千年前戦争アイギス 占星術師の昔話   作:青き男

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E10 影を受け継ぐ英傑の蕾ユージェン

 偽情報に踊らされながらも、それでも人々の為戦い続けていた赤の団ですが。

 団長がその現状に、ただ手をこまねている訳がありませんでした。

 

 「ソラス。占星術を頼みたい」

 「はい!」

 

 団長が、私に占星術を頼む時は、団長でも迷うような案件。

 つまりは、ここぞという時です。

 占星術師としてちゃんと頼られるているのが分かると、嬉しくて、私も気合を入れ。

 お母様が持っていた天球儀を真似て、拠点近くで取れた鉱石に私の魔力を込めて作った、天球儀を空に掲げました。

 

 「人を探している。その人がいる土地は知っているが、正確な場所までは分からないんだ。場所を示してほしい」

 「分かりました。任せてください!」

 

 地図を広げながら問う団長に、私は星の導きを受け、その土地に地図で印を受けます。

 その地図が示した場所は、拠点から半日と経たずに歩いて行ける場所にある。

 鬱蒼とした森が広がる。

 長命で耳が長い種族。

 エルフが住む、妖精郷でした。

 

 「それでその人を、どうするんですか団長?」

 「勧誘だ」

 

 数日後。

 団長、私、アトナテス、サナラの四人。そして、紫竜さんの一匹で森を歩いていました。

 少人数なのは、エルフというのは、他種族に排他的で、あまり多人数で詰めかけると、エルフ狩りか何かと勘違いされ。魔物を撃退する高い弓術、魔法を持つエルフ相手に、一戦交えるのを避ける為だそうです。

 人選に関しては、団長は本来なら私と二人で向かうみたいでしたが、出かける話を聞いたアトナテスとサナラが、付いてきたからです。今からでも、帰ってくれませんかね。

 行きたい行きたいとごねるアトナテスとサナラに、優しい団長が無下にすることなく、二人は同行することになりました。

 本当に、今からでも帰って。嫌ですか、そうですか。はぁ……。

 

 さて、森を歩いていると、唐突になんとなくですが違和感を感じました。

 それが何かは分かりませんでしたが。

 

 「何か変な感じがしますね!」

 

 サナラも似たような感覚を覚えたのか、私とまったく同じ考えを声にしてあげました。

 

 「何のことだ?」

 

 一方で、アトナテスは首を傾げていました。

 そうなると、私達はごく自然に団長の方へ視線を向け。

 団長は、私達の期待がすでに分かっていたかのように、空に向かって手を伸ばしていました。

 

 「人払いをするエルフの結界かな。へぇ。こんな魔法の使い方もあるのか。興味深い」

 

 そして、手を握りしめて、空間を破るように振るうと。周囲から感じた違和感が消えました。

 あれ、これ所謂。結界を破って、エルフ達の領域に土足で踏み込んだことになるのでしょうか。

 ……何事もなかったかのように、歩みを進める団長に信じましょう。

 きっと問題ないはずです。

 

 「……追われてるな」

 

 歩き続けていると、今度はアトナテスが声を出しました。

 さすがは、生粋の戦士であるアトナテスですね。

 この手の敵の気配を、アトナテスは感付き。紫竜さんと共に、周囲を警戒するように呟きます。

 どうするんでしょうか。再び、団長に視線が集まります。

 

 「じゃあ作戦開始だ」

 

 こうして、団長が事前に考えていた作戦が始まりました。

 といっても、大げさな事は何もしてません。

 机を用意します。椅子も用意します。

 それだけでは寂しいので、甘い果汁を絞った飲み物と、お菓子を用意します。

 そして、物陰で隠れます。

 

 「……団長これで大丈夫なんでしょうか?」

 「古典的だけど、有効な手だよ」

 

 餌で獲物の釣る。なるほど、さすがは団長ですね!

