Kämpfe gegen die Erde   作:Kzhiro

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執筆者はクライス氏。


解放戦線の貴族たち

オリオン腕全臣民解放戦線。おおよそ反地球教以外の共通点を持たぬ雑多な寄せ集め勢力であり、幾多の派閥の思惑が絡み合ってその実態を把握することは困難だが、その派閥を大別すると領邦組と外様組のふたつに分けることが可能である。

 

 もとよりオリオン腕全臣民解放戦線の母体となった組織は、オイゲン・フォン・カストロプ公爵が帝国政府の降伏後も自らの財産と特権を守らんが為に設立を宣言した抵抗組織であり、そこには帝国政府からある程度の独立性を保っていた諸侯貴族が合流して一大勢力となって抵抗を続けていた。これが領邦組である。

 

 一方、外様組というと旧帝国中央政界で活躍していた者たちや共産党系人士のことだ。彼らは地球教勢力のオリオン腕進出の過程で大損害を被り――共産党系勢力は、その高い隠蔽力と弾圧に場慣れしすぎてたこともあってさほど損害を被ってはいなかったが――オリオン腕各地を転々とし、離散集合しながら抵抗を続けていた者たちである。

 

 当然、この二系統の勢力の合流は反地球教の観点から望ましいと考える者たちは少なからずいたが、領邦組抵抗組織の首領であったオイゲン・フォン・カストロプは彼らとの合流をとにかく嫌がった。彼の目から見れば、旧中央の改革好きの連中はあれこれと圧力をかけて自分から特権と財産を不当に奪い取ろうとしてきた仇敵であったし、共産党系の連中に至っては地球教団との差がまったくわからない危険な思想犯罪者集団にしか見えなかったのである。

 

 あくまで自己の利益を最優先している彼は、このような劇物どもを領邦組抵抗組織内に入れるのは断じて不可なりと頑迷なまでに拒絶した。ひとつにはオイゲンは帝国全土を地球教の魔の手から救おうなどという考えは持ってはいなかったことがあげられる。自分の所領を守るだけならば、別にそのような劇薬に手をつけずとも守りきることができる。少なくとも、自分が寿命を迎えるまでは間違いなく、今の環境を維持することは十分以上に可能であるという計算があってのことであった。

 

 そんなオイゲンがある日突然前触れもなく()()()し、その後抵抗組織内に主導権を握ったのがオイゲンの子マクシミリアンとフレーゲル男爵であり、彼らが外様組との合流を主導し、旧中央の者たちや共産党系人士を迎え入れ、全国的な抵抗組織であるオリオン腕全臣民解放戦線が誕生したというわけであった。

 

 当然、フレーゲル男爵が外様組との合流を決断したのも相応に計算があってのことである。解放戦線の統治が及ぶ領域は、すべて元々自分たち領主貴族の領地であり、自分たちの基盤そのものである。外部における活動拠点をいくつか有しているとはいえ、自分たちの勢力圏内の本拠地とする以上は、外様組は居候になるわけであり、大幅に譲歩せざるを得ないだろう。ましてや、外様組は自分たち以上に共通の価値観を有しておらず、当然派閥対立も激しいはずで、足並みを揃えて自分たちに対抗するなど到底できまい……。

 

「それで卿らはハンソンめの責任を追及するなというのかッ! これほどの失態を犯したあの男を!!」

 

 解放戦線の本部になっているカストロプ公爵邸の一室で怒鳴り散らしながらフレーゲルは過去の計算違いを思い出していた。そう、外様組の連中など簡単にコントロールできると思っていた。しかしあの【滅びの皇女】を軽視しすぎていたと思い知らされる日々が、解放戦線を旗揚げしたその日から現在まで続いていたのである。

 

 いや、軽視したつもりはなかった。むしろ過大と思えるほど過大に評価したつもりであったし、あの女傑を相手にするのは一筋縄でいかぬだろうと覚悟もしていた。なにしろ自分が物心つくかつかないかの頃から、宮廷の有力者であった亡き叔父上たちが恐れていた独裁気質の皇族である。警戒して警戒しすぎることはあるまい。だが、その予想すらも超えるほど彼女は政治的怪物だった。

 

 いったいどのような手管を用いたのか、彼女は自分たちの視点で見ても寄り合い所帯の権化としか言えない外様組の利害を巧みに調整して意思統一を行ってはしきりにこちらに噛みついてきたし、基本的に防衛が中心であるが故に目立つ成果をあげにくい領邦組とは異なり、帝国各地に活動拠点を利用して華々しい戦果をあげて発言権を強化し、彼女は解放戦線副盟主の地位を、事実上の指導者職を奪い取って行ったのである。

