中央の強国の王との謁見を終えて二月は経ちました。
各地の国の王の下を団長は巡り。リスク承知で赤の団の拠点の設立を告げて回ります。
そして、その二月の間だけは。赤の団は間違いなく魔物よりも、人と戦った回数が多かったです。
「赤の団の英雄は、王を名乗る気にでもなったか?」
中央の強国の王とは違い、そう冷たく言い放つ王様がいました。
そして、衛兵達に囲まれ、武器を向けられ。
私はようやく、団長が博打と言った理由を身に染みて理解しました。
拠点を作る。たったそれだけで、今まで少なくとも敵対はしてこなかった大国が敵対しました。
団長はあくまでも拠点であり、魔物の脅威がなくなり次第、拠点は放棄する。
王になるつもりはないと、武器を向けられて尚。
穏便に事が運ぶようにしましたが。
猜疑心に囚われた人は、簡単には疑惑の靄から抜け出せません。
「我が国を再び足を踏みしめた時。我が国の機械技術を用いて、貴様らを迎い受けよう」
「事が事なだけ見逃してやったが、貴様が土地を持つのならばもはや看過出来ぬ。メイジ達よ、この思い上がった不届き者を焼き払え」
そんな挑発的な勧告を受けたり。それだけならまだしも、謁見したその場で攻撃を受けたりしました。
それでも私達赤の団は、届かぬ手を伸ばす為に、敵愾心を抱く王がいる国へ、無理も危険も承知で助けに行き。
主権領域を侵犯していると、魔物から人々を助け終えた直後の背を、その国々の正規軍に問答無用で襲われました。
しかし、私達は赤の団。
物質界にあちこちいる、救いを求める人達に手を差し出す為にも。
魔物が相手でも、人間が相手でも、誰にも負ける訳にはいけません。
日々の戦い培った実力で、大国の正規軍相手でも撃退してみせると。赤の団は、国々を脅かす武装勢力であると吹聴され。
どんな噂話を耳にしたのか。
魔物を打ち払った私達が差し出した手を振り払い。
疑念の目を向け、礼すら言わぬ人達だとしても、団長は何度でも魔物を倒し。
その後、見計らったかのようにやってきた、大国の正規軍を相手に、再び撃退すると。
今度は、まだ防衛施設がほとんどない。
僅かな農地があるだけの、集落としか呼べない規模である。私達が作り上げた赤の団の拠点に。
おそらく今なら殲滅できると思ったのか、団長を王扱いしようとしているくせして、宣戦布告もなく攻め込み。
団長、アトナテスを始めとした精鋭達で防衛し、傷付いた者には例え敵だった人達にも関係なく団長は保護して、傷を癒し。
厚顔にも、つい先日赤の団の拠点に攻めてきたにも関わらず。その大国の正規軍では、容易に手に負えない強力な魔物の出現に、赤の団に救援要請を出してきて。
救援する必要なんてない。捨ておくべきだと、一部から声が上がっても、団長は付いてきたい者だけは付いてこいと言い。
助けに向かい、そして案の定疲弊した私達をその国は正規軍を差し向け。
赤の団はそれを撃退しました。
日々魔物と戦い続け培った経験と、常に最前線で指揮して戦う団長が率いる赤の団は、物質界一と言ってもよいほどの精強な軍と言って良いでしょう。ただ、戦いと言うのは何も真正面で武器を振るうだけではありません。
武力で敵わぬと分かったら。
戦うのではなく、別の手で各国は赤の団を攻め立ててきました。
この頃、赤の団は偽の情報に振り回されることが多くなりました。
魔物がいるから助けてくれ。
そんな情報を聞いて、拠点からその地へ向かいます。
例え、それが幾度も襲い掛かって国であったとしても、向かいます。
偽情報かもしれない。でも、もしかしたら、本当に襲われてるかもしれないからと、団長は向かいます。
そして、偽情報であると分かったら落胆して、拠点に帰り。
私達が帰還した直後、本当に魔物に襲われて急を要する救援情報が、偽情報の地へ出発した後に届き。
急いで駆けつけると、魔物達の手により荒廃とした村や集落を前に、たった一つの情報のせいで。
急成長し続ける赤の団を疎ましく思った、下らない人達の嫌がらせのせいで。
どれだけの人命が奪われたことかと、何度怒り、くじけそうになったことか分かりません。
「あいつら、自分達の国は滅びないとでも思ってんのか!?
