私には無い。祖父辺りならもしかすれば知っているかもしれんが」
「なるほど。ではその方向で調査を進めてみましょう」
まぁ態々ディアの祖父にそれを聞きに行くのもアレだし。
「どこか場所は分からないんだな?」
「えぇ、現時点ではまだ調査中です。もう暫くすれば凡その目星は付けられるかと」
「ふむ。なんにしてもその辺は君らに任せた方がいいだろう。何かあれば、また声を掛けてくれ。ハンターとしての協力ならば惜しまない」
「はい。それで、お二方をお呼びしたのは早速頼りたかったからなのです」
「なんだ?」
「その、窮屈かとは思いますが暫くの間アステラに居て欲しいのですが……」
あぁ~……。
なるほどそう言う訳か。だから申し訳無さそうだったのか。
「それは何故だ?態々ここにいる必要も無いと思うが」
案の定ディアは嫌そうだ。
まぁ、今の今まで二人でのんびり気ままに生活して、調査をしていた訳だからそれが出来なくなるとなれば良い顔はしないのは当然だろう。
「ここ最近の古龍の活発化によって殆どの者が何らかの役目を持ってアステラを出ています。問題は、その間ここを守れるだけのハンターがいない事です。現在常駐可能なハンターは2名。他は全員出払ってしまっているのが現状です」
「なるほどな……」
「つい先日も危うくアステラに侵入を許すところでした」
それは余り宜しくない。
アステラはその立地上、モンスターのテリトリーの外にあるが、と言う事はモンスターのテリトリーではないということ。
ここが何か、魅力的なものかどうかは別として、どのモンスターのテリトリーでも無いのであれば少なくとも一世代分の子育てぐらいは安全に出来るだろう。
「ですので、お二人にアステラを守る役割を担って頂きたく……」
「……ハンターである夫の決定に従おう」
「俺は構わないが、ディア、良いのか?」
「フェイはハンターだ。組織に属しているのなら、上からの要請を無下に断るというのは出来んだろう」
ディアは組織、というのをよく理解している。いや、してくれていると言うべきだろう。
「承知した。ハンターフェイ、アステラ防衛の任に就く」
「ありがとうございます。これで安心して皆も過ごせましょう」
アステラの守りを任される、か。責任重大だな。
ーーーーーーーー
「ふんっ!」
古代樹の森で、暴れているというドスジャグラスを大人しくさせる為のクエスト中。
大口開けて突っ込んでくるドスジャグラスの横っ面を殴って転がす。
基本的には大人しいモンスター達であるが、偶にこうして騒ぐやつがいる。人間にもいるがアレと同じだ。
多分、これで暫くは大人しくなるだろうか。
このドスジャグラスは度々騒ぐやつだから、懲りていないという事だな。
「彼奴も懲りないな」
「まぁ、元気があるのは良い事だからな……」
元気が無いよりは良い筈だ。
五期団到着から、アステラ滞在開始以降、俺達は基本的にはアステラで過ごしつつ、アステラ近辺の古代樹の森を巡回をするのが日課である。
アステラ防衛を任されている都合上、アステラ外に長居するのは好ましくなく、巡回はサッと済ませる。
調査の方は皆がやっているから俺達がやらずとも問題は無い。
そして懸念していた夫婦生活であるが、あんまり以前と変わらなくなった。
というのも、俺達の住む場所は皆も住んでいる訳だが朝から晩まで調査でいない事がザラである為だ。
調査に出たら一週間帰って来ないとか当たり前であるから、寧ろハンター用居住区は俺とディアしかいない、という日もまるで珍しく無かった。
「魚類の観察は楽しいな」
「普段は水の中を覗かないからな」
今、俺達がやっているのは各自室に備え付けられている水槽の中で飼育されている魚達の観察である。
捕獲した生物達は可能であれはアステラで飼育しつつ生態調査を実施するのが決まりだ。
この点、魚類はわりかし飼育しての生態観察、調査がやりやすい。
だから普段アステラにいる俺達に、巨大な水槽がある広めの部屋が充てがわれ、ついでに皆が捕まえてきた魚類の生態観察や生態調査を任務の一環として行なっている訳だな。
「アンドンウオは面白いな」
「陸地で普段は生息しているのに、寝る時や産卵は水中。変わった生態だ」
アンドンウオは陸珊瑚の台地に生息する魚類だ。
頭部に発光する、釣り竿みたいな、突起物を持っていて見た目は前世のアンコウそっくり。アンドンウオの方が厳ついというか、この世界の生き物らしい見た目をしている。
