Kämpfe gegen die Erde   作:Kzhiro

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執筆者は前半部分は悠久なる書記長氏、後半部分はクライス氏。


外伝
とある政治家についての回顧


「一宗教に過ぎない地球教が『絶対正義』を気取ってやりたい放題など、放置して良い問題ではありません!

政府は道徳教育の推進の下、あらゆる自由を奪いました!今やウォッカすら飲むことが許されないのです!

このようなことが許されて良いのだろうか!アーレ・ハイネセンが掲げた【自由、自主、自尊、自律】はどこに行ったのか!

自由惑星同盟は時代に取り残された。もはや時代遅れです! しがらみに縛られ、沈んでしまう船ならばいっそ壊してしまえばいい。

私自らの手で、皆さんの手でこの旧時代の遺物に NOを突き付けようではありませんか!全宇宙の市民よ、団結せよ!自由万歳!」

 

グレゴリー・カーメネフは壇上でそう叫び、自由惑星同盟である「自由の旗、自由の民」を歌いだし、同じく進歩党議員達も一斉に歌いだした。すると傍聴席からも歌声が出はじめ、遂には本会議場全体に響き渡った。それは自由惑星同盟議会の葬送曲と呼ぶべきものだったのだろう……。

 

グレゴリー・カーメネフはこれを最後に逮捕され、異端審問官に引き渡されたのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

第114649教化収容所は、自由惑星同盟時代に建設されて予算的な問題で放棄された人工衛星を、地球愛党政権が改装する形で開設された収容所のひとつである。

 

教化収容所はその名の通り「極めて悪質な人間を収容し、徹底的な道徳教育を行い、人として正しい信仰心を目覚めさせる」という、かつての銀河帝国矯正区収容所と性質的にはほとんど変わりがない。

 

「そして施設の腐敗具合もほとんど変わりがない、というわけですか」

 

「いや、他のところもすべてこうなら有り難いのだけどね。残念ながら腐敗具合は収容所ごとで色々と違ってね。腐敗が著しい収容所もあれば、その存在意義にどこまでも忠実な収容所もある。まあ、ここみたいなことになってる収容所はかなり珍しい部類で、両手の指で数えきれるくらいしかないけどね」

 

トリューニヒトはそう言いながらふたつのグラスに酒を注ぎ始めた。

 

「いえ、それでも随分と気が楽になりますよ。自分が対峙する敵といえば、宗教警察とかそのあたりのイカれている連中が圧倒的多数派なものですから、長くテロの第一線にいると、どうにも狂人か味方で物事を考えがちになってしまうので」

 

「……それはいけないな。ある程度ルーティンで休息をとらせ、こちらのシンパたちと交流する機会を作った方が良いかもしれんな。無論、機密漏洩などの危険性についても考慮して考えなくてはならんが」

 

そう言ってトリューニヒトはヤンに酒の入ったグラスを差し出した。

 

二人は今後のテロの方針について擦り合わせを行うべく、収容所所長以下ド・ヴィリエー派に取り込まれている者たちばかりで、隠れ家のひとつとして機能するようになっていたこの第114649教化収容所で密会しているわけであった。

 

さしだされたグラスをヤンは呷り、そしてやや複雑な顔をしてグラスを眺めた。

 

「ん?どうしたんだい」

 

「いえ、これってウォッカですよね」

 

「ああ、そうだが……」

 

「地球教に粛清された、ウォッカ好きの飲み仲間のことを少し思い出していただけです」

 

「…」

 

だれのことをヤンが言っているのか、トリューニヒトは察して黙り込んだ。その男は、トリューニヒトにとっても飲み仲間であったし、抱いている政治思想で異なる点が多々あったが、自分が政治のイロハを教えて可愛がっていた弟分でもあったのだ。

 

「最初に会ったのはエル・ファシルの英雄として私が持て囃されていた時だったな。いきなり『弟を救ってくれてありがとうございました!!!』って土下座してきて、お礼の品だと言って酒瓶を押し付けるように渡してきて、そのくせ『俺もそれを飲みたいんだよ』とか言って、官舎に入ってきて。初対面なのに、とんでもなく図々しい奴だなぁって思いましたよ」

 

「……なんというか、実にグレゴリー君らしいエピソードだな」

 

トリューニヒトは喘ぐようにそう言った。自分が初めて会った時には、既にヤンと謎の繋がりを開拓していたので、グレゴリー・カーメネフがいかにしてヤン・ウェンリーと飲み仲間として関係を築いたのか、知らなかったのだが……控えめにいって、問題がありすぎる距離の詰め方ではないかそれは?

