Kämpfe gegen die Erde 作:Kzhiro
今日は給料日なので久方ぶりに外食と洒落込むこととした。
神聖地球同盟が成立して以来、いや、もっとさかのぼれば地球愛党が与党となって以来、メディアはある意味で潤った。プロパガンダである。私が所属する新聞社もその恩恵を受けており、莫大な補助金と引き換えに市民に「平和的な」報道を毎日行なっている。お陰でここ10年の給料は使い切れないくらいだ。…やっていることはプロパガンダであるが。
最近の食事は質、量と共に不満の声を上げざるを得ないものばかりである。それまでの工業的食糧生産方式から有機的栽培に移行していくばくか経つが、なにぶんサジタリウスにおいて「土の上の農業」は高級品に限るものであったため試行錯誤しながら行なっているという面が否めず、未だして闇市場に頼らざるを得ない状況であった。かくいう私も自炊で美味しい料理を作ろうと思ったら闇市場に駆け込む始末である。宗教警察に見つかって律法局管轄の教化収容所送りにならないか心配である。
しかし最近そんな不満を払拭するかのような美味い料理を出してくれる店を同僚が見つけてくれた。立地こそあまり人の寄らない区画の、それも路地裏であるという最悪の立地というのに目を瞑れば、不満げだった私の舌を唸らせる最高の店であると言えよう。
人目を気にして当の路地裏に差し掛かる。闇市に行くと勘違いされたら厄介だ。宗教警察を差し向けかねない。つくづく思うのだがどうしてこんな路地裏に店を構えているんだろうか?食材を闇市に依存しているとか、そんなところなのだろうか?
そうこうして考えを巡らせていると当の店が存在すると思しき雑居ビルの前に出た。当の店は地下に存在するようであり、私は階段を降りていった。
階段を降りたら古めかしい木の扉の前に出た。確か同僚が言うには…9回ノックして「正しさ」と聞かれたら「愚かさ」と答えるんだったかな?なんでこんなプロセスを踏む必要があるんだろうか。
どうも合っていたようだ。扉の前に控えていたであろうウェイターが開けた扉を潜ると、小洒落たパブと思しき内装が目に飛び込んできた。不思議なことに客のほとんどの目線がこちらに向いていることを除けば、評価できるものだった。
カウンター席に腰掛けて、適当にメニューを眺める。ピザやグラタン、フィッシュアンドチップス、飲み物はウイスキーやワインなどの、一般的なパブに取り揃えていそうなメニューであったが、確か同僚が勧めていた組み合わせは…
私はマルゲリータピザとスパイシーフライドチキン、フリコとウイスキーを注文した。一瞬バーテンダーが怪訝な表情をしたが、すぐにこやかに対応してくれた。
料理を待っている間は客のこちらを見ながらのひそひそ話が気になって仕方がなかったが、料理がテーブルに届くとすぐに気にならなくなった。一般的な、10年前ならどこにでもあるようなマルゲリータに、鶏肉に、フリコに、そしてウイスキー。ここ数年かは粗食の割合が多かった私にとっては、黄金に等しかった。
早速私はピザカッターに手を取り、均等に切り分けてマルゲリータを一切れ口に入れた。うん、この濃厚なチーズの味、主張を隠さないトマトの味、アクセントのバジルの味、そのどれもが協調してえも言わぬ味わいを…
ここで私の意識は途切れた。そういえばド・ヴィリエ派が隠れ蓑にしている店があると聞いたことがある。そもそも変な立地や合言葉の時点で気がつくべきだったのだ。だが今私が手錠でしっかりと固定されている冷たい鉄製のベッドの上で何回か後悔してももう後の祭りで合った。