Kämpfe gegen die Erde   作:Kzhiro

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執筆者はクライス氏。


保身を図る第五列

現在、神聖地球同盟国防軍統合作戦本部の頂点に君臨しているのは、ドーソンという男であり、同盟が地球愛党を指導政党とするヘゲモニー政党制に移行する前から軍の高官であったという、非常に珍しい経歴の持ち主であり、地球教の築いた理想社会に順応できぬ者たちからは虚栄心の強い卑劣漢と見做されていた。

 

それは故のないことではなかった。彼は元々ヨブ・トリューニヒトに近しい軍人として頭角を現し、地球愛党が政権与党になった段階では国防委員会情報部長の中将であった。にもかかわらず、地球愛党の一党独裁体制が確立され、党が地球教にとって不都合な人材を政治と軍事の双方の上層部から一掃しようと企図した時、ドーソンはその流れに迎合して職権を乱用し、ロックウェルなどを始めとする同じトリューニヒト派軍人の追放活動に加担したのである。

 

その“貢献”によって、ドーソンは大将に昇進し、後方勤務本部長と統合作戦本部次長と兼任し、対帝国の聖戦時には、軍上層部が何を企んでいるか重々承知の上で、その非道極まる軍事作戦や宗教警察による特殊作戦を兵站面で強力に支える活躍をし、地球教上層部からも高評価をされるようになっていた。

 

そして戦後の地球教世俗派の領袖ド・ヴィリエが平和に対する罪を犯した大罪人、背教者として教団から永久助命処分されるようになると、ドーソンはまたしてもその流れに乗っかり、軍内における世俗派の大粛清の主犯格の一人に名を連ねたのである。

 

大粛清で処刑された将官の内、実に五割近くの意思決定にドーソンは参加していたと言われており、佐官以下の処刑にはいったいどれほど関わっていたのかは判然としないが、ひとつだけ確実なこととして、世俗派のグループに属していたとされる息子の死刑執行サインを、ドーソンはしたということである。

 

いや、それだけにとどまらず、ドーソンは自分の息子が背教者と関わっていたことに怒り心頭であったらしく、息子の軍籍を剥奪するよう働きかけ、更には私的にも絶縁の申請を役所で行い、徹底的に息子の罪が自分に及ばぬように万全の措置を取った上で、息子の処刑執行人もドーソンがしたということだ。

 

処刑執行の際、ドーソンは顔を真っ赤にして息子を怒鳴り続け、徹底的にこき下ろした。そして息子から呪いの言葉を呟かされても、何の痛痒も感じなかったように死刑を執行したと多くの者が証言しており、疑いの余地はない。

 

そこまでして自分たちへの忠誠心を示してみせたドーソンに、地球教は厚く報いた。元帥に昇進させ、統合作戦本部長の椅子を与えたばかりか、地球愛党の党籍を与え、同盟議会議員の役職をも与えたのである。

 

といっても、今や同盟議会は年末に一日だけ開かれ、政権の全て提案を全会一致で賛成するという形式だけの存在と化しており、議員職など名誉職でしかないのだが。

 

こうした経歴の為にドーソンは虚栄心の強い卑劣漢であると反体制派からは見做されている。そして地球教側もそうした風評を十分に承知しているので、まさかドーソンが今なおトリューニヒトとの間に連絡ラインを持っているなどと想像する者は皆無ではないにせよ、限りなくゼロに近かった。

 

そんなドーソンが地球に移転された同盟政府の神殿の廊下を歩いていた。国防委員長に呼ばれていたのである。執務室の扉をノックして、ドーソンは入室した。

 

「ああ、よく来てくれた。急な案件で汝と相談したいことがあってな」

 

部屋に入るなり挨拶もなしに話しだした国防委員長の姿を確認して、ドーソンは不快感を抱く。神経質で規律屋な彼としては、国防委員長の肉付きが薄く血色が悪い青白い顔と長いだけで手入れがされていない黒い髪に、不潔さを感じてしまうし、熱帯雨林地帯の太陽を思わせるような刺々しい光を宿す青い目は不気味に思えて苦手だった。そんな内心を隠し、慇懃に敬礼をする。

 

「なんでございましょうか、デグスビイ国防委員長閣下」

 

「以前より枢機局で議題にあがっていたことなのだが、宗教警察の下に新たな軍事組織を新設するという話があっただろう。総大主教猊下が裁可してしまったので、汝と善後策を検討したいのだ」

 

「なんですと。閣下のお力でも阻止することができなかったのですか」

 

「ああ、残念なことにな、私も必死に意見を主張したのだが、宗教警察長官の意見の方が枢機たちの賛同をえてしまってな……」

 

デグスビイの表情には無念さが滲み出ていた。現在の同盟において、閣僚の地位にあることは、必ずしも政治的影響力の持ち主であることを意味しない。宇宙暦時代の自由惑星同盟ならいざしらず、西暦が復活し神聖地球同盟となった現在、地球愛党の事実上の一党独裁体制が敷かれており、地球愛党の決定は政府に圧倒的に優越するからである。

 

帝国を滅ぼした聖戦後は、地球愛党と地球教本部の一体化がはかられ、党上層部と地球教上層部のメンバーが完全に一致しているなど、もはや両者を識別する必要性すらあるのか疑わしいことになっており、実質的に地球教本部が同盟政府を指導しており、政府閣僚であるだけでは実権のないお飾り扱いされるのである。

 

