千年前戦争アイギス 占星術師の昔話   作:青き男

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E11 万慧を砕きし英傑トゥアン

 影の射手が仲間になり。二月は時が流れました。

 加入直後は、あれこれと赤の団と言う組織として、改善しないといけない事が多く。赤の団全体の体勢を整えるのに時間を要しました。

 

 「チーム編成ですか?」

 「今までは戦場ごとに私が団員を選抜したり、皆一斉にと戦っていたが。妖精郷のエルフ達を始め、今後共に戦う仲間が増えてくると考えると。適切な戦力を、先遣隊として現地投入するようにしていきたいんだ」

 「分かりました。団員達の詳細なプロフィールを集めておきますね」

 「ありがとうソラス」

 

 それらが落ち着き。変革した私達赤の団は、拠点設立後。ようやく魔物との戦いに、専念することが出来るようになりました。

 独自の情報網を持つ、情報戦の玄人影の射手の手腕によって。

 赤の団は情報戦において、各大国に対して遥かに優位に立てるようになりました。

 これにより、大国から来ていた誤情報に惑わされず。かつ相手となる魔物の戦力すらも、把握できるようになり。

 

 赤の団は拠点から各地に適切な戦力を派兵し。団長が率いる本隊が到着するまで、先行部隊が現地で魔物の襲撃を耐える。

 そんな戦い方が可能になりました。

 

 それはいいのですが、また問題が起きました。

 私と、アトナテス、サナラ。

 それに加え、新参ながら団長と共にいる時間が、すでに並みの団員より遥かに多い。影の射手、ユージェンがいる。

 赤の団の全てを決定する執務室の椅子に座る団長は、影の射手によって齎される情報の数々を見て、険しい顔を浮かべていました。

 

 「この頃、魔物による被害が増えていく一方だ」

 「数もそうだが、単純に魔物が強くなって来てやがるな」

 「大国ですら容易に、魔物の対処が出来なくなっているみたいです」

 

 団長の言葉にアトナテスが真っ先に反応し、影の射手が補足して。

 団長は頷きます。

 

 「中央の強国の王を通して各大国の王に、対魔王に向け共同戦線を張ろうと言ってはいるが……。その魔王の存在を信じない王が多く。状況は芳しくないようだ」

 「何か手はないのですか団長?」

 

 サナラの問い掛けに、団長は顎に手を当て。

 少しの時間を要した後。

 

 「……私が出た所で、きっと良いことにはならないだろう。この件は中央の王に任せるべきだ」

 「そうなのか?団長ならエルフの女王様の時のように、上手く話を纏めてくれそうだが」

 

 ユージェンに団長はふるふると首を振ります。

 

 「政治的な話は、本当はもっと色々なしがらみがあるからね。まぁ何より。彼らはエルフの女王と違って、私を嫌っているみたいだから。易々とはいかないだろう」

 

 むぅと考え込むユージェンに、団長は成長を期待するような優しい笑みを浮かべた後。

 周囲にいる人物達を見まわし、最後に団長の隣にいる私に視線を合わせ。

 

 「では予定通り行動しますか?」

 「そうだねソラス。私達は私達のやれることをやろう。まずは各小国の王達と協定を結んでいこう」

 

 団長はそう言って、立ち上がり。

 拠点から出立します。私達はその後ろを姿を追いかけます。

 そして、赤の団の拠点より、数週間かけた遠い地にある密林に到着しました。

 暑さと湿度により気が滅入ってしまいそうになる中、目的地に向かって黙々と足を進めます。

 

 赤の団は再び、悩みを抱えています。

 強くなる魔物もそうですし。影響力が大きい団長の事象もそうですが。何よりも、日々増えていく団員に対して指揮できる者が、団長とアトナテスくらいしかいなかったのです。

 そして、若干戦闘好きの気がある二人が、戦いに集中し始めて、指揮が滞ると。

 途端に乱れが起き。小さな乱れが、全体の乱れとなり波及します。

 

 一部、巡った小国で勧誘してきた人物の中に。軍を率いることが出来そうな、武闘派な元お姫様も、いるにはいたのですが。

 彼女達はあくまでも戦士であって、指揮官ではなかったので。

 その為、指揮できる者を増やすことは急務でした。

 そこで白羽の矢が立ったのが、今私達は向かっている密林にあるとされる、国の女王のようです。

 

 「国と聞いたが、やっぱ規模は一部族と変わらねぇな」

 「けど、侮ってはいけないよアトナテス」

 「当然だ。こいつら戦ってみて分かったが兵の装備も練度もいい。補給線もしっかりしてるな。王が噂通りの強者なら、大国でも、魔物共でも容易に落とせねぇだろうな」

 

