Kämpfe gegen die Erde   作:Kzhiro

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執筆者はクライス氏。


オーディン炎上 下

かつての銀河帝国の首都オーディンは、赤色に輝いていた。オリオン腕全臣民解放戦線が主催したゼネストを粉砕してから三日も経過しているのに、宗教警察軍将兵による虐殺行為がそこら中で継続して行われ、歴史的建造物の多くには火を放たれていたのである。それはこのような命令が、司令部から出ていたからである。

 

「帝国首都オーディンの名を永久に抹殺し、彼の首都がかつて存在したことを思い出させるすべてを抹殺しなければならない。この罪深きオーディンの街は、存在したこと自体が何かの間違いなのである。神聖なる使命を帯びた将兵には、この街のすべてを火中に投じ、徹底的に清めねばならぬ義務があるのだ」

 

ゼネストを粉砕した後に、ある程度オーディンの街並みを破棄することは、元からの既定路線ではあった。自分たちが滅ぼした悪の帝国の首都だった街に、派手なゼネストを起こした上に、公然と護衛と称して私兵を展開し、ヴァルハラ管区の統治責任者であったゴドウィン大主教以下、少なからぬ身内が犠牲になったとあっては、見せしめのためにも徹底的な膺懲が必要であろうというのが、地球教団枢機局の総意だったからである。

 

だが、これほどまで徹底的なものとなったのは、ゼネストの首謀者であるカール・ハンソンを取り逃がしたことが宗教警察軍司令部の者達に筆舌に尽くしがたい屈辱感を与え、その空気を敏感に感じ取った司令部内の最過激派であるジャンボダン参謀長が腹いせの意味も込めて派手にオーディンを燃やす作戦を提案し、司令部全員が了承したからであった。

 

「とは言っても、流石にやりすぎじゃないかなぁ〜。君はどう思う?」

 

燃え盛る新無憂宮を宗教警察軍総旗艦の艦橋から見物しながら、濃灰色の将官服を着込んだ優雅な雰囲気の男は、まるで世間話をするように副官の男に問いかけた。

 

「帝国の遺産を燃やすのに、やりすぎるくらいがちょうどいいのではないでしょうか。ここから眺めるに、かつて帝国の象徴であった新無憂宮が、さぞ鮮やかに赤く燃えているのでしょうね。私には赤い輝きを楽しむことができませんが」

「まあ、そうだろうな」

 

宗教警察軍司令官の副官を務めるモーリッツ・フォン・ハーゼは、かつては優秀な若手帝国軍士官であったが、生来の色盲であり、帝国では劣悪遺伝子保持者として犯罪者扱いされて、収容所に送りになっていたところを地球教によって救出され、以来地球教のために忠節を尽くしてきた経歴の持ち主である。

 

「愚かなことだ。色盲などという当人に何ら責任のないことを罪とみなして犯罪者扱いなどと。人類は皆地球の子であり兄弟だというのに。

 

まあ、だからこそそんなバカな理屈を唱えて五〇〇年も悦に入っていた帝国は天罰を受けて滅んだのは当然だし、そんなちょっと考えればわかることすらわからん解放戦線とかいう輪にかけたバカどもが変に騒ぐから、その残滓である旧都すらこうして炎上するわけだ」

 

「大神オーディンも同じようにおっしゃるに違いありません、エンリコ・マクスウェル大主教猊下」

 

ハーゼの断言ぶりに、マクスウェルは愉快そうに口の端を歪めた。彼は地球教が運営していた孤児院で生まれ育ち、そこから地球教の聖職者としての道を歩んできたのだが、その人生で帝国のクソさ加減はよく理解していたし、帝国なんぞに郷愁を抱くゴミクズどもは何兆人だろうが死ぬべきだし、人類平和を願う梵祭の薪の代わりにしてやるのが慈悲というものだろうとごく自然に思っていた。

 

さながら天罰の代行者のごとき心情の司令官は、副官と和やかに談笑しながら、燃ゆる旧帝都を見下ろしていたが、第三者が艦橋に早足で入ってくるのを認めると、そちらに意識を払った。青白顔の将校は一度敬礼すると、口を開いた。

 

「マクスウェル司令官閣下。宗教警察総本部より連絡であります」

「総本部から?いったいなんだ?」

 

「今から二時間後に長官閣下がオーディンに着く予定なので、司令部要員を集めておけと」

 

「えらい急だなッ!?」

 

思わずそう叫んだ司令官だったが、すぐに冷静さを取り戻した。

 

「いや、ホンパン長官閣下はそういう御方だし、いつものことだった。オーベルシュタイン、申し訳ないがボダン参謀長以下、今も元気に現場でやってる司令部要員を連れ戻してきてくれ。私は私で長官歓迎の準備をしておくから」

 

「はっ」

 