突起物の先端は、特殊な発光器官を備えており、それから発せられる光でオソラノエボシを始めとし、小魚などをおびき寄せて捕食している。
何が面白いかというと、このアンドンウオは睡眠時や産卵時以外は基本的に陸地にいる事だ。
狩りの際も陸地で行う事が多い。
外敵が寄って来たりすると水中に逃げるが、泳ぐというよりは浅い水場をバシャバシャ走り回るという表現の方が正しいだろう。
陸地では普通に動き回るのに、水中では遊泳力に乏しいのか全く動かないし、底を歩くような感じで移動している。陸地、水中問わず獲物を捕食する時の瞬発的な動きは凄まじく早いのだがな。
「それに美味しい」
「うん、奴はとても美味しい。特に肝が」
何より、アンドンウオは美味い。
鍋が特に最高であり、陸珊瑚の台地に居た時は舌鼓を打ったものである。
そんな会話をしながらアンドンウオを見ていたら、心なしか、目の前のアンドンウオが怯えた表情になったのは気のせいだろうか。
アステラでの自室はかなり広い。
配慮してなのかは分からないが、かなり広く、書籍を沢山入れておけるように壁にはわざわざ移動式の梯子と足場が設置されている。
リビング?は広間と言った方がしっくりくるもので、調理場も広く調理道具も普段使ったことの無いものまで揃っている。
大元の紅蓮石製湯沸器で各部屋にパイプでお湯が供給されるようになっており、風呂も温かいお湯が出るようになっている。
なんなら調理場の水も、冷水とお湯の両方の蛇口があるという贅沢仕様。
料理の幅が大きく広がるのは、ディアに振る舞える料理のレパートリーが増えるので嬉しいものだ。
物品棚や衣装棚、武器を立て掛ける台や防具を置く為のものまである。
因みに物品棚には薬草から始まり、回復薬や解毒薬、秘薬、いにしえの秘薬、生命の粉塵、生命の大粉塵などの回復系に始まり、他にも色々と調合用素材やらが所狭しと一番上から下までびっちりと詰まっている。
まぁ、使う機会があるかと言われると微妙だ。なんせ基本的には俺とディアには、所謂状態異常が効かないからである。毒や痺れ、睡眠系の状態異常も全く効かない訳では無いから念の為に用意してある。使わなかったら使わなかったで済む。
そして何より重要なのが、ベッドである。
まず目を引くのはその大きさである。村で使っていた一人用のベッドや新大陸に来てからずっと使っていた組み立て式のベッドとは比べ物にならないほど大きなベッドだ。
大人が四人並んで寝られるほど大きなベッドは、寝心地や感触も最高であった。
枕の質も柔らかく、しかし頭をしっかり支えてくれる程度の硬さはあると来た。俺やディアは枕が変わった程度で眠れなくなるようなタイプではない為、最高である。
まぁ、そんな大きいベッドに枕を使っていても二人でくっ付いて寝るからベッドのど真ん中と枕を一つしか使って無いんだけども。
一応枕はヘタレないように交互に使ってはいる。
風呂から上がり、身体の熱気を冷ます。
アステラの各所は涼やかな風が通るように設計されている為、平均気温が25〜27度と若干暑いか?というぐらいでも心地良く過ごせる。
自室も例に漏れず、涼しい風が優しく部屋全体を巡る為、アステラ自体が海辺の立地にあるが湿気を全く気にせず過ごすことができる。
本や衣類にも黴が生えたりする事もないのでありがたい。
氷結晶製の冷凍庫で作った氷を入れ、果実水を飲む。
風呂上がりにコレを飲むのが最高に美味い。乾いた喉を一気に甘味と水分が潤していくのが心地良い。
「ふはぁっ!」
一気に飲み干したディアが息を吐く。
空になった木製コップを再び傾ける。どうやら氷を口に含んだらしい、モゴモゴバリボリと氷を噛み砕いているのを見ると、中々俗世に染まって来たようである。
「美味しいな」
「ふぁ!」
頷いたらしい。
氷を食べ終えると、ディアは冷蔵庫から冷えた果実水のおかわりを持ってくる。しかも丁寧に氷まで補充して。
飲みながら、今日はあんなのを見たな、あれが興味深かった、と一時間ほど語り合い。
「そろそろ寝るか」
「ん」
身体をくっ付けてベッドに潜り込んだ。
朝、起きるとディアが絡み付いてまだ寝息を立てていた。
両腕を頭の後ろと背中に回し豊かな胸元に、左足を俺の腰辺りに巻き付けて、右足は俺の両足の間に入れ込んで俺の右足に巻き付けるようにピッタりとくっ付いている。
他人が見たら、大蛇に絡み付かれて捕食される獲物のようだとでも思うのだろうか?