 原始的な、と言えばちょっと悪口に聞こえそうですが。

 今まで訪れた国々とは全く違う。

 文明から離れた生活模様と、その営みを見て、世界にはこういった暮らしもあるのかと、私は感心しました。

 旅行をしている訳ではないので、気楽にしてはいけないのですが。

 

 「見た事のない果物が生えていますね団長!」

 「兵士達皆、似たような模様が太ももにあるが意味があるのだろうか?」

 

 サナラとユージェンはキョロキョロと、興奮しながら忙しなく頭を動かして観察しています。

 そして、そんな私達を人々は、警戒心を露にし武器を携えながら見守っています。

 理由は、彼らの土地に足を踏み入れた途端。襲われたので反撃した結果です。

 

 彼らの土地に私達は無断で入ったので、気持ちは理解できますが。

 仕方ないと、私は思っています。

 入国や王への謁見等、度々行動を押さえられると、その逐一かかる時間の内に、魔物は人々を襲うので。

 こういった時。団長は対話ではなく武力をもって我を通します。

 友好を望む者には友好の手を、敵対を望む者には剣を。

 我を通すときは勝利を持って。

 それが団長の、ひいては赤の団のやり方です。

 

 そして、そのやり方のおかげで私達は、小麦色の肌と亜麻色の髪を持つ王の前に。

 おそらく祈りをささげる為の神殿の前にある広場で、各地の大国の王の玉座を知っている為か。

 いささか、鮮麗さを欠けると言わざる負えない。ただ石を椅子の形に下だけの玉座に、兵士達に囲まれながら座り。

 

 えっと、その……。

 …………。

 おそらく側仕えらしき少女を膝上で、さながら愛玩動物を愛でるかのような手つきで可愛がっていました。

 

 「まさに蛮族の女王って感じだな。どっちもイケるってか」

 「……アトナテス。もうちょっと言葉を選んでください」

 「何でぇ」

 「教育に悪いからです」

 

 その光景を視界に納めた瞬間、私はサナラの目を手で覆い。

 ユージェンの目は、影の射手が覆ってくれました。

 何で隠すんですかと、サナラからぷんぷんと抗議されましたが。

 彼女達には、たぶん目の前にある光景を見せるのは毒です。特にサナラは、あれこれと目覚めた途端、団長に果敢に突撃しそうなのでなおさらです。

 

 さて、はっきり言って直視するのも恥ずかしいので、さっさとUターンしたいのですが。

 団長は目の前の光景を見ても、まったく意にせず足を進め。

 ザッとひと際大きく、足踏みを鳴らし団長は女王を見つめます。

 ですが、女王も女王で目の前にいる団長を気にすることなく、愛撫する手を動かし続けていました。

 そして、しばしの沈黙が流れます。

 

 この場合まず、同情すべきは団長に見られながら、女王に可愛がられてる少女でしょうね。

 さすがに見られながらは勘弁してほしいのか、女王の膝上で身じろいでいましたが。

 女王の力が強いのか、振りほどくことは出来ずなすがまま……あの、このままエスカレートするつもりなのでしょうか。

 やっぱり、いったん帰った方がいいんじゃ。

 というか団長。もしかして、まさか目の前の光景に見入ってるんじゃ……という懸念は。

 女王以外は眼中にない。そう宣告しているような、私の好きな強い意志が灯った、団長の眼がそう訴えていました。

 

 「私は――」

 「知っている。赤の団団長」

 

 沈黙は破られました。

 今回は団長が痺れを切らしたのでしょうか。名乗ろうとして、遮られました。

 あれこれと言えた義理ではありませんが……いくらなんでも。これには私も、アトナテスも攻撃しようとは思いませんが、眉くらいはひそめます。

 

 けど団長は涼しい顔をしたまま、女王何もしなければ、まったく動きがないのか。

 ジッっと女王を見続け、そんな団長に、今度は女王の方が痺れを切らしたのか。

 膝上の少女を開放すると、ようやくトパーズの色をした女王の目が団長を捉えました。

 その瞬間。

 団長は何だか嬉しそうで。まさに、目の色が変わったのが分かりました。

 

 「あたしはトゥアン。何の用だ?」

 

 トゥアン。そう名乗ったこの国の女王に、団長はこれまでの経緯を語り。

 トゥアンが女王として、民の為に魔物と第一線で戦っていることを讃え。

 いずれくるであろう魔王と共に戦おう、人々を魔から助けたいという志は同じだ。

 各地を巡ってきた赤の団だからこそ理解できる。魔物の被害は、物質界全ての人々に及ぶ災厄であると、その原因である魔王は確実に存在すると、団長はそうトゥアンを説得し。

 これらを撃退するため、赤の団と協定を結ぼうと、言葉を締めました。

 

