新島冴検事から依頼があるようです。

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攻性の情報屋

「精神暴走事件の情報、何か持ってる?」

 

 店員が下がるなり新島冴が口を開く。

 櫻井は口に運ぼうとしていた鶏のから揚げを諦めて取り皿に戻した。

 

「検察が動く程の事件になったのか? 世間の関心が高い事件ではあるが」

 

 都心の居酒屋チェーンの個室に櫻井は検察官の新島に呼び出されていた。

 

「地下鉄脱線事故からの国土交通大臣の引責辞任。いい加減国が捜査する事件だわ。その責任者を任されたの。ようやく掴んだ出世のチャンス、何が何でもものにしたいのよ。何か知らない? 高く買うわよ」

 

「精神暴走事件の個別の情報がほしい訳じゃないんだろ?」

 

「そうよ。どうしてこの事件が起きるのか。誰かが起こしているのならそれは誰か。どうやって起こしているのか。私が欲しいのはこの事件の核心に繋がる情報よ」

 

 櫻井と新島冴の関係は二年前からになる。

 情報屋をしている櫻井は検察との繋がりが欲しくて当時新任だった新島冴に接触したのだ。それから持ちつ持たれつのいい関係を築けていた。

 

「……目星しい情報は手元に無いなぁ。調べとく。今分かってる情報を教えてくれないか」

 

 新島冴からUSBメモリを受け取る。

 

「分かってると思うけど、その情報、あなたの店に並べないでよ」

 

「弁えてるよ。情報屋も信用商売だ。信用出来ない情報屋には誰も情報を売っちゃくれなくなる」

 

「ならいいわ」

 

 そう言って新島冴は帰り支度を始めた。

 

「もう帰るのか?」

 

「ゆっくりしている時間なんて私には無いの。会計はしとくから一人で食べてなさい」

 

 スプリングコートを羽織って新島冴は出て行った。

 残された櫻井は食べるのを止めていたから揚げを口に運ぶ。

 

「……うまい」

 

 

 

 

 翌日の夕方、櫻井は繁華街にあるキャバクラが入ったビルの裏手にいた。夜まで間があり、街はまだ目覚め始めてぼんやりしているといった雰囲気だ。

 階段の柵に身を預けていると、黒塗りの高級車がビルの裏手入り口前に停車した。降りてきた目当ての人物に櫻井は近づいていく。

 

「あれ? 櫻井さんじゃないですか。こんなとこで何してるんです?」

 

「今日のこの時間、林さんは集金でしょ。待ってたんだ」

 

 林は部下の二人に先に行くように促して櫻井に向き直った。

 

「何でそんなこと知ってるんですか。まいったな」

 

「どう、この前渡した情報役立った?」

 

「ああ、あの不祥事。宮崎組はあれで本家から制裁を食らいましたよ。おかげで宮崎組のしのぎの一部がうちに回ってきて親父も喜んでました」

 

 林という男は関東一円を支配下に置く極道組織の直系の組に籍を置くヤクザだ。30過ぎの雰囲気のある男で最近若衆の中でも頭角を現しはじめていた。

 

「今精神暴走事件について調べてるんだけど、林さんの周辺で気になる変化とかないかな? 些細な事でもいいんだが」

 

「変化ですか。……別にその事件に繋がりそうなことは無いですね。最近変わった事といえば笹井の叔父貴がゴルフばかりで親父が困ってる位で…………あ」

 

 何か思い出したのか林が声を上げる。

 

「精神暴走とは関係ないと思いますけど、最近山王会の羽振りがいいみたいですね。そこの赤羽根が忙しいみたいで、笹井の叔父貴とライバル関係なんすけど、今がゴルフで引き離すチャンスだって張り切ってましたよ」

 

「へー武闘派で有名なとこだよね。新しいしのぎでも当たったかな」

 

 その後は二人で近況などを雑談して別れた。

 櫻井が林を訪ねたのは特段林が何かを知っていると思ったからではなく顔を出すという意味合いが強かった。情報屋に必要なコネを維持しておくためだ。その一方で精神暴走事件の端緒を期待していなかったわけでもない。

