僕「キュアコーラルさん可愛すぎる」さんご「///」   作:HOTDOG

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Epilogue. 十数年後の話

 

「僕はね……伝説の戦士・プリキュアに……なりたかったんだ」

 

縁側に腰かけ、月夜を見上げる。

淡い月の光が、彼女の優しい笑顔に似ているからだろうか。

それとも、静寂な夜の萱と消え入りそうに鳴く虫の音が、その少し寂しい雰囲気が、あの日の屋上の光景と似ているからだろうか。

 

気付けば――僕は、遠い過去を思い出して、独白していた。

 

「父さんがプリキュア……?」

 

隣に腰かけてスイカを頬張っていた幼い息子が、怪訝そうな目を僕に向ける。

マジかと、目線で問い掛けていた。

僕も、マジだと、そう意志を込めて視線を返して頷いた。

 

沈黙する隣の息子に、内心で苦笑する。

ずっと昔の……でも大切な思い出が詰まった秘密で、別に、反応がほしいわけではなかった。

ただあまりにも今夜の月が綺麗で、神秘的で。

ただ感傷に浸りたいと、そう思った。

 

「……なりたかったって……今は、違うの?」

 

頭を捻って、取り敢えず疑問を出したような、そんな言葉。

無視してくれて良かったのに、律義に会話しようと頑張る息子を見て、思わず口元が上がった。

 

会話が続くと思っていなくて、回答は何も考えていなかったけど。

それでも、中学1年の時からずっと僕の心を占めていたことだ。

流れるように、僕の口はその問い掛けに言葉を返した。

 

「うん、子供の頃と違って、今の僕は父親で、自分一人の体じゃないからね。

 プリキュアになったら危ないこともあるだろうし……申し訳ないけど、家族が一番大事だから、怪我をするわけにはいかないんだ」

 

「ふぅん……」

 

僕の返事は至極当たり前の話で、息子も特に何を言うわけでなく、相槌をうって沈黙した。

 

(そう。諦めた……とは、違うけれど)

 

違うけれども。

それはいわゆる、期間限定というやつで。

 

「大人になって家族をもつと、プリキュアを目指すのが難しくなるんだ。

 ……こんなこと、もっと早く気付けばよかった」

 

『プリキュア』になるという約束を、きっと、果たせないとは思っていたけど。

それでも、その夢を追い続けることはずっとできると思っていた。

命を掛けるくらいに好きになれた彼女のことを、ずっと好きでいられると思っていた。

 

だから、プリキュアになれても、なれなくてもいい。

勇気をもって踏み出す一歩。

その心を、あの日から一時も忘れたことはなかったけれど。

 

(大人になって……他の、大好きになった女の子と結婚して、家族を持って……)

 

今の僕は本当に幸せで、後悔なんてどこにもない。

それは自信を持って、胸を張って言えることで、そこに嘘偽りは全くない。

 

……でも、僕はプリキュアにはなれなかった。

自分一人の夢を見るには、守るべき人、日常がたくさんできたから……純粋にプリキュアを目指そうとする心は、今はもう無くなってしまった。

 

もし、プリキュアを目指すのに期間があるとわかっていたら。

それを知っていたら、僕はもっと……もっと、彼女との約束を守ろうと必死になっていただろうか?

そうしたらプリキュアになれて、彼女と再会することができたのだろうか。

たまに、本当にたまに……そんなもしもの未来を考えてしまうことが、唯一の心残りだった。

 

「……ところでさ、父さんはなんでプリキュアになりたかったの?」

 

僕の薄暗い雰囲気を感じ取ったからだろうか。

まるで話題を変えるように、息子は質問をしてくる。

無意識かもしれないけど、人の心に敏い……そんな息子を嬉しく思い、微笑んだ。

 

「そうだなぁ……僕の好きな女の子が、プリキュアだったんだ」

 

「……は?」

 

「プリキュアになったら本当の名前を教えてくれるって……あと、僕がプリキュアになれば交際も考えてくれるって言ってくれてね」

 

「不純な動機すぎる……」

 

街の皆を守りたいとか、そういう格好良い理由だと思っていたのにと、息子が呆れたように呟いた。

それはまぁ、もっともな反応だろう。

だけど、それは彼女の可愛さを知らないからだと、少しばかりの優越感に浸って、息子の無知さに温かい視線を送った。

 

「……はぁ、しょうがないなぁ」

 

「なんで父さんがドヤ顔なの……」

 

困惑する息子を余所に、懐に手を入れ、取り出す。

中学生の時に、彼女から貰った大事な写真。

データはパソコンに入れているけど、現像して、消えない想いの証として、ずっと肌身離さず持っている1枚の写真。

 

「特別に、本当に特別に見せてあげるよ。

 僕の初恋で、ものすごく可愛いプリキュアの女の子」

 

「親の初恋とか興味なさすぎる……え、別にいいんだけど」

 

引き気味な息子に構わず、写真を見せた。

色褪せてしまったけれど、学校の屋上の、夕暮れに染まる景色の中で、とびっきり可愛い笑顔を見せてる彼女の――キュアコーラルさんの、自撮り写真。

 

人に見せびらかすようなものでは決してないけど、息子ならいいかなと言い訳して。

宝物を自慢するような、得意げな顔を今の僕はしているのだろう。

 

「……」

 

僕の初恋の人の写真をみた息子は、じっと、手元の写真を見つめている。

もしかして惚れてしまったのだろうか。

同じ血が流れているだけに、十分あり得る話だった。

 

 

 

 

 