 

 もちろん、フレーゲルとて必死に食い下がり、解放戦線においてはアグネスに次ぐナンバー・スリーの地位である盟主特別枢密顧問官として権力を維持できているが、それは地盤に圧倒的なハンデがあってこそ維持できる自覚があった。だからこそ、外様組に攻撃する機会を虎視眈々と狙っていたフレーゲルとしては、明白な失敗であるオーディン・ゼネストの一件は是が非でも糾弾すべきことであった。

 

 そうしたフレーゲルの心情をある程度察しているゲオルグは、なだめるような口調で諭した。

 

「なにも糾弾するな、と言うわけではない。だが、あれは激論の末に我々全員がやると決めて決行したことであろう。その時点で、地球教徒どもがあそこまで強硬な手段を取るなぞ誰も想定しえなかった。ゆえにハンソンだけに責任を押し付けるのは筋が違うと殿下は考えておられる。ついでにいえば、私も同意見だ」

「だが、だれにも責任をとらせぬというわけにもいくまい。アルフレット! 例の映像を」

 

 親友のフレーゲルの言葉を受けて、ランズベルクは機材を動かして立体映像を再生した。それはここ数日、立体TVで頻繁に報道され続けている旧帝都オーディンにおける神聖地球同盟の公式報道映像であった。

 

『ご覧下さいこの凄惨な光景を! 解放戦線を自称する戦争勢力がゼネストという反平和的活動を行なったが故の結果であります! 再び人類全体を戦争の惨禍へと導こうとする悪辣な企てに対し、激しい全人類の戦争勢力への怒りの心が、宗教警察軍という代行者の姿を借り、炎となって燃えあがったのです! 当局の発表によりますと、この措置によりオーディンだけでおよそ五億の死者を出し、またそれに付随してゼネスト関係者がその数倍の数で宗教警察により拘束されたとのことです!』

『この膺懲作戦を指揮した宗教警察軍艦隊司令官エンリコ・マクスウェル大主教のコメントが届いております。「この種の措置が、人民大衆に大きな痛みが伴うことは否定できない。しかし全人類の平和と安寧のためには、やむをえない状況でした。当然、我らを賛美せよとは言わぬ。諸君らは教義と矛盾する罪にまみれた軍人を憎悪し軽蔑する資格があり、いかに我らに正義があったとはいえ、殺人を成した我らは地獄へと赴く義務があるのだから」と述べられたとのことです』

『この一件に関し、宗教警察はこの惨事を招いた責任を問うべく解放戦線という戦争組織の情報を今まで以上に求めております。解放戦線に属した者であっても、有益な情報提供をするならば、寛大に処す意向であると。聖書に曰く、自ら過ちを正す者を更に罰するは母なる地球の意思に背くことであると――』

 

 ひと通りの映像が流された後、フレーゲルは挑むようにゲオルグを睨みつけた。

 

「帝都炎上。それも中心街丸ごと消し飛ぶほどの炎上ぶりだ。この報道を見て、組織の末端構成員もいくらか浮足立っている」

「組織の引き締めについてはラングが対処していると聞いているが……」

「それだけで対処するにも限度があろう。最低でもハンソンめが責任をとって、組織化部門統括の地位を退かぬ限り、下に対して示しがつくまい」

 

 これに黙っていられなくなったロマノフスキーが口を挟んだ。

 

「今ハンソンに責任をとらせる、という選択は共産党系の者たちを離反させるだけではないか?」

「ハンソンが統括でなくっても、まだマオが統括だろうが。それに何も処刑しろだとか追放しろだとか言っておらぬ。大幅に降格させる程度でよい」

「はたしてそれで共産党系の者たちは納得するものやら……。それにオトラン女伯が正規艦隊を叩き潰したのだからそれである程度埋め合わせできているのではないか?」

 

 この言葉にフレーゲルは顔を真っ赤にして反論しようとしたが、それより先に怒声をあげたものがいた。

 

「まったく埋め合わせできておらぬわ! 地上軍総監として見識が疑われるぞロマノフスキー!!」

 

 その声の主人は軍事部門統括マクシミリアン・フォン・カストロプである。彼の口論への参戦に全員が揃って面倒なことになったという顔をした。フレーゲルも例外ではない。マクシミリアンの手には輝かしい元帥杖が握られていた。何を隠そう解放戦線最高幹部の全会一致によって任命された現状唯一の『元帥』である。

 