 いやいやいやそれでエルフが釣れるなら、今頃物質界のあちこちでエルフを見る機会があったでしょ――

 

 「団長!エルフさんが来ましたよ!」

 

 サナラが興奮しながらにそう告げるので、口を閉ざすしかありませんでした。

 私達が用意した飲み物とお菓子を、訝し気に眺めていますが。

 くんくんと臭いを嗅ぎ。お菓子から漂う甘い芳香に興味深々らしく、手を出すかと悩んでいるようでした。

 それにしても、あのエルフは。

 

 「子供ですよね。それに、エルフじゃなくて」

 「ダークエルフだね。妖精郷にはダークエルフは住んでいないと聞いていたけど。離れで暮していたのかな」

 

 長い耳に、褐色の肌と、灰色の髪、紫水晶の眼を持つ、ダークエルフの女の子。

 エルフは見た目が子供でも、実年齢は私達人間と比べたら、とんでもなく年上である方の可能性が高いですが。

 何にせよ、お菓子に興味津々な姿はどこからみても、子供です。

 

 「こんにちは」

 

 気が付いたら団長は、ダークエルフの子供に、そう挨拶していました。

 その瞬間、私の視界からその子供が消えました。

 どこへ。

 私が悠長にそんなことを考えている間に、事は終わったみたいです。

 

 「は、放せ!」

 「いきなり大将首を取らせねぇよ」

 

 背に有った弓に、矢をつがえ、絞り、放つ。

 この動作を瞬時に行ったダークエルフの子供を、アトナテスは手刀で矢を叩き落とし。空中に居たその子の手首を掴むと、そのまま宙吊りにしたようです。

 なおも反撃を試みようと、拳を振るいましたが。姿勢も何も安定してない拳に勢いなんてなく。アトナテスをポカポカと叩くだけでした。

 

 「どうするよ団長」

 「放してやれ」

 「あいよ」

 

 そして、団長の指示でアトナテスが手を放そうとしたその時。

 ちょっとした、気のゆるみが生じたその瞬間。

 

 矢が三本連続に飛来しました。

 気が付いたアトナテスが子供を庇うように、身を盾にし。

 団長はアトナテスと子供を守る為に、剣を引き抜き。矢を叩き落とし。

 

 「てめぇ!ガキまで狙うとはどういう了見――」

 

 アトナテスの喉を狙った四本目の矢までも、団長は剣で弾きました。

 

 「……何年ぶりでしょうか。こちらの矢までいなす人を見たのは」

 

 物静かな声と共に、その人は現れました。

 長い耳、白い肌、金髪に、翡翠の眼を持つ女性。容姿としてはエルフらしいエルフですが。

 武器としている弓の黒に合わせたのか、全体的に黒を基調とした装いをしているので。想像上では緑緑している。エルフらしくないエルフとも思えました。

 あと、そのエルフの特徴を上げるとしたら。

 すでに金髪には白髪が混じり、所々小皺がありました。要するに、年を取ったエルフです。

 ですが、決して侮ってはいけません。

 老いたエルフというのは、叡智と実力の兼ね備えたエルフの中でも、生まれなど関係なく、尊敬される存在と聞きます。

 

 そしてその話が事実である事を、証明するかのように。

 構えていないにも関わらず。そこに立っているだけなのに。

 すでにその黒い弓で、心臓を狙っているかのような。そんな圧迫感を私に感じさせました。

 少なくとも、迂闊には動いたらその瞬間矢で貫かれる。そんな確信さえ持てしまいます。

 

 「技を見て確信した。あなたが影の射手」

 「そういうあなたは、赤の団団長ですね」

 

 どちらも微笑みを浮かべていますが、団長は団長で剣を握ったまま。

 影の射手と呼ばれたエルフさんも、黒い弓を握ったまま。

 一触即発の雰囲気を漂わせていました。

 すでに険悪な雰囲気なのですが大丈夫なんでしょうか、これ。

 勧誘をすると団長は言っていましたが、このエルフさんが団長が勧誘したいと言った人でしょうか。

 

 「そして赤の団占星術師ソラス、大地を紡ぐ者サナラ。未熟な私の娘を抱いているのは、魔竜騎士アトナテス。ですね」

 

 ひぇ。

 ある程度私の名前も通り始めていますけど。

 全員の名前を間違えることなく、視線と共に射貫くように言い当てられると、さすがに怖くなります。

 ですが、これは情報収集に長けていることの証明です。

 情報に振り回され始めている赤の団に、欲しい人材。

 団長が勧誘しようとしたのは、このエルフと見て間違いないでしょう。

 

