Kämpfe gegen die Erde   作:Kzhiro

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執筆者は私ことkzhiro。


オーディン炎上 上

「同志ハンソン、もうすぐです!」

 

元弁護士であり現在はあまり似合っていない革命家をしているジークフリード・キルヒアイスは自分より何倍もの体格を持つ男、オリオン腕における反地球教の旗主、全オリオン腕人民の希望である社会主義者、カール・ハンソンを背負い込みながらそう言った。火事場の馬鹿力なのかハンソン自身が怪我をしているためなのか、それとも華奢な体格の彼でも容易に背負うことができた。

 

「敗戦国」である銀河帝国における神聖地球同盟に対する反抗運動はある意味無節操で、しかして激しいものであった。皇族、貴族、富裕商人、労働者、農民、学生などが身分の差の壁を超えて手を取り合い、一つの戦線のもと一致団結して狂信者達に果敢に立ち向かっているのである。

 

戦線、即ちオリオン腕全臣民解放戦線はその始まりこそ地球教による私有財産の回収に反対したカストロプ公爵による私利私欲のための組織であったが、ド・ヴィリエの世俗派を除いて公然と反神聖地球同盟を掲げる組織であり、高い福利厚生を完備しているというのもあり、戦犯追及を逃れたい貴族や職にあぶれた労働者、食糧生産統制により明日の食事を用意できるかもわからない農民や思想犯罪者の烙印を押された官僚などが続々と合流し、今ではオーディンで一大ゼネストはおろか、艦隊と一大陸上部隊を展開し、それを護衛できるほどの大組織として成長するに至った。

 

が、今ではそれは過去の話になりつつあった。新しく新設された宗教警察軍はオーディンに展開した解放戦線のゼネスト群衆に対し容赦なく発砲、徹底的な殲滅戦を仕掛けてきたのである。今キルヒアイスはそのゼネストの首謀者、解放戦線の幹部であるカール・ハンソンを背負って安全地帯に展開しているシャトル群まで運び込もうとしていた。即席司令部として展開しているシャトル群になら医療部隊が展開しているはずである。

 

そこまで運び込めることができればなんとか助かるかもしれない。

宗教警察軍の一部隊が見せしめにどこかに放火したのか、既に市街地には火の手が回っており、何かが焼ける匂いが時々彼の鼻腔を誘った。早く、早いところ合流しないと...

 

「同志キルヒアイス...ここでいい...もう下ろしてくれ...」

 

ハンソンは弱々しい声でそう言った。

 

「同志ハンソン、何を仰るのですか!生きていれば...生きてさえいれば必ず再起は叶います!さあ、あと少しでシャトルに到着します!頑張って!」

 

「生きてさえいれば...か。そうしたいのは山々だが...もう持ちそうにない。気を緩めれば意識を失ってしまいそうだ...」

 

ハンソンは弱々しい声で赤毛の同志に言う。確かに、今にも意識が絶えそうな様子であり、なんとか気力で耐えているのがよく分かった。だがしかし、それもあと何十分かすれば限界に陥るだろう。

 

「駄目です...貴方が生きていないと...貴方が生きていないと...これまでの犠牲はなんだったのですか...」

 

キルヒアイスはもう腕の限界が訪れたのか、息も絶え絶えにそう言った。そもそも華奢な体格の彼がハンソンを持ち上げられたのがある種の奇跡であったのだ。キルヒアイスは二、三歩ほど歩くと地面に膝をつきかけた。

 

「同志キルヒアイス...いや、ジーク!もう...やめるんだ!このままだと2人とも狂信者の餌食になって終わりだ!私を下ろしていけ!君だけでも...君だけでも生き延びるんだ!」

 

「そういう訳には行きません。貴方が、貴方が死んだら...殿下をはじめ、大勢の人が悲しみますから...」

 

キルヒアイスはなんとか堪えて、疲れに抗いながら一歩一歩、地面を踏みしめて歩き出した。

 

「っ...!!馬鹿野郎!お前のような希望に溢れた若者が、こんなところで死んでいいはずがねぇっ!」

 

ハンソンは無念に思った。何が革命家か。ゼネストに参加した同志達はおろか、希望に溢れた赤毛の若者1人を救えなくて何が革命家なのか。

 

「居たぞ!不信心者ハンソンとキルヒアイスだ!」

 

「不信心者に慈悲はいらん!殺せ!」

 

後ろから男2人の声が聞こえる。どうも宗教警察軍に見つかったようだ。

 

「...!!ジーク!俺を置いて逃げろ!お前だけでお前だけでも、お前だけでも生き延びるんだ!」

 

「そういう訳には...いきません...皆が悲しみますから...それに...まだ飲んでいないお酒があるんでしょう?私も付き合いますから...」

 

「この大馬鹿野郎...!!」

 

ジークフリードは息も絶え絶えにそう言った。ここをなんとかやり過ごせばあと少しでシャトルだ。声の大きさからいって男達とはまだ距離がある。ここをなんとかやり過ごせば...なんとかやり過ごすことができれば...出来るのだろうか?

 

ジークフリードの耳には男達がこちらに走ってくる音が聞こえる。この足取りでは追いつかれるだろう。

 

(...父さん...母さん...)

 

彼の脳裏によぎったのは今は亡き父と母であった。帝国の司法官吏であった父は占領統治に反発して思想犯の烙印を押され母ともども殺された。

 

自分もそれに倣うことになるかもしれない。キルヒアイスは深く目を瞑った。

 

その時であった。何かの発砲音とともに男達の短い断末魔が彼の耳に入ってきた。

 

「同志キルヒアイスと同志ハンソンを発見しました!これより保護に移ります!」

 

誰かと通信していると思わしき声。ジークフリードはゆっくりと目を開けた。

 

黒の強化外骨格に身を包み、こちらに歩み寄る男達が彼の目に写った。あれは確か...

 

「黒の軍勢...遅いじゃないか....ブラ公の美味い飯でも食って鈍ったのか...?」

 

背中のハンソンが弱々しく、そして嬉しそうにそう言った。

 

黒の軍勢、即ち解放戦線の主要幹部であるブラウンシュヴァイク公爵の精鋭陸戦部隊である。ここにいるということは逃げ遅れた同志を救出する任務を受けたのだろう。

 

隊員が1人こちらに歩み寄ってきた。装備からしておそらく衛生兵だろう。

 

「アンスバッハ司令から同志キルヒアイス、同志ハンソンの救出の任を受けました。後のことは我々に任せて、本部と合流してください。」

 

隊員はそう言って後ろの担架を指し示した。キルヒアイスは頬を綻ばせて担架に歩み寄り、ゆっくりと大柄の革命家を下ろした。

 

 

 


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