「――いや、これ母さんじゃん」

 

「……は?」

 

恋に落ちてもキュアコーラルさんとは会えないし可哀そうだなと。

そんなことを考えていた僕に向けて、息子からのすごく突飛な、唐突な言葉。

 

「…………いやいや」

 

「え、これどう見ても、コスプレした母さんじゃん」

 

「…………え?」

 

息子が室内へと目を向け、僕の視線もそれを追う。

視線の先には、たくさんの家族写真に埋もれながら、僕とさんごさんの中学時代の写真も飾られていて。

 

「まさか父さん、気付いてなかったの? ずっと一緒にいたのに?」

 

「……ちょっと確認してくる」

 

「いつもの惚気話と変わらない件」

 

 

 

僕「キュアコーラルさん可愛すぎる」さんご「///」

Epilogue 十数年後の話

 

 

 

「さんごさん! さ、さんごさん!」

 

足がもつれるのに構わず、慌てて階段を駆け上がる。

2階の子供部屋の前で、寝間着姿の彼女を見つける。僕が大きく口を開く手前で、彼女が静かにと、口に人差し指を当てて僕に注意を促した。

 

「しー、大声出しちゃだめだよ、星郎くん。

 下の子の寝かしつけ、今終わったばかりだから……静かに、ね?」

 

「う、うん」

 

宥めるような優しい声色。

髪を下ろしているから昼間と雰囲気が違って、こっちのさんごさんもすごい可愛い。

まだ小さい娘もさんごさんにそっくりで、今後の成長が楽しみすぎて幸せ辛い。

 

「それで、そんなに慌ててどうしたの? もしかして、お義母さんになにかあった?」

 

「へ? いや、母さんは全然元気で……って違う。母さんとか仕事とか、そういう話じゃなくて――」

 

頭を振る。

一つ深呼吸をして息を整えてから、声の音量を絞って彼女へ再度問い掛けた。

 

「その、いきなりで脈絡ない話なんだけどさ?」

 

「うん?」

 

「……キュアコーラルさんの正体って、さんごさん?」

 

「? ……――――っっつ!!!!????」

 

なにこの反応。

 

「え……ほ、ほんとに?」

 

「え、な……っ!? ち、ちちちち違うよ? 私、キュアコーラルじゃ、な、ないよ?」

 

無茶苦茶に動揺しながら、全力で否定するさんごさん。

怪しすぎる。

怪しすぎるが、別段証拠があるわけでもないので、僕も特に追及することなく話を閉じる。

 

「あはは、そ、そうだよね。ごめんね、いきなり変なこと……昔の話、しちゃって」

 

「う、うん……でも、突然どうしたの?」

 

「いや、さっき息子にキュアコーラルさんの写真見せたらさ、これコスプレした母さんじゃん、って言ってさ」

 

「しゃ、写真見せたの!?」

 

「え、だ、駄目だった?」

 

「だ、駄目じゃないけど……うぅ、恥ずかしい……というか、まだ持ってたんだ///」

 

突拍子もない僕の発言の、その経緯を説明する。

キュアコーラルさんの激かわ自撮り写真を息子に見せただけなのに、なぜか、さんごさんはとても居た堪れないように落ち着きない様子。

……この噛み合ってない感覚は、中学生の時の恋愛相談を思い出す。懐かし可愛い。

 

と、昔の思い出に浸っている場合ではない。

さんごさんはこうして否定しているわけだし、やっぱり息子の見間違いの勘違いで決まりである。

僕は何を慌てていたのだろうと、今一連の行動を反省する。

あまりにも……あまりにも確信的に、さも当然という感じに息子が断定したものだから、僕も年甲斐もなく動揺してしまったのだろう。

 

「うん、まぁわかっていたけど、さんごさんがキュアコーラルさんなわけないもんね。

 ほんとごめんね、息子に煽られて変な質問しちゃって。あの子置いたまま飛び出してきちゃったし、僕は戻るよ」

 

「う、うん……あ、あのね、星郎くん……その、キュアコーラルの写真はあまりあの子には……」

 

「大丈夫。もう一度しっかり、じっくり見せて、ちゃんと違うって分かってもらうよ!」

 

「やめて///!?」

 

「え、でも、あの子すごい頑固だし、さんごさんとキュアコーラルさんの二人の写真をしっかり見せて証明しないと、納得しないと思うから」

 

「そ、それは……べ、別に勘違いしたままでもいいんじゃないかなぁ……なんて。あはは」

 

「……いや、それだと、僕が『初恋の人の正体に気付かないまま、実は初恋の人と結婚していて子供までいる』なんて頭おめでたい人になっちゃうわけで……」

 

「う、うぅ……」

 

息子には勘違いさせたままでいいと言うさんごさん。

でも、それでは僕がとてつもなく鈍感な父親だと思われてしまうし、要らぬ勘違いをさせたままというのも息子が可哀そうだった。

 

それは至極真っ当な意見と思ったけど、なぜだが、さんごさんは頷くことに戸惑っていて、

 

「うううう///」

 

まるで世紀の難問を問われているかのようなほど、困惑した表情で唸っている。

僕の方に恥ずかしそうに、恨めしそうな目線を送ってくるけど、さんごさんが何をそこまで思い悩んでいるのか、心当たりは全くなくて僕も戸惑う。

 

(えっと……息子に写真を見られるのが、そんなに恥ずかしいの? キュアコーラルさんの写真を?)

