千年前戦争アイギス 占星術師の昔話   作:青き男

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E11-2 万慧を砕きし英傑トゥアン

 赤の団とトゥアンの兵士達の戦いは、全体で見ればトゥアンの兵達が優勢でしたが。

 アトナテス、サナラ、影の射手に、ユージェンといった。件の力が抜け、麻痺するといった事象に影響されていない四人が、主立った活躍をしてくれましたので、最初は押されていたものの、徐々に形勢逆転し。ほとんどの兵士達を無力化していきます。

 

 一方で、戦闘開始時よりも、両者が握り締める力が増したのか。剣と斧のぶつかり合う音が轟音と化して、周囲に鳴り響かせながら。

 真正面から、斬って避けて受け止めるを繰り返して戦う団長とトゥアン。

 間違いなく。トゥアンはアトナテスと同等の実力者というのは、近接戦闘の素人である私でも、見て取れました。単純な力だけならば、アトナテスすら凌ぐほどに。

 ですが、団長は剣の技や、魔法の腕だけでなく。力だって強いのです。

 剣の刃と、斧の刃をぶつけ合った状態での力比べの末。団長がトゥアンを押し返して、怯んで生まれた隙に、団長は瞬時に連撃を叩き込み。

 

 「私達の勝利だ」

 

 倒れるトゥアンに剣先を向けながら、団長はそう宣言しました。

 それでも、なおトゥアンは団長に立ち向かおうとしたみたいですが、周囲の状況を見て敗北を認めたようで、武器を下ろして胡坐を組みました。

 

 「さぁ怪我の治療をしよう」

 

 そして間髪入れずに、団長はサッと周囲にいた人達に治癒魔法をかけます。

 味方である私達や、戦ったトゥアンの兵士達、そして当然トゥアンにも。

 

 「……何のつもりだ?」

 「戦いが終わったから、治療しただけだ」

 「…………」

 

 怪訝な表情を浮かべるトゥアンに、団長はさらりと返し。

 剣を納めると、トゥアンに団長は手を伸ばし。

 トゥアンも、先ほどの暴れ具合から打って変わって。とても素直に団長の手を握り返して立ち上がりました。

 そして、顎をクイッと。

 こっちに付いてこいと合図を送り、住居にしているであろう。並び立つ家々よりも少し大きな家へ歩き出しました。

 

 そんなトゥアンに団長は、何か言葉を発することなく、黙って後を付いていきます。

 団長が行くなら、私も。

 というよりも、先ほどのトゥアンを欲しいと言った団長の言葉が気になりと踏み出すと。

 

 「止まれ。トゥアン様はあの男だけを招待なされた」

 

 トゥアンの兵士達によって、歩みを止められました。

 

 「戦いが終わったとはいえ、私達の団長を一人には出来ません。通してください!」

 

 無理にでも通ろうとして、頭を鷲掴みにされながら待ったをかけられました。

 

 「焦るなよソラス。あの蛮族娘が信用できるどうこうは置いといて、卑じゃねぇのは確かだ。黙って待ってやるのも、団長への信頼って奴だぜ?」

 「それでも!もしもがあったらどうするんですか!?」

 

 物質界において、団長という存在の重要さが日々増しています。

 他の団員や私とは違って。団長の代えが、いないのです。

 そこらにいる暗殺者程度なら、団長は瞬時に撃退できるでしょう。ですが、相手がアトナテスと同等の力を持つとなれば、やはり万が一を考えてしまうと、不安になります。

 私が行けば、弾除けくらいにはなるでしょう。

 アトナテスの手を振り払い、押し通ろうとしたら、今度は影の射手が私を引き留めました。

 

 「アトナテスの言う通りですよソラス。それにもしもの時があっても団長なら……」

 「まぁ団長なら上手くヤるだろ」

 「ですね」

 「「ヤるってなんです(だ)?」」

 

 疑問符を浮かべるサナラとユージェンを他所に。

 問答無用で、私は団長の下へ可及的速やかに向かおうとしましたが、影の射手が私を剥い締めにして、引き留めてきます。

 

 「は、放してください影の射手!団長、団長ナニかしらが危ないです!」

 「冗談だって」

 「冗談じゃなかったらどうするんですかアトナテスゥ!?」

 「そこはソラス次第ですよ。待つだけが、駆け引きじゃないんですから」

 「うぅ……」

 

 影の射手の言葉を聞き、私は影の射手に不可視の矢に撃たれたかのように、身動きがとれなくなります。

 酷いです。そんなこと言われなくても、私なりに頑張って、日々団長にアプローチはしているんですよ。当の団長本人はまったく、私の事を気にかけてくれませんが。

 なのに、出会ったばかりのトゥアンを欲しいだなんて。

 