こんな事してる場合かってんだ!
こうやって土地と人が死に消えたら、自分達の首を締めてるだけと、まだ分かんねぇのか!」
魔物の手により滅びた村を前に、苛立ちを隠そうともせず、アトナテスが吐き捨てます。
「人と人の戦いは、魔物の出現でなくなったと思ったのに。どうして……」
いつも明るいサナラもさすがに、こんな。
悪意しかない出来事が続いているせいか、落ち込んでいました。
「その魔物が出現が終わった後の、人同士の戦いを見据えて。勢いのある私達を潰しておきたいんだ。
彼の王達の立場からすれば、これらの行いは。決して正しくはないかもしれないが、間違っている行いとも私は思わないよ。
ただ、忘れないでいてほしいアトナテス、サナラ。
人は争いながらも、平和の為ならば、手を取り合える。
私達や各国の王、この世界に生きる皆が協力する。そんな未来がいつかくる」
怒るアトナテスを宥め、落ち込んでいるサナラを慰めながら。
襲われている団の団長が、彼らの行いに大してまったく怒ることなく。
こんなことを言ってしまいますので、私は怒るにも怒り切れず。
ただ、言いようのない悲しさと虚しさに。
「団長は本当に、そんな未来が来ると思いますか?」
思わずこんなネガティブなことを言ってしまいました。
ですが。
「私はそう信じているよ」
私の問い掛けに、一切の迷いなく。前髪に隠れた目の奥に、確かな輝きを灯しながら、団長は断言しました。
団長は凄いですね。
どんな目にあっても、この人が前を見て歩き、私達を導き、勇気づけてくれる。
普通なら不可能と思えることを、可能にしてくれる。
そんな確信を抱かせるほどの、本人はなる気はないといった王様のような、懐の広さを見て。
多少の困難で、人そのものに絶望するには、まだまだ早いぞと、私に思わせてくれます。
悪意によって失われた命達に、祈りをささげた後。
私は気持ちを切り替え。
まだいるであろう、助けを求める誰かの為に、明日を見続けると改めて誓いました。
赤の団が、今まで連日、確実に魔物と出会い戦い続けられたのは。移動先移動先で、団長が魔物の気配を察すること出来たことと、悪意による情報の錯綜もなかったことが大きいです。
なので、団長が居を構える赤の団拠点にいては、魔物を察すると言っても周辺の地に限り。
そして魔物の出現はどこかからの、報告頼りです。
団長が魔物を気配を察知して、次から次へと魔物達と戦う。
情報を仕入れて、討伐に向かう。
そんな、赤の団の従来の戦い方が通用しなくなったのです。
私達は変わるべきでしょう。
各地に斥候を送ってみてはと、団長に意見してみましたが。
魔物と、その国の正規軍の板挟みにされては、並みの人では、情報取集は難しいだろうと却下されました。
この問題は、まだまだ先送りになりそうです。
ですが、いいこともありました。
「団長!」
そう声をかける人々に色々な違いがあります。
魔の混血とされる獣耳だったり、長い寿命を持つ長耳だったり、人間ですが敵対した国の元軍人だったり、です。
生まれも立場も、まったく気にせず助ける団長を見て。
魔物によって故郷を無くし、住む場所がない。
しかし、普通の人里では他種族相手に、何をしてくるか分かったものじゃないから怖い。
でも、以前魔物から助けてくれた団長の元でなら、暮らしていけそうだ。
そう考えた。以前赤の団が助けた人々が、団長が拠点を持ったと聞きつけて。
魔物と戦うために武器を。開拓して農地を増やす為に鍬を手に持ち。
一緒に助け合ってくれています。
元々敵だった国の軍人さん達も、団長と協力する人々に感銘を受け。
国を離反し、赤の団に合流する人もちらほらと出てきました。
そして、同じ釜の飯を食べたら、と言うのでしょうか。
種族間にある、わだかまりが解消され。
