エルフと遺恨があるダークエルフのユージェンを、エルフの王様改め、女王様の下に連れた上で協力体制を築く。
そしたら影の射手は、赤の団に加わる。
やることは至って単純です。
エルフとダークエルフが手を取り合い戦えるということを、赤の団では出来ているので。
協力体制は不可能ではないでしょう。
ですが、同じエルフである影の射手が、提案しても断られたことを考慮すると、捻りは必要でしょう。
影の射手が、まさに影と同化するかのようにスッと消えた後。
どうやってエルフ達と協力体制を築くか。
団長任せにし過ぎないようにと、私達は議論を始めました。
「妖精郷を中心に、魔物からエルフを助けて地道に評判を上げてみてはいかが」
「団長が以前やったみたいに、殴り込みにいこうぜ」
「まずはエルフさんとお友達になりましょう!」
三人で意見を出してみると団長はへぇ、ほうと薄い反応をしていますが。
団長の口からは、特にあれこれと意見は出してくれません。
なんというか。
私達の議論する姿を見て、楽しんでいるようだけな気がしました。
「ユージェンよ。お前ならどうする?」
アトナテスがユージェンにそう話を振ると。
私達から離れ、膝を抱えたまま、じっと話を聞いていたユージェンは。
……敵愾心を剥き出しのまま、団長を睨んでいました。
先ほどまで、一緒にお菓子を食べた時は、ユージェンは笑顔を見せていたのに。
「……私が話に加わると思っているのか?」
影の射手が消えてから、ユージェンはずっと団長を睨んでいます。
団長とユージェンは、会話をしていませんので、仲良くなったとはいえないでしょうが。
影の射手が条件付きとはいえ、赤の団に加入してもいいと言ったので。
影の射手とは敵対していないはずです。
なので、ユージェンに敵意持たれるようなことは、団長はしていないはずなのですが。どうして。
「さっきからどうしたユージェン。菓子ならまだあるぜ?」
「そうじゃない!」
ユージェンの態度に我慢できず。
アトナテスが機嫌を伺うのもかねてお菓子を差し出しましたが、ユージェンは声を荒げて叫びます。
ただそういった荒い言い方には、ユージェンは慣れていないのでしょう。
困り顔浮かべるアトナテスに、ユージェンはバツの悪そうな顔を浮かべました。
それでも、ユージェンは敵視。私達ではなく、団長だけ敵視を止めません。
そうなると、険悪な雰囲気がどんどん溢れ出てきます。
「団長。ユージェンに何かしたんですか?」
「……ユージェンに恨まれるだけのことは、私はしたつもりだよ」
小声で、団長にそう問いかけてみて。
断言するように返ってきた言葉に、私は言葉を無くしました。
単純に、団長何かやったかな。という疑問です。
皆が皆そうである。という訳ではありませんが、エルフは長命であり、誇り高く、外の種族には厳しいと聞きます。
だから、自慢の弓術による攻撃を止めたことを、ユージェンは恨んでいるのでしょうか。
あぁでも、ユージェンちゃんの矢は、アトナテスが止めましたね。
だから怒った、ならアトナテスを恨んでいるでしょうし。
ならば、母たる影の射手を矢を止めたから。
いいえ、これなら矢を止められた張本人である影の射手との会話が、もっと拗れているはずです。
あとは、団長がエルフとダークエルフの遺恨を下らないといったことです。
ただ、これが原因とは私には思えません。
あの時、確かに影の射手もユージェンも、長い耳をピクリと動かして反応させていましたが。
それに心底怒ってるという風には、私には感じませんでしたし、やはりそれが原因なら。まず先に、影の射手が怒っているでしょう。
やっぱり、私達と団長の違いといえば、ユージェンと一緒にお菓子食べたくらいです。
なのに、こうも対応が違うことあるんでしょうか。
人が気にならず、エルフが気にするようなことが。
……団長は、よく気が付きますね。私が考えれば考える程、疑問が増えていくばかりだと言うのに。
団長は、ユージェンが恨む理由をすぐさま気がついてしまうなんて。
「もし、私を女王様の前に連れて行ってみろ!その場で暴れて会談を無茶苦茶にしてやる!ただでさえ、エルフは外の種族には厳しいんだ。一度でも関係が崩れれば二度と会談なぞ出来まい!困るだろう!?」
ユージェンのこの発言には、さすがの私達も、どうにかしてほしいという意味を込めた視線を団長へ向けます。
「あぁ、とっても困るね。やめてくれると嬉しいな」
