赤の団の拠点作りは、順調に進みます。
木を切り倒して、それを薪にしたり家にしたり。
土地を耕し、種を植える。
成果が出るのはしばらく先ですね。
サナラが地脈の力を操って、土を活性化させます!とか言っていたので、案外すぐかもしれませんが。
一週間もあれば、そこそこ見れる拠点になり。
魔物も今の赤の団なら、余程大規模でなければ、団長抜きで撃退できます。
軌道に乗ったというのは、まだ早いですね。
さて、今団長は。というより。団長と私、アトナテスの三人は、中央の強国の首都にいました。
正規軍の話を正式に断りを入れることと、赤の団で拠点を作ったということを、中央の強国の王に告げる見たいです。
中央の強国とは、常に仲良くしてはいたいですが、そうあり続けるとは限りません。
拠点の位置を知らせるのは、何かと不都合が起きるのでは。と、意見は出しておきましたが。
団長としては、これだけは、やっておかないといけない礼儀だそうです。
そして、普段ならば、団長が一人で向かう所ですが。強国の王直々に、私とアトナテスに会ってみたいと言われたらしく。
今回は、三人で強国の王に謁見することになりました。
玉座に入った直後に思ったのは、豪華絢爛でありながら、どこか歴史を感じさせる。
と思ったのが、私と団長が執務してる部屋が、立ててまだ一月も立たず、必要な物以外置いてないので、殺風景過ぎたからでしょうね。
玉座に座る。初めて見た強国の王の見た目から抱いた印象は、優し気なお爺ちゃんでしょうか。
ただ、目は団長と似て、何か決意を秘めているかのようなものに見えました。
この人が、赤の団の支援者。
無謀にも、殴り込みをかけた団長の力を認め。その信念を受け入れ、そして支援した王。
ただ者ではないでしょうね。団長が懇意にしてる唯一の国の王様なんですから。
「久しぶりです。強国の王よ」
背を伸ばし、スッと腰を曲げて、左手を胸に当て、団長はお辞儀をします。
ただそれだけの動作ですが、とてもスムーズで様になっています。
私とアトナテスもややぎこちなくですが、アトナテスは団長と同じく。
私はスカートの裾を掴んで、片足を後ろにしてから膝を曲げてお辞儀をしました。
よ、よし。これであとは石像のように固ま。
「そなたが、赤の団の占星術師ソラスと、魔竜騎士アトナテスか」
王様に話しかけられ、私は固まりそうでしたが。
話しかけられることは事前に、団長から聞いていましたので。
「は、はい!」
返事は出来ましたが、声が完全に上ずっています。
うぅ恥ずかしいです。
アトナテスは、あぁ。と、無作法ですが胆力はあるので、私と違って緊張はしていないみたいです。
「ふむ。団長が日頃から、そなたらには特に支えて貰っていると聞いていてな。ぜひ一度会ってみたいと思っていたのだ」
にっこり微笑みながら、嬉しそうに話す王様の声音に、恥ずかしくてちょっと顔を俯かせてしまいます。
アトナテスも、さりげなくそうして。あらあら耳が少し赤いですね。
そうですか、団長が私達を。
日頃団長には、感謝の言葉を聞いていましたが、第三者からこういったことを聞けると。
むふふ、何とも心地のよいむず痒さがありますね。
「なるほど。可愛らしいお嬢さんに、頼もしい騎士だ。団長は良き仲間に巡り会えたようで、余は嬉しく思う」
「あげませんよ。王よ」
「あぁ、分かっておる。だが団長ら、赤の団の活躍を聞くと、この老骨の血が滾り。余にもまだ出来ることがあると思えてくる」
「出来ますよ。貴方ほどの王なら、今からでも」
「はっはっ。団長は英雄と呼ばれ始めているが。出会った頃から、謙遜を止めぬな」
「恐縮です」
王の言葉に、団長は笑みを浮かべました。
なんだ、思ったよりも格式張ることはなく、親し気じゃありませんか。
時折、団長は大胆な言葉遣いで王と会話をしていますが。周囲にいる家臣達も特に咎めることなく。寧ろ、朗らかに。時折団長と王の言葉に混じったりしています。
礼を尽くせば、相手も礼で返してくれる。親しもうとしたら、親しみで返してくれる。
そう思ったら、途端に緊張感が抜けていきます。
「ソラスとアトナテス。そなた達も余に話を聞かせてはくれんか?」
王の誘いに、私とアトナテスも、すらすらと話すことが出来ました。
王は私とアトナテスの会話を、よく聞いてくれて、よく反応してくれます。
そうしていると、あぁこの人はいい人だ。そんな直感が私に告げます。
団長が、懇意にするはずです。身分関係なく仲良くしたくなる。王はそんな人柄でした。
そして、多少の世間話を終えて、話は本題になりました。
赤の団が拠点を持つという話です。
「赤の団が拠点を持ち。そこからこれまでのように、各国各地域に赴き、魔物を討伐。現地の人々が求めるならば、赤の団の拠点に受け入れる所存です」
「ふむ。して、それはいつまで続くのだ?」
「物質界に蔓延る魔物が消え、世界に平和が訪れた時まで」