 「いい加減放せ!」

 

 会話が終わるまで沈黙していた。

 アトナテスに抱き締められていた、影の射手の娘から抗議の声が上がりました。

 

 「アトナテス。放してやれ」

 「いいのかよ?」

 「どれだけお題目を並べた所で。今の私達は、彼女から見たら、娘を人質に取っているようなものだ。私達は戦いに来たわけではない」

 「娘と呼ぶガキに矢を打つ様な奴だぞ。それにあいつはエルフ。こいつはダークエルフだ。人質の意味があるか、分かったもんじゃねぇ。危険だぜ」

 「噂に違わぬ優しさを持っているのですね。アトナテスさん」

 「あぁ!?」

 

 紫竜さんのような鋭い目で、アトナテスは影の射手を睨みますが。影の射手は、相も変わらず笑みを浮かべているだけでした。

 捉えどころのなさに、不気味さを感じさせます。

 

 「アトナテス。放すんだ」

 

 団長はもう一度。強くアトナテスにそう言いました。

 団長にそう言われては、アトナテスは口をへの字にしながらも、娘さんを放し。

 娘さんはそのまま影の射手の背に隠れました。

 これで、状況は元通り。とはなりませんでした。

 

 「お子さんの名前は何と?」

 

 アトナテスが娘さんを放したと同時に、団長は剣を鞘に納めて。

 用意した椅子に座ってました。

 

 「ご挨拶なさい」

 

 そして、いつの間にやら影の射手も弓を下げて、椅子に座ってました。

 あれ。

 

 「えっと、母さま?何をしているのですか?」

 「ご挨拶」

 「……ユージェンです」

 

 しぶしぶと言った感じに、ペコリと頭を下げる影の射手の娘さんの名前は、ユージェンちゃんと言うそうです。

 あれれ。

 

 「あ、あの団長!色々と追いつけないんですが!」

 

 サナラが団長と影の射手以外の人が抱いたであろう、気持ちを代弁してくれましたが。

 

 「まぁ皆も座ろう」

 「おいおいおい、さっきまでの戦うぜって感じの雰囲気はどこ行ったよ団長」

 「無くなったね」

 

 なんですかそれは。

 私達は三人同時にガクッと頭が落ちましたが、着席しました。

 椅子が人数ぴったりで良かったです。

 

 「信頼されていますね。赤の団の英雄は」

 「そういうあなたも、随分と娘さん。ユージェンを信頼していますね。血の繋がりはないのでしょう」

 「私はエルフ。ユージェンはダークエルフ。確かに種族での諍いがあり、血の繋がりもありませんが、娘は娘。例え私の矢を二本三本受けても、ユージェンは物ともしませんよ」

 

 影の射手は、そう自慢気に言います。

 ユージェンも、凄いだろうと言わんばかりに胸を逸らしています。

 うーむ。人とエルフの感性の違いでしょうか。普通は親は子供に、矢を受けさせないようにするのが普通だと思いますが。

 あれですか。エルフは我が子を千尋の谷に落とす風習でもあるんでしょうか。

 色々と考えていると、アトナテスが両手をデコの上で組んでいました。

 そのまま、おぉ神よとでも嘆きだしそうです。

 

 「どうしたんですかアトナテス?」

 

 団長と影の射手との会話を妨げないように、小声で話すと。

 

 「……あのエルフを見ると反発心が湧いてくる理由が分かった気がする」

 「何でですか?」

 「……俺の師匠に似ている」

 

 アトナテスの言う師匠さんは誰かは知りませんが。

 ユージェンを見るアトナテスの目が、とても同情溢れるというべきでしょうか。とにかく今まで見たことないほど優し気で。あって十分も経ってないというのに。さながら、ユージェンの叔父のような雰囲気を纏わせていました。

 本人に言ったらたぶん、怒られるので言いませんが。

 

