千年前戦争アイギス 占星術師の昔話   作:青き男

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E10ー3 影を受け継ぐ英傑の蕾ユージェン

 ユージェンが赤の団に体験入団したところで議論は一旦止まり。

 まだ日も落ちていませんが、今日はこのまま妖精郷の片隅で、一晩を過ごします。

 野営設営も、もうお手の物です。

 まぁ料理は団長がテキパキと動いて用意してくれますので、私含めて皆出番ありませんでしたが。

 

 そして、アトナテスが紫竜さんに持たせていた酒樽が開けられると。

 団長もアトナテスもお酒が好きなので、そのまま酒宴の始まりです。

 

 飲み比べしてる訳でもないのに、団長とアトナテスはグビグビと、ハイペースで飲んでいるのを見ながら。

 私も悪酔いしない程度に飲み、サナラはまだお酒が得意ではないので、ちびちびと呑んでは眉を顰め。

 ダークエルフなので実年齢はたぶん、私よりも上だと思うユージェンは。

 母様がお酒を飲むのは大人になってから。と言われたらしいので飲みません。

 興味津々に、チラチラとお酒を飲む姿を見られると、いけない気持ちが沸いてきますが、自重しました。

 

 ただ、アトナテスはこの時。珍しく悪酔いしたのか、昼間から妙に気に入ってるユージェンに絡んでいました。

 やれ今までどうやって生きてきただの、影の射手にどんな訓練を受けてきただの、ユージェンにどんどん質問を飛ばして。

 ダークエルフの部族に捨てられ、影の射手に拾われ。

 矢を身に受けて覚えろと言わんばかりに、数多の矢を受けながらも弓術を叩きこまれ。

 身のこなしを軽やかにするという理由で谷に落とされたり。

 隠密を身に着けさせるために、音を立てた瞬間矢で射ぬかれたりと。

 色々なぼうりょ……いえ教育……。うーむ……教育を受けたみたいです。

 それが琴線に触れたのか、今まで泣いたことがない男が、涙を流しながら。

 

 「偉い、偉いぞユージェン!お前は凄い奴だ!名前も同じ五文字だし運命を感じるな!」

 

 ユージェンを抱きかかえ、頭を撫でて全力で褒めていました。

 馴れ馴れしいのは嫌いだと、ユージェンは最初の方は抵抗していましたが、アトナテスの腕力には勝てず。

 酔っぱらいのされるがままになりました。

 ただ、褒められること自体は嫌いじゃないみたいです。

 あんまりにも褒め続けるアトナテスに、多少は譲渡する気になったようで、アトナテスの膝上でユージェンはふくれ面ながらも、大人しく収まっていました。

 

 「分かる。分かるぜユージェン。俺もな、師匠みてぇな奴がいるが。人が寝てる所襲ってくるわ。魔物の集団の中に投げ込むわ。ロクな奴じゃなかったんだ。我ながらよく生きてるなとシミジミ思うぜ」

 「……その割には、楽しそうに話しますねアトナテスさん」

 「楽しくねぇよ!」

 

 ユージェンの指摘に、怒鳴り声を上げるアトナテスですが。

 まぁ心底その師匠さんが嫌いではないことは、ユージェンの言う通り。良くも悪くも、楽しそうに過去話をするアトナテスの雰囲気から見て察することが出来ました。

 まぁなんにせよ、アトナテスは過去の自身と、ユージェンの境遇を重ね合わせた結果。

 ユージェンを全力で可愛がることにしたようです。

 

 「ていうかな。なんだユージェンよ。アトナテスさんって。他人行儀みてぇだな」

 「みたいじゃなくて、まだ他人みたいなものじゃないですか」

 「お前はもう赤の団に入ったんだから他人じゃねぇよ、仲間だ仲間」

 「体験入団だっ!」

 「細かいことは気にするな。ほら、俺を好きに呼んでみな」

 

 アトナテスの言葉に、ユージャンはむぅと考えた後。

 いたずらを思いついたかのように、にやっと口の端を上げました。

 

 「アトナテスおじさま」

 

 ユージェンが、アトナテスをおじさまと呼んだその瞬間。

 私とサナラは堪え切らずに、吹き出すように笑ってしまい。

 団長も吹き出すのをこらえる様に、歯を噛みながらも笑っていました。

 