宗教警察軍司令部所属パウル・フォン・オーベルシュタイン作戦主任参謀はいつも通りの鉄面皮で命令に服したが、マクスウェルの目には若干嫌そうな表情を浮かべているように感じられ、たぶんそれは間違いではないだろうと思った。

 

オーベルシュタインにとって、地球教はあくまで自身の復讐のために利用している相手のつもりであり、現在の立場にはいささかの不満があった。そもそも彼はとある事情から、ルドルフの作り出したゴールデンバウム朝銀河帝国を心の底から憎んでおり、これを滅ぼしたいと常々願い、できることなら自分自らの手で滅ぼしたいと思ってきたが、自らにはそれを実現する器量が欠けていると知り、ならば誰かに倒させようと考えてきたのである。

 

故に地球教の勢力が隠然と帝国のあらゆる公的機関に浸透してきているのを比較的早い段階で見抜き、その裏には巨大で綿密な計画があることを察した時、彼が地球教の仲間の側に属することに躊躇いはなかった。別に心から地球教の信者になろうとなど思ったことはないが、その理念は明確なまでに反ルドルフ的で、ゴールデンバウム朝を完膚なきまでに破壊する猛毒たり得ると確信し得たからである。

 

そうして地球教が語るところの『聖戦』の際には、大量に誕生した親地球レジスタンス組織の内のひとつを率いて活躍し、その時の冷酷無比で能率的な帝国要人の確保から処刑の手腕を評価されて、戦後は宗教警察のポストが与えられて、反地球教勢力狩りに従事してきた。

比で能率的な帝国要人の確保から処刑の手腕を評価されて、戦後は宗教警察のポストが与えられて、反地球教勢力狩りに従事してきた。

......もっとも、現在の地球教政権の振る舞いにもそれなり思うところはあるので、上層部にバレない程度には手を抜いており、ゴールデンバウム朝の残党勢力一一代表格はオリオン腕全臣民解放戦線――への弾圧くらいしか真剣に取り組んではいなかったが。

 

そんなオーベルシュタインであるが、つい最近までは宗教警察中堅幹部くらいの扱いに過ぎなかったのだが、なぜに新設された軍事部門において、作戦主任参謀などを任されることになったのかというと、今目の前にいる女性のせいである。

 

「ようこそおいでくださいました、ホンパン閣下! そして同時に謝罪を。オーディンを騒乱に陥れ、大量の人民を迷信への道に誘った主犯であるカール・ハンソン以下、数名の重要人物を取り逃がしてしまいました。処罰はいかようにでも」

 

「いいのよ、マクスウェル。むしろ初陣にしては上々の成果ではなくて。正直なところ、設立して一月程度の急造軍隊だから、解放戦線の艦隊に多少は苦戦するのじゃないかしらって心配してたのよ?それが蓋を開けてみれば鎧袖一触で半壊させて、その勢いのまま地上も焼き払ったなんて。ほんと、大したものよ」

 

「ありがたきお言葉!」

 

マクスウェルが平身低頭している闇のように黒い髪の毛とそれ故に目立つ紅き輝きを持つ双眼をが特徴的なこの妖艶な女性こそ、宗教警察長官ホンパン・スーである。現体制の全貌など、おそらくすべての頂点に君臨する総大主教でもなければ把握不可能な程度には謎に満ちているが、その中でも特に得体が知れない宗教警察の頂点に君臨するのが彼女であった。

 

彼女が最初に人類社会の表舞台に出たのは、まだ同盟が自由惑星同盟として名実ともに存在していた頃、地球愛党の主席としてである。

 

美しい容姿と演説上手なことから民衆人気を集めたが、そんなものはオマケみたいなもので、彼女の本領はオルガナイザーとしての才能であり、組織運営者としての才能である。

 

彼女は小さな政党に過ぎなかったはずの地球愛党を、毎年党員と支持者を乗倍でもさせているのかと言いたくなるような速さで党を拡大させていき、結党から一〇年で政権与党、そこから二年で地球愛党を同盟の指導政党にまで押し上げるという、空前絶後の大偉業を成し遂げた。

 

そしてそれだけにとどまらず、彼女は度重なる粛清も実施し、党と国家を崩壊させることなく地球教団にとって万事都合が良い方向へと自由惑星同盟を改編していき、現在の社会体制が成立する礎を築き上げた地球教にとっての英雄である。

 

『聖戦』後、地球愛党と地球教本部の一体化がはかられていく中で、党主席と最高評議会議長の座は総大主教へと譲ったが、代わりに副議長を与えられ、地球教大主教という聖職者としての位階も与えられて、教団枢機局の一員となるなどむしろ彼女の権威と権力は増大した。

 