「ほう、だが魔物は神出鬼没。団長には魔物の出現そのものを、止める手立てはあるのか」
「あります」
えっ。と内心驚きを隠せませんでした。
魔物がいる。魔物がどんな存在で、どんな種類がいる。そういった事は知っていますが。
何故魔物が大量に出現するようになったか。という事に関しては、分っていないはずですが。
団長はそれを、止める手段を考えていたようです。
さすがですとは思いますが、こういった大切な話はもっと早くしてほしいですね。
言われたところで、私に何ができるかは分かりませんが。
「私には数年前より始まった。魔物の増加と、物質界の侵略を、ある者の仕業だと確信しています」
「それは誰か」
「……魔を統べる者、魔の頂点に立つ者。即ち『魔王』。かの者を討つ。さすれば魔物達の増加は止まり。魔の旗印を失った魔物は物質界の侵略を止めるでしょう」
魔王ですか。まるで空想話のような話でしょうが。
いるんでしょうね、団長がそう言うならば。
そう思うと、何だかそれを倒さなければいけない。そして、魔物の脅威がない世界を取り戻さないといけない。
そんな、使命感が湧いてきます。
「魔王か……団長は魔王を討つことが出来るか?」
「やります」
一切の迷いなく。決意を秘めた表情を浮かべる団長に、周囲にいた人達がそろっておぉと感嘆の声が上がります。
団長なら、やってのける。私達だけでなく、中央の強国も団長なら出来るに違いないと、そんな期待が込められているように思えます。
王も、団長の言葉にゆっくりと頷きで返しました。
「団長よ余はな。避難民達を受け入れることができなくなったことを、申し訳なく思っている。条約もなく、所詮ただの、王を脅した下賤な男の口約束なぞ、無視せよという家臣の声もあったな。だが、この約束は余と、余の前に一人で立ち。余の心震わせた団長との、男同士の約束だ。余はそれを破ってしまった。本当に申し訳ない」
「気にしておりません。いずれその時はくる。そのことは最初から分っていました。寧ろ今まで助けるだけ助けて、避難民達の生活を王に託してしまうことを、私は常々無責任と思っていました。一時助けた者よりも、ここで難民と暮していく内に。王の慈悲に感謝する者も多いと聞きます。王は、私のような無作法者の約束を、守っていただきました。感謝の念しかありません。どうか、気に病むことないよう、お願いします」
「……すまぬな団長よ。だが、それでは余の気が済まぬ。ひとまずは団長の言う拠点の設立を、余の国では認めよう」
パッと、団長の顔が晴れたのが見てわかりました。
今回の会談は、この言葉だけでも成功と言えるでしょう。
団長は拠点設立。言ってしまえば土地を持つ事を、やや博打と思っていたようです。
私達が国境を越えて人助けをしていると言えば、聞こえはいいでしょうが。
その国の事情何て、無視してることが多いです。気にしていたら、その内に魔物が、村や地域を滅ぼしてしまいますからね。
ですが、私達はやってることがやってることだけに、名声が高まるにつれ。
各国の民衆からの反発を恐れた、王様達は私達を無視しました。
理由は私達は、潰そうと思えばいつでも潰せるからです。
いくら武力があっても、食糧を育てる土地がありません。
土地がないので食糧等は中央の強国を始め、各国からの補給頼りなので、止められでもしたら飢えます。
もし誰かから奪えば、今までの名声は無となり。それこそ野盗と変わらなくなるので、出来ません。する気もないです。
なので、今まで私達はある意味、国からしたら脅威でもなんでもありませんでした。
ですが、土地を持つことで、無視される利点が無くなります。
英雄とも謳われる団長が、土地を持ち、食糧を生み、兵士を集めたら。
あっという間に、国の出来上がりです。
そりゃ普通の王様なら面白くないでしょうね。
私達の今までの行動は、赤の団国の国民を生み出す為の行動だったと、揶揄されかねません。
だからこそ、団長にとって拠点という表現も、それらを避ける為の物です。
あくまでも、国ではなく。魔物の脅威がなくなるまで、自立して行くための拠点。
屁理屈と一蹴されたら、それまでです。
だからこそ、団長は王の言葉に喜んだのです。
「そして、団長に送りたい物がある」
おや、何でしょうか。
王は執事にアレをと命じ、執事の人は。
本当に持ってきてよいのですか。そんなことを言いたげな表情を浮かべていました。
一体何でしょう。ちらりと団長を見てみますと。珍しいことに団長も、王の真意が分かっていないのか、困惑の表情を浮かべていました。
数分後、布が被せられた。見た目から鎧立てですかね。そんなものが運ばれました。
布の下を知っているのか、一部の人達がまさか。と小声を出しながら、ざわつき始めました。
それがただ物ではないことは、周囲の反応で分かります。
本当に何なんでしょうか。
周囲の状況を他所に、王は口を開きます。