 酔ってるとはいえ、さすがに怒るでしょうか。

 面食らったような顔をしたアトナテスの反応を、私達は待っていると。

 

 「ユージェンみたいな姪が出来るなら、おじさまって呼ばれるのも悪くねぇな。そう呼びな」

 

 頬が赤いので、酔った勢い感が強いのですが、その呼び方をアトナテスは気に入ったみたいです。

 いつになく穏やかに、優し気な笑みを浮かべるアトナテスに、ユージェンの中で、何かが吹っ切れたのか。

 ふくれ面がなくなり、頭をアトナテスに預けリラックスし始めました。

 

 「おじさまおじさま。アトナテスおじさま」

 「おうおう何だユージェン。おじさまに何か用か?」

 

 ノリノリでおじさま呼びを受け入れるアトナテスに、私達はしばらく笑いを抑えることができませんでした。

 

 「それじゃ私達の呼び方も変えてみましょう!」

 

 サナラがそう提案し。

 

 「……サナラ姉さま」

 「ねっ――!」

 

 可愛がられることが多いサナラには、姉と言うフレーズが気に入ったみたいで、それを聞いただけで固まりました。

 まぁ私もソラス姉さまと言われた時。一人っ子でしたので、妹がいたらユージェン見たいな子がいいなと思っちゃいました。

 そして団長は、組織の長だからと、他の人と同じく団長とユージェンは呼びました。

 私は変えてくれないのかと団長は、ちょっといじけたような顔を浮かべ。

 アトナテスがいじけるから、もし呼び方を変える気になったら。私もおじさまと呼んでくれと言ってました。

 

 それから数時間後。本来酒に強いはずのアトナテスが案の定ダウンして。

 サナラ飲み慣れないお酒で眠気が来たのか、団長を膝枕にしているサナラをテントへと収納し。

 さて、私と団長。そしてユージェン。まっとうに会話できる状態となった三人になった所で。

 先ほどの作戦の話の続きをすることにしました。

 

 「それで団長。エルフの女王とはどうするつもりなんですか?」

 「ん?あぁそうだね。手は考えておいたよ。ユージェンが体験入団を決めた後にね」

 

 さすがは団長。と言いたいところですが。

 

 「やっぱり。私達が議論している間、何も考えてなかったんですね。もう」

 「ユージェンの事を思うと、どうにも気が引けてね。けど、私抜きでも色々と考えてくれるソラス達を見てたら、頼もしい仲間を持ったなと、改めて嬉しく思ったよ」

 

 笑みを浮かべて言う団長に、私は直視できずに俯いちゃいます。

 この人は本当に、口説き文句が上手いです。

 人の鼓動を速めるが趣味なんでしょうか。

 

 「……それで、どうするんですか団長?」

 

 改めて私が問い掛けてみると、団長はサラサラと紙にペンを走らせ、封をします。

 手紙ですね。エルフの女王に渡す為の物でしょうか。

 そうなると、何が起きるか分からないので、使者は私かアトナテスになると思いますが。

 

 「ユージェン」

 

 そう思っていたら、団長はユージェンに声をかけ、その手紙を渡しました。

 エルフとダークエルフの遺恨があるから、使者としてはちょっと、と思ったら。

 またも予想とは違いました。

 

 「これを持って、赤の団の拠点に向かってくれ。そしたら、女王との件は全部上手くいく」

 「これを持っていくだけ?本当に?手紙に何を書いたのだ」

 「内緒だ。知らない方が、面白そうだからね」

 

 微笑む団長にユージェンは、訝し気な表情を隠すことなくジッと団長を見つめます。

 言わんとすることはわかります。団長でなければ、私もユージェンとまったく同じような顔をしていたでしょう。

 

 「不安かな?」

 「それは……当然だ」

 「そうか。じゃ魔法をかけてあげよう」

 

 言うと団長は指先がキラキラと光ったかと思えば、空中で何かの文字を描き、手紙に向けて指先を振り下ろすと。

 ピカッと光ったと同時に、普通の手紙の見た目が変わっていました。

 何というべきでしょうか。白い手紙が黒く染まり、そこに髑髏やら、よく分からないぐねぐねとした線がある、やたら凝った。

 その……あれです。とても格好が良いデザインへと様変わりしました。

 