 「団長は……どういうつもりでトゥアンが欲しいって言ったんでしょうか?」

 「意味合いとしては、私と同じだと思いますよ?」

 

 暴れるのを止めた私を影の射手は解放して、決してやましい意味合いの物ではないと。そう声をかけてくれましたが。それとは別種の影によって、私の心は未だに晴れませんでした。

 

 だって私は。私はアトナテス、サナラ、影の射手とユージェン、今回のトゥアンと違い。

 団長に熱心に誘われた訳でも、見捨てられないという固い意志があった訳でもありません。

 本当にただ助けた人達の中に。たまたま、行動を一緒にしてもいい人の中に、私がいたに過ぎません。

 団長の側にいる人達の中で。私だけが団長にとって……本当はいても、いなくても変わらないのではないか。

 だから、例の団長の事象に、私も僅かに影響されているのでないか。

 団長と共に時間を過ごすことの多いメンバーの中で、私だけが。

 嫌な嫉妬が、心中に渦巻きます。

 

 いっそ……一度、団長と関係を持ってしまえば、こんな悩みも消えるのでしょうか。

 

 「とりあえず、突っ立ってるのも何だし、団長が帰ってくるまで部隊の再編制しねぇとな。ほらソラス。しゃんとしろ」

 「そうですね……」

 

 浅ましい。そんな自分が嫌になる。

 

 しばらく尾を引きそうになった考えを振り払い。残された私達は、何が起きてもいいように部隊再編します。その間。先ほどの会話が気になったサナラとユージェンに、アトナテスは質問攻めされていましたが。

 

 「お前達が、俺に教わるのが嫌になるくらい大人になった頃には教えてやるよ」

 

 そう言って煙に巻きました。

 その手の大人の話は、ユージェンは母親である影の射手に任せるとして。サナラはサナラで正しい知識を身に着けさせないと、色々と危ういですね。

 心にそうメモしておき。

 それからの時間は。

 

 「トゥアン様は私達の女王にして、先祖から私達を見守り続けてくださった守り神だ。

 トゥアン様の為ならば、私達はどんな場所であっても付き従おう。兵である私達はその覚悟をしている」

 「なるほど。そんな長い間国を……」

 

 立って睨み合いを続けるよりも仲良くしましょう。サナラ主導の下そんな交流会がいつの間にやら起きて、一度戦ってしまえば何かと臆する物が無くなるみたいで、あれこれと会話していました。

 そして、小国でありながら魔物を撃退し続けてきた秘訣を。言ってしまえば、私達と同じ。信じる仲間の為に戦う。彼女達の覚悟を聞き、私は親近感を覚えました。

 団長が、例え私を必要としていなくても。

 私は団長の為なら、魔物溢れる魔境。魔界にだって付いていくでしょうから。

 

 「皆、帰ってきたよ」

 

 よく通る声に、私達は振り向きます。

 いつの間にやら弓矢を背負い、トゥアンと共に荷車を押しながら団長が戻ってきました。

 そしてその荷車には、様々な野生動物が載っていました。

 

 「どうしたんですかそれ?」

 「トゥアンと一緒に狩ってきた。一緒に食べよう」

 「酒宴だ。お前達酒を用意しろ!」

 

 トゥアンの号令に、トゥアンの兵達はテキパキと場の用意を始め。

 

 「アトナテス。こっちも酒持ってきただろう。こっちも開けてしまおう」

 「おうよ」

 

 こうして、あれよあれよとしている間に赤の団とトゥアンの兵士達とで酒宴が始まりました

 団長の隣に、同じく今回の主役であるトゥアンが座りますので、残された一席を巡って熾烈な争いが起き。

 紆余曲折を経て、アトナテスがその席を勝ち取りました。

 恨めし気にアトナテスを睨んでみましたが、アトナテスが私に遠慮も気にもする訳がなく。

 団長、アトナテス、トゥアンの三人は開幕からハイペースで酒を飲み進んでいました。

 

 周囲で何度も乾杯という声が響き、それが徐々に少なくなり。

 脱落者が続出し。寝ぼけたサナラが、さりげなく団長の膝元へ向かおうとするのを食い止め、影の射手にサナラを任せた後。ようやくペースが落ちてきて、会話をする気になった三人に聞き耳を立てることにします。

 

 「……団長。お前が言った赤の団に入れって話。呑んでやる」

 「本当かい?」

 「お前が言う魔王って奴。あたしにも何となく分かる。それでそいつがあたしの民を苦しめてるから、前から気に食わなかったんだ」

 

 おっ。そんな風に私がトゥアンに感心したのは、魔物がゲートを通して。魔界から物質界に際限なく出現している異常事態だというのに。昔から魔物は物質界に出現する物と考え。異常を異常と認識していない人達が多いからです。