 新島から渡されたUSBメモリの情報は精神暴走と思われる個別の事件の警察による捜査情報が主で、そこに事件と事件を繋ぐ存在の影は見つからない。加害者が事件を起こした時の状況は様々で、衆人の中の時もあれば密室の時もあり、場所も境遇も共通点は無い。加害者の心身に原因となりうる疾患は無く、第三者による加害者の操作を疑うべき状況も無い。

 精神暴走が何者かの誘引した事件ならば、その規模から見て組織。裏社会になにかさざなみが起きていないかと櫻井は林を始めとする何人かに探りを入れてみたのだった。

 手に入った情報に目を引くものはなかったが、櫻井はとりあえず林から聞いた山王会を調べてみることにした。事件の煽りを受けてどこも多少の混乱がある中で景気のいい極道組織。後ろ暗い事を利益にする裏社会の景気のいい話は、事件と関係無くともネタになる。

 

 

 深夜、日付の変わる時間帯。飲食店で賑わう街の外れ、4階建ての手入れの行き届いたビルの中に櫻井はいた。山王会の組事務所、その無人の組長室。パソコンの明かりを顔に受けて堂々と組長専用の豪華な椅子に凭れていた。パスワードは昼間、組長がパソコンを立ち上げる時に確認済みだ。

 

「ん?」

 

 自前のタブレットに組長室に近づく組員の姿が映る。廊下に設置しておいたカメラからの映像だ。

 櫻井はパソコンをスリープ状態にして明かりを消す。

 部屋の扉が開いて、組員が顔を出す。

 

「異常なしっと」

 

 部屋を見渡した組員は椅子に凭れたままの櫻井に気づくことなく行ってしまう。

 

 存在感の希薄化、光学的透明化。それが櫻井の持つペルソナの能力だった。

 桐条グループのエルゴノミクス研究所で人工的にペルソナ能力を発現させる過酷な実験を受けていた櫻井は開花させたこの能力で研究所を逃げ出した過去を持つ。

 実験を受けてはいたが櫻井が発現させたのは天然のペルソナだった。その事実を知らない研究所の実験は以降、より一層苛烈さが増し実験対象の子供たちを苦しめる事となった。その事を再会したストレガから聞かされた櫻井は負い目から彼らと行動を共にするようになる。

 その後、桐条が過去の贖罪のために結成したs.e.e.s(特別課外活動部)との間で揺れていた櫻井は2010年の1月31日のあの日、ストレガを裏切って結城理に助力した。

 今も桐条とは繋がりがあり、その後桐条が結成したシャドウ事案特別制圧部隊“シャドウワーカー”の外部協力員として席を置いている。求められるのはペルソナを生かした諜報だが危急の案件以外では協力は自由意志だった。

 

「よし」

 

 データのコピーを終えた櫻井はパソコンのアクセス履歴を消して悠々と組事務所を後にした。

 

 

 

 

 山王会から盗んだデータに目を通すのには一週間かかった。その中で目に付いたのは山王会のフロント企業にコンサル料として特定の3つの会社から払われている大金の流れだ。以前からあった取引だがここ数ヶ月で動く金が何倍にもなっている。この金が山王会のここ最近の好景気の要因らしかった。

 コンサル料を支払っている会社の登記を調べたがおかしなところは無く、しっかり実態のある会社だった。

 そこで櫻井は何に対する報酬なのかここ二週間山王会に張り付いていた。

 新島から電話が掛かってきたのはそういう頃で、マンションに入っていった複数の組員の後を追おうという時だった。

 

『仕事を頼んでから一ヶ月近く経ったけど何か分かったの?』

 

「いや、頼まれてた事件の情報は何も」

 

 組員達の行方を目で追う。

 

『一体なにをしていたの。そんな体たらくじゃ付き合い方を考えなくちゃならないわ』

 

「検察が調べないような所を調べて欲しくて俺に依頼したんじゃないのかよ」

 

『そうね。けれど働きを期待できない犬には価値がないとは思わない? 私が検察の怖さを教えてあげましょうか。あなたも叩けば埃がでるでしょう?』

 