 そのことについて、苦々しい思いを抱く者は多い――彼の盟友であるはずのフレーゲルでさえ、多少は思うところがあるほどだ。しかしそれは、実力が元帥の階級に釣り合っていないから、というわけでは必ずしもない。元々軍事的に高い才能を持っていたマクシミリアンは軍の統帥者として、申し分のない実績を残していた。帝国政府の降伏後も一支配圏内に入らない領域を占領するべく攻めよせる同盟軍に、寡兵ながら勢力圏を数年に渡って防衛しているのは、マクシミリアンの将帥としての才覚が並外れていることを証明している。

 

「いいか、こちらは正面から地球教の正規艦隊と五分に渡り合える正規艦隊は四つしかないのだ。その内のひとつであるワーレン艦隊をおまえたちの要請を受けて、あれこれと戦線整理をしてやりくりして派遣してやったのだぞ? それが壊滅的打撃を受けて戻って来た。司令官のワーレン中将も重傷を負って復帰には時間がかかることだろう。一時的に抜けるだけの穴だと思っていたワーレン艦隊の分を抜きで、今後の勢力圏防衛戦略を練らねばならんのだぞ。オトラン女伯のあげた大戦果は賞賛に値するが、そもそも第一〇艦隊は我らへの圧力のために用いられていなかった敵戦力なのだからな」

「だが、敵の戦力が低下したことは間違いない。連中が壊滅した第一〇艦隊の穴埋めの為に、こちらへの圧力分から戦力を引き抜く可能性もあろう」

「それは可能性の話だろう? それに彼我の総戦力差も考えよ。第一〇艦隊を失ったとはいえ、敵はまだ正規艦隊だけでも約一〇個艦隊近い戦力が残っているはず。それを踏まえれば、受けた損害の数は同数だとしても、こちらの方が比率の上ではこちらの方が損害が大きく、それでいて取り返しがつかない。それがわからんとは言わせんぞロマノフスキー」

 

 そう言って睨め付けてくるマクシミリアンに対し、ロマノフスキーは有効な反論をすることができなかった。彼の言葉は、正に正論のそれであったからだ。

 

 人類社会のほぼ全域を支配している神聖地球同盟であれば、そのリソースは莫大であり、人材育成の手間はあるにしても、損失分の軍艦の再製造にはさほど手間取らないだろう。一方、こちらのリソースは相当に限られており、軍艦を製造・修理する工廠の能力だって需要に供給が追いついているとはいえないのが現状なのだ。

 

 ロマノフスキーが歯噛みしているのを見たフレーゲルはここで畳み掛けるべきと口を開いた。

 

「仮に卿の言う通り第一〇艦隊の壊滅により、オーディンでの損害の埋め合わせができていたとしても、それはオトラン女伯の功績であって、ハンソンの功績ではない。その功績で失態の埋め合わせというのもおかしな話だろう。それに例の叛徒どもの使者もあの一件に参加していただろう?」

「ジークフリード・キルヒアイスのことか」

「そうだ。そいつが危うく殺される寸前まで追い詰められていたというではないか。これから共闘していく可能性が高い以上、あちらに誠意を見せる必要があろう。既に旧フェザーン系の勢力からの山のような抗議書が届いているのだからな」

 

 フレーゲルも神聖地球同盟を打倒し得たとして、今更かつてのゴールデンバウム朝の体制を復活させることができるとは考えていない。かつては激しくて敵対してきた共産主義者どもや中央の改革派と手を組むことを決めた時点で覚悟はしているし、サジタリウス腕は共和主義者どもの自治領ということで認めてやってもいいと思っている。

 

 だが、それでもゴールデンバウム朝こそが人類社会の中心に立つ存在であるべきだ。五〇〇年の歴史と伝統を担う帝国貴族の一員として、そこは断じて譲る気は無く、サジタリウスを国として認めても帝国よりは格下の存在であらねばならないと信じている。ゆえにド・ヴィリエ一派の立場を相対的に向上させるような事態は避けたいのであった。

 

「依然、ハンソンが失敗の責を負うべきことは変わらぬと私は考えるが? むしろ、統括職より退くだけですませるのは、かなり温情ある措置とすら私は思っているが」

「先ほども言ったがオーディン・ゼネストの失敗は彼だけの責任ではあるまい。実施者としても、ワーレン艦隊が宗教警察軍に一方的にしてやられたこともあるし、地上で民衆の護衛にあたっていた我々地上軍も部分的な責任がないわけではないかもしれない。サジタリウスの者たちに誠意を示すとしても、それでは……」

「ではロマノフスキーとワーレンもカール・ハンソンとやらと一緒に辞職してもらう方向でよいのではないか?」

「「待て待て待てッ!」」

 