 「ユージェン。菓子を食べるか?遠慮するな。菓子も、サナラよりもお前に食べてもらった方が喜ぶ」

 「何でですか!」

 「あぁ毒なら入ってないぜ。ほら、放っておいたらサナラが全部食っちまうぜ?」

 「そんなことしませんよ!?」

 「…………」

 

 ガヤガヤと言い合うアトナテスとサナラを、ユージェンは不思議そうに眺めていましたが。

 敵意も悪意も何もなく。楽しそうに言い合う二人の光景を見て、ユージェンが恐る恐る。

 私達が持ってきたお菓子に手を伸ばします。その光景をアトナテスとサナラは、言い合うのを止め。

 

 「はむっ」

 

 ユージェンがパクリとお菓子を頬張り。

 その直後、頬を緩ませるユージェンの姿を見たアトナテスとサナラが、同時に親指を突き立て、にやりと笑います。

 一度手を出してしまえば、あとは毒を食らわば皿まで。でしょうか。

 

 「うまい。これも!」

 

 ユージェンは用意したお菓子をどんどん食べ進めます。

 見てると、私までお腹が空きました。せっかくですし、お菓子を一つ頂きますか。

 

 「ふふっ、おいしいですね。ユージェンちゃん」

 「……うん」

 

 弓を構える姿は、見た目とは違って勇ましく感じましたが。

 こうして素直に頷く姿は、見た目相応に無邪気な子供と言う感じがして、とても微笑ましいですね。

 ユージェンとは仲良くできそうです。

 

 さてと。

 思った以上に、私達四人の方がすぐに和気藹々としちゃったので。

 飲み物とお菓子を進める手を止めずに、団長と影の射手の話に耳を傾けます。

 

 「魔王ですか……荒唐無稽ですね」

 「いや魔王はいる。多くの戦いを繰り返していく中で、私はその存在を確信している。

 そうでなければ、組織としての、最低限の協調性を持ち合わせているかも怪しい魔物達が、容易く国々を落とせる道理がない。

 魔物が増加した理由も、物質界と魔界は繋がっていて、決して別離することはないと聞いているが。

 それでも魔物が物質界に入る。ゲートの規模と数には、限りがあったはずだ。そして、それを破壊した者がいる」

 「ゆえに、魔王がいると」

 「あぁ、そして魔王がいることを確信している者は。私だけではない。あなたも確信しているはずだ。

 影の射手よ。女神アイギスの加護を受けた黒弓を持つあなたなら」

 

 女神アイギス。

 最近聞いた女神様の名前なので、憶えていますし、調べました。

 端的に言えば、物質界の守護神。でしょうか。

 人や武具に加護を与え、物質界を脅かす魔を打ち払う者を、導く女神様です。

 

 さて、どんな女神様でしょうか。

 影の射手が持つ黒弓が本物かどうかは分かりませんが、中央の強国が持つアイギスの鎧という実物がある以上、実在する女神様なのでしょうが。

 神様にも、そりゃ都合があるかもしれませんが。

 もし神様がいるのなら。今すぐに、魔物を打ち払ってくれませんかとは思っちゃいますね。

 

 ただ、そう思ったのは、私が信じているのは、団長と、赤の団だけの不心得者だからでしょう。

 迫りくる魔物に、お尻に火が付いても神に祈り続け。

 そのまま滅びた地が、少なからず存在してしまっているのを、私は知っているからでしょう。

 

 「…………」

 

 影の射手は、団長の言葉に肯定も否定もせず。

 黒弓を大切そうに撫で。

 

 「……惜しいですね。あなたがエルフなら、私はあなたに、ユージェンと同じく弓を教えていたでしょう」

 

 唐突に、そう言葉を零しました。

 

 「私達エルフも、魔物の被害を受けています。無論、その度に追い返していますが。相手は無尽蔵かつ神出鬼没。

 弓術魔法に長けたエルフと言っても。

 無限の敵に抵抗するには、エルフは決定的に前衛を得意とする人も、そもそもの人数も不足しています。

 私がどれだけ、妖精郷各地にあるエルフの里に人を受け入れ。来るべき魔を率いる者、魔王との戦いに備え。他種族と共同戦線を張るべきと主張しましたが。……残念ながら無下にされました」

 