 

考えられるのは、万に一つもないと思っていた、たった一つの可能性。

まさかと思い、でもそれは、と否定する。

でも、まさか……

 

夫婦二人で廊下に立ち尽くしたまま、互いの表情、心を測るように次の言葉を紡げなくて。

やがて、さんごさんが意を決したように、僕の方へと寄り添ってきて――囁いた。

 

 

 

「――コーラル、だよ」

 

「え……?」

 

あの頃より僕たちは大人になって、記憶の中のキュアコーラルさんと、目の前のさんごさんの背格好は比べることはもうできないけど。

 

可愛くて、でも芯の通った、心にそっと響く、僕の大好きな声色と。

優しさの溢れる――僕の初恋の相手と全く同じ、綺麗な栗色の瞳に、僕の意識が釘付けになる。

 

さんごさんは、まるで僕に謝罪するように。

僕だけでなく、あの頃の――中学生の僕とさんごさん自身に、言葉を向けるように。

 

「キュアコーラルの正体は……私、なの……っ!」

 

「――」

 

「ろ、廊下で話すことじゃないよね。

 一階はあの子がいるし……寝室で話そっか、星郎くん」

 

叫ぼうとして、先程さんごさんに注意されたことを思い出して、押し留めて。

申し訳なさそうにするさんごさんの、その言葉を、ゆっくりと、僕の中に飲み込んで。

 

確かに、立ち話するような内容では決してないから、僕も混乱した頭のまま、彼女の言葉に頷いた。

困った顔で、でも少しだけ微笑んでいる彼女の表情に、僕も少しだけ安心して。

さんごさんに手を引かれて、一旦落ち着くためにも、静かに、寝室へと足を向けた。

 

 

 

「えっと、ね……星郎くん……」

 

「う、うん……」

 

二人でベッドに腰かけ、互いに頭の中を整理する。

何を喋ろうか、そもそも、相手に何て言葉を掛ければいいのか模索する。

 

「……」

 

「……」

 

ものすごく気まずい!!

尋常じゃない気まずさに、頭が真っ白になって彼女へ掛ける言葉が浮かばない。

 

さんごさんは優しくて、可愛くて、とっても素敵な女の子……女性で。

だからドキッとさせられることは多いけど、このような言葉の掛けにくい、見つからない雰囲気になることは少なかった。

 

こんな……こんなにも気まずい雰囲気はいつ以来だろうか。

まなつさんと仲良くなって、さんごさんと二人きりで会うよりも三人で会う機会が増えた時?

 

些細なことですれ違って喧嘩してしまった時?

 

さんごさんを好きになって、でもキュアコーラルさんへの想いも残っていて、告白する勇気とは違う――好きを伝える資格があるかわからなくて、さんごさんを待たせてしまった時?

 

ふとした時、さんごさんをキュアコーラルさんと間違えて呼んでしまった時?

 

僕とさんごさんの子供が可愛すぎて、アルバム作り過ぎたり玩具を買いすぎたりして、さんごさんから怒られた時?

 

……うん、思っていたより一杯あった。

 

――そうだ。

もう僕とさんごさんは、中学生の時のような、互いを知って仲良くなった、そんな時代は疾うに過ぎていて。

育ててくれた両親と同じくらい、一緒の時間を、二人で寄り添って歩いてきたから。

 

「……昔の僕なら、結構、動揺していたと思うけど」

 

「……星郎くん?」

 

「うん、その……確かに驚いたけど、普通に受け入れてるのも事実で……さんごさんの言葉は、いつもスッと、僕の中に入ってくるというか……」

 

「……」

 

「だからさ、えっと……何か微妙な雰囲気になっちゃったけど、僕は単純に『おぉ、二人は同一人物だったのか!?』って、そう、単純に驚いてるだけだから……」

 

慰めているわけでも、励ましているわけでもなく。

今の僕の感情を素直に表す。

当時はとても大きな問題だったかもしれないけど、今の僕たちにとっては、夫婦になるほどに長く過ごしてきた僕とさんごさんには、そんな、気まずくなるような話題じゃないと、そういう想いを伝えたくて。

 

「……うん、ありがとう」

 

「! うん」

 

僕のしどろもどろな言葉を、でもちゃんと受け取ってくれたさんごさん。

申し訳なさそうな表情は変わらないけど、少し肩の力が抜けたように、口元を緩ませて微笑んでくれた。

うん、やっぱり柔らかい笑みを浮かべる彼女が、僕も大好きだと改めて思った。

 

「……今まで黙ってて、ごめんね?」

 

少しの静寂の後、間をおいて、僕へと謝るさんごさん。

長年、秘密を抱え込んでいたことに罪悪感を覚えている様子で……でも、ようやく伝えられるような、そんな安心した表情も見て取れた。

 

「うん……ずっと言えなかったのは、えっと、何か理由があったから、とか?

 例えばそう……正体がばれたら、蛙の姿になっちゃうとか」

 

もちろん、それだと大変困るけど。

僕の冗談っぽい質問に、さんごさんは目を細めて静かに笑う。

 

「ふふ、そんなことないよ。

 あの頃は敵――後回しの魔女って言うんだけど、その人たちと戦っていたの。だから、不用意に正体をばらすのはよくなくて……それが理由かな」

 

「あぁ……確かに、キュアコーラルさんにも似たようなこと言われたと思う」

 

「くすっ、キュアコーラルは私だからね?」

 

「あ、あぁ、そうか」

 

僕の頭の中ではまだ、さんごさんとキュアコーラルさんが一致していなくて。

その様子を見たさんごさんは、少し可笑しそうに口元を隠した。可愛い。

 

秘密の理由は、特に疑うでもなく納得できる内容で。

でも、と、頭の中で引っ掛かる感じ。

プリキュアさんたちはずっと敵と戦っていたわけではなく、僕らが二年生になって以降、街中に怪物は一切現れなくなった。

 

「さんごさんがキュアコーラルさんに変身して戦っていたのって、いつ頃なの?