 「…………」

 

 団長の言葉聞いたトゥアンはスッと立ち上がると、団長の目の前へ。

 きっと、トゥアンの説得に成功したのでしょう。

 これから固い握手が交わされる。

 そんな呑気なことを考えていた私の視界に。

 

 空中をポーンと、トゥアンに殴られ、キレイに吹っ飛ぶ団長の姿が目に移りました。

 えええぇぇぇと困惑に数秒、現状の理解して手をサナラから開放するのに数秒、そして天球儀を取り出して、戦闘の準備を終えるのに数秒としている間に。

 一瞬にして、アトナテスが斧槍を引っ提げて飛び出しました。

 

 赤の団団長である彼に手を上げた時点で、もはやそれは私達、赤の団戦いです。

 すでに幾度となく陰湿な手で先制攻撃を受けてきたので、アトナテスはこういった時。特に機敏に動いてくれます。

 そして最近では影の射手も、団長の護衛として振る舞うようにしているためか。

 これ以上の追撃を止めるべく、黒い弓にはすでに飛翔する時を今か今かと待つ、矢をつがえています。

 ですが、アトナテスの斧槍が誰かを傷つける前に、影の射手が矢を放つ前に。

 

 制止しろ。

 

 吹っ飛ばされた団長は倒れたままなのに、私達に命ずるよう。

 そう手の平を向けていました。

 

 「何でだよ団長!?」

 「まぁ待っててくれ」

 

 吠えるアトナテスに、団長はそう言って再びトゥアンの前に立ちました。

 そこで、私達は気付きました。

 殴った張本人であるトゥアンの顔が、やってやったみたいなしたり顔ではなく。

 怒りによって、顔を歪めていることに。

 

 「お前、なんで避けなかった?」

 

 トゥアンの言葉に、私は悟ります。

 なるほど、団長はあえてトゥアンの攻撃を受けたのですね。

 

 でも、どうして。

 団長ならば攻撃された瞬間、交渉決裂と断じて反撃するのが常なのに。

 

 「私は君には私と共に戦列に並んでほしいと思っている。だが、そうなると君は、君の国から離れざる得ない。

 そうなると、団長として私は君の国の防衛等々を考えなくてはいけない。君の国に責任を負わなくてはいけない。

 そんな男が。女王である君の拳一発も受け止められないのでは、話にならないだろう?」

 

 女王と、女王が支配する国を背負うと言う男が、一発の拳も受け止めれず何とする。

 なんとも清々しいと思える団長の言葉ですが。

 何となく、私にはこれが団長の本心でないように感じました。

 そしてそれは、私だけではなく。言われたトゥアンもそう感じたようです。

 

 「これだから文明人は……回りくどい事や、奇麗事ばかり並び立てていないで、お前の本心を語れ!」

 

 激昂するトゥアン。

 まさに猛獣を彷彿させる気迫に、その怒りの矛先が向けられていないのにも関わず。私は気圧されます。

 トゥアンからは、私のような普通の人間の理から外れたような。

 そんな力を感じさせます。例えるならば、祝福。神の加護。

 超常的な何かを。

 ですが団長はというと、そんなトゥアンに恐れることなくさらに一歩踏み出し歩み。

 

 「本心か……トゥアン。私は君が欲しくなった」

 「はぁ?」

 「えっ……」

 

 今何と?

 私の理解が追い付く前に。

 

 「そして……」

 

 団長はじりっと利き足を後ろに下げ。

 

 「殴られたら殴り返すのが私の主義だ」

 

 そう言うや、団長の拳はトゥアンを捉え。

 先ほどの意表返しのように、トゥアンがキレイに吹っ飛びました。

 

 これには私達がそうであったように、トゥアンの兵士達が武器を手に立ち上がり。

 女王の号令を待ちます。

 そして、女王は自らの武器である戦斧を手に取ると。

 

 「お前達っ!!」

 

 その、勇猛なる声に兵士達は行動を開始し。

 

 「赤の団、戦闘開始!!」

 

 その、愛しき凛然とした声に、私達は武器を取り、戦いが始まりました。

 

 

 

 今のトゥアンは女王ではなくなっていますが、性格はそんなに変わってないですね。

 気に食わなかったら英雄王相手でも拳を振るいますし、お酒をたくさん飲んで、色々と周囲や私を振り回していましたね。

 千年戦争後は色々と……私には合わない事していたせいでゴタゴタしていたので、疎遠だったのですが、変わらず元気で何よりでしたよ。

 

 おや……王子君は何かトゥアンについて知ってそうですね。

 その隠し事してる顔……英雄王にそっくりですよ。

 

 

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