右を見たらエルフとダークエルフが一緒に弓の鍛練をして、左を見たらドワーフと獣人が一緒に道具を整備したりしています。
全体で見れば人間が中心ですが、それでも三割を超す人間以外の種族を抱える組織は、団長と共に各大国を巡りましたが。
ここ赤の団くらいでしょう。そしてそれを可能にしているのは、団長のカリスマでしょうね。
ただ、重大な問題がありました。
種族間がどうこうといった話でありません。
相も変わらず。唐突に団長を巻き込んで遊び始める。アトナテスとサナラの問題児っぷりといった話でもありません。
団長が戦場に立つと起きる話です。
団長は常に全ての戦場に出陣して、陣頭どころか先陣を切って戦うのは、いつものことですが。
「何だか、戦場に立っていると体が痺れて、普段よりも力が出ない」
そんな声がどこからか出始め。一人二人なら、戦場に立つことで緊張しているだろう、といった軽い話で済むところですが。
戦場に立っている団員のほとんどが、多かれ少なかれそんな不可思議な事象を自覚した事があるようです。
何が原因でしょうか。
幾人か親しい団員に聞いてみた所、身に覚えがあると言ったと思ったら。
常に団長と行動を共にしているアトナテスとサナラは、そんなこと一度もないと言いました。
うーむと、戦闘中の事を振り返ってみると。
ふと団長が戦ってる姿を見て、体が痺れるような感覚と、星の力が落ちたことがあったことを思い出しました。
ということは、団長が戦場に立つことで、全体の力を抑制させるような何かが働いている。
その何かによって、私含めて団員のほとんどは痺れを感じているという事が連想出来ます。
そして、戦場におけるその痺れとは。
士気が高まるような高揚ではなく。
対極に位置するもの、即ち恐れ。
団長が戦場に立ち。戦う姿を見て、私達は心のどこかで。
私は彼を、恐れて――。
だ、駄目です!
頷いてしまったら、そのまま確信してしまいそうな結論を、私は頭から追い出しました。
それを認めてしまったら、もう団長の傍にいることを、私自身が許せそうにありません。
誰もよりも頑張り、誰もよりも傷付き、誰よりも前を進む団長を。
大好きな団長を。
あろうことか、恐れるなどと。
絶対に認めてはいけません。何かの間違いです。
間違いがあるとしたら、そんなことを思い浮かんだ、私の未熟さに違いありません。
……ただ、戦力が低下しているのは、避けようのない事実なので。私はこの件を、特に任命はされていないですが、赤の団の教官役をしているアトナテスに任せました。
普段よりも力が出ないなら、それが問題にならないくらい、さらに力をつければいい。
赤の団皆が鍛錬して、皆で強くなればいい。
もちろん、私もです。
戦況に応じて、アストロノヴァとグランドクロスを切り替えていましたが。
それ以上に出来ることを、増やしていくべきでしょう。
もっと、頑張らないと。
ただ、この件を知ってか知らずか。
ほとんど同時期に、団長はさらに剣技に磨きがかかり。
剣を振るえば、あらゆる堅い鎧も、魔法の守りも無視して貫き。
一振りで二度攻撃しても倒せぬならば、一振りで三度も攻撃する斬撃で敵を倒し。
数多の敵がいるのならば、一振りで四体の敵を同時に斬り裂く剣を身に着けました。
それが何だか。己以外の人が戦えないなら、自分が強くなればいい。
団長が示した解に見えて、私は寂しさを覚えました。
英雄王は、誰にでも手を伸ばせる人でした。
同じ人であれ、他種族であれ、敵であれ。
そう、王子君のように。
でも、戦い方は王子君とは対極の存在と言えました。
王子君が皆と手を取り合い。
協力して敵に立ち向かい勝利する戦い方とするならば。
英雄王は逆。
ただ一人で、後に英傑と呼ばれる私達でも追随を許さないまでに、強くなり。
たった一人で、どんな強敵であっても立ち向かい、勝利する。
そんな戦いをする人でした。