 

ヤンは再びウォッカを呷り、軽く息を吐いた。

 

「だから進歩党なんて政党が出来た時に、私は柄にもなく喜んで、選挙の時には清き一票を進歩党に入れましたよ。党総裁がグレゴリーさんでもホアンでもレベロでもなく、トリューニヒトの野郎だったことは大きな不満点でありましたけど」

 

「当人を前にして言うのはひどくないかね?」

 

「言ってませんでしたっけ? 私はあなたのことが現在に至るまでずっと嫌いですよ」

 

「……私は君に全幅の信頼をおいているつもりなのだがね?」

 

「それは私もそうですよ。あなたのことは信頼していますが、嫌いなものは嫌いです。どうしようもないですよ」

 

トリューニヒトはふてくされたようにウォッカを呷った。だから、わざわざそれを当人に向かって言う必要がどこにあるんだとツッコミを入れたくて仕方なかったのを、アルコールの魔力を借りて我慢したのである。

 

「なのに進歩党政権は長く続かず、地球愛党に選挙で負けて政権を奪われたばかりか、例の独裁法案審議でグレゴリーさんが……」

 

「待て。あの場に居なかった君がなんであの光景を知って……いや、そういえば、あの頃はまだ議会中継が普通に立体TVに流されていたのだったな」

 

地球教は宗教政党たる地球愛党を作り、合法的でオーソドックスな方法で自由惑星同盟を乗っ取ったのである。独裁化するまでは、同盟のルールの枠内での行動しか公然とはしていないのだ。故に当然、議会中継を阻む合法的方法など、当時の地球教勢力にはなかったのである。

 

逆にいえば、ある意味正攻法で同盟の民主主義は地球教という狂気の前に敗れたわけであり、当時の無力感は深刻極まりないものがあったのだ。

 

「私もあそこで『自由の旗、自由の民』を歌った議員の一人だが……。議決直後に議場に踏み込んできた宗教警察の連中がグレゴリーくんを逮捕していくのを眺めていることしかできなかった。もはや議員活動で連中を止めることはできぬとド・ヴィリエの世俗派と手を組み、地下活動へと移ったのだが……結局その世俗派をも権力層から失墜して、今のところ散々な有様だがね」

 

「進歩党があった頃が懐かしいですね……」

 

「いや、一応まだ進歩党はあるぞ。レベロ君が総裁をしていたはずだ」

 

「地球教の支配体制に組み込まれた衛星政党としての進歩党に希望なんかないんですよ! レベロもレベロだ!あんな形骸でしかない党を守って何になるんだ?!」

 

「レベロ君としては、地球教を滅ぼす武器としての役割を担うよりかは、少しでも民衆を守る盾としての役割を果たしたいのだろう。どれだけ心もとないとしても、意味がないとは言い切れんさ」

 

トリューニヒトは嘆息する。思うに、人民多数は決して地球教の支配を受け入れているというわけではない。

 

もちろん、地球教党が政権与党となり、さらには独裁政党となり得たのは、少なからぬ支持基盤があったからであるし、人気があったからでもある。「政権を取れば数年のうちに、戦争を終わらせて平和を勝ち取る」という主張から、同盟の現状に失望していた者達からの票もかき集めたからというのもあろう。

 

そしてその主張は決して嘘ではなかった。ただそれを具体化させる方法はとなると、奇想天外にもほどがある手法であり、おおよそ常識とされる呼ばれていたものを踏み潰して成し遂げてくスタイルであり、その方針に歯向かう者には容赦がないという表現では足らぬほど残虐であった。

 

それを受けて多くの人間は恐怖と絶望を抱き、なにより地球教勢力が絵空事のような方針を強引な方法であっても次々と成功させていく無多さに飲まれてしまっている。地球教の世界観にのまれてしまっている。逆らって何になる。唯々諾々と従順であれば、貧しくとも生きては行ける環境くらいならあるという希望が故に、抵抗には億劫になる。

抵抗に億劫になる。

 

そうなってしまった者たちに、レベロなりに別の希望を見せようとしているのだろう。どんなに心もとなく思われようとも、民意の汲み取りに奔走し、地球教の狂信者たちと折衝し、多くは叶わずとも一部は叶うことを見せつけて、決して地球教とて無謬ではないということを示そうと。非常に迂遠ではあるが、自分たちが協力者を集める下地作りを手伝っているともいえなくはない。トリューニヒトはそのように思っていた。

 

「しかしあの頃を思うと、見事な落ちぶれっぷりに泣きたくなってくるな。私はこのザマだし、レベロ君は衛党進歩党の党首、グレゴリー君は地球教に処刑され、 ホアン君やアイランズ君に至っては生死すらわからん。処刑されたのか、どこかの収容所に幽閉でもされているのか、それとも.……」

 

トリューニヒトはそこで口を閉ざした。その続きを語る必要性を感じなかったのである。

 

「だが、それでも今一度『自由の旗、自由の民』を同盟議会議事堂で高らかに歌うために、戦い続けるしかない。今度は葬送曲としてではなく、生誕歌としてね。それが散っていた進歩党員たちの……いや、自由惑星同盟の政治家たちの願いに違いないのだからな」

 

「……本心から言っているか非常に怪しいですが、あなたのことですからそう言う状況まで推移すればやるんでしょうね。パフォーマンスにもなりますし」

 

「なんだ、お見通しか」

 

トリューニヒトは唇をへの字に歪めていた。

 


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