とは言うものの、団長は余裕のあるという態度を、崩そうとはしませんでした。
これでは、ユージェンじゃなくても反感が持たれるでしょう。
「お前一体何なんだ!」
叫ぶユージェンに団長は。
「私は何か。か……」
ポツリとそう呟き、言葉を紡ぎました。
「私は故郷と両親を魔物に奪われた。私は私の居場所を失った。そして、同じように魔物に奪われる人達を見て……私は見捨てられなかった」
これは、以前聞きましたね。
団長が赤の団を創設する経緯。
見捨てられなかった。それだけで、色んな人を、私を救った話。
けれども、団長は珍しく言葉が詰まり。
言葉を考えているのか、整理しているのか。
多少の時間を要したあと、口を開きました。
そしてその言葉は、強さと勇ましたと優しさを兼ね備える。赤の団団長の口から出た言葉とは、ちょっと思えませんでした。
「けど、一番の理由は……私は寂しかったんだ」
「さ、寂しかった?」
困惑しているユージェンが聞き返すと、団長は子供のように。
とても素直に、うんと返しました。
ただそんな若返りも一瞬で、すぐに普段のような、頼れる優しい青年の笑みを浮かべました。
「でも今ではソラスがいて。アトナテスがいて、サナラがいる。私の居場所があって、一人じゃない」
確かめるように、団長の目線がアトナテス、サナラと動き。私で止まります。
優しさの中に、決意を秘めた目。
見つめ続けると、鼓動が早くなってしまう、そんな目。
私は神話に出るゴルゴーンに見られた訳でもないのに、ポーと頭が熱くなって固まりました。
そのまま、たぶん私と団長は数秒は見つめ合ったと思います。
あともう数秒あれば、何か変な雰囲気が出そうでしたが、その前に団長は目を閉じ。
申し訳ない。そんな感情が読み取れる表情を浮かべ。
「でもそんな私が、人とエルフの協力体制を結んだなら。私は君の母親を取ってしまうことになる。君の居場所を奪ってしまう。一人にさせてしまう」
あぁ。
「私に弁解の余地はない」
あぁ、あぁなるほど。ユージェンが怒るわけです。
本当の母親でもないのに、エルフとダークエルフで遺恨があるのに、母親として受けいれた影の射手を、ユージェンの居場所を団長が取ろうとしている。
まぁ普通、常識的に親である影の射手が赤の団に入れば、娘であるユージェンも自然と、赤の団の拠点に来てもらうことになるでしょう。ですが、団長が言った通り。
影の射手はきっと各地の情報収集の為に、その力を振るって貰う訳ですから。
ユージェンが思うような、今まで通りの生活はきっと出来ないでしょう。
妖精郷ではダークエルフだからと一人になり。
赤の団では団員ではないから一人になる。
一人ぼっちになる。
そう考えれば、ユージェンが団長を恨むのも納得できます。
人とエルフの感覚の違いなんて、母と子の関係の前には些細な問題です。
ちょっと赤の団に、他の種族の方が入ったからと言って。私は種族気にせず何でも受けれてる。何て、とても言えた物じゃないですね。本当の意味で種族を気にしていないのは、団長のような考えを出来る人なのでしょう。
「……分かっているなら、母様を諦めてくれ」
ユージェンの怒りと敵意の薄れた言葉は、団長がユージェンが敵意を持つ理由を、完全に理解していることを。私に改めて伝えてくれました。
けれども、団長はユージェンの願いに、首を横に振るいます。
「それはできない。私には、赤の団には、影の射手の力が必要だ。より多くの人々を魔物から助ける為に」
魔物から人々を救う。
それが、団長。ひいては赤の団の大義であり、絶対に変えてはいけない信念です。
「それなら、母様を盗ろうとするお前は、私は助けてくれないのか?」
「…………」
しかし、その為にユージェンを犠牲にするようなことは……。
多くの人の為に、一人を泣かせるようなことは間違っていると私は思います。
団長には影の射手を諦めて貰う様に説得しましょう。
情報収集だって、私達が頑張って、誤情報を看破してみせればいいんですから。
「団長。ユージェンちゃんの為にも、今回は……」
「そうだね……」
すんなりと同意してもらえてほっとしましたが、団長も同じ考えをしていて何よりです。
二人救うために、一人を犠牲にするなんてやり方をしていたら。
いつか、私達が掲げる大義が、無視できない歪みによって、崩れるでしょう。
影の射手は諦める、それが最善です。
「影の射手も諦めない。ユージェンも泣かせたりはしない」
