首をフルフルと振るっただけの団長の意図を考え。
考え、考え、思い浮かばず。
若干の鬱憤晴らしを兼ねて、グランドクルスを放ちます。
星が降ってきたと驚き慌てふためき、撤退するエルフ達を見て。
どんなもんですかと、キメ顔一つ浮かべたくなりますが。
お返しとばかりに降り注ぐ矢と魔法の雨に、被弾する前に撤退します。
ちょっと前に出過ぎたみたいです。
「弓の精度と魔法の苛烈さは、さすがはエルフってぇ感じだな」
「少しずつ、数を減らしていくしかないね。けどその前に……」
本陣に帰還すると、サナラがよく使う土魔法がドーンと立っていました。
視線をそちらへ向けると、前線で一通り暴れまわった後の団長とアトナテスが、戦場を俯瞰しながら、作戦を考えているようです。この二人が揃って前に出ると。それだけでエルフ側の前線を蹴散らして、後衛の部隊まで喰らう勢いだったので、団全体の戦闘力を見るという建前と。そして例の……事象も起きてしまうので、一時撤退し、団長は指揮に専念することにしたようです。
ただそうなると、飛び道具持つ相手にも、問答無用で攻撃を飛ばすだけの力ある団長と、アトナテスが抜けたことで戦況が変わり。
ソルジャー達は弓で射られ、ヘビーアーマー達は魔法で焼かれ。
反撃しようとするアーチャー、ウィッチ、メイジ達の射程が相手に及ばず、一方的にやられています。
ヒーラー達の頑張りで、なんとか持ちこたえていますが、このままでは負けてしまうでしょう。
模擬戦ですので、負けた所で問題はないですが。先ほどの件もあって、模擬戦くらいは勝ちたいという気持ちが、私の中で渦巻いています。
「団長、もう一度私が出ます」
「駄目だソラス。私の隣に来てくれ」
「はいっ!」
団長に隣に来てくれと言われたら、行くしかないでしょう。
団長の手を借りて、土魔法の高台に登り。
高い所から戦場を見回し、あっと声が漏れてしまいます。
「団長このままでは!」
「負けるね」
「どうするんですか団長?」
今回の模擬戦の勝敗は相手の全滅か、二つある本陣に一定数の侵入を許したら敗北です。
だと言うのに、片方の陣を守ることに集中しすぎて、もう片方の陣に侵入しようとするエルフ兵に、団員は気付いていません。
この戦況を打開できそうなのは、団長とアトナテスくらいです。
せめてもう一人。兵士を指揮できるだけのカリスマと、屈強な戦士がいたら心強いのですが。
いない以上は手の内で、なんとかするしかありません。
ですが、そうなるとサナラが土魔法で遅延するくらいしか方法が。
と思っていたら、特に被弾した訳でもなさそうですが、サナラが帰還しました。
あぁ詰んだ。
「団長!指示した場所に地脈パワーを全開にしましたよ!」
「ありがとうサナラ」
しかし、団長は余裕のある笑みを浮かべたまま。優しい手つきでよしよしとサナラの頭を撫で。
この戦況を打開できると確信しているかのような、強い声音で名を呼びました。
「ユージェン」
「な、何だ?」
「出撃だ。準備してくれ」
「うぅ……じゅ準備と言ってもな……」
困惑というよりも、どちらかと言えばこれは……。
戦闘前の緊張によって声が上擦っていました。あぁこんな時期が私にもありましたねと、懐かしさを覚えます。
「魔法で狙ってほしい相手に目印をつけるから、その相手を弓で射てほしい。できるかい?」
「いや、でも、私はその……体験入団しただけだから……」
また何やら言い訳を並び立てそうなユージェンに、団長は遮るように。
小さなユージェンの両肩に手を置き。
「体験入団であってもだ。ユージェン。君は私達の仲間だ。私達が全力で君を守るように。君も君の力で、私達を皆を守る為に、その弓を使ってほしい」
「私が、皆を守る?」
「あぁ。だからまずは、私達の本陣を守ってほしい」
こくりと頷く団長に、ユージェンは手に持った弓をギュッと握り締めます。
まるで、その弓が何のためにあるのかを問いただすように。
「……母様のように、矢を連射することも、複数に射ることも、弱点を射貫き続けることは出来ない。だが、狙った相手に矢は外さない」
そして不安げな声で、けれども最後は力強く。
そうユージェンが答えてみせると、団長は。
「充分だ」
勝利を確信したかのように、そう告げるとユージェンにいくつか指示をして。
団長はユージェンを見送りました。
その後、ユージェンの活躍は見事の一言でした。
サナラの力により、強力な地脈の加護を受けたユージェンの矢は。
団長の指示通り、本陣に真っ先に迫ろうとする盾持ちではなく、その盾持ちを癒すヒーラーを真っ先に狙い。
アーチャー同士の一騎打ちを制し、残された盾持ちを倒すと。もう一つの本陣へ救援に向かい。
前線が崩れる原因となる、後方にいるメイジとアーチャー達を次々と倒していき。
立て直しに成功した団員達による一斉攻撃で、敵を全滅したことで模擬戦は私達、赤の団の勝利となりました。
そして、その後。
「ダークエルフなど、所詮弓を扱えぬ野蛮人だと思っていたがやるな」
「さすがは影の射手の娘だ」
「凄いぞユージェン!お前の弓は物質界一だ!」
「ぅうああああー……」
エルフとダークエルフの遺恨が消え。
とまではいかないでしょうが、ユージェンはひっきりなしに、妖精郷のエルフ達にその弓の腕前を褒められていました。
それに負けないくらい、アトナテスもユージェンの頭をガシガシと撫でまわしながら、盛大に褒めていました。
褒められすぎて、ユージェンの顔が真っ赤になっていました
「ダークエルフではあるが、お前の活躍は見事だった。母がそうしたように、鍛練を怠るなユージェンよ」
そして、あのエルフの女王も、ユージェンを褒めたことで、お祭り騒ぎとなり。
まるで流れるように、ごく自然と赤の団と妖精郷のエルフ達で、酒宴が開かれました。
戦場で戦い、同じ釜の飯を食べ、肩を組み合って酒を飲む。
これ以上に分かりやすい、共存共栄はないでしょう。
やはり、すれ違うことなく。皆が協力して平和を築くことが、可能だと私は確信します。
そしてその象徴たる団長は。
周囲の人達がユージェンを持ちあげ続けるせいで、私もあちこち走り回って、地脈操って頑張ったのにと拗ね。
それを口実に、団長に甘えるサナラの相手をしていました。
そこまで拗ねていないことが、私には分かったので、その間に割って入ります。
久方ぶりに私に唸るサナラですが。私だってもっと団長に甘えたいんですよ!