「……今より千年も前のことだ。そこでも、今のように人と魔の戦いがあり、魔物の襲撃に、様々な悲劇を生んだ。それこそ、人々が家を捨て、土地を捨て、国を捨て。薄暗い洞窟の底で、ただ死を待つのみという話もあったようだ」
昔にも、そんなことが。いえ、そういったことがあったから、私達は魔物を見て、ゴブリンやらデーモンといった区別がつくのです。昔の人達が、悲劇に嘆き。それでも後世に知識という力を託し、今私達はその恩恵を受けています。
「そんな絶望の前で嘆く人々の前に、女神は舞い降り。ある男に贈り物をした」
王が言うような、戦いの中で生まれた数々の話も神話として残されています。
そして、その証拠であるかのように、世界には数々の神器と呼ばれる物や、神から加護を受けた武具が存在します。
バッと、布が外されると。
白を基調とし、各所に金が散りばめられ高潔なる勇ましさを感じさせる意匠。
守護するように、出現しては消える青い結晶の光に、神々しさを感じる。
それは、素人目でも人の手で作られていないことを、確信させました。
「贈り物の名、それは『アイギスの鎧』。我が国の王族が代々引き継いできた神器だ」
ここまでくると、さすがの私も何となく、王の意図が伝わってきます。
「団長よ、余は思うのだ。今の物質界には二つの力が求められている」
王は、左手を上げる。
「一つは、魔を討ち滅ぼす強さを持つ、英雄の力」
王は、右手を上げる。
「もう一つは、人々を束ね導く、王の力」
あぁこれは王族の証である鎧を送り、王の血縁者と婚約し、血の繋がりを持つことで。
英雄、つまり団長と。王、つまりは強国の王が互いに手を取り合い、魔王を討伐するって話でしょうか。
団長が、中央の強国のお姫様と婚約ですか。
嫌だ――。
……いえ、とんでもない話になりそうと思ったら。
パン、と王が手と手と合わせ、祈り手になり。
続く王の言葉に場は静まり返りました。
「この二つを兼ね備えた者、それ即ち『英雄王』」
…………え?
その瞬間私の頭が、混乱しました。
英雄にして王。王にして英雄。
英雄王。
物質界において、その称号を名乗るに相応しい人物と言ったら、一人しかいません。
この考えに思い至ったのは、どうやら私だけではないようです。
一斉に視線が、団長に集まります。
「どうだ団長。この鎧。受け継いではくれぬか?」
王の言葉に、私は団長が冷や汗をかくということを、初めて知りました。
場が沈黙のまま、固まります。
私も、アトナテスも、誰もが息を潜めていました。
この沈黙を破ることを許されているのは、ただ一人しかいません。
とても長い一分が経過したくらいでしょうか。
「……お戯れを」
団長が出たのは、ようやく絞り出せたかのような。そんな声でした。
団長の言葉に王は、怒る事なく。
静かに笑い声を上げ。
「そうか、戯れか。そうか、そうだな団長よ。ボケが入った老骨の戯れで、済まさねばいかんな」
団長に、優しくそう言葉をかけました。
「団長よ。そなたらの赤の団の拠点設立、余は全面的に認め、協力は惜しまぬ。団長よ、そなたの才を、自由に使って行け」
団長は静かに、頭を下げました。
帰路、私達三人は無言で歩いていました。
結果的には会談は成功したというのに、それ以上に王が言った言葉。
英雄王という響きが、私の脳裏から離れませんでした。
無言で歩き続ける団長は、何を考えているのでしょうか。
視線を何度か向けますが、団長の考えが、険しい顔をしたままの団長の表情からは、何も読み取れませんでした。
ただ、団長は王の言葉を拒絶するように、戯れと言ったので。
王になる気は、たぶんないのでしょう。
私は、団長なら立派な王様をできるだけの、器量があるとは思いますが。
団長はどう思っているのでしょうか。
聞くのが、なんとなく怖いです。
色々と考えていると、沈黙に耐えられなかったのか、アトナテスは団長の肩を組みました。
「面白い爺さんだったな団長」
驚く団長を他所に、アトナテスは言葉を続けます。
アトナテスのこういった、思い切りの良さというか、結構気配り上手な所は羨ましく思います。
「けどな、あの爺さんは団長を分かってないな。団長は王様やるよりは、根無し草の風来坊やってる方が似合ってるぜ」
グッと親指を立てるアトナテスに、団長は少し考えるように目を閉じ。
「そうだな。アトナテス。さすがは私の友だ。さぁ、せっかくの王都だ。三人で酒を飲みに行くか」
「おうよ!」
ふっと、普段のような優し気な笑みを浮かべ。
団長もアトナテスの肩を組むと、そのまま酒場へ足へ向けます。
そうですね。
「……えぇ行きましょう!」
飲んで、忘れましょう。
私は二人の後を追いました。
けど、英雄王と言う言葉は、それ以降もずっと、私の頭に残り続けました。
英雄王。
英雄にして王。王にして英雄。
それを意味する物は、物質界の王。
とても、とても重い。
まだ、一人の青年でしかなかった男の生涯を縛り続けた、称号でした。