千年前戦争アイギス 占星術師の昔話   作:青き男

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E10ー4 影を受け継ぐ英傑の蕾ユージェン

 首をフルフルと振るっただけの団長の意図を考え。

 考え、考え、思い浮かばず。

 若干の鬱憤晴らしを兼ねて、グランドクルスを放ちます。

 星が降ってきたと驚き慌てふためき、撤退するエルフ達を見て。

 

 どんなもんですかと、キメ顔一つ浮かべたくなりますが。

 お返しとばかりに降り注ぐ矢と魔法の雨に、被弾する前に撤退します。

 ちょっと前に出過ぎたみたいです。

 

 「弓の精度と魔法の苛烈さは、さすがはエルフってぇ感じだな」

 「少しずつ、数を減らしていくしかないね。けどその前に……」

 

 本陣に帰還すると、サナラがよく使う土魔法がドーンと立っていました。

 視線をそちらへ向けると、前線で一通り暴れまわった後の団長とアトナテスが、戦場を俯瞰しながら、作戦を考えているようです。この二人が揃って前に出ると。それだけでエルフ側の前線を蹴散らして、後衛の部隊まで喰らう勢いだったので、団全体の戦闘力を見るという建前と。そして例の……事象も起きてしまうので、一時撤退し、団長は指揮に専念することにしたようです。

 

 ただそうなると、飛び道具持つ相手にも、問答無用で攻撃を飛ばすだけの力ある団長と、アトナテスが抜けたことで戦況が変わり。

 ソルジャー達は弓で射られ、ヘビーアーマー達は魔法で焼かれ。

 反撃しようとするアーチャー、ウィッチ、メイジ達の射程が相手に及ばず、一方的にやられています。

 ヒーラー達の頑張りで、なんとか持ちこたえていますが、このままでは負けてしまうでしょう。

 模擬戦ですので、負けた所で問題はないですが。先ほどの件もあって、模擬戦くらいは勝ちたいという気持ちが、私の中で渦巻いています。

 

 「団長、もう一度私が出ます」

 「駄目だソラス。私の隣に来てくれ」

 「はいっ!」

 

 団長に隣に来てくれと言われたら、行くしかないでしょう。

 団長の手を借りて、土魔法の高台に登り。

 高い所から戦場を見回し、あっと声が漏れてしまいます。

 

 「団長このままでは!」

 「負けるね」

 「どうするんですか団長?」

 

 今回の模擬戦の勝敗は相手の全滅か、二つある本陣に一定数の侵入を許したら敗北です。

 だと言うのに、片方の陣を守ることに集中しすぎて、もう片方の陣に侵入しようとするエルフ兵に、団員は気付いていません。

 この戦況を打開できそうなのは、団長とアトナテスくらいです。

 せめてもう一人。兵士を指揮できるだけのカリスマと、屈強な戦士がいたら心強いのですが。

 いない以上は手の内で、なんとかするしかありません。

 

 ですが、そうなるとサナラが土魔法で遅延するくらいしか方法が。

 と思っていたら、特に被弾した訳でもなさそうですが、サナラが帰還しました。

 あぁ詰んだ。

 

 「団長!指示した場所に地脈パワーを全開にしましたよ!」

 「ありがとうサナラ」

 

 しかし、団長は余裕のある笑みを浮かべたまま。優しい手つきでよしよしとサナラの頭を撫で。

 この戦況を打開できると確信しているかのような、強い声音で名を呼びました。

 

 「ユージェン」

 「な、何だ?」

 「出撃だ。準備してくれ」

 「うぅ……じゅ準備と言ってもな……」

 

 困惑というよりも、どちらかと言えばこれは……。

 戦闘前の緊張によって声が上擦っていました。あぁこんな時期が私にもありましたねと、懐かしさを覚えます。

 

 「魔法で狙ってほしい相手に目印をつけるから、その相手を弓で射てほしい。できるかい?」

 「いや、でも、私はその……体験入団しただけだから……」

 