 その……後回しの魔女? って敵を倒したのは、結構昔の話なんだよね」

 

「へ? う、うん、プリキュアになっていたのは中学一年生の時で……二年生になる前に戦いは無事に終わったから、それ以降は変身してない、かな?」

 

二年生になってからは1回だけ別の敵と戦ったけどと、さんごさんはそう付け足す。

 

「……ちなみに、高校生になっても、やっぱり秘密にしなきゃいけない感じだったの?

 その、別に隠していたのを責めてるわけじゃなくて、ちょっとした疑問だけど」

 

「うぅ……そ、それは……」

 

「それは……?」

 

「…………な、なんか今更言うのが、恥ずかしくて……あと怖くて」

 

「怖い?」

 

瞳を揺らして、さんごさんは不安そうに言葉を紡ぐ。

恥ずかしいと彼女が思うことは、僕も容易に理解はできる。

あの頃の僕はキュアコーラルさん大好きと、わんこのような条件反射で口にしていた……気がするし。

だから、キュアコーラルは私だよと、さんごさんがそう僕に言うのは、確かに恥ずかしいものがあると思う。一番恥ずかしいのは僕じゃないかとは思うけど。

 

「……その、だって、私はずっと、星郎くんを騙していたわけだから。

 手玉に取っているとか、魔性の女とか、そう思われて嫌われちゃうのが……とっても、怖かったから」

 

「ぼ、僕がさんごさんを嫌いになるわけ、ないと思うけど。

 相談に乗ってくれて、叱ってくれて、協力してくれて、慰めたり励ましたり。そうして大事なことを色々教えてくれた、大事な女の子なんだから」

 

「/// で、でも……客観的にみると、全部、自作自演だなぁって、思っちゃったり……」

 

目を泳がせて、髪をクルクルと指に絡ませるさんごさん。

この仕草は、割と彼女が恥ずかしい、動揺している時にする仕草で。

 

(自作自演?)

 

言われて、あの時のキュアコーラルさんを涼村さんに置き換えて、僕とさんごさんの関係を振り返る。

 

さんごさんに一目惚れをして、さんごさんに恋愛相談をした僕。

 

さんごさんに会えない辛さをさんごさんに相談したら、さんごさんの自撮り写真を貰って。

 

さんごさんを庇って、さんごさんに怒られて、でも、命を掛ける程にさんごさんを好きになれてよかったと、さんごさんに心の内を明かした。

 

さんごさんとお出掛けして、さんごさんのプレゼントをさんごさんと選んで買って、さんごさんが夏海さんやクラスの皆より好きだと自覚して、さんごさんに告白した。

 

さんごさんに振られて、さんごさんとまたいつかの約束をして、さんごさんに慰めて貰って、さんごさんと友達になった……。

 

「……これは酷い(白目)」

 

「ご、ごめんね! 本当、ごめんね!」

 

「い、いや、これはさんごさんが悪いわけじゃなくて……むしろ、気付かなかった僕が悪かったと思う」

 

自分の中学一年の時の記憶を思い返して、あの頃の僕に絶句した。

今更だけど、さんごさんとキュアコーラルさんは非常によく似ている。

瞳の色も、声色も、背丈も仕草も、双子と思えるくらい同じで、実際は双子どころか同一人物だったわけだけども。

 

古い記憶を思い返せば、所々で、さんごさんがヒント……というか、割と雑な隠し方だと思うところはあったのだ。

特に、僕が振られた翌日。

もう一度キュアコーラルさんと会えてお話をできて嬉しかったが、よくよく考えれば彼女からのレスポンスが早過ぎである。

夏海さんやクラスメイトの話もしていたし、気付こうよ過去の僕……と、自身の節穴に驚きを隠せなかった。恋は盲目との言い訳が通じるかは微妙と思う。

 

「…………星郎くん、幻滅した?」

 

「え?」

 

だから、だろう。

そんな風に僕がずっとキュアコーラルさんの正体に気付かなかったから、さんごさんに今、こんなにも不安な表情をさせてしまっているのだろう。

 

(幻滅なんて、するわけない)

 

それは、さんごさんも分かっていて。

でも、それを尋ねずにはいられない程、彼女の心には罪悪感が、不安が、償いの気持ちがあるのだろう。

 

だから、ただ「幻滅してないよ」と否定するだけじゃ駄目で。

さんごさんの心に届くように、僕自身の心の奥の言葉を、気持ちを、ちゃんと正直に伝えないといけないと、そう思った。

 

「……ちょっと待ってて、さんごさん。

 伝えたい気持ち、ちゃんと整理するから。……あ、でも先に言うけど、幻滅なんか全然、ほんと全くしてないから!」

 

「うん……ありがと」

 

心の声を伝わるような言葉に変えるには、少し時間が掛かると思って。

さんごさんに一言掛けて、考えをまとめる時間を貰う。

聞いた彼女は少し微笑んで――あの日の相談と同じように、僕が言葉にできるのを、そっと隣で待ってくれる。

 

そんな変わらない彼女の姿に、僕も嬉しく思いながら、自分の心に向き合っていく。

 

キュアコーラルさんの正体が、さんごさんだったこと。

さんごさんが僕に、ずっとプリキュアであることを秘密にしていたこと。

 

(僕は、さんごさんに秘密を明かしてほしかった……?)