 「ぉおお……!」

 

 ……ユージェンはそのデザインが、とても気に入ったようです。

 表面をじっくり見て、裏面をじっくり見てと、興奮しているのがはっきりと分かりました。

 

 「これはもはや手紙ではない。重要な指令書となった。これを最短最速で今日中に赤の団に届けられるのは、影の射手の愛娘にして、その技術を継ぐユージェンにしか出来ないだろう。いけるね?」

 「ま、任せろ!」

 「道中気を付けていくんだよ。ユージェン」

 「分かった!」

 

 そして、ユージェンは地図と弓を手にすると、タッと駆け出し。

 一瞬にして夜の帳に紛れ、消えてしまいました。

 

 「一人で大丈夫なんでしょうか?魔物とかいたら……」

 「ユージェンなら、魔物がいても一人で切り抜けられるよ。何も出会い頭に殲滅するだけが、戦いというものではないからね」

 

 なるほど。そう言えば私達は基本、敵は全て漏れなく倒すが前提になっているせいか、適度にやり過ごすと言う考えが抜けていましたね。確かにユージェンの身のこなしの軽さと、正確に討つ弓の技術があれば心配無用ですね。

 あぁ、あと聞かないといけないことがありましたね。

 

 「あの手紙には何を書いたんですか?」

 「ユージェンに内緒にしたから、ソラスにも内緒だよ」

 

 にやりと笑う団長の姿は、悪戯を隠す子供のような無邪気さを持っていました。

 教えてくださいよと、私もつい子供のように。団長の胸を何度かポカポカと叩いてみましたが、それでも団長はいたいたと笑うだけで、口を割ってはくれませんでした。まぁ主目的は団長とイチャイチャしたいだけなので、それは達成しましたけどね。

 

 はっ……今なら私と団長は実質二人きりです。

 さぁ団長!もっと私とイチャイチャしましょうじゃありませんか!

 まずは肩をグッと寄せ合って……。

 

 「明日の朝になったらすぐに分かるさ。ソラスは先に休んでいてくれ」

 「……はい」

 

 火の面倒まで団長は引き受けると言い、申し訳なさを感じましたが。

 断固として休めと言う団長に逆らえず、私はサナラを毛布代わりにして、体を休めることにしました。

 すぐに訪れた眠気で、視界がぼやける中。

 

 妙に影が濃くなっている団長は、お酒を注いだコップを二つ。一つは手に、もう一つは誰もいない椅子の前に置くと。

 静かにお酒を飲み始めたのを見て、アトナテスが復活したのかな。

 そんな感想を抱きつつ、私は眠気に意識を委ねました。

 

 翌日。

 妖精郷は、あちこちで大慌てになったことでしょう。

 

 侵入者発見と警告の鐘が鳴らされ、戦闘準備して向かってみれば。

 そこに居たのは、ある意味普段通りな魔物ではなく。

 人であったり、同族であるエルフであったり、遺恨のあるダークエルフ、はたまた魔が入ってる獣人だったりと。

 様々な種族がいる混成部隊が各地で一斉に、妖精郷の結界を破り。

 妖精郷の都市へ、女王がいる場へ向かい。武装はしつつも、歩みの邪魔さえしなければその武器を振るわず、ただまっすぐに歩を進めます。

 

 その混成部隊の長、最前を歩くのは当然。

 私の英雄。赤の団団長。

 

 「と、止まれ!」

 

 都市の防衛を務めている衛兵が、焦りながらも自らの役目を果たすべく、そう声を張り上げますが。

 団長はその声を意図して無視して歩き続けます。

 申し訳ありませんが、団長が足を止めない限りは、私達は足を止めることはありません。

 そして、衛兵が数人で私達を止めようとしても、無理でしょう。

 何せ、赤の団の戦える人。拠点が問題なく防衛出来る程度の戦力以外は、今全てこの妖精郷に集っていますから。

 

 グングンと団長は無言のまま歩を続け、その足が止まったのは。

 ダークエルフを拒むエルフの女王。影の射手と同じく。すでに老いが見える。けれども影の射手が黒ならば女王は白。

 高潔さを思わせる白を基調とした装いをしたエルフの女王が、団長をしっかりとその目で捉えた時でした。

 