数年前のド・ヴィリエが率いた世俗派の大粛清にも辣腕を振るったとされ、現在は地球教政権における堂々たるナンバー・ツーの地位にいると周囲からは見なされている。敵対者からはその容姿と実績からか【吸血鬼】などと蔑まれる一方で、これほどのことを成し遂げた政治手腕と組織運営者としての卓越ぶり、彼女に心酔する者も少なくないという、女傑といってさしつかえない人物なのである。

 

「もうオーディンには十分な懲罰を加えましたし、任務は完了したものとみなしてよいでしょう。次の一―」

 

「お待ちください!!」

 

突然上がった大声によって、話を遮られたにもかかわらず、ホンパンは微笑んでその声の主人を見た。

 

「なんですか、ボダン参謀長」

 

「まだオーディンにはゼネストなる反平和的行為に参加した邪教徒どもがうようよおる! なにせまだ一億程度しか殺しておらんのだ! この星で暮らしていた住民を皆殺しにしなければ、この星に溜まった邪念は浄化されぬ!!」

この星で暮らしていた住民を皆殺しにしなければ、この星に溜まった邪念は浄化されぬ!!」

 

「そうは言われても、律法局からあまり殺さないでほしいとクレームが入っていまして」

 

「この戦争の狂気が根絶されつつある平和の世にあっても、自発的に改宗しない愚者が説法なんぞで改宗するものか! 拷問によらぬ改宗など信じられぬ!!」

 

ボダンの絶叫に、ホンパンは苦笑した。律法局は地球教に対する反逆者を再教育するための施設——言葉を飾らなければ強制収容所の全てを監督する部局だ。異教徒は即座に殺せという極論に走りがちなボダンにとっては腹立たしいことこの上ない部局だろう。

 

だが、ボダンが律法局のことを嫌うのは、決してそれだけが理由ではなかった。

 

「第一、まだ二〇代の若造ごときが大主教、それも枢機局の一員たりえていることがおかしいのだ。いくら優秀で実績があるとはいえ、ド・ヴィリエの二の舞にならぬ保障が何処に――」

 

「ボダン参謀長、発言に気をつけなさい。それ以上続けると、宗教警察長官としてあなたを逮捕しなくてはなるわよ」

 

ボダンは慌てて口を閉ざした。現在の律法局の長は、総大主教が特に評価して抜擢した若手である。仕事ぶりではなく、人事そのものを否定するような発言をすれば、総大主教に対する誹謗と受け取られる可能性があった。

 

「ボダンのそれは無用な心配というものよ。仮にあなたが懸念するようなことが事実としても、ド・ヴィリエの時みたいに証拠を掴めば、私たち宗教警察が動かぬ理由がない。違って?」

 

「それは……たしかにそうですが……」

 

喘ぐような態度のボダンを、ホンパンは若干不憫に思ったのか、付け加えるように別のことを言った。

 

「ついでだし、あなたのもう一つの無用な心配も解いてあげましょう。地球教を、平和を愚弄するようなことをしたオーディンの連中を、私も許す気は無いわ。だからモズグス主教をこの管区の責任者と推薦し、了承も得てあるわ」

 

「おお! 【血の教典】を! それなら確かになにも憂う必要はありませんでしたな!」

 

ボダンは心の底から納得したように微笑んでいるのを見て、オーベルシュタインはなんとも合理的でえげつないと感じた。

 

モズグス主教は、立派な聖職者として名高い男ではある。真面目で信心深く、親切で公正で優しいという評判がある。が、それが向けられるのは地球教徒に限定されており、異教徒に対しては徹底的に残忍で、彼が改定した異端審問で死んだ人間の数たるや、数十万数百万単位であろうとすら言われる男である。

 

この業火の中で生き残ったオーディン市民は、厳格な基準で博愛精神と加虐精神を使い分ける統治者の下におかれるわけだ。となれば、生き残るためには是が非でも地球を祈るより他にない。それも演技とは思えぬほどに。演技だと見抜かれればモズグス主教率いる異端審問官たちによって凄惨な目にあうだろう。

 

「元より殺人という人間として許されざる大罪を犯した我ら、死後は地獄に堕ちることが決まっているとしても、人を殺す回数は少なければ少ないほどいいというのは疑いの余地がありませんからね」

ホンパンがしみじみとそう呟いた後、少し顔を綻ばせながら言った。

 

「話を戻しましょう。あなた達には、主にオリオン腕全臣民解放戦線の相手をしてもらうことになるでしょう。その方が、あなた達にとっても、やりがいがでるでしょう?」

 

「......お戯れを」

 

マクスウェルがそう言って頭を下げ、ボダンが「異教徒なら誰であろうが刑罰を下しに行きますぞ!」と元気よく言っているのを見聞きしながらオーベルシュタインは内心冷や汗をかいた。よもや、自分の本心も見抜かれているのだろうか?

 




他作品からのキャラがゲスト出演していますがまあ、その、暖かい目で見てやってください。

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