千年前戦争アイギス 占星術師の昔話   作:青き男

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E12 魔神降臨

 魔神降臨。

 それは、魔物達と各々の大国が独自で、いくつかの小国達が赤の団と結託しながら戦う物質界にて、前触れもなく。

 まさに、唐突に起こり。

 降臨から僅か数日にして、今まで魔物の侵攻に耐えていた大国の一つを飲み込みました。

 

 「……機械の大国が」

 「こちらに逃げてきた避難民によると。鳥の頭を持つ炎の魔物が、多くの炎を操る魔物の軍勢を引き連れ。機械の大国の首都防衛施設含め。全てを焼き払ったそうです」

 「機械、鉄をも熔かす炎と鳥の頭……魔神アモン」

 「よくご存じで団長」

 

 情報収集の為。数日拠点より離れていた影の射手が、団長の持つ知識の深さをそう褒めますが。それを聞いて団長の顔は晴れることはありません。

 

 「機械の大国の王は?」

 「逃げる間もなく。亡くなったそうです」

 

 赤の団の拠点設立を告げに歩いた頃。赤の団に明確な敵対意識を向け、その後も数々の嫌がらせを赤の団にしてきた国の王の一人です。

 清々したとまでは言いませんが、あぁ亡くなったのか。そんな、他人行儀な雰囲気が少なからず。私達の間にありました。さすがに、敵対するにしても、陰湿な手をしてきた人物達にまで、涙を流す感受性は、私も団長も持ち合わせていないみたいです。

 

 「そもそも、魔神って何ですか?」

 「あたしが知る限りじゃ、魔物。いやデーモンか。そのデーモンの中でも特に強く、いくら斬っても死なないくらいしか分からん」

 

 魔神を見たことないサナラの問い掛けに。

 見た目よりも、遥かに長生きしているトゥアンがそう答え。

 

 「トゥアンの認識で間違ってないよ。デーモンというのは不滅の存在だ。いくら倒しても、その精神を、封じたりしない限りは何度でも蘇る。以前魔神と決闘したことがあるけど、彼女は傷が癒えたらまた戦おうと言っていたね。彼女との戦いは楽しく有意義だったよ」

 

 茶目っ気を感じさせながら、団長がそう肯定しました。

 アトナテスと出会う以前。名が売れ始めた団長に挑んでくる者達の中に、自らを魔神を語る女性は確かにいました。

 ですが、彼女は好戦的ではありましたが、理性的で少なくとも人に、物質界に仇なすことをしようとはしませんでした。

 知性があるからこそ、魔と一括りは出来ても。私達人が未だに結束できていないよう、一枚岩でなく。考え方が違うという事でしょうか。

 

 「あっ、母様お帰りなさい!」

 

 数日ぶりの影の射手を見て、抱き着きに飛び出すユージェンと共に。

 

 「団長。模擬戦終わったぜ」

 

 兵達を指揮して模擬戦をしていたアトナテスがやってきます。

 

 「ありがとうアトナテス。そしてさっそくだけど出兵だ」

 

 出兵と口に出した団長に、私は少なからず動揺が走ります。

 なにせ、相手は大国を呑んだ魔神。

 今までとは比較にできない程の激しい戦いを容易に想像できます。

 

 「……何があった?」

 「魔神降臨」

 「本当か?」

 

 ですが、こくりと頷く団長に。アトナテスは、不安を微塵も感じさせない不敵な笑みを浮かべます。

 

 「そいつは大物だな団長よ」

 「あぁ大物だ。でもいつも通りだ、皆。魔物から人々を助けよう。それが私達、赤の団なのだから」

 

 そう、団長が言ってしまえば。私の覚悟は決まります。

 相手は魔神。

 その強さは白金と団長が謳う、赤の団の精鋭を団長は選出して、出撃します。

 団長が最前を歩き、それに私達は付いていきます。

 いつも通りに。緊張しすぎない程度に、気楽に。

 

 

 

 魔神との戦いは、想像通りに熾烈を極めました。

 鉄をも熔かすアモンの炎熱に、団長は戦場全体に治癒魔法を行き渡らせることで対処し。治癒を行いながらも、剣を振るって次々と炎を操るアモンの軍勢を斬り倒します。

 無論、回復こそ団長やヒーラー頼りですが、紫竜さんと共にアトナテスが戦場を駆け抜け。トゥアンが兵士達を指揮して前線を支え。前線から零れ、弱まった敵を影の射手が黒弓で止めを刺し。ユージェンは影の射手のサポートをし。

 サナラは土魔法で敵の侵攻を遅延しつつ、地脈を操り。戦場に立つ私達に地脈の力を与えてくれます。

 

 「ソラス今だ!」

 「私の全ての力を今ここに!降り注げ星よ、グランドクルス!」

 

 魔物の出現を。ラッシュの開始を。団長の天賦の才が知覚し、その的確な指示によって放たれる最大火力のグランドクルス。

 星の導きにより、定められたその威力を持って、出現する魔物達を魔物の将たるアモンごと殲滅します。

 

