かつての悪鬼による、退屈しのぎの鬼退治の話   作:ちなみ

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基本的に神様は身勝手です


場違い

 相変わらず昼間から開く飲み屋の狭い厨房で、女二人でのんびりと作業をしている。日中だって疎らに居る客の姿は今日はない。世間的な駄目人間が少し減ったのかもしれない。

 

「なかなかやべぇ光景だよなぁ、最高神が襷かけて飯炊きしてんの」

 

 夕時からなら後ろめたさ無しでやって来る客の為に、仕込みを手伝う昼子を見て呟く。

 

「そうですか? ちゃぁーんと当主様のお世話、してたじゃないですか」

 

 手を動かしながら、昼子は楽しそうに笑う。

 

「イツ花がな。あと当主呼ぶな」

 

 確かに顔立ちは殆ど同じ筈なのに、イツ花は人らしい当たり前の少女の可愛らしさで、何処か幼い印象があった。背丈は変わらない筈なのに、昼子は大人の女性という印象が強い。金の瞳も相まり……或いは漏れ出る神気のせいか神々しいのだ。

 そんなのが、小さな飲み屋で襷を掛けている違和感。

 酔いどれ共は若い綺麗なおねえちゃんが、にこにこと元気に給仕すれば上機嫌で、あまり気にしては居ないようだが。

 

 ついでに初代と昼子が、老けない事も気にしていない。

 確かに女子の成長の方が早くに終わり、老ける何て明確な変化も無い程度の『若さ』を呈して居ればそこまで違和感を覚えないだろう。

 問題は、育ち盛りの年齢を装った黄川人の方だ。あんまり何年も、成長期のツラをしていては一所に居続けられない。

 

「お前弟にさぁ、真面目にやれって言えよ」

 

「あの子が私の言う事聞くと思ってるんですか?」

 

 今を生きている人間の子孫を頼り、暇を持て余して復讐に託けた駄々っ子な悪鬼を、何とか鬼殺隊に押し付けようと画策した。

 当代の初代が話を通してくれたのはいいものの、鬼殺隊を名乗る以上戦力として最低限は満たさねばならず、最終選別を他の者と同じ条件で通過出来れば、との事だ。

 人として関わる以上、殆どの神が眠りについて居る今術などは機能しない現状では、黄川人も得物握るべきだろうと、子孫達の管理する神社で「フリだけでいい!? 剣士舐めてんのか!?」「朱点は何度ぶっ殺しても足りないよなはっはっはっ!」「父さんウザいキモい近寄らないで」と実に楽しそうに境内で氏神三人と追いかけっこをしている。

 

 もう既に一年ほどを、だ。

 初代にしてみれば、我が子と共に在れた時間より長い。

 

 永遠なんてものを得てしまったせいか時間の経過に疎く、価値が低く成って居るのかも知れない。或いは『知古』と戯れるのを愉しんでいるだけ、という可能性もある。

 あまりにものんびりし過ぎて、現行一族のあの末娘の花嫁姿を拝む事になりそうだ。あるいはその子が産んだ赤子の顔を見れるかもしれない。

 

 祀っている氏神本人たちとは言え、穢れを忌避する神域内で殺意を玩具に暴れ回る戦神紛いの先祖と、天界序列二位が暴れていては迷惑だろうに、何だかんだと、一族達も馴染んで居る。

 

 彼らは初代の子孫であると同時に、太照天昼子、朱星ノ皇子と交神して産まれた子の子孫も居る。ちょっかい掛けて、構いたく成ってしまうのだ。

 

 出来ればこうして自分達の子孫と戯れて、仇討ちとか忘れてくれれば楽なのだが……。

 

 変化を失ったその先は破滅しかない。可愛い子孫達と戯れる。この程度の変化で、『また』天界も救われるのなら、面倒な事は何もない。

 

「そうだ。ボク、明日辺り出から。暫くは留守にするよ」

 