 新島の物言いにムッとする櫻井。最近の新島には余裕が無く、周囲への攻撃的な態度が目に付くようになっていた。

 

「……対等の関係だと思ってたんだがな。そこまで言うならやってみればいいさ」

 

 そう言って櫻井は通話を切る。

 出会った頃の新島は野心はあったが柔らかさもあって、正義観のバランスがとれていた人物だったのだが、どうにも関係がギクシャクとしてきた。

 この依頼が最後かもしれないなと考えながら、組員達が向かったフロアを目指して櫻井は歩き出した。

 

 

 張り付いて分かった事は有力者のトラブル処理や策謀の実行を山王会が請け負っているということだった。

 マンションではそこに住む雑誌記者に企業と官庁の癒着を記事にするなと脅しをかけていた。

 他にも健全な企業を騙って会食を持ち、その写真をネタに反社会的組織との会食として都議を陥れたりと色々と動いているようだった。

 しかし特に目を惹いたのは山王会が政治家や事業家・資産家などの有力者の邸宅に出入りしていることだった。表面上は親しそうにしていたため始めは御用伺いかと考えたが、その内そうではなく誰かのためにその有力者達に目を光らせているのだと櫻井は気づいた。

 そして肝心のフロント企業と例の3社の金の流れを上流に遡っていくと大物に行き着いた。

 内閣府特命担当大臣である現職の衆院議員・獅童正義である。

 3社は獅童正義の私設秘書の親族が経営する会社だった。

 

 

 

 

「……というわけで、これが今現在分かっている情報だ」

 

 櫻井はUSBメモリを新島に差し出す。

 場所は東京地検近くのカフェ。櫻井が新島を呼び出した。

 

「そう、大手柄ね。……それで、精神暴走事件の情報は?」

 

 新島は腕を組んで神経質そうに指先で腕を叩いている。

 

「確かにすごいスキャンダルね。これが事実なら出世間違いなしだわ! ……で? だから何? あなたは忘れているようだけど、私は精神暴走事件の捜査責任者なの! この情報を提出したところで私には少しの評点が付くだけで手柄に出来るのはこれを担当する誰かよ。私と出世争いをしている同僚のね!」

  

 まくしたてる新島。そのヒステリックに辟易した櫻井はため息をついて席を立つ。二ヶ月振りに会った新島はますます余裕が無くなったようで素の顔つきにも険が出ていた。

 櫻井が立ったことで新島もハッと自分の醜態に気づき引き止めようとする。

 

「……ごめんなさい。進展しない捜査の苛立ちをあなたにぶつけたって仕方ないわよね。

 この情報は上に提出しておくわ。だから次は心の怪盗団を呼称する者たちについて調べてくれないかしら」

 

「悪いな。依頼が立て混んでてしばらく忙しいんだ」

 

 好感を抱いていた人物の悪し面が先鋭化したような変化に櫻井は寂しさを感じた。冷却期間が必要なのかもしれない。このまま追い詰められた新島は周りも自分も傷つけ、特にその攻撃性はグレーな仕事を生業にする櫻井に向く可能性が高い。公権力を使われようがかわす自信はあるが、そこまでいってしまったらもう関係の修復は望めない。決定的な亀裂にならない今の段階で距離をとっておく方がいいだろう。

 

「新島さん、あんた少し休んだ方がいいよ。このままじゃ出世に狂って不正に手を出しそうだ」

 

 最後にそう告げて櫻井は立ち去る。

 

 背後からテーブルを叩く音が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ええ、困ったことになりましたな。新島があなたと山王会の繋がりに気づいたようです。……ええ、いや大丈夫でしょう。彼女は担当事件で手一杯でこの件にさして興味は無いようです。一応提出したといった感じでして。……ええ、……ええ、いざという時は相応の餌を投げてやれば口を噤みますよ。……ええ、……はい、うやむやにして私のところで握り潰しておきます。……はい……はい、ふふふ、それにしても馬鹿な女ですね。問題の答案が手の中にあるというのにそれに気づかず自分で捨ててしまうとは。ふふふ、いや失礼……はい……はい……ええ、情報を持ってきたのは櫻井という情報屋だそうです。その道じゃ名が通っているようですな。……ええ、よろしいかと。取り込めば我々の役にも立つでしょう。……はい……はい……そうですね。駄目なら彼に処理させればいい。……はい……ええ……ご心配なく。私にお任せください。……では」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━━━ただ、本人のパソコンに直接ブッ挿す必要あるけど。できそう?」