 勝った。

 

 しばらく、私はグランドクルスを放ち続けた後。

 ここまでやったら大丈夫だろう。

 そんな安堵が、戦場を包みます。

 

 「やりましたね団長!」

 

 天球儀を下げ、団長のそう声をかけてみましたが。

 団長は険しい顔をしたまま、叫びます。

 

 「まだだ!皆来るぞ!」

 

 団長のその叫びが正しいかのように。

 オオオォとおどろおどろとした声が戦場に鳴り響き。

 姿形が変わり。さらに炎熱の勢いが増すアモンが再び現れました。

 

 「デーモンはタフだな」

 「角がたくさん生えてきましたね!」

 「そして、魔物もおかわりってか」

 「アトナテスおじさま。何だか、生き生きしてますね」

 「まぁな。あとおじさま言うな」

 

 トゥアン、サナラ、アトナテス、ユージェンが銘々に感想を述べながらも、まだ続く戦いに気を引き締める表情を浮かべる裏で。

 

 「団長、私達がおとりになったことで、かなりの時間が稼げました。別動隊の活躍により、機械の大国の生き残った住人達。その大半は国からの脱出はできました」

 「そうか、分かった。ありがとう影の射手」

 「あとはあの魔神を倒すだけですね」

 「…………」

 

 影の射手の言葉に、団長は応じることなく。

 険しい顔をしたまま。もはや恒例となった事象により。

 体の麻痺で戦闘に支障が出始めた人達を撤退させて、本陣から離れて待機していた仲間達で戦力を補充します。

 

 そして、再び赤の団と魔神アモン率いる軍団の戦いが始まりました。

 多数の魔物を、最大までチャージしたグランドクルスで蹴散らし。

 射程外の魔物を皆が各所で対処し。

 先ほどよりも激しくなるアモンの猛攻を、団長がブロックして。その隙に戦いの中で、力を増すトゥアンの怪力を得て、振り下ろされる戦斧の重い一撃をアモンは受け。

 アモンが再び沈黙します。

 

 今度こそ。

 

 戦斧を通して、確かな感触を得た。

 そう笑みを浮かべるトゥアンの顔を見て、戦いの終わりを私は確信しましたが。

 

 「トゥアン!」

 「なっ!?」

 

 団長がトゥアンを腕を掴むと、後方へ投げ飛ばし。

 その直後、三度目の復活を遂げたアモンが放つ炎に団長は呑まれました。

 

 「そんなっ団長!」

 「団長!」

 

 慌てて駆け寄ろうとした私達に。

 

 「まだ来る!皆、気を抜くな!持ち場に戻れ!」

 

 アモンを剣で吹き飛ばし。

 動揺する私達に団長は、喝を入れます。

 回復の光で包まれているとはいえ、いまだにアモンの炎で体が焼かれている状態で。

 

 「お前馬鹿だろ。あたしは兵で、お前は指揮官だろ。指揮官が兵を庇ってやられたら、どうなるかくらい分かるだろ馬鹿」

 「分かってるよトゥアン。説教は後で聞く。まだ戦いは終わっていない」

 「本当に無茶をしないでくださいよ!」

 「分かったよソラス」

 

 静かに、けれど明確に怒りを浮かべながらトゥアンは団長の行動を諫言しますが。

 今は団長の言う通り、戦いは終わってません。

 そして、それを言いたいのはトゥアンだけではありません。

 団長は強いと言っても、吸血鬼の方達のように不死者ではありません。

 無理をしないでと言っても。止めない人ですが、それで死んだら元も子もありません。

 

 団長が一度直撃を受けたことで、気が引き締まったのはいいですが。

 三度目の復活を遂げたアモンを私のグランドクルスで、何度も星を落として倒し、同時に魔物が現れるましたのでそれも巻き込み倒します。

 

 ですが、再びアモンは復活しました。

 

 「いつまで続くんですかこれ!」

 

 サナラの悲鳴にも似た声に、私達は苦々しく頷くしかありません。

 アモンの炎熱が、じわじわと私達の体力と気力を削ると同時に、終わりが見えず。また事象により。一部の例外を除いて。戦える人が一人一人と離脱していくので、低下していく戦力に焦燥感が募ります。そして、アトナテスが四度目、団長が五回目の止めを刺した直後始まる。

 六度目の復活。

 咆哮を上げながら、赤いオーラを纏うアモンが出現した時。いくら怪我を魔法で回復出来たしたとしても、根底となる体力魔力がすでに限界が近い私達は思わず尻込みします。

 

 「もう一度だ。皆もう一度だけ頑張ってくれ!」

 

 ですが、団長がそう鼓舞してくれますので私達は頑張ります。

 頑張るしかありません。

 すでに、機械の大国の生き残った人達の撤退は終えていますが、アモンの被害の拡大を防ぐためには、アモンをこのまま放置する訳にはいきません。

 団長の言うそのもう一度が、アモンの消滅であることを願って。限界を迎えている体に鞭を打ちます。

 