 

疑問。

確かにキュアコーラルさんをずっと好きで、追い続けて、彼女との約束は常に心の中にあったけど。

 

秘密を教えてほしかったという感情は、ある。

でも、秘密を明かしていたら僕とさんごさんの関係はどうなっていただろう。

――正確には、僕がさんごさんに向ける感情は、どうなっていたのだろうと、そう考えて、

 

「……」

 

「……」

 

IFの話というのは、あまり意味がないことだけれど。

あの時もっと頑張っていればとか、それを知っていれば良かったのにとか、暗い感情に浸ってしまう話は、あまり好きではないけれど。

 

でも希望になる、そういうもしもの話もあって。

一つ頷いて、僕はゆっくりと口を開いた。

 

「……正体さ、僕は知らなくて良かったと……うん、さんごさんが秘密にしてくれて良かったと、そう思った」

 

「……どうして? 星郎くん、ずっと私……じゃなくて、キュ、キュアコーラルのこと好きで、その……あの時の約束を守ろうとずっと頑張っていたの、知ってるよ」

 

「そうだけど……」

 

さんごさんは、ずっと隣で、僕を見ていてくれたから。

だから、僕の言葉が彼女への慰めと、そう思ってしまうのだろう。いつもよりほんの少し声が震えていて、拭えない罪悪感が伝わってくる。

 

そんな彼女の不安や誤解を少しでも和らげるように、精一杯の――さんごさんに比べたら全然だけど、僕なりに精一杯、優しさを込めた声で言葉を紡ぐ。

 

「僕はさ……知ってると思うけど、心とか気持ちとか、あまり融通が利かないっていうか……割り切るのが下手というか……不器用だと、思うんだ」

 

「……好きの、話?」

 

「うん、他にも色々と不器用なところはあるけど、一番頑固なのは、そこだと思う」

 

さんごさんに話した、かつての話を思い出す。

さんごさんが教えてくれた、自分の好きに正直になることの、大切さ。

 

「あの頃の僕は人を好きになるのが怖かった。でも、さんごさんに相談を聞いてもらって、人を好きになる気持ちと向き合いたいとそう思った。

 誰かを好きになるのなら、命を掛けるくらいに好きになりたい。そんな強い想いなら、僕も自分の好きを信じられるって。

 ……極端な価値観と思うけど、それはやっぱり変わってないし、変えられないと、そう思ってる」

 

「……今も?」

 

「え?」

 

「……今も、そう想ってる?」

 

「! も、もちろん! 死んでも――いや、さんごさんと子供たちを残して死ぬ気はないけど……さんごさんが大好きで、その、危なくなったら絶対に僕が盾になって守るから!」

 

「あ、危ないことは星郎くんにもしてほしくないけど……うん、気持ちは嬉しいよ」

 

「///」

 

「///」

 

改めて僕の強い想いを告白して、この甘酸っぱい雰囲気に互いにはにかみ俯いた。

 

……いや、頬を染めてなにをやっているんだろうか、僕たちは。

話が脱線したのはともかく、二人でお見合いしている場合じゃない。

こんな調子だから、息子に惚気話が多いと愚痴を言われてしまうのだ。

 

何度目かもわからない告白に、未だ慣れないのか、恥ずかしそうに顔を隠すさんごさん。究極可愛い。

そんな姿に僕も、中学生の時と変わらず心臓をドキドキと鳴らしてしまう。

ちょっと良い雰囲気になってきて、ここは寝室で、緊張しながらも思わず彼女の肩に手を伸ばそうとして――が、今はとても大事な話し合いと思い出し、抑える。

 

無意識の行動に恥ずかしさが込みあげて、咳払いして誤魔化した。

 

「こ、コホン……えっと、つまり……僕はとっても不器用だから。

 だから、キュアコーラルさんの正体がさんごさんと知ってしまったら……今のように、さんごさんを好きになれなかったと思うから」

 

「え? ほ、星郎くん……その、す、好きになってくれなかったの?」

 

「あ、ち、違う! ごめんね、紛らわしい言い方で!

 その、どっちも大好きだよ!? 正体知ってても、知らなくても、さんごさんのこと大好きになるのは絶対に変わらないから!」

 

「///」

 

「///」

 

……いや、だから何をやっているんだ、僕たちは。話が全く進まない。

頭を振って、恥ずかしさを押し込めて、少し口早になりつつも続きを話す。

 

「今のように、っていうのは……ちゃんと、さんごさんを一人の女の子として好きになったってことで。

 ……もしキュアコーラルさんを大好きなまま正体を知っていたら……今と、好きの形が違っていたと思うんだ」

 

「好きの形?」

 

「うん……もちろん、さんごさんのことを好きになるのは違わないけど……好きの切っ掛けが、全然、変わってしまうから」

 

そう。

僕がさんごさんに惹かれて好きになるのは、きっと、どの未来でも変わらない。

でも――秘密を知るのと知らないのでは、彼女に惹かれる理由がまるで違ってしまう。

 

大好きなキュアコーラルさんの正体がさんごさんと知り、彼女を好きになるのか。

正体を知らないまま、さんごさんと友達になり、一緒に過ごしていく中で惹かれて好きになるのか。

結果は同じでも、始まりが違くて。

それが僕にとってはすごい大きな、好きの違いに思えてしまう。

 