 ロマノフスキーは色んな派閥から信頼されている変えがたい人材であり、ワーレンにしても平民からの人気が高い提督である。ハンソンに加えてその二人もまとめて幹部陣から追放してしまえば、組織内の派閥対立が激化の一途をたどり、解放戦線が内部崩壊しかねないと即座に理解できたフレーゲルとゲオルグが声を揃えて叫んだので、マクシミリアンは驚いて目を丸くした。

 

 マクシミリアンが面倒な相手と思われるのはこれで、政治的才覚がほとんどゼロなのである。いや、それだけならば良くはないにしても、まだ良いのだが、ある種の政治的怪物であった父オイゲンの息子として周囲から忖度され、しかも領地暮らしを続けていたせいか、フレーゲルをして時折ドン引きするくらいには時代錯誤的貴族特権を無邪気に信じ、疑いすらしないのである。

 

 自分くらいの年齢の貴族はアグネスが主導した改革の影響で、自分たちの貴族特権が不安定なものになっていることを自覚し、特権を失わぬよう警戒心を培ってきたものであるが……。オイゲンの死後、「面倒だからお前に任せる」の一言で政治的実権を投げ渡してきたことといい、軍事的才覚と政治能力がまるで釣り合っておらず、実に怖いのだった。

 

 マクシミリアンが元帥になったのも「なんで私が成り上がりのオフレッサーと同階級なんだ。名門公爵家当主である私が軍で一番の要職に就くのは当然として、階級の上でも頂点に立つのが道理だろう! でないと合流なんて認めない!」と外様組に対して駄々をこねまくったからである。しかも何か狙いがあってのことではなく、素直に本心を述べていただけのつもりだったらしく、フレーゲルとしてはあの頃からマクシミリアンの軍才を利用しつつも、胃痛が絶えない日々を送っているのだった。

 

「結局のところ、フレーゲルらにとって重要なのは、組織内部における共産主義思想の蔓延なのだろう? その点、ハンソンに組織内でそのようなことするなと誓約させるあたりが落とし所ではないか? 脅しの意味を込めて、ラングの部下何人か行動を共にすることをハンソン自身に承服させることも含めて。あんな逸材、遊ばせておく余裕など我々にはないのだ。サジタリウスの共和主義者どもへの誠意の示し方については、今度の御前会議の議題として追加しておくということでどうだ」

「……わかったその方向で話を進めてくれ。エリザベート陛下には私から報告しておく。元帥もそれでいいな?」

「ん? 話がまとまったなら、それでいいぞ」

 

 平然とそれ言って了承してのけるマクシミリアンに、その場にいた全員が脱力感を感じ、示し合わせたわけでもないのに全員がため息をついた。戦略レベルでも戦術レベルでも緻密で精巧な軍事的手腕を有するくせに、この何も考えていないとしか思えない言動はなんだろうか、と。

 

 会議が終わり部屋を出た後、ロマノフスキーはある懸念を同行していたゲオルグに述べた。

 

「……本当にハンソンに監視役をつけるつもりか?」

「ああ、実は最初からこの辺りを落とし所にしようと思っていた。事前にラングにはある程度話は通してあるんだ」

 

 黙っていて悪いが向こうに気取られたくなかったので許してくれとゲオルグは微笑んだが、ロマノフスキーは深刻な顔をして続ける。

 

「それはいい。ただでさえ、カストロプやフレーゲルらと共同戦線を敷くのに、共産主義者たちにはかなりの我慢を強いている。この上、さらに強く思想の啓蒙を禁じ、彼らの指導者であるハンソンに監視役をつけるとなると、彼らが暴発しかねんぞ」

「その辺は考えてある。……そこでひとつ問うが『共産主義思想を蔓延させるような行為』の具体的な定義ってなんだ?」

「は?」

 

 いきなりよくわからない問いを投げられ、ロマノフスキーは困惑した。

 

「それが答えさ。そんなことに誰もが納得する統一的な定義などない。なので自然、綱紀粛正部門から派遣される監視役の主観的判断によるところが大きくなるわけだが、ラングに()()()()()()()()()()()()()()()()()よう取り計らってくれと言ってある。事実上、フリーハンドを与えるわけさ。だが、監視役は監視役であり、上司のラング、ひいては私やアグネス殿下の意向、もしくは統括たちの動向によっては監視役はそうじゃない奴に変わるかもしれない……それがハンソンへの無言の圧力になるさ」

「……ここまで計算していたと?」

「いや、カストロプ元帥閣下の登場は予想してなかったが……結果だけ見ればそうか」

 

 平然とそう語る年下の青年貴族はどこか虚無感を漂わせており、地上軍総監は目の前の青年の生い立ちについての流布している噂と照らし合わせ、内心恐怖と哀れみの目でその背を見つめていた。

 


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