 戦うなら数が多くいた方がいいのに、どうして。

 私が抱いた疑問を、団長は鋭く突きます。

 

 「ユージェンがいるからですか」

 

 団長の言葉に、お菓子に夢中になっていますが、しっかりと話は聞いてらしいユージェンが俯き、暗い表情を浮かべました。

 それだけで、団長の言葉が正しいと察することが出来ます。

 

 「エルフとダークエルフは、昔からの遺恨がありますからね」

 

 遠くを見つめる影の射手の目には、はたして何年前のことを思い出しているのでしょうか。

 私がお祖母ちゃんになるまでの年月の、何十倍もするのでしょうか。

 それは、分かりません。

 ですが何にせよ、影の射手が言う遺恨というのは、とても根深いものなのは違いないでしょう。

 

 「……下らない」

 

 ですが、団長はそう一蹴してのけ。

 ピクリと、影の射手とユージェンの長い耳が動きました。

 怒らせたのではないのでしょうか。

 緊張が走りますが、団長は前言を撤回しませんでした。

 

 「影の射手。弓の名手にして、情報の重さを知る者よ。今の私には。正しき情報を判別する力も、悪意ある情報から身を守る術も不足している。あなたの力が必要だ。だから……本当はあなただけを、赤の団に勧誘する気でいた」

 

 そして、そんな中で団長はそう言葉を続けます。

 

 「だが私の理想は、魔物に脅かされることのない平和な世界だ。そこに、人もエルフも関係ない。

 影の射手よ。私はエルフの王と会談し、人とエルフの協力体制を築く。

 それが叶ったら、赤の団に加わっていただきたい」

 

 えっ。エルフの王様と。えっ。私そんな話聞いてないです。

 アトナテスも、サナラも聞いてないみたいです。

 ぽかんと口を開いたまま、固まっています。

 つまり、たった今、団長は決めたようです。

 

 まったく、団長は相談なく決めるのは、悪い癖ですが。

 ふふっ、この人は本当に面白い人です。

 

 「随分と、大言を言う方ですね」

 

 影の射手は、団長の言葉を大言と言いましたが。

 

 「大言ではありませんよ。影の射手さん。団長はやるって言ったらやっちゃう人なんです」

 

 アトナテスとサナラも、私と気持ちは同じです。

 

 あぁ、そうだとアトナテスは頷き。

 やっちゃう人なんですよと、サナラが推します。

 

 団長なら、きっとやれる。

 普通は不可能だと思うようなことを、どんなことをして可能にするのか。

 寧ろワクワクしてきました。

 

 「……分かりました。女王とその協力体制に同意したら、赤の団に加わりましょう。ですが、条件があります。

 あなたは先ほど、私達エルフとダークエルフの遺恨を下らないと一蹴しましたね」

 「あぁ」

 

 影の射手に、団長は即座に答えます。

 やはり、影の射手がどう思おうとも、団長には先ほどの言葉を撤回する気はないみたいです。

 

 「ならば、女王の元にユージェンを連れ、その協力体制を結んでみせてください。それが条件です」

 

 エルフとダークエルフには遺恨がある。

 そんな中で、ダークエルフであるユージェンを連れて行くのは、きっと不利になるでしょう。

 けれど団長は力強く、こくりと頷きました。

 

 

 

 影の射手。

 英雄王の背に影の射手ありと謳われた、ユージェンちゃんの母たるエルフを指す名でした。

 彼女は弓術を極めた者でありましたが、同時に情報戦の玄人でもありました。

 当時、目に見えない悪意に翻弄されていた、まだ英雄王ではなかったあの人を、まさに影から支え続けた。

 本人が言うには、すでに老い切ったエルフでした。

 

 そして、ユージェンちゃん。

 開花を待つ蕾。

 千年前の魔王との決戦にはいませんでしたが。

 あの人が、英雄王を名乗り始める頃までは、一緒に戦ってくれていました。

 

 あの子は、千年前の決戦の時に、英雄王の下にいなかったことを気にしていましたが。

 あの子も私達と同じ英傑です。

 何と言っても、英雄王の口から、ちゃんと英傑と認められていましたからね。

 

 

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