しかしデグスビイは地球教大主教の位階にあり、教団においては総大主教を輔弼する枢機局に勤めており、名実ともに現在の人類社会における権力の頂に近い地位にいる人物であった。ドーソンが度重なる軍部の大粛清を免れ、統合作戦本部長の椅子に座れたのは、彼の信任を得られたからという理由も大きい。

 

「宗教警察長官の言い分もわかる。軍の中堅以下の人員は、信心が不確かで信頼ならぬ者が多い。よって敬虔な地球教徒からなる聖なる軍隊を持えようという発想は順当なもので、さして飛躍したものでもない」

 

「ですが、それでは既存の軍と新たな軍の間で様々な軋轢を生みますし、この問題は世代が変わるほどの時間をかけて、徐々に軍の人員を入れ替えていくのが、最も穏当で、確実な方策であると小官は思っていたのですが……」

 

仮に宗教警察軍なるものが新設されたとして、最初から同盟軍と同規模の練度と規模を持ち、同盟軍に取って代わることなど不可能だ。宗教警察軍は同盟軍に比べて小規模の存在として始まり、徐々に人員を育成し、規模を拡大させていくといったプロセスを踏むを必要があるだろう。

 

そうなると同盟軍と宗教警察軍は互いに予算や人材、装備などを奪い合う険悪な関係になるのは避けられないし、さらに宗教警察軍は同盟軍の存在意義を奪い取るための組織ということになるので、両軍組織高官の感情的対立すら巻き起こす可能性が想定されたので、ドーソンはかねてよりデグスビイにその旨を進言していたのである。

 

「わかっておる。我々はこの人類社会から不道徳で不信心な戦争狂どもを一掃し、築き上げた平和をより完璧なものとし、永遠不変のものとしなくてはならぬ使命を帯びているのだ。にもかかわらず、我々が内紛により崩壊したとあっては、数百年にわたって母なる地球の加護を受けられず、わけのわからぬ帝国の悪政や民主共和政の奴隷となって、死んでいった者たちの魂があまりにも報われぬ。だが、汝がいうような危険性も提言された賢明なる議論の末に総大主教猊下が決断なされたのだ。ならば、その方針に従った上で最善を尽くすが聖職者の務めであろう」

 

そう語るデグスビイの瞳には高邁な理想を実現せんとする真摯さと宗教家としての潔癖さが内包しているようにドーソンには思われ、内心で感じる寒々しい虚しさを悟られないように苦労しなければならなかった。

 

彼ら地球教の聖職者は今の人類社会が“平和”であると当然のように主張するのである。戦争的とか、反道徳的とか、背教的とか、さまざまな理由をつけて規制を張り巡らせ、地球教の理念に沿わないあらゆるものが禁止され、過去の記録すら地球教の理念に沿うように改竄し、異を唱える者には誰であろうと呵責なき弾圧を加え、公開処刑される。そして街をゆく人々の表情から、感情らしきものが日に日に消えていく昨今の人類社会が。

 

最初は冗談で言っているか、ただの建前であるとドーソンは思っていた。だが、長く付き合っている内に彼らは自らの語る理想社会を、人類の理想の社会の在り方だと本当に信じており、その実現のために我が身を犠牲にすることすら惜しまぬ熱意と献身性を持っているのである。少なくとも、地球教の理念に心酔しきっている連中は。

 

その平和に対する狂気の前に、銀河帝国も自由惑星同盟も飲まれ、その過程の中で自分は我が子にすら死を宣告せざるを得ない状況に追い込まれたのだ。ドーソンは今でも自分は何か出来の悪い夢の中にいるのではなにかと思ってしまうことがある。早く覚めろと願い、そして現実なのだから覚めるわけがないと何度思い知らされたことか。

 

デグスビイと宗教警察軍との軋轢を最小限に抑えるための善後策を数時間にわたって討議した後、統合作戦本部へと戻り、自分の執務室にある特殊コンピュータを起動した。

本部へと戻り、自分の執務室にある特殊コンピュータを起動した。

 

「……今回の情報は、もしかするとド・ヴィリエー派にとって非常に有益な情報かもしれんな。ま、私には関係のない話ではあるが」

 

そう呟きながら、情報漏洩を阻止するためにいくつも情報的防衛プログラムを仕込んだ上で、宗教警察の管理下で新たな軍隊が設立されるという機密情報が、幾つものカバーを経た上でトリューニヒトに届くように送信した。

 

自分は小物な臆病者だ。自分の生命は惜しいし、今の体制に叛旗を翻したところで勝てる気がしないので、正式にド・ヴィリエ一派に加わるつもりはないし、自分への連絡方法も与えてやるつもりもない。保身のためにも組織的な規律に従い、これまでと変わらず政権にとって最善と思う発言をし、そのために働き続けるつもりだ。

 

にもかかわらず、ドーソンがトリューニヒトへの情報提供をやめようとしないのは、彼が現状に絶望して諦観しており、滅ぼせるものなら自分ごと滅ぼしてみろというヤケクソじみた感情からくる惰性的な行為にすぎない。

 

今回の情報提供も、今までの情報提供と同じで大勢が変わるような材料にはなるまいとドーソンは思っていた。

 

が、この時、ちょうどド・ヴィリエ一派内で共有された「リテラ」の存在、そしてそれを前提として戦略を練っていた時であり、本当に劇的に情勢が変化する一因になることを、ドーソンはまだ知らなかった。

 

 


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