何にしても寝る時、ディアは俺を胸元に強く抱き寄せて絡み付かないと気が収まらないらしく、
「フェイを抱えないと寝れない」
と言っていた。
抱き寄せると言っても生半可ではなく、胸の奥の奥の方までしっかりと、『収納』とでも言わんばかりにでないとならないらしい。
俺は俺でディアに抱えられないと寝れないので問題は無い。
起きても、基本ディアが起きるまでそのままだ。
改めてディアの背中に両腕を回して抱き締め直し、足をこちらからも絡める。
柔らかく、弾力があり、温かくスベスベしっとりしている太腿の間に挟まれている足を動かしてより奥深く、股に近い方に。
「んふ〜……」
そうして密着度を高くすると、ディアは寝ていると言うのに何故か満足そうに鼻息を俺の頭頂部に吹き掛けた。
ディアの鼻息で髪の毛が揺られたのをほんの少しだけくすぐったく、そしてとても心地良く感じながら二度寝を決め込んだ。
二度寝とは、なんとも言えない心地良さがある。
それに加えてディアに抱き締められているのだから。
ーーーーーーーー
その日は昼過ぎになって、ようやく二人して目を覚ました。
なんとなしにベップのところで朝食兼昼食を摂り、武器防具の手入れをしていたら。
「フェイ殿!フェイ殿は居られますか!」
自室の扉を叩く音。
出てみるとエドガーであった。
「どうした、そんなに慌てて」
「それが、ゾラマグダラオスが急に動きを始めまして……」
「それがどうしたと?」
「進路上に、巨大な地脈回廊があります。もし、そこで彼が死に、エネルギーが放たれれば地脈を伝って新大陸中に噴出する事になります。そうなれば新大陸は火の海に……」
その説明が正しければ、例え話としては核爆弾が山ほど積み重なっている場所で核爆弾を起爆すると言うような暴挙に等しい。
「それは我々としても困るな……」
「ですので、お力添えをお願いしたく」
「相分かった。では準備をして向かおうか」
「ありがとうございます」
こうして唐突にゾラマグダラオス迎撃戦が始まる事になった。
ーーーーーーーーー
先んじて偵察の為に俺とディアで地脈に潜ってゾラマグダラオスに話を付けに行ったが結果からして失敗した。
それを説明する前に分かった事は、途方もない年月を生きた老齢の個体であるらしいと言う事。
何時ぞやのラオシャンロンの翁のような、古龍の中でも特に成熟している、言ってしまえば死ぬ間際、と言う事だ。
普通ならゾラマグダラオスは瘴気の谷で死に、永い永い時間を掛けて陸珊瑚の台地の生態系の糧となる。
実際、オリヴィアの話によれば今のゾラマグダラオスよりも遥かに巨大な個体の頭骨などが瘴気の谷で発見されているらしい。
だが今回はそうならなかった。
ゾラマグダラオスも、老山龍と同じく基本的には温厚、と言うよりその巨体さと尋常でない外殻の硬さで気にしない、と言うのが正しい。
人間からすれば、敵とかとして立ちはだかるレベルの強さというものはない。そもそもそういう次元にないのだ。
なんせ体長はラオシャンロンよりも四倍は巨大、ジエン・モーランの2〜3倍。ラオシャンロンですらあれほどの巨体に硬さ、強さなのに、それよりも遥かに巨大で、外殻の硬さがあるゾラマグダラオスをどうこう出来るような設備も武器も、新大陸には無い。
旧大陸でも総動員でどうにかなるだろうか、と言ったレベルだ。
「しかし何故地脈に向かっている?」
疑問はそこだ。
