かつての悪鬼による、退屈しのぎの鬼退治の話   作:ちなみ

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変わらない神様の変わった所

 炭治郎が黄川人と最後に言葉を交わしたのは、彼に禰豆子だけでも助けろと促された時が最後だ。

 家へ戻って見れば、荒れた家は整えられ、家族の遺体は死に化粧まで済んで寝かされていた。しかしそれを行った筈の黄川人は既にいなくなっていた。

 

 代わりに、見た事もない綺麗な人がひとり、炭治郎の帰りを待って居た。

 流水の様な青い髪に、冬の中花を付けた一枝を携えて、ふわりと舞う季節外れの蛍を連れた不思議な人だった。黄川人の知り合いだと言う、『お蛍』を名乗る彼女から手紙を受け取ったのが最後だった。

 

 それには時々届くイツ花と黄川人の手紙と同じ、何時もの筆跡で気負いなく『姉さんと帰る』『復讐はいつかきっと果たす』と綴られていた。

 

 あまりにも急に様々な事が起こったせいで、こんな短時間で子供一人で、などと言う疑問は取り敢えずわかなかず、唯一となってしまった家族の為にできることを、と動いた。

 

 もちろん鱗滝左近次に師事し始めたから、近況を伝える手紙を幾度か綴ったが決して黄川人から返事が届く事もないまま最終選別へ向かった。

 

 そんな風にすっかり音信不通だった友人が、手を振っている。

 

「やぁ! 久しぶり!」

 

 黄川人が全くもって変わりのない、軽い調子で現れては、驚きもする。

 本当に何も変わっていない。スラリと炭治郎より身長が高かった筈なのに、今は並んでいる。明るい声の調子も変わっていない。

 ただ、黄川人が纏って居るのは自分が支給されたものと同じ……同じ? やたら下の丈が短くて、これも以前通りに足は丸出しだが、確かに鬼殺隊の隊服を着ている。

 

 そんな姿を見れば、妹を抱きしめて、さらに纏めて鱗滝にぎゅうぎゅうと労う様に抱きしめられた状態で、ポカンと見上げるしかない。

 呆気に取られた様子の炭治郎に、黄川人はありゃ? と首を傾げる。

 

「事前に手紙は出してたンだけど? 届いてない?」

 

 同じように頭上から振って来る声に表情は見えないが、鱗滝も記憶をたどる様に僅かに首を傾げた。

 

「あれか。最終選別へ送り出した後だったからな……炭治郎宛かと」

 

「おっと、入れ違ってたか。おっさんが開けてくれて構わなかったのに」

 

 ふと、快活に笑う黄川人の背後にひっそりと人影が佇むのに気づく。

 

 あの時の水髪の綺麗な女性が、静かに背後に佇んで居た。名前を呼べば、ぺこりと頭を下げる。彼女もあの時と変わりなく、ふうわりと蛍をまとわせていた。

 一、二……十三、そこまで数えた筈の蛍がすっと消え失せる。

 鱗滝もふわりと舞う蛍を目で追い、それらを連れていた女へ視線を向ける。 

 

「朱……、黄川人…さん、私はこれで失礼致します」

 

 お蛍当人は小さく会釈だけし、黄川人に声を掛け暮れかけた山を一人で降りて行こうとする。

 

「うん。案内ご苦労さん」

 

 それを気にした風もなく、見向きもせずにひらひらと手を振る友人を呆気に取られて眺めるしかなく、

 

「元気そうで、良かった」

 

 という一番に出て来た言葉を発するので精いっぱいだった。

 

 本当に変わりなく元気そうだった事に炭治郎は心底安堵した。

 既に一年程も、鬼殺隊に居たいう話も随分大柄な『黒蝿』という名の、妙に流暢に話す彼の鎹鴉が任務を伝えなければ、沢山話したい事があった。

 

 聞きたい事も、沢山あった。

 

 家を焼き、街を焼き、生活を焼き、人を焼き、怨嗟の煙を立ち昇らせる悪意を持って放たれた炎は、きっとこんな臭気なのではないかと思う臭いを黄川人は纏って居た。 

 もう二度と会う事の叶わないイツ花によく似た、純然な力とし炎の匂いがしていたのに……。

 

 

 

 

 

「お前さんの友達なんて、どんな性悪かと思ったが、真逆の奴だったな」

 

 既に暮れた山道を背後から、揶揄う様な大人の男の声が着いて来るのに、黄川人はむすっと唇を尖らせたまま、もくもくと歩き続ける。

 まるで生意気盛りの小僧を揶揄う様な手つきで、わしわしと頭をなでるのも気に食わない。古い神は天界二位の実力だろうが、たかだか誕生して千年程の神など子供に見えるのだろう。

 

 先ほどまで鎹鴉ぶって居たやたノ黒蝿が、今は黒い羽を背負った山伏のような姿をしている。

 

「まったく、ヤになっちゃうよ。天界からも人間からも見張られて息苦しいったりゃありゃしない」

 

 むっとした表情で成人男性の大きな手を払いのけ、じとっと見詰める。

 

「おまけに天界の見張りは嵩張るし」

 

 また豆粒位までに握りつぶしてやろうか、という様にぎゅっと拳を作ってみせる黄川人にからからと黒蝿は一つ笑い、再び大柄な鴉の形をとりすっかり暗くなった空へと舞いあがる。

 

「俺は確り伝えたからな。一応上司なんだろう? 憎まれ口を叩くのも程ほどにな」

 

 お節介な言葉を残し、言の葉を運ぶ神は飛び去って行く。

 

 相変わらずむっとした表情でそれを見送った黄川人は、大人がする様にため息をついてやれやれとでもいう様に肩を竦める動作をする。

 あの人間の監視もそれなりに嵩張る上に煩いんだよなぁ、ともう一度息を吐いた。全く。神様なんてのも面倒だが、鬼狩りも中々面倒だ。

 




意地でも黄川人の美脚は晒していく。
下着も多分履いてない。
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