「団長を一人占めにはさせませんよ、サナラ」
「今日の団長はサナラの日です!だから私が一人占めしてもいいんです!」
「何を言ってるんですか!?ソラスの日なんて一日も来たことないんですよ!!」
と、そんな感じで、私とサナラで団長の取り合いをしていると。
「随分と、仲の良いことだな」
私達の前にエルフの女王が現れました。
そして、エルフの女王は視線を私とサナラに向けられます。
先ほどの件と、そして今。人とエルフ、それ以外の多種の人々が壁を超え。
皆で楽しそうに酒を飲む光景を見て、考えが変わったのでしょう。
「…………」
しかし、女王は何かを語ることなく。
視線を団長へと動かしました。
動かす前。確かに私を、愚者でも見るかのような冷たい視線を送った後で。
「……っ!」
思わず、また口を開いてしまいそうでしたが。団長が私の手と、ギュッと握りましたので、瞬時に口を閉じました。
いつものように、暖かに包むような手ではなく。
静かにしてくれ。
そう、命令するかのような強い握り方でした。
「あまり、彼女をからかわないであげてくれませんか?」
「何、老婆心というものだ」
女王の言葉に団長は苦笑いを浮かべ。女王も団長を労る様な笑みを浮かべます。
はっきり言って、エルフの女王は好きになれそうにありません。
冷たい態度どうこうもありますが。
まるで、私よりも団長を理解しているかのような、その態度が癪に障ります。
「それで、女王であるあなたは団長に何の用なのですか」
自分でも、刺々しくそう言葉を紡ぎ。
「案ずるな小童。私はもう老いた身。今更男日照りで、若い女から男を盗るような真似はせん」
「何を言っているんですか!?」
手痛い反撃に、続く言葉がなくなりました。
それでもキッと鋭い視線を女王へ向けますが、女王はそんな私に歯牙にもかけず。
「影の射手よ。そろそろ姿を現したらどうだ?この男は約束を守ったぞ」
団長に向かって、そう言い放ちました。
……どういう意味ですか。
団長の背に居るのかと思いましたが、影の射手はいません。
まさか、いつの間にか団長に変装してと考えていると、団長の影がするすると伸びていき。
伸びきった影は団長の影から分離し、影から黒い装いをしたエルフ。
影の射手が現れ、私とサナラの口からわっと、声が零れます。
団長は最初から、自らの影に影の射手がいることを見抜いていたようで、驚くことなく。
スッと立ち上がりました。
「そうですね女王。そして団長」
そして、立ち上がった団長とは対照的に、影の射手は背負う黒い弓を地に置き。
まるで、忠誠を誓う騎士のように、団長に跪きます。
「影より、あなたの行動を見守らせていただきました。見事でした。赤の団団長。あなたは私には出来なかったことをやってのけました。もはや、一切の迷いもありません」
そして、歳を感じさせない。よく響く凛とした声で影の射手は宣言しました。
「女神アイギスより受け賜わりし我が黒き弓と、我が技と忠誠を赤の団団長に捧げましょう」
宣言を受けた団長は、スッと跪く影の射手に手を伸ばします。
「忠誠は別にいい。だが、影の射手よ。共に手を取り戦おう、この世界に平和を取り戻す為に」
団長の手をジッと見つめた影の射手は、柔らかな笑みを浮かべ。
「そうですね。美味しいお酒を飲み交わした仲ですものね」
団長の手を影の射手は握ると立ち上がり、影の射手は赤の団の仲間に入りました。
そして、影の射手は未だに揉みくちゃにされているユージェンを、集団から引っ張りあげ。
「娘共々、よろしくお願いします」
「……お願いします」
親子揃って、ペコリと団長に頭を下げました。
こうして、影の射手は英雄王の仲間になりました。
見た目相応の立ち振る舞いをするあの人には、私も色々とお世話になりましたね。
こう美しい所作だったり。曲がりなりにも副官をするなら、身に着けておくべき知識だったり。
……長生きする秘訣でしたり。
本当に、色んな大切なことを、彼女から教わりましたね。