「えっ?」
「すまないソラス。君が言いたいことは分かるが。ユージェンを見ていたら、私は気が変わってしまったよ」
団長はそう言って、微笑みを浮かべると。
ユージェンをジッと見つめ。
「これは君にも、影の射手にも不義理だと思っていたから、止めようと思っていたが。ユージェン。母親よりも先になるが、赤の団に入らないか?」
えっ。と小さな声がユージェンから零れました。
私は私で、団長の考えが一致せずに、思わずずっこけてしまいそうでしたが。
感情面では喜びに溢れます。団長は皆が笑顔になれそうな考えを、いつも示してくれます。
それが、とても嬉しいのです。
「不義理って、どういうこと何ですか団長?」
「さっき、アトナテスがユージェンを抱え込んだ状況と一緒だよサナラ。
将を射んと欲すればまず馬を、というが。
娘を囲うような真似をして。交渉材料……いや、場合によっては人質に出来るような状況にして。影の射手がまったく、ユージェンに関心を示さない為人なら。あの時私は剣を抜いていない」
団長が嫌がったのは、ユージェンを赤の団に入れることで、影の射手が娘大事に、赤の団に不本意に入るそんな状況。
普通なら利用しようとか考える所を、公平でないから嫌。なんとも、団長らしい言い分です。
甘いとか言われそうですが、甘くていいんです。こんな団長が好きで、私達は付いていきたくなるのですから。
「……私が赤に団に入ると思うのか?」
「入る」
「どうしてそう断言できるんだ?」
「……毛色は違うと思うが。君も私と同じで、寂しさを知っている。そう思ったからだよユージェン」
理解できないと言いたげなユージェンですが、団長の言葉は的確に、ユージェンの心を揺さぶっているようです。
ユージェンの目が明らかに泳いでいます。
「でも私が赤の団に入ったら……ダークエルフがいるような組織には、女王様は会ってはくれないだろう」
「なんとかするさ」
「母様ですら、私を連れている時には、女王との謁見は出来なかったんだぞ!」
「なんとかしてみせる」
「っ!話だって聞いてはくれないだろう……」
「否応でも話を聞いてもらうさ」
「……私は、同じダークエルフの部族でも、孤立して捨てられるような性格で……母様以外私を受け入れることはきっと……」
「ソラスや、サナラ。アトナテスがユージェンを受け入れない。そんな素振りを、君に少しでも見せたかな?」
「…………」
ユージェンはその後も、いくつか言い訳をしていましたが。
その度に、団長はユージェンの言い訳を打ち砕き。
「ユージェンよ。理由をどれだけ並べようが結構だが、赤の団に入るのはユージェンの意志だぜ。団長は入ってくれと誘いはするが、無理強いをした所は俺は見たことがねぇ。入る入らねぇはお前が決めるんだ」
「むうぅ……」
アトナテスの追撃に、ついにユージェンは頬を、可愛らしく膨らませるだけになりました。
「ユージェンちゃん。事情や理由はどうであれ、私達は赤の団の在り方が気に入っています。種族も立場も気にしない団長の在り方が私は好きです。もしそれがユージェンちゃんに合っていて。居場所になれるなら、私達はとても嬉しいです」
「大歓迎しますよ!」
「…………」
そしてユージェンは沈黙し。
「た、体験入団だっ!」
ユージェンの唐突な宣言に、私達はつい噴き出してしまい。
そんな反応を見たユージェンは、ダークエルフの褐色肌であっても分かるくらいに顔を赤くしちゃいました。
一応、ぺこりと頭を下げます。ユージェンなりに、頑張って落としどころを考え末にだした、結論なのでしょうから。
「体験入団だから、私は赤の団になった訳じゃない!仲間になった訳じゃない!それならいい!」
ある意味勝手ではありますが、団長はユージェンにこくりと頷き。
握手を求める様に、手を伸ばします。
「歓迎するよユージェン」
「……仲間になったわけじゃないからな」
そう言いながらも、ユージェンは団長の手を握り返し。
「いいや、君はもう私達の仲間だよ」
そう言って笑みを浮かべる団長に、ユージェンは否定の声は出したりはしませんでした。
こうして、ユージェンは赤の団に体験入団しました。
あの頃のユージェンちゃんは私よりも小さくて。
ツンツンしてても可愛かったですね。
あ、でもこのことユージェンちゃんに言っては駄目ですよ。
本人は昔からクールでカッコいい系の、大人な女性のつもりみたいですから。