理由が無ければあのタイプの龍は移動すらしない事が多い。翁ですらグースカ寝ていたら、とか言っていたし。
ゾラマグダラオスがそれを気にしないほど活動的であちこち動き回るディアのような龍とは到底思えない。
「地脈の流れを操作している奴の仕業と見て間違いない。彼の古龍としてのエネルギーを、地脈を通じて自分のものにしようと言う事だろう。なんと言う奴だ」
俺の疑問に対してディアはふんっ、と若干怒ったように鼻を鳴らしながら答えた。
なんとかしてゾラマグダラオスと話をしようとしたが駄目だった。
と言うより、目が正気のソレでは無い。あれは一つの目的の為にしか行動出来なくなっている、狂気とも、操られているとも言える目だ。
「駄目だ。あれは正気を保っていない。地脈に入ることしか眼中に無い。私達の話を聞くとか、聞かないとかの話では無くなっている」
「そんな……、では、彼を討伐するしかないと……」
「だろうな。彼を操る存在を今すぐに倒せるなら話は変わるかもしれないが……、まぁ間に合わないだろう」
「……分かりました。では、これよりでは、これより作戦をゾラマグダラオス撃退に舵を切る。砦の準備は?」
「八割方はなんとか。ただ、撃龍槍の準備が完了していません。それに砦もどれだけ保つか分かりません」
「構わん。大砲とバリスタさえあれば時間稼ぎは出来る。では、総員配置に付け!!」
各地の調査を一旦中断してまで集められたハンター達が砦のあちこちに駆けていく。
更には寄港していた船のうち、三隻を迎撃砦に組み込んでまで、撃龍槍を3本用意している。
ただし撃龍槍は使用に際して入念な整備が必要になる。それが3本ともなると人手も時間も流石に間に合わないらしい。
「いくらゾラマグダラオスと言えども、撃龍槍を3本も食らえば諦めるだろう!我々は撃龍槍の準備が整うまで時間稼ぎを行うこと!偵察によれば背部に弱点と思われる排熱部位がある。編成されたメンバーは背部に乗り込みそこを攻撃、破壊を目的とする」
中々危ないと言うか、随分と野心的な作戦だ。
まぁ、奴に弱点らしい弱点は実際に排熱器官ぐらいしかない。そこを集中攻撃して破壊するのは妥当ではあるんだが。にしたってなぁ……。
因みに言っておくと、龍に対しての所謂「部位破壊」と言う奴は有効ではある。
実際に多くの龍が力を使う時に身体の一部や器官、例えば角を触媒?などにしている。だから部位破壊すれば龍の力を弱めることが出来るという訳だ。
しかし破壊された部位はその圧倒的な生命力と治癒力で、時間経過により普通に全回復するので、部位破壊で弱体化させて倒そうというならば制限時間が自動的に設けられる事になる。
ゾラマグダラオスの排熱器官は、自身が食べた鉱物類を溶かしてエネルギー化する際に発する莫大な熱を逃す為の役割がある。
これを破壊するとゾラマグダラオスは、身体の冷却が出来なくなる。そうなるとどうなるか?
排熱が出来なくなり熱が溜まりに溜まり、最後はドカンッ!という事だな。
まぁ、あの巨体でサブの排熱方法が無いとは思えないので背部の排熱器官が破壊されたぐらいで自滅するとは思えないけれども。
「奥様はともかく、フェイ殿にも手伝って頂きたいのですが……」
「依頼ならば」
「正式に依頼を出させて頂きます」
「ならば協力しよう。流石に自分の家が吹き飛ばされる可能性があると言われて黙っている訳にも行かないし、何より」
「この事態の元凶に思うところがあるのでな」
ディアがちょっと怒っている。