 「まずはこのような形での謁見となったことと、魔物が跋扈する時分に民心を惑わせたことを謝罪します」

 

 謝罪しますと団長は言っていますが、本心でないことは明確です。

 何せ全部、団長が仕組んだことなんですから。

 

 「影の射手より、人が四人。結界を破って来たと聞いたが、最初の四人は偵察だったのか?妖精郷を襲う為に、事前に用意していたのか?」

 「とんでもない。私と他三名以外は皆今朝集まってくれたのですよ」

 「それを示すものがあるのか?」

 

 厳しい視線を送るエルフの女王ですが、団長は涼しい顔をしています。

 ですので、その少し後ろに立つ私も、アトナテスとサナラも、皆で一致団結して涼しい顔をして見せます。

 

 実のところ、今回の作戦は、はっきり言って作戦と言えるほど計画していません。

 私が知っているのはせいぜい、昨日知らされた手紙の内容と。

 当日集まった団員に対して、団長が付いてきてくれと言っただけ。

 それだけが、今団長の背に居る団員達が共有している、今回の作戦内容です。

 

 「ユージェン、あれを女王に」

 

 団長の隣で、女王を目の前にして顔を青くしているユージェンに。

 団長は膝を曲げて背を合わして、震えるユージェンの両肩に手を置いて、安心させるように優しく囁きます。

 

 「心配するな。いざとなったら俺達が動く」

 「アトナテスおじさま……」

 「……おじさまと呼ぶな」

 

 再開時にユージェンにおじさま呼ばわりされ、アトナテスは何でだよ!と叫んでいましたが。

 私含めて、三人もその呼び方を本人が了承したことを証言できますので、ユージェンの中では、アトナテスはおじさまで決まりました。よかったですねアトナテス。

 

 「サナラお姉ちゃんも付いていますよ!」

 「ユージェンちゃん。頑張って」

 

 私もサナラも声援を送り、ユージェンは恐る恐ると女王に近づき。

 あれ。

 昨日、団長がユージェンに託した手紙を女王へと手渡しました。

 

 女王はダークエルフであるユージェンに一睨しますが、無下にはしませんでした。

 血は繋がっていなくても、ユージェンは影の射手の娘ですし、なにより。

 団長はきっと、女王がユージェンに手を上げようものなら。何もかもが台無しになってでも、本気で斬りかかるつもりらしく。

 少しばかり前のめりに、ユージェンを庇いかつ、剣を振るえるような姿勢をしていました。

 

 「まったく影の射手にも困ったものだ。その娘もな」

 

 重い溜息を吐いた女王ですが、ユージェンから手紙を受け取り。

 その内容を見て、目を見開きました。

 

 赤の団、妖精郷に集え。

 

 手紙の内容は、たったこれだけです。

 これだけで。たった一晩のうちに、団長の下に赤の団団員のほとんどが、団長の使い。ユージェンを信じて、団長の指示を信じて、団長の下に集いました。

 その中には人もいれば、人じゃない種族もいます。

 

 ですが、それでも団員達は集まってくれました。

 種族の壁を超え。団長が団員を、団員が団長を信頼していないと出来ない作戦です。

 集まった団員達を女王は眺め、団長を再度射止めた時団長は説明を始めました。

 

 「私達が一夜で集結できたことは、ユージェンがその手紙を持ってきたことで、証明できるでしょう。

 結界を破り入ってきた人数は四人、出て行ったのは一人です。

 そして、その一人。ユージェンでなければ、赤の団の拠点に一夜でたどり着き。その手紙の内容を団員達に知らせるのは不可能だったでしょう。例えダークエルフであっても、ユージェンは妖精郷の森と道を知る者ですからね。

 もし、私達が侵略の為にと、団員達と動かしたと考えていているのならば、影の射手という優秀なエルフを持つあなたが、その動向を今の今まで知らなかった理由をお聞かせ願いたいですね」

 

 まくしたてる団長に、エルフの女王は沈黙で答えます。

 当然です。エルフの女王が、団員達の動向を知っている訳がありません。

 だって、本当に昨夜の夜中あたりに手紙が届き、そのまま拠点に居た人達が団長の命ならばと出兵したのですから。

 捏造でもしてない限りは、情報は入ってこないです。

 

