かつての悪鬼による、退屈しのぎの鬼退治の話   作:ちなみ

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下天

 イツ花を害されへそを曲げた祟り神悪鬼を無事、鬼殺隊に押し付ける事に成功し、産屋敷家へ一応の挨拶を行ってから数か月。初代のどこか人心地ついた様子に昼子は首を傾げた。

 

 一応は成人の形をとっていた彼女がイツ花と黄川人の保護者を名乗った。が、実際の産まれた順で言えばこの従妹が一番年下だ。本来の年長者である昼子は下の子二人の機微には敏感な心算でいたし、あの荒れに荒れていた天界の頂点に居ただから、他人の心情を慮る事はそれなりに得意だ。得意ではあるが、別にその為に気を使ったりはしない。利用したり、知った上で力技に訴えたりしているだけだ。

 

 そんな察しのいい昼子は、イツ花の殻が有る時から、がさつに大雑把にお気楽な言動を取る初代が、滞り淀んだ天界とはまた別方向に、なにやら鬱屈としているのは知っていた。

 というよりも、約千年程経とうというのに未だに『己の復讐の為に呪いを継いだ子供を作った』事を悩んでいた。何も思わないでもないが、仕掛けた当人が言及して藪蛇になっても面倒なので、黙っていた。

 

 それがどういった形でか、その蟠りが軽減されたのなら良いことだ。

 

 腐っても恨んでも呪っても殺しあっても、従妹ではあるので彼女の心が晴れたのなら喜ばしい。相変わらず実弟は音沙汰(人間としての死も含め)ないので、今日も今日とて初代と二人、小さな飲み屋の準備中だ。

 

 ふと、空の彼方から飛来する神気に葱を刻む手を止めた。

 

「おわっ!? って……やたノ黒蝿様!? あの野郎何した!」

 

 数秒後初代の驚いた声が聞こえへ、厨房から顔を出せば椅子を振り被った初代と、小さなふわふわの首根っこを掴んだ大鴉が居る。

 初代は飲食店に乗り込んで来た烏をぶん殴ろうとして、それが神である事に気づいたらしい。天界からの見張りに彼の男神が向かった事は初代も知っていた。その為わざわざやって来たのは、押し付けた駄々っ子が何かした為かと察しをつけ、すぐさま怒りの声を上げた。

 

「どうしました? 黄川人がどうかしましたか?」

 

 古い神は割烹着を着けて出て来る最高神に、表情筋に縁遠い鳥類の顔で笑んだ気配を作る。

 

「いやいや。今日は客を連れて来たんだ」

 

 そう言って、摘まみ上げていた小さな生き物を放す。

 大人しく大鴉に運ばれていたもの、大きなたれ耳の兎がぴょんと跳ねて初代の腕に飛び込んだ。 

 

「……茶々丸様……?」

 

 ぴすぴすと小さな亜麻色の兎が鼻をならす。

 

 わなわなと顔色を青くしながらも最初の交神相手である、ふかふかの可愛いだけの生き物になってしまった男神をやんわりと抱えたまま、初代は昼子を振り返る。

 

「昼子……お前さ一回天界戻った後、何て言って下ってきたんだよ……」

 

「特別な事は何も言ってませんよ。今まで通り、もう『神は』人に関わらない。それだけですよ」

 

 にっこりと自身の首元にもある朱の首輪に手を添えて、昼子は答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒヒ、やっちまったなァ。おまえ、あの女を殺しちまったんだってな」

 

 妙に甲高く、耳障りで不快な声だ。ケケ、と明らかな嘲笑の色が含まれる。

 

「女なは怖いぞ。特にあの女は恐ろしさといったら」

 

 そこに居るのは紛れも無い鬼だ。いや、勿論、鬼舞辻無惨から産まれたという訳ではない。人々が思い描く様な、妖怪的な、百鬼夜行の絵巻の中に住まう鬼だ。

 

 皮も肉もない剥き出しの骨の骸。カタカタと下顎を鳴らし不快な嘲笑を投げる頭蓋の額には、二本の角が生えている。どこからどう見ても化生のそれが、立派な袈裟を掛けて、品の無いと言っていい笑いを上げながら無惨を見詰めていた。

 

 あの気色の悪い陰陽士の例もある、だから、まれに『そういう存在』が在るという事は認識して居た。だがそれはそれ、普通に腹が立った。そして普通に死んだので、何か妙な妖物だったのかと思い数百年ぶりに再会した陰陽寮の要に語ってみたのだ。

 

 人目を避けられ、かつ、万一詰らない事を吹聴されても、簡単抹消できる様な所謂そういう下賤な店だ。自分は真っ当に清く正しく生きていますと厚顔を晒す人間は、どうでもいい場所だ。

 

「普通妻同伴の男をこんな店に入れます?」

 

 嘗ての優秀な陰陽士の一言目の言及は、鬼の祖の問いとは全く関係ないものだった。しかもその件の妻とは骨壺の中身の事である。

 相変わらずこの男は頭と精神が狂って居るな、と思ったがそれは互いが相手に抱く印象なので、それについての議論は無益でしかない。

 遠い昔、発端が何だったのかは思い出せないが、とうとう武力的な大喧嘩に至った際は、焦土と全裸の男二人が残るという悲惨にすぎる大惨事が完成した。当人達が死ななくとも、衣服の命は儚い。

あまりにも馬鹿々々しいので、二度と取っ組みあうことはしないと双方ひっそりと心に決めた。本当に、徒労感が凄まじかった。

 

 何故自分の周りには使えな奴か、頭とか精神がオカシイ奴しか居ないのだろうか、ひょっとして世界は変人の魔窟なのだろうか、という気分を無惨は味わう。

 