 

「お姉ちゃん、ノートパソコンを持ち帰って来る事はあるけど……、そこまでするのは……」

 

「お、またなんか双葉がスゲエ事やんの?」

 

「姉の本音を見てしまうのが怖いか?」

 

「そんな事!……ない。……わかった」

 

「話は纏まったか?」

 

 学校の帰り道、渋谷駅の連絡通路で怪盗団のメンバーと雑談混じりに会議をしていると見知らぬ男が突然会話に入ってきた。ライダースベストにカーゴパンツとブーツを履いた若い男だ。どこか普通じゃない凄みを感じる。

 

「……誰スか? 盗み聞きとかよくねーと思うんスけど」

 

 竜司が噛みつく。蓮は仲間を庇う様に前に出た。

 

「俺は櫻井という。話しかけるつもりはなかったんだが、“モテ期きちゃうんじゃね”……だったか? 随分と浮かれているじゃないか。“心の怪盗団”」

 

「!!!?」

 

 自分たちの正体を男が確信を持つかのように口にしたことで、全員に緊張が走る。

 

「な、なんの事だよ! 俺らはそんなんじゃねーし。つか、証拠もねーのに決め付けんなよ!」

 

「私たちは、もし自分たちが怪盗団だったらって盛り上がっていただけなんです。すみません、勘違いさせてしまったようですね」

 

 動揺する竜司を真がフォローするが、櫻井と名乗った男は動じない。

 

「お前らがメメントスと呼んでいるあの異世界。まさか渋谷の地下にあんなものがあるとはなぁ。俺も驚いたよ」

 

 蓮の呼吸が止まる。他のメンバーも硬直して言葉を継げずにいる。色々な考えが頭を駆け巡るがどれも形にならず、動悸だけが早い。

 

「お前らもペルソナが使えるとはな。そう考えれば怪盗団の改心事件も納得がいくのかな」

 

「……お前らも、だと?」

 

 祐介が言葉に食いつくと、男は微かに笑った。

 

「ああ、俺も使えるんだ。ペルソナ」

 

 突然現れた男に突然正体を見破られ突然告げられた告白に蓮の頭は真っ白になる。

 咄嗟に周囲を見渡す。ようやく動いた頭で次に浮かんだのは、精神暴走事件の犯人の事。

 仲間に視線を向けると真も緊迫した表情でこちらを見返していた。

 

「ペルソナ?! じゃ……じゃあ、まさかテメェがパレスを荒らしてる“黒い仮面の男”!」

 

「パレスに黒い仮面の男……ねぇ。しらばっくれるなら貫き通さなきゃ、こっちも騙されてやれないな。でも、これで話が進む」

 

「あ……」

 

「……ほんと馬鹿」

 

 杏が呆れ返る。

 

「場所を替えようか。こんな所じゃ誰に聞かれるか分かったものじゃない」

 

「待ってください。櫻井さんでしたよね、あなたは誰なんですか。立場をはっきりさせてもらわないと付いて行く事は出来ません」

 

「少なくともお前達が心配してるような立場の人間じゃない。巨大な悪意の近くで能天気にはしゃいでるお前らが見ていられなくなっただけだ。……それに」

 

 男が蓮を見て目を細める。

 

「昔の知り合いに似た奴がいたんでな。警告位はしておいてやろうと思ったんだ」

 




主人公のペルソナ名はキルケー。
物理・魔法の攻撃スキルが無く、状態異常・補助スキルに優れた回復もちょっと出来るサポート特化ペルソナ。
パーティーに一人欲しい。でも主人公はボッチ気質。

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