「だから……僕が不器用だからこそ、正体を知らなくてよかった。

 正体を知ったらきっと、心のどこかでキュアコーラルさんだから君を好きになったと、そう想う気持ちが拭えないと、思うから」

 

「……うん、ありがとう。

 ……そう言ってくれて……秘密にしていたこと、少し、軽くなったと思えたかも」

 

僕の気持ちを知って、さんごさんは安心したように一つ息をついて微笑んだ。

トンと、さんごさんが僕に寄り掛かり、体を預ける。

薄着だから彼女の体温が、いつもよりも感じられて。

僕の半身にゆっくり伝わってくるぬくもりに、幸せを感じながら何を喋るでもなく、ゆっくり流れる時間に身を任せた。

 

「……」

 

「……。……えい///」

 

「わわっ! さ、さんごさん///!?」

 

可愛い掛け声とともに、胸元を押されて二人してベッドに倒れ込む。

覆いかぶさるように、僕の胸元に顔を埋めるさんごさん。幸せくすぐったい。

 

さんごさんからのスキンシップに鼓動を早めて戸惑うと同時に、まだ、彼女の中に残っている不安や罪悪感を垣間見る。

僕は良かったと言っているけど、さんごさんにとっては、その一言でこれまで隠してきた事実を無しにするというのは難しいのだろう。

プリキュアであることを秘密にしていたことは、さんごさんの中では、僕以上に重く感じてしまっているのだと、彼女の様子をみて感じ取る。

 

心細い時、誰かに傍にいてほしい。

ぎゅっと抱いて、抱きしめて――それだけで、人の心は明るく、元気になれる。

人がふれあうことの大切さや尊さを、今の僕はちゃんとわかっているから。

彼女の心に寄り添うように、肩に手を回して、彼女の綺麗な藍い髪をそっと梳くう。

 

「……気にしないで、とは簡単には言えないけど、さ。

 今日のことも、これから過ごしていくうちに段々と思い出になっていくし、さ……」

 

「……」

 

「さんごさんといると、毎日が本当に楽しくて、素敵なことが一杯で……もちろん、たまには辛いこともあるけど……勿体ないくらい、あっという間に、毎日が過ぎて行くから」

 

腕の中の彼女に、愛おしさを感じながら言葉を紡ぐ。

昔は中々、気持ちを言葉にするのに苦労して、さんごさんに迷惑掛けていたなと、遠い過去を想って苦笑する。

 

「一年後には、きっと笑い話になってると、そう思う。

 僕がずっと気付かなかったのを、さんごさんが思い出したように笑って、子供たちも聞いて笑って、僕も、多分恥ずかしそうに笑ってる。

 そう思うから……うん、僕は今、すっごく幸せで。さんごさんも、少しでもそう思ってくれると、嬉しいな」

 

「……星郎くん、ちょっと、間違ってる」

 

「え?」

 

彼女を安心させるように掛けた言葉の筈が、思わぬ否定の返事がきて、驚きながら、腕の中の彼女を見た。

予想外の言葉を返したさんごさん。腕にすっぽりと抱えているため、近くで、ばっちりと目線が合う

でも、その表情に悲しみや困惑はなくて、いつも通りの彼女の柔らかい笑みに戻っていて。

一先ずほっとすると同時に、彼女の真意に首を傾げる。

 

途端、ぎゅっと身体全てを、さんごさんは僕に預ける。

彼女の柔らかい肢体の感触がダイレクトに伝わり、そのぬくもりと気持ちよさに、思わず身体が反応する。

 

「――つっ!」

 

「……今は二人きりだから……さんご、だよ?」

 

「あ、え、えっと……まだ息子がほら、起きてるから、二人きりじゃないというか……///」

 

「むぅぅ……星郎くんのいじわる」

 

「うぅ///」

 

ずっと昔に決めた呼び方を、さんごさんは声を甘くして、じーっと睨んで不満を言う。

名前に、さん付けは距離を感じるからと。

三文字で呼ばれるのが嬉しいと、そう言う彼女は究極可愛かったし、可愛いのだけれど。

 

「その、僕の性格的に難しくて……それはやっぱり……いつも通り、二人きりの時に、さ」

 

「……むぅぅ」

 

二人きり(意味深)。

 

目の前のさんごさんはちょっと甘えたい感じが入っていて、その姿が骨抜きにされるほど可愛くて。

話もいい感じにまとまったし、今から二人きりモードに入ってもいいのではと、そう考えてしまうけれど。

 

(……少し無理してるの、わかるから……今は我慢!)

 

さんごさんなりに、元気が出たことを表したかったのだろう。

夫婦らしい会話で、調子が戻ったことを表したかったと、彼女の気持ちは伝わってきた。

 

(……というか、多分、さんごさんは本当に“甘えるだけ”しか考えてなくて……)

 

まだ娘も寝たばかりで、息子も起きていて、あと片付けや明日の支度も色々あって。

だから、さんごさんの中では、このやり取りは本当にただのスキンシップで。

ただ夫婦でスリスリ、ゴロゴロと、そんな時間を楽しみたかったのだろうけど。

 

(二人きりのスイッチが入ったら、僕が我慢できる自信が全くない……!)