 すでに戦場に残されているのは、事象により離脱した人と。変身したアモンの炎に被弾して撤退したユージェンを除いた。

 団長、私、アトナテス、サナラ、影の射手、トゥアン。

 団長と私達、たった六人の魔神戦。

 

 最初から回復魔法で周囲のサポートして、幾度もアモンの攻撃を受けた団長が、真っ先に復活したアモンの前に立ち引き受け。周囲から湧き出す魔物を、私達は対処します。

 そして再び、周囲の魔物を一通り一掃し。

 私達は各々団長の援護を始め。やがて、団長の剣がアモン体に深々と突き刺さり。アモンの断末魔が鳴り響きました。

 ズズンと倒れ、赤いオーラがアモンを包み。虚空へ、おそらく魔界へと消え去ります。

 

 「も、もう限界ですよ!そのまま魔界に帰ってください!」

 

 サナラがそう言い。

 

 「ぶっ続けで六度もやったんだ。もう十分だ」

 

 アトナテスと紫竜さんがやや疲れ気味に。

 

 「いくら魔神でもここまでやれば無傷じゃないだろ」

 

 トゥアンは荒い息を吐きながら。

 

 「これで終わり……ですね」

 

 影の射手がほっとしながら。

 

 「お疲れ様です団長」

 

 私は団長にそう声をかけ。

 

 「まだ来るぞ!」

 

 顔を険しくしながら叫ぶ団長の声に、その発した内容に。

 アモンが残した周囲の炎の熱さが関係ないとばかりに、サッと血の気が引きました。

 そして、団長が言った通りに魔界のゲートが、空間を捻じ曲げて出現し。

 赤いオーラを纏ったアモンが再び降臨し。

 鳥頭が備える目が幾度も打ち倒した私達を捉えると、怒りに満ちた咆哮が上がりました。

 

 「「「…………」」」

 

 そのあまりの理不尽に、私達は絶句し。

 アモンが降臨すると同時に、周囲に湧きだす魔物の気配を前にして。

 私達は動き出すことが出来ませんでした。

 

 「…………」

 

 ザッと、言葉を発することなく。

 唯一。アモンに臆することなく、一歩を前に足を踏み出す団長を除いて。

 

 どうしようもない絶望的な状況下で。

 誰もが足踏みする中で、その最初の一歩を踏み出すのは、どれだけ勇気がいる事でしょう。

 縋るように、私は団長の背に視線を向け。

 

 大きく見える、団長の背を見て。

 その背に、あまりにも決定的な格の違いのようなものを感じてしまい。

 

 「あっ」

 

 駄目だ。認めてしまったら、手遅れになる。

 確信があるにも関わらず。

 

 格が違うんだろう。

 私と彼とは。

 

 そんな認識をした途端。

 アモンからではなく、目の前にいる。幾度も、幾度も私に安堵と希望を与えてきてくれた団長から、畏敬に近い畏怖を彼から感じ。

 それが私の身を包んだと思えば。体が痺れて、膝から崩れ落ち。

 ガクガクと震え、思うように体が動かなくなりました。

 

 「ソラスちゃん!」

 

 崩れ落ちた私にサナラが駆け寄ってくれて。

 小さな肩を借りて、何とか立ち上がろうとしますが。

 未だに麻痺した体では、やはり思うように動いてくれません。

 そんな私に。

 

 「ソラス!大丈夫か?」

 

 戦闘の最中でもそう私に、気遣ってくれて。

 いつかのように、手を伸ばしてくれる団長の手を。

 私は震えたままの体では、掴むことが出来ず。

 

 「……ソラス?」

 

 私は団長と、目を合わせることが出来ませんでした。

 

 「…………撤退だ。今の私達にはあの魔神には勝ち切れない」

 

 沈黙の後、団長はそう言い。

 すでに、人々が脱出を終えていることは確認していたので、反対意見は出る訳がなく。私達は即座に戦場から撤退を始めました。

 

 追撃に迫る魔物達を団長は、反対意見を押しのけて最後尾で戦い、最後の最後まで一身で私達を守り続け。

 戦場からの撤退は成功しました。

 アモンが赤の団の野営地にしている場所まで来たらと、警戒しましたが。

 不思議と、魔神アモンは降臨した機械の大国は燃やしつくしても、そこから離れようとしませんでした。

 

 

 

 今でも、あの時を思い出すと情けなくて。悔しくて、昔の私を叩きたくなりますよ。

 私だけでしたからね。英傑の中であぁなったのは。

 それも、よりにもよって。物質界で一番大変な時期の始まりに起きましたからね……。

 

 王子君に追及されたくないので、話を無理やり変えますが。

 当時、彼女が赤の団に加わるまで私達が戦っていた魔神という存在は、今とは違ってまさに不死身の存在でした。

 そもそも不滅の魔神だからという話ではなく。魔神であっても再生する速度が、当時は異常だったのです。

 何らかの力が介入していることを、初見で悟れる程度には。

 それを解決するのに、彼女の深い叡智が必要でした。

 

 転生を繰り返し、物質界の歴史と共に歩む彼女に。

 

 

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