「私の話を聞いていたのか?」

 

「聞いてはいましたよ。消えたなら良いじゃないですか。心当たりもない……ああ、でも昔そんな噂が流行りましたね」

 

 この二名の間で交わされる『昔』など下手をすれば数百年単位で過去になる。

 

「居たでしょう。何某か……朝敵を討ったとかで公家に養子に入った武士だかが、怪死した話。余りにも異様な死に様に、高僧の姿に飾り立て弔ったとか」

 

 化けて出るのを恐れたのに、結局鬼変じただとか……覚えてませんか? と世間話のように晴明は首を傾げる。噂、特に他人の醜聞を好む公家連中の好きそうな話題だ。だが生憎とそんなものに聞き覚えは無かった。他人に興味が無かったともいう。

 

「いつの話だ……」

 

「私がまだ帝に仕えて居た頃です」

 

 知るか馬鹿。とう気分で皺の深まった眉間を押さえ天を仰いだ。

 そんな様子を、こいつ、無駄に時間があるくせにいつも切羽詰まったように苛立っているな、と晴明などは思う。別に毎日苦しんで死ぬ訳でも無いのだから、千年生きればもう更に千も二千も変わらないだろう。

 

 まあ、片や至れない死を待っているだけ。片や追って来る死から逃げているのだから焦燥感は異なる。そんな訳で決して相容れない。

 

「役に立てる助言も出来なかったので、代わりにこれを差し上げますよ」

 

 晴明が一巻の古びた巻物を差し出す。

 

「何だ、それは」

 

「外法です。少々条件が厳しいですが、手順を踏めば間違いなく転生できますよ。打開策が見つからなければもういっそ産まれ直してみては? 本当は、別の方が探していたのですがその方に会う前にあなたに会ったので」

 

 眉唾にも程がある。

 だが稀代の、千年も生きている陰陽士の寄越す物だ。何か、使い処があるかもしれないと一応で受け取る。

 

 

 

 

 

 

 

 真冬の雪の中のに居る様に指先がかじかむ。いくら夜の山中とは言え、こんなに冷えるのはおかしい。

 足元に広がる霜を踏み砕きながら蟲柱、胡蝶しのぶは冷気を辿る。

 

 鬼の巣食う那田蜘蛛山。

 本来群れる筈のない鬼が群れ、隊士達に甚大な被害をだしていた。

 先ほど仕留めた鬼も血鬼術を使うものだった。自然現象とは到底思えないこれも、恐らくその類だろうと、その根源を探る。

 

 冷気の流れる先を辿ればそこには家があった。廃屋、の筈なのだがそれは全て分厚い氷に包まれている。ただの朽ちかけの筈が、表面の彫刻も美しい立派な氷柱に支えられ、まるで御殿の様相を呈していた。

 

 凍てつく御殿の只中に、女が一人。白い息を吐き寒さに頬を赤くしたしのぶを見て小首を傾げる。

 

 雪の様な白い肌の女。色の白さを褒める為の形容詞などでなく、真実雪と同じ血気の色いの顔。氷で出来ているのかの様な髪が束ねられる事なくざらりと流され、顔の半分を覆う。ちらりと覗く瞳は妙に婀娜っぽく、男を誘う色がある。なのに目に映る色は何処までも寒々しい。ただ一つ、首元にぬらりと朱の一線だけが目に痛い。

 

 まるで、良くある怪談の雪女だ。

 

 男を憑り殺す印象の通りに、見つけたしのぶが女だと分かったのか詰まらなそうに視線を逸らし、ふう、と息を吐いた。吐き出される呼気は外気温より低いのか小さな氷の粒を閃かせる。

 

「鬼狩りの方でしょうか?」

 

「はい」

 

「あの子を殺しに来たのですか? あんなに愛らしいのに」

 

「仲良くなれるなら、それに越した事はなんですけどねぇ。残念ですが鬼は人を襲いますから」

 

 もちろんあなたも、人を殺したのなら、これからも殺す気で居るのなら。穏やかな笑みのままにそう付け足すと、ほう、とため息が返された。

 

「人も人を殺すでしょう? 遥か昔から、ずっとずっとそう在ったでしょう? 鬼が人を殺すよりも人が人を殺して来たでしょう?」

 

 雪女は何とも気だるげに、或いは全てを諦めてしまったような表情で、今度はしっかりとしのぶに向き直る。

 

 一帯の気温が更に下がった。

 

「今の私はあの子を愛でていたいのです」

 

「……っ!」

 

 その言葉と同時に地面が軋み、割れ、しのぶを取り込もうとするように幾つもの氷柱が突き出した。




宇佐ノ茶々丸さま
チュートリアル10円神様。
最初は軽い感じのする交神台詞。書いている人の友人で、茶々丸が大好きで席次をとんでもねぇ事にした人がいる。ケモナー一族に貢がせた可愛い兎さんの神様。

初代の最初の交神相手。

大江ノ捨丸さま
小さな普通の可愛い弟抱えて逃げた女の子を殺して、おっかない女神を爆誕させ、祟り神悪鬼に愉快に殺されて、おっかない女神にこき使われた神様。
なんか自分と同じくらい愉快な死に方しそうな奴を見に来た。今後にわっくわっくどっきっどき。

六ツ花御前さま
雪女郎の中のひと。惚れっぽいしヤンデレ属性があるかもしれい(交神台詞)
美童趣味をオープンにしたら生き易くなった。累くん可愛いねよちよち。2はこの世界では起きていない事象だけども声が誰かに似ている。
予行練習をさせてくれる優しい神様。
累→可愛い 伊之助→育ちすぎ


阿部晴明
親ガチャ大爆死した。
ごらん、累くん、こうゆう事例もあるんだよ…。

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