 「では改め宣言しましょう。この場にいる。私達赤の団は、妖精郷と交戦する意志はありません。

 私と、私が指名した使者ユージェンを信じたからこそ、ただ妖精郷に集っただけです。

 ご理解いただけましたでしょうか?」

 

 語り終えた団長に対して、女王から重い溜息を吐きましたが。

 そこから、敵意は感じられませんでした。

 

 「……して、赤の団団長は何を求めて、このような騒動を起こしたのだ」

 

 これは、交渉の余地ありでしょうね。

 団長は姿勢を正します。ですが、膝を屈するようなことは団長はしません。

 共同戦線である以上、一方的な庇護下に置くつもりも、置かれるつもりもないのですから。

 

 「女王よ。あなたが望むならば、私達赤の団と妖精郷との、対魔王を想定した共同戦線を。望まないのであれば……」

 

 一瞬、場に緊張が走ります。

 要求次第によっては戦いに。なんてことになりそうですが、まぁ起きないでしょう。

 ニッと笑みを浮かべた団長が、私にはとっても眩しく映ります。

 

 「何もしません。団員全員を引き連れ、すぐにでも私達の拠点に帰ります」

 

 これには女王もぽかんと口を開けて、驚いていました。

 

 「影の射手より話は聞いている。お前達は賭けをしているのだろう?」

 「えぇ、共同戦線を約束していただなければ、影の射手は赤の団には入ってくれません」

 「ならばなぜ帰るなどと、お前は言えるのだ」

 「私個人が下らないと思うような理由であれ、私は相手に無理強いをさせるつもりはないのです。だから、断るというならば引き下がります」

 「ほう、ならば。怨敵であるダークエルフなどを抱える団の願いなぞ、断りを入れてやろう。構わぬな?」

 「構いません」

 「本気か?」

 「はい」

 

 怪しくなりつつある雲行きに、すまし顔の仮面がはがれそうになりますが、団長の余裕な顔を見て、私は仮面を張り直します。

 

 「そもそも、共同戦線など私達赤の団には何も意味を持ちません。何故なら」

 

 団長がバッと両手を広げると、妖精郷に入った時に感じた違和感が肌に感じ。

 パンと団長が両手を叩くと、その違和感が消えました。

 ほんの少し見て触れただけで、団長はエルフの結界を張る術と、壊す術をマスターしたみたいです。

 本当にこの人なんでもできますね。

 

 「私達は赤の団。魔物に襲われていているのならば、私達は助けに動いてしまうのです。

 それが人であれ、エルフであれ、相手が助けを求めていなくても、拒絶しても、例え結界を張ったとしても。

 それを壊し助け、張り直してでも私達はあなた達を助けます。その後襲われるとしてもです。

 だから、共同戦線の約束なんて、私にはどうでもいいのです。影の射手との約束だから、結んでくれと言ってはみますけどね」

 

 どうだまいったかと言わんばかりに、自身に溢れる顔を浮かべる団長に、私も誇らしく感じて、つい笑みを浮かべてしまいます。

 そうです。赤の団は誰であっても助けるのです。共同戦線を張ってくれなくても、私達は助けてしまうのです。

 この在り方が私達赤の団なのです。

 

 「では赤の団団長に問おう。共同戦線は結ばぬ、結ばぬとして、影の射手はどうするのだ?諦めるのか?」

 「諦めません。彼女には赤の団に入って貰う。その為に……」

 「その為にどうする気だ?」

 「何度でも、彼女を口説いてみせますよ」

 

 口説く。

 そう聞いた女王は、その長い耳で聞いた言葉が聞き間違いでないか、考えるように顎に手を当て。

 団長を見て、手をそのまま目で覆うと。

 様になる高笑いを、女王は上げました。

 そしてそれが、数分も続いた後、ようやく女王は口を開きました。

 

 「たかだか百年も生きられぬ人が、エルフを何度でも口説くとな。ふはは、赤の団の団長は、いくつかある人とエルフの伝え話を知らぬようだな」

 

 言って、さらに女王は少しばかり笑い。

 それがようやく落ち着いた頃、深く頷くと。

 