 

甘えてくるさんごさんは、世界一、宇宙一可愛いから。

子猫のようにスリスリしたり、無防備に身体を預けてきたり、寂しそうに足を絡めたりと、そういった無自覚な仕草がすっごくあざと可愛いから。

 

「むぅ……」

 

「……///」

 

「ふふ……///」

 

「……///」

 

理性が保つ範囲で、さんごさんの抱えた不安を拭えるよう、ぎこちないスキンシップを取りながら。

愛おしそうに身体を触られる度に、僕も愛おしさを込めて、彼女の髪や耳をそっと撫でる。

 

 

 

「――ねぇ、星郎くん」

 

そんな軽い、甘いスキンシップを繰り返す最中、さんごさんの静かな問い掛け。

 

「キュアコーラルのこと、まだ、大好き?」

 

「……」

 

「あ、別に深い意味はなくてね……。

 ただ、星郎くんに抱き着いてたら、なんとなく……うん、今の気持ちを聞きたいなぁって、そう思って」

 

言われて、掛ける言葉に、僕は迷った。

腕の中の彼女へ顔を向けると――綺麗な栗色の瞳が、じっと、僕を映していた。

意地悪とか、好奇心とか、不安とか、そういう色は全く、さんごさんの瞳からは感じなくて。

 

(昔の僕たちと、今の僕たちを、見ている感じ……)

 

答えのない問い掛けなのだろうと、そう思った。

まるで中学生の、あの頃に戻ったような、そんな雰囲気のお話だったから……昔の僕の気持ちと、今の僕の気持ちを彼女は聞きたくなったのだろうと、そう思った。

 

「……ずっと、大好きだよ」

 

「……」

 

「もうずっと会っていなくて、僕も家族を持って、キュアコーラルさんよりも大切に想える人ができたから昔のような……隣に立って歩きたいと、そう思う好きとは違うけど……」

 

あの日の言葉と、あの日の光景を思い出す。

記憶の中の風景は遠い年月で色褪せて、彼女以外はもう、セピア色になってしまったけれど。

 

「……ずっと、胸の中には『約束』があるから。

 困難で辛いことがあっても、僕は勇気をもって踏み出して――その度に、キュアコーラルさんへの想いを、ちゃんと思い出せるから」

 

だから、好きの形は違うけれど、今も彼女のことを大好きに想っていると――そう、さんごさんに偽りのない気持ちを伝えた。

 

言って、少なくない羞恥心が込み上げてくる。

さんごさんはキュアコーラルさんだから、今の言葉は本人に向けて言っているわけで、そう気付くと途端に彼女の顔を見れなくなった。

 

さんごさんのことは大好きだけど、真正面から言うのはやっぱり相当恥ずかしくて。

でも、言葉を取り消そうとは思わない。

彼女に伝わってほしいと、そう想う気持ちに嘘はないから。

 

「――――……………………ふぅん」

 

「……え、なんで拗ねてるの、さんごさん?」

 

「星郎くん、やっぱり、まだキュアコーラルのことすっごい大好きなんだね」

 

「……え、いや、同一人物だよね?」

 

でも、まだまだ夫婦としては過ごした時間が短いのだろう。

予想外に口を尖らせて不満顔を作るさんごさんに、僕は思わずうろたえる。

 

キュアコーラルさんの正体は、さんごさんで。

だけど、そう言葉にした僕に、君は微笑みながら首を振る。

 

「多分、違うと思う。

 星郎くんの中では……ずっと正体を話してなかったから、やっぱり、私とキュアコーラルはもう別人って感じがしてる」

 

「……そ、そう?」

 

「うん、話し方とか見てると、ね。

 ……はぁ、妬けるなぁ……キュアコーラル、すっごい星郎くんに想われてて、私だと敵わないかもしれないなぁ……」

 

「えぇ!? そ、そんなことないよ! えっと……」

 

さんごさんのそれが冗談なのか、本気なのか。

いつもなら彼女の表情を見れば、心や気持ちがわかるのだけれど。

さんごさんは僕の胸で顔を隠すように伏せているから、どんな顔をしているのかわからなくて。

腕の中の彼女の身体は少し震えていて、それが一層、僕の心を慌てさせる。

 

「キュアコーラルさんの大好きと、さんごさんの大好きは違くて……。

 えっと、さんごさんのことは……すごく、未だにドキドキする好きで、でも顔を見るだけで安らげて、明日も頑張るぞって気持ちにもなる好きで……」

 

「……」

 

「キュアコラールさんも大好きで、それは確かに変わらないけど……。

 でも、そう! 学生の頃に大好きになったキュアコーラルさんは、やっぱり、大好きも当時の感覚で……。さんごさんの大好きは、これからも一緒に過ごしていく、周りの人も含めた、大きな……とても大きな、大好きって感じで」

 

「……」

 

まるで中学生の時に戻ったみたいに、言葉が上手く出せなくて。

大人になっても素の部分は中々変えられないと不甲斐なく思いながら、でも、さんごさんに伝えたい気持ちはちゃんとあって。

 

こんな僕でも、人を大好きになれたことが、嬉しかったから。

――さんごさんが大大大大大好きということは、本当の本当に本当だと、ちゃんと伝えたかったから

 

「あ、愛してる! うん、愛しさとか愛してるとか、そういう大好きで――!」

 

「――ん」

 

唇が重なって、続く言葉が遮られた。

控え目なのに、大胆で。

そんな君が可愛くて、愛おしくて――そんなことしか考えられなくなる、長くはないけど短くもない、互いに息を止めてる、そんな時間。

 

「……知ってる」

 

ようやく、名残り惜しそうな表情で、さんごさんはほんの少し身体を下げて。

少し上がった息が色っぽくて、可愛くて、もう何百回もその表情に見とれているけど、きっとずっと、慣れることなんかないと思う。

 

彼女の質問と、僕の答え。

さんごさんが結局どう思ったのか、その心の内はまだわからなかったけど。

 

