かつての悪鬼による、退屈しのぎの鬼退治の話 作:ちなみ
平安時代、確かに神は存在していた筈なのに、今はさっぱりその姿はない。
京の都を襲った朱点童子が打ち取られて後、鬼も神もいつの間にか消えていた。
当時確かに天から下る神々を、人を襲う鬼どもを見た筈なのに、気づけば誰もがそれはただの御伽噺だと思って居た。
鬼と総称されたモノは皆、病や天災の比喩だったのだろうと言われ、姿かたちの伝承は個々に名が与えられ、人間の創造力の種となった。
確かに居て、人間を守ろうとした神々も、既に捨てられた。
人は神の力や干渉を物ともしない位置へ、恐ろしい速さで進み、神も鬼も関係ない所で殺しあい、そしてもっともっと先へ進んで行こうとした。
その時代に『人を愛しいと思えぬ』との言葉と共に最高神の座を譲られた女神さえ、人へ感情を失いそうに成っていた。
だから神々は決めた。
自分達も人を捨てようと。人間を捨て、天を閉じ、永遠を抱えて眠ろうと決めた。
天界を二分し、下界を混沌に陥れた、ある種の情熱はとうに枯れ果てていた。あれ程までに荒々しかった火の戦神も、あれ程最高神へ楯突いた女神も、皆何も言わずに頷いた。
神々は人との縁を切った。
当然、同じ起源を持って居た『鬼』も二度と産まれる事は無かった。
閉じてしまったものだから、神々は気づきはしなかった。
己たちの騒ぎに躍起になっていたものだから、人間同士の小競り合いなど気づかなかった。
神々の闘争とほぼ同時期に、『共食い』をして強くなるような『鬼擬き』が生まれている事など知りもしなかった。
「まあ、私はなんとなく知っていたんですけどネ」
骸が転がり夥しい血が飛び散る只中で、妙に呑気に明るく軽い声がする。
屍の一つが、ゆらりと立ち上がりからりと明るい表情でこの惨状を作り上げた男を見詰める。見詰める瞳が、金色に輝いて居る。
何の特異もない、詰らないばかりだった筈の娘が陰惨なその場で、春の陽光の様に微笑んでいる気味の悪い光景。
じゅっと男の、鬼舞辻無惨の顔が焼ける。
まるで日に焦がされた様に、少女の視線に焦がされる。
「とても、とても素敵な人間達だったのに、とても暖かい人達だったのに……ああ、とても残念です。もう神は人に干渉しないと誓ってしまったんです」
ぐらぐらと致命傷を抱えた死体が動き、喋る。『鬼』の始祖の存在等意にも返さず、独り言だとでもいう様に語り続ける。
「ですが安心してくださいね! 人としてなら、いくらで関わってあげますから!」
底抜けに明るい声をだす少女が一歩踏み出せば表皮を焼き、じりじりと肉が燻り、後退せざるおえなくなる。
「では、また会える日をバーンとォ!! 期待して居てくださいね」
それを最後に、体は正しくそうで摂理の通りにぐらりと崩れ落ちる。
少女が纏っていた日光の様な空気も霧消した。