かつての悪鬼による、退屈しのぎの鬼退治の話 作:ちなみ
全くもって失礼な話だが、あの従妹は自分が見た事ないってだけで、黄川人が剣を握れないと思って居る。
確かに『剣士』などを名乗っていた彼女に言わせれば、扱えてはいないのだろうが、そこはまあ『朱点童子』である。ただ握って振るうだけでも戦神と打ち合え、打ち負かす事もできる。最初からそういうものだ、と理解して挑んでくる有象無象の神とは違い、周りは黄川人をただの人間としか見ない。
ある程度取り繕ったってその道を極めた者が見れば、その異常さは一目瞭然だろうけど。
そう言った意味では、やはり黄川人は剣を扱えない。
取り繕う程度の事はできるようにして来たが、人目が無ければ気を使ってやる必要もない。
最終選別の行われる藤襲山で七日間生きていればいいのだそうだ。わざわざ生け捕りにした、弱い鬼が放たれているらしいが、徒党を組めば楽なのだろうに、皆各々散ってしまっている。
促してやる謂れもないので、黄川人も他の連中に習い一人でふらふらとしてる訳で、取り繕う必要もない。
男子にしてはほっそりした素足で、四肢を斬り飛ばし地べたに転がした鬼の横っ面を足蹴にする。
決して現代に蔓延る鬼を仕留める事の出来ない、体格に不釣り合いな太刀を手に、嘲笑をもってじたじたと藻掻き、睨みつける顔をのぞき込む。
「君らを殺す事は出来ないが、千年前の名刀だぜ? なんたって大江山の朱点童子を討ち取った刀だ」
華奢な少年が足を添えただけの筈なのに、殆ど人間と変わらない形をした鬼の頭蓋が軋み、眼球を吐出させ、ぱんっと、爆ぜる音を立てて頬骨が砕け顔の形が歪に拉げる。
「弱い鬼だけとは聞いてたけどサ……これ程とはねえ」
離れた場で口惜しそうに藻掻く四肢に、押し潰れた頭部という状況でも、ちゃんと生きている様で直ぐ傍に屈みこみ覗き込む黄川人へ憎悪を向け続けている。
ただそれだけで、どっかの陰陽士やっていた奴よろしく瞬く間に修復されることもない。個体差が激しいのだろうか、と考えながら無様に転げる達磨の額をピンと弾く。
明らかな見下す態度に、鬼の怒気が膨らむ。
何らかの罵声を発しようにも、それは黄川人の耳に入る前に、水風船が爆ぜる様な音に掻き消される。
ふわりと、仄暗い輝きでもって足元に広がる血溜まりが光ると同時に、既に歪んでいた頭部が、かぱりと真っ二つに割れ、そこから生々しい肉色を持った何かが這いだして来る。
オギャッ……オギャァア……。
まだ完成しきってない薄く血肉の色を透けさせる皮膚でありながら、血管は不自然に発達し、体中に浮き出させた小さな四つん這いの何かは、猫の仔に良く似た耳障りな泣き声を上げる。
目玉は白濁しながらもぎょろりと飛び出し、辺りを伺うように動く。
這い進む為に差し出す手は小さく頼りない筈なのに、向けられれば嫌悪感を抱く。
朽ちかけの羊膜を被ったままの様な生臭さを持ち、脳髄と脳漿をこびり付かせて、がぱりと割れた鬼の頭部から悍ましい赤子が産み出され、断末魔染みた産声を響かせる。
どの程度の数の鬼が放たれているのかは定かでないが、目的無く彷徨っているだけでかち合う程度だ。
こうして検証がてら一体を切り刻んでる内に、共食いでも始めそうな程に餓えた鬼がまた、血に引き寄せられたのか飛び掛かって来た。
が、標的の黄川人にその爪が届く前に、血だまりからも這い出す赤子が齧りつく。
「なっ、何だこゥギャァ!?」
母を求めるかの様に手を伸ばし、しがみ付き齧りつく赤子はそのまま柔らかな肉と細い骨を内側から爆ぜさせ、掴んだ鬼の足も吹き飛ばし、体勢を崩させる。
己だって、日常を生きる人間からしてみればバケモノの類だろうに、新たに現れた鬼も次々と割れた頭や血だまりから這い出して張り付き自爆する、不気味な赤子に悲鳴を上げ狂った様に暴れ、地べたを転げまわる。
オギャアッ、ギャァア……。
肉塊の様な気味の悪い赤子は続々と血だまりや、割れた鬼の頭から這い出し、辺り一帯を不気味な泣き声で埋め、その合間にばちゅり、と血肉の爆ぜる音を響かせる。
未熟で柔らかな赤子の肉と、断たれて尚動く鬼の肉とが山中の只中に撒き散らされて行く。
あっと言う間にその場は血の池地獄の様相を呈した。
「うんうん。やっぱり鬼ってのは、こういうモンだよ」
夜の山中、赤子の声が響く中に黄川人は何ともしんみりとした表情を作り、腕組みしてこくこくと頷く。
「それにしてもこの山、やたら子供の魂が多くないかい?」
丁度いい強さにする為に『餌』をやってる訳でもあるまい。まさかまさかそんな、わざわざある程度の鍛錬をこなして来た人材をほいほいっと放り込み、必要以上に減らして居てるのでは?
「ハハハ! そんなまさか!」
日の光を浴びるか、日輪刀で首を刎ねなければ死ねないせいで、次から次へととり付き自爆をする赤子に正に阿鼻叫喚を体現している鬼どもを無視して、独り言を零しながら黄川人は再びふらふらと目的地無く、歩み始めた。
その最終選別では皆酷く憔悴しながらも大きな傷も無く、多くの者が七日間を生き残った。むしろ、欠けた者を数える方が早い程に、多くが生き抜いた。
しかし無事に生き残った者達は尋常でない怯え方を、最早正気とは言えない態度を取る者が殆どだった。確かにここまで来ても、実際に鬼と太刀合う恐怖を実感し、隊士は務まらないと辞退する人間も少なからずいる。
だがそれとも違う。
口に出す事さえ恐ろしいとでもいう様に、見た物を忘れる為に誰もはっきりとは語らなかったが、ぽつりと一人が零した。
「地獄の『鬼』が嗤っていた」
鬼の頭からひよひよがでてきたら、鬼ひよ?余っちゃった貞八かわいそう。
ひよひよはスタッフ(初代と武闘派子孫)が全部回収して回りましたので、次の時には普通に鬼しか居ないのでだいじょうぶです。通常通りに人はいっぱい死にますが、人間の生者として地獄の一端はみちゃったりしないので正気は保たれます。あんしんですね。