 また何やら言い訳を並び立てそうなユージェンに、団長は遮るように。

 小さなユージェンの両肩に手を置き。

 

 「体験入団であってもだ。ユージェン。君は私達の仲間だ。私達が全力で君を守るように。君も君の力で、私達を皆を守る為に、その弓を使ってほしい」

 「私が、皆を守る?」

 「あぁ。だからまずは、私達の本陣を守ってほしい」

 

 こくりと頷く団長に、ユージェンは手に持った弓をギュッと握り締めます。

 まるで、その弓が何のためにあるのかを問いただすように。

 

 「……母様のように、矢を連射することも、複数に射ることも、弱点を射貫き続けることは出来ない。だが、狙った相手に矢は外さない」

 

 そして不安げな声で、けれども最後は力強く。

 そうユージェンが答えてみせると、団長は。

 

 「充分だ」

 

 勝利を確信したかのように、そう告げるとユージェンにいくつか指示をして。

 団長はユージェンを見送りました。

 

 その後、ユージェンの活躍は見事の一言でした。

 サナラの力により、強力な地脈の加護を受けたユージェンの矢は。

 団長の指示通り、本陣に真っ先に迫ろうとする盾持ちではなく、その盾持ちを癒すヒーラーを真っ先に狙い。

 アーチャー同士の一騎打ちを制し、残された盾持ちを倒すと。もう一つの本陣へ救援に向かい。

 

 前線が崩れる原因となる、後方にいるメイジとアーチャー達を次々と倒していき。

 立て直しに成功した団員達による一斉攻撃で、敵を全滅したことで模擬戦は私達、赤の団の勝利となりました。

 そして、その後。

 

 「ダークエルフなど、所詮弓を扱えぬ野蛮人だと思っていたがやるな」

 「さすがは影の射手の娘だ」

 「凄いぞユージェン!お前の弓は物質界一だ!」

 「ぅうああああー……」

 

 エルフとダークエルフの遺恨が消え。

 とまではいかないでしょうが、ユージェンはひっきりなしに、妖精郷のエルフ達にその弓の腕前を褒められていました。

 それに負けないくらい、アトナテスもユージェンの頭をガシガシと撫でまわしながら、盛大に褒めていました。

 褒められすぎて、ユージェンの顔が真っ赤になっていました

 

 「ダークエルフではあるが、お前の活躍は見事だった。母がそうしたように、鍛練を怠るなユージェンよ」

 

 そして、あのエルフの女王も、ユージェンを褒めたことで、お祭り騒ぎとなり。

 まるで流れるように、ごく自然と赤の団と妖精郷のエルフ達で、酒宴が開かれました。

 戦場で戦い、同じ釜の飯を食べ、肩を組み合って酒を飲む。

 

 これ以上に分かりやすい、共存共栄はないでしょう。

 やはり、すれ違うことなく。皆が協力して平和を築くことが、可能だと私は確信します。

 

 そしてその象徴たる団長は。

 周囲の人達がユージェンを持ちあげ続けるせいで、私もあちこち走り回って、地脈操って頑張ったのにと拗ね。

 それを口実に、団長に甘えるサナラの相手をしていました。

 そこまで拗ねていないことが、私には分かったので、その間に割って入ります。

 久方ぶりに私に唸るサナラですが。私だってもっと団長に甘えたいんですよ!