 などとのんびり過ごしてるある晩に、店じまいを手伝いながら黄川人がなんて事無いように呟いた。

 洗った食器を拭き、残る食材を確認し、と各々動いていた姉と従妹が一瞬手を止め、無言で視線を交わす。

 

「一回死んだら諦めて帰れよ」

 

「そのまま癇癪起して地上を焦土とか、駄目ですからね? もう一回封印するの、面倒くさくてやる気も起きませんので」

 

「ああ、それから死んだ後全裸を晒すな、これ厳守な」

 

「『鬼』も人の内ですから、神として関わらないでくださいね。万一起き出してる誰かに見つかったら、面倒ですから」

 

「バレなきゃいいって事かい? 任せてくれよ」

 

 一瞬静止した後、また各自仕事に戻りながら、黄川人への心配など一切なしに淡々と注意事項を述べる二人に、当人は良い笑顔で請け負う。

 何一つ任せてはいけない顔だ。

 

「そんな事よりサ、聞いてくれよ! 君の子孫ボクに餞別だなんて、ボクの首を切った刀渡して来るんだぜ? どんな神経してんだい?」

 

 嫌われてんじゃないの? と初代は適当に返す。

 

 一年も戯れておいて結局黄川人が満足したら、子供を転ばす様にあっさり負かされてしまえば、当てつけの様に手前の首を討ち取った刀でも叩きつけたくなったのだろう。

 氏神たちだってただの刀で(かつての悪鬼を斬った名刀でも)現代の『鬼』を討てないのは知って居るのだから、純然たる嫌がらせだろう。

 

 その割には、楽しそうだったが。

 

 やはり停滞は良くないなのだ。何も動かなけなけらば、英傑たちの心だって死ぬのだろう。他の神と同じに、再び天界へ戻ろうとする氏神たちは下天した時に比べ表情は柔らかかった。

 

「……死ななくても、満足したら戻って来て構いませんからね?」

 

「えっ、普通に姉さん殺した奴殺すけど? 少なくとも捨丸位愉快な感じで殺すけど?」

 

 暗にあまり無理はするなと、一片の弟への心配を覗かせた昼子に、同じ金色の目をぱちくりと瞬かせておどけて見せるだけだ。

 

 ここ一年で、永遠の虚無を埋める足しには成らなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 最終選別のその場で誰もが、場違いなその姿に驚き思わずじぃっと視線を向けた。

 

 視線の先には異質な姿の、美しい中性的な少年。

 

 年齢は別段異質ではない。子供と言っていいほどの年齢が多い中では、そこまでおかしな事ではない。

 服装は、途轍もなく異様だが。

 鮮やかな狩衣の上衣のみを着て、白く細い足は剥き出しに、極めつけには素足でふらふらと緊張感なく歩きまわっている。それなりに値の張りそうな着物の後ろを地に引き摺りながら、ふらふらと。

 まるで見事な藤の海に惹かれてやって来た、部外者なのではと疑う程に、なんの緊張感もない。

 

 そして何よりも、美し過ぎるのだ。

 剥き出しの白い足も、汚物でも摘まむように不本意そうに抱えた刀を持つ指も、細く作り物のようなのだ。少数ながら居る女子と比べたって、頼りなさ過ぎる。とてもではないが、鬼殺の剣士を志してやって来た人間には見えない。

 

 今まで自身に向けられた視線など、気にも留めていなかった筈なのに、なんの気まぐれかその少年がくるりと振り返る。

 

 金色の双眸が、にっと笑みの形に細められた。

 

 決して敵意はない筈なのに、見返された面々はひっと息を飲み、慌てたように視線を逸らせた。

 




特に本編に関係ないおまけ

初代当主ハツヨ 女3番風髪土肌水目
子供三人
宇佐ノ茶々丸 第一子 男
陰陽児中 第二子 男 
十六夜伏丸 第三子 女
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