「……ふふ、ごめんね。でも星郎くん、慌てすぎで……くすっ」

 

今の僕と、あと何かを思い出したように、さんごさんは可笑しそうに身体を震わせる。

その優しい笑い声にほっとする反面、あまりにも好き好き言う僕の姿がきっと可笑しかったのだと……まぁ、後悔はないけど恥ずかしくて赤くなる。

 

格好悪いと、そう思ってばつの悪い顔をしている僕を見たさんごさんは――

 

「――ん」

 

「!?」

 

もう一度、啄むように唇を重ねる。

僕に覆いかぶさったまま、瞳を揺らす姿に、心臓が高鳴る。

僕の言葉は支離滅裂で、とても格好良く決められたものではなかったけど――でも、きっと、さんごさんにとっては違うのだろう。

 

綺麗で優しい、僕の大好きな栗色の瞳で、僕を愛おしそうに見下ろしながら。

もう一度、君はゆっくり顔を近づけて――頬を合わせながら、嬉しそうに囁いた。

 

 

「……星郎くんの気持ちは、もう知ってるよ。

 毎日、何回も言ってくれてるから……ふふ、十分過ぎるくらい、知ってるんだ」

 

そうして、君は幸せそうに、ぎゅっと身体を預けてきた。

 

 

 

――Fin

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そういえば、一つ聞きたいことがあるんだけど」

 

「ん?」

 

さんごさんの秘密を知って、互いの心の寄り添わせて。

またもう一つ、夫婦として絆が強くなったと、そう思えた。

 

だから、他愛もない風に、世間話の体を努めながら、さんごさんへと問い掛ける。

 

「さんごさんが大好きで、全然、未練とかそういうのじゃないんだけど……。

 ……えっと、さんごさん、まだキュアコーラルさんに変身出来たり、するの?」

 

「……………………ふぅぅん」

 

「いやほんと! ただの興味本位というか! ほら、さっき、さんごさんが僕の今の気持ちを聞いた風に、僕もちょっとした疑問というか――!」

 

ものすごいジト目をされたので、慌てて、必死に弁解する僕。

でも、これは本当に気になっていて、聞かずにはいられなかった。

別に変身した姿がみたいとか、そういうわけではない筈で――いや、実は結構見たいけど、それは今は置いておいて。

 

「……ふぅん……浮気?」

 

「ち、違うよ!? そんなこと絶対、絶対ないから!」

 

「……私のこと、飽きちゃった?」

 

「ち、違うよ!? 年中ドキドキしてるよ! また日曜もデートしたいよ!」

 

「こ、声大きいよ、星郎くん/// ……ごめんね、ちょっと意地悪、言っちゃったね」

 

「デートは?」

 

「あ、うん……短い時間だけど、お母さんに子供たち見てもらえるか聞いてみるね///」

 

「う、うん!///」

 

振ってわいたデートの約束に、思わずガッツボーズする僕。

さんごさんも僕の喜びように苦笑しながら、頬をほんのり染めていた。可愛い。

一呼吸おいて、さんごさんは口元を隠して、悩んでいるのか、ちょっと難しそうな顔をして、

 

「……変身は……多分、できると思う」

 

「ほ、ほんと!? さんごさん、今もキュアコーラルさんになれるの!?」

 

「う、うん/// トロピカルパクト……変身のアイテムなんだけど、まだ皆、持ってて……私も、引き出しにしまってあるから……」

 

そういう彼女は、でも何かを迷っているように、歯切れが悪い回答をする。

 

「……衣装、絶対似合わないと思うから、変身するのは、その……」

 

「に、似合う! 絶対似合うよ! というか、今の方がもっともっと可愛いよ!」

 

「え、えぇ……それ、星郎くんが見たくて、褒めてるだけじゃないかなぁ……」

 

「うぐぅ! そ、それは……見たくないと言ったら、嘘になるけど……!」

 

目の前のさんごさんが、キュアコーラルさんに変身した姿を想像する。

絶対、究極可愛いと確信している僕がいる。

でも、僕がキュアコーラルさんの姿を求めることが、さんごさんの不安になるかもしれなくて、それは僕も絶対に嫌だから。

 

「……そ、そうだね。敵がいるわけじゃないのに、変身するのも、よく考えればおかしいよね。ご、ごめん、変なこと言って」

 

「……」

 

僕にとって、一番大事で大好きなのは、今はもう目の前の君だから。

だから、彼女の気分を暗くさせるような、悩ませるような、そんなことはしたくない。

好奇心から不用意な発言をしてしまったことを反省して、君が気にしないよう軽い感じに謝って、今の話を終わらせる。

 

「――――……そういうところ、やっぱり、ズルいなぁ」

 

「え?」

 

さんごさんは、くすりと静かに微笑で。

キラキラした栗色の瞳で、僕の視線を絡めとって。

 

困ったように、両手で口元を隠しながら。

恥ずかしそうに、頬を可愛く染めながら。

ふわりと抱き着いて、耳元でそっと囁いた。

 

「――――子供たちが寝静まったら、ね?」

 

「――っ///」

 

蕩けるような、少し幼さの残った、甘い声で誘う君に、どうしようもないほどの愛おしさが溢れてくる。

 

可愛いくて、天然あざと可愛くて、まるで天使のような可愛さで。

 

ほんとうに。

ほんとうに、とっても、当たり前のことだけど、口に出さずにはいられなかった。

 

 

「キュアコーラルさん――いや、さんごさんが可愛すぎる」

 

「///」

 

 

 

おしまい

 

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