 

 「団長を一人占めにはさせませんよ、サナラ」

 「今日の団長はサナラの日です!だから私が一人占めしてもいいんです!」

 「何を言ってるんですか!?ソラスの日なんて一日も来たことないんですよ!!」

 

 と、そんな感じで、私とサナラで団長の取り合いをしていると。

 

 「随分と、仲の良いことだな」

 

 私達の前にエルフの女王が現れました。

 そして、エルフの女王は視線を私とサナラに向けられます。

 先ほどの件と、そして今。人とエルフ、それ以外の多種の人々が壁を超え。

 皆で楽しそうに酒を飲む光景を見て、考えが変わったのでしょう。

 

 「…………」

 

 しかし、女王は何かを語ることなく。

 視線を団長へと動かしました。

 動かす前。確かに私を、愚者でも見るかのような冷たい視線を送った後で。

 

 「……っ!」

 

 思わず、また口を開いてしまいそうでしたが。団長が私の手と、ギュッと握りましたので、瞬時に口を閉じました。

 いつものように、暖かに包むような手ではなく。

 静かにしてくれ。

 そう、命令するかのような強い握り方でした。

 

 「あまり、彼女をからかわないであげてくれませんか?」

 「何、老婆心というものだ」

 

 女王の言葉に団長は苦笑いを浮かべ。女王も団長を労る様な笑みを浮かべます。

 はっきり言って、エルフの女王は好きになれそうにありません。

 冷たい態度どうこうもありますが。

 まるで、私よりも団長を理解しているかのような、その態度が癪に障ります。

 

 「それで、女王であるあなたは団長に何の用なのですか」

 

 自分でも、刺々しくそう言葉を紡ぎ。

 

 「案ずるな小童。私はもう老いた身。今更男日照りで、若い女から男を盗るような真似はせん」

 「何を言っているんですか!?」

 

 手痛い反撃に、続く言葉がなくなりました。

 それでもキッと鋭い視線を女王へ向けますが、女王はそんな私に歯牙にもかけず。

 

 「影の射手よ。そろそろ姿を現したらどうだ?この男は約束を守ったぞ」

 

 団長に向かって、そう言い放ちました。

 ……どういう意味ですか。

 団長の背に居るのかと思いましたが、影の射手はいません。

 まさか、いつの間にか団長に変装してと考えていると、団長の影がするすると伸びていき。

 

 伸びきった影は団長の影から分離し、影から黒い装いをしたエルフ。

 影の射手が現れ、私とサナラの口からわっと、声が零れます。

 団長は最初から、自らの影に影の射手がいることを見抜いていたようで、驚くことなく。

 スッと立ち上がりました。

 

 「そうですね女王。そして団長」

 

 そして、立ち上がった団長とは対照的に、影の射手は背負う黒い弓を地に置き。

 まるで、忠誠を誓う騎士のように、団長に跪きます。

 

 「影より、あなたの行動を見守らせていただきました。見事でした。赤の団団長。あなたは私には出来なかったことをやってのけました。もはや、一切の迷いもありません」

 

 そして、歳を感じさせない。よく響く凛とした声で影の射手は宣言しました。

 

 「女神アイギスより受け賜わりし我が黒き弓と、我が技と忠誠を赤の団団長に捧げましょう」

 

 宣言を受けた団長は、スッと跪く影の射手に手を伸ばします。

 

 「忠誠は別にいい。だが、影の射手よ。共に手を取り戦おう、この世界に平和を取り戻す為に」

 

 団長の手をジッと見つめた影の射手は、柔らかな笑みを浮かべ。

 

 「そうですね。美味しいお酒を飲み交わした仲ですものね」

 

 団長の手を影の射手は握ると立ち上がり、影の射手は赤の団の仲間に入りました。

 そして、影の射手は未だに揉みくちゃにされているユージェンを、集団から引っ張りあげ。

 

 「娘共々、よろしくお願いします」

 「……お願いします」

 

 親子揃って、ペコリと団長に頭を下げました。

 

 

 

 こうして、影の射手は英雄王の仲間になりました。

 見た目相応の立ち振る舞いをするあの人には、私も色々とお世話になりましたね。

 こう美しい所作だったり。曲がりなりにも副官をするなら、身に着けておくべき知識だったり。

 ……長生きする秘訣でしたり。

 本当に、色んな大切なことを、彼女から教わりましたね。

 

 

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