 彼らは見ていない以上、魔王はいないと思っているようですが。

 私からすれば、見てもいない神は信じるのに、現実に起きてる異常事態。その原因となり得る存在は信じないのかと、不思議に思うくらいです。

 

 「だから手を貸してやる」

 「仲間になるんだな?」

 

 ずいっと、トゥアンに顔を近づけながら団長は迫り。

 お酒の酔いとは別種でトゥアンは少し頬を赤くしながら、団長から距離を取ります。

 

 「勘違いするな!あたしは手を貸すだけだ!」

 「貸すだけでは駄目だ。君を私の仲間にする。もし断ったら、仲間になってくれるまで何度でも誘いにいくぞ」

 

 また心にチクりと、棘が刺さる感覚がして。私はお酒を飲んでごまかします。

 困りましたね。もう少し、強いお酒を貰えばよかったです。

 

 「……お前、結構強引な奴だな」

 「諦めろ蛮族娘。団長はマジでそうするぜ」

 「誰が蛮族娘だ」

 

 ケラケラと笑うアトナテスに、トゥアンは眉を顰めるものの。

 決して険悪な雰囲気ではなく。

 トゥアンは、杯を置き。考え込むように項垂れたあと。

 

 「……お前はあたしに勝った。だから、少しは譲ってやる。……仲間になってやる」

 

 小さな、とても小さな声でトゥアンはそう宣言すると。

 聞いたは団長は、本当に心から嬉しそうな笑みを浮かべます。

 それを見たトゥアンは、先制するように団長に指差します。

 

 「けど勘違いするなよ?お前とあたしは対等な関係だ。誰かの従えるなんて虫唾が走る。変な気を起こしたら、その瞬間叩き潰してやるからな!」

 

 トゥアンの忠告に、団長はスッと熱が引いたかの真顔をした後。

 物腰が柔らかい笑みを浮かべ、仲間になったトゥアンに改めて杯を突き出します。

 

 「私はあんまり、上とか下とか気にしてはいなんだけどな」

 「……?お前。食糧を育て、土地持ち。兵も持ってるんだろ?王になるんじゃないのか?」

 

 トゥアンが杯をぶつけ返しながら。疑問符を浮かべて問い掛ける言葉に、団長は君もかと苦笑いを浮かべ。

 

 「必要だから、あれこれとやってみてるだけで。私は一度も王になりたいとは思ってないし。私は私を、王に相応しい人物だと、思ったことは一度もないよ」

 「王というものは、なりたくてなるばかりではないぞ?」

 「…………」

 

 王とは、なるだけでなく。ならざる得ない場合もある。

 トゥアンの言葉に団長は、困り顔を少しだけ浮かべただけで否定はしませんでした。

 団長はきっと、必要だったら王になるということでしょうか。

 それは……何の為に、でしょうか。

 世界征服してやるぜ。みたいな野心を、団長は一度として見せたことはないので、私には分かりません。

 

 「無欲か、自信がないのか、赤の団の団長は変な奴だな」

 「まぁでも好きになれる変な奴だから、俺達は赤の団にいるんだぜトゥアンよ」

 「そういうものか。魔竜に乗ってた奴」

 「あぁ。アトナテスな?」

 

 三人はその後も、朝が明けるまで飲み続けたみたいで。酔いを残した、なんとも締まらない顔のまま。

 正式にトゥアンの赤の団の加入が発表され、それに合わせてトゥアンの国の兵士達もそのまま赤の団に加入することになり。兵士が減ったトゥアンの国の防衛を、赤の団からの戦力供給によって補う。そんな共同戦線を結ぶ事となりました。

 

 そして、トゥアンの加入により。当初の目的でもあった、指揮階級不足が解消され。

 赤の団の戦力はより盤石となりました。

 ……ただ、団長の例の事象。あれは、何故かトゥアンにはまったく影響されず。トゥアンの兵士には、影響を与えていました。

 

 

 

 トゥアンが加入してから、少し後。

 ……それは起きました。

 

 魔神降臨。

 

 討伐できなかったその時。

 多くの都市国家を滅ぼす、いえ滅ぼした。

 まさに、生きる災厄。

 

 もはや大国ですら魔の侵攻を防ぐこと叶わず。

 荒廃していく世界で逃げ惑う人々に手を伸ばし、数多の魔物と、強大な魔神に。

 一度の敗北も許されぬ戦場で、陣頭に立つ偉大なる英雄王。

 

 そんな英雄王は彼女と、転生を繰り返し。

 世界を見守り続ける彼女と出会いました。

 

 そして私はあの頃。私がもっとも恐れていた事態が、私の身に起きてしまいました。

 ……なんとも情けない。そんな事態が。

 

 

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