 「分かった。赤の団と共同戦線結んでやろう。同胞であるエルフ、怨敵であるダークエルフを抱え込み。

 私にダークエルフの使いを寄越す。尊大なお前の器を気に入った。それに、直すと言っているが、そう何度も我らエルフの結界を壊されるては、エルフの誇りに傷がつく。仔細は後々決めるとしよう」

 「分かりました」

 

 そう、話が纏まりました。

 さすがは団長ですね。ユージェンを連れて会ってくれないなら、それをうやむやにするくらいの人数で押しかけ。

 誇り高いエルフ達の為に結界という、落とし所を用意して、話を纏める。

 きっと全部、団長には予想通りなんでしょう。そう言われても私は納得しそうです。

 

 さぁ、このまま影の射手を探しに行きましょうと思ったら。

 女王が口を開きました。

 

 「だが、忘れるな。赤の団団長よ。お前が数多の種族を抱える大きな器を持とうが、この盟約は一時のものでしかない。

 共通の敵に一時協力することもあろう。だが、種が違う以上、すれ違いは起き。やがて崩壊するだろう。

 お前達赤の団のような、寿命が異なる種族を抱える組織は、確実にな」

 

 これを聞いた瞬間。

 私は何も話す気はなかったのですが。

 赤の団の、種族を超えて協力する私達の在り方を、女王は否定しているかのように聞こえ。

 思わず言葉が飛び出しました。

 

 「そんなことありません!種族を超えて、皆が魔王の討伐に協力し。その後の平和を、すれ違うことなく、崩壊することなく。団結したまま維持することは出来ます!赤の団は、今そうして皆一致団結して戦うことが出来ているんですから!」

 「そうです!私達赤の団の団結は、種族が違う程度じゃ!どうにもなりませんよ!」

 

 私が叫び、サナラも叫び。他の団員達も、幾人か同意するように声を上げて抗議してくれました。

 こういった場で、発言権がない人が許可なく話すのは、とても失礼な行為であることは理解してました。

 そのことで女王や団長から叱りを受けることは覚悟します。

 

 けど、これは譲れません。

 女王と視線が合い、言葉を待ってみると。

 

 「ほう、それは楽しみだ。同じ時を歩む人同士ですら、団結を維持し続けるなど不可能だと言うのにな」

 

 女王は冷たく言い放つと、興味ないとでも言いたげに、私から視線が外れました。

 

 「…………」

 

 一方で、静かに私達のやりとりを聞いていた団長に対しては、女王は値踏みをするかのように団長を見た後。

 以降は団長に対し、女王は明確に好意的な視線を送っていました。

 このままもう少し沈黙が続いたら、口が再び開きそうになりましたが。

 

 「ところで女王。さっそくお願いがあるのですが」

 「何だ団長よ?」

 「せっかく武器を携え来たのです。

 お互いの実力を理解する為にも、どうです?妖精郷の戦士と、赤の団で一戦交えてみませんか。今後共に戦う上でも、何かと参考になると思いますが」

 「よかろう。エルフの技。存分に味わうといい。皆戦の準備をせよ」

 

 団長の模擬戦の提案に、女王はすんなりと応じ。

 

 「俺達も準備をするぞ。ほら動け」

 

 アトナテスが、困惑している人達に対してあれこれと指示を始めました。

 

 「団長、何も言い返さないのですか?」

 

 ですが、私は納得できず。団長にそう言ってはみましたが。

 団長はただ、フルフルと首を振り。

 

 「さぁ模擬戦だ。皆、頑張ろう」

 

 無理にでも話を切り替えるように、団長はそう声を張り上げました。

 

 

 

 あの人は、きっとあの時から分かっていたんでしょうね。

 種族を超えて、一時の協力は出来る。

 けれど、恒久な協力は不可能だと。

 

 いつか必ず。

 どこからか綻びが生まれ、本当に些細な理由で崩壊してしまうと。

 多種な種族を抱えた国の行く末何て、決まっているのですよ。

 

 ……怖い顔をしている王子君。

 勘違いしないでください。

 崩壊というのは、ただ起きるのを待つばかりではなく。

 崩壊のさせ方を選び、あえて起こす事も出来るのですよ。

 まぁ随分先の話になるのですが。

 

 

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